「そう・・・今回も有人ボソン・ジャンプの実験は失敗したの・・・」

「やっぱり何とかして彼の協力を仰ぐべきじゃないのかい?」

「嫌よ、ネルガル・・・いえ、私のプライドにかけても彼・・・テンカワ アキトの手は借りないわ」

「有人ボソンジャンプの鍵・・・テンカワ夫妻の残した切り札・・・ねぇ、

 全く彼には恐れ入るよ、

 全て切り札は彼の手に有るわけか・・・」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第二十七話 心境



「で、プロス君にゴート君、その後の調査はどうかね?」

「はぁ、今回はホシノ ルリとの接点から洗ってみたんですが・・・」

「どうだったんだい?」

「驚いた事に彼女との接点も何も見つかりませんでした」

「なんですって?

 それどういうことよ」

「いえ、私もそんなはずはないと思って調べなおしてみたのですが・・・」

「ははは、面白いね、確か彼女は・・・」

「はい、人間開発センターに入ってからは全てのデータが有ります。

 記録に残らない方法で彼と会っていたとは・・・」

「考えられない・・・か、となるとその前に?」

「いえ・・・それも可能性は低いと言わざるを得ないわけでして・・・はい。

 何より二人の関係は"元居候と家主"と仰っていましたし・・・」

「それも嘘・・・かい?」

「ですがそれでしたらもう少し解りにくい嘘を・・・」

「ふ〜ん、その辺り、彼の意図はどこにあるのか・・・エリナ君はどう思う?」

「解んないわよ、そんなの」

「だろうね、しかし・・・

 僕やリョーコ君たちが束になっても足元にも及ばないエステバリスライダー・・・

 ゴート君をはるかに超える戦闘のプロ・・・

 そして有人ボソンジャンプの鍵を握る者・・・

 しかもあのテンカワ夫妻の息子・・・か。 

 偶然ナデシコに乗ったとは・・・」

「すいません、私の調査不足で・・・」

「いや、彼がいなければ今ごろナデシコは沈んでたよ。

 しかもいろいろと技術協力をしてるんだろ、彼は?

 なら良いさ、素性がどうあれ使えることだけは間違いないんだから」

「・・・で、いらなくなったら切り捨てる・・・ですか?」

「何が言いたいんだい、君は?」

「いえ・・・」

「ま、確かに親父と同じだってことは認めるさ。

 でも、僕は親父がテンカワ夫妻を切り捨てたように、彼を切り捨てるつもりはないよ」

「当たり前でしょ!!そんなことしたら・・・」

「彼なら僕たちを殺すなんてわけない・・・か」

「それだけじゃないわ。彼なら一人でナデシコを掌握する事も、

 一人で連合軍やネルガル相手に戦争する事だって・・・」

「可能だろうね、彼なら・・・

 しかもジャンプ技術まで含めて全てのデータを他の企業に売る事だって・・・」

「そうだ、ジャンプ技術で思い出した」

「ん?何か有ったのかい、ゴート君」

「ウリバタケ技術班長の・・・」

「ウリバタケがまた何か変な物を作ってるの!!」

「いや、そうでは・・・」

「言いなさい、何を作ってるの?言いなさい!!」

「ウ、ウム・・・」

「まぁまぁ、エリナさん落ち着いて・・・

 実は格納庫の中に彼の私室と化している場所があるのはご存知でしょう?」

「あの隅のほうね」

「別にいいじゃないか、別に邪魔になってるわけじゃないし・・・」

「はい、ですがそこからこのような物が・・・」

「これは?」

「はい、私も何の設計図かも解らなかったので、

 始めは気にしていなかったのですが、この部分を見てください」

「これって・・・ただのメモじゃないの?」

「はい、ですがこの筆跡が問題なのです」

「筆跡?まさか・・・」

「はい、この筆跡は間違いなくテンカワさんのものでして・・・」

「で、これは何なんだい?」

「はい、私もそう思ってドクター フレサンジュに見せたのですが・・・」

「で、彼女はなんだって?」

「・・・これはCCの構造に似ているそうです」

「「CC!!」」

「はい、どうやらこれはチューリップの中に存在するフィールド・・・

 ここに書いてある言葉によりますと、ジャンプフィールドと言うそうですが・・・

 ジャンプフィールドを発生させるための装置らしい・・・だそうです」

「と、なるとこれは・・・」

「はい、チューリップを使用せずにジャンプするための装置ではないか・・・と言っておりました」

「つまり彼は・・・」

「これを使いこなしている可能性が高い・・・って訳ね?」

「はい」

「ははははは、まさかここまでとはね。で、これは完成しているのかい?」

「はい、どうやらかなり前・・・火星についたときは既に・・・」

「全ての鍵を握る者・・・って訳か。

 ま、いいさ。ネルガルの敵じゃないそうだし・・・」

「ちょっと、貴方彼を信用するの?」

「信頼はしないよ、

 でも、彼の目的がネルガルへ害を与える物じゃない以上、

 無駄な争いは避けるべきじゃないのかい?

 感情に任せて事態を見誤るなんて君らしくないな」

「・・・そうね、ちょっと取り乱してたわ。

 有人ボソンジャンプの被験者は・・・」

「ああ、艦長かイネスさんにでも頼もう。

 ま、彼については引き続き調査させるよ、

 何も見つからないだろうけどね」



「ふーん・・・チューリップ内部と同等の"場"を作り出す装置・・・ね」

「そ、義母さんはどう思う?」

「面白いわね、みた事もない技術を使ってるわ。これを彼が?」

「そう考えるのが妥当でしょうね。

 全く、彼は一体何者なのかしら、

 自惚れるつもりはないけど、私もこの分野に関しては超一流のつもりでいたわ」

「そうね、私から見ても貴方は超一流よ」

「嬉しくないわ、こんなのを見せられたんじゃね、

 しかも彼は"遺跡"を見た事ないはずでしょ?」

「ええ、まぁ、テンカワ夫妻なら見たこと有るでしょうけど・・・」

「そうよね・・・となるとこれはともかく・・・

 このエステバリス強化案や新武装の設計も独学で・・・ってこと?」

「でしょうね、CCについてはともかく、ディストーション・フィールドや

 相転移炉、グラビティ・ブラストに関しては、

 研究が始まったの自体があの事件以降ですものね」

「・・・ねぇ義母さん、義母さんは彼をどう思う?」

「・・・味方ね、今はこれしかいえないわ」

「何でそう思うの?」

「勘よ、長く生きてれば自ずと解る物よ、信頼できる相手か信頼できない相手かなんて・・・」

「勘って・・・理由になってないじゃない」

「あら、勘って言うのはこの場合統計学よ、

 私の今までの経験から推測すると、彼は味方である可能性が高い・・・

 それだけよ」

「ふ〜ん、ま、参考にさせてもらうわ」

「あら、貴方は彼を信用してないの?」

「信用はしてるわ、"私たち"の味方としてはね、でも・・・私個人については・・・」

「"あの約束"?」

「それもあるわ、ま、なんにしても彼を全面的に信用できない・・・

 ・・・と言うより・・・彼の近くにいると変なのよ・・・

 安心するような・・・物悲しいような・・・落ち着かないような・・・」

「安心するけど落ち着かないのは典型的な恋の症状ね・・・

 そう、貴方が恋を・・・

 他人には全然興味を示さなかった貴方が・・・」

「煩いわね、それくらい解ってるわよ・・・でも・・・」

「そうね、物悲しいってのは・・・興味深いわね」

「なんなんだろう、この気持ち・・・」



「ふにゅう〜〜、何か最近面白くな〜〜い。

 ねぇルリちゃん」

「はいなんでしょう?」

「なんかして遊ぼ〜〜」

「勤務中です、またの機会に」

「え〜〜いいじゃんちょっとぐらい」

「いけません」

「う〜〜艦長命令です、私と遊びなさい」

「意義のある命令と判断できません。

 理由の提示を求めます」

「う〜〜」

「では私は昼食の時間ですのでこれで・・・失礼します」

「じゃあ、ユリカも行く」

「でしたらお先にどうぞ、

 ブリッジには出来るだけ多くの人が残っている必要がありますから」

「う〜〜、あ、でも食堂に行けばアキトと・・・

 じゃ、ルリちゃん先に行くね」

「おかまいなく」

「ルンタララッタ、ルンタララッタ♪」

「はぁ〜〜あ、ルリルリも大変ね〜」

「良いんですよ、あの無邪気さがユリカさんの魅力なんですから」

「とはいってもね〜」

「ルリちゃん、艦長と何か有ったの?」

「はい、ちょっと・・・」

「メグちゃんには関係ないことよ、

 結論は出てるから、後は艦長がルリルリが怒ってる事に気付けば丸く収まるんだけどね」

「そうですか・・・でも"あの"艦長にそれを求めるのははっきり言って無理だと思いますけど・・・」

「そこよね、問題は・・・」

「良いんです、あれでこそユリカさんはユリカさんなんですから・・・」

「ふーん、アキトさん関連か・・・

 ねぇルリちゃん、何があったの、教えてくれない、ねぇ、ねぇ?」

「すいません、極めて個人的な諍いですし・・・」

「メグちゃん、人のプライバシーに立ち入るのは良くないわよ」

「うっ、そ、そうね、ごめんね、変なこと聞いて」

「かまいませんよ、それに・・・悪いのは私なんですから」





「ルンタララ〜、ルンタララッタ、ルンタッルンタッ、ルンタララッタ〜♪

 今日のお昼は何にしようかな〜

 あ、アキト〜〜〜!!」

「ん?どうしたんだ、ユリカ」

「へへへ、ユリカはお昼ご飯を食べに来たのでしたぁ〜

 ねぇねぇアキト、お話しようよ」

「あのなぁユリカ、飯を食ってる暇があるように見えるか?

 周りを良く見てみろ」

「へ?」

「"へ?"じゃない、この時間食堂は一番忙しいんだ、また後でな」

「ア〜ン、アキト〜〜〜〜」

「甘えた声を出したって無駄だ」

「う〜〜〜」

「怒っても無駄だぞ」

「うりゅ〜」

「泣いても無駄だからな

 ついでに言っとくが笑っても無駄だし、

 艦長命令なら拒否するからな。

 文句があるのなら、ホウメイさんに言ってくれ」

「おいテンカワ、そんなとこで遊んでないで出前に行ってきてくれ!!」

「はい解りました、今行きます!!

 と、言う事だ、またな」

「ア〜キ〜ト〜」





第二十八話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第二十七話です。

エリナ様とイネスさんの気持ち・・・

う〜ん・・・うまく書ききれません。



前回も書きましたが、エリナ様はアキト君に対してあまり好印象を持っていません。

アキト君がネルガル・・・ひいてはジャンプの研究に対して非協力的なのと、

彼を自分の管理下に置けないためです。

私的には、彼女は我侭なタイプだと思います。

目的のためには手段を選ばない・・・草壁中将と同じタイプです。

アキト君やユリカのような、我が道を行くタイプの人間とは、

根本的にそりが会わないと思うのです。

同属嫌悪・・・とは少し違いますが・・・

時間があれば、彼のよさも見えたでしょうが、

その前に自分をあざ笑う(エリナ様的に)ような、

アキト君の能力と知識を見せ付けられて、プライドを傷つけられております。

TV版でも始めは彼に好意を持ってはいませんでしたし、

ユリカに対してどちらかと言えば、悪意を持っていたのではないでしょうか?

しかしアキト君の自分の存在意義を必死に探している姿をみて好意を抱き、

その簡単に折れそうな弱さを見て、自分にすがらせる事での優越感と言いますか・・・

精神医学的に言いますと「相互依存」と言うのですが、

そういった状態になっていったものと思います。

ですが、この話のアキト君は、ユリカとは違った意味で我が道を行くタイプですし、

発展途上のユリカと違い、アキト君は余程の事がないと生き方を変えないでしょう。

また、強さばかりが目立ち、なかなか弱さは見出せないでしょうから、

"常に自分が主導権を握っていないと、気がすまない"タイプのエリナ様が、

アキト君に好意を持つにはもう少しアキト君の本質に触れる必要があると思うのです。

ちなみに彼女がアキト君に惚れるか否かは現在考え中です。

詰まり電波しだいと言う事です。



イネスさんに関しては大体前回書いた通りです。

妹のような憧れと、姉のような慈しみと、

子犬のような恐れが同居した非常に複雑な精神状態です。

とても説明できる精神状態では有りません。

また、彼女にとっては、記憶にある中ではこれが「初恋」である事は間違いないでしょう。

「アイちゃん」は何回か恋をしたことがあるかも知れませんが、

イネスさんは恋をした事は無いと思います。

その為、TV版のルリ君並に自分の気持ちを理解していません。

まぁ、この話ではナデシコにイリスさんが乗っておりますので、少しは違うでしょうが、

TV版においては、アキト君に対する気持ちを自覚したのはかなり後だと思います。

しかしそれでもアキト君に対する「恐れ」は残っていますし、

その「恐れ」を取り除くには

"アイちゃん"をアキト君が見つけた後、

アキト君が自分を受け入れてくれる必要があります。

事実アキト君はイネスさんを拒絶しませんでしたが、

既にそのときにはアキト君とユリカはほとんどできていましたので、

もはや自分が入り込む余地はないと思ったのだと思います。

こう考えるとイネスさんってとことん不幸な人だったんですね・・・

やはりA級ジャンパーは不幸になる宿命なのでしょうか?



ところがやはり「時の流れに」においては二人の葛藤は完全に無視されています。

まあ、アキト君への気持ちを「愛」にまで昇華させても、

イネスさんやエリナ様の複雑な精神状態を書いても

あのノリはできなくなりますので、

仕方がないのかもしれませんが・・・



ユリカの精神状態は見ての通りです。

ゴーイングマイウェイ

貴方しか見えない・・・

猪突猛進

一途・・・

色々と言い換えることはできますが、

いずれにしても他人のことは考えてません。

TV版の最後には"アキト君の気持ちは"考えていたかも知れませんが、

他の人の気持ちはあまり考えていなかったのではないでしょうか?

考えていない・・・と言うより、気が付いていない・・・と言うべきでしょうか。

いずれにしても、子供ですよね。

まぁ、「時の流れに」においては、それ以上に子供だと思いますが・・・

この話の現状のユリカと比べたら・・・

甲乙つけがたい・・・ですかね?

「人は生きているのではない、生かされているのだ」

この言葉をユリカにささげます。



追記

メグミちゃんの精神状態は、TV版のままなので、

具体的な描写は割愛させていただきます。

「時の流れに」のようにルリ君に流させて、自分を見失ったりはしていませんが、

「憧れ」て、ジュン君に自分の理想を押し付け、

その虚像を見て、本人を見ているわけではないので、

そのうちそれに気付いたら・・・

「恋」や「愛」に昇華させるか、あきらめるでしょう。

どちらかは決めていません。

これも電波待ちですね。