機動戦艦ナデシコ 永遠の時の流れに
 〜いつか出会うあなたのために〜
第3話 早すぎる「さよなら」! ……なんて欠片も無く?

「なんだか、前回と全く違った展開になっていきますね。」
「ああ、まさか軍がナデシコの火星行きを応援してくれるなんて、考えられ無かったよ。」

 ムネタケ副提督の反乱も無く、そしてガイはジョンにアニメ関係の物を完治するまで取り上げられて、現在完全に落ち込んで部屋から出てこない。
この流れだとムネタケ副提督が脱出することもガイが殺されることも無い。

「この調子ならガイも死ぬことも無いな。」
「ええ、多分ヤマダさんも大丈夫でしょう。」

カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ

 部屋にマギーが叩くキーボードの音が響く。
そのマギーがデスクでキーボードを叩くそばで、ソファーに座りながら束ねられた紙資料を閲覧しているジョン。

「なあ。」
「ん? どうしたの?」
「いや、艦長も火星出身なんだよな。」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「いや、何でも無い。……ただここのコーヒーはうまいなあ、と思ってね。」
「ここの豆は私のオリジナルブレンドだから、Q研の豆も私のブレンドなんだよ。」
「なるほど、道理で何処かで飲んだ味だと思った。」

 ジョンの他愛も無い会話にマギーは顔も向けずに返事を返す。

「だけど何をやっているんだ?」
「飛び入り参加のテンカワアキトの経歴について調べているんだよ。」
「どれどれ、……アキト君の両親はあのテロで亡くなっているんだ。」
「あのテロって、知っているの?」
「ああ、家が近くにあったからな、あの時はすごい爆発だったぞ。」

 マギーの後から覗き込むジョン。

「で? なんかおかしな所でも有ったか?」
「まあね。」

 マギーはそう言い右手のジェスチャ入力で、アキトの経歴が書かれたウィンドウを開き、第1次火星会戦の所までスクロールさせる。

「これがどうした?」
「分からないかな? テンカワアキト君は第1次火星会戦時に火星に居ることが確認されている。
それなのに、その二日後にサセボシティに住所が移されている。」
「……それっておかしくないか? いや別人か?」

 ジョンはその謎に妥当な答えを返す。
しかしマギーはその答えにただ苦笑を浮かべるのみ。

「それだと、理解しやすいんだけどね。」

 そうして、再びジェスチャ入力で別のウィンドウを呼び出す。

「これは何だ?」

 ジョンはアルファベットの無秩序な羅列しか表示されていないウィンドウの内容が理解できずに質問する。

「間違えた。違うウィンドウだ。」

 マギーは他のウィンドウを呼び出す。今度は様々なグラフや、表が表示されたウィンドウだった。

「さっきもこれも遺伝子解析用のプログラムなんだけね。ここ見て。」

 マギーは全く同じ数値が書かれた二行の表の右下を示す。

「これ遺伝子バンクにあった火星のテンカワアキトと、ナデシコに居るテンカワアキトの遺伝子配列を調べたものなんだけどね。……一致率100%、同一人物なんだよ。」

 マギーの言葉にジョンは混乱した。それなら二日で火星から地球まで行ったことになる。
しかし人が何万kmもの宇宙空間を最長二日で移動する方法なんて存在しない。
正にSFのテレポテーションか、ワープをしたと言うしかない。

「なあマギー? 俺は科学者じゃないが、実際に人をテレポテーションやワープさせる事が出来るなんて一度も聞いたことが無いけど。マギーは聞いたことが有るか?」
「いや、私だってそんな話聞いたことが無いね。」

 その後二人はこのテンカワアキトの二日間の謎について数時間頭を悩ませた。

「……君たちはこれから単独で火星へと向かう。
我々は君たちが無事に地球へと戻って来てくれる事を信じているし、それが君たちの義務でもある。
そして、私たちは君たちが無事に火星に取り残された人々と共に帰還する事を待っている。
……ではフクベ君、火星をよろしく頼むよ。無事帰ってくる事を信じているぞ。」

5分近くあった連合軍統合戦略作戦本部の総司令官直々の言葉が終わった。

「作戦本部、ビックバリアの通過コードをナデシコに送信。現在受信中……完了。」

ルリの報告を聞きプロスはフクベに言葉をつなげる。

「では提督、発進の合図をお願いします。」
「では……、連合軍統合戦略作戦本部直属第13番独立艦隊、火星に向けて発進せよ!!」

フクベの気合の入った言葉に一隻の戦艦しか無い小さな艦隊は火星に向けて動き出す。

「ナデシコ、火星に向けて発進。」
「相転移エンジン、出力上昇。核パルスエンジン、発電モードで定格出力の98%で稼動。」
「反重力推進器、オールグリーン。浮遊モードから推進モードへ移行。」
「第5、4防衛ラインから通過許可が下りました。」

 フクベの声に動きだすブリッジ。
 ユリカはフクベの言葉を受けてクルーに内容を伝達し、クルーはそれぞれ自分の担当についてきびきびと報告する。
それは予定日数32日の火星への航海の始まりだった。

 丁度ナデシコが発進を開始した頃、アキトはトレーニングルームで体作りをしていた。
今のアキトは未来の復讐者と違ってそれ程体力が劣っている訳ではない。
ただ、今の労働者としての長時間の労働に耐えられる筋肉では無く、
一瞬の行動が生死の関わる状況下では、的確に行動できるような体が必要なのだ。
そこでアキトは指先足先まで的確に素早く行動出来る様に体を作っていた。

「フッ! フン! ハッ! ヨッ!」

 基本的に体の筋肉を動かす神経――即ち神経細胞、ニューロンの集合体――は反復動作を続けていると、
その行動に合う様に神経ネットワークを組替えていく。
それはニューロンは絶えず増加しており無秩序に繋がってゆき。
そして、行動に合わないニューロンは死滅していくことでネットワークを行動に合うように整理していく事だ。
これが運動神経が鍛えられると言う事のメカニズムである。
 未来においてアキトはイネスよりそう教わった。実際にはもっと説明が長かったが。

 

プシュー

「がんばってるねー。アキト君。」
「……ミーミルさんですか。どうしたんですか?」
「いや、コックの君がどれだけ頑張っているかなーと思って見に来たんだよ。」

 トレーニングルームに入ってきたマギーミーミルは全身にびっしょり汗を掻いたアキトにそう言ってきた。

「それにしてもよくやるね。私なら成り行きでなったら、そんな一生懸命にトレーニングなんかしないな。
そもそも君のパイロット契約はサツキミドリまでの時限的な契約だろう?
そんな事しなくても良いんじゃないかい?」

 マギーはアキトの勤勉さに感心しながら尋ねる。
――む、何と答えたら良いのか。難しい質問だな。
アキトはなかなかその答えを考え付か無い。

「まあ、それはそうですけど。
……今パイロット以外にIFSを持っているのはルリちゃん、オペレータのホシノさんか俺だけでしょう?
もし、パイロットが怪我をして代役が必要だとなったら、俺が出るしかないでしょう。
だから、もしそんな事が来ても大丈夫な様に鍛えているんですよ。」

 アキトはマギーの質問に即席にしてはまずまずの答えを返した。

「そうかい……。
でもアキト君は実際にそんな理由でトレーニングを続けられるなんて凄いね。
普通なら可能性に過ぎないと考えてトレーニングなんかしないと思うな。私だったらそしているよ。」
「人それぞれですよ。実際に俺はそう考えてやっているんですから。
それにしてもミーミルさんは何をしに来たんですか?」

マギーの質問に何とか答えたアキトは少し安心する。

「アキト君、さっきから思っていたんだけど、
そんなミーミルさんなんて他人行儀ではなくてフレンドリーにマギーって呼んでおくれよ。
私もアキト君って呼んでいるんだから。
あと私が何故来たって? ……いやいや、ただ単にアキト君の様子を見に来ただけさ。
それじゃ、アキト君。トレーニング頑張ってね。」

マギーはそう言ってトレーニングルームから出て行った。
アキトはマギーが出て行くのを見ると再び体作りに取り組んだ。

 

「それにしても、調査書に書いてあった内容と違うな?
あんな戦争に対して前向きな性格じゃないって書いていたけど。」

マギーは通路を歩きながら呟いた。

「暇ね〜。」
「本当に、暇ですね〜。」

 ミナトとメグミの声がブリッジに響く。
先程ナデシコが火星に向かって進み始めたときは張り詰めた空気があったが、人間何時までもそれを持続させる事は出来ない。
そしてナデシコのブリッジはフレンドリーな雰囲気の傾向が非常に強い為だろう、ブリッジの空気は完全に伸びきっていた。

「二人とも少し気が緩みすぎですよ。」
「でもね〜。」「そう言っても〜。」

 ルリの忠告にも二人は間延びした声で返す。
――全くメグミさんもミナトさんももう少し気を引き締めてほしいのですが。……やはりナデシコBは軍の戦艦だったんですね。
軍艦の艦長の経験からして、このナデシコのブリッジの雰囲気は伸びきっていた。
いや、火星に一隻で向かうと言うのにこの様な雰囲気で居られるのだから、クルー全体が図太い性格なのだろう。
ふう、とため息をつきながらブリッジの上層部を見上げるルリだった。

「私にどうこう言う権限は無いけど、流石にナデシコの士気に関わるわよ?」
「まあ……、仕方がありませんな。生理的な物なのですから、皆さんわきまえているでしょうし。」
「うむ。人間休める事が出来るときに休むのが一番だよ、ムネタケ。」
「仕方が無いじゃない。実際に暇なんだから。」

管理職側の四人組、軍のムネタケ、ネルガルのプロス、スターフォースのマギー、そしてフクベはブリッジ上層で話をしていた。
ムネタケはナデシコの士気の影響を懸念しているが、3人は全く問題視していない。
しかし、ムネタケも含む4人がお茶と茶菓子を前に話をしているのだから話にならないと思うが。

「それにしても、クルーには火星に行こうとしているのに全く危険性が分かっていないみたいね。本当に大丈夫なの、プロスペクター?」
「いやはや、それはクルーの皆さんが考える事で、私は火星から帰還できる様なクルーを集めたつもりですが。」
「まあ、自分の身の危険が掛かっているから、そこら辺はプロスの事だからしっかりしてるんじゃないのかな。」
「大丈夫だろ、ムネタケ。何と言ってもあの100年に1度の天才が乗っているのだから。」

お茶をすすりながら言葉を発する4人。
4人とも見事にナデシコに馴染んでいた。

丁度ナデシコと同じ頃、ある船が宇宙へと飛び立とうとしていた。

「これから相転移機関試験艦ソクラテスは最後の宇宙試験に出航します。
貴方にもこの船の最後の航海の出航ぐらいは見てもらいたくて、お忙しいのにどうもすいません。」
「いいえ、私もこの船には関心が有りましたから。いつか見に行こうと思っていましたから、丁度良かったです。」

 ここは地球連合軍総合技術開発工廠内部ドック。そこに連合軍の相転移機関試験艦ソクラテスが停泊していた。
試験艦ソクラテスは地球連合軍総合技術開発工廠とスターフォースインダストリーが共同で開発した相転移エンジンを搭載した最初の船である。
その存在は軍機の名の下に隠されており、外部には漏らされていない。
その防諜の度合いは高く、クリムゾンもネルガルも明日香にも詳細な内容は殆どもれていない。
そのソクラテスを一望できる今は誰も居ないドックの自動製造機械の管制室から女性が通信をして居た。
彼女は腰ほどまである長い藍色の癖のない長髪を持ち、連合軍の将官の制服を着ている見た目20代中頃の女性だった。
通信が終わった後彼女は一人でソクラテスの出航を見つめていた。

「どうですか? ソクラテスは?」

 その彼女に声をかける、管制室に入ってきた白髪が混じる初老の男性。
こちらも連合軍の将官の制服に身を包んでいる。

「お久しぶりです、リーマーグ中将。そうですね……彼女はもう一つの希望の種のように見えます。
連合の起死回生の一撃の元となる、ね。」
「……では、そのもう一つの希望はやはりナデシコだとお考えに?」

 中将は彼女に丁寧に尋ねた。

「……そうですね。あの船は今までの戦艦に無い物を持っていますから。
だから、私たちには思い付かない様な事をしてくれると思いますよ。」

 そう言いったきり二人は何も喋らない。

 

 

「……まあ、このことはこれ位にしまして、どうしました?
あなたは制服着ている時に冗談を言いに来る様な性格じゃありませんよね?」
「ええ、まあ。
先程言っていた件ですが、ネルガルもあの提案をやっと同意してくれました。
そのことをお知らせに来ました。」
「そう、ありがとう。ごめんなさい、無理を言ってしまって。」
「いいえ、かまいませんよ。あれ位の事、貴方のお願いなら。」

 そう言って、ドックを見つめる中将。
もう、ソクラテスは出航してドックは空だった。

 ナデシコは現在地球の重力から脱出し惑星間空間に出て行こうとしていた。
と言っても現在第3防衛ラインの端である低周回軌道当たりでまだまだ地球の重力の底と言っても良い所に居るのだが。
 そして現在ナデシコはビックバリア防衛システムに設定された安全地帯を通過中だ。
この安全地帯はビックバリア外にあるコロニーと行き来するために設定された防衛システムが動かない領域を指す。
しかし防衛システムが動かないと言っても、IFFで発せられる特殊なコードをシステムが認識できないと敵性体と認識してシステムが動く。
特にナデシコはこれまで地球に無い相転移機関を搭載している。
その為、これまでのコードとは全く新しい、防衛システムの相転移反応に対する攻撃を停止させる通過コードが必要なのだ。
だから軍の極秘艦でもここを通過するときはIFFを起動するしかない。

「レーダーに反応。IFFに応答あり、
連合軍総合技術開発工廠所属、相転移機関試験艦ソクラテスです。
……相転移反応も確認できます。」
「ほう……。
まさかネルガル以外が相転移機関をもう実用化に成功するとは。
ルリさん、あの船に関する情報を出してくれませんか?」

 ルリは相手の応答データの内容を報告した。
それにプロスはルリの報告に驚く。
 ルリもそのIFFの応答データの内容、相転移機関を搭載している事に驚いていた。
特にルリの驚きは、わざわざセンサーで相転移反応を調べたほどだった。
 なぜなら、ネルガルでも火星で発見されたかなり劣化している現物を前にして、30年の時間を掛けて実用化した物だ。
しかし、他の組織は戦争が始まる前から研究を開始していたとしても精々10年から5年ほどしか経っていない筈だ。
技術の発展は技術の発展速度自体を加速するとよく言われている。だが、それを考えてもその船の存在はとても信じられない代物なのだ。
元々相転移エンジン自体通常なら数百年先のオーバーテクノロジーなのだから。

「試験艦ソクラテスの分析結果を表示します。」

 簡単な性能表と同時に船の3Dモデルを表示する。
その形は連合軍の装甲を持った船と違い、伝統的な無装甲船で長年の進歩により無駄が無く、反ったフレームが高い対応力性と機能美を感じさせていた。
それは欧州の航空宇宙機メーカーを傘下に持つスターフォースの船体の特徴に似ていた。
塗装は全体的に青く、赤外線などを遮蔽する性質を持つものだと、オモイカネは分析していた。

「すごいわねー。」
「一体どこが凄いんですか? ミナトさん。」
「細長いでしょあの船。キールが相当高い対応力性を持っていないと、あんな加速じゃ折れてしまうわ。」

 メグミの質問にソクラテスに感嘆しながら答えるミナト。

「ふむ……副提督は心当たりがありますか?」
「……総技廠は機密が多いことで軍内でも有名でね。軍内でも殆ど内容は分からないわ。」

 ムネタケは言葉を選んでプロスの質問に答える。

「IFFデータの分析からは向こうも安全地帯を通ってビックバリア外に出ようとしているみたいです。」
「ソクラテスから通信です。艦長と話がしたいと。どうしましょう?」

メグミはユリカの居ないブリッジ上層部を見上げながら報告する。
現在ユリカはアキトの所に行っていて居ない。

「うむむむむ、困りましたな。今艦長はブリッジに居ないのですが。
ルリさん、艦長を今すぐブリッジに呼んでくれませんか。」

プシュー

「アキト〜。元気?」

ナデシコにソクラテスから通信が入る少し前。
ユリカはアキトがトレーニングルームでトレーニングをしていると食堂で聞いて、トレーニングルームにやって来た。

「どうしたんだ? 今おまえ、勤務時間じゃないのか?」
「そうなんだけど、休憩時間の合間を縫って来ちゃった。」

ユリカはそうニッコリと微笑みながら言う。
そしてユリカはアキトの隣の機材に腰掛けた。

「そう言えば、アキトと火星で別れて8年になるんだね。」
「……ああ。」

ユリカが唐突にトレーニングをしているアキトに尋ねた。
その声には久々の再会を懐かしむ感情が含まれていた。
対してアキトは未来の出来事が頭の中を通り過ぎるのを感じながら、素っ気無く答える。

「ねえアキト。アキトは私と別れた間どんな事が有った?
私ね。地球に着いてから色々な事が有ってね、今はナデシコにも一緒に付いて来てくれたジュン君って言うお友達も居るんだよ。」

ユリカは無言でトレーニングを続けているアキトに話しかけた。

「……そうか。お前は知らないのか。
ユリカを見送った後にテロが起こったんだ。それで親父たちが死んじまったんだ。」
「テロ!? そんな……おじ様たち死んでしまったの?」
「ああ、テロリストの爆弾で崩れた鉄骨の下敷きになっちまってな。
ユリカ、お前何か知らないか?
……もし、もし「艦長。すみませんがブリッジに至急戻ってきてくれませんか。」

タイミング良くアキトの言葉を遮って、ユリカの前にウィンドウのルリが現れた。

「ど、どうしたの? まだ休憩時間の終わりまで20分ほど有るのに。」
「すみません。今、至急の通信が入ってきまして艦長と話がしたいそうです。」
「そう。それじゃ今すぐ行くから。アキトごめんね。急用が出来たみたいだから、また今度ね。」

ルリに至急の連絡に、ユリカは名残惜しそうな顔をしながらアキトの居るトレーニングルームから出て行った。

 

 

ピッ!

「アキトさん。アキトさんはユリカさんに本当の事は言わないつもりなんですか?」

アキトがユリカが出て行った扉を見つめ続けている所に、ユリカが去った後に通信を入れるルリ。
その言葉の内容から先程の会話を聞いていたようだ。

「ああ。……ユリカの言葉の火星で別れて8年って所に愕然としてね。
理性では分かっていても、心は実際に言われないと分からなかったな。
……今のユリカは火星で火星に人々を見殺しにしていないし、フクベ提督の犠牲を見ていない、記憶マージャンも体験してなくて、相転移砲も撃っていない、和平交渉にも出席していないし、遺跡を捨てに行っていない。
そして一緒に屋台に引いた事も火星の後継者の事も全く知らない、経験して居ないと言う事実をね。」
「アキトさん……。」

虚ろな声で言うアキトにルリはただ呟くしか出来なかった。

 

「でもアキトさん。でも、あんな未来にしない為に今ナデシコに自分の足でやって来たんでしょう。
一緒に歩んでいけば良いじゃないですか。一緒に明るい幸せな未来を作れば良いじゃないですか。」
「そう、……そうだね。
その為に俺はナデシコに乗ってきたんだから、未来を変えるために今ここに居るのだから。
ありがとう、ルリちゃん。変な気になってたよ、俺。」

ルリの言葉にアキトの虚ろな瞳に力強い光が点り始めた。

プシュー

「すみません。」

ブリッジに駆け込んできたユリカ。 少し乱れた息を整えて、ユリカは前にウィンドが開いた。
そこには連合軍の制服に身を包んだ一人の男性が映っていた。

「初めまして、地球連合軍総合技術開発工廠所属相転移機関試験艦ソクラテス艦長のサティエンドラボースです。」
「初めまして、機動戦艦ナデシコ艦長のミスマルユリカです。
どう言ったご用件でしょうか?」

ユリカは先程まで走って息が乱れている事を少しも表に出さず会話する。

「はい、単刀直入にお話します。
現在ソクラテスもナデシコも同じ安全領域を航法中です。
本来ならばそちらに通過優先権が有るのですが。
現在ソクラテスは船体構造の耐久試験を実施中です。
そのため減速を行うと試験を最初からやり直さねば成りません。
そこでソクラテスを先に行かせて頂きたく、こう通信を入れたのですが構わないでしょうか?」
「そうですね……。」

 そう言ってユリカはプロスの方に顔を向ける。
プロスはそれに対してただ頷いて見せた。

「ええ、構いません。急いでいませんし、それで迷惑が掛からないで済むのなら。」
「有難うございます。本来ならばそちらに優先権があるのですが。
本当に噂道理の人ですね。貴女はあの人と肩を並べられる人ですよ。
……あと、無事地球に戻って来る事を私は信じていますよ。」

 そう言ってボースは通信を切った。
その後、ソクラテスは相転移エンジンから直接供給される高エネルギーの白い炎を噴射しながら昇って行った。

 

「……サティエンドラボース、ですか。」

プロスはその名前に何か頭に引っ掛かる物が有るのか、騒がしいブリッジで一人呟いた。
その声は後ろで黙って聞いていたフクベにしか聞こえていなかった。

「地球は青かった、か。」

ゴートホーリは誰も居ない展望室で一人呟いてみた。

「人類が宇宙に飛び出して240年近い時が経った。
しかし、2196年の現在でも木星まで人類は足を伸ばしていない。
映画では2001年には木星に向かっているのに。」

ゴートは漆黒の闇の中浮かぶ水の青と雲の白の惑星、地球を眺めながら一人呟く。

「確か、オモイカネだったか?」
”何でしょう?”

ゴートの呟きに反応したオモイカネはゴートの前にウィンドウを表示する。

「お前は、暴走してクルーを殺したりはしないよな?」
”……その質問には答えられません、デイブ。とでも返せば良いのですか?”

オモイカネの答えに苦笑するゴート。
それは、わざわざウィンドウの表示を赤いモノアイに変えて、人工合成で答えると言った徹底振りだった。
その台詞は「2001年宇宙の旅」でHALがデイブに返した言葉だった。

「なかなか面白いじゃないか。」

オモイカネの味の有る答えに、にやりと笑うゴート。
静かな展望室で青く輝く地球を見ながら、200年以上前のネタで盛り上がる二人だった。

「全くガイ、何時まで部屋に篭っているんだ。」

 ジョンは一人、ガイの部屋へと向かっていた。
 ここで何故ガイが部屋に閉じ篭っているのか、説明をしておこう。
前回ガイはジョンに怪我人なのに安静にして置かなかった事に酷く怒鳴られた。
それだけなら何度もあった事なのでたいした事無いのだが、ジョンがガイのアニメ関係の資料を全て取り上げた事に有る。
ガイにとってそれらはとても大切なコレクション。
骨折が治るまでの間の事とは言え、触れる事すら出来ないと言うことは、ガイにとっては大変ショックな出来事だったのだ。

プシュー

ガイの部屋の前に着いたジョンは艦長から貰った、一回限りのガイの部屋のキーコードが入ったキーカードをかざした。

「ガイ、安静にしてるか?」

部屋は明かりが点いていなく、暗かった。
そこでジョンは部屋の明かりを点けるべく、壁のスイッチに手を伸ばして点けた。

「! ガイ!!」

ジョンは明るくなった部屋の光景に驚いた。
何故ならガイが部屋の真ん中で倒れていたからだ。
それは眠っているとは言い難い光景だった。

「ガイ! おい! 大丈夫か!?」

幾ら呼びかけてもガイは返事を返さず、ただジョンの叫び声が部屋の中に響くだけだった。

 

 


 

あとがき

しまった!! ガイが18才なんて!!
こうなったらガイの過去を変更して……いや単純に年齢だけを弄るとか。どちらが良いでしょうかね、代理人さん。
あと、ジュンの出番が消えてしまった。
まあ、途中でジュンの出番を作るつもりですので彼にはその時まで我慢して貰いましょうか。
最後に次回予告。

地球脱出したナデシコ一向はサツキミドリへと向かう。
アキトたち逆行者はサツキミドリを救うべく暗躍する。
そして、ついにアキトの超人的能力がナデシコの面々の前にあわられる。
また、ジョンたちに恐怖の食べ物が襲う!!
アキトはプロスとマギーの不信感を払拭できるのか?
ジョンたちはアレの前に倒れてしまうのか!
倒れていたガイは無事なのか!
それは次回を見ないと分からない。

次回、第4話 休日宇宙に「ときめき」を見てね!!

 

 

 

代理人の感想

ん〜。2,30年くらい経っても性格は変わりそうにないので別に年齢をいじってもいいんでしょうが。

原作だと殆ど誰とも絡まないで消えるキャラクターなのでアキトとのイベントが無ければ別に50歳くらいでもいいかな・・・・

と思ってたら、九十九がいるんですよねぇ。

奴さんも設定ではガイと同じ18歳(絶対嘘だw)なので、

経歴を直して原作どおりの年齢にしたほうが何かと不都合が無くていいと思うんですが、

こればっかりはプロットの問題もありますし、最終的には昭博さんが決めるしかないのではと思います。

 

それにしてもちくちくと面白くなってきてますねぇ。

ツボを少しずつ刺激されてじらされてる感じ。w