輝ける未来を
第五話

テンカワ一家がナデシコに乗って数日が過ぎた。

基本的に食事はアキトの部屋の居間で全員でとることにし、普段は賑やかな時間だが、

この日は皆真剣な顔つきで食卓(ちゃぶ台)を囲っていた。

「そういえば今日でしたね。ムネタケが反乱を起こしたのは。」

「ああ。だが、今回はあいつが乗っていない。」

今回はムネタケの変わりにキョウコが副提督として乗船しており、

念の為ナデシコ内を隈なく調べたが、軍人は一人も見当たらない。

「いいことじゃないの。」

「・・・一応用心だけはしていて欲しい。何が起こるか分からないからな。」

「明お兄ちゃん、お塩取って。」

アキト達が調べた結果アイの母親は既に死亡していたためシズマが養女として引取ったので

彼女の今の名前は『テンカワ アイ』となっている。

「アキトさん、俺は格納庫で待機しときます。」

「なら俺はブリッジにいるとする。もしものために備えとくとしよう。」

「私達はどこに居ようかな?」

「父さんたちも俺と一緒に居て欲しい。その方が守りやすいから。」

「・・・ご馳走様。」

一人黙々と食べていた琥珀が手を合わせて小さくお辞儀をし食器を台所に持っていく。

「もう行くのか?」

「今日は出勤時間が早いから。」

再び居間に戻って来るとアキトの頬に軽くキスをしてそのまま部屋を出ていく。

この行為に初めは抵抗したアキトたが『私のこと嫌いなのですね』と涙目で訴え(目薬使用)

シズマとアヤカが彼女の味方をして(明は中立)アキトを責めるので

今では抵抗することを諦めている。

「でも、嫌ではないんでしょう?」

「それは、確かに嫌じゃないが・・・」

「なら、それで良いではないですか。」

明も食べ終わった食器を台所に下げ軽く洗うと、玄関に向かう。

「それでは、行って来ます。」

「ああ、そっちのこと頼んだ。」

軽く頷くとそのまま部屋を退出する。

「さて、私達も行くとするか。」

「ご飯、美味しかったわ。」

先の二人に見習い自分達の食器を下げ退室する。

残ったアキトは台所の四人分の食器を洗っていく。

五感を失い料理をすることを諦めていたアキトにとって

再びこの場に立てることがとても嬉しくて、料理人時代の腕を取り戻すべく

毎日の食事は彼が作り、そのおかげで段々と腕も戻ってきている。

彼は気付いていないがこの場に再び立てたことが彼の心もまた徐々に癒されていた。


「私達の目的地は火星です。」

昼が過ぎた辺りでプロスがクルー全員にそう告げる。

そのことに関して真っ先に食って掛かったのはやはりジュンだった。

その後延々と言い争いを続けていたが、アキトは無視して艦内の様子を監視している。

「今のところ異常は無いか・・・」

「問題・・・無いですね。」

艦内の至る所をチェックしているが問題は無い。

「アキトさん、もうそろそろ耳栓の準備をしてください。」

ルリの警告を聞くと懐から家族の分の耳栓を取りだし手渡す。

「これは?」

アキトがその質問に答える前に海面からトビウメが浮上してくる。

「トビウメから通信を求めているので繋げます。」

「死にたくなかったら耳をふさぐんだ!!!」

アキトの鬼気迫る迫力に皆自分の耳を塞いでいく。

「ユー―リー―カー―。」

ミスマルコウイチロウのパパさんボイスが炸裂する。

静まり返ったブリッジで最初に復活したのはやはりアキトだった。

「・・・ルリちゃん、被害は?」

「ゴートさんとフクベ提督以外の人は損害は軽微です。」

アキトが振り向くと二人は白目を剥き泡を吹いて痙攣していた。

二人の魂は今まさに体から飛び出て太陽の神殿に召されんとしていた。

二人が医務室に運ばれた後、一度目と同じようにユリカがマスターキーを抜き、

プロスと一緒に交渉しに行くことになった。

「アキト、私と一緒に行こうよ。お父様にアキトのこと紹介してあげる。」

「別に今更紹介されることも無いが?」

「アキト、何時のまにお父様と親しくなったの?

 まさか、もう結婚の許可を・・・ユリカ感激!!!」

「どこをどう考えたらそっちの方向に行くんだ?」

身をくねらせながら悶えている姿に思わず恐怖し一歩退く。

「結婚式はやっぱり洋式だよね。あっ、でもでも和式も捨てがたいかも。

 ねえ、アキトはどっちが良い?」

「「艦長(ユリカさん)いい加減にしてください!!」」

ユリカの暴挙に見かねた妖精姉妹がついに咆哮をあげた。

「「アキトさんは私の物(夫)です。」」

「えーー、違うよアキトは私の物だよ。」

三人の視線が火花を散らし嫉妬の炎がブリッジの気温を上げていく。

「あのさ、三人とも少し落ちつこうよ。」

「「「アキトさん(アキト)は黙ってて!!!」」」

三人のあまりの剣幕にすごすごと引き下がり、

「ああ、今日も空が青いな・・・」

と現実逃避してしまったアキトであった。

「・・・どうやらここら辺でお二人と決着をつけなくてはいけないようですね。」

ルリは腰の位置を落とし構えをとる。その手にはメリケンサックを装備している。

「・・・そうですねアキトさんが誰の物かここら辺できっちり教えといたほうが良いですね。」

琥珀もまた構えをとり、静かに自分の中の『神気』を練る。

「・・・アキトと私の幸せの為に二人には消えてもらうよ。」

ユリカはどこからか取り出したヌンチャクを構える。

しばしの沈黙の後ルリと琥珀が同時にユリカとの距離を一気に詰めて技をかける。

「聖霊拳術奥義の一『風霊』」

「天河流柔術奥義が参『雷』」

ルリの放った『風霊』がユリカの胸を直撃し少し前屈みになったところに琥珀の『雷』を

顎に食らいナデシコに乗ってニ度目の空中遊泳を味わい床に沈んだ。

ユリカが戦闘不能に陥ったのを見届けると二人は再び構えを取った。

一言も喋らずひたすら相手の隙をうかがう。

まさに一触即発の状態だ。

「ルリルリも琥珀ちゃんも少しは落ちつきなさい。」

ミナトの止めようとしたセリフが引鉄となり、二人とも間合いを一気に詰め、

ルリが手刀を振り落し琥珀が回し蹴りを放った。

しかし、二人が放った攻撃は相手に当ることなく何時の間にか

二人の間に割り込んでいたアキトによって止められていた。

「二人ともいい加減にしろ!!」

「「だって、琥珀さん(ルリちゃん)が・・・」」

二人ともまだ言い足りなさそうだったがアキトの剣幕に口を閉じる。

「どうして二人はお互いに敵視するんだい?二人は姉妹みたいなものなんだよ。」

喧嘩の原因が自分にあるのだが、三人が言い争いしている間は現実逃避していたために

内容を聞いていないので、そのことを知らない。

「あのーーーー、アキト君。」

「何ですかキョウコさん?」

「あのね、パンジーとクロッカスが襲われているんだけど・・・」

「「「・・・嘘!!!」」」

スクリーンには、今まさにチューリップに飲み込まれようとしている二隻の戦艦が映っていた

「馬鹿な!何時のまに浮上していたんだ。」

「艦長達が争っている間にはもう居たけど。気がつかなかったの?」

「「「気がつかなかった(つきませんでした)」」」

ルリや琥珀にとってチューリップに襲われる人よりもアキトの方が大事なのだ。

「ともかくミサイル発射!こちらに注意を向けて。」

「無理です、マスターキーが抜かれています!」

「なんてこったい!!」

ブリッジ内でそんなことをやっている間に距離が段々と縮んでいき、今まさに飲み込まれようとした瞬間

上空から黒い光の矢がチューリップを貫き一撃で沈める。

「こちら明、チューリップの破壊に成功。これより帰還する。」

「・・・明、何時の間に出ていたんだ?」

「アキトさん達は気がつかなかったでしょうが、チューリップが浮上した時点で

 整備班の人達に手伝ってもらって出撃して上空で待機していました。」

明はやれやれと言った感じでため息をつく。

「明さんご苦労様でした。あなたが居て助かりました。」

プロスからねぎらいの言葉がかけられる。

「プロスさん一言言いたいことがあるのですが。」

「なんですか?」

「ミスマルユリカ艦長を降ろしませんか?」

「それはどうしてですか?」

「では、言わせていただきます。彼女がナデシコに乗艦してから数日経ちましたが、彼女がその

 役職にふさわしい仕事ぶりをしたことがありますか?」

「・・・・・・」

「そういわれてみると・・・確かに。」

「そうよね。」

「テンカワさんばかり追っかけて。」

「仕事すっぽかしてばかりで・・・」

「その仕事は僕にまわって来るんだよなーーー。」

ブリッジに居る面々が次々に明の意見に同意していく。

「だっ、だがユリカは士官学校を主席で卒業した・・・」

「それが仕事を疎かにする言い訳にはなりません。」

アキトの意見を両断する。

「さらに言えば、ここで軍に引き渡せば通してくれると思います。なんせ相手は艦長の父親で、

 しかも相当の過保護みたいですから。」

プロスは明の言葉にだいぶん揺れている。そこを一気にたたみかける。

「一人分の給料を払わなくてすみ、しかも軍と揉め事を起こさなくてすむ。まさに一石二鳥。

 経済的に見てもお得だと思うのですが。どうでしょう。」

「いやーーまったくそのとうりですね。解りました、そうしましょう。」

「なら、俺が連れていくので格納庫に運んできてくれませんか?ついでに軍とも話しをつけて来ます。」

通信が切れるとプロスはユリカを背負い格納庫に連れて行く。

「・・・ユリカ・・・」

「「やりました。邪魔者が一人消えました。明さんありがとうございます。」」




「初めましてミスマル提督。ナデシコ所属機動兵器パイロット天河 明です。」

「うむ。君には部下を助けてもらうばかりかユリカまで連れてきてくれて大変感謝している。」

本来パイロットごときが提督と話しをするなどもってのほかだが部下を助けてもらった相手に対し

無下に断る事も出来ないのもあるし、なによりコウイチロウは明に興味があったので会うことを許した。

「単刀直入に言います。ナデシコを通してください。」

「すまないがそれはできない。」

「提督の立場もわかりますが私にも退けない理由があるんです。」

「・・・その理由とは何だね?」

「それを話す前にこの戦争の隠れた真実を話さなければなりません。もしこの事を聞くならば提督は退き返すことは出来ませんし、

 私達に協力してもらわなくてはいけません。それでもよろしければお話します。」

自分が知らなくてもいい世界があることを十分に知っていたコウイチロウだが、今はただ知りたいといった

気持ちで突き動かされ、首を縦に振った。

「ならば、お話しますこの戦争の真実を・・・」

明は全て語った。百年前の月で起った独立運動から木蓮成立までの出来事を包み隠さず全て・・・

「・・・信じがたい話だが君の目を見る限り嘘を言っているわけではないようだな・・・」

「御理解いたたき感謝します。」

「それで君の目的とは?」

「私達の目的は木蓮との和平にあります。そのためには木蓮の和平派と接触するために

 どうしても宇宙に行かなくてはいけません。」

「・・・わかった。この場を通そう。」

「それともう一つお願いしたいことがあるのですが。」

「なんだね?」

「ナデシコが火星から戻ってきたとき私を軍に徴兵して欲しいのです。」

「その目的は?」

「提督もご存知のように軍の内部も腐敗が進んでいます。木蓮だけ和平を進めても地球側がそれに答えなければ

 意味がありません。だから強硬派など障害をきたす者達を一掃したいのです。」

「そのために内部から情報を集めるためかね?」

「はい。」

「・・・わかったナデシコが戻り次第君を徴兵するように手筈を整えとく。」

「すみません。無理難題ばかりを押し付けてしまって・・・」

「気にしないでくれたまえ。私もこのような馬鹿げた戦争でもう部下を失うのが嫌なのだ。」

「・・・・それではもうそろそろナデシコに戻らせていただきます。」

「こちらのことは気にせずがんばってくれ。」

明は激励するコウイチロウに敬礼した後部屋を後にした。




「交渉のほうはどうなりましたか?」

ナデシコに戻ってくると格納庫に待ちうけていたプロスがそう聞いてきた。

「上手くいきました。軍はナデシコを通してくれるそうです。」

「そうですか、いやーー本当に助かりましたよ。」

軍と揉め事を起こさずにすんだので本当に嬉しそうだ。

「それより、後任の艦長はどうなりました?」

「はい。そちらのほうも解決しました。」

「やはり、副長のアオイさんがなったんですか?」

「いえ、最初アオイさんに頼んだのですが断られてしまいまして。」

「なら、ルリちゃんか琥珀ちゃんですか?」

むろんアキトも頭の中で候補に上げてみたが断るのは目に見えていたので却下した。

「残念ながら、お二人とも断れてしまって。」

明の頭の中を嫌な予感が渦巻きとぐろを巻いていた。

「・・・まさか、俺なんて言うおちは無いですよね?」

「はい。そのとうりです。」

「何故に俺なんですか!!!」

「艦内で投票した結果実に八割以上の支持があったのです。」

「俺の意見は!?」

「こういった場合なきに等しいです。まあ、諦めて艦長に就任してください。」

「・・・一つ聞いていいですか?」

「はい、何でしょうか?」

「俺を推薦したのはだれですか?」

「ああ、それはアキトさんですが、それがなにか・・・」

(そうですか、ユリカさんを降ろした俺に対するあてつけですか。)

「ふっふっふっふっふっふっ・・・・」

明が不気味な笑い声を出す。

「あの、どうかなさいましたか?」

「いえ、別に。それより艦長の就任式は何時するのですか?」

「それに関しては宇宙にでて、パイロットを補充した時にいっしょにしようと。」

「解りました。疲れたので部屋にもどらしてもらっていいですか。」

「はい。お疲れ様でした。」

明はふらつきながらそれでいて目が非情に血走っていた。

・・・翌日

「明、俺が悪かった。もう勘弁してくれ!!!」

「いいえ、駄目です。ほら、腕立て伏せ後五百回。その後素振り三千回が待っていますよ。」

「だれか助けてくれーーーーーー(涙)」

その日トレーニングルームからアキトの悲鳴が途絶えることは無かった。





後書き

皆様お久しぶりです。へっぽこを極めた作者akiraです。

高校の小テストが重なり書き上げるのが送れました。

しかし私が言うのもなんですが、アキトの影が薄い。

そして明が活躍しています。

このままでは主役の座が奪われてしまいます。

次からはアキトにも活躍するよう頑張って書いていきたいと思います。

それではまた次回に

 

 

代理人の感想

・・・・・・・まぁ、ヘッポコというのもそれはそれで一つの味ですし(爆)。