2198年7月

ナデシコが地球へ強制送還させられサセボに拘留されてから、約4ヶ月がたとうとしていた。

その間ナデシコのクルーは、佐世保で拘留される事となった。とはいっても、倉庫の中に長屋のような

簡易プレハブ小屋(通称ナデシコ長屋)で軍からの監視があるとはいえ比較的自由な生活をしていた。

暇に任してと言うべきか…ナデシコクルーだからというべきか…相当好き勝手をして連日大騒ぎだった。

軍から苦情がこないのはミスマル提督とネルガルの尽力と

長屋のある場所がサセボ基地資材管理倉庫Dという基地本部より遠く離れていた辺境であった為だった。

当然、軍とネルガルの監視はあるのだが特別厳しい事もなく、定期的に呼び出されては日記を提出するのが

義務付けられただけで、いいかえるなら『保護観察処分』といった扱いであった。

まあ、こんな好き勝手できるところだからか、ナデシコ長屋の朝は遅い。例外的に何個所かは規則正しい生活をしているが。

 

 

機動戦艦ナデシコ異伝
双頭の獣

 

第3話 ありふれた『1日』

 

 

ここは例外の規則正しい生活をしている部屋の一つ。テンカワ・アキトとカイトの部屋である。

戦艦ナデシコ内での部屋組が一緒だったためカイトはアキトの世話になっている。

 

午前七時。

アキトがたてる仕込みの音でカイトは目を覚ます。

その場でひとつ伸びをして、本格的に目を覚ますべくタオルを引っかけ洗面所へ向かう。

「おはようございます、アキトさん………」

まだ眠り足りないのか、瞼が今にもくっつきそうな口調で声を絞り出す。

「おはよう、カイト。もうすぐ飯の準備ができるから、顔洗って来い」

「…何か手伝う事、あります?」

「そうだな、じゃあ味噌汁をつくってくれないか」

「了解」

この宿舎に入って一週間目から続いている朝の挨拶を交わすと、カイトは洗面所に入った。

冷たい水を被って目を覚まし、部屋に戻って支給されたナデシコのパイロット用制服を着−最初に着ていた

木連優人部隊の制服(らしきもの)を着るのはさすがにまずいのでしまい込んでいる−味噌汁をつくりだす。

コック志望のアキトは、宿舎の中でも師匠とあがめるホウメイの下で修行に励んでいるが、その一環で食事のほとんどを自炊している。

同室のカイトはそのおこぼれに預かって、食堂に通う必要もなく3度の食事をアキトに頼っているのだ。

しかし、ただで食わしてもらうのは悪いと思っているのか、毎回何かしらの手伝いをしている。

「おはっよ〜!アキトにカイト君」

「……おはようございます。テンカワさん、カイトさん」

玄関を開けて入ってきたのはユリカとルリだった。

「おはよう。ルリちゃん。しかし、いつもながらいいタイミングで来るな〜、ユリカ」

「おはようございます。ユリカさん、ルリちゃん」

アキトに味噌汁の味を確認してもらい、カイトは食器をちゃぶ台に運びながら挨拶をした。

ここでは毎朝、ユリカとルリが朝食を食べに来る。

なぜこうなったかと言えば、カイトが朝食の後、腹ごなしの散歩がてらにぶらぶらしていたとき、

たまたま軍へ出勤するユリカと出会い、そのときに朝食のことを話してからである。

その次の朝から『カイト君ばっかりずるい!私もー!』とばかりに三食食べに来ているのである。

そしてついでとばかりにルリを引っ張って来て、

『まるで一家団欒、ってかんじだよね!ねーアキト!』

とのたまったのである。

これもユリカが、未だに周囲から距離を置く傾向があるルリに気を使っている証拠なのだろう。

ルリもそれを感じ取っているのか、最初は無理矢理引っ張られてきたはずなのに、今では自分から食事をしにやって来る。

『いただきます』

4人の声が綺麗にはもる。

今日の朝の献立は,ご飯と味噌汁,焼き魚とお新香。

「?…今回の味噌汁を作ったのってカイトさんですか?」

「あれ?よくわかったね」

「アキトさんの物より少し濃いですから」

「……そうなんですか?」

アキトの方を向きながら尋ねる。

「ああ、まあ個人の味だし、直す程の物じゃないからな」

「おいしい、おいしい、アキトのごはん〜〜♪お味噌汁お代わり♪」

そんなやりとりを気にせず(聞いていないのか)、ユリカがお代わりをねだる。

「まあ、いいけど。食い過ぎると太るぞ、お前」

「だいじょーぶ。朝しっかり食べて、しっかり働けばいいんだもん」

微笑みをうかべながら幸せそうに答えるユリカ。

その顔を見ながらまんざらではなさそうにアキトはお代わりの味噌汁をついた。

『………。』

カイト、ルリはさすがに無視する事に決めたのか、相手にせずに食事に集中する。

 

「ねぇアキト、今日もいつも通り?」

「ああ、そうだな。午前中はホウメイさんの所ところで料理の修行、夕方からは親方のところ」

アキトはホウメイのところに通うだけでなく、かつて世話になっていた雪谷食堂にも通っているのである。

「私もそう。毎日毎日会議ば〜っかり!しかもやってることはほとんど同じことばっか。

…もういい加減、解放してくれても良いのにね〜!」

ユリカはナデシコの代表として、ジュンとともに軍との交渉役にあたっている。

拘留が解けたあかつきには、軍に戻ることになるのだろう。

「艦長、仕方ありませんよ。まだ地球と木蓮のにらみ合いは続いてるんです。

目の前の問題が忙しくて、私たちのことは後回しなんでしょう」

『解放』

その言葉にカイトは微かな不安を覚える。自由になっても自分には行く場所がない。

「ルリちゃんとカイト君は?今日もお勉強会するの?」

「ええ、そのつもりですけど」

「他にすることもありませんから……」

拘留されて以後、カイトは記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない、と

忘れてしまっていた地球の情勢、出来事などを頭に詰め込んでいた。

それならば、せっかく付いているのだからと、ルリからオモイカネとの会話法(接続法)とオペレータとしての知識や作業手順などを伝授されている。

ルリの手引きでオモイカネと接続。そしてデータを引き出し、気になった項目の情報を読みあさる。

オモイカネの内部にあるデータはルリが今まで手に入れてきた情報は(ハッキングまがいのこともしているため)

質・量ともにかなりのものがあり、暇に任せたお勉強とはいえ、カイトはかなりの事情を把握していた。

ルリも大抵その傍らで何らかの情報を検索している。オモイカネとのIFSを通した会話を聞き取れるまで

慣れていないので、何を話しているのかはさっぱり解らないのだが。

「それじゃあ私はそろそろ行くね。アキトー、今日はお昼には戻ってくるからねー!」

「ああ、行ってらっしゃい」

「……行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい」

ユリカを送り出すと次はアキトが出ていく。

『せめてこれくらいは』と申し出たカイトとルリが洗い物をしているのを眺めつつ、専用包丁一式と中華鍋を持参で

ホウメイの所に向かう。

「それじゃ、後よろしく。俺も昼には一度帰ってくるから」

「ええ、わかりました」

「行ってらっしゃい」

すでに手慣れた様子で手際よく洗い物を片づけるカイトとルリ。

160cmを少し越えた引き締まった体にくしを入れ、撫で付けただけの黒髪と浅黒い肌、鳶色の目のカイト。

その隣には150cm少々という年齢相応の小柄な体つきに淡い藤色がかった銀の髪と透けているかのような白い肌、黄水晶の目のルリ。

二人が並んで洗い物をする姿には、まるで似通ったところはまるでないが、仲の良い兄妹のようだった。

「はい終り、っと」

カイトがシンクから最後の茶碗を引き上げ、ルリに手渡す。ルリは手早く水気を切り、ふきんで拭いて片づける。

「ご苦労様、ルリちゃん」

「はい」

茶の間に戻った二人は、どこからともなくウリバタケが調達してきたちゃぶ台の上で各々の端末を立ち上げる。

カイト、ルリ共にウリバタケ謹製のIFS対応端末である。

端末を通信回線に接続し、準備を整える二人。

「それじゃ、いつも通りにお願いするね」

「はい、オモイカネ、よろしく……」

IFSインターフェイスを輝かせ、ネルガルのドックに係留中のナデシコの中枢、オモイカネと会話をするルリ。

そのルリに導かれ、オモイカネ内部に入っていく。

「……きました。今日は2197年12月分の地球の情勢に関するニュース、新聞、雑誌記事、

その他諸々の情報の項目リストです。そちらに送ります」

「わかった…ありがと、ルリちゃん」

「どういたしまして」

いつも通りの受け答え。すぐに二人とも自分の端末とにらめっこを開始する。

余談だが、ルリから送られてきたデータには簡単なプロテクトがかけられている。

ルリ曰く「これくらいは簡単に解けるようになって下さい」との事だ。

(しかしこれ、時々軍の機密らしいものまではいってるんだけど、大丈夫なのかなぁ……)

もはや慣れてしまったカイトだったが、さすがに不安は無くならない。しかし聞いても答えてくれなかったので、

余計不安になり、もう気にしない事にしている。

「う〜ん。終わった〜」

それから2時間後。ルリから送られてきた情報を読破し、伸びをしている。

「それじゃ、新しいの、行きます?」

「いや、それより休憩にしない?」

「……良いですよ。それじゃ、お茶でも入れましょうか?」

「あ、頼める?」

「はい、少し待っててください」

そう言い、台所に消えていく。

「ふう、いい天気だな〜。ちょっと散歩に行こうかな。

…そうだ、ルリちゃ〜ん、散歩に行こうと思うんだけど、一緒に行く?」

それが聞こえたのか、台所から顔を出し、

「珍しいですね、誘うなんて」

少し驚いた顔をしている。カイトは少し考えた様な態度で

「う〜ん、もしかして一度も誘ったことなかったかな?」

「はい、一度も」

ルリが即答しカイトは頬をかいた。

「大抵そういう時のカイトさんって、余裕がなさそうですし」

「はははっ、そうかも。ところでどうする?」

「そうですね、特にすることあるませんし、お供します」

「それじゃ、お茶飲んだら行こうか」

「はい」

 

そのままゆっくりと30分ほど歩き、一本の樹が生えている小高い丘についた。

「ここがいつも来ている場所ですか?」

「そうだよ。ここはすごく景色がいいから。今日はちょっと風が強いから注意して」

樹の下まで歩いていく。強い風が吹いてくる。

ルリは風で麦藁帽子を飛ばされないように押さえる。

「カイトさんはここで何をしているのですか?」

「んっ?う〜ん、この樹に登ってずっとこの景色を見てるんだよ」

木に登って見る景色は遠くがよく見渡せる。

「まあ、後は色々とこれまでの事を見つめ直したりとか、かな」

カイトが上に登ってみる?と尋ねたがルリは丁重に断った。

「確かにきれいな風景ですね。でも,何日でもみられるものなんですか?」

カイトは樹を背にして座り

「全体を漠然とただ見てるだけなら飽きてくるかもね。だけど、雲の流れやあそこに港が見えるでしょ、

そこから出る船や来る船を見ると面白いんだよ。雲の形なんかも面白いしね。5分と同じ形を維持していないし」

ルリも座って、カイトの見つめるほうを見る。

風にのって雲が流れる。たしかに5分以内に形は変わっていく。

2人はそのまま、景色を眺め続けていた。

 

「ただいま」

「…かえりました」

「おかえり。もう少しでお昼できるから」

「おかえり。珍しいね、2人でどこか行ってたの?」

ルリとカイトが帰ったときにはすでにアキトとユリカは帰っていた。ちなみに今は正午過ぎ。

「はい、カイトさんの散歩先に行ってきました。歩いても行けたし、なかなか良いところでしたよ」

「おい、いったいどこに行ってきたんだよ?」

「いつも行ってる丘ですよ。…気に入って貰えてよかったよ」

「いいな〜ルリちゃん。遊びに連れっててもらって。私もどこかに遊びにいきた〜い!

ねえねえ、アキト。今度どこかに連れっててよ」

「いい所なんだろうな。行ってみたいけど多分無理だろ、ユリカ?」

アキトは器用にお昼のチャーハンを皿によそいながらも答える。

「でも〜、行きたいったら行きたーい!!」

チャーハンの入った皿をアキトとカイトがちゃぶ台まで運ぶ。

「あまり、アキトさんを困らせるもんじゃないですよ」

カイトが苦笑しながら、チャーハンを渡しつつ答える。

「そうですね」

「うぅ…ルリちゃんまでぇ」

ユリカはスプーンを咥えて未練がましそうにする。その姿はまるで幼稚園児である。

その態度を見かねてかアキトがフォローを入れる。

「ま,いつかはこの状態も解けるだろうさ。その時にな。じゃ,さめないうちに食べよ」

『いただきます』

ユリカは何か言いたそうだったが、空腹とチャーハンの香りには勝てなかった。

 

昼食も終わり、のんびりと『気怠い午後』に浸る頃。この時間にはたいてい客がやってくる。

ユリカは軍へまた戻る。アキトとカイトはその人柄か、付き合いがよいだけなのか、

たいていこの時間になると来る来訪者に付き合うことになっている。

ルリも部屋には戻らずにこの部屋に残っているのでそれに巻き込まれた形で付き合っている。

「アキト君、カイト君、いるよねっ」

…今日の一番乗りはどうやらヒカルのようだ。ジャージの上下に鉢巻、手には墨がこびりつき、

足にはスクリーントーンの切れ端らしき物がついている。これで今が冬で、ドテラでも着込んでいれば、

締めきり直前の正しいマンガ家のスタイルだ。

「お願い!ベタだけでいいから手伝って!『うるるん』マンガ賞の締め切りが明日なの!!」

そう言いながら二人を拝み倒す。

「あれ?リョーコさんとイズミさんが手伝ってるって聞いたけど?」

「ダメダメ。リョーコはベタをさせればはみ出すわ、消しゴムかければ紙を破くわ。

イズミはイズミでまるでやってくれないわで。このままじゃどう頑張っても今日中に終わらないの!

お願い!今晩が山場なの!今晩だけ手伝って!!」

「で、でも俺、経験ないっすよ」

お前は?という視線をカイトに向ける。

「記憶がなくなる前ならやっていたかもしれませんが、今は経験ないです」

そう言いつつ、首を振る。ふと気がついたのか、ルリの方を向き、

「そうだ、ルリちゃん。ルリちゃんはやったことない?」

それまでの騒動を気にせずに本を読んでいたが、カイトの声に振り向き、

「ナデシコに乗ってた頃に手伝った事はありますよ」

「うわっ!ルリルリ、いたの?」

「……まあ、玄関からは死角になってますし」

ちなみにヒカルはいまだに玄関にいる。

「そうだ!ルリルリも手伝って〜。本気で時間がないの〜」

「……なりふり構ってませんね……。…いいですよ」

「ホント〜!?じゃあ、アキト君たちは?」

据わった上に潤んだ、なんとも形容しがたい目で凝視しているヒカルの頼みをこのお人よし二人組が断れるわけがなかった。

まあ、一晩ぐらいなら……と引き受けようとした瞬間、

「お〜い、アキト、頼まれてた屋台の設計図、できたぞ〜」

と、空きっぱなしのドアをくぐってウリバタケが入ってきた。

そしてそのままズカズカと部屋に入りこみ、いきなり手に持っていた筒状の紙を広げてみせた。

「こんな感じでどうだ?総計およそ100万馬力、最高速度は瞬間270キロで、短時間なら飛行もできる。

装備はミサイルポッド、対ショック対閃光防御、パッシブソナー、緊急脱出装置、自爆ボタン、無論、変形合体機能も付いてるぞ」

「あの……俺が頼んだのはラーメンの屋台なんスけど」

「バカ言うな。ただのラーメン屋台じゃ面白くないだろ。タダで作ってやるって言ってるんだから贅沢言うな」

「だからと言って……これじゃ……」

設計図にビッシリと書き込まれた細かいメカ群を見て、アキトは口篭もった。

アキトはそれほどメカに詳しいわけではないが、素人目にも積みこみすぎに見え……

「わぁ、かっこいい!これ、ウリバタケさんの新しい発明ですか?」

「おう!セイヤ様特製のラーメン屋台だぜ!」

「ねえねえ、このとんがった部分は?」

「ドリル……って書いてあるけど」

「屋台にドリルだって……変なの、キャハハハハ♪」

「なんだとぅ?男にとってはなぁ、ドリルは浪漫なんだぞ!」

いつのまにか、ウリバタケの設計図の周りを、ホウメイガールズが取り囲んでいた。

ミカコ以外の四人はウリバタケの頭の上から、美香子だけはウリバタケの脇の下から器用に顔を出している。

そんな状態にもかかわらず、器用に返事を返すウリバタケはさすがだ。

「な、なんだよ、みんな?」

「あ、アキト君これよろしくね」

と、回覧板を手渡してきたのは、最年長のサユリだ。

「害虫駆除のお知らせ。ハンコ押したら隣の人に回して」

「あ、今度の15日ですか」

横から覗き込んでいたカイトがアキトから回覧板を手渡してもらいながら答える。

「そっ、お昼からだから、料理道具とかはきっちりしまっておいてね」

「はい、解りました。それじゃ、メモをして……」

そう言いつつ、カレンダーに書き込みをする。

「…はい、ルリちゃん」

「どうも…」

この会話で判ると思うが、お隣さんは、ルリの部屋だ。(余談だが、逆隣はユリカの部屋だ)

「お願い、二人とも。今回の締めきりを逃しちゃうと、次は半年後なの。」

「それでだな、アキト。ここに必殺兵器をつけようかと思ってるんだが、お前、なにがいい?」

「なになに?ヒカルさん。今度はどんなの書くの?」

「恋愛?ギャグ?それとも格闘物?」

「僕としては熱線放射系か、火炎放射器、それか火の玉を飛ばすようなのが面白いと思いますよ」

「ふふ〜ん、それはねえ……って、してる場合じゃない!お願い!みんなも手伝って!!」

アキト、カイト、ルリ。そして今はいないがユリカの四人も入れれば、それだけで手狭になる部屋に、

ヒカルにウリバタケにホウメイガールズの五人。合計十人も詰め込んだものだから、

もう部屋の中はしっちゃかめっちゃか。会話をしようにも誰が誰に話しているのやら……。

「だからさぁ、どーしてみんな、この狭い部屋に集まって来るんだよぉ」

アキトがうんざりと言うのももっともである。こんな状況が毎日続いていれば、叫びたくもなろうというものだ。

そもそも、なんでこんな状況になっているのかというと……

「説明しましょう」

そう答えたのは、もちろん白衣の女性――元ナデシコ医療班ならびに科学班担当の説明お○さん――イネス・フレサンジュである。

「その前にイネスさん、何処から入ってきたんですか?」

皆にお茶の入った湯のみを配りながら、不思議そうに問いかけるカイト。

それもそのはず、唯一の出入り口であるドアはホウメイガールズによって完全に防がれている。

反対側には人が入れるぐらいの窓があるにはあるが、今は閉まっており、ご丁寧に鍵までかかっている。

「ふ、イネスフレサンジュの科学する心に不可能は無いのよ。」

自身たっぷりに言いきる。

「……はあ、そうですか」

納得はしていないのだろうが、また説明を食らうのを恐れているのか、それ以上は誰も突っ込まない。

イネスもそちらの説明より、始めの問いの説明を優先したのか、それ以上は何も言わずに説明に突入する。

「アキト君の部屋は、このナデシコ長屋の中央部に位置しているわ。

さらにアキト君の部屋にはカイト君も住んでいる。そしてユリカ嬢がいる確率も高い。

たいていが一人部屋で構成されているこのナデシコ長屋のシステムから言っても、

常に二人以上いそうなアキト君の部屋に人が集まるのは、時間的、距離的、確率的に言っても、ごく常識的な……」

だが、アキトは、イネスの説明を最後まで聞けるような精神状態ではなかった。

「みんな、出てけーっ!」

 

……これが、ナデシコ長屋の午後の日常だったりする。

ナデシコの皆はお祭り騒ぎが大好きで、そういう嗅覚が備わっているのかと思う程正確に嗅ぎ当ててくる。

そして、そのほとんどの舞台となるのはイネスの説明通り、アキト、カイトの相部屋となる。

次に多いのが、遊戯室。もともとは会議室だった場所を「こんなトコいるか!」とばかりにウリバタケら整備班が大改造を施した。

ここには普通のビデオゲーム機が十数台。そしてメダルゲームが二十数台。無論、ゲームセンターにつき物の

大画面付きの競馬ゲームもある。最後は、3つのビリヤード台。全て、ウリバタケが何処からともなく持ってきた物だ。

 

そしてここの何よりの目玉は、アサルトピットをそのまま使ったバーチャルシミュレーションゲームだ。

観客は競馬ゲームの画面を使ったモニターで全体図を見れる。

尚、IFSがなくても扱えるようにある程度まではコンピュータが自動で行ってくれる。

カイトがエステ・シミュレーションで連勝を飾っているため、アキトとカイトが部屋にいない場合、九分九厘、ここに拉致されている。

……話を戻そう。

 

「ええ〜い面倒だ!三つとも付けてやら〜」

「うわ〜、ウリバタケさん、太っ腹〜」

「あっ、いた、ルリ。今日こそ勝負よ!」

「すみません。今日は先約が入ってるので無理です。」

「となると後は必殺技だな。光線じゃ味気ないから格闘系の奴がいいだろう」

「じゃあ、あれ、あれ、え〜と、『ライチ流星キック』みたいなやつ!」

「マッキンレーの群衆行動理論によれば、核となる母集団の存在が……」

「誰よ!先約って!?」

「ふっふっふ…。ユキナちゃ〜ん、いいところに来たわね〜」

「へっ!?ひ、ヒカルさん?たじたじ…」

「……誰も聞いてくれてない……」

さすがに一人も聞いていないという事態は予想していなかったのか、落ち込み出す。

「まあ、まあ。今に始まった事じゃないじゃないですか」

慰める気があるのかないのかわからないようなフォローをカイトがいれる。

そんな事をしているうちに部屋の中はいよいよ混沌と化していく。

6畳しかない部屋に大の大人が9人に子供が3人も寿司詰めになって騒ぐ姿は、

ナデシコに乗っていた頃と少しも変わっていないように見える。

1年あまりのナデシコの航海は彼等を一つ大人にしたはずだが……。

「ま、人って、そんなにすぐには変われませんよね」

寿司詰め状態の大人達を見ながら、ルリが小さく呟いた。もちろん、その大人達は誰一人聞いていなかったが……。

「ぜいぜい、何一人でつぶやいてるのよ……」

ぼろぼろの状態で寿司詰めの中からユキナが生還する。

「あれ?ヒカルさんから開放されたんですか?」

「その代わりに約束させられたわよ!……ふっふっふっ、カイトも絶対に巻き込んでやる〜」

背中に暗い炎を背負いながらカイトをにらみつける。

ビクッ!

その瞬間、雷にでも撃たれたかのように、一瞬痙攣し、あたりを見回すカイト。しかし、ユキナがにらみつけているとは気付かなかったようだ。

「そうですか」

「ところであんた、いつもの『アレ』やらないの?」

「アレ?」

小首を傾げながら聞く。どうやら本当に解らないようだ。

「ほら、いつもの『バカばっか』」

「……もうバカばっかは卒業です」

やっと解ったと言う様に、苦笑と共に答える。

「……なんでよ?」

心底不思議そうに問いかける。

「わたしも『バカ』ですから」

そういって微笑んだ笑みは限りなく澄んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

対談あとがき

カイト(以下K)「何で書き直しなんてやったんです?その手のことは一番嫌いじゃないですか。」

はっはっは、そりゃ前のが、参考にしていた作品の作者さんにパクッてますって言われたからね(笑)

それによく読み返してみると、そう思えるところがよくあったからね〜。

K「それで、ですか……」

うん。まあ今回のもパクリっていえばパクリか?小説のエピローグに色付けただけだし……

K「いいんですか?それで……」

もういい!開き直る!……それによく考えてみたら、第1部はゲームに色付けしただけとも思えるし。

本気で書きたいのって3部だし。……よく考えてみたらパクリ疑惑がないのって2部だけ?

K「をい、をい」

……まあ、疑惑が出たら、その都度、解決していこう。

K「まあ、それでいいならいいですけど……」

ま、これはこれぐらいにして、突っ込まれる前に自分で突っ込んでおこう(笑)

お前、『説明』にトラウマがあったんじゃないのか?

K「ああ、あれですか。1時間以上か、マンツーマンじゃない限り、大丈夫ですよ」

そうなの?

K「はい」

……ま、いっか。じゃ、ここらで、と。

K「やけに早いですね」

まあ四話がたてこんでるし。それでは、

K「また」