「ん、う〜ん」

頭がボーッとします。

やはりディストーション・フィールドの出力不足でしょうか?

ナデシコBで、チューリップを通った時は、気絶するようなことは無かったんですが・・・





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第十四話 未来





私以外皆気を失ってます。

IFS強化体質は、ディストーション・フィールドの出力不足のジャンプに強いのでしょうか?

前回も私が一番最初に気付きましたよね?

「アキトさん、起きてください」

「うーん。あ、おはよう、ルリちゃん」

「おはようございます、アキトさん。

 で・・・ここは?」

「俺が地球にいたときに住んでいた部屋・・・というより悪巧みをしている悪の総本山かな?」

周りにはたくさんのコンピュータや、エステバリスのシミュレーターなんかが置いてあります。

悪の総本山・・・というより、戦隊ヒーロー物の秘密基地みたいです。

ただ、横においてあるラーメンの屋台が凄く浮いていますが・・・

「あ、この屋台・・・」

「まあね、なんかそれ以外イメージし難くって・・・

 ま、俺の一番楽しかった頃の思い出だからね・・・」

「・・・この戦争が終わったら・・・また手伝わせてくださいね?」

「ああ、そのときは頼むよ」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「思い出に浸ってる所悪いんだけど・・・、状況を説明してくれないか?」

「「!!」」

「ジュ、ジュンさん、いつの間に気がついたんですか?」

「この戦争が・・・のあたりからだけど・・・」

「そ、そうですか」

「とりあえず、ここはどこだ?一体何が起こったんだ?何で僕はここにいるんだ?

 そうだ、ナデシコはどうなった?ユリカはどうなった?ブリッジはどっちだ?」

・・・ジュンさんが今更ながら、パニックになっています。

「まず一つ目の質問だが・・・ここは俺の部屋・・・もっと広い意味での場所なら地球だ」

「そんな馬鹿な、ナデシコは火星にいたはずだろう?」

「ああ、詳しい原理は置いておくが・・・ワープの一種で跳んで来たんだ」

「・・・気を失う前に乗っていたあれか・・・そんなことより、ナデシコはどうなった」

「ナデシコは現在は存在しませんが、沈んだわけじゃありません。

 約八ヵ月後に月軌道上に現れる予定になっています」

「言ってる事が解んないんだけど・・・」

「チューリップは単なるワープゲートじゃない。正しくはタイムゲートとでも呼ぶべきものだ」

「・・・つまり、タイムスリップも可能だ、ということか?」

「ええ、理論上は・・・ですけど」

「理論上は?」

「仮にチューリップを使って時間移動ができるのなら、木星蜥蜴が負けるはずがないでしょう?

 理論上は時間移動もできますが、時間をイメージするのは困難なので、

 ジャンプ・・・私たちはチューリップなどを使ったワープをこう呼んでるんですが、

 そのため時間移動はランダムジャンプ・・・行き先を決めずにジャンプした時の運しだいと言う事になります」

「ならなんでナデシコが八ヵ月後に出ると解るんだ」

「全く同じ・・・とは行かないが、似た状態でチューリップに入ったとき、

 八ヵ月後の月軌道上にジャンプしたからだ」

「・・・どういう・・・事だ?」

「私たちは未来からきました」

「・・・ジャンプで・・・か?」

「ええ、未来におけるジャンプ事故で、意識だけがこの世界にきました」

「それを信じろって言うのか?」

「ですよね、普通信じませんよね。

 というわけです、アキトさん、お願いします」

「はいはい、イメージング・・・一メートル前・・・ジャンプ」

次の瞬間アキトさんの体が虹色の光に包まれ、一メートルほど前に同じ色の光と共に現れます。

「なるほど・・・

 で、僕に何をしろって言うんだ?」

「信じたのか?」

「目の前で見せられたんだ、信じるしかないだろう?

 未来から来たかどうかは解らないけど、嘘を言っても始まらないし・・・

 それより・・・何で僕を連れてきたんだ、別にユリカでもいいだろう?」

「ユリカはジャンパーだからな」

「ジャンパー?」

「ジャンパーとは、ジャンプの行き先を決めることができる人です。

 ユリカさんはA級ジャンパーで、長距離ジャンプのナビゲートとピンポイントジャンプができます」

「・・・つまりテンカワもA級ジャンパーなのか?」

「ああ、A級ジャンパーは一定の時期に火星で生まれた人だけが持つ先天的な才能なんだ。

 B級は後天的に手術などで、遺伝子を弄くればなることができるけど、

 A級と違い、ピンポイントでのジャンプや長距離ジャンプはできない。

 将来的には普通の人をA級ジャンパーにする技術もできるとは思うが・・・」

「A級ジャンパーは、悲劇しか生み出しませんでした。

 考えても見てください。火星から一気に地球までタイムラグ無しに、

 しかもピンポイントで攻め込めるのなら、

 既存のどんな防衛設備も無意味になります。

 この戦争でA級ジャンパーの戦略的優位性を示したことにより、

 あるテロリストが、A級ジャンパー狩りを行います。

 私たちの目的は、それを防ぎ、少しでもいい未来を作ることです」

「ま、あの未来より悪い未来にはならないと思うけどな」

「ジュンさんには、ユリカさんのサポートをして、

 少しでもいい状態でこの戦争を終わらせてほしいんです」

「一つ質問してもいいか?」

「ああ、何だ?」

「なんでテンカワたちはこの戦いのことを戦争と呼ぶんだ?」

「・・・流石は士官学校の次席だな」

「木星蜥蜴の正体・・・私たちの最初の戦い・・・A級ジャンパー狩りとその事件の結末。

 知りたい・・・ですか?」

「・・・もちろんだ」

「言うまでもありませんが、地球にジャンプしたことも含めて、だれにも話さないで下さいね?」

「解ってる」



「これがこの戦争・・・蜥蜴戦争と、戦後から火星の後継者事件までの粗筋です」

「ネルガルは蜥蜴戦争終了時にナデシコA・・・つまり、今のナデシコと共にその力を失った」

「これに伴いネルガルの保有していたさまざまな技術が、その他の企業にもれることになります」

「火星の後継者事件後、クリムゾンは火星の後継者とのつながりが明るみに出て、事実上解体」

「地球、木星、統合軍、いずれも信用を失ないました」

「地球には木星との戦争を望む声もあった」

「軍の一部を除く地球圏と、木星圏の半分近くから、

 ジャンプ関連技術の全面凍結案も出されました」

「地球側の圧倒的多数の支持と人道主義という言葉による拡大解釈により可決された、

 ジャンプ関連技術無期完全凍結法は、

 ネルガルのナデシコ消失事件により地球圏に流れた、

 ディストーション・フィールド、相転移炉関係の技術のため、

 木星のただでさえ少ない資源の中で唯一地球に対して優位を保っていた、

 チューリップ関係の技術を完全にたたれ、木連は日に日に弱体化していった」

「その為木星側では再び戦争をはじめるつもりのようでした」

「・・・そんなことがあった・・・いや、これから起こるのか・・・」

「俺たちがここに来た後ネルガルは、最新戦艦ナデシコCと、

 その先行試作戦艦ユーチャリスも失い、残ったのはナデシコBだけ」

「しかも全てのマシンチャイルドを失ったので、動かすことはできません。

 これによりネルガルは完全にその力を失う事になったでしょうね」

「おそらくあの後は戦争が起こり、

 ネルガルとクリムゾンが事実上消滅した地球圏と木連では、戦争は泥沼化しただろうな」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・





「で、お前はどうするんだ?

 時間は少なくとも八ヶ月はある。

 何をするにしても手遅れということもないだろう」

「・・・僕をここに連れてきた時点で他に選択肢はないんじゃないのか?

 もちろん協力させてもらうよ。

 僕に・・・戦闘技術を教えてくれ。

 初めから、そのつもりだったんだろう?」

「まあな」

「ただ・・・ユリカはどうするんだ?

 お前は・・・やっぱりユリカのことが好きなのか?」

「ユリカは・・・俺に、今の俺に、今のユリカを愛することはできない。

 今の俺には、今のユリカをあのときのユリカに重ねることしかできない。

 それに・・・言っただろう?

 俺にはユリカの荷物を全て持って、ユリカの前を歩くことはできるが、

 ユリカと荷物を分け合って、並んで歩くことはできないって。

 お前に、この戦争のあらすじしか教えなかったのは、

 お前にはユリカと一緒に考えてほしいからだ。

 俺があいつを導けば・・・簡単かもしれない。

 だが、それじゃあいつは俺がいなくちゃ何もできなくなる、自分の力で歩けなくなる。

 お前が結局どんな選択をして、どんな未来を作るかは解らない。

 俺が今後どんな行動をして、その結果何が起こるか解らない。

 だが、少なくともユリカを・・・幸せにはできなくても、不幸にはしないつもりだ。

 俺の力なら幸せにはできなくても、不幸にしないようにすることぐらいはできる・・・いや、してみせる。

 少なくとも、この戦争が終わり、火星の後継者事件が終わるときまでは・・・な」

「・・・・・・・・・・・・」

「ジュン、一つ助言しよう。

 今、人を傷つけないということが、もっとも人を傷つけない方法とは限らない。

 現状に変化を起こさなければ、状況は悪くはなっても、良くなることはない」

そう・・・二回目の俺がまさにそうだったよなぁ。

人を傷つけ無いようにと思って・・・答えを先延ばしにして・・・

気付いた時には全てが手遅れだった・・・

俺は消えるべき・・・なら、だれとも絆を造らなければ良かったんだ。

だけど、俺は無意識に人に甘えていた・・・

人に嫌われたくないから・・・人に嫌われるのが恐いから・・・

また一人になるのが・・・自分の中にある闇が恐いから・・・

人にあわせ・・・その人の理想に近い行動をする・・・

そうして皆を縛り、皆を傷つけ・・・俺自身の幸せだけじゃなくみんなの幸せを・・・

皆の未来を閉ざしてしまった・・・

俺は、結局自分自身のわがままで、皆を不幸にしてしまったんだ。

少なくとも・・・西欧から帰ってくるあたり・・・クリスマスの前までには、

俺の過去を、全ての真実を、俺の気持ちを話して・・・

現状に変化をつけないといけないよなぁ。

それで皆に嫌われても・・・俺だけが不幸になるのと、俺を含めて皆で不幸になるの・・・

考えるまでもない・・・か。





第十四話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第十四話です。

今回はアキト君の考えとジュン君を仲間に引き入れる話がメインです。

「今、人を傷つけないということが、もっとも人を傷つけない方法とは限らない」

この言葉がアキト君ほど似合う人も少ないでしょう。

アキト君は視線が広いのか狭いのか良くわからない人ですが、

特に女性関係に関しては、その場を乗り切ることしか考えていないようですから・・・

いつかBBSにも書いたと思いますが、アキト君は絶対に一人では生きていけない人だと思います。

自分の幸せはともかく、自分の仲間の幸せ・・・ユリカを助けるためには手段を選ばない・・・

非常に危険な考えです。

そして、止めてくれる人がいなければ暴走してそれを実行し、万単位の人を殺す・・・

同時に常に悩んでいるので、上の言う通りに動くシステムには耐えられない・・・

常に母性的な・・・基本的に自分の行動を制限せず見守っているだけですが、

道を踏み外しかけたときはきちんとしかって、方向修正をしてくれるような人が必要だと思います。

そうでなくては簡単につぶれてしまう・・・

アキト君自身、無意識のうちにそれを自覚しているので、

特に女性に嫌われることを極端に嫌うのだと思います。

 

 

代理人の感想

・・・・どこをどう取ってもアキトの視野って偉く狭いと思いますけど(汗)。

将棋で言えば一手先は読めても三手先はもう読めないというか、

いつも将棋盤の一角だけ見て盤全体を見れないというか。

これはTV、劇場、時ナデを問わず同じことだと思います。

 

 

追伸

何ゆえジュンに「戦闘技術」を教えるのでせうか?

ユリカの補佐をさせるなら参謀、ないしは副官としての実力をつけさせるのがベターかと思うのですが。