「ビーチ手前で着水。

 各自、上陸用意をさせて」

「は〜〜〜〜い♪」

「ルリルリ、あなた肌が白いんだから日焼け止めはコレ使いなさい」

「すいません。

 海、二回目なんです」

「ふ〜ん、一回目はだれと行ったのかな?」

「・・・秘密です」

「ふ〜ん、アキト君とかぁ」

「!!」

「ルリルリ、か〜いい」

こうして、ナデシコはテニシアン島に到着した。





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第二十一話 浜辺





「パラソル部隊急げ〜〜〜〜!!」

「お〜う!!」

そんなに急がなくても・・・

もう一日ここに居たいって言ったら、ユリカなら許可するだろうし、

プロスさんも、社員福祉に関して話があるとか言えば、

年中無休、二十四時間準待機状態で働かされている以上、

特別休暇ぐらい認めると思うんだけどなぁ。

「女子に負けるな〜〜〜!!」

「お〜う!!」

アカツキは無理かもな・・・

一応会長だし・・・

「ちょっと待ちなさい貴方たち!!

 貴方たち解ってるんでしょうね!!

 貴方たちはネルガル重工に雇われてるのよ!!

 だから・・・遊ぶ時間は時給から引くからね」

「はぁ〜〜〜〜?」

ま、ナデシコのクルーは皆高給取りなんだから、

一日や二日分の給料が引かれても問題ないだろう。

ナデシコにいる限りはほとんど使わないしね。

「はい。これが私の作ったシオリ。

 よく読んでよね。

 まず、海の深い所には・・・」

幼稚園じゃないんですからさ・・・エリナさん。

「・・・解った?ってだれも居ないじゃない!!

 もう!!私も遊ぶからね!!」

だれも止めませんよ、むしろ遊ばせるつもりでしょうから。





「ふう、ユリカやメグミちゃん、それにリョーコちゃんたちは海で遊んでる、と」

「ちなみに私は隣で情報収集してますよ、アキトさん」

気付いちゃ居るけどね・・・

はぁ、なんか最近二回目みたいな言動が増えてきたような・・・

・・・嫌だ。

「そう?

 ルリちゃんも少し日に焼けたら?」

「・・・止めておきます。

 やりたい事もありますから」

どういうことだ?

ま、ルリちゃんは日に強そうなタイプじゃなさそうだし、

焼かない方がいいかもな。

下手な事すると後でとんでもない目に会うからな・・・

山崎にやられた紫外線への耐久度実験は辛かった・・・

「で、アキトさんはどうするんです?」

「俺?俺はのんびりしてるよ、

 ナデシコでは平穏は貴重だからね」

「そうですか」

全く、にぎやかで和気藹々としてるのがナデシコの良い所ではあるけど、

たまには静かに一人になりたい事だってあるだろうに・・・





アカツキたちがパイロット同士で、ビーチバレーを開始した。

「テンカワ君はやらないのかい」

「ははは、俺はいいですよ」

前回はとんでもない事になったからな。

それに・・・あえてゲームバランスを崩す事もあるまいて。

「そんな事言わずにやろーぜ!!」

「え!!アキトビーチバレーやるの?

 なら私がパートナーやる!!」

・・・地獄耳だなユリカ、百メートルは、離れてたぞ。

「な、何言ってんだ、コレはパイロット同士のビーチバレーなんだ。

 艦長は引っ込んでろ」

「でも、いちにー・・・アキトを入れて五人だよ?

 一人余るでしょ?だから私も入らないと」

俺がやらなければ丸く収まるんじゃないか?なんて・・・

言える訳ないよなぁ〜。

「そ、それにリョーコさん運動得意そうじゃないですか。

 アキトもバレー得意だから、アキトと組んだら強くなりすぎます。

 だから私が・・・」

何で俺がバレーが得意だと決め付ける?

ま、確かにどんなボールでも打ち返す自信はあるけどさ・・・

「なら私のほうが運動苦手です。

 私がアキトさんのパートナーをやります」

・・・ルリちゃん。

何でわざわざ火に油を注ぐような真似を・・・

「え〜でもでもー、そうしたら七人になっちゃうから、一人余っちゃうしぃ・・・」

「なら艦長とアキトさんも入らなければ四人で問題ありません」

「う〜」

「何言ってるんだ、コレはパイロット同士のチームワークを・・・」

「ならナデシコのクルーとしての協調性も大事です」

くじで決めるとか一回ごとにパ−トナーをずらすとか方法はあるだろうに・・・

「ですから、アキトさんはやりたくないと言ってるんです。

 リョーコさんたちだけでやれば問題ないでしょう」

「だからチームワークが・・・」

「クルーとの理解を深めるために・・・」

「艦長とテンカワは幼馴染なんだから今さら理解を深めなくてもいいだろ!」

「パイロット同士のチームワークなら、何もリョーコさんとじゃなくてもいいじゃない!」

「アキトさんは私とここでのんびり休むんです!」

「俺は近距離戦タイプだから特に呼吸が重要なんだよ!!」

「ならアカツキさんだって・・・!!」

「どっちにしろ艦長は関係ね〜だろ!!」

「私が居ないと一人余っちゃうもん!!」

「だからアキトさんはやりたくないと言ってるんです!!!」

「それにリョーコさんとじゃ戦力のバランスが悪すぎます、ここは私が!!!」

「遊びでやるんだから手加減すりゃーいいだろ!!!」

・・・何がいけなかったんだ?

『う〜ん、強いて言えば・・・

 ビーチバレーをしているアカツキさんから見える位置に居た事かな?』

はぁ・・・

「ねえ、アキトはどうしたいの!!!!」

「そうだ、テンカワはだれとパートナーを組みたいんだ!!!!」

「だからアキトさんは私とここでゆっくり休むんです!!!!」

「駄目!!ビーチバレーをやるのは決定事項です!!!!!」

「そうだ!!!!!」

・・・何故に?

「艦長命令です、ビーチバレーをやりなさい!!!!!!」

「そうだ、俺とビーチバレーをやれ!!!!!!」

「違うもん!!!!!!!

 アキトのパートナーは私だもん!!!!!!!!」

「だからパイロット同士のビーチバレーなんだよ!!!!!!!!!」

「駄目です!!!!!!!!!!

 アキトと私がパートナーになるの!!!!!!!!!!!」

う、煩い・・・

バタッ

あまりの騒音に俺は気絶した・・・

助かった・・・のか?





「大丈夫ですか?アキトさん」

「・・・う、う〜ん」

あ、頭が痛い・・・

「あ、気が付きましたね」

「・・・ルリちゃん?」

「はい、そうですよ。

 大丈夫ですか?」

ここは・・・医務室か・・・

「ええ〜と・・・あの後どうなったの?」

「あの後ですか?

 ええ〜と・・・私も気を失っちゃったんで良くわからないんです」

「そう、全く、ユリカの声は一種の超音波兵器だよな」

「あの親にしてこの娘あり・・・ですからね」

「全くだ」

シュッ!

「あら、気付いたみたいね、二人とも」

「あ、イネスさん、

 あの後どうなったんですか?」

「あの後?

 ああ、貴方たちが気を失った後ね。

 あの後私たちが気付いたときには、かなりの被害者が出てたわ。

 そこで保安班に連絡して遠距離からゴム銃でしとめたの。

 うかつに近付くのは危険だったからね」

「そ、そうですか・・・」

そういえば周りに大量に人が倒れている・・・

はぁ・・・

「今は二人でプロスさんに怒られてるわ」

「・・・いい年して騒ぎすぎて怒られるなよな」

「ま、そこがナデシコのナデシコたる所以ですから」

「そうなんだけどな・・・」

何でただのビーチバレーの組分けで気絶者が出る?

保安班が出動する?

「さて・・・俺はちょっとぶらぶらしてきます。

 まだ頭がはっきりしませんし・・・」

「なら私もお供します」

「そう?私はここでこの人たちの面倒を見てるわ。

 これも一応仕事だからね」

「ははは、怪しげな新薬の実験とかしないで下さいよ」

「失礼ね、怪しい薬なんて使わないわよ。

 私はちゃんと正体のわかってる薬しか使わないの」

実験をしないとは言わなかったような・・・

自分で創った薬なら一応正体はわかってるだろうし・・・

「そ、そうですか、じゃあ死人が出ないよう気を付けてください」

ここにこれ以上居るのは危険だ。





砂浜を歩いていると、向こうからエリナさんがやってきた。

「あら、気が付いたの?」

「ええ、おかげ様で」

「別に私は何もやってないわ、

 私もあの後すぐ気絶しちゃったし・・・」

「ははははは・・・」

「ねえ、テンカワ君。

 一つ聞いて良いかしら・・・君、火星から来たのよね?」

そうか、そうだったな、

二回目はうやむやになったから忘れてたけど、

最初の時はここからアプローチが始まったんだったな。

「ええ、そうですけど」

「どうやって激戦下の火星から脱出してこれたの?」

さて、如何しようかな?

今更隠す必要もないし・・・

でも有人ボソンジャンプの可能性を伝えて無駄な犠牲者を出す必要もな・・・

かといって全てを伝えるのも・・・

ルリちゃんが如何するんですか?と、目で聞いてくる。

そうだな、ここは一つディアたちに頼んで、

からかってみるかな。

「別に火星は昔から激戦下だった訳じゃないでしょう?」

「ごまかさないで、貴方第一次火星会戦の日に、

 ユートピア・コロニーのコンビニで買い物したでしょう?

 調べはついてるのよ!!」

「例えば、急用でその日に火星から地球に来た・・・というのはどうです?」

「その可能性も考えたわ、

 でも貴方その日のうちにATMにアクセスしてるわ。

 ナデシコですら二ヶ月はかかる距離を・・・よ?」

「なら俺のカードをだれかが使ったって言うのはどうです?」

「ATMの防犯カメラには確かに貴方が映ってたわ」

「なら、火星での買い物が俺じゃないのかもしれないでしょう?」

「だったらなんで火星で買い物したって言うのを、その場で否定しないのよ!」

「友人にカードを貸していた・・・って可能性もありますよ」

「貴方が?貴方は決して裕福とはいえない・・・

 もっとはっきり言えばかなり貧乏な生活をしていたはずよ?

 その貴方が他人にカードを貸すとわ思えないわ」

「俺にもいろいろと都合があるのかもしれませんよ?」

「そう、いいわ、そういうことにしてあげる。

 でもそうすると貴方はその何ヶ月も前に地球向かった事になる。

 ところが貴方はその間にも働いている事になってるの、

 これはどう説明するの?」

「その友人が俺の名前で働いたのかもしれませんよ?

 カードを使わせてもらうだけじゃ申し訳ないって」

「だったら貴方のカードを使わずに自分のカードを使えば良いでしょう!!」

「そんな事俺に言われても困りますよ」

「そ、そうね、

 じゃあこれはどう説明するのかしら。

 貴方は第一次火星会戦の何ヶ月も前に地球に向かった

 ところがそんなデータ、残ってないのよね?」

「戦争のどたばたで紛失したって可能性はどうですか?」

「そう、その可能性のあるわね、

 火星のデータはほとんど失われてたし・・・

 その日に地球についたのなら、チェック漏れもあるかもしれない。

 ならこれはどう?

 その地球まで行くお金はどこから出したの?」

「クイズで当たったのかも知れませんよ?」

「そんな何ヶ月もかかる旅行が当たるクイズなんて滅多に無いわ」

「それはそうですけど・・・」

「それに貴方がそういう類のものに当選したなんてデータも無いわ」

「そうですね、友人が当たったけど、

 いけなくなってその代理・・・って言う説はどうですか?」

「なるほどね。

 でも、そんな偶然ってある?

 偶然、珍しい地球への旅行の当たるクイズがあった。

 偶然、貴方の友人にその旅行が当たった。

 偶然、その友人がいけなくなった。

 偶然、第一次火星会戦の日に地球につく便に乗った。

 偶然、そのデータが失われた。

 偶然、貴方が友人にカードを貸していた。

 偶然、その友人がいい人で使い過ぎないように気をつけていた。

 偶然、自分のカードを使わず貴方の名前で働いていた。

 偶然、偶然、偶然・・・

 とても信じる気にはなれないわ」

「そうですか?」

「そうよ。

 それに貴方気付いてる?

 貴方さっきから〜という可能性が・・・とか、

 〜かもしれません・・・とか、何一つとして肯定してないわ。

 もしそうならはっきり言えばいいでしょう!!」

・・・気付いたか、流石だな。

〔おい、遊びすぎじゃないのか?〕

『へへへ・・・ま、このあたりで勘弁してあげよう♪』

〔楽しそうだな、ディア・・・

 しかし・・・いまのこの辺りで勘弁してあげるって台詞・・・

 お願いだから二度と言わないでくれ・・・〕

あの"おしおき"が・・・

『そ、そう?ごめんアキト兄』

〔あ、ああ、これから気をつけてくれ・・・〕

ふう、気を取り直して・・・

「そうですね、俺もそう思います。

 で、結局何が言いたいんです?

 俺がどうやって来たかによって貴方の運命が変わるんですか?」

「そ、それは・・・」

「俺がどんな方法で地球に来ようとエリナさんには関係ないでしょう?

 俺がたまたま旅行できていても、仕事できていても、

 来るのにチャーター機を使おうと、密航しようと

 はたまた"瞬間移動しようと"・・・」

「!!」

反応があったな・・・

「言いたい事はそれだけですか?」

「・・・負けたわ、

 はっきり言うわね。

 これを見たことあるでしょう」

「ええ、両親の形見でしたから」

「それは今どこにあるの?」

「さあ、どこでも良いでしょう?」

「・・・そう。

 ・・・・・・・・・・・・

 貴方・・・もしかして自分の両親が何をしてたか知ってるの?」

「もちろんです。

 だれに、何で殺されたか、

 復讐しようと考えた以上普通は調べませんか?」

「・・・そう、ならこれが何かも知ってる訳?」

「ええ、もちろんです」

「なら、なぜ私があなたがどうやって地球に来たのかに興味があるのかも解る筈よ」

「そうですね、で、仮に俺が火星から地球まで跳んだとして、

 それをネルガルに教えると思いますか?

 両親を死に追いやったジャンプ技術・・・

 それを両親を殺したネルガルに教えると思いますか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「解りませんか?俺はジャンプ技術を憎んでるんですよ。

 何でそれに協力しなければいけないんですか?」

「でも、有人ボソンジャンプができればこの戦争にだって勝てるし・・・」

「ネルガルのシェアも広がる・・・ですか?

 そうですよね、

 なんとしてでも木星の連中より早く遺跡を確保しないといけませんからね」

「・・・貴方、どこまで知ってるの?」

「ほぼ全て・・・ですかね?

 それより良いんですか?

 ここはクリムゾンの島ですよ。

 こんなところで秘密をべらべらと喋って・・・」

「!!」

「ま、幸いだれにも聞かれては居ないようですが・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「話はそれだけですか?

 なら俺たちはこれで・・・

 あ、最後にもう一つ・・・

 有人ボソンジャンプは止めた方が良いですよ、

 犠牲者を増やすだけですから」

「・・・貴方、何を知ってるの?」

「両親の遺書に書いてあったんですよ。

 最後に一つネルガルに意趣返しをしたって・・・

 有人ボソンジャンプを成功させる鍵・・・

 それだけを伝えなかったって」

「なっ!!」

「今のままじゃ、永遠に有人ボソンジャンプは成功しませんよ、きっと」

「・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ本当にこれで・・・」





「良かったんですか?あれで」

「ま、ちょっとした仕返し・・・かな?」

「・・・アキトさんって意外と意地悪だったんですね」

「そう?」

「そうですよ」

「そうかな〜?」

「そうですよ」

「そうか〜」

「そうですよ」

「って、ははははは」

「ふふふふふ」

「全く、何をやらせるかと思いきや」

「やらせたのはアキトさんじゃないですか」

「そんな事ないと思うけどな」

「そうです」

「そう?」

「そうですよ」

「そうかな〜って、ループにはめて如何する」

「アキトさんが勝手にはまったんじゃないですか」

「ルリちゃんのせいだと思うけどな〜」

「違いますよ」

「そう?ま、そういうことにして置いてあげよう」





俺たちが戻ってくるとゴートさんがいなくなっていた。

「ん?まただれかが捕まったのか?」

「例の自殺願望者にですか?」

「ああ、

 俺はちょっとゴートさんのサポートに行ってくるよ」

「そうですか、気を付けてくださいね?」

「大丈夫だよ、これくらい俺の敵じゃないさ」

「でも油断大敵って言葉もありますし・・・」

「ははは、気を付けるよ、じゃ」

「はい、行ってらっしゃい」





ドガッ!

「おっと!」

問答無用で撃ってくるかな、普通。

俺じゃなければ当たってたぞ。

ええ〜と、ゴートさんは・・・

居た。

「調子はどうです?ゴートさん」

「な!!テンカワ!!」

後ろから突如現れた俺を見て、動揺するゴートさん。

「結構苦戦しているみたいですね。

 クリムゾン・グループのシークレット・サービス。

 しかも、精鋭部隊ですか」

「どうしてここに?

 それ以前にどうして敵の正体を知ってる」

「ここはクリムゾン・グループ会長の孫娘の島ですよ?

 令嬢を守備するシークレット・サービスがいても、不思議じゃないでしょう。

 ・・・しかも、ネルガル重工とは敵対関係ですし、ね」

「・・・全て調査済み・・・というわけか。

 その通りだ、テンカワ。

 手を出してこなければ、このまま見過ごすつもりだったが・・・」

「島に上陸してから監視の目は感じてました。

 多分だれかが会長の孫娘と接触したんでしょう。

 それでこちらに仕掛けてきた・・・ってとこでしょう」

「・・・そこまで気付いているのか。

 ああ、一応俺が上陸クルーは全員見張って居たんだが、

 艦長の声のせいでごたごたしている間に、見逃したらしい」

「ま、仕方ありませんね。

 取り敢えず、接触したのが誰かは置いといて・・・

 どうします?

 仕掛けてきた以上相手をしないわけにも行かないでしょう?」

「どうもこうも無い・・・これは俺の仕事だ」

自分のブラスターに弾丸を詰めながら、そう答えるゴートさん。

だが、一人で戦うには敵の人数が多過ぎる。

「しかしゴートさん・・・そこ!!」

殺気を感じた俺は近くの茂みに向かって、

拾っておいたピンポン球位の大きさの石を投げつける。

ドガッ!!

「ぐわッ!!」

その茂みから、一人の男が腹を押さえながら転がり出て来る。

そして、俺を信じられない者を見る様な目付きで見てから倒れる。

「さて、さっきも問答無用で撃たれましたし、

 これで俺もターデットと見なされますね」

「・・・見事な腕前だ、テンカワ。

 お前は諜報戦や野外戦もできるのか?」

「ええ、一通り」

「で、武器は・・・

 要らんかも知れんが」

「ま、こいつの待ってたナイフと・・・ブラスターが一丁、か。

 これで十分ですよ」

「だろうな」

残弾は・・・十五発、か。

ま、この程度の相手なら十分だな。

「流石に手馴れているな、テンカワ」

「残敵は八人・・・

 右の四人、お願いしますね」

「ああ、死ぬなよテンカワ」

「まさか、こう見えてもしぶといんですよ、俺は」





雑魚ばかりだな、北斗の足元にも及ばん。

そういえば二回目はユリカに火薬の匂いをかぎつけられたっけ?

ブラスターはなるべく使わないようにしよう。

「ほいっとっ」

ドガッ!!

男に俺の投げたナイフの柄が目頭に当たって気絶する

「まずは一人っと」

さて次は・・・

ユラリ・・・

俺は後ろから飛んできた銃弾を軽く上体を傾けてかわす。

「甘いね」

そのまま二十メートルほどの距離を一気に詰め・・・

ドガッ!!

驚いて停止している男の後頭部に一撃を入れて気絶させる。

「後、二人♪」

何気に挑発してみる。

ま、ナオさんはこんな挑発には乗らないだろうけど・・・

ドォォォォォォン!!!

「おっと」

ふむ、うかつだった。

スタングレネードを持ってたか・・・

手榴弾だったらパーカーが焦げる所だった。

「相手の感覚を奪って突撃・・・

 ま、相手の力を奪うのは基本だけど・・・

 相手が悪かったな」

男の一撃を軽く避け、一気に組み伏せる。

「な、何故・・・」

「簡単な事さ、俺は昔目も、耳も、鼻も、触覚も殆ど効かない状態で戦ったんだからな。

 五感が無い状態での戦いは慣れてる」

そんな事を言う俺を、ふざけてると思ったようだが、

現に俺は目も耳も聞こえないはずの状態で普通に格闘している。

「・・・信じられないのは解るが、

 目の前に居る以上信じるしかないだろう?」

そう言ってそのまま気絶させる。

「後一人」

「ラストは俺かい?」

後ろから声がかかった。

そうだな、貴方ならそうするだろうな、ナオさん。

「俺はどちらかと言うと武術家タイプでね・・・あんたの戦い方に興味を持ってね」

「確かに武術家だな、

 俺と一対一で戦いたいのか?」

「・・・解るのか?

 なるほど、あんたの言う事が嘘か本当か知らないが、

 少なくとも五感が利かない状態での戦いには慣れてるようだし・・・

 それに俺の居る場所もわかってたんだろ?

 なら隠れるだけ無駄だ、撃たれて負けるより・・・拳で負けたほうが納得できるんでね」

「それに格闘戦のほうが素早い判断を求められるから、

 今の俺なら格闘戦なら勝てるかもしれない・・・か?」

「そういうことだ」

なるほど、ナオさんらしいな。

「いいだろう、付き合ってやるよ、来い!!」

「では、お言葉に甘えて!!」

ナオさんが飛び掛かってくる。

これは・・・左のジャブから右ローキックか?

なら・・・

俺はジャブを軽く避けてタイミングを合わせて軸足を払う。

ナオさんはそれを避けると、そのまま裏拳につなげようとする。

となるとその次は左のハイキックか右ストレート・・・左から関節技に持ち込む可能性もあるな。

いずれにしろ・・・

俺はその裏拳を受け止め、そのまま組み伏せようとしたが、

逆に極められそうになったので、一本背負いに持ち込む・・・

しかし空中でバランスを取ったナオさんは身体をひねって着地し、そのまま間合いを取る。

「へへへ、やるね、とてもスタングレネード受けた直後とは思えないな」

「楽しそうだな、それに良く喋る」

「まあ、ね!!」

今度は下段・・・左のローキック、なら次は一気に上段・・・ハイキックか?

俺はナオさんの左ローキックをブロックし、

そこからハイキックに繋げようとしたナオさんの軸足を刈る。

「な!!」

そのままバランスを崩しているナオさんの肩に膝蹴りを入れる。

「く!!」

が、これは紙一重で避けられたので、そのまま足でナオさんの右肩を踏みつけ、

そのまま足で右肩の関節を極め・・・外す。

「ぐっ!!」

「これで雇い主への言い訳は立つだろう?」

「なら手加減しろよ、

 しかし信じられん奴だな、立ったまま足で関節を外すか、普通?」

「安心しろ、俺の戦い方は見てたんだろう?

 なら殺しはしないことも解ったはずだ」

「ああ、

 で、俺をどうするんだ?」

「決まってるだろう。

 おとなしくしててもらう」

「そうか、当然だな、

 だが・・・」

「だが?」

「初めてなの、優しくして・・・ね?」

「・・・・・・・・・・・・」

俺はそのまま無言でナオさんを気絶させた。

全く、何を言い出すかと思えば。

そのままロープで男たちを木に縛り付ける。

ついでにナオさんは木に吊るす・・・

特別サービスで一番高い木の天辺に吊るしてみた。

両手足を完全に拘束してるから脱出には苦労するだろう。

ふふふふふ、

脱出しにくい縛り方には詳しいんだ、ふふふふふふふふふ・・・

ちなみに今回は怪我をしている奴は居ないから、

応急処置は無しだ。

いくら俺でも打撲は直せないからな。





俺がカバーに行くと、ゴートさんはちょうど四人目を倒したところだった。

「・・・テンカワ、お前は一体何者だ?」

「ただのコック兼パイロット・・・ではいけませんか?」

「お前は精神面がまだまだだから実戦はした事は無いといったな。

 しかし、お前ほどの腕なら多少素行に問題があっても普通は実戦に出す。

 そして、お前ほどの腕の者が一回でも実戦に出れば、嫌でもうわさになる・・・

 だが、俺は今までお前のうわさは聞いたことが無い。

 さらにネルガルの調査ではお前は完全に白だったそうだ」

そう言って俺にブラスターを向ける・・・

「そうですか、ま、どんな組織でも裏をかく方法はありますよ」

未来や平行宇宙を調べるのは不可能だからな。

「お前は余りに強すぎる。

 俺もお前には勝てないだろう。

 今・・・お前を俺は排除すべきかもしれん」

「・・・排除、しますか?」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「やめておこう・・・排除されるのは多分・・・いや、間違いなく俺だろうからな。

 それにお前の眼は曇って無い。

 まだこの世界の人間としては、まともな眼をしている。

 その眼が、実戦に出たことは無いというお前の言葉を本当かもしれんと思わせる」

そう言ってブラスターを降ろす。

「・・・時がくれば、俺に決心がつけば、お話しますよ。

 奇想天外な話ですけど、ね」

「ああ、その話を楽しみに待つとしよう・・・」

こうして第三次(俺主観)テニシアン島攻防戦(それ程の物か?)は終わった。

次になすべき事は・・・

「さて、今回はだれが捕まったんだ?

 俺的には・・・アカツキなんか面白そうなんだが・・・」





第二十二話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第二十一話です。

今回も長いですね・・・

この話のミナトさんはやたらと鋭いです。

ま、アキト君とルリ君が昔一緒に住んでいたことを肯定している以上、

そう判断するのは普通かもしれませんが。



ところで、ナデシコのクルーに休暇はあるのでしょうか?

敵襲でもあれば、夜中でもたたき起こされる職場・・・

病院に近いと思うのですが、特にルリ君に休みはなさそうですよね・・・

エリナ様は給料から引くと言っていますが、

有給休暇とかはどうなっているのでしょうか・・・



ちなみに私は格闘技については、ずぶの素人ですので、

アキト君の格闘シーンについては、

「なんとなく」で、書かせて頂きました。

詳しい方から見れば、

その繋げ方はおかしい・・・とか、流れに無理がある・・・とか、

突っ込むところも多々あるでしょうが、大目に見てください。