機動戦艦ナデシコ 永遠の時の流れに
 〜いつか出会うあなたのために〜
第1話 「逆行者らしく」で行こう!

 

 

さらさらさら

風で草がなびく音が聞こえる。
風に運ばれた海からの潮とあたりに青々と茂る草木の匂いもする。
草のなびく音や虫の音が聞こえ、俺の顔を風がくすぐる。

(五感が戻っている?)

 俺はそう思いそっと目を開けてみると、丸い満月が上り雲は空を流れていた。
それはラピスによるリンクの補正では再現できないほど美しかった。
その全てが懐かしく昔のことを思い出させる。

「何故……こんなに綺麗に見えるはず無い。」

 俺が見た美しい満月。
一体こんな風に眺めたのはいつの日の事だろうか。俺はただその風景に感動の情を抱いていた。
ふと、辺りを見渡すと人気のない草原が広がっており、近くには家財道具を積んだ自転車が側に置いてあった。

 

 

俺が状況を飲み込めずに混乱しているそのとき

(アキト!!)
(! ラピスか!)

俺の脳裏に懐かしい声が聞こえた。

(……アキト、私今、昔の研究施設にいるの。どうしてなの?)

 ラピスの声の共に不安の情を感じさせるイメージが伝わってくる。
それに昔の研究施設に居る?
その時俺に脳裏にラピスの言葉と現状から一つの仮説が浮かび上がった。

(ラピス、今何年何月何日だ? 俺の体も5年ぐらい若くなっているんだ。)
(今……2196年…)

 ラピスのその言葉から俺は確信した。
俺達が過去に戻ってしまったことを。そして、今日はナデシコ出航前日と言うことを。

(ラピス、よく聞いてほしい。どうやら俺達は過去に戻ってしまったらしい。)
(やっぱり、そうなんだ。だけどそれじゃ私の体が未来と変わらないことが分からないよ。)

 不安の情が含んだイメージと共にラピスの声が聞こえる。
そんなラピスの不安を和らげようと俺は言った。

(俺には……ラピスが変わっていないことが分からない。だけど今、どこもおかしい所は無いんだろ。)
(うん。)
(そうか……それじゃ今すぐには無理だが、いつかそこから助け出してみせるから、それまで我慢してくれないか?)
(うん、解ったアキト。私はアキトを信じる。)

そう答えるラピスの声は少し嬉しさが感じられた。

(あと、ラピスに一つ頼みたいことが有るんだ。)

俺はこれからのことなどをラピスに考えを説明した。
そして話し終えた頃には月が沈みかけ、もう夜が明けようとしていた。

(分かった。たぶん出来ると思う)
(頼む……五感を取り戻してもやっぱり俺にはラピスの助けが必要だな。すまないが頼んだぞラピス)
(うん!)

そうして俺はナデシコに向かって歩み始めた。

 

 

 

 

俺がナデシコに自転車で向かう途中、一台の自動車が走り抜ける。
そしてその車のトランクから一個のスーツケースが、俺に向かって落ちて来た。

ガラン!!ガラン!!  キキキッッ!!

「こんな所まで同じとは……」

 俺はドリフトで急停止をさせて、スーツケースを受け止めた。
自動車はそれに気づいたのか急停車してユリカが降りて、走り寄ってくる。

「本当に済みませんでした。ご迷惑をおかけしまして。怪我とか、ありませんか?」
「あ、ああ 大丈夫だ。」

そのとき俺とユリカの目があった。可能性の輝きを秘めた瞳が印象的だった。

「……あの、ぶしつけな質問ですが。何処かで、お会いした事ありませんか?」

俺の顔をのぞき込みながらユリカは尋ねる。
……その顔その表情何もかもが俺には眩しく、今にも胸は思いで張り裂けそうで今すぐにも抱きしめたかった。
だが俺はそうした気持ちを心の底に押し込めて返事を返す。

「気のせいですよ。」

俺はその率直な視線に耐えられなく、目を少しそらしながら返事を返した。

「そうですか?」

その言葉に俺達の間の時間は停止した。

 

 

 

「ユリカ、急がないと遅刻するよ!!」
「分かったジュン君、ご協力感謝します!!」

二人はこの場から去った。
俺はただ突っ立てドックへと行く自動車を眺めているだけだった。

 

 

「く、くくくははははははは……そう、か……そうだったんだ。未来を変えるなんて言って、ユリカと目を合わせただけでこんなに震えてる。
こんな臆病者な俺が未来を変えるなんて言って、傲慢だな。馬鹿だな。ホントに俺には勿体無さ過ぎるユリカは。」

俺は自嘲的な笑い声を上げる。右手で顔を覆い隠しながら嫌気が差すくらいの青空を見上げた。
その後俺は再びナデシコへと向かった。

 

 


 

 

「貴方は何処でユリカさんと、知り合いになられたんです?」

アキトは困っていた。ゲートの警備員に連絡し順調にプロスのところまでは来ることが出来た。しかしどうすればナデシコに乗船することが出来るか、そこが問題だった。 プロスは交渉のプロだ。中途半端な嘘では見破られるということはアキトも十分理解していた。そこでアキトは前回と同じようにすることに決めた。

「実はユリカとは、幼馴染なんです……俺はユリカに聞きたい事があって、ここまで追い駆けて来ました。」

プロスも目の前に居るテンカワアキトが艦長のミスマルユリカとは家族ぐるみで知り合いだったことは火星時代に調べて少しは知っていた。 なのでアキトがユリカに会いに来たことも理解できし、木星蜥蜴で1年前から見失っていたがテロが起こる少し前にテンカワ夫妻からもアキトのことを任せられていて見守っていたので身元もはっきりためナデシコに乗船させようかと思っていた。

「そうですか……後ろにあるのは料理道具ですか?」
「はい。」
「そうですか。……あいにくとユリカさんは重要人物ですから、簡単に部外者とお会いできません。
……しかし、ネルガルの社員の一員としてならば、不都合はかなり軽減されます。
実は我が社のあるプロジェクトで、コックが不足していまして。
テンカワさん……貴方は今無職らしいですね、どうですこの際ネルガルに就職されませんか?」

プロスはナデシコのナの字も出さずアキトにナデシコへの搭乗を提案する。しかし、アキトがナデシコのことを知っていたため意味はなかったが。

「それはちょうど良かった。今、戦時中ですしこの先如何しようかと考えていたんですよ。」
「では、早速契約の内容について説明を……」

こうしてアキトはナデシコへ乗船した。
そして、アキトは大いなる干渉者による歴史改変の余波を見ることになる。

 

 

 

 

「こんにちはプロスさん」
「ええ、ルリさんこんにちは」

アキトはプロスさんに連れられて艦橋に向かう途中、アキトと同い年くらいの少女に出会った。

「こちらの方は誰ですか?」
「ええ、この方は先程このナデシコに就職された……」

アキトの思考は停止していた。目の前にある想定外の人物に出会ったからだ。この人物が普通の人間だったら思考停止に陥らなかったが、瑠璃髪金眼のツインテールの少女だったことだ。 しかし、これが11歳ぐらい少女だったらこんなに驚くことがなかったのだが、今のアキトと同い年くらいつまり18歳ぐらいの姿をしていたのにアキトは驚いていた。

「こんにちわ……アキトさん。」

そしてまた衝撃的な一言が少女から発せられた。この言葉がショック療法的に作用したのかアキトの思考停止した頭が再び動き始めた。

「おやルリさん、アキトさんとお知り合いですか?」
「ええ、そうなんですよプロスさん。」
「……ルリ……ちゃん、かい?」
「ええ、そうですよ。アキトさん」

微笑を浮かべながら、アキトに返事を返すルリ。
知り合いに話しかけるようなルリの返事にアキトは確信した。

「……どうやら本当にお知り合いの様で……私は邪魔者みたいですからここから去りますか。 ルリさん、テンカワさんにナデシコの案内をお願いしますね。」

プロスはそう言い残して去っていた。

 

 

 

「……案内、しますかアキトさん?」

ルリは悪戯っぽく笑ってアキトに話し掛けてきた。

「必要無いの……解っているんだろ?ルリちゃん。……それにしても驚いたよ、まさか君まで戻ってきているなんて」
「私も驚きました……気が付くとナデシコAのオペレーター席にいたのですから、それなのに体は前よりも少し大きいみたいですし。」

ルリの話によると。過去でもオモイカネの調整の為に、皆より先にナデシコに乗り込んでいたらしい。そして一週間前……自分が、気が付けば昔のナデシコの、オペレータ席に居る事を知った。とのことだった。

そしてアキトがきてくれると思ってずっと待ち続けていたらしい。

その後、アキトはルリと分かれ、格納庫に向かった。

 

 


 

 

「そういえば、ヤマダが人形を頼むって言ってたな……まあ、ハッチは簡単に開くから勝手に持ってきな」
「分かりました」

俺は整備員の人の了解を得て、ガイのエステバリスに乗り込む。
そして俺が時間を確かめようとしたとき……艦橋内にエマージェンシーコールが鳴り響いた。

ビィー!! ビィー!! ビィー!!

来たか、その音にアサルトピット内に緊張感が張りつめてきたことを感じ取った。

”……アキトさん”
「そっちはまだかい、ルリちゃん?」
”今、ユリカさんが到着して、ナデシコのマスターキーを使用しました”
「了解……俺は今から地上に出る」
”今更、バッタやジョロに、アキトさんが倒されるとは思いませんが……気を付けて下さいね”
「ああ、解ってるよ……先は長いからな」

そう言って俺は通信を切った。

「俺は……テンカワアキト、コックです。」

俺は昔通りの言い訳した。

”何故コックが、俺のエステバリスに乗ってるんだ!!”
”もしもし、危ないから降りた方がいいですよ?”
”君、操縦の経験はあるのかね?”

ナデシコのみんなは相変わらず騒がしかった。
俺は余りの懐かしさから、顔が笑みに崩れそうになるのを、必死に堪えていた。

そして……

”アキト!! アキト、アキト!! アキトなんでしょう!!”
「……ああ、そうだよユリカ、久しぶりだな。」
”本当にアキトなんだね!! あ!! 今はそんな事より大変なの!!  そのままだと戦闘に巻き込まれるよアキト!!”

ユリカ……俺が一体どこにいるのか分かっているか?

「パイロットがいないんだろ? 俺も一応ifsを持ってるからな……囮役くらい引き受けてやるよ。」

俺にとって囮より、殲滅する方が簡単なんだがな。

”本当? ……うん、解ったよアキト!! 私はアキトを信じる!! やっぱりアキトは私の王子様だね!!”

その時のユリカの笑顔が俺ににははとても眩しかった。
だがその眩しさを受け入れ、俺は今明日へと歩き始めなければいけない。みんなを守るために。

”絶対怪我しないでねアキト!! 後で会おうね!!”
「ああ」
”……テンカワ機、地上に出ます”

ルリちゃんの声を合図に。
俺は再び、あの無人兵器達の群れと出会った。
しかし、プロスさん、ブリッジに居なかったな……

 

 


 

時間は少し戻って無人兵器襲来前。

今私たちはドッグの入り口で待たされていた。

「一体いつまで待たせるんでしょうかね?」
「まぁ、たぶん警備の人間は何でネルガルの所にスターフォースの人間が来るんだって思っているんだろうさ。
だから確認に時間がかかっていると。こりゃ多分、プロスあたりまで行かないと通してくれないね。」

パイロットの私ジョン・フォールと共にネルガルのスパキャレリプロジェクトにスターフォースより派遣されたワインレッドのフォーマルスーツに身を包んだ会計士マギー・ミーミルは肩をすくめながら言う。
そんな愚痴を言いながら待っていると一人の赤いベストが特徴的な男が小走りでやってきた。

「いや〜お待たせして済みません。先ほどまでクルーの案内をしてましたもので。どうぞこちらへ。」

先ほど彼女の言っていたプロスペクターと言う人なのだろう。
私たちはプロス――プロスと呼んでほしい、とのことだ――についていと、大きな白亜の戦艦――多分これがナデシコなのだろう――が現れた。
プロスはドックに到着すると芝居がかった仕草で振り向く。

「どうです。ナデシコは? ジョンさん。」
「いや、変わった形だなと。」
「いやはや、ジョンさんのご意見はクルーの皆様にもよく言われますよ。この船は最先端の造船工学に基づいた設計でして、製造工程や製造コスト、整備性など様々な点で考慮した形がこの形でして。
まあ、実用化したばかりのディストーションフィールドやグラビティーブラスト、相転移エンジンなどと始めて搭載している物が多いためコストが少々高い点が現在の欠点でしょうか。ははははは。」

プロスの意見を耳に入れながら私はナデシコを仰ぎ見た。白くて乙女の素肌のような白い装甲板、特徴的な2本のディストーションフィールド発生ブレード、従来の宇宙船とは違い到達限界速度が無い即ち太陽系すらも原理的には脱出可能な相転移エンジン搭載艦、地球初のグラビティーブラスト搭載艦。
それが我が故郷へ向かう戦舟。そんな思いを抱きながら私はナデシコを見つめ続けていた。

 

 

 

 

ビィー!! ビィー!! ビィー!!

突然鳴り響いたアラームに私は驚いた。

「敵襲?!」
「みたいだね。ジョンは格納庫に行ってきて備えて。私たちはブリッジに行くから。」
「マギーさんは私について行くとしても、ジョンさんはまだ格納庫がどこにあるか分かりますか?」
「大丈夫です。さっき案内板で場所は確認しました。」

マギーとプロスはそのままブリッジに私は格納庫に急いだ。

 

 

 

記憶を頼りに走って多少道を間違えながらも格納庫に到着した。
私の赤いパイロットの制服に整備士が気が付いた。

「ジョンじゃないか、お前もナデシコに乗っていたのか!?」
「セイヤ、お前もか?! エステバリスの準備は出来ているか。」

エステバリスの開発でテストパイロットをしていたときに出会った、ウリバタケセイヤがここに居た。

「ああ、女房とちょっとあってな。しかし、さっきコックが飛び出しやがった! 急いで追いかけてくれ。」
「コック!? 何でコックがエステなんか……」

コックが出って行った!! 其れを聞き私を本当に驚いた。それにしてもただのコックが何でIFSを持っているのか疑問に思った。
そして、エステに乗り込みエレベーターへ乗り込む。
私はエレベーターの上昇中にエステの設定をしながら、ブリッジへ通信を繋いだ。

「はい、こちらナデシコ。」
「先ほど搭乗したパイロットのジョン・フォールです。状況と作戦を知りたいのですが。」

向こうが言い終わらないうちにこちらから用件という。

「それなら艦長に変わります。」

ハイティーンのお下げの少女から20歳ぐらいの若い女性に変わった。艦長にしてはかなり若いな。

「艦長のミスマルユリカです。はじめまして。
では、フォールさん状況を説明します。現在敵が侵攻、ナデシコが目的を思われます。そこで、海底ゲートを通り後方からグラビティーブラストで殲滅を予定しています。
そこで敵を集めるためにあなたには囮をしてもらいたいと思います。」
「……先ほど、コックが出て行ったと聞いたがコックことが知りたいのだが。」
「アキトですね。今、がんばって囮をしてくれています。私の王子様なんです。助けてあげてください。」

私は艦長の王子様という言葉に一瞬困惑したが気を取り直して言った。

「……がんばれる限りはやろう。だが私も無人兵器の中助けることは難しいぞ。」
「よろしくお願いします。」
「これも仕事だよ。以上だ艦長。通信終了。」

 

 


 

俺の目の前には、バッタとジョロの群れ。

「……今は俺の実力は隠しておくほうが賢明、だな。ここは過去と同じく、囮役と誘導に徹するか。」

そして俺はバッタとジョロの攻撃を紙一重で避け。
たまにワイヤーフィストで攻撃をしかけて、確実に敵を殲滅していった。
ある時、レーダーに友軍機が居ることに気が付いた。

「ガイか?」

俺が考えていると向こうから通信が来た。

「大丈夫か!? まったく、ただのコックが触った事も無い機動兵器なんかに乗って、撃墜され無かったから良かったものの、さっさと避難し……無理だな。
……いいか! 俺より前に出ずに後ろに隠れてろよ!」

誰だ?! 前回ではこんなパイロット居なかったはずだぞ!? 一体どうなっているんだ?
それにしても触ったことも無いか……知るはずも無い。まあ、ここでは後ろに隠れていることにしよう、危ないときはさり気なく攻撃すれば良いだろう。

 

 

 

 

 

 その後ジョンとアキトの囮のより作戦道理に木星蜥蜴は誘導されナデシコの主砲グラビティーブラストにより殲滅された。

それを静かに見つめるモノが居た。いつかどこかから見つめるモノが。

「舞台の幕は今開かれた。世界の中心で捻じ曲げられた悪夢の中眠り続ける女神を目覚めさせる舞踊の劇が、
偽りの私に終焉の時を告げるシナリオが、たった今始まった。千を越える失敗を繰り返し、成功を見ない舞台の幕が、再び開かれた。」

 

 


あとがき

案が浮かんでから投稿まで5ヶ月、遂に始まりました。
案を作っては、捨て作っては捨てを繰り返しやっとプロローグと第1話が完成しました。
次回は「赤い火星」はまかせとけ、です。ナデシコにおける前回との違いが出てきます。
あとムネタケは悪党路線を行きます。アキトたちとは最後まで一緒に行動はしません。

 

 

 

代理人の感想

ちょっと、とっつきで失敗してますかね?

作品の意図がわかりにくいと思います。

「逆行物をメタに描いた作品」なのでしょうがそれを想起させる部分がちょっと控えめというか。

実質1話も含めてプロローグにしたほうが良かったかも。