薄い暗闇がどこまでも広がっている。

光源はほとんどなく、この空間にある唯一の光はスチール製のデスクをぼんやりと照らしていた。

そのデスクの上に黒猫が寝そべっている。イロウルだ。イロウルはこの暗闇の空間で綾波レイが来るのを待っていた。

この空間は置かれている物こそ違うが、以前にレイ、カヲル、もう一人のシンジが話し合いを行った空間と同じ場所である。

この空間はシンジの夢の中にレイが勝手に造り出したものだ。この空間はシンジのいた元の世界──サードインパクトが起こった世界と繋がっている。

シンジの夢の中に造られた空間であるためシンジが目を覚ますと消えてしまうが、そうなった時はそれぞれ元の世界に戻るという仕組みになっている。

イロウルは気が付くとこの空間にいた。レイが連れて来た事は間違いない。

なぜこの空間に連れてこられたのか教えられていないが、大体の見当はついていた。


(あのシンジと同じ顔を持つ女の事だろうな……)


テニシアン島で出会ったシンジと同じ顔を持つ少女。

使徒の力を持ち、シンジを狙っているという事以外は何も分かっていない。

レイに何か尋ねられても今のイロウルに答えられるのは、同じくテニシアン島に現れた巨大なジョロがATフィールドを使えた理由ぐらいだった。


「ん?」


イロウルは誰かがこの空間に現れた気配を感じて顔を上げた。

見ると、少し離れた所に木製の机がスチール製のデスクと同じ様に光で照らされていた。

目を凝らすと机と同時に現れた椅子に何かが乗っていた。椅子に乗っているものを見たイロウルは目を瞑って眠る体勢を作る。

レイが来るまで寝ようと思ったからだ。少なくとも、今現れたモノと話しをする気はイロウルにはなかった。


「貴様、なぜ寝ようとするっ! ちゃんとこっちを見ろ!!」


イロウルは面倒くさそうに顔を上げ、声を荒げる物体へと目を向けた。


「何か用か?」


前足をペロペロと舐めながら尋ねる。

その舐め切った態度に椅子に乗っている物体は顔を真っ赤にして気色ばんだ。


「猫の分際で生意気なっ」

「……毛玉に言われたくはない」

「フンッ! 貴様には分かるまい。この髭の素晴らしさはな」


毛玉と言われた物体──ボール(髭)は仙人か何かの様に伸びたあご髭を撫で擦りながら答える。

ボール(髭)のその様子を呆れた様子でイロウルは見る。シンジに話を聞いていたが、ここまで髭に愛着を持った物体とは思わなかった。

イロウルが実際にこのボール(髭)に会うのは初めてだったが、この時点でもう一度会いたいという気持ちは欠片も湧いてこない。


(リリスは一体何を考えてこんなモノを……)


こんな訳の分からないモノを造り出したレイを思うと頭に痛みを覚える。

イロウルは頭痛を抑えるように大きく息を吐くと、ボール(髭)と一緒に現れたもう一方の机へと目を向けた。

視線の先では身体が腕を組んで椅子に腰掛けていた。頭のない上半身裸の身体が──。イロウルは更に頭痛が酷くなるのを感じた。

その頭のない身体には髭がない代わりに(頭がないので当たり前だが)胸元に毛が集中していた。


「フッ……立派なものだろう?」


イロウルの視線に気づいたのか、ボール(髭)が自慢げに言う。

ボール(髭)の言葉に反応したかの様に、胸元に剛毛を生やした謎の物体が胸を反らす。どうやら「はっはっは」と高笑いしているらしい。

なぜそこまで毛にこだわるのかイロウルには不思議でならないが、そういうのは人(?)それぞれだろうと思い直す。

そんなイロウルに構う様子はなく、ボール(髭)は口元の端を吊り上げて笑みを浮かべ尚も続ける。


「今のままでも十分だが、こうする事によって更なる高みへと登りつめる事が可能となるのだ!」


叫ぶと同時に未だに高笑いを続ける謎の物体目掛けて跳び上がる。

謎の物体も両手を大きく広げてボール(髭)が跳んでくるのを待ち受けている。



「融・合!!」



ボール(髭)と謎の物体が光に包まれる。

そのあまりの眩しさにイロウルは目を開いている事が出来ず、目を閉じる。

光が収まったのはほんの数秒後の事だった。嫌な予感を覚えながらもイロウルは恐る恐る目を開く。

イロウルの目の前にいたのは完全な人間だった。仙人の様に長い髭に、異様に密集し、既に胸元が森と化している人間が仁王立ちしていた。


「私の名はゲンドウ……『碇』ゲンドウではない。ただのゲンドウだっ!」


訳の分からない事を言うとさっきまでボール(髭)がいた場所へと戻る。

机に肘をついて手で口元を隠すとゲンドウは口を開いた。


「それで、テニシアン島に現れたあの少女とATフィールドを使う敵について何か解った事はあるのか?」


真剣な声音でゲンドウはイロウルに尋ねる。

さっきまで毛を自慢していたとは思えない打って変わった態度だ。

そのギャップに流石のイロウルも戸惑う。が、すぐに気を持ち直して答えた。なぜゲンドウに報告しなければならないのか不思議でならなかったが。


「あの女について解っている事は何もない。が、あの巨大なジョロがATフィールドを使えた訳は解った」

「ほう」


ゲンドウは唇の端を歪めて笑い続きを促す。


「テニシアン島に現れたジョロにはサセボに現れたバッタと同じ様にコアが埋め込まれていた。ただ、バッタと違うのはジョロのコアにはヒトの魂が込められていたという事だ」


ゲンドウはサングラスを指で押し上げ、イロウルの目を見据えると口を開いた。


「つまり、あのジョロとかいう巨大なロボットはエヴァや使徒に近い状態になっていたというわけか?」

「ヒトの魂が込められていたからどちらかと言えばエヴァに近い。それと、込められていた魂だが……込められていたのは恐怖心が主だった」


イロウルの言葉にゲンドウはまた唇の端を歪めて笑う。

ATフィールドは心の力。ジョロの使った壁を展開する力はATフィールドの力の中で最も簡単なものである。

この壁を展開する最も簡単な方法は拒絶する事だ。拒絶した心が壁という形となって顕れる。


(自分を襲ってくるものに対しての恐怖心。その恐怖心が拒絶を生み出し、ATフィールドを発生させたわけか)


イロウルの話でジョロがATフィールドを使う事が出来た理由は解った。

ゲンドウはあの破壊されたコアからこれだけの情報を得たイロウルに驚嘆していた。

ATフィールドの力を使えないゲンドウは元より、レイの修行を受けていたシンジでもこれだけの事を知る事は出来ない。

出来てもせいぜいサセボのバッタの時とは何かが違う──そう感じる事が出来るぐらいだろう。


(フン、それなりに有能なようだが……私には関係ない。猫の分際で私を──いや、髭を馬鹿にした事は決して許される事ではない)


ゲンドウは腕を胸の前で組むと顔を上に向けて眼を瞑る。

何かを考えている様なゲンドウの仕草にイロウルが怪訝な表情を浮かべる。


「……」


ゲンドウが眼を瞑ってから一分近くが経過していた。

ずっと続いていたこの嫌な沈黙を破ったのは、沈黙を作り出したゲンドウ自身だった。

ゲンドウは机に肘をつき、組んだ手で口元を隠すという格好を再び作ると厳かな口調でイロウルに言った。


「ジョロという機械がATフィールドを使えた理由は解った。しかし、あの少女の事が何も解っていないとはどういう事だ? そちらの方が重要だという事は解っているだろう」


ゲンドウの言葉にイロウルは「ぐっ」と歯噛みした。

その様子を見たゲンドウの顔に笑みが浮かぶ。手で隠しているつもりらしいが、イロウルからすればその笑みは丸見えだった。

ゲンドウは笑みを浮かべたまま尋ねる。


「イロウル。お前はなぜあの世界に送られたかレイに聞いているか?」

「……いや、聞かされていない」


本当の事だった。

シンジと共にいるように言われたが、それ以外は何の指示も受けていない。


「聞かされていない、か。だが、貴様があの世界に送られたのにあの少女が関わっている事は明らかだろう?」

「……」


返す言葉がなく黙り込むイロウル。イロウルのそんな様子に、ゲンドウのニヤけた笑みは止まらない。

ゲンドウは表情を真面目なものにして立ち上がると、ゆっくりとイロウルに近づいていく。近づいてくるゲンドウをどこか悔しげにイロウルは見上げる。

二人の眼が合う。ゲンドウはふっと笑い、サングラスを中指で押し上げると高圧的な声で、


「無様だな」


と言った。元に戻した顔がまたニヤけてくる。

自分を馬鹿にしていたイロウルに意趣返しが出来たのだ。今、ゲンドウの心の中は歓喜で満ち溢れていた。


(思い知ったかイロウル。私を──髭を馬鹿にしたからだっ! 黒猫は黙って荷物の運送でもしていればいいのだよ、ハハハハハ!!)


最初は心の中でゲンドウは笑っていたが、直ぐに我慢出来なくなったのか、声を上げて笑い始めた。

イロウルとゲンドウしかいない空間にゲンドウの笑い声が響く。

しかし、喜び、声を上げて笑っていたゲンドウは気付かなかった。自分の背後に誰かが立っていた事に。無論、イロウルは気付いていたが──。


「うるさい」


ゲンドウの背後に立っていた人物は一言告げると、腕を一閃した。

ブチっという嫌な音がイロウルの耳に届く。ゲンドウの歓喜に満ちた笑い声がピタリと止まる。

ゲンドウはギシギシという音が聞こえてきそうな動きで身体を動かして背後を確認する。

そこには綾波レイがいた。一瞬、冷たい光を宿している紅い瞳と眼が合ったが、ゲンドウは気にも留めない。

ゲンドウの視線はそのまま移動し、レイの右手に注目した。

レイの右手は何かを掴んでいた。この暗い空間では判りにくいが、それは黒かった。

ゲンドウはまたギシギシという音が聞こえてきそうな動きで身体を元の位置に戻す。

そして、今度は首だけを動かして自分の胸元に眼をやった。


「な……い……」


さっきまであったモノがなくなっていた。

ゲンドウは首を元の位置に戻しイロウルへと目を向ける。

イロウルと眼が合う。フッとイロウルは鼻で笑う。


「わ、私のむな……」

「最後まで言う必要はないわ」

「ブフゥゥゥゥゥラッ!?」


いつの間にか横に立っていたレイの裏拳を受け、奇声を上げて吹き飛ぶゲンドウ。

地面に着地する事なく、展開されたディラックの海に飲み込まれてゲンドウはどこかに消えていった。

レイはパンパンと手を叩いて手に持っていた何かを払い落とすと、サンダルフォンの力を使って払い落としたモノを完全に焼却した。


「それじゃあ、説明して頂戴」


いつもと変わらぬ無表情で言うレイに、イロウルは少女の事、ジョロの事、一応ゲンドウとの話の内容も話した。

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………………………………………

……………………………


「あなたは何も気にする必要はないわ」

イロウルの話を聞いたレイは、開口一番にそう言った。

いつもと変わらぬ無表情。新たに造り出した椅子に腰掛け、デスクに肘をつき、口元を隠すように手を組んでいるレイが何を考えているのかイロウルには分からない。

自分をシンジの元に送ったのはレイだ。何をしろとは言われていないが、あの少女に関する事なのだろうと思っていた。

だから、あの少女について何も解っていない事に関して(ゲンドウと同じ様に)何か言ってくると思っていたのだが……


「リリス、それは一体どういう……」


尋ねようとしたイロウルの言葉を遮ってレイは言った。


「違うわ。イロウル、私の名前は綾波レイよ」

「……ではレイ、気にする必要はない、とはどう言う事だ?」


言い直して尋ねる。なぜレイが呼び方に拘っているのか解らない。

が、レイと呼ぶと纏っていた雰囲気が幾分か柔らかくなるのをイロウルは感じた。


「そのままの意味よ。もともと、あの子の事は碇君が自分で何とかしなければならない問題なんだから……」


あの少女の事についてレイは何か知っている様だった。

尋ねようかとも思ったが、聞いても答えてはくれないだろうと何となく判った。

レイが教えるつもりがないなら、これ以上この事を話しても無駄だろう。イロウルにはあの少女について何の情報もないのだから。

これ以上は話す事は何もない。そう思ったイロウルにまた声が掛けられた。レイとは違う。男の──いや、少年の声だ。


「君は碇シンジの話し相手になって上げてくれないかな? 事情を知っている君が話し相手になれば、少しは気も楽になると思うんだよね」


声のした方へと視線を向ける。目を向けた先は暗闇で何も見えない。

しかし、眼に見えなくとも、イロウルはそこに誰かがいる事を感じ取っていた。


「誰だ、お前は?」


イロウルが声を掛ける。と、足音が聞こえてきた。こちらに近づいてきている。

デスクを照らしている光が声の主の姿を照らす。子供だ。その子供の姿にはイロウルも見覚えがある。

といっても、随分と成長した姿であるが。現れたのはシンジが【もう一人の僕】と呼んでいる少年だった。


「あれ? 碇シンジから聞いた事ないかな? もう一人の僕とかって呼んでたと思うんだけど」

「もう一人の僕、か。話には聞いていたが、実際に会ってみると随分と印象が違うな」


印象が違う、といっても見た目がという話ではない。

見た感じではシンジの面影を残しているし、成長すれば今のシンジと同じ姿になるのだろう。

イロウルが言っているのは、少年を形成しているATフィールドが思っていたものと随分と違っていたのだ。


「もともとはヒトだったシンジでは仕方ないかもしれないが、私はシンジとは違うぞ?」

「はは、流石は使徒だね。見た目じゃ騙されないか」

「当たり前だ」


「でも、僕がもう一人の碇シンジっていうのもあながち嘘って訳でもないよ? 君になら判ると思うけど」


目の前の少年が嘘を言っていない事は分かっていた。

ただ気になるのは、この少年もあの少女の事について気にしていなかったという事だった。

突然現れたかと思ったら、話し相手になってやれ、と言われたのだ。二人の態度がイロウルには納得がいかない。


(この二人、一体何を知っている?)


そんな疑問を抱えたまま、イロウルは意識が遠くなるのを感じた。

シンジが眼を覚まそうとしているのだ。シンジの夢の中に作り出された空間が崩壊していく。

レイの姿が目の前から消えた。きっと元いた世界──サードインパクトが起こった世界に戻ったのだろう。


「それじゃあ、また次の機会があったらね」


そう言って少年はバイバイと手を振った。

その瞬間、イロウルは完全に意識を失い、うす暗闇の空間は完全に崩壊した。







「……今日も相変わらず嫌な夢だったなぁ」


目を覚ましたシンジはそう呟くと胸に手を当てた。

嫌な夢、といってもレイとの修行以外は大抵が嫌な夢だ。

その手の夢には自分が経験したというものと、違う誰かになっているというものの二種類がある。

ちなみに今日見た夢は前者の方だ。あまり思い出したくない事を思い出させるのではっきりいって最悪の気分だった。


「今日の夢はどんなものだったんだ?」


身体を起こして声のした方へと目を向けると、前足で顔を洗っているイロウルの姿が目に入った。

シンジの夢の中に造られた空間にいたイロウルだが、シンジがどんな夢を見ていたかは知らない。

一体どんな夢を見ていたのかと興味を持ったイロウルはシンジに尋ねたのだ。

尋ねられたシンジはというと、僅かに眉を寄せて「あまり楽しい話じゃないよ」と答えた。

人の見た夢の話なんて聞いてもそんなに面白いものではない。少なくともシンジはそう思っていた。


「別に構わない。楽しくなかろうと暇つぶしにはなる」


そう言われたシンジは、イロウルには自分とオモイカネしか話し相手がいないのを思い出した。

どう見たってイロウルは猫にしか見えない。話し掛けてくる人間がいるはずがない。

いたとしても、それはイロウルを動物として見ての話だろう。誰も猫が人と会話が出来るとは思わないはずである。

暇つぶしになるんなら、とシンジは今日見た夢の話を始めた。


「今日見たのはエヴァに乗って戦う夢だったんだ」


夢の中で戦った使徒は第伍使徒『ラミエル』──正八面体の他の使徒に比べて無機質な感じの敵だ。

出撃した直後エヴァの存在を察知され、加粒子砲の直撃を受けてシンジの心臓は一度止まってしまっている。

ミサトの立案した『ヤシマ作戦』によって殲滅したのだが、今日見た夢では加粒子砲を受けた所で目が覚めてしまったらしい。


「今まで使徒と戦う夢なんて見なかったから、ちょっと嫌な予感がして……何かあるんじゃないかって」

「ただの夢だろう?」

「ははは、そうだよね。夢みたいにナデシコが撃たれちゃうんじゃないかって思ったりしたんだけど……気にしすぎだよね」

「気にしすぎだ」











ナデシコが敵の新兵器『ナナフシ』に撃ち落されたのは数時間後の事だった。















赤い世界から送られし者


第十二話『エステバリスマーチ』

「僕よりイロウルの方が目立ってるのは……気のせいかな、気のせいだよね?」












「今回の任務はこのナナフシの破壊が目的だ」


ゴートの声がナデシコ食堂内に響く。時刻は18時、現在ナデシコ食堂ではパイロットを集めてブリーフィングが行われていた。

食堂に備え付けられたモニターにナナフシの姿が映し出される。

天に向かってのびる長い砲身。その姿から、ナナフシが明らかに超長距離兵器である事が判る。

ナナフシの姿を見たシンジが眉を顰める。この敵の新兵器がナデシコを撃ち落したのは明らかだ。

そうなると、どうしても今日見た夢が思い出される。冗談で言った事が本当になった。

偶然だとは思うが、もしかしたらあの夢は何かを警告しているのではないか、と不安に思う。

よくよく考えたらあり得ない話だ。

使徒の力を使えるといっても、その中に未来予知などという能力はない。

たまたま使徒と戦った時の夢を見て、ナデシコが撃ち落されたからといって気にしすぎだ。


──あれはただの夢


そう考え、シンジは頭を振ってゴートの話に集中する。


「このナナフシは一定の領空内に入ってきた敵を迎撃するシステムが備わっている。
過去、軍の特殊部隊は三度このシステムによって全滅させられている。
イネス女史によると敵が次に攻撃を行うのは十二時間後──明朝五時とされているが、今ナデシコは一歩も動く事が出来ない。
よって、今回の作戦ではエステバリスの陸戦フレームと砲戦フレームを使用する」


モニターの映像が切り替わる。

ナナフシまでの道のりが描かれた簡略化された地図が映し出された。

見ると描かれているのは道のりだけでなく、パイロット達の名前とその上には数字が書かれている。

その数字は誰がどのフレームに乗るのかを意味しているのだ。

シンジは自分がどのフレームに乗るのかを確認する。

【イカリ】と片仮名で書かれた上に01という数字がある。

コックとの兼任とはいえ、パイロットであるシンジにもその数字の意味は判る。

【01】──それは陸戦フレームの事だ。

自分の乗るエステを確認すると、アキトはどちらのフレームなのかと目を向ける。

【テンカワ】と書かれた上にある数字は01。アキトもシンジと同じ陸戦フレームの様だ。


「陸戦4、砲戦3のフォーメーションだ。作戦指揮は……アカツキ、君に担当してもらう」

「了解。というわけで、みんなよろしく!」


立ち上がり、他のパイロット達を見回してウインクする。

ふざけている様に見えるが、それだけ自信があるように見える。

実際作戦を成功させる自信があるのだろう。

ナデシコに乗るクルーの大半は『人格や経歴に問題があっても能力は一流』の人材なのだ。

アカツキもそうだが、リョーコ・ヒカル・イズミ達の腕は文句なしの一流だ。

あまりそう見えないが、ガイもあの性格さえなければ一流のパイロットなのである。

そんなパイロット達と作戦を行うのだ。自信がないはずがない。

それはゴートも分かっているのか、アカツキの態度には何も言わず、役目は終わったとばかりにモニターから離れた。

その代わりにエステのミニチュアを持ったウリバタケが前に出る。


「さっき話したように今回ナデシコは一歩も動けん。
つまり! 今回の作戦ではエステバリスはナデシコからのエネルギー供給を受けられないという事になる……そこで!」


そう言ってパイロットに見せるのはエステのミニチュアと何かのパーツ。

ウリバタケはそのパーツをエステのミニチュアの背中に装着させる。


「この様に外部バッテリーを陸戦用の各エステバリスに背負わせる。そのつもりで!」

「作戦開始は一時間後だ。これでブリーフィングを終了する、解散」


ゴートの締めの言葉でブリーフィングは終了した。








ブリーフィングが終わった後、パイロット達は休憩所にいた。

今、格納庫ではエステに外部バッテリーを装着する作業が行われている。

その間はパイロットがする事は特にないので、身体を休めているのだ。

──ガコン

缶の落ちる音が鳴り、ついでルーレットが回り出す音が聞こえる。

ヒカルが自販機で飲み物を買う姿を眺めていたシンジは、アカツキの方へと顔を向け声をかけた。


「アカツキさん。不思議に思ってたんですけど、どうして砲戦が三機で陸戦が四機なんですか? 普通、逆なんじゃ……」


モニターに映っていたナナフシの姿を思い出す。見た限り、ナナフシはかなりの大きさである。

砲戦フレームは動きこそ鈍いが、他のフレームの装備に比べて威力の高い武器を多く装備している。

バッタやジョロなどの小回りの利く敵には不利でも、ナナフシの様な大きい敵を倒すには有利なフレームである。

シンジとて陸戦フレームの攻撃がナナフシに効かない、とは流石に思わない。

しかし、それでも砲戦フレームを多く配置した方が作戦を成功させるには良いのではないかと思ったのだ。

シンジの言わんとしている事が分かったのか、アカツキは人好きしそうな笑みを浮かべて答える。


「まあ、確かにね。ナナフシを破壊するだけなら君の言う事も尤もだ。──けど、敵はナナフシだけじゃない」


指を立て、それを振りながら言うアカツキ。

バッタが出てくるかもしれない。テニシアン島の時の様な、巨大なジョロが出てくるかもしれない。

バッタはともかく、巨大なジョロは出てこないかもしれないが、可能性はゼロではない。

臨機応変に対応するには、汎用性の高い陸戦フレームを多く入れておいた方が良い。

様々な事態を想定して編成されたフォーメーションなのだ、とアカツキは言う。


「それにオモイカネの調査によれば、ナナフシを破壊するには砲戦が二機あれば十分だと出ている。
砲戦を三機にしたのは、念のため。──これで納得出来たかな、シンジ君?」


そう言われるとシンジはただ頷く事しかできない。

ちょっと不思議に思っただけで、もともと大した考えがあって尋ねた訳ではないのだ。

アカツキの様に納得のできる説明をされると別の意見を言う気にはなれない。


「さて、それよりも補給物資担当は誰にしようか?」


シンジが自分の説明に納得したのを見て取ったアカツキが尋ねる。

といっても、自ずと候補は絞られてくる。

予備バッテリーと弾薬を積めばエステは重くなり、当然動きは鈍くなる。

何かあった時、素早く対応出来るよう陸戦フレームの装備は軽くしておいた方が良い。

そうなると、物資を積んでもあまり動きが鈍くならない砲戦フレームに乗る人間が補給物資担当になる訳だが──


「……」

「……」


アカツキは自分以外の砲戦フレームに乗るパイロットに目を向ける。

視線の先にいるのはアマノ・ヒカルとマキ・イズミの二人。

二人とも缶ジュースに口をつけたままアカツキに視線を向けていた。

いや、二人だけではない。

周りを見るといつの間にか全員の視線が自分へと注がれている。

はあ〜、とどこか諦めた様に息を吐き、アカツキは力なく手を上げて答える。


「……OK。女性に荷物持ちをさせる訳にはいかないからね」

「アカツキさん、ありがと〜!」

「風牌の西をカン……シャをカンで感謝〜」


笑顔でお礼を言うヒカルとイズミ。

こうして補給物資担当はアカツキ・ナガレに決定した。








ブリッジクルーが軍服のコスプレをしていたり

それを見たエリナが嬉しそうな声を上げていたり

逆にプロスがそんなクルー達を見て頭を痛めている事など露知らず。

作戦指揮と補給物資担当を兼任しているアカツキを先頭に、エステバリス隊は荒廃した土地をひたすら歩く。

エステバリス隊はナナフシ破壊を目的とした作戦行動中──のはずである。そのはずなのだが……


「山を越えて 行くよー 口笛吹いて ひゅひゅひゅのひゅ〜」


歌を歌いながらエステバリス隊は進んでいる。

正直な話、これから敵の兵器を破壊しに行く様には到底見えない。

これではまるで遠足か何かの様だ。


「あの、アキトさん。いくら何でもこんなにいるんですか、食材……」


殿を務めるシンジが前を歩くアキトに尋ねる。

シンジのエステの手には巨大な風呂敷包みがある。

それはアキトのエステも同様で、二人の風呂敷包みには様々な食材、調理器具が詰め込まれているのである。

二人の持つ風呂敷包みを用意したのはナデシコ食堂のコックであるホウメイだ。

ホウメイは出撃の際、この風呂敷包みを半ば強引に二人のエステに持たせたのである。


「ホウメイさんが言うには、一流のコックはお客のオーダーに答えるのが鉄則なんだって」


答えるアキトの声はどこか疲れている様に感じる。

それは風呂敷包みを運ぶどこか間抜けなエステの姿を想像したためか、聞こえてくる砲戦組の歌のためなのか。

もしかしたら、その両方なのかもしれない。

ただ一つ確かな事は、先頭を歩く砲戦三人組はそんなアキトの事など欠片も気にしていないという事である。

その後もエステバリス隊はナナフシを破壊するために歩き続ける。


「川を渡って行くよー 腕を伸ばして ひゅひゅひゅのひゅ〜」


相変わらず、歌を歌いながらではあったが。







崖を登り、川を渡り、地雷原を越えたエステバリス隊。

途中バッタに襲われもしたが軽く蹴散らし、大した問題もなく作戦は順調に進んでいる。

しかし、ナデシコを出発して早数時間。問題なく進んできたとはいえ流石に疲労は溜まってきていた。


「ここらで一旦休憩にしようか」


そうアカツキが提案した。

まだ姿は見えないが、エステなら一時間も進めばナナフシに辿り着く事が出来る。

イネスが出したナナフシの攻撃時間まで、まだ余裕がある。急いで行くよりもここで身体を休めた方が良いという判断だ。

特に反対する意見もなかったので、河原まで進んだエステバリス隊は休息を取る事になった。


「みんなで 休もう 焚き火を囲め 囲めばみんなお友達〜」


聞こえてくる歌に耳を澄ませながらご飯を作るのは、当然コック兼パイロットの二人──アキトとシンジだ。

別に携帯食で済ませてもいいのだが、ホウメイに持たされた食材と調理器具があるのに使わないのは勿体無い。

休憩時間がそれほど長くないので凝ったものは作れないが、コックとして今出来る精一杯のものを二人は作る。


「やっぱ中華鍋は火の回りが良いよな〜」

「ですねぇ」


料理をしている二人は作戦行動中の様にはまるで見えない。

休憩が終われば二人ともエステに乗って戦いに行くのだが、そんな風には微塵も感じられない。

といっても、もともと二人はコックとしてナデシコに乗船したのでこれが普通なのだが。


「ねぇ、ご飯まだ〜?」


歌うのを止めた三人の声が届く。

その声は出てくるのが遅い料理に不満を感じている風ではない。

どちらかと言えば、それは好きな食べ物が出てくるのを待つ子供の様である。


「もうすぐ出来ますよー」


シンジの返す言葉がどこか明るい。

楽しそうに料理を続ける二人もやはりナデシコのクルーであった。








食事を終え、片付けを済ましたシンジは少し離れた所で身体を倒し、空を眺めていた。

その横にはお座りした形で空を見上げる黒猫が一匹。

イロウルは火星の時と同じ様に、シンジのエステに乗ってついて来ていたのだ。

二人は特に話す事もせず、ただじっと空を──星を眺め続ける。


「綺麗だね」

「そうだな。こうして星を見るのは初めてだ」

「僕は初めてじゃないけど……こうやって星を見るのは久しぶりかな」


イロウルにそう答えて、最後にこうして星空を眺めたのはいつだったろうとシンジは思う。

少なくとも、この世界でこんな風に空を眺めるのは初めての様な気がする。

そうなると前の世界、あの赤く染まってしまった世界でという事になるが──


「あの時以来かな、こうして星を眺めるのって」


こうして星を眺めたのはネルフ本部が停電したあの時以来だというのを思い出す。

復興作業が終わるのを待ちながら眺めた星空。

あの時はシンジの他にレイとアスカがいた。


(でも、最後に空を見たのは……)


最後に見た空は星一つない真っ暗な空だった。

朝か夜かも分からない。月も太陽も見えない暗黒の空。

目を覚まして目に飛び込んできた空はひたすらに黒かった。

最後に見た空。サードインパクトが起こった後の空。あの時の空を今でも鮮明に覚えている。

いつかはちゃんとした世界に送って貰い、あんな世界にしない様にサードインパクトを防ぐ。

それこそがシンジがレイの下で修行をした理由。今はこの世界にいるが、いつかはこの世界から消えなくてはならない。


(そう、なんだよな……。僕はこの世界の人間じゃないんだよな)


忘れていた、というわけでは決してない。

前の世界の事は夢で見る。そして、その度にサードインパクトを防ごうと心に誓う。

パイロットを引き受けたのもレイに出された条件がそうだったからだ。

レイに言われなければパイロットなんてやっていなかったと思う。事実、初めは断ろうとしていたのだ。

しかし、今はそんな風には考えていない。例え条件が変わったとしてもパイロットは続けようと思っている。

ナデシコに乗る人達を守りたい。そう思っている事は、以前アキトにも伝えている。


(ナデシコを守りたい。でも、だったら僕はいつこの世界からいなくなれば良いんだ?)


──サードインパクトを防ぐ


そのためには、この世界から消えなくてはならない。


──ナデシコを守る


そのためには、この世界に留まらなければならない。


いつこの世界から消え、ちゃんとした世界に送って貰えばいいのか分からない。

ナデシコのクルーが解散した時か。戦争が終結した時か。それとも、テニシアン島で出会ったあの少女の問題を解決したその時なのか。

普通に考えれば、あの少女の問題を解決した時だろう。

レイがイレギュラーといった少女。元をただせば、パイロットをやる事になったのもあの少女が現れたからなのだ。

どうすれば良いのかは分からないが、彼女をどうにかすれば自分がこの世界にいる意味はなくなる。

そうなれば、レイはちゃんとした世界に自分を送ってくれるだろう。それでいい。それでいい筈だった。ナデシコに乗るまでは──。


「……ンジ! シンジ!」


自分を呼ぶイロウルの声にシンジはハッとして身を起こす。

何度も呼ばれていたらしいが、全く気付かなかった。それほど、考えるのに集中していたらしい。

初めは星空の事を考えていた筈なのに、どうしてあんな事を考えていたのかと不思議に思う。

そんなシンジの様子にイロウルは呆れた様にため息を吐いてシンジに告げる。


「ATフィールドを広げてみろ」

「ATフィールドを広げてみろ?」


オウム返しに繰り返すシンジだが、すぐに不可視のATフィールドの事だと気づく。

言われた通りに不可視のATフィールドを広げる。

身体の一部が広がっていく様な不思議な感覚。まず最初にヒカル達の存在を感じた。

焚き火の近くで仮眠を取っているらしいヒカルとイズミ。そして、近くに待機させてあるエステバリス。

アキト、リョーコ、アカツキの三人がいないのが不思議だったが、少し離れた所に三人がいる事に気付く。

さらにATフィールドを広げる。

何かが向こう岸の方から自分達の方に近づいてくるのが分かった。

それも、一つや二つではない。何十──いや、もしかしたら百を越えているかもしれない。

最初、シンジにはそれが何なのか分からなかった。ATフィールドを広げたといっても、視覚が広がった訳ではない。

どういう形なのかは分かるが、その姿は見えないのだ。しかし、形が分かれば一体それがどんな物なのか、おおよその見当はつく。

シンジ達に向かって近づいてくる物、それは大量の──


「……戦車!?」


シンジが気付いたのとほぼ同時、戦車の砲身から弾丸が発射された。








「おいおい、何だよこの数は!?」

「つーか、何だありゃ?」


対岸を埋め尽くす程の数の戦車。

あまりの数の多さに声を荒げるリョーコと疑問を口にするガイ。

そんなガイの疑問に答えたのはラピッド・ライフルで迎撃するシンジだった。


「何ってあれは戦車ですよ。知らないんですか?」


戦車といえば一般人でも知っている様な有名な陸戦兵器だ。

シンジはなぜガイが戦車を知らないのか不思議でならない。

しかし、ガイが戦車を知らないのは当たり前でもある。

確かに戦車は有名な陸戦兵器であるが、それはこの世界ではもう二世代以上前の話だ。

この世界では戦車よりもスクラムジェット機や人型兵器の方が主流で、戦車などもう使われていないのである。


『碇の言う通りあれは戦車と呼ばれる陸戦兵器だ。といっても、知らないのは無理もない。
あれが使われていたのは確か二世代以上前の話だからな。戦車は旧式でエステに比べれば装甲は貧弱だが、数が集まれば脅威に値する』

「へぇ〜」


ゴートの話を聞いたパイロット達が感心した様な声を漏らす。

言う通り確かに装甲は貧弱で、ライフルが掠るだけでそのほとんどが行動不能になる。

しかし、数が数だ。いくら倒しても後から後から出てきて切りがない。

仮に全ての戦車を倒す事が出来ても、ナナフシを破壊するだけの弾薬が残るかは微妙な所だ。


『クルスク工業地帯は陸戦兵器の開発で盛り上がっていた──とは聞いていたけど、こんな物があるとはね』

『現地調達に有効利用……いやぁ、敵さんも実に経済的な戦い方をなさる』


ムネタケとプロスの声が聞こえてくる。

しかし、パイロット達は二人のそんな会話に耳を傾ける余裕はなかった。

既に数十台の戦車を破壊しているが、一向に減る様子がないのだ。


「リョーコ君、突破口を開いてくれ! 陸戦三機を残して僕達はナナフシに向かう!」


このままでは埒が明かない。

そう判断したアカツキがリョーコに呼びかける。


「おい、ロンゲ! テンカワ達を置いて行くってのか!?」

「このままじゃジリ貧なのは分かってるだろう!? 僕達の目的はナナフシの破壊だ。
それに、数は多くても戦車相手なら陸戦が三機もあれば十分だ。陸戦ならライフルの弾薬が切れても、ナイフでも戦えるからね」


声を荒げるリョーコを宥めるアカツキ。

ナナフシ破壊の切り札である砲戦フレームを残すわけにはいかない。

仮に砲戦フレームを残しても、弾薬が切れたら碌に動けないこのフレームは邪魔になる。

装甲が貧弱な戦車を相手にするならまだ陸戦フレームの方が相性が良い。


「分かったよ!」


渋々ながらも納得したのか、リョーコは敵に向かってミサイルを放つ。

戦車群の一部が吹き飛ぶ。その隙に、ライフルを撃ちながら進むリョーコを先頭に、砲戦フレーム三機が戦車群の中を突っ切っていく。

ナナフシに向かう四機のエステに向け戦車の砲身が向けられた。

発射されようとする弾丸。しかし、それは後方から発射されたミサイルとライフルによって阻まれる。

ミサイルによって吹き飛び、ライフルによって煙を上げ、戦車は次々に行動不能にされていく。


「させるかよ、ゲキガンミサイル!」

「だぁもぉぉしつこいんだよ、お前らっ!」

「いっけぇぇぇっ!!」


ガイ、アキト、シンジの一斉攻撃。

特にATフィールドを纏わせたミサイルに戦車はひとたまりもない。

アカツキ達のエステに向けられていた攻撃の手が止まる。

その隙を見逃す筈もなく、気が付けば四機のエステの姿はもう見えない。


「……はぁ」


どうやら、アカツキ達は無事ナナフシに向かう事が出来たようだ。

その事に安堵するシンジ。それはガイとアキトも同じ様だ。通信越しに息を吐く音が聞こえる。

肩の力が抜ける。しかし、すぐに目の前に広がる光景に意識を集中させる。

リョーコの攻撃とガイ達の一斉攻撃で結構な数が減ったが、まだかなりの数の戦車が残っている。

後はこの残った戦車群を片付ければ終わりだ。そう気を引き締めた瞬間の事だった。


『シンジ、来るぞ』


イロウルの言葉に無言で頷き返すシンジ。

アキト達は気付いていないが、シンジとイロウルは気付いていた。

向こう岸の森の奥。そこに何かがいる。何かは分からないが、そこにいる何かは──


『気をつけろ。強さは分からないが、敵は恐らくATフィールドを使ってくるぞ』


その言葉と同時に森の奥から何かが出てくる。

それはテニシアン島に現れたジョロを一回り小さくした大きさの物だった。その造りはやはり木星蜥蜴の兵器に似ている。

紫色をした毒々しいボディに八本足。複眼に袋状の身体をしたそれは正しくクモ型と呼ぶに相応しい。

今まで見た事のないタイプの無人兵器だが、恐らく木星蜥蜴の新兵器なのだろう。

しかし、分からない。木星蜥蜴の兵器ならば、なぜATフィールドの反応を感じるのか。

イロウルの話だと、テニシアン島に現れたジョロからも微弱ではあるが、ATフィールドの反応があったらしい。


(あの娘は木星蜥蜴と繋がってるのか?)


──木星蜥蜴は正体不明の機動兵器群だというのに。


『シンジ、考え事は後にしろ。今は目の前の敵を倒す事だけ考えろ』


戦闘中に考え事を始めたシンジにイロウルの叱責が飛ぶ。

イロウルの声にシンジは気を引き締め、クモ型に意識を集中させる。

周りで次々と戦車が破壊されていく中、シンジとクモ型だけが動きを止めている。

そんなシンジの様子に気付いたのか、ガイとアキトがクモ型の姿を認めて声を上げた。


「……戦車だけじゃなかったのか!?」

「どんなのが出てこようが関係ない! 俺のこの燃えたぎる熱い思いで蹴散らしてやるぜぇっ!」


新たな敵の出現にどこか焦った様子のアキト。

ミサイルで攻撃を続けながら声を上げるガイ。

その二人の声を皮切りにしたわけではないだろうが、クモ型が先に動きを見せた。

クモ型の口先にATフィールドが集束していく。何かが来る。そう思った瞬間にそれは起こった。

クモ型の口先から粘着性を持った何かが吐き出された。

クモ型が吐き出した物──それは糸だった。

何となく予想はしていた。クモを模して造られたのなら糸ぐらい出すのではないかと。

ただ、袋状の身体の方から出すのではないかと思っていた。

別にそこまで同じにする必要がないと気づいた時には既に遅かったが。


「ぐぅぅぅぅぅっ!?」


咄嗟に左腕を前に出したのは偶然だった。

エステの左腕にクモ型の吐き出した糸が巻き付いている。

シンクロしているため、自分の左腕に激しい痛みが走り続ける。

感じるのは痛み、だけではない。何かが入り込んでくる違和感。吐き気がする。左手が自由に動かない。

見れば、自分の左腕に葉脈の様なものが走っている。


──侵食


そんな言葉が脳裏に浮かぶ。あながち間違いでもないだろう。

そして、シンジにはクモ型の攻撃手段に見覚えがあった。

その時の事は今でもよく覚えている。父を──ゲンドウを信じられなくなったあの出来事。

使徒に乗っ取られたエヴァ参号機。そして、零号機まで侵食しようとした第十三使徒『バルディエル』。

あの使徒に乗っ取られた参号機と侵食された零号機の腕には、粘着性のある糸の様なものがあった。


(こいつ、使徒の力が使えるのか!?)


信じられないとばかりに目を見開く。

テニシアン島のジョロはATフィールドを──ただ、壁を展開しただけだった。

だというのに、今回のクモ型は使徒の力を使っている。明らかに性能が上がっていた。


『シンジ、左腕にフィールドを集中させろ!』


イロウルの声。

その指示に反射的に従いフィールドを集中させる。

すると、エステの左腕に巻きついていた糸が煙を上げながら消えていく。

それと並行して、シンジの左腕に走っていた葉脈の様な物も消える。

左腕の違和感。何かが入り込んでくる感覚も消え、左腕に自由が戻った。


「ありがとう、イロウル」

『礼はいい。別に大した事ではないからな』


言う通り、冷静に考えればすぐに対処出来る事だった。

敵の糸はATフィールドによって構成されているのなら、中和できる筈なのだ。

前は分からなかった事でも、レイとの修行でちゃんと理解した事だというのに。


──しっかりしろ


そう自身に言い聞かせ、頭を振る。

敵はレイに比べれば大した事はない。自分なら勝てる。

大きく息を吸い、大きく息を吐く。深呼吸して気持ちを落ち着ける。


『そうだ、冷静になれ。使徒の力は脅威だが、それ以外は大した事はない』


その言葉が不思議なほどシンジの心を落ち着けさせた。

冷静に、敵の力を見極める。ATフィールドの出力は本当に大した事はない。

壁も張れるだろうが、それでもジョロより少しマシな程度だ。

あの糸にさえ気をつければ負ける事はない。間違いなく、勝てる。


『あのクモ型はお前だけを狙っている様だが──』


クモ型にライフルの弾が着弾する。

その直後、クモ型の周辺にいた戦車がミサイルに巻き込まれて爆発していく。


『──こっちは一人で戦っている訳ではない』


ライフルとミサイルの発射された方向にカメラを向ける。

カメラを向けるまでもなく、シンジにはそれが誰か分かっていたが。


「大丈夫か、シンジ君!」

「いくぜぇっ!」


拳を振り上げクモ型に向かうガイをライフルで援護するアキト。

行動不能になった戦車の横を抜け、一気にクモ型の懐にまで入り込むガイのエステ。

シンジにのみ意識を向けていたクモ型がガイに気づいた時には既に遅かった。

ガイの一つ目のエステの瞳が、ガイの意思に答える様に強く光る。


「喰らえっ! ガイ・スーパー・ナッコォォォォッ!!」


エステの拳がクモ型の顔にめり込む。

パリン、と音を立ててクモ型の瞳がひび割れ大きく吹き飛ぶ。


「今だシンジ君!」

「は、はい!」


アキトの声に返したシンジはエステをクモ型に向けて走らせる。

脚部のキャタピラが砂利を巻き上げて進む。

水飛沫を上げて川を突っ切り、戦車を上手く避けながら紫色のエステがクモ型に迫る。

左腕に集中させていたATフィールドをそのまま拳に集束させ、拳を振り上げる。


「ああああっ!!」


振り上げた拳を全力で突き出した。

クモ型が破れかぶれといった様子で糸を吐き出すが無意味だった。

拳に集束されたATフィールドが、吐き出された糸を一瞬にして蒸発させる。

クモ型にその拳を止める術は既になかった。

コアに宿らされた魂はそう悟ったのか、クモ型は背を向けて逃げ出そうとする。

しかし、逃げる事も出来なかった。

一気に肉薄した紫色のエステの拳が、その勢いのままクモ型の袋状の身体に突き刺さった。

動きを止めるクモ型。複眼の瞳から完全に光が失われた。


『こいつから発せられていたATフィールドの反応が消えた。こいつはもう動かないな』

「それじゃあ、戦車を片付けたらナナフシに向かわないと……」


シンジの言葉にイロウルは首を横に振る。


『いや、戦車を片付けて終わりだ。それ以上はバッテリーが保たないからな』


イロウルに言われてシンジはバッテリー残量に目を向ける。

今まであまりに敵の数が多かったので、確認する余裕がなかったのだ。

残量を見ると残り五分程しかない。これでは到底ナナフシの所に行く事は出来ない。

それじゃあ戦車を片付けよう、そう思った矢先、ガイから通信が送られてくる。


「おい、シンジ! カッコよく敵を倒したのはいいが、休んでないで戦車を倒すのを早く手伝えっ!」

「はい! ご、ごめんさい!!」


のん気に猫と喋っているシンジに声を荒げるガイ。

アキトは戦車を倒す事に忙しく、シンジに何かを言う余裕はなかった。

二人に謝り、シンジは慌てて戦車へと向かっていく。



ナナフシの破壊に成功したと通信を受けたのは、それから数分後の事だった。








格納庫に近い休憩所。

任務を終えたシンジは部屋に戻らず、そこのベンチに寝そべっていた。

そこは出撃前にパイロット達が集まっていた休憩所だが、別に意図しての事ではない。

ただ疲れていた。動くのも億劫な状態だった。喉が渇いているが、自販機で買う気にもなれなかった。

今シンジを襲っている疲労感は精神的なものだが、使徒の力を使ってエステを動かした反動──というわけではない。

以前の様に二つの使徒の力を同時に使ったわけではないし、レイに言われた通りシンクロ率も落としている。

この精神的な疲労は、任務を終えて緊張が解け、一気に疲れが襲ってきたためであった。。


(はあ、それにしても以外に緊張してたんだな)


内心でため息を吐き、手の甲で顔を覆う。

不可視のATフィールドを教わってから初めての出撃。

よく考えれば最後に出撃したのはナデシコが火星から戻ってきた時だ。

しかも、まともにエステを動かしたのはといえば、火星でネルガルの研究施設に向かったのが最後だ。

ナナフシの破壊に失敗すれば、どれだけの大惨事になっていたか分らない。

そんな作戦中にまた暴走なんてしてしまったら、と思えば緊張しない筈がない。


(……こんなに緊張したのは、サハクィエルを手で受け止めた時以来かもしれないな)


成層圏からネルフ本部に向かって落下してきた使徒──第十使徒『サハクィエル』。

ミサトの無茶とも言える作戦を前に、冷静を装ってはいたが内心ではかなり緊張していた。

失敗すれば死ぬ。

自分達はエヴァのATフィールドに守られたかもしれないが、あの時ネルフに残っていた者たちの死は免れなかった。


(何か、今日は昔の事を思い出すな……)


まあいつもの事だけどさ、と言葉の最後に付け加える。

それでも、今日はいつにも増して昔の事を思い出すのは事実だった。

もしかしてホームシックだろうか、とくだらない事を考える。

─ガコン

自販機から缶の落ちる音。

そして、回り出すルーレットの音が耳に届く。

手を顔から退けて身体を起こす。

人が来るのに気付かないほど疲れていたのか、と自分の疲労具合に改めて驚く。


「何か、シンジ君がそうやってだらけてるのって珍しいね〜」


ヒカルがそう言ってシンジの隣に腰を下ろす。


「でもよぉ、あれだけの戦車を相手にすんのは結構きつかったぞ?
ああ、シンジ。当たったんだけどこれ飲むか? オレンジだけど良いよな」


缶ジュースを両手に持ったガイもまた、シンジの隣に腰掛ける。

そうして当たったらしいジュースをシンジに渡した。

喉が渇いていたのでそれは嬉しい申し出だった。シンジはお礼を言ってそれを受け取る。


「……たしかに」


ガイに同意したアキトもベンチに座る。

声に覇気がない。シンジ程ではないがアキトも疲れているらしい。

よくよく考えればそれも仕方ない。アキトはもともとコックなのだから。


「その様子だとかなり辛かったみたいだねぇ。……でもまあ、そのおかげで作戦は無事成功したんだ。感謝してるよ」


そう言うアカツキはベンチには腰掛けず、壁に寄りかかっている。

時折、喉を潤すために手に持った缶に口をつける。


「ふふ……」


イズミはそんな様子を眺めて微笑するだけだ。

いい加減そんなイズミの態度にも慣れてきたのかツッコム者は誰もいない。

いつもなら何かしら口を挟むリョーコもヒカルの隣に座って口を閉ざしていた。

今回は無視する事に決めたらしい。

しかし、ツッコム者がいなくてもイズミの態度に変化はなかった。


「……」


いつの間にかパイロット全員が集まっていた。

特に示し合わせた訳でもない。偶然だ。

この場所は格納庫に近いから、何となく足を向けただけなのだろう。

しかし、シンジはなぜか頬が緩むのを止められなかった。

何となく心の中が暖かくなるのを感じる。理由は──判らない。

シンジはベンチから立ち上がって、皆の方へと向き直って何となく提案してみた。


「あの、これから食堂に行きませんか? もう閉まってると思いますけど、僕が何か作りますから」


いや、もしかしたらホウメイがまだ起きているかもしれない。

『一流のコックはお客のオーダーに答えるのが鉄則』

そう言ったのはホウメイだ。お腹を空かしたパイロットの為に起きている可能性はゼロではない。


(──でも)


仮にホウメイが起きていたとしても厨房を貸してもらおう、シンジはそう思った。

今は何故か、ここに集まった皆のために自分の料理を振るいたかった。


「……碇の料理か。ちょっと腹も減ったし、いいかもな」


そう言って立ち上がったリョーコは乗り気の様だ。

そんなリョーコに感化されたのか、他の者からも賛成の声が上がる。


「それじゃあ、行きましょうか」


提案者であるシンジが食堂へと向かって歩き始める。。

それに皆が続く。先頭を歩くシンジ。やはり、頬が緩むのを止められない。

そんなシンジは、さっきまで感じていた疲労がどこかに行ってしまっていたのに全く気付いていなかった。








レイがいるのはいつもの広い和室。

二人+α(=ボール髭)しか住んでいないのにこの部屋は無駄に広い。

座布団の上に座り、お茶を飲みながら遺跡に備え付けられたテレビを眺めているレイ。

そのテレビに映っているのはシンジ達が倒したクモ型の映像だった。

無表情のレイ。相変わらず、何を考えているのか窺い知れない。

お茶を飲み終えたレイは湯飲みをちゃぶ台の上に置き、ふぅっと息を吐いた。


「まさか、適当に送った修行先にあの子がいるとは思わなかったわ……」


そんなレイの言葉を聞く者は誰もいない。

それも当たり前だ。今この部屋にいるのはレイ一人なのだから。

テレビが付けば、子供の様にテレビの前に噛り付くカヲルさえ今はいない。


「遺跡を使ったせいか……いえ、もともと惹かれ合う運命だったのかもしれないわね」


そう呟くと、レイはディラックの海を展開し、その中にちゃぶ台を放り込んだ。

そして、いつの間にか持っていた呼び鈴を鳴らす。

広い和室に響き渡る鈴の音。

かなり遠くの方から、ドタドタとレイのもとに向かってくる足音が聞こえてくる。



──五分後




「遅いわ。呼んだら三分以内に来なさいと言っておいたでしょう?」


ぜぇはぁと荒く息を吐くボール(髭)の集団に冷たく言うレイ。

そう言うなら部屋を狭くしろ、と言いたいボール集団だったが疲れて反論する気にもなれない。

とりあえずボール集団の息が整うのを待ったレイは、ボール達に告げた。


「ちょっと出かけてくるわ」

「タブリスを探しに行くのですか?」


黒いマントに黒いバイザーをかけたレイに集団の一人が尋ねる。

いつの間に着替えていたのか、そんなツッコミをする者はここに──というより、この世界にはいない。

ボール(髭)の言葉にレイは首を横に振って答える。


「なぜ、私がわざわざあんな奴を探しに行かなければならないの?
くだらないこと言ってると──引っこ抜くわよ?」


何を、とは言わない。

言わなくてもボール(髭)には何を抜かれるのか判っている。

その証拠に、髭を押さえながらダラダラと冷や汗を流している──中には泣いている者までいたが。

しかし、ボール(髭)がカヲルの事を言ったのはちゃんと理由があるのだ。


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シンジの夢への干渉を果たしたカヲル。

お仕置きの事を考えれば憂鬱ではあったが、シンジと会えたのでそこまで落ち込んではいなかった。

シンジが目を覚まし、お仕置きに対する覚悟を決めながら元の世界へと戻ったカヲル。

しかし、戻ってきたカヲルは目の前に広がる光景に目を剥いた。

一面に広がるのは海。それも赤いLCLの海だ。

空は暗く、星一つ見る事が出来ない。

地球だ。カヲルが戻ってきたのはサードインパクトの起こった地球だった。


──なぜ?


その言葉しか頭に浮かばない。

本来ならあの無駄に広い和室に戻るはずなのに、なぜ地球に戻ってきたのか。


『ガガガ! ガガガ!!』


突然聞こえてきた合唱に振り返るカヲル。

振り返った先、そこにはボール(髭)の集団が列を作って並び、中心に背を向けたレイが立っている。

一心不乱に手を動かすレイ。その様子にカヲルは気付く、レイは指揮者を演じているのだと。

なぜそんな意味不明な事をしているのかは分からないが、どうせただの演出だろうとカヲルは勝手に結論付ける。

レイの手の動きが止まる。同時に、合唱していたボール(髭)も歌うのを止め口を閉ざす。


「おかえりなさい、タブリス」


振り返るレイの声は慈愛に満ちていた。

ただ、対照的にその顔には何の感情も浮かんでいない。

その胸の内に宿るのは一体何なのか。きっとただの気まぐれなんだろう、そうカヲルは思っているが。

何の返事も返さないカヲル。何を言っても無駄である事は今までの経験から分かっていた。

そんなカヲルの気持ちを察した──というわけでもないだろうが、胸の前でパンッと手を合わせ、地面に両手を当てる。

地面から何かが生えてくる。地面から生えたそれはどんどん背を伸ばしていき、すぐに天辺が見えなくなる。

レイがパチンと指を鳴らす。すると口を閉ざしていたボール(髭)達が再び合唱を始めた。


『天〜罰 降〜臨〜』


その歌だけで、カヲルはいま地面から生えてきた物が何だったのか気付く。

伊達にレイと生活を共にしてきた訳ではない。彼女の隣で、偶にテレビを見る事もある。

目の前にそそり立つ巨大な物体。これはハンマーだ。それも作品中『最強ツール』とまで言われた最強の。


「タブリス、覚悟なさい。これが勝利の鍵よ」


冷たく、そして意味不明な事を告げるレイ。

『最強ツール』がカヲルを光にせんがために振り下ろされた──


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「さすがにクラッ○ャーは不味かったのでは?」

「ちょっとした冗談よ。でも、流石にS2機関を暴走させるとは驚いたわ」


結果だけ言ってしまえば、カヲルはこの世界から消えた。

かといって、光にされてしまったわけでもない。

カヲルは攻撃を受ける直前、レイの言った通りS2機関を暴走させたのである。

その結果どうなったのかと言うと、ディラックの海が出現した。

これは以前にもあった事で、前はエヴァ四号機に搭載したS2機関が暴走──同じ様にディラックの海が出現した。

そして、出現したディラックの海はエヴァ四号機とネルフアメリカ第二支部を飲み込む大惨事となった。

今回カヲルはこれと同じ事を行ったのである。

そのためこの世界からは消えてしまったが、どこか別の世界に行った可能性も十分にある。

だから、ボール(髭)達はレイがカヲルを探しに出かけるのかと思ったのだ。


「まあ曲がりなりにも使徒なんだから、命の心配はないでしょ」

「じゃあ、レイは一体どこへ?」

「ちょっと、遊びに行くのよ。でも、前と変わりはないわ。代わりを置いていくから」


そう言って指差した先にいるのは──レイだった。

ATフィールドの使えないボール(髭)には判らないが、そのレイはイスラフェルで造られたコピーだ。

イスラフェルの能力は全く同じ物を造り出すというもので、レイが戻そうとするまで存在し続ける優れものである。


「それじゃあ、私。代理を任せたわ……」

「任せて、私。ちゃんと代理を果たして見せるわ」

「期待しているわ……ジャンプ」


最後に小さく呟くとディラックの海を展開してレイ(オリジナル)は消えた。

小さく手を振りながら見送っていたレイ(コピー)は、オリジナルを見送るとボール(髭)達を見回し、


「それじゃあ、ご飯を作って頂戴……三十分以内に」


大急ぎでボール(髭)集団は和室から出て行く。

時間内に料理を作らなければ何をされるか分からない。

ボール(髭)集団の全員が、とにかく速く──尚且つおいしい料理を作らなければとひた走る。

そして、料理の事以外でもボール(髭)集団のある考えは一致していた。


『本当に前と全く変わらない』


──と。








つづく
































あとがき

お久しぶりです、アンタレスです。

気が付けば前話の更新から五ヶ月が経過してしまいました。

本当に何故かシンジがギャグっぽくなくなってきました。戻す予定、と七話のあとがきに書いていたのですが……。

当初の予定よりかなり話が変わってきています。もう一人のシンジとかシンジと同じ顔を持つ少女とか……

もうギャグ担当は赤い世界の住人達になってきていますし、それにカヲル……やっぱりナデシコの世界に行ってしまいました。

これで、ナデシコ界(?)の方も少しはギャグっぽくなるのでしょうか? 無理にする必要はないのかもしれないですけど。

どこかに遊びに行ってしまったオリジナルレイですが、これは特に意味がなかったりします。

コピーレイが残っているので全く世界は変わっていないので。何となく、自分の書くレイは大人しくその世界に留まっているようなキャラではない様な気がしましたので……。

相変わらず変なあとがきですが、代理人様、感想よろしくお願いします。









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代理人の感想

ん〜、まぁいいんじゃないですか? 

無理に軌道を変更しようとするとどうしても無理がかかってしまいますし。

ただ、ギャグが少ないのは確かに寂しいですね。カヲルくんに期待しましょう(笑)。