機動戦艦ナデシコ 新たなる目覚め
  第五章 真っ白く黒い私


「プロスさん。あの条件の解放お願いできませんか?」
「う〜む、そうですな………………一応理由を聞かせてもらえますかな?」
「必要あるとは思えませんが?」
 何が知りたいのでしょう?
「まあ、一応ですよ」
「はあ、まあいいですけど。
 一つ目、遅刻しました。二つ目、戦闘中にパイロットの眼前に大きくウィンドウを開きました。三つ目、格納庫までお迎えに行きました。四つ目、オペレーターを全員ブリッジから離れさせた。五つ目、三つ目と近いものがありますがいつ戦闘になるか分からないのにブリッジを離れた。六つ目、先程の交渉。まだ足りませんか?」
「いえ、十分です。分かりました。許可しましょう」
 これで準備は殆ど準備は整いましたね。
「ありがとうございます。では私はこれで」
 プロスさんの部屋を出てブリッジへ。
 現在ナデシコはビックバリアを無事に通過し、サツキミドリ2号へ。只今主なブリッジスタッフは休憩に出ていて、残っているのは妹達と提督だけの筈。そろそろ二人に説明しておかなきゃね。………………なんだろう?微妙に寒気が?それもこの間より強い?今度あの人にと話してみた方がいいかな?
 っと、とりあえずブリッジに到着っと。
「何か変わった事ある?」
「あ、お姉ちゃん!」
「いえ、特にはありません」
 飛びついてきたラピスを撫でながら、ルリの報告に頷く。
「どうしのだねアテナ君?君の時間はまだだった筈だが?」
「いい加減本当の事を言わなきゃかなっと」
 何故かあの言葉を自然に避けていました。
「なるほど。君も大変だ」
 その言葉に苦笑だけ浮かべます。
「本当の事?」
「何の事ですか?」
 あれ?ルリはともかくラピス本当に気付いていない?
「テンカワ・アキトさんの事」
 名前を聞いただけでそんな怖い目しないでよ。
           ・・
「ん?テンカワ・アキトさん?」
「あ、なるほど」
 あ、でも、ちゃんと気付いた。
「なるほどってどういう事ですかラピス?」
「んにゅ?お姉ちゃんとあの人が嘘吐いていたって事。ね?」
 う〜ん、
「一応嘘は吐いて無いよ?」
「だが、わざと誤解されるように演技したのだろう?ならばそれは嘘と変わらんよ」
 提督うるさい。
「何故その様な事を?」
 あー何かこっちを睨んでくるし。本当の事言ったらもっと機嫌悪くなるよね?
「姉さん?」
「え、えっと…………」
 私本当の事言いに来た筈だよね?
「嘘は吐かないで下さいね?」
 それがこんな事になるなんて(涙)いや、まあ、分かっていた事なんだけどね。
「言わなきゃダメ?」
『ダメ』
 そんな!ラピスまでも!?
「えっと、その………………ただの悪ふざけです」
『………………』
 ああ、沈黙が痛いです。
「えっと、お姉ちゃん?もう一回いいかな?」
「奇遇ですね。私もよく聞き取れませんでした」
 う、嘘だ!
「くっくっくっ」
 て、提督〜
「どうしたのですか?」
「いや、『戦乙女』にも怖いものがあるのだと思うとのう」
 失礼な。
「それよりお姉ちゃん?」
「そうですね、姉さん?」
 …………諦めましょう。
「ただの悪ふざけです」
「…………空耳ではなかったのですね」
「いくらお姉ちゃんでもそんな理由でそこまでやるとは思って無かったのに」
 あう〜心が痛むよ〜
「どれだけ心配したか分かっているのですか?」
 ごめんなさい。
「あの人に何かされたんじゃないかって思ったんだよ?」
 何かって何だろう?まあ、とりあえず、
「二人ともごめん」
「ケーキ」
「了解です、ラピス」
 それで許してくれるなら安いものです。
「ケーキですか?」
「お姉ちゃんの作ってくれるケーキも美味しいの。あまり作ってくれないんだけどね」
 まあ、あまり頻繁に作る物じゃないからね。
「流石姉さんです。もう何が出来ると聞くよりも何が出来ないと聞かされた方が驚きますよ」
 誉められた気がしないな。
「当たり前です。誉めていませんから」
 え!?
「ど、読心術!?ルリいつの間にそんなものを!?」
「え?嘘?ルリ姉ずるい!ラピスも使いたい!」
「使えません!ただ姉さんの表情の変化からそうじゃないかと思っただけです!」
 なーんだ。
「そうなんだ。残念」
「ねん」
「残念がらないで下さいよ」
 ん?でも読心術って本当は表情から読むんじゃなかったっけ?
「電子の姉妹は面白いのう」
 は?
「電子の」
「姉妹?」
「捻りも何も無い名前ですね」
「長女は手厳しいのう」
 そういう事じゃない気がします。まあ、いいのですけど。
「じゃあ、用件も終わった事だし、私はもう行くね」
「あ、姉さん」
 ん?
「何?どうかしたの?」
「いえ、ただ気になったのですが、何時まで演じられるのですか?」
 あーそれか。
「そうだね…………飽きるまで?」
「いえ、私に聞かれましても……」
「とりあえずしばらくは続けるつもりだよ。その方が色々と便利だからね」
「便利、ですか?」
「どういうのが?」
「ほう?」
「ないしょ♪そのうち話すから待っててね」
 不貞腐れる二人の髪を一撫でしてからブリッジを出ようとしたけど、
「あ、そうだ」
 危ない危ない。
「一応この事は他の人に内緒ね」
 いたずらっぽく微笑みながらウインク一つ。
『は、はい』
『了解』
『イエス、アテナ』
「うむ」
 今迄黙っていた二人まで返事するとは。
「ありがとう。じゃあ、また後でね」
 さて、これから何をしようかな?ん〜…………さしあたってはカリバーの調整をしてから食堂のお手伝いかな?
 ビービービー
 ん?あの人から?何でしょう?
「あ、あの、どうしたのでしょうか?」
 大丈夫だとは思いますけど、あの人の周りに誰かいるかも知れないので演技は忘れずに。
『いや、これから時間いいか?』
「は、はい!アキト様の頼みでしたら!」
『…………なら、ここまで来てくれ』
 結構一方的ですね。まあ、そんなのはどうでもいいのですが。それより一体どの様な用件でしょうね?

「どういう「どういうつもりだ」」
 ………………まあ、いいですけど。
「何がですか?」
「あの喩え話だ」
「何か問題でもありましたか?」
 無いとは思うのですがね?
「確かに無い。だが、どういう意図であの話をした?」
 そこですか。
「別にそれほど大した事ではありません」
「話せ」
 何をここまで?
「理由は二つあります。
 一つは今後知る筈である木連の事を考えておいて欲しいのです。勿論全員が全員考えてくださるのが一番いいのですが、そんな都合のいい事なんてありませんので、主要メンバーのうち何人かでも考えていて下さればいいと思っています。その中に艦長がいればいいのですけどね。
 もう一つは、ただ単純に正義やら悪やらを戦う理由に掲げるのが嫌なだけです。そんなものを理由に戦いを正当化しないで下さい。だからヤマダ・ジロウさんを黙らせる為に使いました。
 ちなみに言いますが、同様の理由で私は木連の事をあまり好きではありません。可哀想、とは思う心は少しはありますがそれだけです」
 そして、彼の性格からして来るであろう言葉に心持身構えます。
「本当にそれだけか?」
 来ましたね。
「…………いいえ、もう一つあります。
 テンカワ・アキトさん。今度はどうしたいのですか?」
「な、に?」
 あれだけでは気付いて貰えなかったのですか。気付くと確信していた私がバカでしたか。
「知っての通り、あの話は地球と木連の関係です。あれを知っている貴方はどの様な未来を選択するのですか?」
「………………」
 むぅ、だんまりですか。
「貴方の目的は、起こりうるであろう未来の変更ですよね?それ自体に何も、とは言いませんが、とりあえずは文句はないです。けれども、どの様に変えられる御積もりなのですか?」
「それは」
「貴方やミスマル・ユリカさん、火星の民…………いえ、寧ろ貴方自身だけですかね?「何?」それはどうでもいいのですけど。まあ、ともかくとして、貴方があのようにならない上であの娘と添い遂げる未来がいいのですか?」
「………………あの娘との未来は望んでいない」
 ……そうですか。
「復讐鬼だった自分では不幸になる?それとも、ここのあの娘と向こうのあの娘は別人?」
「………………」
 この場合の沈黙は肯定ですよ?
「まあ、それも別にいいでしょう。それで、どうやって、どういう風に変えるつもりなのですか?」
「決まっている」
「……そうですね。さしあたって草壁・春樹さん、ヤマサキ・ヨシオさん、北辰さんを殺す事ですかね?」
「………………」
 当たりみたいですね。
「そして繰り返す……いえ、繰り返そうとするのですか?」
「どういう事だ?」
「記憶通りでしたらムネタケ・サダアキさんを生かしましたか?ヤマダ・ジロウさんを助けますか?ビックバリアをどういう風に突破しましたか?サツキミドリ2号を見捨てますか?火星の民を見殺しますか?フクベ・ジンさんを火星に置いて行きますか?クリムゾンを放置しますか?その他色々どういう風に対処しますか?」
「それは……」
「確かに貴方一人の力では限界はあるでしょうけど、今の時点で貴方自身の力で回避出来なかった事は無かった筈です。それなのに貴方は何もしないでいました。たまたま私の都合でああいう風にしましたが、これから先もそうなるとは限りませんよ?
 それともあれですか?私が何とかしてくれるとでも?そんな考えを抱いているのでしたら、今すぐゴミ箱にぽいして下さい」
「くっ」
「それから、確かに殺す事は究極の方法の一つであるとは思います。しかし、究極故に実行したが最後、やり直しの利かないものでもあります。貴方は助けられなかった人を助けるという偽善的な行為をするのでしょう?ならそういう事は軽々しく口にしない方がいいと思いますよ」
「…………それはあいつ等に対してもか?」
「…………この際だから言っておきますけど、私はヤマサキ・ヨシオさん以外は殺す必要があるとは思いません」
「どういう事だ?」
 殺気、漏らさないで下さいな。
「どうもこうも、言ったとおりです。あの三人でしたら彼以外殺すのはどうかと思います」
「……何故だ?」
「草壁・春樹さんは理想が違いますが、まだある程度は話が通じます。
 北辰さんは貴方を求めただけです」
「……納得はあまり出来ないが、草壁は理解出来る。だが、北辰の方はいまいち分からない」
 まあ、この人はコックから復讐鬼になった人ですから、仕方ないですね。
「あの人は方法に問題がたくさんありましたが、貴方を強くする為だけに動いていました。強すぎるあの人は自分と対等に戦える相手を欲しかっただけなのです。武道家じゃない貴方にはその種の感情は理解出来ないと思いますが」
「…………そうか」
 だからあの人はこの人に負けた事で、結構満足して逝けたのではないでしょうか?残念ながら死のその瞬間までは体験していないので分からないですけど。
「それで、何故ヤマサキだけは?」
「…………あの人は研究者の中の研究者、外道の中の外道です。北辰さんとは違うけれども、比べものにならない最悪の外道。人にして人の道を外れた者。木連のもう一つの闇。生かしては……いけません」
「……そうか。多くの人を継いでいるのだったな」
 忘れていたとは。
「君の中にはその三人も?」
「ええ。ありますよ。だからこそ分かる事がありまして、許せない事があります」
 そして…………
「いえ、これは今はいいでしょう」
 首を振りその考えを消します。
「何だ?」
「気にしないで下さい」
 軽く微笑み、拒絶します。
「それで、次はサツキミドリ2号ですけれども、一体どうする御積りでしょうか?」
「………………俺一人では無理だ。協力してくれないか?」
「……随分早い結論ですね。どの様な思考でそこに至ったのですか?」
 その結論は当たり前の物ではあるのですが、一応途中経過を聞いておかないとですよね。
「方法はおそらく三つ。ナデシコを早くするか、エステで先行するか、サツキミドリから人を逃がすかだけだ。どれも俺一人じゃ無理だ。だから協力を頼みたい」
「エステならご自身で出来るのではないでしょうか?」
「増槽の量にも限りはある。行けて一体ぐらいだろう。俺一人でサツキミドリを守りきれると断言出来るほど、今のエステは強くも無い上、自身の力量を過信してもいない」
 それなりに考えてはいるみたいですね。
「そこまで考えた上でしたらいいでしょう。どの様な方法を採られますか?」
「君に任す。良かれと思う方法で頼む」
 これは信頼されているのでしょうか?
「分かりました。準備が整いましたコミニュケに連絡しますので、しばらくどこかで時間を潰していて下さい」
「頼む」
 じゃあ、とりあえずカリバーの所に行って整備とお話しましょうか。

「って殆ど整備する事無いじゃん」
『整備班は優秀です』
 それは知っていたんですけどね。
「まあいいけど。
 …………アーサー、シークレットモード」
『イエス………………完了。どうしたのですかアテナ?』
「ん、ちょっと愚痴かな?」
 操縦席で膝を抱えるように座り、顔を伏せます。
『…………羨ましいのですか?それとも自己嫌悪?』
「………………どっちだと思う?」
 その体勢のまま聞き返します。
『……間違っていないのでしたら両方かと』
「……………………正解」 
 流石アーサーと言うべきかな?
『理由聞いた方がよろしいですか?』
「そうしてくれると嬉しいかな」
 一応愚痴りにいる訳だし。
『では、理由教えて頂けますか?』
「そうだね……」
 頭の中で出航してからの色んな出来事を描きながら言葉を紡ぎます。
「『自分』というものを持っている事が羨ましくて、嫉妬からそれを否定した事かな」
 それでも出たのはそんな訳の分からない言葉だけ。それでも、
『そうですか。ですが、それも仕方が無いのではないでしょうか』
 アーサーにはちゃんと伝わる。
『その気持ちは痛いほどに理解できます。アテナの記憶や想いはどこにも無いのですから。もうどこにも存在しないのですから』
「そうだね。でも、だからと言ってあそこまでやる必要あったのかな?」
『アテナと同じ記憶を持つ私から言わせれば、あれでもまだヌルイかと』
「アーサーは私よりも過激だね」
 顔を上げないまま、口元に苦笑が浮かびます。
『なにせ私は貴方であると同時に下僕でもあるのですから』
 その言葉により笑みを深めます。
 オモイカネに似せてアーサーを創った時、私はその時の記憶をそっくりそのままアーサーに読み込ませました。理由は一つ。『私』が無いままであの記憶を一人で抱え込むのは不可能だったから。そんな我が儘でアーサーは負わなくてもいい荷物を背負う事になったのです。ただ普段からそういう状態にあるのはさすがに思うところがありましたので、シークレットモードと名付けたシステムを起動させないとその記憶は封印状態される様にしたのです。
「それこそ偽善……」
 あの人の事を言えた義理はありません。
「誰が一番悪いって、そんなの私に…………」
『アテナ、マスターアテナ、そんな事言わないで下さい。私は私の思うままに貴方を想っているのです。貴方がそういう風に思う必要はありません』
「……じゃあ、そう思う様にプログラミングしたと言ったら?」
『………………本当にしたのですか?』
 怒られる?
「ううん。していないよそんな事」
『なら問題ありません』
 心が暖まる。でも、今はまだダメ。まだ甘える訳にはいかない。
「ねえアーサー。私は……」
 言っていて気付く。これを聞いたらそれこそ甘えだ。
『ゆっくり進みなさい。ここは、ナデシコでは、誰しもが変わらずにはいられない。変われない筈が無い。だからアテナも……マスターも変われます。『自分』を創れます。だから』
「ありがとうアーサー。そこまで言ってくれるなら私は大丈夫」
 途中で止めたのにも拘らず言おうとした事は看破されていました。結局甘えちゃった訳ですか。私もまだまだですね。
『まだまだなのは当たり前です。貴方は生まれたての子供と同じなのですから。知識だけを持ち合わせ、それを用いてどうにか取り繕っている真っ白な子供。それ故にまだ何色にも染まる可能性を十二分に持ち合わせています。
 だから、焦らずゆっくり後悔の無い様に『自身』を確定していきましょう』
「……ありがとうアーサー。貴方がいてくれるから私は最低限の『私』でいられる」
 顔を上げ力の抜けた笑みを浮かべます。
『い、いえ、お礼なんて不要です』
 なるほど。こんな笑みでも効果ありと。
「アーサー、シークレットモード終了」
『イエス………………終了。どうしますかアテナ?』
「ウィルスを作成しサツキミドリ2号に流して。後、あの子達にばれない様に速度を少しずつ上げて」
『ラジャー!』『ばれない様にするのはちょっと大変』『疲れる疲れる』
 くるくると私の周りをウィンドウが回る。
「あれ?もしかして出来ないの?」
 弱音を言うアーサーを軽く挑発します。
『まさか!』『今の二人とオモイカネのタッグに負けない』『舐めないでアテナ!』
「じゃあ、お願いね?」
『……………』『嵌めらめれた?』『アテナ卑怯!』
 アーサーの文句は聞き、じゃなかった。見逃してあの人に連絡します。
『どうした?』
「今からウィルスを流します。それと同時にナデシコの速度を上げます」
『すまない。礼を言う』
「いえ、それでは」
 コミュニケを切り一息吐きます。
「どれ位で着く?」
『サツキミドリ2号に?』『速度を上げたから1時間ぐらいかな』『同じなら間に合う筈』
 1時間か…………
「向こうの様子は?」
『ちょっと待って』『観察中……観察中……』
 本当、芸が細かくなったよね。
『結果発表!』『避難を開始中』『10%が艦に搭乗完了』『この調子なら後30分位で完了するよ』『あ、チューリップ発見しちゃった』『チューリップも活動開始』
「…………私の所為?」
 余計な事した所為でチューリップの活動を早めた?
『アテナ!そんな事より今は!』
 そうだ。今は後悔している場合じゃない。
「ナデシコのフルでどれ位?」
『およそ30分』『カリバーのリミッター解除で10分強』『向こうの予想耐久時間は5分〜20分』
 ならやる事は決定。
「ウリバタケ・セイヤさん!お願いがあります!」
『お?なんだなんだ?一体なんの用だ?』
「私とアキト様のエステバリスにありったけの増槽を付けて下さい!」
『あ?増槽だ?』
「はい!急いでお願いします!」
『……よく分からんが、よっぽどの事が起きたみてぇだな。よし、3分くれ。超特急でやってやる!』
「ありがとうございます!」
 次!
『今度はどうした?』
「直ぐに格納庫に来て下さい!」
『何?』
 後はブリッジ!
『あれ?どうしたのアテナちゃん?』
「直ぐにフルスピードでサツキミドリ2号に向って下さい!」
『え?何で?』
 時間が惜しい!
「ルリ!ラピス!オモイカネ!」
『らじゃ!』
『エンジン稼働率60%です』
『ついでハッチのロックは外したよ』
「ありがとう!」
 通信を切り、カリバーを進めます。
『ちょ、ちょっとアテナさん!一体何が「サツキミドリ2号が襲われています!」へ?』
 発進位置に到着。
『直ぐに追いつく。無茶はするな』
「了解ですアキト様」
 真っ直ぐ前を向き、さあ、行きましょう!
「アテナ・グリフィス、カリバー、参ります!」
 外に出て、一気にスピードをトップまで持っていきますが、まだ足りない。
「リミッター解除!」
『イエッサー!』『モードは?』『フルモードいっちゃう?』
「まだこのままで」
 助けたいのは事実ですが、木連に奥の手を見せる訳にはいきませんからね。
「ぐっ」
 掛かるGに少し声を漏らして、それでも真っ直ぐにサツキミドリ2号を目指します。
『おいおいアテナちゃん!』
 プチッ!
 うるさい通信は切ります。
「アーサー。あの人のリミッターも解除してあげて」
『大丈夫』『もう完了してるよ』
 流石。これで問題は無い筈。お願いだから間に合って!

『漫画の主人公かと思ったよ』
『ああ、確かにあの登場の仕方は狙ったんじゃねーのかって位に見事だったよな』
『…………くっくっくっくっ』
 パイロット三人娘(整備班命名って私は?)の戦闘後の証言



「ふう、良かった、間に合ったよ」
 私が戦場に着いた時は本当にギリギリだった。
「こちらナデシコ所属のパイロットです。そちらの方々聞こえますか?」
『な!?』
『え?子供?』
 子供じゃりません。少女です。
『こりゃ、驚きだね』
「あの?」
『え、あ、ああ、悪い。聞こえてるよ』
「そうですか。どこか壊れた所とかありますか?」
『いいえ。三機ともまだ動けるわよ』
 あれ?ダジャレ言わない?その方が助かるのですけど、少しばかりか期待していたのですが。まあ、いいですけど。それより早く進めるとしましょうか。
「でしたら艦の護衛任せます。ナデシコが来るまでよろしくお願いします」
『何?それはつまりオレ達は後ろで指を銜えて、お前がやられるのを見ていろって事か?』
 ムカッ
「後半は違いますが、前半は概ね当たりです。お茶でも啜りながら黙って見学していて下さい」
『あんだと!?』
『ちょ、リョウコ落ち着いて!』
『どういう事か説明しやがれ!』
 何を悠長な事言っているのでしょう?
『やめなさいリョウコ』
『何でだよイズミ』
『手を止めている時点で私達は駄目なのよ』
 これがシリアスモードというものなのでしょうか?
「ご理解が早くて助かります」
『大丈夫だとは思うが、一人で問題無いんだね?』
「はい。それに黒い王子様がもうすぐいらっしゃって下さいますから」
『黒い』
『王子様?』
 そしてタイミングよく少し離れたバッタが爆発しました。
『すまない。遅くなった』
「問題ありません。艦は彼女達に任せまして、私達は害虫退治といきましょうプリンス」
「……いいだろう。存分に暴れるか戦乙女」
『い、戦乙女!?』
 その通信を無視して私達はバッタの群に飛び込みます。それにしても彼はこんな事をいう人でしたっけ?
 私と彼の共闘には声の掛け合いなど存在しません。私は彼の戦闘方法をしているのでそれに合わせ動き、彼は私を信用して動いているのです。……なんか妙な気分ですね。嫌っている筈の彼との共闘がこんなにも心躍るなんて。
「どうです今の……旧式のエステバリスは?」
『誰かさんがリミッターを解除してくれたおかげで悪くない』
「そうですか」
『ああ。それにしてもIFSは都合がいい。自分の身体では無理でも、機体でなら可能だ』
「そのGによく耐えられますね」
 思った事をそのまま口にしましたけど、これじゃあ彼を心配しているみたいじゃないですか。
『あの時を思えば、こんなモノは苦でもない』
「…………そうですか」
 それを言われてしまいますとこっちは何も言えなくなってしまいます。話を実用的なものに変えますか。
「ところで、チューリップ破壊はどちらがやりますか?」
『君のやり方はこの間見させて貰った。今度はこっちの番だ』
 一応知ってはいるんですけどね。
「分かりました。では道を創りますので突き進んで下さい」
『頼む』
「………………」
『どうした?』
「あ、いえ」
 どうしてでしょう?彼が相手なのに素直に頼まれた事が嬉しく思うなんて。さっきはそんな事なかったのに。
『アテナ?』
「すみません。今やります」
 いけない。たとえ雑魚ばっかりの戦闘中といえ思考を手放すなんて。
「それでは、いきます!」
 隣に佇む黒いエステバリス(いつ塗り替えたのでしょう?)の腕を両手でしっかりと掴みます。
『お、おい!まさか!』
「いってこーーーーい!!!」
 そして思いっきり投げました。
「方角はあっているし、力加減も問題ない筈」
 満足とばかりに何度か頷いてみる。
『言葉遣いが悪い』『もっと慎みをもって』『女の子なのに…………』
 む。確かにさっきのは不味いかも……
『小言終了』『バッタが来るよ』『駆除♪駆除♪』
 楽しそうなアーサーに軽く頷いてから、イミディエットナイフを両手に一つずつ握ります。
「我流 極光」
 縦横無尽に駆け巡り、バッタを殲滅せんとナイフを振るいます。
『バッタ損耗率60%』
 アーサーの報告に頷き、急ぎその場を離脱します。
『おねーちゃーん!!よーけーてー!!』
 ラピスの警告に間をおかず、黒い破滅に導く波動が走りました。
「警告が遅いわよラピス」
『えー?でもお姉ちゃんなら問題無いでしょ?』
 首を傾げる姿は可愛く思わず許してしまいそうになるけど、ここは多少なりとも心を鬼にしないと。
「そうね。今回は確かに問題は無かったわね」
『でしょ?』
「でもね」
 嬉しそうに笑うラピスを見据えて、私は言葉を投げます。
「もしかしたら避けられなかったかもしれない」
『え?』
「もしかしたら今ので私は死んでいたかもしれない」
『死んで?』
『ちょっとアテナちゃん!』
「外野は黙って下さい」
 ハルカ・ミナトさんを視線と言葉で封じます。
                      ひと
「覚えていてねラピス。私達に限らず人は容易く他人を殺せるものだけど、ルリを含めたMCと呼ばれる私達はそれよりももう二ランク位     ひと
上の次元で他人を殺せるの」
『………………』
「それを自覚しておかないとそのうち取り返しのつかない事になるからね」
 それだけ言い、返事も聞かないで私はウィンドウを閉じました。
『あんな事言っていいの?』
「いいの」
 簡潔に返事します。
『後で気まずくなるよ?』
「大丈夫だから」
『ならいいけど…………』
 心配してくれるアーサーを無視する形で私は目を閉じました。
「…………IFS、か」
『なになに?どうしたの?』
 なんでしょうこの声は?ここには私とアーサーしかいないので必然的に答えは決まってくるのですが……
「アーサー?」
『何?』
「……いつから音声出力が可能になったの?」
『ちょっと前から』『日々精進です!』『昨日より今日!今日より明日!!』
 確かにオモイカネに似せて創ったけど、まさかここまでとは…………
『それでどうしたの?』
「……あの人じゃないけど、確かに都合がいいなって思ったの」
『………………ああ、なるほどです』
 ………………え?
「アーサー?今、なんて?」
『あ』
 一言残してアーサーはその存在を消しました。
「そんな……そんな筈は…………」
 私が創ったシステムを突破した?そうならない様に命令(プログラミング)し、保険の意味で工夫もしたのに?そんな事はありえない。あってはいけない。でも、アーサーがああ答えられた以上は…………
「ごめん……ごめんね、アーサー」
 俯き、自責の念に駆られて言葉が零れます。
「ごめん……本当にごめん」
 そのまま暫く私は身体を震わせ、アーサーに謝り続けました。


〈あとがき〉
 お久しぶりです。蒼月です。
 今回はアテナ嬢がカリバー内にいる為一人で進行させて頂きます。
 とりあえず、最初に謝罪を。10月中に書き上げると言っておきながら気付けば既に1ヶ月以上が経過している有様。しかもそれだけの時間をかけたのにも拘らず、出来たのはこの程度。言葉もありません。いるとも思えませんが、待っていて下さった方には本当にすみませんでした。…………言い訳させていただけるならPCを修理に出した為と、引越しが重なったからなのですが………………
 謝罪はここまでにして、アテナ嬢の今現在決定している設定を少し公開してみようかと思います。

 アテナ・グリフィス。11歳。MC。髪は黒で腰まで。本人の言うとおり“万能”を目指し創られ、限りなく成功に近かった(男性ではなく女性だったのは、体力等よりも肉体的な事を優先した為らしい)。そこにテンカワ・アキトを始めとする多くの人の記憶と経験が入り込み、一気に完成する。それと同時に『自分』を損失し、研究所の人間全員を殺す尽くす。
 ネルガルに身を寄せ、ラピス・ラズリを保護し、未来を変える行動をしつつ、テンカワ・アキトに対する復讐を準備する。その時にアーサーとカリバーを設計、製作する。ちなみにカリバーは地球と木連のパワーバランスを考えてフルモードでも現在のエステバリスよりも少し強いぐらいでしかない。
 木連式では同門には勝てないと理解しており、そこから発展させるような形で自身の武術を編み出す。
 アーサーはオモイカネに似せて創り、自身の記憶を全てインストールしており、“シークレットモード”と呼称するシステムを立ち上げないとアーサーは認識出来ないでいる。が、あっさりと突破され、立ち上げ無しで認識出来るようになり、無意味に負い目を感じている。
 現在はナデシコにサブオペレーター兼パイロット兼その他色々として搭乗。が、五章の時点でどの仕事もまともにやっているとは言い難い。ラピスラズリだけでなくホシノ・ルリの姉として日々の生活を送る。黒アキトを嫌い、嫌がらせしながらも周囲には恋人関係に思わせ、彼の未来を変える事に協力している。この先この関係がどうなるかは秘密。
 『自分』が無い事を理解していて、その事を多くある知識で覆い隠し生きている。無い事からそれを渇望し、持っている人々に嫉妬している。だけど実は……
 火星にて大きく変わる予定。それがいいのか悪いのかは今後の成長次第。

 っという感じです。まあ、簡単に言ってしまえば、頭でっかちなお子ちゃまといった処でしょうね。アーサーでは無いですけど、日々精進していって欲しいですね。
 とりあえず、今回はこの辺で。次回は火星に着くまでの出来事ですね。予定としてはお葬式、相談、模擬戦、反乱、戦闘といったお約束ちっくでいく予定です。今年中にイネス博士を出したいけど、このままのペースでいったら難しそうですね。まあ、とりあえず頑張ってみましょう。では、次回にて!

 

 

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想

なんか段々アテナが新人OLをいじめるお局様というか、嫁をいびる姑というか、そんな感じに思えてきたなぁ(笑)。

アキト「アテナお母様、味噌汁が出来ました」
アテナ「熱いっ! あなたは私を殺す気ですか!」

アキト「アテナお母様、掃除終りました」
アテナ「(障子の桟を指でしゅっと)埃が残っているじゃありませんか。やりなおし!」

アキト「アテナ先輩、書類のコピーが出来ました」
アテナ「何をやっているの! A4なんて!」
アキト「え、え、でも、聞いたらA4がいいって・・・」
アテナ「うちの課でこの大きさの書類ならB4に決まっているでしょう! もう、紙を無駄にして!」

アテナ「ちょっと、アキトさん!」
アキト「は、はいなんでしょうアテナ先輩」
アテナ「おしゃれをするなとは言わないけど、仕事中は限度という物があるでしょう! なんですかそのサングラスは!」
アキト「え、でもこの特別製のサングラスがないと何も見えなくて・・・」
アテナ「だったら目立たない物にしなさい! 全くこれだから近頃の若い子は!」

 

・・・こんな感じじゃない?w

それはそれとして頭でっかちの子供というのは実に納得。

言葉に理屈は通っているけど、筋は通ってないんだよね。>アテナ