先の戦闘より一時間後。負傷者の治療や残骸からの機体の割り出しなどに追われていたが、ようやく目処がついた。

「少し遅れましたが、時間稼ぎ、お疲れ様でした」

ぺこりと頭を下げながら、ルリが三人をねぎらう。

「それで、あの残骸を調べた結果ですが、間違いなく木連の無人メカでした」

今度はブリッジに響き渡るように言う。
……言い忘れていたが、ナデシコの主要クルーはブリッジに集まってもらい、対策会議を開いている。

会議の内容はこうだ。

今現在、地球軍と木連は休戦条約を結んでいる。それは事実上地球には木連の無人メカは存在しない。

しかし、存在しない筈の無人メカの襲撃を受け、戦闘が行われたことは紛れも無い事実である。

このことを荒立てれば、地球軍と木連との間に結ばれている休戦条約を崩しかねない。

だが、そうは言ってもこのまま今回のことを放っておくわけにもいかない。

そこでネルガルは今回の調査を極秘裏に行う決定を下した。

当然ながら休戦中である為、正規の軍人は使うことができない。
となれば木星トカゲとの戦闘実績を持ち、経験豊富な旧ナデシコクルーの協力は不可欠となる。

……以上の理由で、カイトをはじめ、数名のクルーが艦長命令で旧クルーの説得と召集に向かうこととなった。

 

機動戦艦ナデシコ異伝
双頭の獣

第8話 閑話 カイトの『勧誘白書』

「……それでこのメンバーです」

「カイト、何処に向かって言ってるのよ?」

「いや、まるっきり意味無し」

怪訝そうに聞くユキナに対し、飄々と答えるカイト。

「ところでミナトさん。戦艦に乗っている間の勉強はどうするんですか?」

「げぇ〜、せっかく忘れてたのに思い出させないでよ〜」

ふと思い出し、ミナトに聞くカイトに対し、疲れた声で不満を言う。

「だからといって、帰ってきたとたんに『落第だ〜』なんて言い渡されるよりはマシでしょ?」

「……まあ、それはそうだけど……」

「で、その辺はどうなんですか?」

しぶしぶ納得したユキナを放っておいて、ミナトに再度聞く。

「その点は気にしないで良いわよ。
空いている時間に私が教えて、帰ってきた後に試験を受ければ不問って事になっているから」

「うわっ、試験〜?」

ユキナが心底嫌そうに言う。

「……なんなら留守番している?それなら受けなくてもいいわよ?」

「いい!一緒に行く!」

冗談めかして言うミナトに、必死で否定する。

「……まあ、話がまとまったみたいですし、これから誰の所に行きます?」

一息ついたのを察し、話を先に進める。

補足だが、カイトと一緒に行くメンバーはユキナとミナト。
他の召集に行ったクルーも二、三人でグループを組んでいる。

尚、ルリ以下主要ブリッジクルーは有事に備え、ナデシコで待機をしている。

「そういえば、私達が迎えに行くメンバーって誰なの?」

初めの説明をよく聞いていなかったのか、唐突にユキナが聞いてくる。

「ええと、セイヤさんにヒカルさん。あとはメグミさんって所でしたよね?」

「そうよ。ここからじゃ一番近いのはウリバタケさんだし、そこから行く?」

「そうですね」

 

 

「……ねえカイト。今日って定休日?」

ユキナの言葉通り、昼間だというのに、ウリバタケの工房には、シャッターが下りており、営業しているようには見えない。

「いや、何時もこんなものだよ。あのシャッターって搬入の時しか開いた事って見たことないし」

「それでいいの?」

人事ながら気になったミナトが聞いてくる。

「中でいろいろやっていますから。外から見えないほうが都合がいいみたいなんですよ」

「えと、それって……」

「ま、それは置いといて、そろそろ行きませんか?」

カイトの言葉にきな臭いものを感じ、ユキナが聞こうとするが、それを無理やり打ち切る。

「そ、そうね。行きましょう、ユキナちゃん」

本能的にこれ以上聞くのは危険と判断したミナトが即座にカイトの提案に乗ってくる。

「え?でも……」

「いいからいいから」

まだ何か言いたそうなユキナの背中を押してカイトが先に進む。

「ごめんくださーい」

「はーい」

ミナトがシャッターの脇にあった勝手口から呼びかけると、中から女性の声が聞こえてきた。

「あら?カイト君、今日はパーティーじゃなかったの?」

そう言いながら奥から表われたのは、ウリバタケ・セイヤの妻、オリエだ。

「ええ、ちょっと中断しちゃって……それでセイヤさんに話が出来たんですが、今、中にいますか?」

「え?……もしかしてまたあの人が何かしたんですか?」

「いいえ。そういうのではなく、ちょっとお仕事のお話で伺ったんです」

「あ、そうなんですか……」

ウリバタケがまた何かしでかしたと思い込んでいたオリエは、ミナトの言葉に露骨に安堵の息を漏らす。

「それでしたら、奥に居りますので、どうぞ」

 

「おーう。どうした、カイト。…なんか珍しい組み合わせだけどよ……」

「まあ、いろいろありまして。…ところでセイヤさん。エステをまた弄りたくありませんか?」

部屋に入るなりそう切り出すウリバタケ。対するカイトも単刀直入に切り出す。

「あん?……まあこのところ大型機も弄っていねーしな。…ということはスポンサーはネルガルか?」

「まあそんなところです。ネルガルがナデシコの後継機を造ったんですが、それの初任務に協力してくれませんか?」

「……ほう、面白そうだな。詳しく話してみな」

興味を引かれたのか、あぐらをかいたまま身を乗り出してくる。

そして、大まかな事情を話すカイト達。

「……大体はこんなところです。後はルリちゃんから依頼って形で正式に説明があると思います」

「……なるほどな。そりゃ面白い!よっしゃ、俺も一口乗らせてもらうぜ!」

「それって……」

「みなまで言うな!エステの整備は任せときな!」

……こうしてウリバタケも今回のプロジェクトへの参加が決定した。

 

ウリバタケとその家族への挨拶をして、カイト達は外へと出てきていた。

「あ、そうだ。多分参加しないと思うけど、アキトさんに話しておきますか?」

「……そうね、アキト君の性格だとちょっと無理っぽいけど、とりあえず話だけでもしておこうか」

アキトの部屋はウリバタケの家からさほど遠くないところにある為、急遽、アキトの部屋へ行くことが決定した。

 

「ちゃーす、アキトさん」

「ん?カイトか?…あれ?おまえ、パーティーはどうしたんだ?」

狭い台所で黙々とラーメンのスープの調合をしていたアキトが不思議そうにカイトの顔を見る。

「こんにちはー」

「お久しぶり、アキト君」

「あれ?ミナトさんにユキナちゃん!久しぶり!」

カイトの後ろから顔を覗かせた二人に面食らいながら笑顔を返す。

「まあ、上がって座って下さいよ」

気さくに声をかけ、ガスの火を止めて手を休め、畳の上に腰を下ろした。

「で、今日はどうしたんだ?近くまで寄ったから来たという風でもないし……」

「実はそうだったりします」

「……は?」

冗談のつもりで言ったアキトの言葉に、これまた冗談のように返すカイト。

「正確にはセイヤさんを尋ねたついでってところです」

「……ナデシコ関係か……?」

今のメンバーとウリバタケ。それに今日のパーティー。これらを結ぶものと言えばナデシコしかない。アキトがそこまで思いついたのも無理ないことだった。

「そうです。実は……」

そう言い、手短に概要を説明する。

「……こう言う訳なんですが、力を貸してもらえませんか?」

「……すまないな。俺はもうパイロットには戻るつもりはない」

そう言うアキトの表情が真剣な面持ちになる。

「……あっ、やっぱり」

カイトは拍子抜けする程あっさりと引き下がる。

「おいおい……いいのか?そんなあっさりしていて……」

そんな様子に逆にアキトが不安になる。

「アキトさんの性格は分かっていますよ。多分無理だろうぐらいは思っていましたよ。」

「……そっか」

あっけらかんと言うカイトの言葉に、アキトの胸をなでおろす。

「まあ、僕にしてはこっちが本題なんですが……」

そこで今まで崩していた姿勢を正し、正座でアキトに向き直る。

「そういう訳で、すいませんが暫くは屋台の手伝いは出来ません」

「ああ、分かった。……そうだ、この後も幾つか廻るのか?」

「え?…はい。後二件ほど廻るつもりですよ」

アキトの意図が読めないのか、不思議そうに聞く。

「なら、俺のラーメン……食って行ってよ。時間もいい頃だし」

そう言って時計を見る。11時30分。確かにお昼時だ。

「え!?いいの?」

「いいって。それじゃすぐに出来るから少し待っていてね」

身を乗り出して聞くユキナに笑いながら言うアキト。

そしてアキトが台所に消えて数分後、台所からコポコポと鍋の湯が沸騰する音が聞こえてきた。

そうして暫くすると丼に盛られたおいしそうなラーメンが運ばれてきた。

「おまたせ」

「あれ?…これって今研究していた奴じゃないんですか?」

カイトが丼に盛られているラーメンを見ながらアキトに聞く。

そう、このラーメンの完成のためにアキトは今日のパーティーを欠席したのだ。

そのラーメンはスープの上にたっぷりの油の浮いたこってり派のラーメンだった。

「そう。これが完成版試作一号だよ……それじゃ、食べてみて」

『いただきます』

声すらそろえて三人は食べ始める。

「美味しい!」

「……ホント。見た目ほどこってりしていないし、食べやすいわ」

そのスープはコク深い癖に後味はあっさりし、何杯でもいけるように思えた。

しかもそのスープは手打ちの縮れ麺に上手く絡み、麺自体の味も底上げされている。

更にその麺に乗っている具であるチャーシューがまた絶品で、まるで口の中でとろけるようだ。

……そのまま言葉もなく、三人は夢中でアキトのラーメンを食べた。

「ふう、ごちそうさま。ところで何か材料を変えたんですか?昨日より美味くなっていますけど」

「いや、ただ単に一日熟成させただけだよ」

不思議そうに聞くカイトに簡単に答える。

「ホントに美味しかった!……また食べに来てもいい?」

「コラッ!ユキナ」

「ははは……帰ってきた後でまた寄ってください。次はもっと美味いラーメンにしておきますから」

……その時のアキトの笑顔と言葉が特に印象的だった。

 

 

「艦長がアキト君を選んだ理由っていうのが少し分かったかな?」

アキトの部屋を出て数分後、先程の事を思い出していたのか、唐突にミナトが言う。

「やっぱりミナトさんもああいう男性はタイプなんですか?」

「……そういう訳でもないんだけどね。まあ一般的に言うなら、理想のタイプのひとつの形ね」

何でもない事のように言うミナト。

「……なるほど。

それでは次は何処に行きますか?」

「ここからじゃどっちでも同じぐらいの距離よね……」

「それじゃ、メグミさん!」

二人して考えている横から割り込むユキナ。

「なんでまた?」

「だってメグミさんって今芸能人なんでしょ?別の芸能人に会えるかもしれないじゃない!」

「……ま、そう言う考え方もあるか。それじゃ次はメグミさんって事でいいですか?」

「ハイハイ。それじゃ、ちょっと待ってね。スケジュールを調べるから」

そう言ってミナトはモバイル端末でメグミの所属する事務所のホームページを開き、スケジュールを確認している。

「えーと、メグちゃんはお昼からカントウテレビの『素人演芸道場』にゲスト出演ね」

「……なんだか、マイナーな匂いプンプンの番組ねぇ……」

お目当てのアイドルに会えそうもないと思ったのか、疲れた声で呟くユキナ。

「確かメグミさんってタレントに戻っているんですよね?ええっと、確か芸名は『メグミハラ・レイナ』、でしたっけ?」

うろ覚えの記憶を引き出すカイト。

「それって、かなり古い情報よ。今は芸名をやめて本名に戻しているわ。
……しかも、ブリブリのアイドルをやっているらしいわよ。設定年齢なんて私と変わらないらしいしぃ」

「まあまあ、立ち話してないで、とにかく行ってみましょうよ」

その後もタクシーの中でユキナの毒舌を聞かされながらも、カントウテレビへと向かった。

 

 

「うっわー、テレビ局って広ーい!ねえねえ、今すれ違った人テレビで見たことあるよ!」

「とりあえず何処へ行けば良いんですか?」

「そうねぇ……こういう時はとりあえず受け付けね」

受付で確認したところ、その番組は、五階の第三スタジオで収録しているとのことだった。

「どうやら五階の第三スタジオらしいですよ」

「じゃあ、行きましょうか」

「キャー!あの人も見たことあるー!」

「ハイハイ、騒ぐのは後回し。ほら、行くわよ、ユキナちゃん」

「あ、は〜い!」

ミナトに呼ばれると、さっきまで騒いでいたのが嘘の様にさっさと切り上げて走り寄ってくるユキナ。

 

第三スタジオ。今は公開収録番組らしく一般のお客さんも入場しているが、全体的に寒い雰囲気が漂っていた。

ステージ上では、派手な衣装を着たコメディアンが受けないギャグを連発していて、ゲストのメグミを困らせていた。

「う〜ん……どうやら本番中みたいね。せっかくだから見学していきましょうか?」

「え〜、こんなマイナー番組見学しても面白くな〜い」

「まあまあ、そう言わないで。ほら、メグちゃんも出演してることだし」

ごね出すユキナをなんとかなだめるミナト。

「それでは、次の方どうぞー!」

そんなことをしている間にもプログラムは進み、司会が次の出演者を呼ぶ。

その司会の合図と共に現れたのは、ウクレレを持った中国民族衣装…早い話がチャイナ服を身に纏ったいかにも怪しい女性だった。

「……あれってイズミさんよね……」

乾いた声でユキナが尋ねるが、それに答えるより早くイズミの芸が始まる。

「一歩二歩三歩〜散歩の時は連れてって〜だめだよポチは犬だから〜歩けば棒に当てられる〜某の当たり屋、そりゃバット〜、ブラに入れるはそりゃパット〜パッと設けてパッと使え〜」

「……間違いない。あのギャグはイズミさんだ……」

声をふりしぼって答えるが、その声も脱力している。そうこうしている内もイズミのギャグが続くが、多分誰も聞いていない。

カーン……

漸くといった感じで鐘が鳴る。……無論、失格だ。

「いやー、ユニークな歌だったのに、残念でしたね。どう?メグミちゃん」

「え?ええ本当にユニークな……」

「鐘が一つでもうケッコー、ケッコー毛だらけ猫灰だらけ、猫の……」

「ハイハーイ、もう結構ですよー!はい、次の方どうぞー」

まったく人の話を聞かずにギャグを続けようとするイズミを司会者が無理やり舞台袖まで押し出していく。

「……司会者も大変ですね……」

「そんなことより、あのイズミさんをあしらえる方が驚きよ!」

「ハイハイ。感想は後回しにして、楽屋に行きましょう」

「……そうですね」

番組の収録が終わるまではメグミと会うことは出来ない。

まずは思わぬところで見つけたイズミとコンタクトを取るために、カイト達は出演者の楽屋へと向かうことにした。

 

「相変わらずね、イズミさんも」

「相変わらずって、アイカワキンヤ……待ってない、アイカワキンヤのオマットさん……アハ、アハハハハ……」

「ダメだこりゃ……」

「アハハハ……次行ってみよー……」

「じゃあ、イズミさんはOKということね」

「……あれ、OKっていう意味なんですか?」

「そうよ」

話に入れず、横で聞いていただけだが、それが答えとは到底思えず呆然と問うカイトに、なんでもない事の様に言うミナト。

(ミナトさんが一緒で良かった……僕やユキナちゃんみたいに付き合いが浅かったら、アレがOKの返事とはまず理解できなかっただろうな……)

「えーと、メグちゃん、そろそろ本番が終わった頃なんじゃないの?」

しみじみとそんなことを考えていたカイトに、ミナトがそう話し掛ける。

「そうですね……今日は二本取りらしいですから、丁度一本目が終わったタイミングですね」

「じゃあ、メグちゃんのところに行きましょう」

「分かりました」

そして、カイト達はイズミに会釈をし、メグミの楽屋へと向かった。

 

「……で、要はこの私に、またナデシコに乗れって事なの?」

「まあ……早い話がそう言う事です」

「ウーン……どうしようかなぁ……お仕事お休みすると、事務所にも迷惑かけちゃうし……」

そう言って考え込むが、傍目には焦らしている様にしか見えない。

「正直に言って、メグミさんの通信士としての能力はとても頼りになりますし」

そうカイトが駄目押しをするが、メグには考えたまま、微動だにしない。

(う〜ん、最近、戦場帰りのアイドルってインパクトも薄くなって、お仕事も減ってきた事だし……それに今やJ−MESH一色だし……もう一度ナデシコに乗っておくのも悪くないか……)

「……やっぱり無理ですか?」

「いいわ!

事務所には私から説明しておく。この仕事が終わったら、すぐに合流するから」

「よかった、ありがとうございます!」

「それじゃ私、このあと歌番組の打ち合わせがあるから」

そう言い残して、メグミは楽屋を出ていった。

「う〜ん、終わった、終わった。とりあえずイズミさんもメグちゃんもゲットね!」

「あれでホントは2●歳なのよねぇ、ファンの人達がホントの事を知ったらどうなるんだろ?ふふふ……」

「ハイハイ、そこ。毒舌吐かない。それじゃ、残ったヒカルさんの所へ行きましょうか」

 

 

その後、地図を見ながら、ようやくヒカルのアパートを探し出した。

「えーと、あ!あった、あった、ここよ!」

貧乏そうな、陽の当たらない安アパートだ。ドアをノックするが、出てくる様子はない。

「あれ?留守かな?」

「いや、中にいるよ」

「ずいぶん自信ありげな言い方ね。どうしてそんなことが分かるのよ?」

「あれを見りゃすぐ分かる」

そう言って指差した先にあるのは電気メーター。それがゆっくりと回っていた。

「カイト君、細かい所見てるのねぇ……」

感心した様にミナトが言う。

「セイヤさんに習いましたから。居留守の見分け方って」

「あの人は……一体何を教えているのよ……」

と、そんなことをしていると、ドアが少し開き、その隙間から死にそうな声が聞こえてきた。

「……新聞ならいりませんよぉ……」

眼の下に隈を作った悲壮な顔が、ヒカルの生活ぶりを物語っていた。

「やっほー!ひさしぶりー!」

「うわ〜、ユキナちゃん。突然どうしたの?」

ひょっこりと顔を出したユキナに驚きながらも好意的に迎え入れる。

「元気?」

「ども〜」

そのユキナの頭越しに二人も顔を出す。

「ミナトさんにカイト君も一緒なんだ!……みんなおそろいでどうしたの?」

「まあちょっと込み入った事情がありまして……」

「まあとりあえず入ってよ。散らかっちゃってるけど」

 

床中に描きかけの原稿やトーンの切れ端が散乱している。

「適当にその辺に座ってて、今お茶入れるから……」

「すっごーい、これ全部ヒカルさんが描いたの?」

机の上の原稿を見つけて、手に取るユキナ。

「うん、大手出版社の新人賞に応募しようと思って描いているんだけど、これがまたなかなか進まなくって……」

「うっわー、この男の子かっこいいー!」

「ほら、駄目よ勝手に触っちゃ……大事な原稿を汚しちゃったら大変でしょ」

「はい、お茶。安物だけど」

「あ、すみません」

「ところで、今日は何か用があって来てくれたんでしょ?」

「はい、そうなんですよ。

…単刀直入に言いますと、またエステに乗っていただけませんか?」

「エステにって……なんでまた?」

「それは……」

そして、これまでの経緯と大まかな事情を話すカイト達。

「そっかー、ナデシコB艦ね………いいよ」

ほんの少し悩んだだけであっさりと了承する。

「へ?」

あっさりとしすぎて、逆にカイトが戸惑ってしまう。

「どうせ新人賞の発表まで暫く時間があるし、どのみち今はバイトぐらいしかすることもないしね」

「本当ですか!よかったー!」

「フフフ……その代わりって言っちゃ、何だけど、お願いがあるんだけどぉ」

「……お願い、ですか?」

「そう、お願い!」

 

天の助けとばかりにそのまま監禁されてアシスタントをさせられるカイト達。

「悪いわねー、実はその新人賞の締め切りが明日のお昼なのよ……これを無事に仕上げたら同行するから、今晩一晩だけ頑張ってねー!」

「わーい!一度やってみたかったんだ。漫画家のアシスタント!」

「ま、いいんだけど……」

「うまい話には裏があるって事ですね……」

あきらめ半分でカイトも言うが、ユキナと同様、面白そうにしている。

……結局、カイト達は徹夜で原稿と向き合うことになった。

世に云う缶詰状態と言うものをその身で味わう羽目になったわけである。

 

そして、翌朝……。

カーテンの隙間から眩しい朝日が射し込んでくる。

 

 

「これで完成〜っ!」

最後の一枚への仕上げが終わったヒカルが、伸びをしながら宣言する。

「ふぅ〜、なんとか終わりましたね」

「漫画も結構大変なものねぇ」

「でも楽しかった。私も将来漫画家を目指そうかなぁ」

コキコキと、凝り固まった肩や首を思い思いに解きほぐしながら各々感想を述べている。

「ありがとう、みんな上手いじゃないの!

本当に助かったわ。じゃあ、この原稿を出版社に届けてから合流するから、よろしくね!」

玄関での別れ際、ヒカルがそう言い残して出版社へと向かって行った。

「ふわぁぁぁぁぁ……結局徹夜になっちゃいましたね」

「でも、これでヒカルさんゲットよ!」

「……まあ、これで全部廻った訳だし、ナデシコに戻ろうか」

「ですね」

そして一路ナデシコへ。

……余談だが、ヒカルに監禁されていたカイト達がやはり最終組だった。

 

 

ところ変わって、作戦会議中の一同。

「先日襲撃してきた木星トカゲは、太平洋海底に存在するチューリップから発生していることが判明しています。

ナデシコBは極秘任務としてこのチューリップの撃破に向かうわけですが、数人同行できない人が居ます」

その言葉と共に後ろに控えていた人物が歩み出る。

「すみません。僕も正規の軍人だし、残念だけど立場上今回の任務には参加出来そうにありません」

「あと僕等も微妙な立場だからね。……悪いが、一緒には行けないよ」

「……そんな殊勝なことを言っても逃がしませんよ。こんなのでも会長が居るのと居ないのでは株主からの苦情が違うんですから」

「……キツイねぇ、エリナくん」

そう言ってきたのは軍属のジュンとネルガル会長のアカツキに秘書のエリナだ。

「ごめんねルリちゃん。
……やっぱり私にはアキト一人残して私だけいくなんて出来ないから……これからは新しい艦長として、ルリちゃんにナデシコとクルーの皆さんをお任せしたいと思います」

ユリカも軍属の筈なのだが全く気にしていないようだ。

「了解しました。……アキトさんによろしく伝えておいて下さい」

「うん、解った。でも、ゴメンね」

「解りました。
では、各自出航に備えてスタンバイお願いします」

『了解!』

そう返礼を返し、各自クルーは持ち場に散っていく。

 

「各自、持ち場に着きました」

「艦長、発振の号令を」

「解りました。これよりナデシコB艦、発進します」

こうしてナデシコBは一路、太平洋海底のチューリップ撃破のために出航した。

 

 

「……さてと、それじゃ、僕も格納庫に行こうかな……」

「ちょっと待って」

「はい?…どうかしましたか?」

ブリッジに居てもやることがないと判断したカイトが格納庫にいこうとしたが、それをヒカルに止められる。

「格納庫に行く前に君はコッチ。先にフォーメーションの確認をしなきゃいけないでしょ?」

「……ああ、そうですね。すっかり忘れていましたよ」

頭を掻きながらカイトが言うがそれも仕方がない。
今まで実戦形式での訓練は長屋時代にしていたが、実際にフォーメーションを組んで戦闘をした経験がほとんどないのだ。
エースパイロット揃いのナデシコの中でも群を抜いて操縦センスが良かった為、一対大多数や少数での各個撃破などのスタンドアロンな戦闘法ばかりが得意になってしまったのだ。

 

「……とは言っても3人ではどういうフォーメーションが組めます?」

場面が移ってブリーフィングルーム。

ここに着くなり開口一番にカイトが問う。

「まあそんなにフォーメーションとかは拘らないわよ。

簡単に言えば誰が前線に出るか。ナデシコが襲われた時はどう動くか。

あとは……リーダーは誰がするかって所ね」

カイトの問いに律儀にホワイトボードに要所を書きながら答える。

「なら……まず僕が前線に出て、ヒカルさんが遊撃、イズミさんが後方支援ってのが妥当じゃないですか?」

長屋時代の経験から簡単に答える。

「……まあ、それしかないって感じよね。イズミもそれで良い?」

ポロン♪

ヒカルの問いにウクレレをひと鳴らし。

「ならコレで決まりよね。じゃあ次。ナデシコが襲われた時の対処法」

「……それは私に任せてもらえれば良い。危なくなればヒカルを呼ぶ。
…カイトは後ろを気にせずに敵の撃破に専念してくれれば良い」

「あれ、どーしたの?いきなりシリアスモードなんて……」

ヒカルの言葉通り、問いに答えたのはイズミだった。

大体こういう会議では何時もウクレレを爪弾いていたり、見た目では自分の世界に突入しているようでこちらから聞かない限り発言はしないのだが、どういう心境の変化か今回は積極的に参加している。

「……フッ」

ポロン♪

その問いには薄く笑うだけで答えようとはしなかった。

「……ま、良いか。カイト君もそれで良い?」

「ええ、後を気にしないで良いならかなり楽ですし」

二つ返事で頷くカイト。

それもその筈、カイトの黒星といえば一対四などの圧倒的不利な状態や、拠点防衛戦のみだ。
……逆に拠点破壊戦では一対五のような圧倒的不利でもやり遂げれるだけの技量を持っている。

「じゃあ最後の議題。誰がリーダーになる?」

「ヒカルさんが良いんじゃないですか?」

その問いにいきなり答えたのはカイトの推薦だった。

「……へ?無理だよ、私じゃ!」

「……とは言っても私には指揮は出来ないし、カイトは前線に出続けるから同じく無理でしょう。
ならば消去法でヒカルしか残っていないでしょ」

そのイズミの答えに頷いているカイト。

「イズミちゃん、今日は突っ込みが厳しいよ……」

ポロン♪

対する答えはまたひと鳴らしだけだ。

「まあどうせリーダーって言ってもみんな勝手に動くと思いますし、最初に方針を決めるだけで良いんじゃないですか?」

「……ならカイト君がやる?」

カイトのフォローにも恨めしそうな顔で問う。

「……まあそれでも良いですが、戦闘中に指示は出せませんよ?」

「……解ったわよ。それじゃ私が暫定リーダーって事で良いわよね」

「異義なし」

ポロン♪

 

……こうして第一回目のブリーフィングが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、今回終わり!

カイト(以下K)「勧誘しかしていませんから容量の割に話が進んでいませんよね」

ま、しゃ〜ね〜だろ。

K「で、なんでこんなに遅れたんですか?」

ネタが出なかった。

K「それだけですか?」

……すいません。一度遅れたから一気にこの遠征編を書くつもりだったんですが……(汗)

K「結果は?」

見切り発進です(汗)

K「では後どれくらいで出来そうですか?」

正直解りませんが、出来る限り早めに送ります(汗)

……もうこれぐらいで終えて良い?(汗)

K「……まあ弾劾もこの程度で良いでしょう。

それでは」

また

 

 

代理人の感想

「居留守の見分け方」って・・・・水道局か某国営放送の

料金取り立てのバイトでもしたことがあるんでしょうかウリバタケさん(爆)。