「おお、テンカワか、頼まれてた物できたぜ」

「すいません、忙しいところを」

「なぁ〜に、良いって事よ。それよりまた何か新兵器のアイデアがあったら教えてくれ。

 っていうか、あんな設計図作ってる暇があるんなら、アイデアが出た時点で俺に相談しろ」

「そうですね〜、ならこんな物はどうっすか?」



ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第十話 艦長



『アキト兄〜、餌は大切にってこの間言ったばっかりじゃん』

『そうそう、よりにもよってDFSのアイデア教えるなんて』

〔そうは言っても、俺も武器はほしいんだ。それに他にもたくさんあるだろ?

 二回目に作ったもの以外で、C計画関係以外の武装に限定しても、

 一つ、二つ、三つ・・・〕

『それはそうだけどさぁ・・・』

『まぁ、ウリバタケさんは新兵器をあてがっとけば静かにしてるでしょ』

〔いずれにしろナナフシ戦までにはDFSのテストがしたいからな・・・〕

『二回目みたいにぶっつけ本番ってわけには行かないしね』

〔ああ、あの時も故障して苦労したからな〕

『それはいいけど、そろそろ反乱の時期だけど・・・

 二回目みたいに逃げてると、後で苦労するよ?

 特に今回は、その項目は削除したんだし・・・』

〔そ、それもそうだな。でもそれはお前たちがそうしろって・・・〕

『仕方ないなあ、アキト兄は。今回は知恵を貸してあげるけど、今度僕たちの指示に従ってよ?』

〔・・・もしかしてお前ら、そうなることを見越してたんじゃ・・・〕

『そんな事ないよ』

『そうそう』

〔そうか?なら良いが・・・〕



『(アキト兄にしては鋭いね)』

『(私たちが一年かけて育てたんだもん、これくらいは・・・)』

『(ほんとにそう思う?"あの"アキト兄だよ?これは奇跡に近いような・・・)』

『(確かに・・・)』





「我々は〜、断固ネルガルに抗議する〜!!」

ふう、ディアたちのシナリオ・・・本当にこんなんでうまくいくのか?

「ちょっと、急に何を言い出すんですか?」

「これを見てみろ!!」

そういってユリカにネルガルの契約書を、突きつけるウリバタケさん。

どうでも良いが、何でウリバタケさんはあの項目を発見したんだ?

契約書なんて契約したら引出しの奥にでも眠ってて、見直す機会なんてないだろうに・・・

「え〜!!男女交際は手を繋ぐまで〜!!」

「そう言う事だ。

 お手て繋いでってここはナデシコ保育園か?」

そう言いつつリョーコちゃんとヒカルちゃんの手を取って・・・

鳩尾に一撃をもらう・・・

そんなことをしたら嫌がられる事ぐらい俺でもわかるんだが。

「「調子に乗るな!!」」

「ルリちゃん・・・」

「なんですかアキトさん?」

「ディストーションフィールド全開」

「そう言えばそうでしたね」

「それは!!契約書にサインされた方が悪いのです!!」

プロスさんとゴートさんがライトアップされながら登場・・・

・・・ナデシコだな。

「なんだと!!こんな細かい項目まで、誰が目を通すって言うんだ!!」

「テンカワさんとルリさんは気づいて変更されましたが・・・」

「何〜〜〜!!」

「へ?アキト君、ルリルリ・・・そんな」

「ふっ、これでウリバタケさんの論拠は崩れましたね」

「おい、ルリルリ、テンカワ!!何でお前ら・・・」

「契約書を確り読んで、さらに裏読みまでしてからサインするのは当然だ。

 いいかげんな気持ちでサインすると自分どころか仲間まで皆殺しにされても文句は言えん。

 サインするというのは、契約した相手に自分たちの命を売るのと同義だからな。

 組織ではまずそう教わった、基本だろ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「いずれにしろ契約してしまった以上しかたがない。

 契約を破るということは、自分の信用を捨てるということだ。

 そんな奴に俺は命を預ける気はないぞ」

・・・中々かっこいい台詞だが、ここはナデシコだぞ?

こんなこと言っても素直に従うとは思えないんだが・・・



アキトさんの意見を受けて、眼鏡の位置を直しながら、勝利の笑みを浮かべるプロスさん。

それをみて、悔しそうに歯軋りするウリバタケさん。

さて、一応これで口論は終わりでしょうか?

そのとき、ブリッジに大きな衝撃が走りました。

ドゴォォォォォォンンンン!!!

ふむ、やっと火星に到着しましたね。

「これは・・・木星蜥蜴の攻撃です。

 これには迎撃が必要です、艦長!!」

「俺はエステで出る!!」

アキトさんがユリカさんより早く反応して格納庫に向かいます。

「そうなの、ルリちゃん?

 それでは、総員戦闘態勢に移行してください!!」

でも皆中々動き出しません。

まぁ、今回ユリカさんは人望がありませんけど、一応艦長なんですからそんなことでは困るんですけど・・・

「皆・・・」

見かねたジュンさんが動こうとしますが、ここでジュンさんに動かれると、

もう誰もユリカさんを艦長と思わなくなってしまいます。

「大丈夫です、副長。

 艦長を信じてあげてください」

さて、頑張ってくださいよ、ユリカさん。

「皆さん!!契約書についてのご不満は解ります。でも今はその時ではありません!

 私は、このナデシコで将来私が笑って過ごせる世界を作りたいんです。

 皆さんも同じだと思います。皆さんの望み通りにはできないかもしれませんが、

 ここで勝たなければ、何にもなりません。何もできません。

 皆さん、今は戦うときです。私を信じてください!!私に手を貸してください!!」

「あ、ああ」

皆ゆっくりとではありますが動き出しました。

ふむ、皆少しはユリカさんを見直したようです。

いいことです。

その時、アキトさんから連絡が入りました。

「ルリちゃん出して!!」

「解ってます、

 テンカワ機、発進します」

「さすがアキト!!行動が早いね!!」

一連のどたばたで、ついさっきまでここにいたアキトさんがこのタイミングで出るのは、

不自然だということに気づいた人はいないようです。

こうして、アキトさんが先行で出撃をする形で、

ナデシコの火星侵攻が始まりました・・・





「こちらテンカワ機、ユリカ、この作戦の目的は何だ?」

「え?目的って・・・」

「敵の殲滅か?強行突破か?逃げるのか?それぐらいは教えてくれ。

 そして俺は何をすればいい?ナデシコの防衛か?敵陣を突破して挟撃か?突破口を開くのか?

 バッタの殲滅か?護衛艦クラスを狙うのか?戦艦クラスか?

 単機突撃か?皆が来るのを待つのか?

 具体的な目的を教えてくれ。それとも勝手に戦って良いのか?」

「・・・そうだよね、私、艦長さんだもんね。

 うん、決めた、私ジュン君を信じる。

 エステバリス隊の指揮はジュン君に一任します。

 以後エステバリス隊の行動についてはジュン君の指示を仰ぐこと。

 私はナデシコの指揮をします」

「了解、ジュン、指示を頼む」

「え?・・・解った。ユリカ作戦目的は・・・」

「敵の殲滅です」

「解った、テンカワ機はエステバリス隊全機発進までナデシコの防衛と、

 エステバリス隊発進時の盾を勤めてくれ。

 その後は別命があるまでは自己の判断で敵の殲滅に勤めてくれ」

「了解」

ほう、ユリカもジュンも成長したな。

さて、時間つぶしもかねて雑魚共の掃除しとくか。





「うーん、艦長は意外と強敵ね。

 さすがは、ジュンさんが好きな人だわ」

「ほんと、でも艦長が艦長で、副長が副長な理由がわかったわ」

「艦長は優秀ですよ」

「あら?ルリルリはわかってたの?」

「ルリちゃん、負け惜しみしちゃだめだよ」



「艦長、エステバリス隊が発進許可を求めてます」

「エステバリス隊に関する全権は副長であるジュン君に任せてあります。

 ジュン君の指示を仰いでください」

「は、はい。副長」

「エステバリス隊、全機発進。

 テンカワ機、エステバリス隊が発進する、出撃時を狙われないように注意してくれ」

「了解」

さて、今回はどうするか。

「ははは、待たせたな、俺が出てきたからには、安心して良いぞ」

「おーい、テンカワー!!」

「お待ちどう様〜〜」

「ふふふふ、やっぱり無事だったようね・・・」

やっぱりガイが先頭か。

予想通りだな。

ま、雑魚はリョ−コちゃんたちに任せるとするか。

「ルリちゃん、敵の戦艦は幾つ?」

「戦艦タイプは3隻を確認してます。

 後は、護衛艦タイプが30隻ですね」

そう言えば、そうだったな。

「ナデシコのディストーション・フィールドが、この敵戦艦の集中攻撃に耐えられるのは・・・

 後、10分ってところですか?

 フィールドを張るのに全力をかけてますから、グラビティ・ブラストの援護射撃はありません。

 でも、アキトさんには余裕ですよね? では、お任せしますアキトさん。」

「了解!!3分で全戦艦を殲滅する!!」

ブリッジが騒がしい、だが、俺が本気になればこの程度の敵など。

「ガイ!!リョーコちゃん!!ヒカルちゃん!!イズミさん!!

 サポート頼みます!!」

「おいアキト、この槍はいらねーのか?」

「そいつはガイが使ってくれ」

フィールドランサーはまだ1つしか完成していない。

俺ならランサー無しでも戦艦を落とせるが、今のガイたちには無理だろう。

「そうだな、新兵器、俺にふさわしい言葉だ、

 ははは、研究所は俺が守る!!」

「おう!!雑魚は任せとけ!!」

「派手にやっちゃってね!!」

「・・・宇宙に華を咲かせてね」

イズミさん・・・ま、いいですけどね。

「では!!行って来る!!」

さて、前回はで4分53秒だったな。

今回はどうなるかな?

スラスターを全開にし、イミディエット・ナイフを手に突撃する。





前回、少なくともこの時期は、復讐の、怒りの、憎しみの思いで戦っていた。

そんな心で人を守り、幸せにできるつもりだったのだろうか?

少なくとも、あのころの俺は分裂していた。

そんな俺に本当の意味で付いてきてくれるものなどいるはずがない。

だから俺は本当の意味では一人だった、だから守れなかった。

今は違う。俺は、俺の幸せを、必ず手に入れて見せる。

だから皆、俺にできることはこれだけだ。

こんな俺で良ければ、力を貸してくれ。

「お、おおおおおお!!!!」

敵の攻撃を紙一重で避ける、しかしそれだけじゃない。

フィールドを微調整して、敵の攻撃をも推進力に変えて突撃する。

「ひとぉぉぉつ!!」

未来に対する不安をぶつけるように俺は一つ目の戦艦を破壊した。





「まさか!!本当に3分で終わらせるつもりですかテンカワさんは!!」

「プロスさん・・・アキトさんの実力はまだまだ、こんな物じゃ無いですよ」

「そうだよね、アキトは、アキトは私の王子様だもん!!」

「しかし、信じられん・・・いや、異常なほどの戦闘能力だな」

「良いんじゃない?味方なんだからさ」

「・・・では、もしテンカワが敵にまわるとしたら?」

「そんな事無いよ」

「なぜそう断言できる」

「アキトは私の王子様だもん」

「・・・そうでしょうか?」

「ルリルリ、どうしたの?」

「アキトさんはアキトさんの目的のために戦ってるんです。

 たぶんナデシコの敵になることは無いと思いますが、

 アキトさんは必要ならナデシコだって落としますよ?

 それでアキトさんの目的が果たせるなら・・・絶対に」

「・・・ルリさん、あなたはテンカワさんの目的をご存知で?」

「・・・さぁ?仮に知っていたとしても、私の口からはいえません。

 でも、ナデシコを落とすことになっても、"私たちの"敵にはなりません。

 私に言えるのはそこまでです」

「・・・どういう意味ですかな?」

「私に言えるのはそこまでです」

「ルリルリの勝ちね」





「ラスト!!沈めれる、な?」

俺の攻撃を予想して最後の戦艦はフィールドの強化を終わらせていたが、

護衛艦などの攻撃は薄い。バッタなどにいたっては意味不明な動きをしている。

俺の戦法、敵の攻撃を推進力に変えるという行動に対抗する術が出てこず、

戦艦の護衛をしろというプログラムと、自軍に不利なことをするなというプログラムがぶつかり合い、

コンピュータがフリーズしたんだろう。

「無人兵器ゆえのもろさ、か。

 だが、迷ってる暇など無いぞ!!」

俺は拳にフィールドを集中しフリーズ状態のバッタの横をらくらくとすり抜け、最後の戦艦に突撃した。

俺がフィールドを解除したことに気づいた数機が攻撃を再開したが、もう遅い!!

「みっっっつぅぅぅ!!」

俺の声と共に最後の戦艦に到達する。

「全てを!!噛み砕け!!

 必殺!!虎牙弾!!」

別に今のラピスから苦情は来る由も無いが、一度ついた癖はそう簡単には直らない。

IFSのシステム上声に出した方がうまくいきやすいのも事実だ。

俺が飛び去った直後、最後の戦艦が爆沈した。

「敵戦力85%を殲滅・・・

 通信後からの経過時間は、3分2秒。

 お疲れ様です、惜しかったですね、アキトさん」

「ミッションインコンプリート・・・後は残敵の掃討に入るよ、ルリちゃん」

「はい、護衛艦はナデシコとヤマダさんに任せてください」

「じゃあ、バッタとジョロの相手でもしてるよ」

俺とルリちゃんの緊張感の無い会話を・・・

信じられない、という顔で全員が聞いていた。





第十一話に続く



あとがき

と、言うわけで「育て方」の第十話です。

ユリカのレベルが上がったので扱いが良くなりました。

でも、アキト君の言ったことを忠実に守っているだけ、という気もします。

本当の意味での成長はまだまだこれからです。

アキト君は・・・いつの間にか成長しています。

アキト君の場合、他のキャラと違い、アキト君が誘導するわけにも行きませんので、

ディアたちの出番・・・とも考えたのですが、どちらかというと、ユリカやルリ君を導く際に、

自らの言葉で気づく、と言うことが多そうな気がします。

今回アキト君が言った台詞・・・あれは結局前回ルリ君とユリカに言ったことですから・・・

後、ルリ君も二回目よりは成長している・・・と思います。

アキト君はアキト君の目的のために戦っている、

そのことに気づいているだけで、十分です。

二回目の「ナデシコには私がいますからね」という台詞・・・

考えれば考えるほど自己中心的な理由です。

・・・でも、アキト君がナデシコを落とすのも面白そうだなぁ〜

 

 

 

代理人の感想

 

ん〜、ルリのセリフはいいんですが、アキトの言い様はちょっとひっかかりますねぇ。

独断先行しておいて「作戦の目的くらいは教えてくれ」は傲慢と言うか、

 

「敵の襲撃に気がついていたのにそれを報告せずに勝手に出撃した」

 

と言うことになりはしませんか?

報告義務違反、命令無視。

下手すりゃ銃殺・・・はいかないまでも富野作品だったら「修正」の上営倉行きは確実でしょう。(笑)

幾ら「ナデシコが軍隊ではない」といっても組織の構造を無視して一人で先走るのは

明らかに非難されるべき行動です。

アキトは本質的に集団行動には向いていない人間なのかもしれません。