ナデシコに帰り着いた俺を待っていたのは、リョーコちゃんとイツキちゃんだった。

「「お帰りなさい」」

「ああ、・・・そうだ、副提督に言ってユートピアコロニーに行かないか?

 ってあそこはもうなにもないけど」

「本当に何もないんですか?」

「フクベ提督の苦渋の選択だったんだ。

 ああしていなければ他の大きなコロニーに落ちていたんだ」

「だからって、なにもユートピアコロニーに落とさなくてもいいじゃねぇか」

「それは提督にとっても計算外のことだったんだよ。

 提督が艦をぶつけたチューリップは他のモノに比べて一回り大きかったんだ。

 そのせいで計算通りの場所に落ちずにユートピアコロニーに落ちてしまったんだ。

 敗戦続きだった軍部は提督のその行動を英雄として奉ることで敗戦の機運を一掃しようとしたんだ。

 本当に辛かったのはフクベ提督本人だったのかもしれない」

「それはそうかもしれませんが、

 アキトが死んだかもしれないって思ったときの私達の気持ちが分かりますか?」

「・・・分からなくもないよ。イズミさんにビデオを見させて貰ったからね」

「「あのビデオを見たのか?(見たんですか?)」」

「凄い映像だったよね?4人の中でまともな状態で映っているのはイズミさんだけ。

 俺にとっては衝撃的な映像だったけど・・・あれが俺が消えてしまったことの影響だとしたら、

 もう、消えたりはしないと誓うよ」

「そうですね。あれは思い出せば消えたくなるような1年でした」

「2人にそんなことを思わせてしまう俺は・・・どうしようもないバカだな!

 と、何時までもこんな話をしているほど時間はないんだった。

 ブリッジに行って、エステの使用許可を貰って出かけようか?」

「「そうだな(そうですね)」」

 

「副提督、エステバリスの使用許可を貰いたいんですが?」

テンカワはブリッジに入ってくるなり、そう言ったがここでは既にヤマダとアマノくん、御剣くん達が交渉に来ていた。

「テンカワさんもですか?

 パイロットの皆さんの事情は分からないでもないのですが、テンカワさんも知っての通りもうあそこにはなにもありません。

 それに、パイロットの皆さんがいなくなられてはナデシコの防衛はどうされるんですか?」

確かにプロスさんの言うとおりだ。

常識的に考えれば壊滅してしまったユートピアコロニーに行くのは利益があるとは考えられない。

・・・ならばこそ、無人兵器もそう考えるのではないだろうか。

「プロスさん、ユートピアコロニーにあるチューリップは現在、使用されているんですか?」

「いえ、フクベ提督の艦がぶつかった拍子にどっこかが歪んでしまったのか、現在は使用されていないはずです」

「それなら、いっそのことナデシコで行ってしまってはどうでしょうか?

 そうすれば、ナデシコの防衛力低下も最低限で防ぐことが出来ますし」

「しかし・・・それでは・・・」

「それはいい方法ね。相手が無人兵器なら、自軍の施設があるところは攻撃してこないでしょうし、

 人間ならそう考えるのが普通。避難民がいる可能性も高いわね」

「そうだな、ムネタケくん。

 それに私としても機会があるならユートピアコロニーは見てみたいと思っていたからな」

「それじゃあ、決まりですね?

 ミナトさん、ナデシコ進路ユートピアコロニーへ!」

ボクの久々の指示のもと、ナデシコはユートピアコロニーに進路を取った。

 

「ユートピアコロニー跡に到着したわよ。

 艦長、着陸していいかしら?」

ミナトさんの報告に私は答えることが出来ませんでしたが、

「いえ、一旦着陸してしまうと有事の際に俊敏な行動をとることが出来ません。

 パイロットはエステバリスで移動して貰いますので、ナデシコはこのままの高度を維持してください」

ジュンさん、既に艦長として一人前の判断力を持たれているようです。

「艦長、ディストーションフィールドはどうします?」

未来を知る私としては悲劇は避けるだけ避ける必要があります。

「現在の状況でどのくらいの出力を維持できるんだい?」

「現在、出力40%。この出力なら、奇襲を受けた場合、5分は凌ぐことが出来ます」

「出力を今以上に上げることは?」

「5分以内は無理ですね。

 グラヴィティブラストのエネルギーチャージが完了すれば、出力を45%まで上げることは可能です」

「それでいいよホシノくん。

 エステバリス隊で発進を希望する者は発進してくれて構わないが、

 有事の際の対処として、武器は携行してくれ」

「了解、エステバリス隊発進する」

アキトさんの号令の元、パイロットの皆さんはブリッジを後にしました。

キノコとフクベ提督は窓に張り付くようにコロニーを眺めています。

実際に降りるのは危険が伴うと思われたのでしょう。

 

 

 

「ウーン、確かこの辺りだと思ったんだけどなぁ」

俺は過去2回で穴のあいた辺りを捜していた。

「ここじゃないですか?」

千沙ちゃんに呼ばれて振り返ったときにはそこには既に穴があいていた。

「よし、みんなで降りてみるか?」

「そうだな。上はナデシコに任せて降りてみるか」

「だな?こちらエステバリス隊、地下にシェルターらしきモノを発見した。

 オレ達は降りてみるから、上の警戒は頼むぞ!」

『了解しました。敵機が潜んでいる可能性も考えられますから充分に注意してください』

ルリちゃんからの注意は可能性を考えてのモノだが、そんな可能性はまず0に等しいことも知っている。

「3〜4m、楽勝だな?」

誰が合図することもなく、俺達はシェルターの床に降り立った。

 

「敵ではないようですね。何もないところですがコーヒーくらいはありますよ?」

イネスさんが出てくるはずのこの場面に出てきたのはフィリスさんだった。

「あなた方は・・・まさか、ユートピアコロニー試験エステバリス隊の?」

「そうです。俺はテンカワ=アキト。

 あなたは、ネルガル火星支社のフィリス=クロフォードさんですね?」

「よくご存知ですね?

 さぁどうぞ。この地区のリーダー、イネス=フレサンジュが奥の部屋で待っています」

「わかりました」

白兵戦用の防弾仕様マント(パーソナルカラー)を纏って歩く俺達は知らない人間から見れば怪しい集団だろうがここ火星では知らないモノがいないくらい有名である。

避難民の誰もが羨望のまなざしで見ているし、避難民達も同じ様な格好の者が少なくない。

 

「私がこの地区のリーダー、イネス=フレサンジュです。

 突然で悪いんだけど、私と他数名をナデシコに連れていってくれないかしら?」

「!?何故、俺達がナデシコで来たことが分かった?」

「私がネルガルで戦艦ナデシコの基本設計をしていたからよ」

「それだけじゃ、ないな?」

「そう、ナデシコには私の大切な人がいるのよ。

 私のお兄ちゃんがね!」

ギクッ

俺が一瞬引いたのを見過ごすほどイネスさんは甘くなかったらしい。

「あら?心当たりがあるようね。

 まぁ、気にはなっていたのよ。貴男の乗っている機体、黒百合にそっくりだものね」

「黒百合のことを知っているとなると・・・そうですね。

 で?他数名とは?」

「先ほどあなた方を案内したフィリス=クロフォードと私と同じくネルガル技術部のタニ=コウスケさん、それと私の義母の3人よ」

「分かりました。エステバリスで運ぶには人数が多すぎる様なので・・・千沙ちゃん、一度ナデシコに戻ってヒナギクを持ってきてくれないか?」

「分かりました」

そう言って、千沙ちゃんは巧みに壁を上りナデシコに向かった。

「さて、アキトくん。

 ナデシコに向かった千紗さんとそこの女性は前回のナデシコにはいなかった人よね?

 どういうことか教えてくれないかしら?」

「その話はナデシコに帰ってからにしましょう。

 その件を含めて、ナデシコクルーには話さなければならない状況になってしまいましたので」

「そう。貴男が火星時代にいろいろやっていたことは知ってるわ。

 ただそのせいで、歴史は既に私の知らないところまで変化してしまったようね」

千沙ちゃんが持ってきてくれたヒナギクに乗り込んだのはイネスさん達3人だけだった。

「他の方はいいんですか?」

「いいわけじゃないけど、ここの人たちは地球に関して不満が多いのよ。

 『何故火星を見捨てたのか』ってね」

「そうですか。・・・では仕方がないですね。帰るとしましょうかナデシコへ」

「そうね、なんて言って艦長に挨拶すればいいのかしらね?」

「普通でいいんじゃないですか?」

「今回は前回のようにインパクトがある訳じゃないんだから」

「構いませんよ、艦長はユリカじゃありませんから」

「ユリカさんじゃないの?」

「ええ、今回はユリカが置いてけぼりになって、今はジュンが艦長をやってます」

イネスさんの顔が驚きに満たされた。

「アオイくんに艦長が務まるのかしら?」

「確かにジュン1人では無理かもしれませんがブリッジのクルーがサポートしてますから」

「特にホシノ=ルリがな」

「・・・ホシノ=ルリ・・・少佐かしら?」

「ええ、そうですよ」

「そう、彼女も跳んでいたのね?」

丁度ルリちゃんが話題に上っていたときだった。

 

『エステバリス隊の皆さん、敵無人兵器多数、接近中。

 ヒナギクは直ちに帰艦してください。

 エステバリスは全機出撃してください』

「了解、ルリちゃん。

 各員!最大戦速でナデシコ防衛線を展開。

 ナデシコの発進準備完了までの時間を稼ぐぞ!」

「「「了解!」」」

そんなときに限って悪い報告は重なるものである。

『ナデシコ後方から先刻のナデシコそっくり艦と機動兵器多数、接近してきます!』

 

『話は終わったのか?アキト!!』

「悪いがまだだよ!北斗!

 前方の無人機を倒した後で話す予定だったんだが・・・まぁいい。

 エステバリス隊!フォーメーションは『2−6』。

 千沙ちゃんは優華部隊と合流して戦艦の防衛を担当!

 そのまま戦線を突破してネルガル施設へ向かうぞ!」

「…「了解!」…」

俺と北斗が無人戦艦を落とし、6機のエステバリスが無人兵器群を叩き落とす。

千沙ちゃん率いる神皇シリーズと高杉大尉のスーパーエステバリスはナデシコの防衛という布陣である。

『アキトォ!あの機動兵器連中、信じていいのか?』

「大丈夫だ、ガイ!

 ・・・この戦闘の後で、重要な話がある。

 パイロット各員は戦闘終了後、ブリッジに集まってくれ」

北斗の機体に合わせて闘ったため、普段より若干の時間は掛かったが、こちらの数が多かったこともあり、

全員がナデシコに着艦するまでそれほど時間は要しなかった。

 

 

 

 

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<あとがき>

前話の代理人さんの感想に「よほどユリカが嫌いなようで」とありましたが、そうです。

私はユリカが嫌いです。

話を書いていく上で、放っておいても動いてくれるキャラクターは助かりますが、

動きすぎるキャラは障害にしかなりません。

今回の話は前2つと違うところを目指して動くので、ユリカは邪魔でした。

 

 

 

代理人の感想

う〜む、そこをコントロールするのも物かきの腕ではありますが・・ま、いいか。