「おお、終わったか、

 で、どうだった?」

「ええ、大丈夫です、何とかしましたから」

「そうか、しかし・・・」

「どうしたんですか?」

「いや、さっきの逆ハックだけどよ・・・」

「結局どこから進入されたのか解らなかったのです」

「しかもお前が戻ってくる直前突然消えてよ」

「・・・ま、問題ないんだったらいいじゃないですか」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第三十一話 出向





さてと・・・ムネタケの動きはどうかな。

データを渡してくれないと困るんだが・・・

後ルリちゃんの様子も見ておきたいし・・・

さっき壊したエステの変わりも何とかしないと・・・

そういえばそろそろブラックサレナが完成するはずだったな。

この際これを機会に乗り換えるか。

他にもジュンのエステの調整も付き合わないといけないし・・・

西欧に行くのなら、少なくともルリちゃんには手紙を残しておく必要もあるし・・・

イネスさんは少し休めって煩いし・・・

ミナトさんは俺に対しても警戒してるみたいだから、

少しは話をしておかないと・・・

・・・やらないといけない事が多すぎる。





「そういえば副長」

「なんですか、ミナトさん」

「さっきアキト君が"跳んだ"とき・・・貴方だけは驚いてなかったわよね」

「そ、そんな事ないよ、十分驚いてたさ」

「そう?そうは見えなかったけどね。

 ねぇ、フィリスさん?」

「え、そうですねぇー、すいません、

 ジュンさんの方を見ていなかったので、解りません」

「そう、なら仕方ないか・・・

 じゃあ、メグちゃんはどう?」

「え?私ですか?

 私も見ていませんでした」

「ほ、ほら、だれもミナトさんの意見を指示していないじゃないですか」

「それは貴方の意見も同じでしょ、副長?」

「そ、それは・・・」

「大体、本当に驚いていたんなら何でそんなにあせってるの?」

「こ、これは・・・」

「何なの?」

「ミナトさん、ジュンさんにも言いたくない事の一つや二つあります。

 苛めないで下さい」

「そ、そうだよ」

「ふーん、つまりあなたはアキト君が何をしたのか知ってる、そういうわけか」

「な!!」

「だってそうでしょ?"言いたくない事がある"つまり"言える事がある"

 と、言う事は少なくとも"言える何かを知ってる"そういうことでしょ?」

「・・・解ったよ、確かに僕はテンカワから少し聞いている。

 だから驚かなかった。

 それは認めるよ、でもこれ以上は言えない」

「そう、言えないものを無理に聞きだそうとは言わないけど・・・

 一つだけ聞かせて、アキト君の目的って何?」

「・・・いつかテンカワが言ったとおりだよ。

 自分の知っている人を幸せに・・・

 僕の聞いた範囲ではそうだと思う。

 もちろん僕が騙されてなければだけど・・・」

「ふーん、

 で、貴方はそれを信じてるの?」

「ああ」

「それを信じさせるほどの秘密・・・か。

 ルリルリも同じような秘密があるみたいだし・・・

 ナデシコには色々な陰謀が渦巻いてるわね。

 もしかして私たちって時代の中心にいるのかしら」

「どう言う事です?」

「解らない?」

「はい」

「いいことメグちゃん。

 私たちはアキト君とナデシコで初めて会ったわよね。

 その"初対面の人を守る事"が目的の人なんていると思う?

 これが仮に艦長とルリルリを守る事が目的、

 そういうのなら解るわ」

「そうか、ですよね。

 何でアキトさんって"私たち"を守ってくれるんでしょう?」

「二人を守るついでって言う事も考えられるけど・・・

 アキト君ほどの力があれば、艦長とルリルリぐらいなんとでもなるはずよ。

 例えば、アキト君が"危険だからナデシコに乗るな"

 そう一言言えばあの二人は従ったはずよ。

 なのにわざわざナデシコに乗ったと言うのは・・・」

「私たちも守りたいと・・・

 本気でそう思ってるってことですか?」

「そうとしか考えられないわね、

 しかも人にそれを信じさせるような理由がある・・・

 はっきり言って私にはどんな理由なんだか想像もできないわ」

「ジュンさん・・・」

「ごめん、メグミちゃん、

 言うわけにはいかないんだ」

「ま、アキト君の秘密だもんね。

 勝手に言うわけにはいかない・・・か」





(ラピス、ラピス)

(あ、アキト、何?何か用?)

(ああ、もしかしたら知ってるかもしれないけど、

 エステ壊しちゃったんだ)

(知ってるよ、

 何であんな危険な事するの?

 アキトに何かあったら・・・)

(ごめん・・・)

(ねぇ、何で、何であんな事・・・)

(ラピス、もしラピスがあの場所にいたらどうした?)

(もちろん止めたよ)

(もし止められない、もしくは止めるわけにはいかない状態だったら?)

(それは・・・アキトの手伝いをする!

 アキトがやられないようにする)

(ありがとう、ラピスならそう言うと思ったよ。

 でも、そのせいでラピスが危険な目にあうとしたらどうする?)

(う〜ん・・・それでもやっぱり手伝うと思う・・・

 あっそうか)

(ありがとう。

 そのとおりだよ、もしあのままほっといたら・・・)

(でもなんで?アキトには私がいる、私が守ってあげる。

 私はアキトの目、私はアキトの・・・)

(ありがとう、ラピスの言いたい事はわかるよ。

 でも・・・ごめん)

(アキトさっきから"ごめん"とありがとう"しか言ってない)

(ご、ごめん)

(ほらまた)

(そ、そうだね、

 でもねラピス、俺もラピスと一緒にいれば楽しいよ、

 でも、それだけで良い訳じゃないんだ)

(何で?)

(そうだな・・・

 例えば俺が今ここにいるのだって、いろんな人のおかげなんだよ。

 ユリカがいなければ、俺はナデシコに乗る事もなくて、

 ネルガルとかかわる事もなかっただろうから、

 ラピスと会う事もなかったと思う)

(でも・・・)

(わかるよ、そんな事こじ付けだって。

 でも、もしこの世に俺とラピスしかいなかったら、多分俺は生きていけない)

(何で)

(もしダッシュがいなくなったら、ラピスはどう思う?)

(嫌だと思う)

(だよね、でも俺とラピス"しか"いないっていう事は、ダッシュもいないって事だよ)

(・・・そんなの嫌だ)

(ラピスもダッシュを助けるためなら少しは危ない事もするだろ?

 俺も同じだよ)

(・・・うん、でももうあんな事やらないでね)

(・・・わかった、気を付けるよ、俺もラピスを泣かせたくないからね)

(うん、で、何のようだったっけ?)

(あ、そうだった、

 エステが壊れちゃったからさ、

 ブラックサレナを送ってくれないかな?)

(え?でもまだ完全じゃないよ?)

(解ってる、でも通常戦闘なら可能だろ?)

(うん、解った、そこらへんにあるエステじゃアキトにはついていけないもんね。

 それに・・・変なエステに乗ってまたあんな事されても困るし・・・)

(ごめん)

(いいよ、じゃあ、準備ができしだい送るから)

(ありがとう)





「あら、テンカワじゃないの、ナデシコの英雄様がこんなところで何やってるの?」

「貴方を探してたんですよ」

「私を?」

「ええ、貴方に手柄を立てさせてあげようと思いましてね」

「あら、そう。

 ありがたく受け取っておくわ。

 で、その手柄って何?」

「俺を連合軍に売る気はありませんか?

 ちょっと西欧の方に用事がありましてね、

 軍に売られるとおそらく最前線の西欧に向かわされるでしょうし、

 ナデシコから離れるのにも理由が要るし、

 ついでですしね」

「そう、奇遇ね、私もちょうどそれを考えてたところよ。

 でも貴方がそれを望んでるんだったら面白くないわねぇ」

「ま、頼みますよ、ムネタケ提督」

「そうね、良いわ、頼まれてあげる、感謝しなさい」

「ありがとうございます」

「今から貴方のデータ渡すから、

 多分明日中に返事が来るわね」

ふう、下手に手を出さない方が良かったか?

でも手を出さなかったら皆と話す暇もないだろうし、

ムネタケがいっそう孤立するだろうからな・・・





「ウリバタケさん、どうです、調子は」

「ああ、お前のエステだがな、一応回収したがありゃもう駄目だな、

 修理のしようがない。

 新しいやつ使ったほうがいいな」

「そうですか、すいません」

「いいって事よ、ルリルリを助けるためだったんだろ、

 エステも人を助けるために壊れたんだったら本望だろうぜ」

「ありがとうございます」

「気にすんな、

 それよりいつか言ってたエステだがな、後は細かい調整だけだぜ。

 ま、一週間もあれば完成だな。

 ところでお前にもらったあの設計図だがな、あれはどこで手に入れたんだ?」

「す、すいません、ちょっと・・・」

「言えねぇ・・・ってか?

 ま、仮にこの技術をどこから手に入れてても、いいがな。

 俺たちを信頼しろ。

 人を信じない人間を信じれると思うか?」

「す、すいません」

「で、いつかは話してくれるんだろうな」

「はい、いつか、必ず・・・」





ウリバタケさんと別れた俺は、

ブリッジへと向かった。

ミナトさんの説得・・・か。

「あら、アキト君、さっきちょうど貴方について話していたのよ」

「でしょうね、言いたい事はわかりますよ、ミナトさん。

 でも・・・すいません、まだ話すわけにはいかないんです。

 少なくとも・・・"役者"が一通りそろうまでは・・・」

「役者・・・ね、それはつまり"貴方が救いたい人"って事?」

「ま、そう思ってくださって結構です」

「ふ〜ん、貴方は敵じゃない・・・と思うから信じてあげるわ」

「ありがとうございます」

「良いわよ、ルリルリのため、ですからね」

「ははは、

 あ、それと後でこれをルリちゃんに渡しておいてくれませんか?」

「なんで、自分で渡せば良いじゃない」

「ま、色々とあるんですよ」

「ふ〜ん、ま、良いけどね」





翌日

「あら、皆そろってるのね、ちょうどいいわ」

「なんですか」

ユリカが声を上げる。

「艦長、連合軍より通信が入ってます」

「出して」

ピッ!!

「連合軍長官の命令によりテンカワ アキトを連合軍が徴兵する!!」

「な、何ですって〜〜〜〜!!」

ユリカ・・・すまん。

「そんな!!」

ご、ごめん、メグミちゃん。

「いきなり変な冗談言わないでよ」

冗談じゃないんですよ、ミナトさん。

「あ〜〜ら、これは冗談じゃないのよ。

 それにこれはテンカワからあった話なのよ?」

「え?アキト・・・」

「すまない、ユリカ。

 でも俺にも色々と事情があってな・・・」

早いところ言うつもりだったんだが、どうにも決心がつかない・・・

弱いな、俺は。

「彼の記録テープは非常に興味深い物だった。

 彼の戦闘力はナデシコの、いや、軍の極東方面軍全軍に匹敵する。

 その彼をこれ以上、この反逆の疑いのあるナデシコに乗せる事はできん」

「ナデシコに連合に対して反逆の意思はない、訂正して貰おう」

「お前等の主張などどうでもいい、我々はそう判断した」

こいつは・・・

「とにかく彼はネルガルから軍への出向社員と言う扱いになる。

 その上で西欧へと配属される事となった」

「西欧!!」

「どうしたのジュン君?」

「ユリカ、ちゃんとデータは見ないと駄目だよ。

 西欧って言ったら今一番の最前線だよ。

 チューリップの動きが活発で、月やその向こう側より危険な場所だよ」

流石はジュンだな、よく知ってる。

「だ、駄目、アキトそんなとこに行っちゃ・・・」

「残念だけどこれはもう決定事項なの、

 テンカワにももう話は付けてあるわ。

 それに、西欧行きはテンカワが望んだ事なの」

「え?ア、アキト・・・」

「ごめん、どうしても西欧に行かないといけないんだ」

「プロスさん・・・」

「すみません艦長、このことは既にネルガルの上層部と話がついておりまして・・・」

「アキト、アキトはホントは行きたくないんだよね」

「ごめん」

「ユリカ。

 きっと、テンカワにも色々と事情があるんだよ。

 それにテンカワだったら大丈夫だって」

「う、うん」

「そうですよ、艦長、ジュンさんの言う通りです」

「そうね、アキト君がやられるとは思えないわね」

「皆の言う通りだって、

 俺は必ずナデシコに帰ってくるからさ、

 待っていてくれ」

「うん、わかった、きっとだよ。

 あ、後お土産忘れないでね」

「ああ、解った。

 お前には・・・おいしいお菓子でも買ってくるよ」

「うん」

すまない・・・ユリカ・・・

「頼もしいですな、テンカワさんは」

「プロスさんには・・・西欧って行ったら有名な"白金の戦乙女"がいるはずですからね、

 ついでにスカウトしてきますよ」

こう言っておけばつれてきても問題が少ない・・・か、

ディアたちもよくやるよ、実際。

「ほう、それは楽しみにしてますよ」

「じゃ、俺はそろそろ行かないといけませんので・・・」

そう言って俺がブリッジを出ようとしたそのとき、

「アキトさん」

「ル、ルリちゃん、駄目じゃないか寝てないと」

「なんで、なんでなんですか。私が・・・私がせっかく・・・」

ルリちゃんの目から涙がこぼれる。

「ご、ごめんルリちゃん、

 でも、俺はどうしても行かないといけないんだ」

「解ります、解ってます、でも!!」

「ごめん、俺は大丈夫、

 絶対に帰ってくる、絶対に失敗しないから」

そういってルリちゃんを優しく抱きしめる・・・

「アキトさん・・・」

そして顔を正面にもってきて話す。

「だからさ、待っててよ。

 ね、お願いだからさ」

「はい・・・

 すいません、取り乱して・・・」

「いいよ、いや、むしろ嬉しかったよ。

 ルリちゃんがわがままを言うなんて今までほとんどなかったしね。

 それに、俺を心配してくれたんだろ。ありがとう、ルリちゃん」

「アキトさん・・・」

「ブ〜〜〜!!

 ルリちゃんずるい、私もアキトに抱きしめてもらいたい」

「ユ、ユリカ・・・」

特に意識してなかったけど・・・

隣でルリちゃんが真っ赤になっている。

「じゃ、じゃあ俺もう行くから」

俺は逃げるようにその場を後にした。





第三十二話に続く





あとがき

どうもこの話のナデシコは分裂しています。

大きく別けても三つ、

細かく別ければ五つでしょうか?

まずムネタケが一人で所属している"軍"

これはどうでもいいですね。

次にアカツキ、エリナ様を中心とするネルガル派。

一般のクルーには"何か良からぬことを企んでる"と思われています。

(ま、事実企んではいますが・・・)

後がユリカを中心とするナデシコ派で、

これはさらに細かく別けられます。

まず、ユリカを中心とする艦長派でしょうか?

ネルガル派と軍の中間で、やや独自路線方面に立っています。

特徴としては今ひとつ信用がありません、

人を引き付けるには多少頼りないでしょうか?

ただ、カリスマ性だけは十分にあると思います。

次がアキト君を中心とするアキト君派で、

最も"何考えてるのかわからない"勢力です。

最も小規模ながら(軍はナデシコには人が少なくても外には大勢いる)

最も力を持っている勢力で、十二分の頼りがいと

多少のカリスマ性があるでしょうか?

最後がミナトさんを中心とする無所属派です。

この勢力は、すべてに対して中立の立場を取っています。

状況を見定めているようです。

ですがややアキト君派よりでしょうか?



次からは"西欧編"です。

アキト君は何を考え、何をするのか。

"皆を助ける"などと言う都合のいいことができるのか?

期待しないで待っていてください。