ついに敵に侵略された星、火星に到着したナデシコ。


 周囲の敵を蹴散らし、いよいよ火星の大気圏へと突入する。


「来たね……アキト。君の相棒がお待ちかねだよ」


 火星の遺跡。そこに待つのは戦神の鎧。


 いま、ナデシコに新たな変化が訪れる……。















 ・ 第六話 『「運命の選択」みたいな』 復活、守護の鎧 ・










 〜 アキト 〜



「さてっと……」


 とりあえず先に出撃した俺は、後からくるみんなが出撃時に狙われないようにバッタ達を掃除していた。


 出撃してから数分後、ようやく四機のエステバリスが出てきた。


 ……待て、四機?


 今回、俺はブラックサレナで、前回ガイのエステバリスは以前俺が使っていたピンクのやつだった。


 しかし今回はジュンが俺のかわりに囮になり、それ以来あのエステを使用している。


 当然ガイは、残りの……青いエステバリスになるはずなんだけど、その姿が見当たらない。


《ヤマダならサボりだ》


 ジュンに通信を入れて早々にそんなことを言われた。


《なんでも、あと少しでモノにできそうなんだそうだ。だから、今回は棄権する。とのことだ》


「ガイも必死みたいだな……」


 しかし、まだ乗り始めて一ヶ月ちょっとだぞ? いくらなんでも早すぎる気がする……。


 あとで、様子を見てみるか。


 ともあれ、いよいよ戦艦ナデシコにとって初めての、本格的な戦いが始まった。





 眼前に広がるのはバッタの群れ。


 俺のブラックサレナをはじめとするエステバリス隊は、その群れの中へと突入する。


「おらっ!!」


 先陣を切ったのはリョーコちゃんの赤いエステバリスだった。豪快な一撃で先頭にいたバッタを群れにむかって殴り飛ばす。


 それが群れの侵攻を妨げ、見事な牽制役を果たしている。


 その隙を突いてオレンジのエステバリスが動いた。


「ヒカル!!」


「お任せぇ!!」


 動いたのはヒカルちゃんだった。


 リョーコちゃんはすでに心得たもので、ヒカルちゃんを後押しするように名前を呼ぶ。


 そして、ディストーションフィールドを全身に纏ったエステバリスはバッタの群れの中を高速で飛んでいく。


 巨大な弾丸となったエステバリスの直撃を受け、あるいは弾き飛ばされ他の仲間に激突して、次々とバッタたちが爆発していく。


「おらおらぁ! 次行くぞ、次ぃ!!」


「お〜!!」


 勢いに乗ったリョーコちゃんはその勢いのままさらに敵陣に突入していく。そのノリに呼応したヒカルちゃん、イズミさんもその後に続く。


 ただ……。


「ふふふ……切り裂いてあげる……」


 怖いよ、イズミさん。


 ……ま、まぁそれはともかくとして、バッタの相手とナデシコの護衛はリョーコちゃんたちに任せればいいか。


 さて……。


「ラピス、戦艦の数はいくつだ?」


《戦艦タイプ四隻、護衛艦タイプ三十隻を確認》


 前回とほぼ同数か……。


 なら、少しはジュンに任せるか。


「ジュン、戦艦二隻を任せたいんだが大丈夫か?」


《あぁ問題ない。やり方も知っているからな》


 そう言いながらジュンはニヤリと笑った。皮肉のつもりか?


「制限時間は五分、いけるな?」


《長い。三分だ》


「上等!」


 そして、俺達は各々の機体を走らせた。


「リョーコちゃん、ヒカルちゃん、イズミさんは俺とジュンのサポートをお願いします!」


《おぅ! 任せろ!》


《ザコは引き受けたよぉ!!》


《……大きな華を見せてね》


 それぞれの声援を受けて、俺とジュンは自分に振り分けられた戦艦へとむかう。


 グラビティカノンは弾数に制限があり、すでに地球で二度使用している。


 残っている弾の数は、あと一発。ここで無駄遣いするわけにはいかない。


 ブラックサレナのフィールドを右腕に収束する。


 イメージとしてはDFSのそれに近い。だからこそ、最初にDFSを使ったときもそれほど苦なく扱うことができた。


 左腕にハンドカノンを装備し、ブラックサレナはジュンのエステバリスと共に敵陣の中へと突入した。


 目標であるヤンマまでの進路上には、無数のバッタとその後ろに控えるカトンボがいる。


 ブラックサレナの機動性をフルに活用し、敵の弾幕を回避。その隙を縫うように左腕のハンドカノンで進路上のバッタを撃墜していく。


 不意に、カトンボが一斉にレーザーを発射する。斜線上に味方であるバッタがいるにも関わらず、だ。


 レーザーの攻撃によって撃墜されていくバッタの群れ。無人兵器が味方を巻き添えにする攻撃をするのは、今まで見たことがない。


 俺は驚きを強引に押さえ込みながら、レーザーを回避していくと同時にブラックサレナを加速させる。


 砲撃を続けるカトンボの横を抜き去り、一気にヤンマへと突撃する。後ろでカトンボが反転しようとしていたが、援護にまわったリョーコちゃんたちエステバリス隊に阻止される。


 そして、ヤンマの動力部にとりついたブラックサレナの右腕からフィールド集束の一撃が放たれる。


 装甲は貫かれ、攻撃ポイントを中心に装甲に亀裂と炎が走る。俺は即座にブラックサレナを離脱させ、同時に二隻目へとむかう。


 そのすぐあと、ブラックサレナの後方で一隻目は撃沈した。


 それと同時に、むこうのほうでも大きな爆発が起こるのが見えた。


 ジュンも一隻目を落としたか。なら、次はどちらが早いかな?


 二隻目の戦艦へむけて、ブラックサレナをさらに加速させる。


 前回は三隻目でようやくフィールドの展開が間に合った。だが今回は数が四隻になったとはいえ、こちらも二人に増えた。


 その結果、四隻の戦艦はフィールドを強化する間もなく、すべて炎の華となって宇宙に散った。残ったカトンボもその爆炎に巻き込まれ、誘爆を起こしている。


 ちなみにここまでの所要時間は二分五十八秒だった。





「本当に三分で終わらせてしまうとは……さすがテンカワさん、というところですか」


「うむ、アオイ副長もそうだが、テンカワの腕はさらにあがったようだな」


「さっすがアキト! 私の王子様!!」


 プロスさんとゴートさんは俺の訓練風景を見ているため、その実力に納得の様子。


 ユリカは……相変わらず、もの凄い理屈で納得している。


「ブラックサレナ、及びアオイ機。残敵の掃討に移ります」


「機体損傷度は両者ともに極めて軽微。ただ、アオイ機は駆動回路に損傷が見られる」


「ナデシコ、損害軽微。このまま戦闘を続行します」


 ルリちゃん、ラピス、ハーリーくんがそれぞれ現状をユリカに報告する。


 ただ……ユリカ、聞いているか?


「それにしても、アキトくんもジュンくんも凄いわねぇ」


「ですよね。さすがアキトさん」


 ミナトさんとメグミちゃんはもう緊張感が残っていないようだ。


「いよいよ火星、か……」


 フクベ提督が火星を見ながら目を細める。


 そう、いよいよ火星だ……。








 無事に火星大気圏へと突入したナデシコ。


 すべてがはじまったこの星に、俺はまた戻ってきた。


 今度こそ、すべてに決着をつけるために。


 ……で、とりあえず格納庫でのアレに備えるべく壁際によった俺達だったが、どういうわけか今回はなにも起こらなかった。


 どうやらハーリーくんが密かに重力制御を行ってくれたらしい。


 ありがとう、ハーリーくん。


 これでまだしばらくは新月の晩に警戒せずに済みそうだ……。










「では、今からナデシコはオリンポス山に向かいます」


「そこに何があるんですか?」


 三度目もやっぱりこの会話からはじまった。


 ナデシコが火星へとやってきた理由の一つ。火星に残してきた資源の回収。


 とはいえ、さすがにそんなことをおおっぴらに口にせずにプロスさんは話を続ける。


「そこにはネルガルの研究施設があるのですよ。

 我が社の研究施設は、一種のシェルターでして……一番生存確率が高いのです」


「では、今から研究所への突入メンバーを発表する」


 さて、そろそろいいかな。


 ゴートさんの言葉を合図に俺は行動に出た。


「ゴートさん、悪いけど俺は別の用がある。ここからは別行動をとらせてもらう」


「何を言い出すんだテンカワ! 今、お前とブラックサレナを手放せる訳ないだろう」


 ま、そういうだろうな。


 でもこっちにも切り札はある。


「そういうな。ちょっとユートピアコロニーにおいてきたものがあるんだ」


「おいてきたもの、ですか?」


「あぁ。それが何かは後で見せる。とりあえず、『父さんの遺産』とでも言っておこうか」


 俺のその言葉にプロスさんの目つきが変わった。


 俺の父さんはネルガルでC.C.の研究をしていた。その遺産となれば当然興味がわくはず。ただ……。


 俺はチラリとルリちゃんのほうを見た。やはり、疑問に満ちた目で俺を見ている。


 ……そろそろ隠すのも限界か。


(ラピス……ラピス……)


(アキト?)


(帰ってきたらルリちゃんとラピスに話がある。そうルリちゃんにも話しておいてくれ)


(え? うん……いいけど)


(ありがとう)


 ラピスとのリンクでルリちゃんに伝言を頼むと、俺はプロスさんとの話に集中した。


「……いいでしょう」


「ミスター? しかし……」


「いいんですよ、ゴートさん。テンカワ博士の遺産、いうなればテンカワさんにとっては形見の品というわけですから」


「すまないプロスさん。あと、ジュンをいっしょに連れて行くがいいか?」


「おや、ジュンさんもですか?」


「あぁ。帰りの運転手がいるんでね」


 プロスさんにはそれだけで通じたらしい。


 かくして俺とジュンはユートピアコロニーへとむかうことに決まった。










 その後俺はジュンとともにブラックサレナでユートピアコロニーへとむかった。


 もっとも今回はメグミちゃんは乗っていない。


 ジュンが乗ってこれ以上人が乗れないというのもあるが、ブラックサレナのGに耐え切れないという理由でこちらから断ったのだ。


 おかげでなんとかアンチ・テンカワ・アキト同盟の結成は阻止することができたようだ。


 とりあえず、一安心だな……。


 とりあえずナデシコのレーダー範囲から出たブラックサレナは一気に加速。


 進路をユートピアコロニーから火星極冠遺跡に変更した。


「いよいよ、だな」


 遺跡へとむかう途中、ジュンがつぶやいた。


「あぁ」


 俺達が三度目の逆行を行った本当の理由。


 火星の遺跡の意思の代理人として、自分たちの意思の下にはじめた、木星の遺跡との戦い。


 それがいよいよ本格化する。


 この火星に眠る、俺の本当の鎧を目覚めさせることによって。


「ブローディア復活後は俺がブラックサレナを使用する。それでいいな?」


「あぁ。ひょっとしたらガイと取り合いになるかとおもったけど、まだまだみたいだからな」


「そうらしいな。とはいえ、ヤツの成長速度は少し尋常じゃないぞ?」


 そう、ガイはこの一月の猛特訓でとうとうブラックサレナを操るまでに成長していた。


 ただ、まだ戦場に出せるレベルではない。あくまで普通に飛んで、急旋回を繰り返しても、ちゃんとコントロールをできるようになったというレベルだ。


 ブラックサレナで戦場に出るなら、高速移動中での空間把握能力の訓練が必要になってくる。ブラックサレナの主武装がハンドガンというのが理由の一つだ。


 それでもたった一月でこれほどのレベルに達するというのは正直予想外だった。


 そういえば前回も、火星から帰還するまで医務室の主扱いだったのに、復帰した後はしっかりとリョーコちゃんたちのレベルについてきていたからな。


 案外、これがガイの強みなのかもしれない。


「ガイにはテストタイプ二号機あたりが妥当だろうな。アカツキあたりが持ってくるだろうし」


「そうか。とりあえず文句は言われずに済みそうだ」


 なんの心配をしているんだよ……。


 それはともかく、いよいよ到着だ。










【来たね、アキト】


「あぁ。火星にきたら立ち寄るつもりだったからな」


 ブラックサレナをジュンに任せた俺は極冠遺跡最下層、演算ユニットのある場所へと来ていた。


【約束どおり、ブローディアは修理・改良を済ませたわよ。それにほら、この子達も】


【【アキト兄!!】】


「ディア! ブロス!」


 ブローディアに搭載されていたAI、ディアとブロスが開かれたウィンドウに姿を見せた。


 約二年ぶりになるんだろうか、二人は懐かしそうに俺のまわりを飛び回っている。


【さて、それじゃそろそろ本命に登場してもらいましょうか】


「えっ?」


 遺跡がそういった次の瞬間、俺の後ろにボソンの光か現れた。


 そしてそこから現れたのは、若干以前よりスマートになったブローディアだった。


【とりあえず解説するわね。

 このブローディア・ゼロはもとになったブローディアから余分な武装を取り外したもの。ラグナ・ランチャーとかね。

 純粋に格闘仕様になっているけど、アキトの技と併用すれば間合いはたいして関係ないでしょ?

 あと、小型相転移エンジンは以前より出力を向上したものをボディに一基、外部ユニットのガイア・ゼロに二基搭載。

 ガイア・ゼロは単独使用できる戦闘機にもなっているから。

 それと、この機体には過剰な力を出さないようにリミッターが六つ備わっているからあまり無理はしないでね。

 いまのところリミッターが外れるのはLV.02、ブラックサレナと同レベルかな? うまく使ってね】


「リミッター、ね。でもどうしてそんなものを?」


【へたに全力だして連合軍やクリムゾンに目をつけられたいの? それに、あんまり全力で戦いすぎるとそれだけ木星の遺跡にデータをとられるってこと、忘れないでよね?】


「あぁ……なるほど」


 そんなことになったらブローディアはともかく、ナデシコのほうが危ない。


【ま、そういうわけだから。あとはアキトの腕の見せ所。そういうわけだからそろそろ行ったほうがいいんじゃない? そろそろ……時間でしょ?】


 そうだな、そろそろナデシコのほうに敵が攻めてくるころだ。


「あぁ。それじゃ……もういくよ」


【ユリカと仲良くね♪】


 俺はその言葉を聞いてスッ転んだ。








 〜 ジュン 〜



 テンカワを極冠遺跡へと残してきた俺は、一人ユートピアコロニーへとむかった。


 目的はイネス・フレサンジュの保護と生き残りの住民の説得だ。


 どの道火星に残していったとしても木連に捕まるのがオチだからな。


 厄介なのはイネスさんだ。


 仮にもナデシコ開発に関わっていた人間ということもあってその説得力は抜群だ。


 ま、こっちにも隠し札がないわけじゃないんだが……。


 そんなことを考えているうちに俺は穴の中へと落ちていた。


 そういえば地下にあったんだったな……入り口。


 とりあえず無事に着地した俺は周囲の状況を把握しようをまわりを見回す。


 ん……? 人の気配……数は、1、2、3……だいたい十人前後といったところか。


 こっちから呼びかけてみようかと思ったが、その必要はないようだ。


「誰だ! お前は!!」


「俺は戦艦ナデシコのクルーで……」


「木星の奴等か!? くそっ、ここまで見付けたのか!!」


 人の話を聞けよ。まったく……。


 どうやら長く避難生活を続けていたせいで気がたっているらしい。


 鉄パイプを握りしめ、男たちは一斉に襲いかかってきた。


 遅いな。この程度の力量と数ならまったく問題ない。


 俺はすれ違い様に男たちの意識を次々と刈り取っていく。


 そして、後ろにできたのは死屍累々のように倒れ伏した男たちの束だった。


「やれやれ、人の話は最後まで聞くのは常識だぞ?」


「まったくね。でも、とっくに気絶している人にそんなことをいっても誰も聞いていないわよ?」


 やっと出てきたか、イネスさん。


「あなたがここのリーダーみたいだな」


「別にリーダーというわけでもないんだけどね。それで? あなたはどこからきたのかしら?」


 俺はナデシコで来たここまでの経緯をイネスさんに話してやった。


 そして予想通り、イネスさんは乗艦を拒否してきた。


「まぁ当然だな」


「あら、意外と物分りがいいのね」


「ナデシコ自体は木星の無人艦より能力は多少いいかもしれない。だが、大群を跳ね除けられるほどでもない。

 それぐらいは承知しているさ。俺は、な」


「俺は、ということは他のメンバーはそうではないと?」


「大多数は勝てると思っているだろうな。今までナデシコが危機に陥ったことは一度もないからな」


「度重なる勝利は慢心を生む。というわけね」


「だが、こちらとしてもあなた達をこのまま残していくわけにもいかない」


「……なら、強引に連れ出してみる?」


「べつにそれでも俺はいいんだが、ナデシコにはあなたの知らない力がある。

 それを見た上で、あなたに火星の生き残りの説得をしてもらいたい」


「力? ……面白そうね。

 いいわ、その力がナデシコや私たちをこの地獄から救えると判断したら、私が生き残りの人たちを説得してあげましょう」


「協力に感謝する。上に俺の乗ってきた機体がある。それでナデシコに向かうとしよう」


「えぇ」


 とりあえず第一関門はクリア、といったところか?










 〜 ルリ 〜



「……ルリちゃん」


「ダメです」


「うぅぅぅ……。ら、ラピスちゃぁん」


「ダメ」


「はぅ! は、ハーリーくぅん!」


「ハーリーくんは休憩中ですよ」


「はぅぅぅぅぅ……」


 まったく……もう少し辛抱してください。


 アキトさんとジュンさんがユートピアコロニーにむかって早二時間。


 あれからユリカさんが何度も『ユートピアコロニーに行こう』といってきかないんです。


 誰のためにこんなことをしていると思っているんですか。もう。


「艦長。いい加減諦めて、アキト君達が帰って来るのを待ってなさいよ」


 ミナトさんに言われてもユリカさんは納得いなかったようです。


 っと、そんなことをしている暇はないようですね。


「攻撃、きます」


「「えっ?」」


 わたしが報告するのとほぼ同時にナデシコのすぐそばに敵の攻撃があたりました。


「敵、前方のチューリップから次々に出現」


「ルリちゃん!! グラビティブラスト発射準備!!」


「グラビティブラスト……発射準備完了」


「発射!!」


 ナデシコから放たれる黒い閃光。いままで一撃の下に相手を葬ってきた無敵の槍。


 ですが、それもこれで最後のようです。


「……敵、小型機は全滅するものの戦艦タイプは依然として健在。その数……更に増大しています」


 もう、敵のディストーションフィールドによって一撃必殺の槍ではなくなっているのです。


 どうしますか? ユリカさん。


「な、何でグラビティブラストが効かないの!?」


「……敵もディストーションフィールドを張っているみたい」


「そんな……。……ここからフィールドを張りつつ撤退!!

 あ、でもアキトがまだ合流してない!!」


 ユリカさん、ジュンさんを忘れていますよ?


「ブラックサレナがこっちにむかっている」


 アキトさんですね。


「本当? ラピスちゃん」


「うん。通信が入った。回線を開く」


 間に合ったみたいですね、ホッとしました。


 しかし、そんな思いはすぐに消えてしまいました。


 通信に映ったのはジュンさんとイネスさんだけだったんですから。


《こちらブラックサレナ、避難民代表のイネス氏を連れてきた。これより帰還する》


「ジュンくん! アキトは!?」


 そうです。アキトさんは?


《なに? あいつ、まだ戻っていないのか。まったく、なにを道草食っているんだか……。

 まぁいい、テンカワは後からくる。とにかくいまはナデシコの防衛だ》


 道草、ですか。いったいどこに行っていたんですか?


 このことについても、後でアキトさんは話してくれるんでしょうか……。


 しかし、考え事をしていた一瞬、わたしは油断していました。


 オモイカネからの緊急報告、それは、上空からチューリップが一基降下してくるというものでした。


「艦長! ナデシコ上空にチューリップ一基を確認! 護衛艦が次々に出現しています!!」


「えぇ!? くっ、ディストーションフィールド、出力最大!!」


 ユリカさんの指示でナデシコのフィールドが強化されます。


「砲撃、きます!!」


 全員がその後に来るだろう衝撃に備えました。


 しかし、その途中、ラピスの口から驚きの言葉が出ました。


「敵部隊側面、重力波反応三つ」


「えっ?」


 ラピスの言葉に首をかしげていると、ナデシコの上空にいる部隊を三本の黒い閃光が飲み込みました。


 多数のカトンボが火の玉になって撃沈していきます。


「い、いったいなにが……」










 〜 ??? 〜



「敵戦艦、重力波砲の攻撃により消滅を確認。機動戦艦ナデシコはいまだ健在」


 無機質な状況報告が自分の口から漏れる。


「現・ナデシコ保有戦力での現状の突破を可能と確認。現時点をもって戦闘モードを解除する」


 忌むべき力。それが必要だとわかっていても、やはり自分は好きにはなれない。


 誰かに知られたら……。


 考えただけでも震えが来る。あとどれだけこのままの状態を保っていられるか。


 ひょっとしたらもう、長くはないかもしれない……。










 〜 ルリ 〜



 いまのは、いったいなんだったんでしょうか。


 いまの攻撃は間違いなくグラビティブラスト。しかし、発射地点と思われる場所に戦艦や機動兵器の反応はありませんでした。


 いったい、なにがどうなっているんですか……。


 ともかく、いまは現状の打開です。


 すでに上空にあったチューリップはジュンさんの乗るブラックサレナのグラビティカノンによって破壊されていますし、カトンボなどの戦艦も先程の謎の砲撃によって消滅しています。


 残るチューリップは、目の前にある一つです。


 しかし、敵の数はいまだ衰えていません。前方のチューリップから出てくるものはもちろん、上空の残存部隊も無視できません。


 現在はエステバリス隊とブラックサレナでナデシコを護衛していますが、守るだけでは状況は好転しません。


 なにか、きっかけがあれば……。


 と、そのときでした。


 敵部隊の後ろにあったチューリップが突然爆発したんです。


《な、なんだぁ!?》


 最初に反応を示したのは今回が初陣となるヤマダさんでした。


 いままでブラックサレナの訓練をしていたというだけあって予想外の大奮闘をしていましたけど。


 チューリップの爆発の中、現れたのは見たこともない漆黒の機動兵器でした。


 あれはいったい……。


「ユリカ、あの機動兵器から通信」


「あの真っ黒いロボットから? ……繋いでください」


「了解」


 ユリカさんの承諾を得て、ラピスは通信を開きました。


 そこには、予想外のあの人の姿が映っていました。


《ナデシコ、無事か!?》


「アキト!!」










 〜 アキト 〜



《テンカワさん、その機動兵器は?》


「これが『遺産』ですよ。いまから残った敵を殲滅します」


 そういって俺は一度ナデシコとの通信を切った。


 目の前にはカトンボやバッタの残存部隊。それも、残存とはいえ衛星軌道上で戦ったときの数に匹敵する大部隊だ。


 だが、俺の最強の鎧、そして頼もしい二人の仲間が戻ってきた以上、不安なんて欠片にも感じなかった。


「それじゃ、復活祝いだ。ひと暴れするぞ! ディア! ブロス!」


【りょーかい! アキト兄!】


【アキト兄と戦うのも久しぶりだよね。思いっきり暴れちゃおっか♪】


 ディアもブロスもすっかり乗り気だ。かれこれ二年もじっとしていたんだからうっぷんも溜まっているんだろう。


 俺も久しぶりのブローディアに少し気持ちが高ぶっていた。


 よし……いくか!


 俺は装備されたDFSを抜き放つとそのままカトンボへと斬りかかった。


 真紅にまで集束されたDFSは、カトンボのフィールドをたやすく貫き、船体を真っ二つに切り裂く。


 続けて他のカトンボに斬りかかろうとするブローディアの進路をバッタたちが捨て身で封じようとする。


 だが、そんなバッタたちに二機の機動兵器が攻撃を仕掛けた。


 ジュンのブラックサレナとガイのエステバリスだ。


《テンカワ、援護する。今のうちにカトンボを落とせ》


《アキト! 地獄から帰ってきた俺の力! 見て驚け!!》


 そういってバッタの群れに突入するブラックサレナとエステバリス。


 ブラックサレナを巧みに操り、敵を圧倒するジュン。


 ガイも、『地獄』と呼ぶような特訓をしていただけあって俊敏な動きを見せている。


 ブラックサレナのハンドカノンが、エステバリスの集束フィールドが、次々にバッタを駆逐していく。


 俺も負けていられない。


 ブローディアを走らせ、カトンボ群の中心に来た俺は、DFSを真紅の状態に保ちながら100メートルぐらいの長さに引き伸ばした。


 そして……。


「うぉおおおおおりゃあああああ!!」


 回転斬りの要領でカトンボを一太刀で全部斬り捨てた。


 十数機のカトンボが一斉に爆発し、残ったバッタもその爆発に飲まれて撃破された。


「ふぅ……、まぁ、こんなもんかな」


【まっ、アキト兄とブローディアにかかれば無人兵器なんて足止めにもならないよね。でもちょっと暴れたりなぁーい】


【ブローディア各部、すべて異常なし。DFSもさしたる損傷なし、と。お疲れ様アキト兄】


「あぁ。ブロス、ディアもお疲れ様。それじゃナデシコに通信を繋いでくれ」


【【了解】】


 二人は俺の言葉に答えると、すぐにナデシコとの通信を繋いでくれた。


「ブローディア、これから帰還します」










 〜 ルリ 〜



 その場の誰もがアキトさんの戦いを呆然と見ていました。


 ブリッジも、エステバリス隊のリョーコさんたちも。


 ナデシコのグラビティブラストも通じない無人兵器を一刀の下に両断する真紅の刃。


 あの爆発の中で揺るぎもしないほどの強固なディストーションフィールド。


 すべてが現状の技術を、いえ、未来の技術さえ超えていました。


 そして、それを苦もなく使いこなす、アキトさん。


 たしかにナデシコはアキトさんのおかげで窮地を脱することができました。


 ですが、あんな機体はわたしも知りません。


 アキトさん……、あなたは本当にアキトさんですよね? ちゃんと全部、話してくれるんですよね……?


 もう、仲間はずれは嫌です……。










 ついに蘇った守護の鎧。


 眠れる力をその内に秘め、守護の鎧は守るべきものの前にその姿を現した。


 そして、今回の戦闘に現れた謎の攻撃。


 はたしてそれは味方か、それとも敵か……。


 そして、ナデシコは無事に火星を脱出できるのか……?




















 ・ あとがき ・



 ……というわけで、第六話です。


 前回の失敗を反省し、戦闘シーンに力を入れてみましたがどうだったでしょうか?


 意外と早く復活したブローディアですけど、装備そのものはブラックサレナにDFSを搭載した程度。ガイア・ゼロもまだ切り離しての使用ができないし、奥義や秘剣は制限があり、フェザーも封印中。ラグナ・ランチャーにいたっては取り除かれている始末。


 まぁ、アキトくんならそのぐらいのハンデがあってちょうどいいんでしょう。きっと。


 さて、次回はいよいよ火星脱出編。今のところさしたる損傷のないナデシコはこのまま生き残りの人たちを救えるのか?


 そして、フクベ提督の選択は!?


 待て! 次回!!


 ……というわけで、次もよろしくお願いします。以上、AKIでした。














感想代理人プロフィール

戻る

 

 

 

 

代理人の感想

うむ、やっぱ謎は物語を作る上で必須ですよね。>グラビティブラストとか

匂わせておくだけでも未知の要素が生まれて、不思議と物語に幅が出来て・・・うーむ、奥が深い。

話的には「新製品登場!」って感じなので(おいおい)とりあえずは保留しときます(笑)。

しかしそーかー、ガイのとりえって成長速度だったんだなー。

さすがというべきか意外にというべきか、典型的ヒーロー体質な奴。w