床一面に畳が敷かれた──まるで道場の様な場所で、少年と少女が向かい合っていた。
少年の方は、肩よりも伸びた白銀髪を尻尾の様に纏めた碇シンジである。その格好は中学校の時の制服だ。
シンジはその金色の瞳で、自分の正面に立つ少女を真剣な表情で見つめている。
正面に立っているのは、蒼銀の髪をしたアルビノ体質の少女──綾波レイだ。その格好はシンジと同じ中学の制服である。
レイは正面に立つシンジをいつもと変わらぬ無表情で──というよりも、ボーっとした様子で眺めている。

膠着状態が続いてから十分近く経過している。お互い見つめあったまま全く動かない──というよりも動けないでいた。
正確に言えば、動けないでいるのはシンジだけであり、レイの方はシンジが動くのを待っている。
レイが動けばそれで勝負は決まってしまうのだ。だが、それでは意味がない。これはシンジを鍛えるための修行だからだ。

(やっぱり、僕から動かなきゃ始まらないよな……よし!)

意を決してシンジは動いた。両手をズボンのポケットに突っ込み、中から何か小さな物を取り出した。
それはすぐに大きさを変えてエアガンになる。シンジが前の世界でレイに渡された物だ。
レイに渡された物は、基本的に大きさを自由に変えることができるため、普段からポケットに入れているのだ。

シンジはエアガンを二丁取り出して構えると、レイを狙ってトリガーを引いた。
パシュッというエアの音が鳴り、二丁の銃口からBB弾が発射される。
この発射されたBB弾は店にでも売っている普通の物だが、ATフィールドを纏わせることによってかなり強力なものになっている。

かなりの速度で発射されたBB弾であったが、レイはそれを身体をわずかに動かす事で避けた。
シンジはエアガンの銃口をレイに向けたまま、連続でトリガーを引く。

キィィィィィーン



両方のエアガンから計二十発近くBB弾が発射されたが、そのほとんどがレイの展開したATフィールドで防がれてしまった。
最初の数発はしっかりとATフィールドでコーティングされていた。そのため、レイのフィールドを中和する事ができた。
しかし、後から発射された弾はコーティングが甘かったために、レイのフィールドを中和しきる事ができなかったのである。
連射で撃つとコーティングが甘くなるのは、シンジの力がまだまだ未熟である証拠であった。

(だから銃は嫌いなんだよ……! 弾の一つ一つにフィールドを纏わせるイメージなんて、難しくて出来ないって……!)

心の中で愚痴をこぼすと、シンジはエアガンを小さくしてズボンの中にしまう。
そして、またズボンの中から小さな物を取り出した。それもすぐに大きくなる。今度は鞘に納められた木刀だ。

シンジはどちらかと言えば射撃が苦手である。ネルフにいた頃に射撃訓練があったが、その結果も良い方ではなかった。
レイとの修行で随分と射撃の腕は上がったが、それでも銃を使った戦闘より近接戦闘の方がシンジは得意である。

(まだこっちの方がマシだけど、それでも綾波に勝つのは難しい……っていうか無理だよなぁ)

今やっている様な実践式の鍛錬を今までにシンジは何度も行ってきた。
言うまでもなく、相手はずっとレイ一人である。その結果……。

(1534戦中0勝1534連敗……今まで一度も勝ったこと無いんだよなぁ……)

これまでの戦績を思い出すと、どうしても攻撃を仕掛けるのをためらってしまう。
そのため、シンジの動きが止まり、レイも攻撃を仕掛けようとしないため、また膠着状態に戻ってしまった。

(クソッ! 全然隙が無い……)

シンジが隙が無いかと探っていると、レイと目が合った。
目が合うと、レイは口の端を歪めてニヤリと笑った。──最近、ニヤリと笑う事が増えてきている。

「相変わらず情けない男ね、あなたは……。そういう所は、あの髭司令に似たのかしら?」

レイのその言葉に、シンジの雰囲気が明らかに変わった。
こめかみに大きな青筋を浮かべ、隙をうかがっていた瞳がかなり険しくなっている。

(僕と父さんが似ているだって!? 言っちゃいけないこと言ったね……。許さない、絶対に許さないぞ綾波!)

シンジは木刀を上に掲げるように構えた。木刀は未だ鞘に納められたままである。
そして、鞘にATフィールドを纏わせると、シンジは木刀をおもいっきり振り下ろした。
木刀が振り下ろされると、押えられていなかった鞘は、当然の事であるが、レイに向かって凄い速さで飛んでいった。
だが、まっすぐに飛んでいった木刀はレイに簡単に避けられてしまった。鞘は後ろの壁に当たり、壁にはクレーターが出来上がった。

「勝負だ綾波! ゼルエル!

鞘を避けるために横に跳んだレイに、一瞬ではあるが隙が出来た。
ゼルエルの力を発動すると、S2機関の活動が活性化し、シンジの身体能力が爆発的に高まった。
シンジは木刀にATフィールドを纏わせると、木刀を前方に突き出すようにして走り出した。
爆発的に高まった身体能力により、シンジとレイとの間にあった距離はあっという間に縮まる。

(いける! 死ねぇぇぇ綾波ぃぃぃぃ!!)

木刀をレイ目掛けて突き出すのと同時に、木刀に纏わせていたATフィールドを放出した。
もしこの攻撃が当たれば、木刀の突きによる攻撃と放出したATフィールドによる二重の衝撃で、かなりのダメージを負う事になるだろう。
巨人バッタとの戦闘で使った時も、すぐに修復されたとはいえ、巨人バッタにはかなり大きなクレーターが出来上がっていた。

「……甘いわ」

シンジが本気で放った一撃をレイは余裕を持って避けた。
避けられた攻撃は、レイにではなく鞘の時と同じように後ろの壁に直撃した。
シンジの攻撃を受けた壁には、鞘が当たった時とは比べ物にならない巨大なクレーターが出来上がった。

「……ガギエル、サンダルフォン

シンジの攻撃を避けたレイは、右手に巨大な水を造りだし、左手には同じくらい大きい炎を造りだした。
レイが造りだした水と炎をシンジの手前に落とすと、二つの力が干渉し合って水蒸気が出来上がった。
その水蒸気は、お互いの姿を完全に覆い隠してしまうほど濃いものである。

「上か! シャムシエル!

上に何かが跳びあがる影を見たシンジは、鞭を造り出して上に向かって攻撃する。
鞭はシンジの考えた通りに動き、上に跳びあがったものを捕らえた。

「え、嘘!? か、勝ったの? 僕が……」

水蒸気が晴れていくと、そこにはシンジの鞭によって捕らえられたレイの姿があった。
鞭に捕らえられているレイは、信じられないといった表情を浮かべている。
シンジが造りだした鞭は強力である。いくらレイでも一度捕らえられたら逃れる事はできないだろう。

「今日の修行はこれで終わりだよね……え?」

鞭で捕らえられたレイが不敵な笑みを浮かべていた。その笑みを見たシンジは嫌な予感がして半歩下がる。
そして、レイの身体に変化が起こった。レイの身体がだんだんと溶けていき、LCLへと変わっていったのだ。

「やっぱり、甘いわね」

「クッ、後ろ……ぐはぁ!?

いつの間にかに後ろにいたレイが、シンジの顔に拳を打ち込んだ。
かなりの力で殴り飛ばされたシンジは、ピクピクと痙攣して動かなくなった。

「イスラフェルで造りだしたコピーと本物との区別がつかないなんて……やっぱりダメね、あなたは」

レイのそんな言葉は、意識を失っているシンジには届いていない。
その後、殺る気満々だったことがばれたシンジが、お仕置きと称して新技の実験台になったことは全くの余談である。
この世界に来てから続いた半年以上の平穏は既になく、厳しい修行時代に逆戻りしているシンジであった……。















赤い世界から送られし者


第四話『アキトとジュンの……決闘?』

「今回の僕って……ただ痛い目にあってるだけなんじゃ…………」













「ナデシコ許すまじ!!」



黒人の男性──『地球連合軍総司令官』の声が、『地球連合総合作戦本部』の『総司令部内大会議場』で響いていた。
現在、総司令部内大会議場にはアメリカ、インド、中国など、様々な国の軍人が集まっていた。

「ナデシコが行なったのは、間違いなく連合に対する反逆行為である!!」

会議の内容は『ナデシコ』についてである。
前回、ミスマル・コウイチロウがナデシコの拿捕に向かったが、結果は失敗。
ユリカはナデシコを連合に明け渡す事はせず、火星に向かう方針を変えなかったのである。
そして、連合軍はナデシコの一連の行為を反逆行為と見なしたのだ。

「我々は一致団結して木星蜥蜴と戦うべきだ! だが、ナデシコは火星に向かうという。こんな勝手を許して地球は……」

「総司令、緊急通信が……」

スピーチを続ける総司令に、脇に控えていた金髪の女性が声をかけた。
スピーチを途中で止められた総司令は、顔を少し不機嫌そうなものにして女性の方へと顔をむけた。

「こんな時に一体どこからだ……」

尋ねられた金髪の女性は戸惑った様子でそれに答えた。

「それが、その……ナデシコから……です」

「メインモニターに回せ!」

モニターに映像が映ると、そこに映っていたのはフクベ提督だけである。
フクベ提督が何も話さないまま数秒経つと、モニターに振袖姿のユリカが現れ、顔に満面の笑顔を浮かべて挨拶した。

《明けましておめでとうございま〜す!!》



ユリカの振袖姿を見た軍人が「フジヤマー!」「ゲイシャー!」などと言って騒いでいる。
そして、それを見た極東司令は頭を抱え、隣にいたコウイチロウは真剣な表情でユリカの振袖姿を見ている。

《か、艦長! 君は少し緊張しているようだ。私と代わりたまえ》

フクベが慌ててユリカを止めようとしているが、ユリカは全く気にしていない。

「君はまず国際的なマナーから学ばれるべきだな……」

総司令は落ち着いた様子でユリカに皮肉を言うが、やはりユリカは気にしない。
ユリカは振袖姿のまま流暢な英語で総司令に用件を伝える。

「『ビックバリア』を開放しろだと……ふざけるのも大概にしろ!」

ユリカの話が終わると、総司令は声を荒げてユリカの用件を却下した。
ユリカの用件と言うのは、地球を覆っているビックバリアを開放しろというものであった。

ビックバリアとは第一次防衛ラインのことである。
第一次防衛ラインは、木星蜥蜴の母艦ともいえるチューリップの地球侵入を阻止するために置かれた、核融合炉が使われたバリア衛星のことだ。
このビックバリアは宇宙からの侵入に対してもそうであるが、地球から宇宙に出るものに対しても厄介な代物なのだ。
これから火星に向かおうと地球を出るナデシコにとって、このビックバリアは邪魔なのである。

《開放してくれないんだったら、無理矢理突破しちゃいますよ〜?》

「フン、これではっきりしたな。ナデシコは地球連合の敵だ!」

《あらそう? では、お手柔らかに……》

総司令の言葉に、ユリカは不敵な笑みを浮かべて答えると通信を切った。
通信が切れた途端、さっきまで落ち着きを払っていた総司令の様子が変わった。
肩を震わせ、爪が食い込むほどに強く拳を握り締め、こめかみには大きな青筋が浮かび上がっている。

「許すまじ、ナデシコ……! ことはもはや極東方面軍だけの問題ではない……全軍挙げてナデシコを撃沈する!

キレた総司令がナデシコ撃墜の命令を出している一方で、コウイチロウは腕で口元を隠したまま真剣な表情をしている。
それを不思議に思った極東司令はコウイチロウに声をかけた。

「ミスマル提督、どうかしたのですか?」

「いや、ユリカの振袖姿は色気があり過ぎると思いまして……」

頬を赤く染めて言うコウイチロウの口元を見ると、口元はだらしなく緩みきっている。
親バカぶりを発揮するコウイチロウを見て、極東司令は再び頭を抱えて大きなため息を吐いたのであった。










「あはは、交渉失敗しちゃいました〜」

乾いた声でユリカは笑うと、ブリッジクルーへと向き直った。
交渉の達人ともいえるプロスはユリカの交渉に引き攣った笑みを浮かべ、フクベは手で顔を覆っている。

「今のどこら辺が交渉だったんですか……?」

「さぁ? 私にはただ喧嘩を売ってるようにしか見えなかったけど……」

ユリカの交渉を見ていたメグミが不思議そうな声をあげると、それに対してミナトが至極まともな感想を返した。

「それに無理矢理通るのはいいんですけど、ミサイルとか大丈夫なんですか?」

メグミがもっともな意見を出す。第一次防衛ラインのビックバリアを含め、地球には計六つの防衛ラインがある。
第一次防衛ラインは、何度も出てきたがビックバリア。そして、第二次防衛ラインは、衛星軌道上にある巨大なミサイル群である。
第三次防衛ラインには、『デルフィニウム』と呼ばれる機動兵器が配備され、第四次防衛ラインは、第二次防衛ラインよりも少し小さめのミサイル。
第五次防衛ラインには空中艦隊が、第六次防衛ラインには『スクラムジェット機』が配備されているのである。

「大丈夫だと思います。ナデシコのディストーション・フィールドは、真空に近ければ近いほど出力が上がります。
 第四次防衛ラインに到達する頃には酸素がかなり薄くなっているので、地上からのミサイル程度なら十分防げます」

ルリがモニターにデータを出しながらメグミの意見に答える。

「ルリさんのおっしゃる通りです。問題は、第三次防衛ラインのデルフィニウムと第二次防衛ラインの大型ミサイルです。
 それまでは特に問題ありません……ですから艦長、その間に早く着替えてきて下さい」

プロスが振袖姿のユリカを指さして言うと、ユリカはキョトンとした顔になる。

「あれ、似合ってません……?」

「いえ、似合っていますよ艦長……。ですが、今はお仕事中ですので制服を着てください……」

ユリカの振袖姿は似合わないわけではないが、戦艦の中ではかなり違和感がある。しかも、今は仕事中である。
プロスに注意されたユリカはブリッジから出ると、着替えるために自分の部屋へと向かおうとした。
が、ユリカはふとある考えが浮かび立ち止まった。顎に手を当てて真剣な顔をして考える。

「よし! 着替える前にアキトに見せに行こ〜っと!」

元気な声を上げると、ユリカは自分の部屋ではなくアキトの部屋へと向かったのであった。










「綾波のやつ……僕のことをサンドバックか何かと勘違いしてるんじゃないか……?」

未だに痛む首を押さえながらシンジは愚痴をこぼす。今シンジがいるのは食堂ではなく、自分の部屋だ。
本来なら食堂で働いているべきなのであるが、パイロットも兼任しているシンジは、現在戦闘待機中なのである。

「このまま、いつもの綾波に好き勝手に遊ばれるパターンで終わっていいのか? いや、いいはずがない!

強く拳を握り締め、シンジはわざわざ反語表現を使って叫ぶ。最近、シンジはストレスが溜まっているのである。
昼の間は食堂で働き、夜になるとエステのフレームや武器に関しての勉強をしなければならない。
それに加え、夢の中ではレイの修行が待っているのである。ストレスが溜まって当然かもしれない。

「いつか綾波を倒してみせる……僕の自由を取り戻すために!」

ゴロゴロゴロゴロ……



元の世界に戻って世界を変えることから、いつの間にか目的が変わっている。
大きな声でそんなことを言っているためか、シンジは何かが転がるような音に気づいていない。

「そして、綾波を……ん? 何の音……☆&?〇%!☆$△?□!?

シンジはようやく何かが転がっている音に気づき、後ろを振り返った。
だが、後ろを振り返ったのが不味かった。後ろを振り返った途端、シンジは声にならない悲鳴をあげた。

(ボ、ボーリングの玉……)

すごい速さで転がってきたのはボーリングの玉である。
痛みの原因は、転がってきたボーリングの玉が、シンジの右足の小指に思いっきり当たったためであった。
今まで喰らってきた中である意味一番痛い。シンジはあまりの激痛に涙目になり、声を出すことができない。

(か、紙が貼ってある……)

ボーリングの玉には白い紙が貼ってあり、そこにはこう書かれていた。

『くだらない妄想をしている暇があるなら、自主練でもしなさい……』

(に、二十四時間体制で見張ってるのか……綾波?)

貼ってあった紙を破り捨ててそんなことを考えてしまうシンジ。
監視するとは聞いていたが、二十四時間ずっと見張られているとは思っていなかった。

「よっぽど暇なのかな……っていうかこのままじゃ胃に穴が空いちゃうよ! すぐに治っちゃうけどさ……」

小指の痛みも随分とひいたので、シンジはブツブツと文句を言いながらもボーリングの玉を片付ける。
シンジの部屋に誰かが訪れたのは、ストレス解消のためにボーリングの玉を木刀で斬ろうとしていた時であった。










《ジョーッ!!》



ガイの部屋のモニターでは、ゲキガンガー3のアニメが流れていた。
部屋の中にいるのは部屋の主であるガイ。そしてアキト、ユリカ、シンジの計四人である。
先程シンジの部屋に来たのはユリカであった。その理由は「アキトがどこにいったのか教えて欲しい」といものであった。
ユリカに頼まれたシンジは、戦闘待機中で暇だったこともあり、ユリカをアキトの所へと連れてきたのである。

アキトはガイの部屋にいた。もちろんそれには理由があった。
前回、ガイは陸戦フレームで囮役を行なった。そして、ガイは囮役をしっかりとこなし、ユリカ達は無事にナデシコに戻ることが出来た。
しかし、陸戦フレームは飛べない。そのため何度も跳びはねることになり、その揺れで骨折した足をさらに痛めてしまったのだ。
お互いゲキガンガーが好きであったからか、アキトはガイの部屋に見舞いに来たというわけである。
そのことを知っていたシンジはユリカをガイの部屋に連れて来た。だが、何故か一緒にゲキガンガーを見ることになってしまったのだ。

(あ、暑苦しい……)

食堂でやっていた時はよく見ていなかったシンジ。初めてゲキガンガーを見た感想がこれである。
シンジの前では、アキトとガイが涙を流して抱き合っている。シンジには、何故これほどまでに感動するのか理解出来ない。
シンジの隣にいるユリカは、自分の振袖姿よりもアニメを見ているのが気に入らないのか、頬を膨らませて不機嫌そうにしている。

「そんなのより、私の方が絶対に良いのに……」

そんなユリカの声は、涙を流して感動しているアキトには全く聞こえていない。
これ以上ここにいても無駄とわかったのか、ユリカはガイの部屋から静かに出て行く。

(……僕も出よう)

シンジもユリカに続いてガイの部屋を出て行く。ガイの部屋では、二人の男のすすり泣く声がいつまでも響いていた。










「少尉、このデルフィニウムは基本的に思った通りに動きます……」

デルフィニウムについての説明を受けているのはアオイ・ジュンである。
前回、トビウメに置いていかれたジュンは、第三次防衛ラインのステーションに来ていた。
ジュンの右手の甲には、ナノマシン処理を受けた証であるIFSのタトゥーが刻まれている。
本来、仕官候補生である彼はIFSなど必要ないが、デルフィニウムを操縦するために、先程ナノマシン処理を受けてきたのだ。

「では少尉、ご無事で……」

「色々ありがとう」

説明が終わると、ジュンの乗るデルフィニウムが発射口へと移動されていく。
デルフィニウムの移動が終わり、正面のゲートが開くと、青い地球の姿がジュンの視界に広がっていく。

(ユリカ……)

守るべき地球の姿を見ながら、ジュンはユリカのことを考えていた。
連合軍がナデシコを必要としているのは地球を守るためであり、ジュンもナデシコは地球を守るために使われるべきだと考えている。
だが、今ジュンが動いているのは、ユリカを連れ戻したいという気持ちが強いからだ。
ジュンが副長としてナデシコに乗ったのも、ナノマシン処理を受けたのも、全てユリカを守り、支えるためである。
もし、このままナデシコが火星に向かえば、例えナデシコが無事地球に帰ってきたとしても、ユリカは反逆者になってしまうだろう。

(ユリカ、必ず君を連れ戻す……。君の居場所を失わせないために……!)

そして、九機のデルフィニウムがステーションから飛び立った。白亜の戦艦──ナデシコを目指して……。










「機動兵器九機の接近を確認。デルフィニウムです」

ルリが平坦な声で言うと、モニターにデルフィニウムを表すデータが表示された。

「それじゃあメグちゃん、エステバリスを発進させてくれる?」

「はい、エステバリス発進してください!」

ユリカの指示でメグミが格納庫に通信を入れる。
メグミが通信を入れると、すぐに一機のエステがナデシコから発進していった。

「テンカワ機の発進を確認しました」

ルリが報告するが、それ以降エステが発進しない。後もう一機エステがあるはずなのである。
ユリカも不思議に思ったのか、顎に人差し指を当てて不思議そうな顔をして疑問の声をあげる。

「あれ、一機だけ? あともう一機いるはずだよね?」

「ええ、碇さんかヤマダさん……今回はヤマダさんの怪我がひどいので碇さんだと思いますが……」

「トラブルか?」

プロスがメガネをいじりながら言い、ゴートはいつもと変わらない無表情で言う。

「ルリちゃん。格納庫に繋げてくれる?」

「はい」

ルリがコンソールを操作すると、正面のモニターに格納庫の様子が映し出された。
エステも映っているが、見たところ特にトラブルはなさそうである。
何が問題なのかわからず、ブリッジのクルーが困惑した表情を浮かべる中、突然大きな声が響いた。

「何でコックが出撃できて、俺が出撃できないんだよ!!」



そのユリカの声に勝るとも劣らない大きな声の主は、ダイゴウジ・ガイのものであった。










──話はアキトが出撃する直後まで遡る

「テンカワ・アキト、出ます!」

ブリッジから出撃の要請を受け、アキトはピンクのエステに乗り込み出撃した。
もう一機の青いエステも既に準備は終わっていた。後はパイロットが乗り込むだけの状態である。
アキトが出撃したのを見送ったシンジは、自分も青いエステに乗って出撃しようとした。

「ちょっと待て! 何でお前がこれに乗ろうとするんだ? これは俺のゲキガンガーだろうが?」

だが、シンジが出撃しようとするのを邪魔する者が出た。ダイゴウジ・ガイである。
ガイの左足は未だにギブスが取れていない。むしろ、前回の囮役のせいで足の状態は酷くなっていた。
前よりも酷い状態で戦闘を行えるはずもないので、シンジはガイに医務室か自室で休むように言うが、ガイは納得しない。

「何でコックが出撃できて、俺が出撃できないんだよ!!」




そのあまりの声の大きさに、間近にいたシンジは耳を押さえる。よく見ると、整備班も耳を痛めているようだ。
そんな周りの状況に構わず、ガイは拳を強く握り締め、シンジに言い聞かせるように話し始める。

「遥かに離れた星──火星。その星を救うために立ち上がった子供達!
 子供達は秘密裏に造られた宇宙船に乗り込み、地球を旅立つ!
 しか〜し! そんな子供達の邪魔をする軍部の陰謀! そして、それに抵抗する子供達!
 こんな燃えるシチュエーションで、俺が出ないで一体誰が出るって言うんだーー!!

最後の部分を叫ぶように言うガイ。その声の大きさに耳を押えて苦しむシンジと整備班。
ブリッジの方は咄嗟に音量を絞ったため被害はなかったようである。

(子供達子供達って、ナデシコにいる子供ってルリちゃんぐらいじゃないですか……!)

痛む耳を押えて心の中で吐き捨てるシンジ。シンジは気づいてないが、他のクルーにとってはシンジもルリと同じ子供扱いである。

「でもヤマ……ガイさん。ガイさんは足を骨折してるじゃないですか! そんな状態で、戦えるわけないじゃないですか!」

ヤマダと呼ぼうとすると、ガイの眼が険しくなったので、慌てて訂正するシンジ。
シンジはギブスで固められたガイの左足を指さして言う。そんな状態で戦えるとは到底シンジは思えない。

「そんなもの根性でどうにでもなる!」

「なるわけないじゃないですか! EVAじゃないんですから……

シンジの言う通り、心の力でATフィールドが使えるEVAならともかく、エステではどうにもならない。
エステはEVAとは違い、思いが強ければ力を発揮するというわけではないのだ。

「そんな状態で戦って、もしガイさんに何かあったらどうするんですか! とりあえず、今回は我慢してください」

だんだんとシンジの声に苛立ちが見え始めた。最近のストレスがここにきて爆発しそうになっているのだ。
だが、そんなシンジの声の変化に気づくことなく、ガイはシンジの肩に手をかけて口を開いた。

「シンジ……お前が俺のことを心配してくれるのはよ〜くわかった……。だが、安心して待っていてくれ!
 俺は正義熱血根性がある限り必ず生きて帰ってくる!!

ガイは勝手に盛り上がっているが、他のクルーは「どうしたらそんな解釈ができるんだ?」と怪訝な表情をしている。
それに対してシンジは、顔を俯かせたまま何も答えないでいる。

「ど、どうしたんだシンジ……?」

流石にシンジの変化に気づいたのか、ガイが少し戸惑った様子で尋ねる。
シンジはゆっくりと顔を上げる。その顔は笑顔であるが、目が笑っていないのがはっきりとわかる。

「ガイさん……怪我が治るまで休んでてください」

「いや、だから……」

「休んでてください……」

「いや……そのですね……?」

「休めみましょうね……? 僕、暴力はあまり好きじゃないんです」

「だから……いや、わ、わかった……今回は休む」

とうとうガイが折れた。どこからともなく出てきた鞭が恐かったのだろう。
その言葉を聞いたシンジは鞭をしまい、普通の笑顔になった。

「それじゃあ、ガイさん。ちゃんと休んでてください」

満面の笑顔でシンジはガイに言うと、エステに向かって走っていった。
シンジがコックピットに乗り込んで出撃するのを見届けると、ガイは手の甲で顎を拭いながら呟いた。

「こ、恐かった……」

そう呟くガイの顔は、冷や汗でビッショリと濡れていた。










「クソッ……しつこいぞお前ら!」

シンジとガイが無駄な時間を費やしている間、アキトはデルフィニウムから逃げ続けていた。
ずっと逃げ続けていたため被弾率はほとんどない。だが、それは相手も同じである。

「当たれー!」

アキトはエステを反転させてライフルのトリガーを引く。
しかし、まだ初心者であるアキトが、振り返りざまに撃った攻撃を当てられるはずもない。
ラピッド・ライフルから発射されてた弾はデルフィニウムに掠りもせず、弾が無駄に消費されていく。

「アキトさん! お待たせしましたぁぁぁぁぁ〜!?

「シ、シンジ君!?」

アキトとデルフィニウムの間を凄いスピードでシンジのエステが通過していった。
その後も、縦に飛んだり横に飛んだりと、とにかく真っ直ぐ飛ぶことができていない。
その動きにアキトが驚いているが、一番驚いているのはシンジである。

(や、やばい! スラスターを使って飛ぶイメージが上手く出来ない……!?)

陸戦フレームを上手く扱うことが出来たシンジだが、空戦フレームの操縦が上手くいかない。
前の世界も含めて、シンジがシンクロして空を飛ぶということは初めてであるからだ。
そのため、スラスターで移動するというイメージが上手く出来ないのである。
シンジはそのまま、アキトを残してあらぬ方向へと飛んでいってしまう。

「シ、シンジ君……一体何しにきたんだ……!?」

この状態では、はっきりいってシンジを当てにすることが出来ない。
アキトは、九対一の状態で戦わなければならなくなってしまった。

圧倒的不利な状況の中、デルフィニウムの一機がナデシコへと通信を送った。
ナデシコのモニターには白いヘルメットの様な物で、顔の半分を隠したジュンの映像がノイズ交じりで映っている。

《ユリカ……ナデシコを戻して! このままだと、ナデシコは第三次防衛ラインの主力と戦うことになる! 今ならまだ間に合う! だから……!!》

ジュンがユリカに対して、声を荒げて何かを言うことは珍しいことであった。
というよりも、今回が初めてかもしれない。それほどまでに、ジュンはユリカを心配しているのだ。

「ごめんね、ジュン君……私、ここから動けない。ここが私の居場所だから……
ミスマルの長女でも、お父様の娘でもない……私が私でいられる場所だから!!」

ユリカはナデシコを戻すつもりはないとはっきり告げた。その瞳には強い意志が宿っている。
長年付き合っているジュンは、その瞳をしたユリカに何を言っても無駄だとわかっている。

「そういえば……」

声の調子を変えてユリカが呟く。顎に指を当てて不思議そうな顔で……

「ジュン君はどうしてそんなところにいるの?」

話の流れが変わってきた。ジュンがナデシコにいないことを、本当に不思議そうに話している。
それを聞いたジュンは声を震わせながらユリカに尋ねる。

「ユ、ユリカ……? もしかして、本当に僕のこと忘れてたの……?」

信じてたいという気持ちがあるのか、その尋ねる口調は、先ほどまでのと比べると随分弱々しい。
ユリカは困ったような表情をして頬を掻くと、両手を合わせて軽く頭を下げた。

「ゴ、ゴメンねジュン君……ア、アハハ……」

乾いた声で笑うユリカ。話しを聞いていたナデシコクルー、デルフィニウム部隊の両方からジュンは哀れみの視線を受ける。
ジュンは肩をワナワナと震わせて顔を俯かせている。今、ジュンの脳裏ではユリカと過ごした様々な出来事が浮かんでいた。

……………小学校の頃からユリカの荷物持ちをしていたジュン

……………ユリカが割った壷のことで、代わりに怒られたジュン

……………昼食には、ユリカの分も購買で食事を買ってきていたジュン



他にも様々な出来事が脳裏に浮かんでいくが、その全てがほとんどパシリ同然である。
はっきり言って、昔のアスカとシンジ、もしくは今のレイとシンジの関係にジュンとユリカの関係は近いかもしれない。
走馬灯の様に今までの出来事が脳裏に浮かんでいくこと数秒……。ジュンの中で何かがキレた。

「僕と勝負しろ……テンカワ・アキト!」

ジュンの怒りの矛先はアキトへと向けられた。ユリカに向けられないのがジュンらしいと言えばジュンらしい。
はっきりいって八つ当たりに近いジュンの発言に納得いかないのは、当然アキトである。

「ちょ、ちょっと待て! どうして俺なんだよ! 今のはどう考えたって、悪いのはユリカだろ!!」

ジュンが怒っているのは、ユリカがジュンのことを完璧に忘れていたのが原因であり、アキトは全く関係ない。
しかし、ジュンはアキトの話を全く聞いておらず、話はアキトを置いて勝手に進んでいく。

「テンカワ! 僕と君とで一騎打ちの勝負だ! 君が勝った場合はデルフィニウム部隊を撤退させる。
 その代わり、僕が勝った場合はナデシコを戻してもらう!」

「ふむ、損な勝負ではないですなぁ……」

一体どういう計算を行なっているかはわからないが、電卓を打ちながらプロスが呟く。
たしかに九対一で戦うよりは、一騎打ちで戦う方が勝つ確率が高いのは当然だ。そのため、プロスは二人の決闘に賛成している。

「アキト! またユリカのために戦ってくれるのね!!」



ユリカに至っては、二人が戦うことは既に決定事項になっているようである。
そんなユリカの発言に、アキトはコックピットの中で頭を抱えている。

「な、なんじゃそりゃ〜!?」

「さあ、いくぞ! テンカワ・アキト!!」

ユリカの発言に文句を言おうとするアキトだったが、ジュンがミサイルを発射したことで、決闘は勝手に始まってしまった。

決闘が始まった頃、エステが滅茶苦茶に飛んでいき、『重力波ビーム』の範囲から出てしまったシンジは動けなくなっていた。

「動け! 動け! 動け! 動け! 動いてよ! 今動かなきゃ意味がないんだよ! だから、動いてよ〜!!」

いくらシンジが叫んでも、EVAの様にコアのないエステが動くはずもない。
シンジのむなしい叫びはコックピットの中に響くだけで、誰も聞いてはいなかった。










ジュンとアキトの決闘が始まってから既に十数分が経過していた。
当初、士官候補生とはいえ軍人であるジュンが有利になるかと思われたが、戦いは互角であった。
決闘が始まってから、アキトはほとんど逃げ続けていたのである。
まだパイロットとして日は浅く、先程の攻撃もほとんど命中していなかったが、ジュンから受けた攻撃はほとんどゼロである。
攻撃の命中率はともかくとして、アキトは何故か回避能力だけが異様に高かったのだ。

「逃げずに戦え! テンカワ!!」

ジュンは焦っていた。
時折アキトがラピッド・ライフルで攻撃を仕掛けてくるが、一発も命中していない。
そのため、ジュンの乗るデルフィニウムは全くの無傷である。
しかし、例え無傷であったとしても、時間が経つに連れてジュンは劣勢になっていく。
アキトの乗るエステバリスは、ナデシコからのエネルギーを受け続けている限り、エネルギーを気にする必要はない。
しかし、ジュンの乗るデルフィニウムは、積んできた燃料が切れれば動けなくなってしまう。
そうなってしまえば、無傷であったとしてもジュンの負けなのである。

(何で俺があいつと戦わなきゃならないんだよ!?)

アキトはわけも分からず始まったこの決闘に、かなり苛ついていた。
ジュンとユリカの話はアキトも聞いていたが、どう考えても自分が戦う理由が思いつかない。
しかも相手は、自分に向かってバンバンとミサイルを撃ってきている。一発でもまともに喰らえばあの世行きなのである。
こんな冗談みたいな戦いで死ぬなど、当たり前だが勘弁して欲しいとアキトは思っている。

(俺が何かに巻き込まれる時は、大抵あいつが関わってるんだよな!!)

アキトの脳裏に浮かぶのは、満面の笑顔を浮かべたミスマル・ユリカの姿である。
何故かそのユリカは悪魔っぽい羽と尻尾を生やしている。
アキトはエステを反転させると、ライフルの銃口をデルフィニウムへと向けた。

(あいつはいつも俺を不幸にするんだ! やっぱあいつは、俺にとっての不幸の女神なんだ!!)

胸中で叫ぶとアキトはライフルのトリガーを思いっきり引いた。
しかし、何度トリガーを引いてもカチカチと音が鳴るだけで弾が発射されない。

「た、弾切れかよ!? クソッー! もうどうにでもなれ!!」

アキトは弾切れになったライフルをデルフィニウムに向けて投げつけると、デルフィニウムへと突撃した。
ジュンはアキトが投げつけたライフルを腕部ではじく。その時には、アキトのエステが目の前にまで迫っていた。

「喰らえー!」

アキトはエステの右腕を振り上げ、デルフィニウムの頭部目掛けて拳を放つ。
しかし、その拳はデルフィニウムの手に受け止められてしまった。
右腕を封じられたアキトは、残った左腕で殴りかかるが、それも受け止められ、自然と力比べの形になった。

「何で俺とお前が戦わなくちゃならないんだよ! それにお前誤解してるぞ! 俺とユリカはお前の思っているような関係じゃ……」

「そんなの信じられるか! それに、そんな個人的なことは関係ない!!」

「じゃあ、どうしてなんだよ!? 昨日まで仲間だったのに……そんなに戦争したいのかよ!」

「違う! 僕は正義を貫きたいだけなんだ!! そして、連合軍こそその場所だと僕は信じているんだ!!」

「ッ!? お前は好きな女と戦うような正義の味方になりたかったのかよ!」

アキトがジュンのデルフィニウムを自分の方へと一気に引き寄せ、同時に右足を下腹部に目掛けて放つ。
その負荷に耐えられなくなったデルフィニウムの両腕が見事に引きちぎられた。
ミサイルも撃ち尽し、両腕も無くなってしまったデルフィニウムには攻撃手段がない。

「アキトさん!」

シンジの乗るエステがアキトとジュンに近づいてきた。
先ほどまで重力波ビームの範囲から出てしまったため動けなかったが、ナデシコが近づいたため動けるようになったのである。
今真っ直ぐに飛ぶことが出来るのは、タブリスの力を使っているためだ。タブリスの力は、カヲルがそうしていたように飛ぶことも出来るのだ。

「二人とも、早く行かないとミサイルの雨が来るぞ」

ジュンと一緒に来ていたデルフィニウム部隊は、いつの間にかに撤退していた。
それは、第二次防衛ラインが近づいてきているためであった。
第三次防衛ラインには機動兵器が備わっており、第二次防衛ラインにはミサイルが完備されているのだ。
もし、ミサイルが降ってきたらデルフィニウムはおろか、エステも持たないだろう。

「なっ!? どうして……」

アキトとシンジは何も言わず、ジュンのデルフィニウムを抱えてナデシコへと向かう。
驚いた声を上げるジュンにアキトは笑って答える。

「どうしてって、お前だってナデシコのクルーなんだから当たり前だろ? それに、ユリカの相手は俺一人じゃ大変だし……。
 それに、まだわかってないみたいだから言っとくけど、俺はあいつの王子様になった覚えはない!

アキトが最後の部分を強めて言うと、ユリカから通信が送られてきた。

《もう、アキトったら照れなくても良いのに……!》

頬を赤く染めているユリカに対して、アキトはその言葉に頭を抱えている。

「僕は……、僕は戻ってもいいのか……?」

《ユリカは戻ってきてくれると嬉しいな!》

満面の笑顔でユリカがジュンに答える。ジュンが来るまですっかり存在を忘れていたが……。

《副長はいなければ困りますからな。ですが、先ほどまでの行動は契約違反ですので、お給料は引かせてもらいますよ?》

と、電卓をいじりながらプロス。

《戦いを通じて生まれる友情! これこそ男の友情だぁ〜!!

ブリッジに来ていたガイが拳を握り締めて叫ぶ。しかも、涙まで流しているため、かなり暑苦しい。
こうして誰にも反対されることなく、ジュンは副長としてナデシコに戻ることができた。
戻った後、ユリカに『大切なお友達宣言』をされて涙を流したのは、全くの余談である……。










「こんな所で一体何があるんだろ……?」

ディストーション・フィールドを最大にしたナデシコは、第二次防衛ラインのミサイルと第一次防衛ラインビックバリアを無事通過することができた。
プロスの話によると、今地球では、核融合炉の爆発に伴う大規模なブラックアウトが起きているらしい。
色々あったが、ナデシコは無事に地球を出ることが出来たのである。そんな中シンジは、照明が落ちて暗くなった格納庫へと来ていた。

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

「もちろんです。格納庫にシャトルが用意してあります」

シンジ以外誰もいないはずの格納庫の中に、足音と小さな話し声が響く。
不思議に思って目を向けると、そこには前回の叛乱で捕らえられたムネタケとその部下達が列を成して走っていた。
「あれって……ムネタケさん? 確か捕まってるはずじゃ……もしかして脱走?」

シンジが思ったことを口に出すと、その声が聞こえたのかムネタケ達の動きが止まった。
ムネタケ達が辺りを見回すと、ムネタケとシンジの目がばっちり合ってしまった。

「あんた達、誰か呼ばれると面倒だから殺っちゃいなさい。私は先に行ってるから」

「う、嘘!? じょ、冗談だろ……!」

ムネタケが部下の一人に命令すると、ムネタケと他の部下達はその部下を残して先にシャトルへと向かった。 その命令に最初は戸惑った部下だったが、上官の命令は絶対と思ったのか、すぐに懐から一丁の銃を取り出した。
少し距離があったが、それでも相手はプロである。シンジに銃口を向けるとためらうことなく発砲した。

「…………!?」

咄嗟にエステの足元へと跳んだシンジだったが、見事に左足を撃ち抜かれた。
かなりの激痛にシンジは声が出せなかったが、シンジの傷口はすぐに再生を始め、だんだんと傷口が塞がっていった。
十秒もしない内に傷口は完全に塞がったが、ただ塞がっただけである。シンジの足には銃で撃たれた痛みが未だに残っていた。

(あ、あのキノコ……今度会ったら絶対仕返ししてやるからな! ……っていうか綾波! 絶対このこと知ってただろ……!!)

シンジが誰もいなくなった格納庫に来たのは、以前強烈なアイアンクローを喰らった時、レイが耳元で話していた事を覚えていたからである。
自分を殺すように命令したムネタケと、彼らが脱走することを知っていただろうレイにシンジは怒りを覚える。
だが、今はそれどころではないと思ったシンジは、ズボンからエアガンを二丁取り出して、エステの足に隠れながら連続で発砲した。
足がまだかなり痛むため上手く狙いが定められない。同じ理由で、ATフィールドによる弾のコーティングも甘くなっていた。
シンジは手の甲を狙ったつもりだったが、当たったのは腕の部分で、威力も大したものではない。
それでもシンジは、何度もマガジンを換え、それも切れるとその場でBB弾を造りながらエアガンを撃ち続ける。

(まずい、もう弾を造る余裕がなくなってきた……!)

だが、それは相手も同じだったのか、相手も銃を撃ってこなくなった。
シャトルも発進する準備ができたためか、弾もなくなったムネタケの部下は仕方なくシャトルへと向かっていった。
シャトルがナデシコから発進し、格納庫の中はシンジの荒い呼吸だけしか聞こえなくなった。

「た、たす……かった……」

シンジはそう呟いたところで倒れてしまった。
バルディエルを使ってエステを動かし、さらに同時にタブリスの力も使った。
足の傷を治すのにもエネルギーを使い、ATフィールドで弾をコーティングし、さらにそれを使っての銃撃戦も行なった。
食堂の仕事や夢の中での修行も合わせて考えると、はっきりいって精神的にシンジは限界だったのだ。

「お、おい! 大丈夫かシンジ!?」

数分後、格納庫を訪れたウリバタケに、医務室へと運ばれて行くシンジであった。







つづく
































あとがき

こんにちわ、アンタレスです。
デルフィニウムとの戦闘で、アキトとシンジは空戦フレームで出撃しましたが……ゼロ戦フレームじゃなくても問題ないですよ……ね?
今回空戦フレームにしたのはアニメの方が空戦フレーム(見た目が)だったからなんですけど……。
とりあえず、シンジが強くなりすぎないように、そして不幸キャラになるよう頑張って書いています。
よくわからないあとがきになってしまいましたが、代理人さま……感想よろしくお願いします。



 

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代理人の感想

鞘に収められた木刀・・・? 竹光みたいな奴なのかな。

それとも観光地のお土産で売ってる木の刀みたいなやつか?(笑)

まぁそれはおいといて。

 

定番の展開ですねー。

とは言えアキトとジュンの一騎打ちに何も口を挟めなかったり、

普通颯爽とガイを救うはずのシーンがおまぬだったり、独自展開ではありますね。

 

代理人はこの路線を応援していますので頑張ってください。(笑)

 

>右手に巨大な水を造りだし、左手には同じくらい大きい炎を造りだした。

読んでて「メドローアっ!?」と思った人手を上げてー(笑)。