「と、言うわけで!!

 次の任務は!!」

「・・・ふぁ〜あ」

「地上のテニシアン島に落ちたチューリップの調査よ!!」

「眠いわね〜」

「このナデシコが優秀なために命じられたのよ!!

 なのに・・・何でだれもブリッジにいないのよ〜!!」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第二十話 食堂





ピッ!

「説明しましょう・・・因果な性格よね、私って。

 現在時刻は午前二時。

 日本の時刻で言う丑三つ時にあたるわけね・・・こんな時間に起きてる人は珍しいわ。

 以上、お休みなさい・・・」

ピッ!

「あ、交代の時間だ」

「ちょっとハルカ ミナト!! 私の話しを聞きなさいよ!!

 あんた操舵手でしょう!!」

「じゃ、後宜しく」

パァン!

「はぁい」

「誰か私の話しを聞きなさいよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「・・・うるさい!!」

ゴン!!

「ふう、さて次の目的地は・・・テニシアン島ね。

 ・・・青い海、白い砂浜、灼熱の太陽。

 これは・・・例の物がいるわね」





「ねぇねぇ、昨日のアキトさんの戦い見た?」

「見た見た!!かっこ良かったよねぇ〜!!」

「最強のエステバリスライダー、テンカワ アキト!!

 でもさ、アキトさんの戦いって見ていて安心できるよね?」

「そうそう!!なんか守ってくれてる!!って感じ」

「光の剣を持った漆黒のエステバリス・・・幻想的よね〜」

「でもさ、最後のあれは凄かったよね?」

「うん!!」

「敵を一撃で消し飛ばす、漆黒の剣・・・う〜ん、これまた幻想的よね〜」

「それに最後の台詞!!

 ああ〜、私だったらアキトさんに運命を狂わされても良い」

「自分の罪を自覚しながらそれでも前に進む・・・

 かっこいいなぁ〜」

「う〜ん、でもライバルも多いよ〜。

 艦長にルリちゃんにリョーコさんに・・・

 イネスさんも怪しいし・・・

 エリナさんも一昨日アキト君について色々と調べてたし・・・」

「う〜ん・・・そういえばエリナさんって何であんなに偉そうなのかな?」

「フフフ、私が調べたところによると・・・」

「「「「よると?」」」」

「なんと!!エリナさんってネルガルの会長秘書らしいのよ」

「何でそんな人が?」

「さ、さぁ、そこまでは・・・」

「詰めが甘いわね」

「う〜、そんな事言うんなら今度から面白い事聞いても教えてあげないもん」

「ア〜、うそうそ、へ〜あのエリナさんがね〜」

「でもなんか嫌だよね、偉そうって言うか・・・」

「風紀委員みたい!!」

「そうそう、居たよね、学校にも」

「ア〜、居た居た。あいつ、名前なんだっけ?」

「えっとぉ〜、キリハシ・・・じゃなかったっけ?」

「そうそう、キリハシ、細かい事ごちゃごちゃと・・・

 やな奴だったよね?」

「うんうん、自分は正しいんだって思っててさ」

「いいじゃない、人に迷惑かけてるんじゃないし・・・」

「そうそう、スカート丈が一センチ短いからってどーなるんだって言うの」

「大体、そういう自分が人に迷惑かけてんのに気が付いてないし・・・」

「ア〜思い出したらむかついてきた、私あいつのせいでデートに遅れて振られたんだ」

「私も電車乗り遅れて門限間に合わなくてお小遣い減らされた事がある!」

「人が時間気にしてんのぐらい気付けっての!!」

「その点ナデシコは良いよね?」

「そうそう、艦長もずぼらだし」

「ずぼらはひどいよ・・・せめていい加減とかさ〜」

「変わんないじゃない」

「え〜、そんな事無いよ」

「ま、艦長は、確かに良い意味でいい加減だもんね」

「うんうん」

「プロスさんも仕事さえしっかりやってれば文句言わないし・・・」

「エリナさんはね〜」

「でもエリナさんより提督だよ」

「あ〜、あのキノコ」

「人のやる事なす事いちいち文句つけて・・・」

「じゃあお前がやれっての」

「何でも親が軍のお偉いさんなんだって」

「あ〜、馬鹿息子って訳?」

「馬鹿オカマじゃない?」

「馬鹿キノコだよ」

「ま、どっちにしろ自分じゃ何にもできないのよ」

「せっかく地球でおろしたのにね」

「艦長も艦長よ、あんなの乗せんの断んなさいよ」

「その点フクベ提督は良かったよね?」

「うんうん、優しいおじいさんって感じで・・・」

「肩揉んだらお小遣いくれるタイプだよね」

「キノコみたいにでしゃばらなかったし・・・」

「ジュンさんと艦長がいれば作戦は完璧なんだから黙ってりゃいいのに・・・」

「アキトさんが居れば負ける事も無いし」

「わざわざ馬鹿な事言わなくても良いのにね」

「そ、単なるお荷物、キノコならキノコらしくしてろっての」

「最悪」

「そうそう、大体私たちは軍人じゃないのに」

「キノコに命令される筋合いは無いよね」

「別に軍人でもキノコに命令されたくないけどね」

「やな人が来たよねぇ」

「来たと言えば・・・

 アカツキさんはどうかな?」

「ア〜あのロン毛」

「軽そうだよね〜」

「ま、ビジュアル的には合格だけどさ」

「いきなりミナトさんナンパしてたし・・・」

「私もナンパされた」

「私も」

「何?皆も?」

「「「「うん」」」」

「手当たりしだいナンパしてるわけ?最悪」

「そういえばアキトさんと模擬戦やってぼろ負けしたんだって」

「当然よ、アキトさんに戦い挑もうなんて一億年早いっての」

「あの人もネルガルの人なの」

「コスモスから来たって言った以上そうでしょうねぇ〜」

「軍人ならあんな軽いの居ないって」

「え〜、でも艦長は士官学校の主席だって言ってたよ?

 士官学校って軍人さん作る学校でしょ?

 ってことは、もしナデシコに乗らなかったら艦長も軍人さんになったんじゃないの?」

「艦長並に軽い人はそうは居ないでしょうね」

「キノコも軍人だし」

「キノコはともかく艦長みたいな人が居る以上

 軍人だから軽くないってのは変じゃない?」

「な、何?何で皆して私を責めるの?」

「別に責めてるわけじゃないけど〜」

「そうだよ、ただ事実を言っただけだよ」

「はいはい、おしゃべりはその辺にしてこっち手伝っとくれ」

「「「「「は〜い」」」」」





「ラーメン一つ、お願いしますアキトさん」

「了解、ルリちゃん」

昼食の時間の喧騒が嘘のように静まり返った食堂で俺が働いていると、

そこにルリちゃんが訪れて来た。

厨房にいると俺は俺だと自覚できる。

結局、本当の俺、俺が望んだ俺はコックの俺なんだと思う。

必要だからなったパイロットとしての俺じゃなく・・・

何度跳ばされても・・・どこに、いつに跳ばされても・・・

俺が俺だと自覚できる・・・自分が存在していると自覚できる・・・

俺が俺であるのは・・・コックとして料理を作っている時だ。

他にもあるような気もするけど・・・思い出せない・・・

「・・・アキトさん、何であんな事言ったんですか?」

「あんな事って?」

「アキトさんのやっている事は単なる我侭だって・・・

 皆のためという名目で好き勝手な事やってるだけだって・・・」

「・・・俺は俺の道を行く。

 そのために・・・また罪を重ねるかも知れない・・・

 それでも俺は止まるつもりは無い。

 それこそ、悪魔に魂を売る事になっても、ね?

 何でそれにユリカを・・・皆を巻き込める?」

「でも、だからってあんな言い方・・・」

「俺のやっていることは正義じゃないんだ。

 ま、俺にとっては正義だって信じてるんだけど・・・

 俺のやっている事が絶対正義だなんて思って欲しくない。

 ・・・俺には、重すぎるんだよ。

 皆の期待を・・・皆の正義を背負うのは・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「ははは、これこそ本当に俺の我侭だよな。

 俺が皆の正義を背負うのが辛いから、皆に・・・ユリカに押し付けたんだ」

「そんな事ありません。

 そうですよね、私は・・・結局アキトさんの重荷にしかなってなかったんですよね。

 自分の道を・・・自分の信じた道を進む勇気が無いから・・・

 だからアキトさんの道を・・・アキトさんの後を付いて行っていた・・・

 自分のやってる事が絶対正しいなんて・・・自分のやってる事が皆のためだなんて・・・

 そんなの草壁なんかと同じですよね。

 それにただ付いて行って・・・自分じゃ何にも考えないで・・・

 その道を歩く事を人に強要する・・・

 北辰と同じですね」

「そんな事ない!!」

俺は思わず立ち上がって叫んだ。

何か・・・どうしても今の言葉を否定しなければいけないと思った。

どうしても今の言葉を見過ごす事ができなかった。

「ア、アキトさん?」

「ルリちゃんは・・・ルリちゃんは・・・

 その・・・よく解んないけど、とにかく違う!!ルリちゃんはそんなんじゃない!!」

「アキトさん・・・」

「ごめん、怒鳴ったりして・・・」

「別に良いですよ」

「ま、俺の企みは見事に失敗したみたいだけどね?」

「ですね、あの台詞のせいで皆前以上にアキトさんを信頼してるみたいです」

「信頼と盲信は違うんだけどね」

「ふふふ、そうですね」

「ははははは」

そのまま一時笑い合い・・・

見事に麺を延ばしてしまった・・・

これはホウメイさんに怒られるな・・・

「良いですよ、私はそれで」

「そんなわけにいかないよ」

「私のせいで延ばしちゃったんですから・・・」

「そうもいかないよ。

 客に伸びたラーメンなんか出したらホウメイさんに怒られちゃうよ、

 待ってて、今新しいの茹でるから」

「はい、そうですか・・・」

その後ちゃんとしたラーメンをルリちゃんに出す事ができた。

なんか妙に気合が入って、会心の出来になったのを、

ルリちゃんはちゃんと見抜いてくれた。

わかってくれる相手に料理を出すのは楽しい、

コックとしての喜びを噛み締めた一日となった。





「ふんふん♪

 やっぱり待ってるだけじゃ駄目よね!!

 私が特製のお夜食を、アキトに作って上げるんだから!!」

「急に厨房を貸せって言うから、何かと思えば」

モクモクモク・・・

「キャ〜!!やだっ!!何!!何なの!!」

「・・・テンカワも災難だね〜」





「ふう、今日も疲れたな。ユリカももうちょっとちゃんと仕事をやってくれればなぁ〜」

いくら副長の仕事が艦長の補佐だからって何も全部押し付けなくても・・・

ユリカは事務処理能力だって凄いんだから、

その気になればあれくらいの仕事すぐに終わらせられるのに・・・

「るんるんるん〜♪」

「あ、あれは!!心の篭った夜食!!」

って言うかそんなもの作ってる暇があるんだったら仕事をして欲しいんだけど・・・

「あ、ジュン君お休み〜♪

 アキト〜、待っててね〜」

「あ、あの・・・ユリカ!」

「ん?何、ジュン君?」

「え?あ、あの・・・お、お休み・・・」

「うん、お休み〜♪」

ふう、言えるわけ無いよな、この僕に・・・

しかしユリカの作った料理か〜

そういえばユリカが作った料理なんて一回も見た事ないよなぁ。

・・・厨房に行けば残りがあるかもしれないな。

ユリカの手料理を食べればもうちょっと頑張れるかもしれないもんな。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「・・・これは・・・何を創ったのかな?」

って、作る?造る?創る?どれが正しいんだ?

で、でもあのユリカが"つくった"んだ、

ちょっとぐらい見た目が悪くても、味は良いに違いない。

もしかしたら、ユリカのオリジナル料理かもしれないし・・・

何しろユリカは何をやらしてもいつも一番だったからな。

・・・・・・・・・・・・

でもこれは流石に勇気がいるよな・・・

・・・パクッ!

「!!!!!!!!!!!!!」

バタッ・・・

遠のく意識の中、僕は完璧な人間なんていないという言葉を噛み締めていた・・・





「消毒班!!急いで食堂を処理して!!」

ドタドタドタ・・・

「その食べ物は私が後で分析するから、医務室にサンプルを持って行って頂戴!!」

「おやおや、ジュンもお気の毒様だね」

「木星蜥蜴の新しい攻撃かしら?」

「まあ、強いて言えば恋の劇薬かな?」

「何それ?」

「さあ」

「そう思ったんでしたらアドバイスぐらいしてあげてくださいよ・・・」

全く、ホウメイさんも・・・

「おや、テンカワ、あんたは無事だったのかい?」

「どう見たってあれは人間の食べるものじゃありませんからね、

 逃げてきたんですよ・・・

 て、お、俺はあっちに逃げましたから、じゃ、そういう事で・・・」

と、取り敢えず・・・食料庫の中だ。

コソコソコソ・・・

バタンッ!

「あ〜なんで逃げるの〜、あ、そうか、アキト照れてるんだ〜かわいい〜」

タタタタタ・・・

「あ、ホウメイさん、アキト来ませんでしたか?」

「え、ああ、テンカワならあっちに・・・」

「・・・ホウメイさん、嘘はいけませんよ。

 ずばり、アキトの居る所は・・・食料庫の中!!」

ソロソロソロ・・・

ソ〜

バッ!!

「アキト発見!!」

「な、何で・・・」

しまった、ユリカの直感を甘く見てたか・・・

「そんなアキト照れなくっても良いって・・・」

う、入り口にはユリカが・・・他に出口はないし・・・

俺は少しでも助かる可能性を探そうと必死に後退っていたが・・・

無常にもそこには冷たい壁が立ちはだかり・・・

「ふふふ、アキトそんなに嬉しいの?」

ホ、ホウメイさん、イネスさん、そんなところで見てないで助けてくださいよ。

ユリカが一歩、また一歩と近寄り・・・

入り口から離れたそのとき・・・

ドドドドドド・・・

昂氣を使うのは得策じゃないんだが、今はそんな事言ってられない、

俺は全力で走った・・・

ジャンプするよりはましだろう。

「ア、アキト?」

「・・・し、信じられない速度ね。

 十分どころか確実に世界新狙えるわよ」

「また、アキトったら照れちゃって〜、あ、それとも私ともうちょっと追いかけっこしたいのかな?

 待っててアキト、今行くからね〜」

スタタタタタタ・・・

「ふう、どうしたもんかね、艦長も」

「アキト君、あの加速じゃ二十G近くのエネルギーがかかったはずよ・・・

 ほんと、興味深いわね・・・」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

「捕まったみたいだね」

「そうね、急患一名追加・・・か、

 今夜は忙しくなりそうね」

「明日の出前だれに頼もうかね〜」

ホウメイさんもやっぱりナデシコのクルーなんだな・・・

薄れ行く意識の中、俺はそんな事を考えていた・・・





こうしてナデシコ食堂の平和な一日は過ぎていく・・・

ほんと、勘弁してくれ、実際・・・





第二十一話に続く





と、言うわけで「育て方」の第二十話です。

今回は少しの例外を除いて全て食堂が舞台です。

こういう書き方もありかなぁ〜、と思いまして・・・

ホウメイガールズですが、井戸端会議などをさせていると、

意識せずとも性格に違いが生まれますね・・・

どの台詞がだれかまでは考えていませんが・・・



アキト君、前回あんな台詞を言った割に信頼されています。

自分の罪を自覚して、それでも前に進む・・・

かっこいい事はかっこいいですよね。

この話のアキト君はいい意味で自虐的です。

このあたりは、劇場版のアキト君に近いのではないでしょうか?

TV版の最後で、正義の多様さを思い知り、

劇場版では、自分の正義を貫くために全てを捨てています。

これは人間としてかなり尊敬できます。

ま、残された人は迷惑といえば迷惑ですが、

ルリ君がどうしてもアキト君と生きていきたければ、

彼女もまた全てを捨ててアキト君の下に走ればよかったのです。

全てを手に入れようなんてそんな虫のいいことはできません、という事です。

ところが「時の流れに」のアキト君は、人の正義を認めていないところがあります。

自分の意見を頑なに守り、人の意見を聞かない・・・

自分の正義を貫くというのは、人の意見を聞かないという事じゃありません。

人の正義を認め、自分の正義の基本は曲げずとも、先端は臨機応変に曲がる・・・

そして時にはその基本ですら曲げる・・・

人を支配せず、人に支配もされない・・・

本当の意味での自我をもつ・・・

劇場版ではユリカたちをを救うというアキト君の正義を貫いており、

ユリカやルリ君に危険が及び得る可能性を廃する為、完全なる決別を考えてます。

その一方で状況に流された嫌いはあるものの、

ナデシコCと共同戦線を張るなど、臨機応変な部分も見られます。

完全ではない・・・というより、人である以上完全には不可能ですが、

一応それができている・・・ところが、「時の流れに」では全然出来ていない・・・

難しい事ですけどね・・・

ま、この話では出来ています。



ジュン君がユリカの料理を食べるシーン・・・

あのような感じじゃないだろうかと・・・

しかし、学校等で調理実習はやらなかったのでしょうか?

クラスが違っていたとしても、

あそこまでの料理でしたら、うわさにもなると思うのですが・・・

それともあの時代には調理実習はないのでしょうか?

例えば、鍋でご飯を炊く等と言う事は無くなっても、

調理実習自体は残っていると思うのですが・・・

謎です。



追記

キリハシというのは、昔書いていた小説の登場人物の苗字です。

そのさらに元ネタはなく、

苗字はどうしましょうか?などと思いながら、

アイデアを求めて漢和辞典を読んでいた時に思いついた名前です。

漢字で書けば「霧橋」となります。

ちなみに下の名前は「延司」で、エンジと読みます。

特定の個人を意識したものではありません。

全国の霧橋様、どうかお気を悪くしないで下さい。