ここは地球連合統合作戦本部、まぁ言ってしまえば軍で一番偉い人たちが働いてる場所である。

 今ここの大会議場では、軍のTOPである連合軍総司令官による演説が行われていた。

 その内容とは…

「ナデシコ許すまじ!!」

 やはりナデシコのことであった。

 熱い熱弁が続くが、不意に傍らにいる自分の副官から緊急連絡が入った事を総司令に告げられる

「総司令、緊急通信が」

「何処からだ?」

 この様な時に何処の誰だと思い聞き返す総司令。

 彼の副官は言いづらそうにしながらその通信先の相手を教える

「その・・・ナデシコからです」



 通信回線を開くと、そこにはユリカがいた……着物姿で

『A happy new year. everybody(みなさん、あけましておめでとうございます)』

 前回、どうせ日本語がわからないと思ってたら日本語で返された為、今回は初めから英語で話しているのである
(以下、ユリカと総司令の会話は全て英語だと思ってください)

「フジヤマー!!」「ゲイシャ!!」「OH!ビューティフォー!!」「サムラーイ!!」

 前回同様、着物姿は概ね好評のようだ

 尚、サムライと言われてるのは、今回は何故か相方(フクベ提督)まで紋付袴の為だ

「君は、まず国際的なルールを学んだ方が良いようだね」

 総司令は皮肉をこめてそう言ったが

『あら、和服は日本人の正装です。総司令こそもっと風習や文化を学ばれた方が良いと思いますよ』

 ユリカはそれを更に皮肉で返した。

 その光景に極東軍の代表の面々は(一人を除き)頭を抱えていた

『さて、せっかくですけど時間がありませんので』

 そう言うとユリカは本題を切り出す

『私達はこれから地球の大気圏外に出ることになりますけど〜、このままだとバリア衛星がちょ〜っと邪魔なんです。
だからバリア衛星を壊さないで済むようにビッグバリアを一時的に解除してくれたらユリカ嬉しいな♪』

 にこやかな笑顔で地球の防衛の要であるビッグバリアを開放しろと言うユリカ

「ふざけるな!なんで軍の命令を聞かないような奴の言い分を聞かなければならんのだ!!
大体誰のせいでここで今会議が行われているかわかってるのか!?」

 その言い様に激昂し恫喝する宇宙軍総司令

『ですが、軍とネルガルの間での約束を一方的に破棄したのはそちらですよ?』

 ユリカはその恫喝にも堪えることなく笑顔のまま話を続ける

「あ、あの協約は政治屋どもが勝手に決めたことだ!現場としては見逃す事などできん!!」

 ユリカとは対照的に総司令の顔は歪んでいく

『でも、軍である以上は命令は絶対ですよね?それにそう言う話はネルガルの会長の方にお願いします♪』

 確かにそう言われては何も言えない。

 無理を言ってるのは自分達の方だと頭では理解してるからだ

『それで結局解除してくれないなら無理やり通っちゃいますけど、そちらから喧嘩を売ってるのですから壊されても文句は言わないですよね?』

「くっ・・・」

 結局総司令は何も言い返せなかった

『時間も無いので沈黙は肯定と取ります。でわお手柔らかに』

 軽く会釈をした後、手まで振るユリカの姿を最後に通信は切られる。

 完全に小馬鹿にされてるように感じた総司令は怒りから身体が震えていた

「これで、はっきりしたな。ナデシコは地球連合軍の敵だ!!」

 会議場に総司令の言葉が響き、その言葉に反応するように会場中がざわついていた。

 今の言い合いでのナデシコ側の言い分ももっともな物だった為である


機動戦艦ナデシコ

〜revenge of SNOW WHITE〜

第03話「早すぎる『対決』!?」


 通信を終えたばかりのユリカにムネタケが話しかけていた

「まったく、軍の総司令に喧嘩を売るなんて・・・あんたとんでもない娘だわ」

「そう言うムネタケ副提督こそ、これから火星に行くって聞いて降りようとは思わなかったのですか?」

 ユリカは以前のムネタケが気がついたらナデシコからいなくなっていた事から、

 今回も無理やり逃げようとするくらいなら最初から友好的に降ろしてしまおうと思っていた。

 ・・・どうせ火星から戻ってきたらナデシコは軍に編入されるだろうから、

 ムネタケは(フクベ提督の生死に関わらず)またナデシコに派遣されるだろうし、友好的なままのほうがやりやすいからだ。

 ところが、いざ蓋を開けてみればムネタケはナデシコを降りる気は全く無かったのである

「ネルガルへの出向を取り消すって命令は貰っていないのよ」

 そうは言うがこの状況で軍に戻った所で誰も文句は言わないだろう

「それにクロッカスとパンジーを見たでしょ?それなら最強の戦艦で最前線に行く方が生き残る確率も高いかもしれないわ」

 これも一理ある話ではあるが無論その為だけに乗っているのではない。

 ムネタケはミスマル・ユリカと言う娘がこれから先どうなるのか見てみたくなったのだ

 かつての自分と違い、権力を持つ者達に一歩も引かずに自分を出せるこの若い娘を……

「艦長、太平洋沿岸の艦隊が全て出撃しています」

「あっどうせ追いついてくるのは先の事だから今は放って置いて良いわよ。(それに多分大丈夫だし)」

 そう言ってユリカはルリの言葉を聞き流してある事を考えていた。

 そう、軍との会談が終わった彼女の思考は”早くアキトに着物姿を見せたい♪”となっていたのだ






 さて、そんな放って置かれた連合宇宙軍の総司令は満足そうにしていた。

「太平洋沿岸部のほとんどの連合宇宙軍がナデシコ追撃に向かいました」

「よし、成層圏を抜けるまでには捕捉できるな」

 成層圏、第三防衛ラインにはデルフィニウム部隊が居る。

 そこまでに艦隊が追いつけば挟み撃ちの末に完全に包囲できると目論見、

 総司令の顔には先ほどまでと違い笑みが浮かんでいた。

「いえ、それが・・・」

 副官はまたしても言いにくそうにするも報告しない訳にもいかないので話し始める

「まとまった軍事行動は久しぶりの為、木星兵器が刺激されて・・・」

「ナデシコめ!!!」

 ナデシコの小娘に馬鹿にされて挙句にやる事は空回りをする。総司令の機嫌は悪くなる一方であった。

「第三防衛ラインを呼べ!!」

 それでも自分の面子の為か、ナデシコを地球から脱出させない為に次の手を打つのだった




 ナデシコでもその情報は掴んでいる為、ここブリッジの雰囲気も柔らかな物へと変わっていた。

「これで第七から第五までの防衛線を突破した事になりますな。」

「第四防衛ラインのミサイル攻撃もディストーションフィールドの前では効果が無いみたいだわね」

「ルリちゃん、第三防衛ライン”デルフィニウム部隊”との接触予定時間は?」

「およそ3時間後です」

 それを聞いたユリカはブリッジから出て行こうとする。

「ユリカ、どこに行くんだ?」

「しばらくは余裕もあるので今のうちに着替えてきま〜す、ジュン君しばらくお願いね♪」

 それだけ言ってとっとと出て行くユリカ。

 ジュンは任されても暫くはやることが無いと解っていたが、艦長と副長が同時にブリッジから離れるわけにもいかず、

 やれやれと思いつつも自分の席に座るのであった。

 ちなみに艦長が出て行くのを誰も何も言わないのはユリカがやるべき事はやっているからであり、

 また、こんな光景もすでにブリッジのクルー達は見慣れてきており、

 ”有事の艦長、平時の副長”などと影で評されているのであった。





「と、その前に」

 ユリカは勿論アキトに着物を見せる為に部屋まで来ていた。

 扉はロックがかかっていないようであっさりと扉が開いたためユリカはアキトに呼びかける。

「アーキートー♪」

 だがその薄暗い部屋から返事は無く、嫌な予感がするユリカは中へ入っていく。

 そしてまぁ予想通りと言うかその部屋では”ゲキガンガー”が上映されていたのだ。



『俺はお前みたいな口だけの甘ちゃんは大ッ嫌いなんだよ!!』

 ケンを殴りつけその場から立ち去ろうとするジョー

『お前こそ自分ひとりで何でもやれる気になってるかもしれないが、少しは俺達を信じろよ!!』

 そのジョーの方を後ろから掴み、振り向きざまに今度はケンが拳をお見舞いする

『ケン!ジョー!やめるんじゃー!!』

 その光景を眺めつつ必死で二人止めようとするアキラ

『クッ、良いパンチだぜケン・・・』

『ふん、お前もキザなだけな奴かと思ったら良い物持ってんじゃねぇか!』

 しかし二人の殴り合いは止まることなくエスカレートしていく・・・



 それを見てアキトとガイは熱狂していた

「やっぱこの話はいいよなぁ!拳と拳で語り合ってバラバラだった3人の心が一つになって敵を倒す!」

「これがきっかけでゲキガンガーもケン達も強くなるんだもんなぁ!」

「・・・うげっ」

 肩を組んでアニメを食い入るように見つめる男二人組にユリカは少し引いていた

 そしてふと映し出されるゲキガンガーの方を見て思い出したかのように呟く

「これって確か第4話”やぶれたり 熱血合体”の回だっけ?」

 ユリカは以前ゲキガンガーを見た為全ての話を覚えていたりする。

 ちなみにこの話はチームワークの乱れから合体の際の隙を疲れたゲキガンガー3がピンチに陥るが、

 その後ケンとジョーが殴り合いの喧嘩の後友情が芽生えて、その後見事に合体に成功して敵を討つと言う話だ

「おぉ〜!!艦長もゲキガンガー見てたのか!?」

「え、何で知ってるんだユリカ?」

 そのユリカのセリフに反応するガイとアキト

「え、えぇ昔一回だけだけど」

「あれ、ユリカも一緒に見てたんだっけ?」

 無論ユリカの言う昔とはナデシコに”白鳥九十九”が来た時の話だが、

 アキトはそれを火星時代の事かと思い、昔の記憶を思い出そうとする。

「かぁ〜、そうか!艦長も見てたのか!!」

 ガイは身近な所にゲキガンガーを理解してくれる仲間がいた事に感激する、

 しかもそれは見るからにアキトにベタ惚れとは言え、憧れの美人の艦長なのである。

 その感動は一気に雲を突き抜けてエキサイトしてとんでもない事を口走るのであった。

「よ〜し、それじゃ今度はウリバタケに頼んで3機合体のメカ作ってもらって3人で乗ろうぜ!!」

「「それは嫌(だ)!!」」

 それはこの艦に乗ってから初めてアキトとユリカの思いが一つになった瞬間・・・かもしれない








 ここは地球圏第三防衛ライン、デルフィニウム部隊の発信基地である。

 今、ここの医務室で一人の女性がナノマシン処理を受けようとしていた

「君の立場を解っているのか?君はパイロットではなく士官なんだぞ、それに……」

 そう言ってその女性を諌めているのは極東方面軍のトップであるタナカ司令だった。

「そうですよ、貴女はもう少し御自分の立場を考えて」

 それに同調するようにその場に居た医者も何とか女性を止めようとする

「別にIFSなんて火星ではパイロットに限らず一般的な物だったのですよ?」

 だが、女性は火星育ちなのかそんな事を持ち出して納得させようとするが

「しかし・・・」

 それでもごねる医者に対して女性の我慢も限界に達していた。

「うるさいですわ、私が良いと言ったら良いのです!いいから貸しなさい!」

 女性は医者から注射器を強引に奪い取ると自分の首筋に当てて一気に押し込んだ

プシュ

「うっ・・・」

 彼女の身体をナノマシンが駆け巡り、その感覚に思わずうめき声をもらす

「待っていてください・・・今行きますわ、アキト様」

 そう言った女性の手にはIFSの模様が浮かんでいた・・・ 



 そしてその女性はデルフィニウムの発進デッキにて自分の為に用意された機体に乗り込んでいたが、

 その機体はデルフィニウムではなかった。

「中尉、この機体もデルフィニウムと同じでIFSで思ったとおりに動きます」

 整備員の一人が先ほどの女性に話しかけた

「わかってるわ、増曹は付いてるのよね?」

「はい、1時間は確実に飛べます。必ず無事に帰ってきてくださいよ!」

 そう言って拳を握りしめ女性を励ます整備員。

「いろいろとありがとうございますわ」

 女性はこの整備員が先ほどの司令や医者と違い自分の立場からではなく、

 出撃する自分自身を案じてくれたのを感じたので素直にお礼を言うのだった。

「いえ、ではご武運を!」

 そう言って整備員が離れるのと同時にその機体は発進する為に動き出す。

 射出口の前まで運ばれ、目の前の扉が開き眼下には青い地球が広がっていた

「・・・目標、機動戦艦ナデシコ!!」








 こちらナデシコブリッジでも今まさにその機体を画面に捕らえていた

「艦長、デルフィニウム部隊が接近中ですがそれに混ざってデータの無い機体が出撃しています。」

 画面に映るその機体は、完全に成層圏のみで戦う事を前提に作られたデルフィニウムとは違い、

 エステバリスのように大気圏内での汎用性も考えてか、より人型に近い形をしていた。

「ほほう、あれは明日香インダストリーが開発中のデルフィニウムの後継機のようですな」

 プロスが何故そんな事を知っているのかは大人の事情の為触れないで置くとして、

 それは間違いなく明日香インダストリーがエステバリスに対抗して作った機体であった。

「なんですって!?なんでそんな物があるのよ!」

 叫ぶムネタケを筆頭に混乱しているブリッジ。

 そんな中ユリカは自分の記憶と違う事が起こり始めた為に、その感情は驚きと歓喜が入り混じっていた。

 佐世保でも洋上でも自分が直接的に動いたからこそ歴史が変わったのだが、

 今回は自分が動いた余波によって歴史が変わる様が眼に見えて表れたのだ

「(歴史が変わってきてる!)」

 そう肌で感じるとユリカの身体は軽く震え、口元には自然と笑みがこぼれる。


 ユリカが意識を画面に戻すと、件の新型機はデルフィニウムより先行しているようで、

 そしてある程度の距離まで接近したその機体からナデシコのブリッジに通信が送られてきたのだった。

 通信を繋げるとそこに映し出された人物はユリカやアキトとただならぬ縁の持ち主であった

『こちらは地球連合軍オニキリマル・カグヤ中尉です。』

 その女性はデルフィニウム隊と同じ様なヘルメットを被っている為表情は見て取れないが、

 そのバイザー越しに見る鋭い目と透き通った声だけでもただならぬ威圧感を出していた。

 その女性の正体を知る者たちはそれぞれ異なった反応をしていた

「(おやおや、あれは確か明日香のご令嬢だったと・・・)」

 プロスは仕事がら彼女が何故来たのかを考え、

「あれはカグヤか!!」

 敵機の急な接近の為急いで格納庫へ向かっているアキトは幼馴染の姿に驚き

「よ・・・よりによってカグヤ君か」

 ジュンの顔は青色に染まっていた

「あ〜、カグヤちゃんだ。ひっさしぶり〜♪」

 一方ユリカの方は久しぶりに友達に会ったような嬉しそうな顔をしていた

『警告します、地球へ引き返しなさいナデシコ・・・いえ、ミスマル・ユリカ!!』








 

 さて、ここで少しオニキリマル・カグヤと言う女性について語るとしよう。

 彼女はネルガルやクリムゾンと並ぶ大企業、明日香インダストリーの社長令嬢である。

 それと同時にユリカとアキトの火星時代の幼馴染であり、幼稚園時代からの(自称)ミスマル・ユリカの最大のライバルである。


 ライバルと言っているがそれはお互いに好きになったアキトの取り合いに始まり、勉強・運動・遊戯など様々な事に対してである。

 ・・・しかしその当時の彼女は何をやってもユリカに勝てなかった、それは精神年齢で20歳違う今回は元より前回の歴史でもだ。

 だがそれは決して彼女に才能が無かった訳でもなく、ユリカが極端に優れていたわけでもない。

 元々この年代の子供達に必要なのは柔軟な思考による”ひらめき”であり、

 そしてその点に関しては今も昔もユリカは超が付くほどの天才だったせいである。
(まぁ冷静に考えられる状態の時は、と言う条件は付くが)


 そんな”ひらめき”の天才であるユリカとは対照的にカグヤは”論理的に思考する事”の天才であったのだ。

 それは小さい頃から大企業の跡取りとなるべく教育されてきた結果でもある。

 だが本来(アキトの前意外では)人一倍プライドの高い彼女の思考はユリカに負けっぱなしの人生では納得できず、

 ユリカに勝つ為だけに彼女が進むであろう軍人の道に自分も進む事を決意し、実家の反対を押し切り士官学校に入ったのである。

 彼女が天才であるのは、2年飛び級してユリカより先に士官学校に入りこの時点で中尉となっている事からも明白でろう。


 しかし前回の歴史では、彼女はナデシコが火星から帰ってくる間の”空白の8ヶ月”の間に戦死していた。

 それは明日香との関係上予備役となっていた彼女が、火星に向かったユリカに対する対抗心から最前線に出たためであった。

 それは彼女らしからぬ無謀な行動ではあったが彼女のプライドと彼女とミスマル・ユリカの関係、

 そしてナデシコにアキトが乗っていたらしいと言う未確認の情報があった事を考えればしょうがない事だったのだろう・・・


 ちなみにジュンはこのカグヤが大の苦手である。

 元々(好みと言う意味では無く良い人のジュンが断りきれないって意味で)押しの強い娘に弱いジュンなのだが、

 彼女は押しが強い上にユリカの腰巾着(にカグヤから見える)ジュンを最初から敵対視していた為である。








 話を戻そう。ユリカとカグヤの間では緊張した空気が流れていた

「カグヤちゃんも軍の命令でナデシコを止めに来たの?」

『いえ、私がここにいるのはあくまで私の意志よ』

「?どういうことだいカグヤ君?」

 その言い様をジュンは疑問に思い問いかける事にした

『別に私はナデシコが火星に行こうと撃沈しようと構いません、ですがアキト様は置いていってもらいましょう!!

「「「「「ナニィ!?」」」」」

 その思わぬ返答にジュンを始めとするブリッジ要員達は思わず驚きの声をあげていた。

 何せ連合宇宙軍が必死になって地球から脱出させまいとしているナデシコをどうでも良いと言ってのけ、

 その目的はコック見習い兼予備パイロットのテンカワ・アキトただ一人だというのだ。

『アキト様を火星に連れて行くだなんてそんな悪逆非道な行い、このカグヤは見捨てて置けませんわ!!』

 まぁぶっちゃけるとナデシコの乗務員の命はどうでも良いけどアキトが死ぬのは嫌だと言う事らしい・・・

 あのユリカにしてこのカグヤありと言うか、(自称)宿命のライバルの名は伊達ではない。

『それでも行くと言うのならこの私と”グロウシディウム”率いるデルフィニウム隊を倒してから行きなさい!!』

 その展開に付いていけないでいる皆の元に、更に追い討ちをかけるような行動を取った者がいた



『その挑戦、俺が受けたぜ!!』

「「「「「は!?」」」」」

「ヤマダさんのエステバリス、発進しようとしています」

 皆がついていけない中、ルリだけが冷静にオペレートしていた

『ふふふ、敵の新型兵器にたった一人立ち向かう俺!なんて熱い展開なんだ!!』

『ちょっと待てガイ、相手は10機もいるんだぞ!一人じゃ無理だ!!』

 そんなガイのエステバリスに発進準備の為に格納庫に向かうアキトから通信が入る。

 何故このような状況でアキトが格納庫で待機してなかったかと言えば、

 本来もう少しゆっくり食堂から移動しても間に合ったはずなのだが、

 カグヤの新型機が先行してきた為に予想よりも早く接敵してしまったためである。

 まぁ本来は予備とは言えパイロットならもっと早くから格納庫で待機してなければいけないのだが、

 この辺りは民間船であるナデシコのクルー達の戦闘に対する認識の甘さとでも言った所であろう。

『へへーん、心配すんなアキト!俺には秘策があるんだ!!』

 そう言って得意げな顔をするガイ

『おい艦長、あの馬鹿出撃させていいのか?』

 不安を感じるウリバタケはユリカに対して通信を入れ確認する。

「……構いません、ただすっごく嫌な予感がするので念のために・・・」

 ユリカはガイが言う秘策が”アレ”だったら失敗すると解っているので、次の1手の準備をウリバタケに頼んだ

 失敗すると思うのなら発進を許可しなければ良いのにとも思うが、

 カグヤとデルフィニウム隊が迫っている為時間を稼がないといけないので許可するしかないのである。

『おい、早く出してくれよ!!』

「わぁーってるって・・・よし射出するぞ!!」

『うぉーっし!レェェェェッツ!ゲェキガイーーーン!!!』

 そう言って勢い良く飛び出していくガイのエステバリスを期待(と言うか願望)を込めて真剣な表情で見つめるユリカ。

 まぁガイが頑張ればその分アキトの負担も減るのだから真剣にもなると言うものだ。

 だが、そんなユリカの期待をガイはやっぱり裏切ってくれるのであった

『艦長!あの馬鹿武器を何も持たずに出ちまったぜ!!』

 慌てるウリバタケからの通信にさすがのユリカの顔も青くなっていた

「(ま、まさかやっぱり・・・)」

 そして追い討ちをかけるようにガイからも通信が入る

『今だぁウリバタケ!スペースガンガー重武装タイプを落とせ!!』

「(やっぱりそれなの!?)」

 その言葉を聴いたユリカは心の中でつっこみを入れると、ジュンにブリッジを任せて格納庫に向かうのだった。





 ガイはデルフィニウム隊のミサイル攻撃を避けた後、進路を変えてナデシコから上手く引き離していた。

 だが、その動きはともかく通信で話してる内容はふざけてるのかと思われていた。

『だぁかぁらぁ、スペースガンガー重武装タイプだって!』

 ガイはデルフィニウムの追撃をかわしつつ必死に格納庫のウリバタケと会話をする。

「スペースだかアストロだかしらねえがうちにはガンガーなんてものはねぇんだよ!」

 当然ウリバタケにそれを理解できるわけが無い。

「・・・1-Bタイプのことじゃないのですか?」

 隣に居た整備員は重武装と言う単語からおそらくそれじゃないかと口に出してみる。

『そう、それそれ!!』

 ガイもそれに同意する。それを聞いて嫌々ながらも出してやろうとするウリバタケ。

「わぁーったよ、今」

「落とさなくて良いです!!それよりもアキトの出撃と私の機体の準備を!」

 だが、それをユリカが通信で割り込んで否定する。

『何故だ!艦長!!』

 自分の完璧(と思ってる)作戦を否定されて驚くガイ

「こんな状況で合体しようとしても狙われるだけです!」

 当たり前だがもっともな話である。

『ば、馬鹿な!合体の時は攻撃しないのがお約束と言う物で・・・』

 まぁ確かに大半のアニメではそうであるがそれを現実に持ち出すのはどうであろうか

「・・・”やぶれたり熱血合体”」

『うっ!』

 ユリカはガイを考えさす為にわかりやすく身近な例を挙げ、それを聞いてガイも理解できたようだ。

「それに合体成功したとして今乗ってる空戦フレームはどうやって回収する気ですか?」

『うぅ・・・』

 はっきり言ってそんな事は全く考えていなかったのである。

 まぁ空戦フレームは間違いなく地表に向かって落下して壊れるであろう。

「と言う訳でその作戦は却下です!!」

『く、それなら!!』

 何とか気を取り直してデルフィニウム隊の方に向き直り突っ込んで行く、

 その右手にはディストーションフィールドが集束されていた。

『くらえ!ガァァイ!スゥパァァァ!ナッパァァァァァァ!!!』

 威勢の良い掛け声と共に打ち出されたその拳はデルフィニウムの装甲をいとも簡単に打ち抜く。

 コックピットの脱出するさまを眺めながらガイは高笑いをする。

『みたか、わぁーはっはっは!!』

 だが無論、その様をデルフィニウム隊の皆さんが黙って見ているわけも無く・・・

「ヤマダさん、完全に囲まれました」







 その一方、ガイの救援の為に発進したアキトはカグヤと相対していた。

「カグヤ!!」

 自分の機体に入ってきた通信に、カグヤは無骨なヘルメットを脱ぎ捨てて光悦の表情を浮かべるのだった

『その機体に乗っているのはアキト様なのですか!?』

 その風貌、その声、そして自分をカグヤと呼ぶその態度、

 大好きだった人の面影にカグヤは通信を入れたのがアキトだと確信した。

「あぁ、ひさしぶりだねカグヤ」

 そう言ってやさしく微笑みかけるアキト、それを見て思わずカグヤは涙していた。

『あぁ、カグヤは火星の事を聞いて以来アキト様の事を思わぬ日はありませんでした・・・』

 火星陥落の報を聞き、カグヤはアキトの無事を確認する為に脱出した人の中を探したが、

 結局その名簿の中にアキトの名前を発見する事はなく悲しみにくれていた。

 だから偶然にも(トビウメに乗っていた者から)”テンカワ・アキト”と言う名のパイロットがナデシコにいると聞いて

 彼女は大好きなアキトに会う為にこの様な一連の無謀とも言える行動を取ったのだ
(尚、同姓同名の別人と言う事も考えたがナデシコの艦長がミスマル・ユリカだと聞いて間違いないと思ったそうだ)

 そして現実に二度と会えないかもしれないと思っていたアキトと再会できた事によってカグヤは涙したのであった。

『お願いです、ナデシコから降りてください!これ以上私に心配させないでください!』

 涙ながらにそう訴えるカグヤだが、アキトは少し言いにくそうな顔をして答えた。

「ごめんカグヤ、俺はナデシコを降りる事はできない・・・」

『!?どうしてですかアキト様!?あの女のせいですか!!』

 そのアキトの答えにカグヤは火星でアキトから常に離れなかったあの”ミスマル・ユリカ”のせいで

 アキトがナデシコから降りられないのではないかと考え、カグヤは思わずそう叫んでいた。

「そうじゃないんだ。俺は火星が、俺の住んでいた所がどうなったのかを自分の眼で確認したいんだ・・・」

 その問いにカグヤはハッとする。

 そう、どうやって脱出したのかは解らないが、アキトはあの時火星にいたのは間違いないのだ。
(アキトの住民登録は火星のままであり、火星からの出星記録もないのだから)

 そんなアキトが自分が住んでいた場所がどうなったのか見たいというのは理解できる感情であった。

「それに決めたんだ、逃げてちゃ何も得る事は出来ないから何かを得るために戦う事を!」

 それは無論ただパイロットして戦うという意味の決意ではなかった。

 今まで両親の死についてだって自分の中で考えるだけで何かをするわけでもなく逃げていた。
(例えば本当にユリカやコウイチロウを疑ってるのなら自分から連絡すれば良かったのにそれもしなかった)

 だがこのナデシコに乗って、前に向かい歩いていく事を思い出した。

 だからもうコックだのパイロットだのなんて考えないで自分が生き残る為、自分の道を切り開く為、

 そしてなにより自分の大好きな人達を2度と失いたくない為に戦いたいのだ。



 そんなアキトの心情を完全には理解できない物の、その覚悟を聞いたカグヤもまた覚悟を決める。

『・・・わかりました、ではアキト様が降りてくれないならばまずこのロボットを破壊します!!

 そう言ったカグヤの乗るグロウシディウムはガイの方に銃口を向けるのだった。

『(アキト様の言いたいことはわかります。でもむざむざとアキト様を死なせてしまうくらいなら・・・)』

 無論そう思っての行動だが・・・

「何でそうなるんだよ!!!」

 アキトにそのような複雑な乙女心を理解できるはずも無く思わず叫び、

「「「「(確かに)」」」」

 そのツッコミに数人の常識人達も心の中で肯いていたのだった。

 まぁ今までの話の展開からアキトのツッコミも最もな話である、

「ヤマダ、安らかに逝ってくれ・・・」

「自業自得だからな・・・」

「それってぇ、非人道的じゃないですか?」

「いや、しょうがないだろ熱血馬鹿だし」

「ホント、馬鹿ね・・・」

 だが、その他多数はヤマダの奇行に呆れていたため”犠牲もやむなし”と受け入れていた

 哀れなり、ヤマダ・・・いや、ダイゴウジ・ガイ・・・

『さぁ、どうなさいますか?アキト様』

 カグヤは再度問い詰めるがアキトはどうする事も出来ずに沈黙する。

 だが、そんな状況を打破せんと新たに乱入してくる者が居た

「それ以上はやらせないよ、カグヤちゃん!!」

 そう言ってナデシコから飛び出してきたそのエステバリスのカラーは、宇宙空間で目立つ白であった。

『ついに出てきたわね、ミスマル・ユリカ!!』

 ユリカはアキトの機体のすぐ横で停止し、通信をつなげる。

「アキトはヤマダさんを助けに行ってあげて、カグヤちゃんは私が何とかするから」

「・・・わかったよユリカ」

 アキトは一瞬考えるが自分を好いてくれる女性を攻撃するのはやはり躊躇われた為ユリカに任せる事にした。



 アキトが離れていった為1対1で面と向かうカグヤの機体に、

 ユリカはビシっと人差し指を突きつけ高らかに言うのであった。

「カグヤちゃん、私と1対1で勝負よ!私が負けたらナデシコは引き返してあげる!!」

 それはこの状況を何とかする為の賭けであった。

 掛け金のリスクは高いが本来味方とも言える軍との小競り合いで無駄に消耗するのは避けたい。

 何より此処でただでさえ少ないパイロットが減ってしまえば火星からの生還率は下がるという物だ。

「か、艦長!勝手にそんな約束をされては・・・」

 プロスはそうは言うものの、”損な勝負では無い”と頭の中で計算していた

 1対1で明日香の新型機を落とせばエステバリスの評価も上がるし、

 何よりこの程度の事でやられるようなら火星に行った所で戻って来れないとわかっている。

「このままヤマダさんを見捨てて行く事も出来ません!」

『いいわよユリカ、私が負けたらデルフィニウム隊を引いてあげる!』

 そうカグヤが言うと共に、二人の距離は一気に縮まりお互いに相手に向かい拳を振るうのであった。

 その拳をお互いのもう片方の手で受け止め、共に牽制しあって動けなくなるかのように見えたが、

 次の瞬間にはそんな事をお構い無しにお互いにパンチを繰り出しそれをお互い避けたり受け止めたりくらったりしていた。

 どちらも距離をとろうとせずに至近距離で殴りあう機動兵器2体、

 その壮絶な光景をブリッジのクルーたちは息を飲んで見つめていた。

「ララパルーザ・・・」

「ミナトさん、なんですかそれは?」

 不意にミナトが呟いた言葉にメグミが聞き返す

「昔見たボクシングの試合でね、ハードパンチャー同士が足を止めて殴りあう試合の事をそう呼んでたのを思い出したの」

「・・・確かに思い出すかもしれませんね」

 目の前の光景を見ながら肯き合うミナトとメグミであった。

「でもこれってボクシングと言うよりただのけんかでしょう」

 そう評するルリはブリッジ正面の大画面にユリカとカグヤの通信を映した。




『いつもいつもたまたま隣に住んでたからってアキト様の恋人面して!』

「カグヤちゃんこそ、いつもいつもアキトの事を振り回してばっかりいて!」

『この”のーてんきユリカちゃん”めぇ!!』

「なによ”おこりんぼカグヤちゃん”!!そんなに怒ってるとまた皺が増えるわよ〜だ!!」




 唖然とするブリッジの面々

「な、何て言うかまるで子供のけんかみたいよねぇ・・・」

「みたいじゃなくて間違いなく子供のけんかです」

 ミナトが何とか言葉を選ぼうとしているがルリはそれを一刀両断する。

 そんなブリッジの中で一人変わらず真剣な顔をしている男が居た。

「おや、さすがは副長、こんな時でも冷静ですなぁ」

 それに気づいたプロスはジュンの事を褒めるが、

「もう見慣れましたから!」

 帰ってきたその言葉にまさに彼の今までの人生の苦労が凝縮されていると言えよう・・・

 その場にいた全員が思わず手を合わせてジュンを拝むのであった。

 あぁ、苦労人アオイ・ジュンにこれから先の航海で幸多からんことを。



 さて、アキトはガイを無事に助け出しユリカとカグヤの闘いを呆然と眺めていたが、

 不意にハッと気づいたのだ。

「これってユリカを助けに行ったほうが良いんじゃないのか?」

 すぐ横にいるガイに通信で聞いてみたアキト。

「ちっちっち、わかってねぇなぁ〜お前は」

 だがそんなアキトに、ガイは指を振りながら言ってのけたのだ

「男と男のタイマンを邪魔するなんて野暮ってもんだぜアキト!!」

『でも艦長も相手の方も女性ですけど』

 ルリから通信越しにツッコミが入る

「んな細かい事はどうでも良いんだ!」

「(良いのかよ!)」

 心の中で壮絶に突っ込みを入れるアキト。

「とにかく、俺達の仕事はタイマンを邪魔しないようにこいつ等をぶっ壊す事だ!!」

 そう言うとガイは手近なデルフィニウムに殴りかかっていった。

 それを見たアキトはまたガイを捕まらせるわけにも行かないので援護する事にしたのだった。



 そんな事をしてる間にもユリカとカグヤの殴り合いは続いていたが、

 今まさにその闘争に決着が付こうとしていた。

『くっ、何で私のほうがこんなにやられてるのよ!』

 お互いに殴った(有効打の)回数はそれほど差がないものの、

 ユリカとカグヤの機体の損傷度の差は目に見えて違ってきていたのだ。

 カグヤの機体は全体的にボロボロであり腕も片方無くなっていたが、

 一方のユリカの方は胴や腕に損傷やへこみが目立つ物のカグヤと見比べれば明らかに軽い物だった。

 それは機体にディストーションフィールドが有るか無いかの違いであったが、

 無論この様な接近戦で(しかも物理攻撃で)ディストーションフィールドが防御に有効と言う訳ではなく、

 むしろ攻撃の時にフィールドを纏ったパンチが繰り出される事の方こそが重要なのである。
(これはガイスーパーアッパーが一撃でデルフィニウムを破壊した点からもわかるであろう。)

「カグヤちゃん、もう勝負は見えたわ・・・お願いだから引いて!」

 そう言うユリカの顔は少し泣きそうになっていた。

 ユリカはけんかばかりしているもののカグヤの事を友達として大好きであったのだ。

 何故なら彼女もまた自分をミスマル・コウイチロウの娘としてでは無くユリカとして見てくれるのだから。

 そしてそれは明日香の令嬢であるカグヤの方も同じであり、

 だからこそお互い本気になって殴り合っても生き死にの”喧嘩”ではなく子供の”けんか”になってしまうのであった。

 このままではそんなカグヤの事をこれからの戦いを考えると無駄とも言えるこの場面で死なせてしまうかもしれない。

 そう思うとユリカは自然と泣きそうになっていたのだった。

『馬鹿を言わないで!アキト様をむざむざと死地に連れて行こうとする貴女に降参なんて出来ないわ!!』

 カグヤは自分がナデシコの艦長なら無理にでもアキトを降ろしていると考えていた。

 自分は軍人だから戦って死ぬのは構わないがアキトは民間人なのだ。

 それなのにあまつさえパイロット等と言う最も危険な事をさせているユリカに降参する事など許す事が出来ないのであった。

「カグヤ、さっきも言ったけどこれは俺が自分で決めた事なんだ」

 不意にカグヤの元にアキトからの通信が入った。

 その声に反応して周りを見回してみるとすでにデルフィニウム隊は全機敗走しており、

 一歩引いたところから自分達を眺めているアキト(とガイ)がいたのだ。

「俺だって火星に行くのは正直ちょっと怖いさ、武器も無いのにあの虫型の兵器が迫ってきたあの時の事を思い出したら・・・
でもナデシコが火星に行けばそんな恐怖の中今を必死に生き延びてる人達を助けられるかもしれないんだ。」

 その言葉はカグヤのみならずナデシコのクルー達全員の胸に突き刺さっていた。

 今までナデシコのクルーに一人も脱落者が出なかったのは正直言って敵への恐怖が無かったからだ。

 ナデシコの性能を見て楽観視していたと言ってもいい。

 だが、この画面に映るコック見習いの青年はそんな恐怖を乗り越えて戦っているのだ。

 ・・・ユリカとの関係のためか男性クルーを中心にあまり好かれていなかったアキトだったが、

 この件の後、少なくとも彼の事を面と向かって毛嫌いするクルーはいなくなったと言う。

「だから俺は火星に行きたいんだ!カグヤ俺からも頼む、もう引いてくれ!」

 ここまで言われて止めようとする事など、もはやカグヤには出来なかった。

『・・・今日はアキト様に免じて引いて差し上げますわ。』

 振り上げていた拳を力なく降ろし、カグヤはそう言った。

「ありがとう、カグヤちゃん」

 ユリカはそう言うカグヤにお礼を言うが、カグヤは顔を背けて言い放つ

『別に貴女の為じゃありませんわ!アキト様の為です!』

 だが、そのカグヤの顔は恥ずかしかったのか真っ赤にそまっていたのだった。




『艦長、もうすぐ第二防衛ラインです。至急ナデシコまでお戻りください』

 余韻に浸るまもなくメグミからユリカのエステに通信が入れられる。

 アキトとガイも先に通信をもらったのか、すでにナデシコに向かっていた。

『ユリカ、必ず無事に帰ってきなさいよ、アキト様と一緒に!』

 カグヤは握りこぶしを作り”アキト様を無事に帰らせなかったら殴る”とも言わんばかりにユリカに発破をかけた。

「うん、また会おうねカグヤちゃん!」

 そんな思いを知ってか知らずか、手を振ってカグヤに答えるユリカだった。

『それとアキト様・・・いえ、ご武運を』

 カグヤは最後にアキトに通信を入れ、何かを言おうとしたが最後まで言えないで無事を祈るだけに留まった。

「ありがとう、カグヤ」

 そしてアキトの返事を聞いたカグヤはミサイルに巻き込まれぬようナデシコから距離を取っていくのであった。




 ナデシコのブリッジではユリカ達が収納されるのとほぼ同時にエンジンが臨界点に到達しようとしていた。

「きたきたぁ、エンジン回ってきたぁ!!」

 熱狂するウリバタケ 

「ディストーションフィールド、最大へ!」

 戦闘が終わり犠牲もなく嬉しそうなメグミ

「100・・・50・・・エンジン、臨界点へ到達」

 常に冷静なルリ

「りょ〜かい、後は任せなさいルリルリ♪」

 艦の角度を微調整しながらもルリを可愛がるミナト

「各員、対ショック防御!バリア突破に備えてください!」

 ジュンはそれらを見回した後に号令を出したのだった。

 そして最大出力になったディストーションフィールドの前に、

 第二防衛ラインのミサイルは対した衝撃すら与える事が出来ないでいた





 そんな最中、アキトとガイは射出口に入ってすぐの辺りでエステに乗ったまま会話をしていた

「しっかし、お前ってばつくづくうらやましいやっちゃなぁ〜」

 ガイは艦長のみならずカグヤのような美人に好かれているアキトを羨望の目で見ていた。

 熱血馬鹿と言えども、いやだからこそヒロインに好かれたいと言う願望はあるようだ。

「え?なにがだよガイ」

 だが、無論そんな事には気づかないアキトにガイはため息をつくのだった。

「はぁ〜、この話の流れで気が付かないかお前は!・・・案外そんな自然に鈍い所が良いのかもなぁ」

 心底呆れたような顔をしながらも、そんな事を考えるガイであった。

『おぉーい、お前らとっとと中入ってエステちゃんから降りろよ!艦長はもうブリッジに行っちまったぞ!』

 とっとと整備を始めたいウリバタケからそんな通信が入るが、

 二人はまだシャッターが閉まりきってない射出口から地球を見下ろしていた。

 そこから眺めた、ディストーションフィールドに阻まれて爆散するミサイル群はまるで花火のようだった。





「バリア突破を許すな!!核融合炉が壊れても構わん!!!」

 熱くなって感情的になり、後の事を考えたらまともとは言えない命令を出す連合軍総司令をあざ笑うかのように、

 ナデシコはビッグバリアの抵抗を物ともせずに大気圏を離脱していくのであった

 結果、バリア衛星は爆発してそれに伴う大規模なブラックアウトが起こるのであった。

 この後、この時(一連のナデシコ騒動全般)の失敗が元となり宇宙軍総司令は罷免される事になり、

 新しい総司令はネルガルの高い技術力を見てきた事から背に腹は変えられずに仲直りする道を選ぶのであった。

 尚、これは前回の歴史のようにネルガル側が頭を下げたのではなく軍の方が折れた為、

 火星から戻ってきた後のナデシコに優位に働くのであった。





「アキト様、カグヤはアキト様の事を変わらずお慕い申しております。だからどうかアキト様も無事にお帰りください・・・」

 カグヤはアキトに言いたくて言えなかった言葉を一人呟き、大気圏を離脱していくナデシコの進路をただ見つめていた

『カグヤ様、ご無事でしょうか?』

 そんなカグヤの元に明日香インダストリーの船が近づいて来ていた

「(アキト様がやるべき事を探すというのでしたらカグヤも自分のやるべき事をやります)」

 心の中でそう呟lき、近づいてくる船に通信を返す

「えぇ私は大丈夫ですわ。それよりもお父様に連絡をお願い、”家出娘が実家に戻る”ってね」

 この後の彼女の動きが歴史を大きく変化させようとは、まだこの時点では誰も気づいていなかった









 余談

「さぁーて、今日は6機も撃墜しちゃったし俺のスペースガンガーに撃墜マークを付けてやら無いとな!」

 ガイは手に大量のゲキガンガーシール(非売品)を持って薄暗い格納庫に来ていた

「ん、なんだ?おわっ!」

 そして人の気配を感じて振り向くガイに急にライトが四方から当てられた。

「やぁまだー、よくものこのことここに来れたなぁ・・・」

 その声の主、ウリバタケは手で(ポリスが警棒を弄ぶように)スパナを弄びながらガイに近づいていった。

「お前のせいでまた俺達整備班は今日もまた残業だってのによぉ!」

 気が付くとガイの周りは整備班の皆さんに囲まれていたのだった。

「貴方のせいで壊れた1−Bタイプ・・・弁償してくれると言うのですか?」

 何故かそこにいたプロスの目はいつもと違い笑っていなかった

 さすがのガイもこの状況にうろたえて思わず叫んだ

「は、博士!待ってくれ、話せば解る!!」

「人の話を聞かないお前に言われたか無いわい!!!」

「ボコだ!ボコにしてやれ!!」

「足は狙うな!怪我を長引かせたら艦長達に迷惑がかかるぞ!」










 その後、格納庫の床にはゲキガンシールに埋もれ何故かやり遂げた男の顔をしたボロボロのガイが放置されていた・・・

「ほぉーんと、馬鹿ばっかね……でもヤマダさんと他の人を一緒にしたらかわいそうか」

 そして今日もルリの毒舌は絶好調だった

 つづく


後書き

毎度どうも、YU−TAです。

作品の構想は最終話まで出来てるのに書き上げるのが遅いので中々話が進みません(爆)

さて、ジュンがナデシコに乗っている為に漫画版のみのキャラであるカグヤが登場してしまいましたが、

流石にナデシコに乗ってパイロットとかするには立場的にも展開的にも無理があるのでやりませんでした。

そして、暫く先まで再登場の予定はありません・・・が、おいしい場面で再登場する予定とだけ言っておきます。

尚、カグヤの乗っていた機体は漫画版の”エグゼバイト”にしようかとも思いましたが、

設定がネルガルとの共同設計という事で現時点では無理だと思い、オリジナルの機体となりました。

(オリジナル機体の”グロウシディウム”と言う名前は”デルフィニウム”と同じキンポウゲ科の花から取りました)

後、ガイはやっぱり死にませんでした。まぁこの状況じゃ誰も彼を撃つ人いないですしね・・・

次回はサツキミドリですが、勿論自分は捻くれているので素直に原作どおりには行かないです(死)

 

 

 

 

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代理人の感想

ここでこう来たか!(笑)

カグヤ以外にも色々いいところはありましたが、「破れたり熱血合体」は実によかった。

まるで往年のロボットアニメの伏線のようでした(笑)。

 

今回気になったところ

>アキトのカグヤに対する呼び方

呼び捨てにしていますが、「カグヤちゃん」だったような。

というか、アキトが敬称付けないで呼ぶ女性はユリカくらいのもんでしょう。

 

>「あった」

ビッグバリア突破のあたりで「〜〜あった」が繰り返されているのでくどい。

強調でない限り同じ表現は重ねないのが基本。

今回は冒頭でも「熱い熱弁」なんてのがありましたね。

 

>エグゼバイト

エグ「ザ」バイトですね。