あの人は、誰よりも綺麗で、優しくドキドキする笑顔を見せて、イタズラを一緒にやって、いろんな事を教えてくれて、誰よりも輝いて見えたの。時々酷く暗い顔をするのは知っていたけど、自分には何も出来ないと決め付け、ただただ傍にいただけなの。
 あの人が本当に叱ってくれたのはその時が初めてだったの。いつもは最後には苦笑して「しょうがないな〜」っていう感じなのに、その時は最後まで怖い顔をしていたの。
 知っているお姉ちゃん?ラピスはお姉ちゃんに叱ってもらって嬉しかったんだよ?叱って貰えないのは寂しかったんだよ?
 …………もっともその事に気付いたのはそれの後でなんだけどね。その時は何で叱られたのかが分からないで、ただ叱られた事実に泣くだけだったけど。


  機動戦艦ナデシコ 新たなる目覚め
  第六章 火星まで〜後数マイル〜♪


 突然何も無い筈の宇宙空間より銃撃が放たれました。
『ヒカル機コックピットに被弾。パイロット即死の為リタイヤです』
 オモイカネの声が響きます。
『マジかよ。これで後はテンカワとアテナとオレかよ』
 スバル・リョウコさんがそう呟いたのが聞こえました。
「残念でしょうがスバル・リョウコさんはここまでですよ」
『何!アテナいつの間に後ろ』
 途中ですがそんなものに付き合っていられません。この後に控えているのはthe prince of darknces。最強のエステバリスライダーなのですから。幾ら私が彼と同じとは言え、本物と借り物の差は大きいと実感しています。
『リョウコ機全壊。リタイヤです』『残機アキト機・アテナ機』『残り時間5分23秒』
 5分もあれば決着着けられる筈ですよね?負ける気はありませんよ。
 直感に従って、機体を右の方に緊急移動させます。急激に動かした為通常よりも大きいGに身体が軋みましたが、それであの人の一撃を躱わす事が出来たのですから文句はありません。
『ちっ』
 ナイフを突き上げた形でいるあの人に無理な姿勢からライフルを叩き付けます。
「ダメか」
 分かってはいましたが、やっぱり当たらないのは悔しいな。
「でも、思ったよりも戦えるね」
アーサーのサポート無しの戦闘行為は随分と久しぶりだから結構不安だったのですけどね。
「っ」
 空気を吐き、眼前に現れたイミディエットナイフを受け止めます。
『止めるか』
「止めますよ。
 ……使わないのですか?」
『君もそうだろ』
 私の場合は実験の意味を含んでいるのですよ。本当に木連式に対応出来るかどうかって。
 彼が力を抜こうとした瞬間を狙い、先に私が力を抜きます。
『なっ』
 驚きは一瞬。でも、その一瞬で十分。右手に持ったイミディエットナイフを振り、彼の右隣を抜けます。
「我流 一閃」
 躱されるのは想定済み。だから始めから右腕一本だけを狙いました。
『ちっ』
 でも、それだけで油断はしない。彼は破損している機体でも一流以上に強いのを私は知っている。
「我流 流動」
 木連式とは異なった、私個人の独特な移動術で、そこより離れた位置に移動します。
『なるほど』
 って、読まれてた!?
『良く見れば分かりやすい』
 そんな!そんな筈は!
『ここまでだな』
 いえ、まだです!
『なん、だと』
「我流 反転」
 お互いの左腕を落とすに止まりましたか。カウンター技考えといて正解でした。
『タイムアップ!』『そこまで!』
 え?もう5分?
『時間切れの為二人とも負け。勝者無し』
 でも、良かった。あのままやったとしても勝ったとは思うけど、彼の気迫を思うと自信が無いの。
「強いな『戦乙女』」
 シミュレーターから出て最初に彼に言われたのがその一言でした。
「プリンスもです」
 私は微笑を添えてそう返しました。
「確かにテンカワも強かったがよ、アテナの方が上をいってたじゃねぇかよ」
「そうだよ。それじゃ嫌味だよ?」
「くっくっくっくっ」
「くそー!次は俺が活躍するぞアキト!!」
 それぞれの言い分に思わず溜め息を吐きます。
「あん?何だよその溜め息は?」
「いえ、大した事はありませんが、今のを理解していらっしゃらない貴方達は所詮は一流止まりなんでしょうね」
 今後の彼女達の成長の為、挑発はしておきましょう。
「あんだと!!」
「リョウコ!グーはダメ!!」
「どういう事か説明しやがれ!!」
「短気は損しますよ?」
 火に油を注ぎます。
「なに!!」
「リョウコ落ち着いて!」
「それでいったい何なんだよ?」
「気になるね」
 怒鳴る戦闘狂に宥めるオタク、妙に落ち着いている熱血とダジャレ王。それらに視線を向けてから、彼を見上げます。
「振るな」
「まあ、アキト様は説明が苦手ですからね。でも、私が言いたい事は理解していらっしゃいますねよ?」
 これで分からないと言われたらちょっとあれかな?
「まあ、な。理解せざるをえない」
 良かった。
「おい!一体何なんだよ!!二人だけで理解していないで、こっちにも分かるように話しやがれ!!」
 ん〜……
「教えません」
 ああ、大ブーイングです。
『姉さん。そろそろ時間ですって、どうかしたのですか?』
「ううん。気にしないでルリ」
 とってもナイスタイミング。
『はあ、姉さんがそう言うのでしたら気にしません。
 それよりもラピスとはまだ?』
 あいたた、分かっているだろうにそれを聞いてきますか。
「まあ、ね。あれからまともには話していないかな」
『許してあげてもいいんじゃないですか?』
「別に言うほど怒って無いんだよ?ただケジメだけは付けなきゃいけないからね」
 苦笑を浮かべて言います。
『頑固と言うのですかね?』
 どうなんだろうね?
「ルリから見てラピスは?」
『悩んでいるみたいですよ。多分答えが出るまであのままでしょう』
 そっか。ちゃんと考えてくれてるのか。
「ルリは?考えてくれてる?」
『考えてますよ?ラピスと違って叱られた訳でも無いので、姉さんとも普通に話せますし、頑固じゃありませんから』
 それにはさっきよりも深く苦笑を浮かべました。
『なんですか?』
「なんでもないよ」
 ルリも頑固だって言っても認めないだろうしね。
「じゃあ、私はそろそろ行くよ。ありがとねルリ」
『はい。又後程です』
 ウィンドウが閉じ、これまで無視してきた視線と対峙します。
「では、私は用事がありますのでこれで」
『おい、待て』
 おお、ユニゾン。
「はい?一体なんでしょうか?」
「忘れたとは言わせねえぞ『戦乙女』」
「…………忘れました(ニッコリ)」
「いい度胸だクソガキが!」
 完全に頭に血が上った様で、私の胸倉を掴もうと腕を伸ばしてきましたが、
「言いましたよ?短気は損しますって」
 一呼吸を置く間も無く腕を掴み、床に転がして差し上げました。
『おお〜』
「私が生身で弱いとは思わないで下さい。
 それから一つ忠告ですけれども、感情をコントロール出来ないようでしたら一生そのままですよ」
 私みたいな少女にあっさりと床に着けられた所為か呆然としているスバル・リョウコさんに、出来る限り嫌味っぽく言って差し上げました。
「な!?」
 そしてその後は無視。多分これでいい筈です。
「アキト様。後お願いします」
「…………分かった」
 私が何をしようとしているのか理解して下さっている様で、何も言わずに引き受けてくれました。
 廊下に出て一息。さて、パイロットの時間はお仕舞い。気分を入れ替えて調理人の時間頑張りましょう!


『お疲れ様でした!』
「お疲れさん。明日もよろしく頼むね」
 ホウメイガールズと名付けられた皆さんが食堂を出て行きました。年下の私がまだ働いているのにも拘らず。まあ、私から先に上がっていいと言ったのですけど、そう素直に上がられると…………ま、いっか。
「アテナももう上がりな」
「そうですね。片付けももう終わりますし」
「…………いつも悪いね」
 これも仕事ですし。
「ところで、貴方の目から見て皆さんの様子はどうでしょうか?」
「…………概ね変わりはないね。ヤマダやラピスといった一部はなにか考えてはいるみたいだけどね」
「そうですか」
 考えてくれている人がいるなら良かったです。
「…………ちょっとお茶しないかい?」
「別に構いませんが?」
「じゃあ、ちょっと座って待ってな」
 珍しいですね。こんな夜中に誘われるなんて。
 カウンター席で座って待っていますと、ポットと急須と湯飲みを持って現れました。
「待たせたね」
「いえ、それ程でも無いです」
 湯飲みを受け取り、お茶を一口。紅茶とは別の美味しさです。
「それでどの様なご用件ですか?」
「そうさね…………何を焦っているんだい?」
 焦る?私が?
「一体何の話ですか?私が焦っている?」
「自覚は無しっと。地球を出た辺りからそんな感じだよ。殆どの連中は気付いていないだろうけどね」
 ………………
「何をしたくて何に焦っているかまでは分からないけど焦るのは良くないよ。焦れば焦るほど上手くいきっこない。例え時間が無くっても落ち着いてやりな。もしくは誰かに相談しなさい」
「………………誰かって誰にですか?」
「…………テンカワとかいるだろ?」
 彼ですか。
 
気付いているのに(・・・・・・・・)彼の名前を出しますか」
 疑問符は付けませんよ。
「………………」
 まあ、この人も私の心配をして下さっているのですし、吐いてみますかね弱音。
「言っていいのですか?」
「言いな」
 頼もしいお言葉です。
「私が名前を省略して呼ばない理由は知っていますよね?」
 隣は見ていませんが、頷いたのは分かります。
「ラピスはああ言いましてそうだと信じているようですが、本当は全然違うのです」
「違う?」
             
「はい。本当は………………怖い(・・)んです」
 軽くお茶を口に含みます。
「他人が怖くて、裏切られるのが怖くて、痛いのが怖くて…………だから他人を懐に入れない。入れさせない。ただそれだけの子供なんです」
 そこで口を閉ざして反応を待ちます。
「それだけじゃないんだろ?それだけならヤマダにあそこまで言う必要は無いからね」

「………………嫉妬(・・)……ですよ」
「嫉妬?」
 こくん、と一度頷きました。
「アテナがヤマダに?」
 こくん
「一体何に…………いや、そういう事なのかい?」
 やっぱり頭の回転は早いですね。
「多分それで当たりです」
「ヤマダの言う正義が羨ましかった訳じゃないんだろ?羨ましかったのは」
「何かを強く思える事。心に何かしらの支えがある事。確固たる信念がある事。それが羨ましかった。妬ましかった。憎かった」
 声から極力感情を殺ぎ落として話します。
「…………だからあんな話をしたのかい?」
「はい。彼の隙間を衝き、考えさせて自己の崩壊を狙いました」
「……だけじゃないだろ?」
「だけです」
 それ以外に何があると言うのですか。
「答えを自分で出せればヤマダは強くなる」
 ………………
「違うかい?」
「……………違い、ま………………せん…………」
 何で分かったの?
「アテナ。アンタは何がしたいんだい?言っている事とやっている事と思っている事が一致している様にはとてもじゃないんだが思えないんだけど?」
 それは分かっています。自覚しています。
「テンカワの事もそう。本当は恋人関係でもなんでもないんだろう?」
「…………一度もそういう関係だとは言っていません」
「そうだったね。寧ろアンタは彼を嫌っている」
 やっぱり分かっていましたね。

「けれど、それも本心(・・・・)じゃ「言わないで下さい(・・・・・・・・)」…………そうかい」

 それはダメ(・・)です。まだ口にして伝えちゃダメ(・・・・・・・・・・・・)なんです。
「分かってはいるみたいだね」
「………………まあ、一応は」
 口に出さない分は(一応)問題無いのです。
 お互いに冷えてきたお茶を口にします。
「アンタは頭が良い。その所為で普通は自分で気付かない矛盾に気付いてしまった。その事でひどく悩んでいたりするんだろうけど、それを外に出さないのはあまり感心しないよ」
 別に悩んでいるつもりは無いのですけど。
「何故ですか?他の人に心配を掛けない方がいいのでは無いでしょうか?」
「じゃあ、何であたしはここでこうしている?」
 ……あ。
「隠しきれていないから心配する人がいる。そういう事だよ。もっとも気付いているのは本当に数人だけだろうけどね」
 そんなに?
「隠しきれないんだったら隠しなさんなって。少ないかもしてけどここにはちゃんと大人はいるよ。相談ぐらいだったら誰だって聞いてくれるさ」
 そんな事言われましても……
「……ダメなんです」
「………………そうかい」
「……聞かないの、ですか?」
「聞けば答えるのかい?」
 ふるふる
「聞いてほしいのかい?」
 ふるふる
「なら聞かないさ。それがあたしのやり方だからね。気を悪くしたかい?」
 ふるふる
「むしろ安心しました」
「そうかい。そいつは良かった」
 …………この人でしたら。
 ・・・・・・
「ホウメイさん。貴方は信頼出来ます。安心出来ます。怖いのも耐えられます。裏切りの痛みも飲み込めます」
「光栄だね」
「……初めてなんですよ。ここまで話したのは。聞いて貰いたいと思ったのは」
「…………難儀しているんだね」
 ええ、本当に。
「でも、もう大丈夫です」
「そうかい」
 お茶を全部飲み干して席を立ちました。
「ご馳走様です。今日はここで話せて良かったです」
「そう言って貰えるとあたしとしても嬉しいね」
 それに一度だけ首を立てに動かしました。
「それではお休みなさい。又明日です」
「ああ、明日もよろしくね」
 ホウメイさんと挨拶を交わして、廊下に。
「盗み聞きは感心しませんよ」
「……そうだな」
「言い訳しないのですか?」
 入り口横の壁に寄り掛かっている彼の姿を見上げ、問い掛けます。
「するつもりも無い」
「したら怒っていました」
 殆ど最初からいた人が言い訳なんかしましても、確実に信じられません。
「移動しますか?」
「訓練室に行くぞ」
 そう言って私の返事も待たずに先に歩き出しました。断ったらどうする気なんでしょう?
 訓練室に向う廊下は照明が落とされ端っこの方に足元を照らすライトがあるだけです。これはナデシコがネルガル製の為、艦内の時計は日本の標準時間に合わされて動いていて、今が『明日』に近い『今日』の時間帯の為なのです。で、何が言いたいかと言いますと、
「…………眠い」
 前の人に聞こえない様に小さく呟きました。
「何か言ったか?」
 ありゃ、聞こえましたか。
「いいえ、特には。
 そういえば、あの後どうなりましたか?」
「荒れに荒れた」
 思ったとおりの答えが返ってきましたね。
「すみませんでした」
「…………謝る必要はないだろ」
 そうなんでしょうけど…………
「迷惑かけましたから」
「俺が嫌いなら、余計に必要ないと思うが?」
 ですが……
「まあいい。それより礼を言う」
「礼?」
「ああ。俺ではあそこまで上手く出来ん」
 そんな事ですか。
「別にいいです。私は私の都合でああしただけです」
「そうか」
 そうこうしているうちに到着しました。
「それで何用ですか?」
 三メートル程離れた状態で向き合います。
「手合わせを願いたい」
「……本気、ですね」
「ああ」
 本気なのは見て分かりますが、理由が今一つです。
「理由をお聞かせ願いませんか?」
「客観的に自分の今の力を知りたい」
 なるほど。そういう理由ですか。
「ご自身ではどれ程と考えられているのですか?」
「およそ半分位だ」
 そうですか。それでは、
「……木連式」
「はい。貴方の力量を見るのでしたらこちらの方が色々とやりやすいのです」
 それを最後にお互い言葉を発せずに、自然体で構えます。
 で、構えて睨み合う事数分。さすがにそろそろ辛くなってきたかな〜って時に、
「くっ」
 ようやく膝を付いてくれましたか。
「まさか構えただけで終わるとは思ってもいなかった」
「すみません。貴方が本気なのは分かっていましたので、本気で構えました。それでこれ程の時間を保っていられたのですから、6割強は戻っていると見ていいでしょう」
「そうか…………本気?」
 そこに食いつきましたか。
「はい。本気、です」
「…………我流を生み出したのは身体の所為だったか」
「………………覚えていましたか」
 正直驚きです。
「この身体ですと体重は無いはリーチは短いは体力は無いはで、木連式は使いこなせません。だから今の身体でも使えるものを編み出す必要があったのです。それも木連式に対応出来るものが」
「戦う相手は木連式が多いからか」
 そうですっと、一度頷きます。
「そうは言っても私の木連式が弱いという訳ではありません。一般人や他の流儀の人と戦っても勝つ事は可能です。木連式自体はほぼ完全に極めていると言っても過言じゃ無いのですから」
「木連式を?…………そうか、木連の」
「はい。だからこその極め、なのです」
 戦闘関係ですと頭の回転は早いですね。
「だが、誰とも違うな」
 分かっていますか。
「月臣は燃える様な炎。北辰は凍えるような氷」
「貴方は凍て付かせる闇」
「……だけど、君のは何も感じなかった。いや、感じなかったのではなく、感じられなかったが正解か?」
 こくん
「その通りです。極めた木連式はそのどれもが相手に何かを抱かせないのです。弱者に恐怖を与えたりしないのが強者の証、だそうです」
「……俺もいけるのか?」
 ふるふる
「分かりません。私自身ズルしてそこに至ったのですから」
「………………そうか」
 今日はもう終わりで大丈夫ですよね?出口に向けて足を進めてみますが何も言われませんし。
「……一つ、こんな言い伝えがあるそうです」
 おそらく彼が知らないであろう事柄を思い出しました。
「言い伝え?」
「曰く、極めた者には新たな扉を開く事が出来るそうです」
「新たな扉?」
 彼の疑問には答えず、振り返る事をしないで言いたい事だけを言い放ち、私はそこから離れました。追い掛けてはきませんね。なら、余計な思考は重ねずに今日は休みましょう。

「え〜ん、疲れたよ〜」
 ふんふん、そうきましたか。なら、これをこうしましょう。
「疲れたよ〜」
 悩んでる悩んでる♪
「れたよ〜」
 お?そうきますか!
「たよ〜」
 じゃあ…………これで!
「よ〜」
 え?そっち?
「…………誰かユリカの相手して欲しいな〜」
「でしたらそう言って下さい。独り言の様に言われましても誰も分かりませんよ」
「そうですよ〜」
「確かにね」
 それではこれで終わりっと。
「聞こえてたなら相手してくれてもいいじゃん」
 ん、投了したね。
「それより、艦長がここにいるという事はお葬式終わったのですね?予定ではまだ掛かる筈でしたのに早くて良い事だと思います」
「ん〜?まだ終わってないよ〜?」
 ……はい?
「えー!?じゃあ何で艦長はここにいるの?」
「ジュン君に代わって貰ったんだよ」
「オモイカネ」
『イエス、マム!』
 私の呼び掛けだけで私の見たい映像を出してくれました。流石です。
 オモイカネが映してくれたのはお葬式会場。そこでお葬式を仕切っていたのはアオイ・ジュンさんとプロスさん、ゴート・ホーリーさんの3人。
「あらあら。本当に副艦長が艦長の代わりしてるわね」
 そんな事を暢気に言っている場合じゃありません。
「いいな艦長は。私も誰か仕事代わってほしひっ!」
 ほしひっ?
「メ、メグちゃん、早く謝っちゃいなさい」
「ご、ごめんなさいアテナちゃん。仕事ちゃんとやるから許して?」
 何を許すのでしょうか?確かに仕事を代わりたい発言には腹が立ちましたが。
「艦長も早く自分の仕事に戻りなさい」
「え〜?何でですか?」
 あ、まずいです。抑えられない。
「あ、あーあ」
「さようなら艦長。貴方の事は忘れないわ」
「何でですか?」
 本当にいい態度ですね?
「艦長?」
「へ?アテナちゃん?いつの間に後ろに?」
 我流 流動 歩法之型です。
「最後に何かどうぞ」
「最後?」
 つまらない言葉ですね。
「アテナちゃ、ぎぃゃゃゃゃ!!」


 後日目撃者は語る。
「鬼がいました」
「違うわ。鬼神よ」
「ズズズズ」


『どうしましたかアテナさん?』
「艦長の説得完了。これからそちらに向わせます」
 後ろで説得?あれが?とか聞こえますが、全部無視です。
『それは助かります。しかし、どうやったのですか?』
 その言葉に少しだけ考えてから、人差し指を口の前に待っていきまして、
「企業秘密です♪」
 笑顔を共にその一言を送りました。
『そうですか。なら仕方ありませんな。艦長に次は10分後ですから急ぎ来るようにお伝え下さい』
 顔を赤くしながら言っても格好付かないですよ?
「分かりました。それでは」
 コミニュケを閉じ、後ろに直立で立つ艦長に向き合います。
「と言う訳で頑張って下さいね?」
「サ、イエッサー!!」
 ビシッっと一度の狂いも無い敬礼をし、駆け足でブリッジを出て行きました。
「私少女なんですけど」
 少し口を尖らせる様に言いましたが、行った後では聞こえる筈がありませんね。
「アテナちゃん。あれって元に戻るの?」
 下から興味半分、恐怖半分のお二人が聞いてきました。って、恐怖?
「どうでしょう?一応改心したようですけれども人は直ぐに心変わりしますからね。またお気楽ちゃらんぽらんの艦長に戻るのではないでしょうか?」
「お、お気楽ちゃらんぽらん……」
「アテナちゃんも言うわね」
 苦笑するお二人を見ながら、ひらりと飛び降ります。
「事実ですからね。お二人もそう思っているのでは無いですか?」
 苦も無く着地して自分の席に座りながら、お二人に問い掛けます。
「あ、あははは…………」
「そうね。確かにそう思っているかな?それと、アテナちゃんは女の子なんだからあんな事しちゃダメよ」
 ?
「あんな事?」
 首を傾げてハルカ・ミナトさんを見ます。
「あそこから飛び下りたでしょ。それの事よ」
 はあ。確かにやりましたけど、
「何でダメなんでしょうか?」
「何でって、アテナちゃんそんな格好で飛び下りたら見えちゃうよ?」
 そんな格好?見えちゃう?確かに私は御給料3%カットっで制服の変わりにゴシックロリータや和服を着ていますし、今日はフリフリのヒラヒラですし、見られるうんぬんは記憶にありますけど、それはよく理解できない事の一つなのです。
「よく分かりません。見られるから何なのですか?」
「アテナちゃん?」
「ちょっと、本気で言っているの?」
「そうですが?」
 当たり前じゃないですか。
「……じゃあ一つ聞くけど、アテナちゃんは他人に下着や裸を見られても平気なの?」
 下着だけじゃなくて裸もですか。
「平常心でいられるとは思いますが?」
 何をそんなに驚いた顔をしていらっしゃるのでしょう?
「ミ、ミナトさん」
「これはひどいわね。ふふふ、やりがいがあるわ」
 何故か今のハルカ・ミナトさんから恐ろしいものを感じますね。今の所身の危険までは感じられないので放置しても問題は無いでしょう。それにしても、
「少ないのですからしっかりやって下さい」
「少ないって何が?」
 何で聞こえているのですか?
「御葬式です。私達が極力死者を出さない様にしたのですから、艦長にはここでしっかりして欲しいです」
 ああ、と納得顔のお二人。
「そういえばあの時アテナちゃんはどうやって知ったの?」
「そうね。ナデシコのレーダーでも分からなかったのにね」
 そう聞かれましても答えられるのは一言だけなのです。っと言う訳で、
「企業秘密です♪」
『えええ〜!?』
 あ、やっぱり楽しいかもです。
「無駄じゃよ。彼女はその手の質問には一切答えてくれんよ」
「提督」
 軽く睨みを利かせますが、効果は露程にもありません。
「どういう事ですか?」
「提督とアテナちゃんは知り合いだったのですか?」
「彼女とは軍との合同練習の時にのう。その時にも同じ様な事があったんじゃが、誰が聞いても答えを得られんだった」
 そういえば、そんな事もありましたね。
「ま、彼が聞けば答えるやもしれんがな」
 む、分かっているのに言いますか。でしたら、
「ア、アキト様は関係ありません!!」
「おや?儂はテンカワ君とは言っておらんが?」
 楽しんでいますね提督。
「アテナちゃん可愛い〜」
「ええ、本当に」
 結局その日は一日中からかわれるのでした。

『同じなら今日反乱が起きる筈だ』
「そうですね」
『そっちは放っておいても問題無い筈だ。俺はその後の襲撃に備えてエステにいる』
「そうですか。それで、私には何か?」
 この会話だけでは分かりませんよ。
『いや、特には無い』
 ……はい?
『ただ俺の動きを知っておいてほしかっただけだ』
 ああ、なるほどです。
「分かりました。それでは何か変化がありましたら連絡致します」
『頼む』
 さて、私はどうしましょう?もうすぐルリとラピスが交代に来ますが、あれが起こるのはその後の筈。何とか理由をつけて残らないとですよね。
「お持たせしました姉さん」
 ってもう来たの?
「ちょっと早いよ?いいの?」
「はい。実は」
 そう言って後ろを向くルリ。気付いてはいたけどルリの後ろに隠れる様にしていたのはラピス。
「ラピスが?」
 ルリは頷いてからラピスの後ろに回って軽く押してあげました。
「どうしたの?」
「あ、あのね…………」
 皆さんが注目しているのに気付いていない様子のラピスは、必死な様子で私の目を見て口を開きました。
 そして、

 プシュー
 ワラワラワラ

 何人かが一斉にブリッジに入ってきました。各々の手には銃やらスパナ(?)やら武器を携えて。
「我々は、ネルガルの横暴に断固抗議する!!」
 どうやらここも彼の記憶通りですね。折角のラピスの告白を潰してくれるなんていい度胸ですウリバタケ・セイヤさん。とりあえず二人を後ろに庇い、私は前に出ます。
「え〜と、一体どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもねえ!これを見てくれ艦長!!」
 記憶通りの理由でこんな事を起こしたのでしたら許すつもりはありませんが、ここは彼のいた『世界』とは違う『世界』。もしかしたら違う理由かもしれませんね。とりあえずは傍観しましょう。………………違う場合ですと一体どんな理由なのでしょうか?
「手を繋ぐまでって、何ですかこれは!?」
「だろ?お手手〜つ〜ないで〜って、ここは保育園か!」
『調子に乗るな!』
 あー、決定。変更無し。どうやって止めましょう?
「姉さん……」
「お姉ちゃん……」
 両方の袖を掴まれたので振り向けば、心なしか目が潤んでいる妹2人。うん、可愛い可愛い。じゃなくって、
「大丈夫。私が付いているから」
 2人が安心出来る様にいつもの笑顔を浮かべて言います。
『うん』
 少しだけ頬を赤くしながら素直に頷いてくれる2人に自然な笑みが漏れ、視線を騒動の方に戻します。
「うるせぇ!これが目に入らねえか!!」
「そちらこそ、これを見て頂きたいものですな〜」
 あら、いつの間にプロスさんいらしたのでしょう?
 それにしても銃vs契約書。知ってはいましたけど、実際に見てみるとなかなか迫力がありますね。これは偏に担い手の実力の差でしょうか?
「今こそ、我々に賛同するブリッジクルーは立ち上がれー!!」
『はーい』
 あれ?艦長や通信士ならともかく貴方もですかハルカ・ミナトさん?
「なんだよ。アンタ達はネルガル側かよ」
「すまんのう。爺は老い先が短いんでのう」
「アタシは既婚者よ。そんな事出来る訳無いじゃないのよ」
 え?あのキノコさん結婚なされていたのですか!?
「じゃあ、お前達はどうなんだよ?」
 気付けば眼前に銃口が向けられていました。普通子供相手に向けますか?
「私とラピスはどちらでも。その契約条項は知っていますし。破る理由がありません。
 ルリはどう?」
「え?あ、私も同じです」
 うん。知っているよ。
「それよりも何時まで私達――いえ、非武装の人に武器を向けられるのですか?」
「あん?そんなもんオレ達の要求が通るまでに決まってるだろ?」
 あー、この人見ていると腹立ってくるな。
「では、相手に武器を向けるという事がどういう事か分かっていらっしゃいますか?」
「なんだそれは?何か意味あるのか?」
 いえ、と口の中で呟き、他の人の表情を窺いますがどの人も同じ様な表情しかしていません。
「プロスさん」
 本来でしたら許可はいらないのですが一応頂いておきましょう。
「あまり無茶はしないで下さいよ?」
 それに対して一回だけ頷き、さて、躾けますかね。
「っふ」
 軽く息を吐きながら、目の前の銃を蹴り上げ、そのまま足を振り落とし目の前の腕を潰します。とは言っても今後の事を考えて、骨に異常を与える事はしませんが。
「あ、ああああ!!」
 落ちてきた銃を掴み躊躇なくその引き金を引きます。狙いは残りの主犯である人達が持つ銃。
「きゃ!」
「つう」
「うお!」
 狙い違わず叩き落す事に成功。そして、そのまま主犯だけに殺気を解放します。
「あ、ぐ」
「なん……」
「あう」
「おおお」
 蹲っているスバル・リョウコさんの襟を掴み、他の3人の所まで引きずります。
「『戦乙女』よ。程々にな」
 提督の言葉に片手を上げ答えます。
「さて、一応正当防衛という事で叩き潰しましたが、怖いですか?」
 私の言葉に4人は頷きます。
「そうですか。知っていますか?私は……いえ、私もですね。私も含めた全員この状況になるまで皆怖かったのですよ?銃を、武器を向けられるという事はそれだけの恐怖を相手に伝えるのですよ?」
 私の場合は銃自体が怖い訳ではないのですか。
「さて、それでは聞きますが、貴方達は一体何をしたかったのですか?条約の改変?そんな事はプロスさん――ネルガルと武器を交えず話し合って下さい。
 そして聞きますが、その条約を変えたいと言う事は、貴方達はキスやら何やらをする所を他の人に見られたいっと解釈してもよろしいですね?でしたらオモイカネに頼みまして、貴方達がそういう事をしていましたら艦内放送で流すように致します。勿論映像付きで、ですよ?」
 銃を片手に冷笑を浮かべて言います。
「それともう一つ。武器を向けて他人と相対するという事は、自分が殺されるかもしれないという事を覚悟しなきゃいけないのですよ?」
 持っていた銃を手近のスバル・リョーコさんの額に持っていきます。
「こんな風にね?」
 引き金に指を掛け、ゆっくりと見せ付ける様に引いていきます。
「アテナちゃん!止めて!!」
 この時点で動きますか。遅すぎます。
「何故でしょうか艦長?」
「何故って、同じ艦に乗っている仲間なんだよ!?」
 全くもって的外れな答えですね。
「だからどうしましたか?」
「アテナちゃん!?」
「艦長は軍人ですよね?この艦は確かに民間ですけれども、戦艦には変わりありません。提督、副提督、副艦長。軍人でしたら反乱を起こした兵はどうするのですか?」
 どう答えてくれますかね?
「え、それは…………」
「大概は速やかに殺すだろうな」
「そうね。よくても嘘八百を並べ立てられた裁判に出頭ね」
 やっぱり副艦長は答えられないですか。
「そういう事です艦長。まだ何か言う事ありますか?」
「うっ…………なら艦長命令です!止めなさい!」
 やっぱりそうきますか。
「それも無駄です。私はネルガルとの契約によりナデシコ内でのあらゆる命令を受け付けません」
「え?何でですか!?」
 プロスさんに確認取っていいのですかな?
「はあ、それはアテナさんと会長の間で交わした契約なので私からは何も。しいて言うなら契約を発動させるには条件があったのですが、それならお教えできますよ?」
「何ですかそれは?」
「…………艦長が頼りない場合、ですよ」
 予想通り皆さん固まりましたね。って言うか、今迄シリアスだった空気をぶち殺し?
「な、何ですかその条件は!!」
「つまり、アテナちゃんがその契約を発動させたって事は」
「艦長が頼りないって思ったからですよね」
「で、誰が許可したのだね?」
「この場合はネルガルの人間でしょ。多分プロス、あんたね」
「まあ、その通りなのですが」
「でも、分かる気がします」
「うん。ユリカさん仕事しない。お姉ちゃんの方が信用出来る」
『うんうん』
 わいわい、がやがや
 流石ナデシコです。あっという間に騒がしくなりました。ルリとラピスも大分ナデシコ色に染まってきているね。
 さて、そろそろ忘れられて逃げようとしている4人に罰でも与えますか?
                 
「まあ、そういう訳で私を止める様に命令出来る人は誰もいない(・・・・・)のですよ」
 その言葉と共に今迄騒がしかったブリッジに再び静寂が訪れます。
「では、仕切り直しといきましょうか?」
 今度は眉間に当てて問い掛けます。
「オモイカネ、フィールド全開」
 皆さんが疑問に思う間も無く艦全体が揺れます。
「ルリ、ラピス?」
「は、はい!」
「うん!」
 呼び掛けただけで意図を理解してくれるなんて優秀すぎて泣けてきますよ。
「これは…………姉さん!今までの比じゃありません!」
「迎撃しなきゃやられちゃうよ!」
 大丈夫。分かっているから。
「という訳でお願いします。アキト様、ヤマダ・ジロウさん」
『……了解した』
『おう!任せろ!!』
 あー頭痛い。
「それとヤマダ・ジロウさん。貴方には優先してほしい事があります」
『あ?一体何だ?』
「けして、死なないで下さい」
『………………分かった』
 素直に頷いて下さって助かります。
「それとアーサー」
『………………』
「答えないならそのままでもいいけど、システム円卓一部起動。存分に暴れてらっしゃい」
『イエス、マスター…………ごめんなさい、ありがとう』
 まったく……
「すみませんアキト様。それ以上の増援は出来ません。苦しいだろうと思いますが、よろしくお願いします」
『問題無い。そちらはやりすぎるなよ?』
「……はい」
 微かに笑みを浮かべて通信を切ります。
「さて、心配事も無くなりましたので、安心して続けられますね?」
 とびっきりの作り笑いを浮かべまして4人の生贄に向き合います。
 さあ、火星はもう直ぐそこです。進むか退くか。いい加減決めて頂けませんか復讐者?


 ○月×日 
 
 今日ラピスに姉さんとの事で相談されました。
 どうやら話し掛けたいのに怖くて話し掛けられない、との事。
 ですので、私が仲介役をしたのですが、反乱勃発の為うやむやになりました。
 どうやら姉さんはラピスとの久しぶりの会話を邪魔されたのと、私とラピスが銃を向けられ怖がったのにかなり怒った様で、主犯の4人に大変なお仕置きをなされていました。
 内容はと言いますと……知りません。
 姉さんは4人を連れてどこか別の場所に行きましたが、暫くしてこの世の終わりみたいな悲鳴が艦内に響きました。
 提督は何かご存知の様でしたが、語ってはくれませんでした。
 ただ、4人の様子が様子でしたので、聞かない方が身の為だと思いまして誰も聞きませんでした。
 今日の教訓。
 何があっても姉さんを怒らせるな。
 だそうです。
 でも、きっと、私とラピスは例外なんでしょう。
 そうですよね姉さん?
                       ホシノ・ルリの日記より


〈あとがき〉
 お久しぶり、な蒼月です。
 さて、今回は
「何かを言う前に謝罪が先なんじゃないの?」
 おお、前回お休みしましたアテナ嬢ではないですか。
「そう、その前回で、12月中にDr登場まで書きたいと言ったのは何処のどなたでしたっけ?」
 う!
「出せなかったのは仕方ないにしろ、何故続きが1月ではなく2月なの?」
 うう!
「そして、内容はこれ?」
 ぐは!
「読む人がゼロどころかマイナスね」
 いや、マイナスは無いのでは?
「何か?」
 い、いえ、なんでもありません。
「それで、言い訳は?」
 …………ありません。
「あら、ないの?」
 ええ、偏に自身がただの未熟者だっただけです。
「では、その未熟者は一体どうするつもりなの?」
 精進する様努力します。
「じゃあ頑張りなさい。
 で、あの題名は?」
 分かる人にしか分からない替え歌です。分かったらちょっと凄いかも。
「あ、そう。
 ところで、次はどうするか決めてあるの?」
 大まかには。Dr登場。クロッカス発見。火星脱出。で、いきます。
「そう、なるべく早く上げなさいよ?」
 イエス、マム!
「それでは次回にて、です」

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想

チート主人公、ちょっと弱音を吐くの巻。
やっぱりこう言う「上位の存在」は必要ですねぇ。提督とかホウメイさんとか。
彼女の場合実際に自分で築き上げてきた何かが乏しいだけに、そういうもろさというのをもっと描写してもいいかと。

>今回のサブタイトルの曲名は次回のあとがきに書かせていただきますが、あれはボーイスカウトの歌の一つで分かる人にしか分からない曲です。
>……こういうのってまずかったり?

いいんじゃないですか?

分かる人にだけしか分からないネタってのもあっていいでしょうし。

ただ、何事もやりすぎにはご注意。


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