終わり無き旅



第四話 「一筋の光、消ゆる時」






「で、一体何があったの?」

ネルガル月支社の応接室。そこに現ネルガル会長であるアカツキナガレと

その秘書であるエリナキンジョウウォンが先程の騒ぎの報告を受けていた。

ちなみにエリナは、はるばる月くんだりまで来たというのにアキトに会えないでいて

イライラしていた。言い方にもやたら刺がある。

「まま、エリナ君。テンカワ君に会えないからってそんなにカッカしちゃ小じわが増えるよ?」

「会長っ!」

「はっはっはっはっは!」

いつもの調子で漫才を続ける二人だが、報告しているシークレットサービスの男は困り果てていた。

このまま報告を続けて良いものか、と。

ほっといたらいつまでも続きそうな感じがしたが、救いの手は意外な所から差し伸べられた。

「お二人ともそれぐらいにしたらいかがです?」

「プロスペクター!」

「やあ、プロス君。仕事のほうは片付いたのかい?」

仮にも会長が居る応接室にたやすく入ってきたのは、ネルガルシークレットサービスの長、

プロスペクターその人であった。

なお、本名を始めとする一切の素性が不明である。

プロスはいつもと変わらぬ赤いジャケットに金縁のメガネをしている。

メガネのずれをクイ、と中指で直すと男のほうに向きアイコンタクトをする。

伝えたいことはいろいろあったらしいが、要約すれば

『重要な話をするので、出ていけ』

ということであろうか。

ともかく、男は一礼して応接室から出ていった。





「で、何があったんだい?」

アカツキは、先程エリナが言った言葉を口に出す。

「ネルガル本社のメインコンピューターがハッキングを受けました。

 場所はこの月支社の端末からでした」

「それで被害は?」

「Sクラスの機密データ一切合切です」

「なんですって!!?」

エリナが驚くのも無理は無い。何しろSクラスといえば、ネルガルのトップシークレットだ。

もしもその情報が公開されようものなら、ネルガルは間違い無く破滅であろう。

Sクラスは、彼の電子の妖精と謳われるホシノルリをもってして突破するのは事実上不可能と

言わしめたほどの強固なプロテクトが施されている。

トリプルブレインと呼ばれる特殊な物理的プロテクトの前に敗れ去ったハッカーは後を立たない。

あまりの強固さゆえに利用する者達からは不便だと言われているが・・・。

アカツキもその危険性を認識しているのか、いつに無く真剣な表情をしている。

「まさか・・・・・・ラピス君かい?」

ホシノルリと同じ遺伝子強化体質であるラピスラズリ。

その能力はホシノルリには経験の差で一歩及ばないものの、宇宙でもトップクラスの情報処理能力を誇る。

「いいえ、違います」

「ラピスでないとしたら一体誰が?それほどの力を持つ人物はうちにはいないはずよ」

「実に申し上げにくいのですが・・・・・シークレットサービスの人間です」

「「!!!」」

これには二人も驚いた。

シークレットサービスはその性質上から、その人物の過去を調べられるだけ調べ上げる。

その上で危険は無いと判断された人物のみがシークレットサービスに入ることを許される。

Sクラスのプロテクトに侵入できるだけの実力を持ちながら、今の今まで隠してきたとは・・・・

信じられない話だった。

「名前は・・・?」

「タチバナミズキ。終戦とほぼ同時期にネルガルに入社。

 テストパイロットとして雇われるも、戦闘能力の高さからネルガルシークレットサービスにスカウト。

 ・・・アキトさんにエステバリスの操縦を教えた方です」

「彼女なのか・・・・・・」

思い返せば地獄の日々。

教える代わりに口に出せないような条件を快諾してしまった自分。

おかげでアカツキの個人資産が三桁ほど減っているしサレナは黒くされるし

アキトは感化されるし・・・・・。

おまけに妙な男どもには熱い視線を向けられるし。

結局アキトはミズキの足元にも及ぶことは無かったが。

「それで今は何処に?」

過去の苦しみを走馬灯のように思い出しているアカツキを無視して、エリナが話を進める。

「ユーチャリスを強奪。逃走。行方不明。現在捜索中です」

「行方不明?見失ったの?」

「いえ、ボソンジャンプです」

「「!!!」」

これについてもまた二人を驚かせた。

ボソンジャンプを行ったと言う事実が示すもの、それは・・・・

「テンカワ君も今回の事件に関わっている・・・」

「アキト君が・・・・」

「そのアキトさんですが・・・・、エリナさん、これを」

そう言ってプロスは一枚の手紙をエリナに渡す。

エリナの顔が驚愕に包まれるのを見計らい、プロスは続きを話す。

「その手紙を見れば分かると思いますが、アキトさんは以前からこうすることを決めていたようです。

 対して、ミズキさんは上司との喧嘩・・・・。ああ、この上司はもう更迭してあります。

 ・・・とにかく、上司との喧嘩が原因のようで、突発的なものです。

 アキトさんは偶然一緒になったと考えるほうが自然ですな」

「何が・・・ラピスを頼む、よ・・・。こんなの断れるわけ無いじゃない・・・」

エリナがうつむきながら呟く。

「どうなされますか、会長?」

「プロス君も人が悪いねえ・・・。ネルガルとしては今回の件は無かったことにするさ。

 彼女がネルガルの敵対企業に情報を売るとは考えにくいし、

 仮にそうだとしたらその情報でネルガルを脅迫したほうがよっぽど金を毟り取れる。

 いくら払おうが、倒産するよりはましだろうからね」

「分かりました。そのように手配しておきます」

「よろしくたのむよ」

こういう時にこそ会長が動くべきなのだろうが・・・・・、それはともかく

プロスはすでにしわくちゃになってしまった手紙を握り締めたままうつむいているエリナに視線を向ける。

「エリナさん。ラピスさんを引取るのなら、これからいろいろ用意するもの

 が必要です。とりあえず、戸籍を準備しましょう」

肩を震わせ、頬を流れ落ちる物を止めようともせずエリナは答える、答えたかった。

 








そうすれば自分が動揺していないと確認できたから。









そうすれば愛する者を失う悲しみを乗り越えることができるはずだから。









そうすれば・・・・自分が彼に何もできなかったことを悔やまずに済むから。






「よろ、し・・・・よ・・・・・、う、うああああああああああ!!!!」

止められなかった。

胸の奥深くから沸き起こる感情を。

人前だとかそんなのは関係無かった。

涙で顔がぐしゃぐしゃになっても、溢れる涙はとどまることを知らず、

ただただ流れるだけだった。

覚悟を決めたはずだったのに。

ドクターの話を聞いたあの日から。

思い返せば彼には泣かされてばかりだ。

いつか仕返しをしてやりたい。

明日にでも、来年も再来年もずっとずっと・・・・・。

仕返しをする相手が居続ける限り・・・・・・・・・。

「えっ、えぐっ、うあああああ、うあああああああああああ・・・・・・・・!!!」









いまどき珍しい紙製の上に書かれた、少しいびつな文章。

その文の最後に間違い無く書かれている『今までありがとう』、の文字は

止めど無く流れ落ちる涙で、




滲んだ。


























まず最初に、直接会って話す勇気が無い俺を許してくれ。


ドクターは、後数年程度と言ってくれたが正直半年持てば良いほうだろう。


アカツキ、今までネルガルにもお前にも迷惑をかけて済まなかった。


ネルガルとの事は誰にも言う気は無いから安心してくれ。


ユリカのことも俺一人では何もできなかっただろう。


エリナ、お前にはいつもラピス共々世話になってばかりだったな。


世話ついでに、というわけではないがラピスを預かってくれ。


あいつは俺と違って素直で良い子だ。


そんな奴がいつまでも俺と一緒に居るわけにはいかない。


俺ではラピスを幸せにする事はできない。


押し付ける形になってしまったがお前しか頼める奴がいない。


よろしく頼む。


アカツキ、そしてエリナ。  今までありがとう。





アキト

























後書き

藍染児:ああ、ミズキってば何やってんだか。
ミズキ:失礼ね。ちょっと遊んだだけじゃない。
藍:しかし俺はギャグが書けないねぇ・・・・。
ミ:駄目な作者ね。
藍:・・・ま、とりあえず次回予告。
ミ:逃げたわね。
藍:本邦初後悔(誤字にあらず)!!!???
  ナノマシン手術シーン!
  無知な作者が送る嘘八百億!
  こんなんでいいのか藍染児!?
ミ:・・・書く前から後悔してどうすんのよ。

 

 

代理人の感想

 

今回も暗いなぁ(苦笑)。

 

ナノマシン手術って・・・・ナデシコの世界だと単に無針注射器でプシュ、じゃありませんでしたっけ?

それともなんか凶悪なシーンなりアイデアなりがあるんだろうか?