時の流れに after story
 
『ダブル』とは関係ありません。
 
テンカワくんやルリくん達が行方不明になって半年後に起こった『火星の後継者』達の2度目の反乱は最早反乱とは言えない様相を呈してきた。
我がネルガル重工にとっても彼等の不在はダメージが大きく、かろうじて集まってくれた旧ナデシコのメンバーを急遽通常艦として改修したナデシコBに乗せて、月軌道上で防衛線を敷くのがやっとの状況だ。
今回はボクを筆頭にした旧ナデシコ系パイロット4人の他に秋山少将と月臣君のつてで協力してくれている優華部隊の面々がエステバリスカスタムフレームで参戦している。
過去の戦闘で両軍のエースだった人間達が揃っても1度は戦いから足を洗った者の悲しさかどうもボク達の動きはリョーコくんに劣り彼女の足を引っ張る形になってしまう。
そんなわけだから、ボクはもっぱらナデシコBの提督席に陣取り、戦闘指揮に当たっている。
「アカツキさん!後方から戦艦1隻接近してきます」
クルー再招集の際、志願してきたメグミくんからの報告だ。
「会長、艦種判明しました。西欧方面軍所属の『セレス』です」
ミナトくんが操舵士になり浮いてしまったエリナくんはオペレータ席に座っている。
「『セレス』だって!?」
「そうよ。あの連合宇宙軍のホープと呼ばれる女性が艦長席に座り、白銀と金色の戦乙女が機動兵器部隊を指揮する西欧方面軍旗艦の『セレス』よ」
「ああ、ドクター。説明、ありがとう」
言ってる傍から、ボクのコミュニケが開く。
 
『こんにちはアカツキさん。だいぶ苦戦されているようですね?グラシス退役中将からの命により、参戦させていただきます』
「イヤ〜ありがたいね〜」
『セレス』所属のエステバリス隊、2個中隊18機が参戦してくれたものの、やっぱり劣勢は覆せそうにない。
これまでの猛攻を耐え抜いたエステバリス隊が帰艦したが全員が疲労困憊の模様ですぐには出撃できそうにない。
そして、間の悪いことにメグミくんから最悪の報告が入った。
「前方・・・チューリップより大型物体が出てきます!」
全くこれ以上ない最悪のタイミングだ。
「総員戦闘配備!」
『無茶言うなよアカツキ!エステバリスの整備だけでも30分は掛かるぞ』
「ウリバタケくん、そこをなんとか頼めないかな?」
『お前さんの機体ならものの1分もあれば出撃できるがリョーコちゃん達のはどうがんばっても25分は掛かる』
整備班も疲労しているようだ。これ以上無理を言っても仕方ない。
「わかったよ。ボクの機体をハリネズミのように武装しておいてくれ」
この状況では仕方がない。ボクは出撃を決意した。
「待って下さい、アカツキさん・・・。艦種判明しました・・・」
どことなくメグミくんからの報告は嬉しさをはらんでいた。
「艦種・・・ナデシコです!・・・それも・・・ナデシコCです」
メグミくんはいつの間にか泣き出してしまっていた。
そして、それがブリッジにいたクルー全員に波及するまでさほど長い時間はかからなかった。
 
しかしモニターが開いたとき、そこにいたのは・・・
『久しぶりだなアカツキ!だいぶ苦戦しているようだな?援護してやろう』
「助かるよテンカワくん。しかし、テンカワくん何故君がその艦に乗っているんだい?」
『ま、今はそんなことより、ゆっくり休んで俺達の戦いを見ていてくれ』
それだけ言うと、テンカワくんからの通信は切れてしまった。
しかし、切れる瞬間に映ったブリッジにはエリナくんやプロスくんといったこっちにも乗っているメンバーが映ったような気がしたのは果たしてボクの見間違いだったのか。
 
 
ところ変わってナデシコCブリッジ。
「ここは俺やルリちゃん達が元もと居た世界だ。この世界では『火星の後継者』を名乗る木連軍の過激派どもが既存の体制を壊し草壁春樹を頂点にした極一部の人間に都合のいい世界を作ろうとしている。
 1回目の反乱は俺達がおさめたわけだがその後で俺達がランダムジャンプしたせいで奴らの2度目の蜂起が達成されつつある。
 俺としては責任をとりたいから出撃するが、皆は自由だ。参加したい奴は付いてきてくれ」
それだけ言うと俺は踵を返してブリッジを出ようとした。
「フッ、アキト!そこまで言われて俺達が付いていかないとか思ってるんじゃあないだろうな?」
北斗の言葉に頷くパイロット全員。
「ようし!今回はフォーメーションは無しだ。総員、自由に動いて敵機を撃破しろ!」
「…「了解!」…」
ナデシコが戦闘形態に移ると同時にカタパルトから発進をする。
俺は先陣を切って発進するや敵無人兵器を殲滅しつつ、敵有人兵器を行動不能状態にしていく。
そんな中、3機のサレナカスタムは動きがまだ多少悪かったが、カスタムエステ以上の戦果を挙げていく。
そして、その宙域は掃討された。
 
3隻の艦がナデシコCを真ん中にして互いに接舷した。
セレスとナデシコBから艦長を中心とした主要メンバーがナデシコCのブリッジに入ってきた。

先に到着したのは当然のことだがナデシコBからのクルーだった。
メンバーはアカツキ、エリナの2人だけだった。
「あれ?アカツキさん、ユリカさんは一緒じゃないんですか?」
ルリちゃんの質問は尤もなものだがその質問に対する2人の顔は酷く重いものに変わった。
「・・・・・・テンカワくん、ルリくん落ち着いて聞いてくれよ。
 彼女は・・・ユリカくんは亡くなったよ。
 確かに君達が行方不明になってしまったことも原因の一つにはあるようだが、一番大きなものは『火星の後継者』達の仕掛けた遺跡との融合を解除したときに発動するように仕掛けられていたウィルス性の疾患が
 理由だよ。ミスマル提督が組織した医療団もドクターも一生懸命やってくれたし、奴らから押収した資料も使ったんだけどね、彼女自身の衰弱と生きる意志を失ってしまったことが大きすぎて半年前、
 眠るように息を引き取ったよ」
俺は自分自身が許せなかった。自分の手が血にまみれていると思いこんで逃げ回ってルリちゃんを巻き込んだ事件の結末がこんなことになるなんて。
ルリちゃんの表情も今まで見たことがないくらい重いものに変わっている。
俺達がそんな会話をしているときに西欧方面軍旗艦『セレス』の主要メンバーがブリッジに入ってきた。
・・・・・・入ってきたメンバーの中心に立つ少女の姿を見たとき、ナオさん、シュン隊長を筆頭とした西欧方面軍関係者は驚愕を顕わにした。
そして、俺は当然のことながらルリちゃんの顔にも驚愕の色が窺える。
しかし、彼女はそんなルリちゃんを無視するかのように自己紹介を始めた。
「初めまして、西欧方面軍旗艦『セレス』の艦長をしていますメティス=テア少佐です。今回は私達に力を貸して戴けるそうで感謝します。
 ・・・それはそうと、ホシノ=ルリ!士官学校から続く貴女との様々な決着、今日こそ付けさせて貰いますよ」
メティス=テア少佐は確かにそう言った。それが確かなことならばルリちゃんとメティちゃんは知り合いだったと言うことになる。
「やはり、貴女でしたかメティス。しかし、決着を付けようにも今の私は只のオペレーターにすぎませんし、格闘術は今の貴女と闘うつもりはありません」
「なに?ホシノ=ルリあっさり負けを認めるわけ?」
「いえ、そうではありません。と言って通じる貴女ではありませんでしたね。今此処で貴女が私に指1本でもさわることが出来たら試合をしましょう」
「戦略シミュレーションは抜きにしても、格闘戦で私に勝ったことのない貴女にしては大きく出たわね。いいでしょう今此処で叩き伏せて上げますよ」
そう言うなり、ルリちゃんに襲い掛かるメティちゃん。しかし、彼女がいくら攻撃してもルリちゃんにはかすりもしない。
その後ろで、過去と未来、重なった人々が談笑を始めてしまっている。
そして、いいかげんメティちゃんが疲れ始めたときだった。ブリッジに入ってきたミリアさんが彼女を後ろから抱きしめたのだ。
「!?」
「メティ、貴女メティよね?」
抱きついたミリアさんは泣き出してしまっていたが、ミリアさんの声を聞いた途端、メティ少佐も泣き出してしまった。
「お、お姉ちゃん?前回の火星の後継者との戦闘の時に死んでしまったハズのお姉ちゃんがなんで?」
この言葉に驚いたのはナオさんだった。
「メティちゃん、じゃなかったメティス少佐。ミリアが死んでいるって言うのはどういうことなのか教えてくれるかな?」
上部ブリッジから降り立ったナオさんを見てメティス少佐の表情は更に驚きにみたされた。
「お義兄ちゃん!なんで?お姉ちゃんと一緒に死んでしまったはずのお義兄ちゃんまで此処にいるの?それになんか妙に若いし・・・」
ブリッジにいた元西欧方面軍関係者の間から笑いが洩れた。
例え俺が西欧方面に出向しなくても、ミリアさんとナオさんは出会っていたのだ。
メティちゃんは死なないがその代わりに2人が死んでしまうことになるのだが。
 
1時間以上に及ぶ説明の末、セレスとナデシコBの面々はそれぞれの艦に帰っていったのだった。
 
「敵、大型戦艦と思われる反応をキャッチしました」
索敵範囲は3艦中、最大を誇るのが今のナデシコCである。
艦隊が相互に休息をとって、全乗組員が一段落した頃そんな報告をしなければならない状況になりました。
「艦種、判明しました。大戦時に草壁元中将が乗っていたのと同型艦です。・・・どうやらこの艦が今回の反乱軍の旗艦のようです」
そう報告した瞬間、ナデシコCのブリッジに当の旗艦と思われる艦から通信が入りました。タイミングを計っていたのでしょうか。
『私が火星の後継者筆頭の南雲である。これまでの戦いで、君達に勝ち目がないことは最早、明白である。大人しく投降すれば命だけは助けてやってもいいぞ』
イヤな言い方ですね、「助けてやる」とは言わずに「助けてやっても良い」。こう言っておけば例え助けなくても約束を反故にしたことにはなりません。
しかし、我々からの返答は最も静かなものでした。それは『無視』。
ナデシコCでは通信ウィンドウを開いて音声付きでいますがナデシコBとセレスでは映像のみとのことです。
要求は無視することに決めていましたが、一応の交渉をするためにオオサキ=シュン大佐が口を開きました。(未来ver.のシュン隊長は准将です)
「この艦で提督を勤めているオオサキ=シュン大佐だ。南雲殿、これまでの戦闘と言われたようだが貴殿はつい先ほどの戦闘の結果はどう評価されているのかな?」
『ふっ、たかが1回まぐれで勝てたくらいで対等の応対でも期待していたのか?貴様らは所詮散っていく身なのだ。
 大人しく投降したらどうだ?』
「それはまた面白いことを言ってくれるな。なんなら、この場でもう一度先ほどの戦闘を体験させてやろうか?」
シュン隊長はたった1回会話しただけで南雲の性格を見抜いてしまったのかワザと挑発させるようなことを言っています。
そして当然、バカが付くくらいに単純な南雲がのってきました。
『良かろう、まぐれが所詮まぐれであることを見せつけてやろう』
それだけ言い残して南雲からの通信は終わりました。シュン隊長はブリッジ下部に集まっていたパイロットに向かい直すと、
「優華部隊から聞いていたとおり、単純な男だったな。まぁ、どんな敵が出て来るにしても、アキト以上の敵なんてあり得ないんだから気楽に行って来いよ」
パイロットへの訓辞のようなものでしょうか。北斗さんが何か言いたそうな顔をしてらっしゃいましたがアキトさんに制されブリッジから退出しました。
 
『ナデシコC、戦闘形態への変形終了。各エステバリスは順次発進して下さい』
ユリカの指示のもと、発進していくエステバリス隊、その数ナデシコCだけで18機。ナデシコBから11機、セレスから18機。
総勢47機、対する火星の後継者は見たこともないくらいの大型戦艦から雲霞のごとく有人無人の機動兵器群が発進してその数2400機以上。
一人あたり50機以上倒して、互角になる。ナデシコCのパイロットは問題ないだろうが・・・しかし、セレスのエステバリス隊の隊長機、片方はアリサちゃんだとしても、もう一人は誰だろう?
「セレス所属のエステバリス隊!コールの都合もある。隊長機だけでいいから名前を教えてくれ。ちなみに俺はナデシコC所属のテンカワ=アキトだ」
ブローディアのコックピットに現れたウィンドウの中にあったのは・・・見慣れた顔だった。
『セレス所属エステバリス隊、第1小隊の隊長をやっています、アリサ=ファー=ハーテッド大尉です』
アリサちゃんはまだ良い。銀色の機体があったことからもある程度は予測できていた。が、
『同様に第2小隊で隊長を務めさせて頂いてます、サラ=ファー=ハーテッド大尉です』
確かに、金銀のパーソナルカラーは彼女たちの髪の色を現したものだからプラチナに輝く機体を見たときに予想しておくべきことだったのかも知れないが。
ナデシコCの面々はパイロットもクルーも関係なく大慌ての状況になっている。
もしサラちゃんにアリサちゃん並みのパイロット能力があるのなら・・・誰もが考えているのだろう。
当のサラちゃんはシミュレーションルームに移動したようでブリッジに姿は見えなかった。
そんな俺の表情を見たのだろうサラ大尉が話しかけてきた。
『すみません、テンカワさん。どうかされたのでしょうか?』
「いや、すまない。俺達が過去からやってきたことは先ほど説明したとおりなんだが、こちらのサラさん(なんか変だな)は通信士をしているんでね。もしパイロット適性が高いのなら・・・という状況になっているんだよ」
『そうですか。私も最初は通信士だったのですがシミュレーションをやってみたらパイロット適性が高いことが解って転向したんですよ』
そんな会話を敵を目の前にしてやる。サラ大尉も結構いい性格をしているようだ。
 
『貴様ら〜!!!敵を目の前にしてその態度。断じて許さん。各機攻撃開始』
 
全周波数で行われていた会話は当然『火星の後継者』達にも聞こえているわけで、しびれを切らした南雲が忌まわしき機体『夜天光』で出てきた。
そしてそれに続くのは『六連』ではなく、6機の『夜天光』。そしてそこから聞こえてきた声は・・・。
 
俺は再び死神になってしまうのか。
 
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ナデシコはまともにボソンジャンプが出来なくなってしまったのでしょうか。