終わり無き旅



第十一話「アオイジュンの決意」








「さあ、沢山あるからね。た〜んとお食べ」

トビウメの貴賓室では、コウイチロウとユリカが交渉・・・ではなくお茶会をしていた。

テーブルにはユリカ一人ではとても食べきれないような量のケーキが所狭しと並べられている。

資源の無駄使いにしか見えないそれを、ユリカは食欲にも負けず食べようとしない。

ケーキ達の運命やいかに。

せめて生ゴミ行きだけは勘弁して欲しいものだ。


ユリカはケーキへの未練に決別し、コウイチロウの顔を正面から見据える。

「お父様。お聞きしたいことがあります」

「ん?なんだね。何でも言ってごらん」

「テンカワアキトを憶えていますか?」

「はて、テンカワテンカワ・・・・誰だったか」

真剣に思い出そうとしているのか、誤魔化そうとしているのか、コウイチロウはどちらともつかない表情を浮かべる。

「火星でお隣だったテンカワです」

「おお、思い出した。・・・で、そのテンカワさんがどうかしたのか」

「今ナデシコにアキトがいるんです。そしたらご両親は火星でのテロで亡くなったって・・・・。

 お父様。アキトのご両親のことについて、何か知りませんか?」

「そうかテロで・・・・・・。いや、私は何も知らん」

「そうですか・・・・・・」

ユリカは落胆の色を浮かべる。

当時から軍にいたコウイチロウなら何か知っていると思っていたのだろう。

プシュッ


親子の間に会話がなくなるのを見計らったかのように、プロスとジュンが入り口に現れる。

「交渉は終わったのかね?」

「ええ。ナデシコはあくまで我がネルガルが私的に運用いたします。

 それに関して軍に干渉されるいわれはありません」

「そういう訳にもいかん。我々も子供の使いではないのだ。駄目でしたでは許されん」

「いやはや、大人の使いでしたら引き際が大切かと。あなた方も子供の使いではないのでしょう?

 いつまでも駄々をこねるのは子供のすることです」

「そもそもこのような船を一体どうやってネルガルは―――――」


「提督!大変です!!」

「どうした!?」

プロスとの交渉・・・というか狐と狸の馬鹿し合いが途中で中断されるも、さすがに提督の職務をおろそかにしない。

「はい、休止中のチューリップが再び活動を再開しました。その際クロッカスとパンジーの両艦がチューリップに

 のみ込まれました」

「被害は?」

「艦のみです。クルーはぎりぎりで退避を完了しました」

「分かった、すぐにブリッジに向かう。総員戦闘配備だ」

「了解」













「さて、時間稼ぎをするか」

その頃アキトは、空戦フレームでチューリップへと接近していた。

この時点ですでにガイの出番は無い。

そもそも怪我をしているのだから、前回が異常だったと見るべきだろう。


ダダダダ!


襲いかかる触手に牽制をかける。

危険を感じたのかチューリップの胴回りから生えているそれは、次なる目標をアキトの乗るエステバリスへと定める。

(そういえばチューリップ本体が攻撃能力を持つのは後にも先にもこれ一体のみだな・・・・・。

 テニシアンのような実験体ということか?)

木連側の事情など知る由も無いが、これ以降生産されなかったところを見ると何らかの問題はあったのだろう。

(まあ・・・・弱いしな)

酷い言われようだ。


ボン!

ふと、背後・・・・ナデシコの方から小さいが爆発音が聞こえた。

僅かに上がる白煙の中から現れたのは、強襲揚陸艇、ムネタケ達が乗っている船だ。

真っ直ぐトビウメを目指す。

揚陸艇の使い方が間違っているような気もするが、それはともかく船は無事トビウメに収納される。

それとほぼ入れ違いに、ネルガル社製のヘリ、ユリカ達の乗るそれがトビウメの発艦ポートから飛び立つ。

どうやら無事に出て来れたようだ。

(・・・・・ジュンはどちらにいるかな)

あの性格を考えれば、ほぼ間違い無くトビウメの方であろう。

『アキト!私を迎えに来てくれたのね!』

突然、ウィンドウが開いたかと思うとユリカの高潮した顔が映し出される。

危険を顧みず、お姫様を助けに来るナイト。

ユリカの中では、まさにそれがアキトになっていた。

ちょっと目があっちの世界に行きかけている。

「俺が時間稼ぎをするから、ユリカはナデシコへ行け」

『分かったわアキト。チューリップなんてすぐに片付けちゃうから!』


ピッ





「チューリップなんて、か。頼もしい限りだが、またあの作戦なんだろうな・・・」

苦笑しつつ、一人ぼやく。



ダダダダダダダダ!


右手下方から襲いかかってくる触手を牽制を交えつつも余裕で避けると、イミディエットナイフを装着し、切りかかる。

さすがに直径がかなりあるので一刀両断とはいかないが、損傷した部分にラピッドライフルの砲撃を

食らわせると、触手は海面へと落ちていく。

「時間稼ぎはもう終わりだ。ナデシコが作戦を開始する前に全部落とさせてもらうぞ!」


ドウッ!

ブーストを噴かせて触手に向かってエステバリスを一気に突っ込ませる。

さすがに触手が一列に並んでいることはないので何度か同じ動作を繰り返すことになるが、すぐに触手は全て落とされる。

一旦チューリップから距離をとるために高度を上げると、今度はナデシコがチューリップに向かって突進し始めた。

(やはり、この作戦か・・・)



ズズズズズズ・・・・・


ナデシコがチューリップの中へと侵入を開始する。

そして―――――


・・・・・・ズガアアアアアアアアン!







「・・・・・後は、ジュンだな」











ユリカが戻る少し前のナデシコブリッジ。

「へ〜、テンカワさんって強いんですね」

メグミがアキトの戦闘を見て驚く。

ナデシコ発進の時は、ウェンとルイカばかり見ていたのでアキトにまで気が回らなかったようだ。

もちろん、そこには『意図的なカメラ位置の操作』もあったりしたが。

ただ、今の戦闘は触手が相手なので先の戦闘ほど強さを見て取ることは出来ない。

「ええ、強いですよ。アキトさんは」

「ルリちゃん、アキト君と知り合いなの?」

「はい。私、アキトさんの娘ですから」

「「「ええ!?」」」

驚く人数が一人多いのは、ちょうどブリッジに入ってきたユリカだ。

「冗談です」

「な、な〜んだ冗談。そ〜よねぇ私ったら・・・」

「そうですよね。アキトさんに限ってそんなこと・・・」

「メグミさん。今アキトさんって言いませんでした?」

ルリの鋭い突っ込みに、メグミは一瞬ドキッとしたが顔には出さずに誤魔化す。

「え、え〜と、そう!生活班の子にテンカワって名字の子がいるの。

 こんがらがっちゃうと困るでしょ?」

「・・・・・・本当ですか?」

「本当本当!」

始終笑顔で繰り広げられるその異様な光景にミナトは恐怖を覚える。

まだ、ナデシコ色には染まっていなということか。

「ルリちゃんがアキトの娘・・・・相手は一体誰・・・・?」

どうやらユリカはあっちの世界に旅立つ特技があるようだ。






「おほんっ!艦長、作戦はどうするのですか?」

「きっと悪い女にたぶらかされ・・・・え、あ、プロスさん」

ユリカがこっちに戻ってくる。

現状を把握していないのか、きょとんとした顔でプロスを見ている・・・・が

さすがに戦闘中だということに気付いたようで、起動キーを元の場所に戻す。


ブウウウウウウウウウウウウン


ブリッジに明りがともる。

機械はエネルギーを得、活動を開始する。

「相転移エンジン出力安定。いつでも行けます」

「ミナトさん。ナデシコをチューリップに向かって全速前進させてください。

 ルリちゃん。ナデシコがチューリップに取りこまれ次第グラビティブラスト発射。

 メグミちゃん。艦内に対ショック準備勧告を。

 さあ!あんなのちゃちゃっと片付けちゃいましょう!」

この時点では、ユリカはまだチューリップが別の空簡に繋がっていることを知らない。

知らないからこそ出来た・・・・・無謀とも言える作戦であった。





















そして

「ナデシコ、この海域から離脱します!」

「いいのですか?このまま行かせて」

「かまわん。どうせこの艦ではナデシコには勝てん」

提督になるだけあって、状況を把握できるくらいの能力はあるようだ。

いや、能力は高いのだろうが娘への思いがそれを邪魔していたのだろう。

「ところでアオイ君。ユリカの好きな奴とは誰だか分かるかね?」

「ユリカ〜」

去り際にどんな会話が交わされたのか、というか会話があったのかどうかはジュンの態度を見れば一目瞭然だ。

アオイジュン。哀れである。








「はあ〜、ユリカ・・・・・・。」

通路を暗い空気を纏いながらとぼとぼ歩くジュン。

一応コウイチロウにあてがわれた士官用の個室があるが、ジュンの足取りはそこに向かってはいない。

艦内をさ迷い歩く亡霊と化しているジュンであった。

「あの、アオイ様」

だから、連合兵士が話し掛けても反応しない。

「はあ〜・・・・・・」

黒い瘴気を吐きつづけるジュンは、目の前の人、つまり連合兵士にぶつかると

ギギギッと百八十度方向転換して今きた道を戻ろうとする。

その様子に連合兵士は一歩引きかけたが、職務の忠実さがそれを上回り覚悟を決めて再びジュンに話し掛ける。

「あの、アオイ様!」

「・・・・・・何?」

ぐらり、とまるでゾンビのように振り向くジュン。

兵士は一歩どころか逃げたい気分だった。

「あ、あの・・・・・貴方宛に手紙を預かっているのですが」

「手紙?」

トビウメに置いてけぼりにされたジュンに、一体誰が手紙を送ったのか。

不思議に思いながらもジュンは兵士から手紙を受け取る。

手紙は、いたってシンプルな白い封筒にに入っていてハートマークのシールでとめられている。

簡単に言ってしまえば思いっきり絶滅種の旧時代式ラブレターだった。

「危険物反応は?」

「一応調べましたが、ありませんでした」

この時代、僅か数ミリの爆弾もあるのでよく暗殺に使われる。

威力はそれほど無いのだが、至近距離で人一人を殺すくらいはある。

「・・・・・・まあ、ありがとう」

「はっ。それでは私はこれで」

兵士はジュンに敬礼すると、ジュンの横を通りすぎて何処かに行ってしまう。

ジュンから見えない位置まで行くと、途端にダッシュになったのはジュンへの印象が分かるというものだ。

「・・・・誰からだ?」

後ろを見ても差出人の名は無い。

とりあえずジュンは自分の個室へと向かった。




スッ

ペーパーナイフを通して封筒を切る。

初めはハートマークのシールを取ろうとしたのだが、一体どうやってくっついているのか

どんなに力を入れても剥がれなかった。

「え〜と何々・・・・・。

『ジュン君へ

 トビウメに置いていっちゃってごめんなさい。

 でもそれは極秘任務のためなの。

 ナデシコはこれから地球引力圏を脱出するために第二次防衛ラインのビックバリアを超えます。

 ナデシコの被害を極力押さえるためにも、連合軍に掛け合ってビッグバリアを解いてほしいの。

 これは信頼するジュン君にしか頼めないことなの。

 よ・ろ・し・く・ね。

 ユリカより』・・・・・・・・ユリカァ!?」

思いもしなかった相手にジュンは驚く。

(ユリカ、僕の事を覚えてくれてたんだね・・・・。

 あ、いや、ビッグバリアを超えさせるわけにはいかない。

 そんなことをしたらナデシコは地球連合を敵に回すことになる。

 でも、ユリカの頼みだし・・・・。

 何を言ってるんだアオイジュン!

 好きな女が犯罪者になってもいいって言うのか!?

 だが手紙にはジュン君『しか』できないって・・・・。

 ユリカの信頼を裏切ってもいいのだろうか。

 ユリカの悲しむ姿は・・・・・。

 ああ、でも・・・・どうしたらいいんだ〜〜〜〜〜!)

心の内の悪魔と天使が葛藤するジュン。

そこに、来客を告げる電子音が鳴る。

「提督かな?」

ジュンは深く考えもせずにロックを解き扉を開けた。


プシュッ













「覚悟はできたかしら?ナデシコ親善特使殿」

訪れたのは、ムネタケだった。
















後書き

藍染児:最近執筆速度が緩やか〜に下降中。
ミズキ:ん、スランプ?大した量も書いてないくせに詰まってない脳みそねえ。頭残して改造しちゃうわよ?
藍:ううう〜・・・・。か、改造は嫌ぁ・・・改造だけはぁ・・・・。
ミ:な、なんか異様に怯えるわね・・・。まあ、私の出番増やしてくれるなら考えてあげないことも無いけど。
藍:・・・・・・・・・・・・・え?
ミ:その間は、何。
藍:・・・・・・・・・次回サブキャラ大活躍です。はい。
ミ:さ、ちょっとお姉さんと一緒にこっちに来てねえ〜♪
藍:い、嫌や〜、改造だけは!というかあんた実年齢三十代でお姉さんは反そどぎゃあああああああああああ!!!!
  やめれええええええええええええええ!!!
ミ:さあて、次はこれをこうして、と・・・。
藍:のおおおおおおおお!?じ、次回ついに秘書登じょおおおおおおおおおおお!????
ミ:ちっ、宣言されちゃったか・・・。仕方ない。次回は諦めるしかないようね。




〜追記〜

最近本屋でスパロボAの攻略本を読んだ。良い子の皆さんは本は購入してから読みましょう。
ゲームは持っていなかったので、さらっと流し読みしていたらユニットデータが目に・・・。
おお、フレームごとに分けられてる・・・・。
・・・・・・・。
ら、ら、ら、ら、ラ『ピ』ッドライフル?





しまったーーーーーーーーーー!!!!!



と、いうわけで今まで間違いにも気付かずラビットライフルと堂々と表記しておりました。すみません(泣)
変だと思ったんだよぅ・・・・・ウサギってなんなんだよぅ・・・・・・。ラビット〜〜〜。
以後、ラピッドライフルと統一して表記致しますのでこれまでのことは忘れてください。

 

 

 

代理人の感想

 

天使と悪魔・・・かなぁ。

どっちにしろ悪魔のような気がしないでもありません(笑)。