「ホシノ ルリが起きたって?」

「ああ、ドクターがそう言っていた。

 まだ、暫くは休養が必要だって言ってたけど・・・

 で、どうするんだい?」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第三十七話 陰謀





「決まってるでしょ?

 彼女はテンカワ アキトの仲間・・・

 その彼女が目覚めたのなら、

 計画を早めるだけよ」

「しかしエリナさん、それでは・・・」

「何言ってるの、ミスター。

 ジャンプ技術を占有するためにはこれしか方法がないの。

 アキト君がいない間に話を進めないと・・・

 会長、あなたも手伝いなさいよ」

「ははは、僕にそれをしろって?

 無理だよ、僕には"あの"艦長を落とす自信はないね。

 リスクが高すぎるよ。

 ハイリスク・ハイリターンは僕の性に合わないからね。

 この件は君に任せた」

「なに言ってるのよ!!

 くぅ〜〜〜〜!!もう良いわ、私一人でやるから!!」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「エリナ君も・・・彼女は支配欲が強いからね。

 でも・・・彼を支配するのは無理だよ」

「会長」

「ん?どうしたんだいミスター?」

「会長はどう考えてるのですか?」

「僕かい?僕はネルガルの会長だからねぇ〜」

「・・・答えになっていないようですが?」

「・・・ま、ネルガルも一枚岩じゃないってことさ」

「役員たち・・・ですか?」

「そ、事"スキャパレリ・プロジェクト"絡みとなると・・・

 ま、なかなか僕の一存じゃ決められないんだよ」

「では、会長個人のお考えは・・・」

「ははは、君だって知ってるだろ?

 古来権力者に個人の意見なんてないんだよ。

 僕がそういったらそれはネルガルの意見とされてしまうんだからね」

「ですが・・・」

「ですが?

 君は何が言いたいんだい?

 言いたい事があるのならはっきり言ってくれないか?」

「・・・いえ、結構です」





何よ、何よ、何よ!!

あの男には上昇欲というものはないの!!

それはアキト君が危険なのは解るわよ。

だからこそこちらが主導権を握る必要があるんじゃない!!

気に入らないわ!!

あんな男にネルガルを任せておくのが基本的に間違ってるのよ!!

「艦長!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「艦長!!!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「艦長!!!!!!」

「・・・どうしたんですか?エリナさん」

何ボケッとしてるのよこいつは!!

「アキト君の助けをする気はない?」

「・・・アキトの?」

「そうよ、この前の戦闘でアキト君が"跳んだ"でしょう?

 あの技術・・・"ボソンジャンプ"って言うんだけど・・・」

艦長には直球勝負ね。

答えを誘導できる相手じゃないわ。

「やっぱりあの技術、ネルガルが作ったんですか?」

「いえ、一応基本データはあるんだけど・・・

 まだまだデータが少ないの」

「はあ・・・」

毒を食らわば皿まで・・・私の権限で提示できるカードは全て見せる・・・

何としてでも艦長にはこの実験に参加してもらわなくっちゃ。

「あの技術は、チューリップを通るのと同じような方法で、

 瞬間移動してる・・・と考えてるわ」

「でもチューリップは・・・」

「そう、人が通ると・・・」

「じゃあなんでアキトは?」

それが解れば苦労はないわよ!!

「もし有人ボソンジャンプが自由にできたら、どうなると思う?」

「・・・この戦争で絶対に有利になります」

「そう、そこで、あなたに有人ボソンジャンプ実験の被験者になって欲しいんだけど・・・」

嫌とは言わせないわ。

「なんで私なんですか?」

「・・・火星から地球にジャンプしたときのこと覚えてる?」

「え?ええ〜と・・・」

「あなた・・・なんであの時展望室なんかにいたの?」

「え?私はブリッジに・・・」

「アキト君が運んだのよ」

「展望室に・・・なんで?」

「あの時、アキト君もそこにいたの」

「じゃあアキトが・・・」

・・・なんでそう物事を良い方に良い方に考えられるわけ?

「それはないわ。

 あの時の記録・・・見てみる?」

「え?」

「あの時・・・

 あなたとアキト君とイネス博士は・・・」

「どうしたんです?」

「・・・ジャンプしたのよ」

「え?」

「チューリップに入った後、突然展望室に現れたの。

 この間アキト君がブリッジに現われた時と同じように・・・」

「・・・だから、私なんですか?」

「ええ」

「ミナトさんが、多分アキトはネルガルと非協力体勢にあるって言ってました。

 私がネルガルに協力したら、アキトは・・・」

・・・そういえばこの間ハルカ ミナトに突っ込まれたわね。

何でよ、何で皆して私を邪魔するのよ!!

「あなたはアキト君の操り人形なの?

 アキト君がいないと何もできない、何も決められない・・・

 艦長として、いえ、人間としてどうかと思うわね」

「・・・・・・・・・・・・」

「確かにアキト君の意思には反しているかもしれないわ。

 でも、それをどうするか決めるのはあなた自身のはずよ」

「・・・・・・・・・・・・

 今返事しないといけませんか?」

できるだけ早く返事が欲しいし、

誰か・・・得にホシノ ルリと接触して欲しくないけど・・・

でもそれを言ったら足元を見られる・・・

「・・・解ったわ、

 返事が決まったら連絡して。

 でも、今の話は一応企業秘密だから、

 誰にも話さないでね」

・・・誰かに聞かれたら反対されかねないわ。





テンカワ アキト

ホシノ ルリ

ハルカ ミナト

ネルガルにとって危険な存在。

流石にホシノ ルリを降ろすわけには・・・

フィリス クロフォードより、ホシノ ルリの方が"性能"は上・・・

ま、降ろせない訳でもないでしょうけど・・・

最も・・・会長は許可しないわね。

でも、ハルカ ミナトは降ろせる・・・

操舵手は私一人で・・・

・・・すぐには無理、

理由もなく解雇したら・・・

最低でも一〜二ヶ月は準備が必要ね。

でもそうしたら、テンカワ アキトが・・・

出向期間は不明・・・

でもあいつの事、

西欧で用事を済ませたらすぐに帰ってくるわね。

・・・どうしたら良いのかしら。

そういえば、レイナに個人的にスパイを頼んでおいたけど・・・

先週分の報告は・・・特に問題なし・・・か。

まさかあの娘あいつに落とされたんじゃ・・・

ホシノ ルリに艦長、スバル リョーコ、

食堂の娘たちも何人かあいつに惚れてるみたいだし・・・

イネス博士も気になってるみたい・・・か。

落とされている可能性はある・・・

今度それとなく探ってみましょうか。





私は・・・

何を迷っているの?

ルリちゃんはアキトのために命をかけて・・・

アキトの意思に反していたけど、

それでもアキトは許した・・・

私は・・・

実験・・・危険かもしれない。

でも、アキトのためになる・・・

アキトのため・・・

私が、アキトのためにできること・・・

アキトはここに帰ってくるって言ってた。

ナデシコを守る事がアキトのため?

それとも実験に参加することが・・・

・・・解らない。





ふう、アキト君もいないって言うのに・・・

いないから・・・ね。

皆落ち込んでるし・・・

元気なのは例によってヤマダ君だけ・・・

ルリルリは・・・気がついたって言ってたけど・・・

後でお見舞いに行きましょうか。

ビィー!!ビィー!!ビィー!!

!!

この音は・・・

敵さんが来た・・・か。

アキト君もいないし、ルリルリもいない・・・

・・・?

艦長は?

「艦長?」

「・・・・・・・・・・・・」

「艦長!!」

「・・・・・・・・・・・・」

気付いていない?

この非常時に!!

「ユリカ・・・」

副長が注意する。

「・・・・・・・・・・・・」

「ユリカ!!」

珍しく副長が怒鳴る。

「・・・え?どうしたのジュン君?」

「敵だよ」

「え?そ、総員直ちに戦闘配置!!」

「了解」

戦闘配置なんてもうとっくに終わってるけど、

ま、付き合いだからね。

でも・・・何してるのよ、艦長は!!

「エステバリス隊は全機出撃!!

 敵、チューリップ三機。

 敵の殲滅よりナデシコの防衛に力を入れてくれ」

副長は・・・普通のようね。

艦長は当てにならないし・・・

エステバリスじゃチューリップを落とすのは難しいって言ってたわよね。

アキト君なら・・・五分とかからずに倒しちゃうんでしょうけど・・・

艦長、どうやってチューリップを落とすつもり?





「リョーコさんとヤマ・・・ダイゴウジはチューリップを牽制。

 リョーコさんには戦艦の撃破も頼む。

 イズミさんとヒカルさんはナデシコの防衛、

 アカツキさんは全体を見て、弱いところを補完してくれ。

 なお、さっきも言ったとおり、敵の撃破よりナデシコの防衛が優先、

 得にイズミさんとヒカルさんはナデシコからはなれ過ぎないように。

 そこだけは間違えないでくれ!!」

「了解!!」

ルリちゃんもテンカワもいないし、ユリカは悩んでいる・・・

ここは副長の僕が確りしないと・・・

「・・・・・・・・・・・・」

「ユリカ・・・ユリカ!!」

「え?」

「え?じゃなくて指示を・・・」

「う、うん・・・ええ〜と・・・」

「・・・フィリスさん、エステバリス隊発進と同時にディストーション・フィールド全開。

 グラビティ・ブラストのチャージよりフィールドの維持を最優先。

 ・・・だよね、ユリカ」

「・・・うん」

テンカワがいないとなると、チューリップを落とせる武器は・・・

ナデシコのブラビティ・ブラストと・・・

簡易型DFSも使い方によっては落とせるはずだけど・・・

アカツキさんとリョーコさん・・・完全同調攻撃は・・・

くそっ、僕のミスだ。

こうなる事は解っていたはず・・・

何でコンビネーション攻撃の訓練をさせなかったんだ!!

い、いや、今は悔やんでいる暇はない。

今僕まで落ち込んだら・・・

エステバリスの動きは・・・

・・・動きに精彩がない。

「ナデシコより各機へ、ナデシコはテンカワが帰ってくる場所だ、なんとしてでも守れ!!」

・・・テンカワの名前を出すのが正しい事なのかどうかは解らない。

でも・・・

「そ、そうだ!!こんなところで負けたら、

 テンカワに合わす顔がねぇ」

リョーコさんはテンカワに惚れてるからな、

反応は一番大きかったけど・・・

駄目だ、このままじゃ突破される。

・・・・・・・・・・・・

「アカツキさん、エステバリス隊の指揮権を一時委託します」

「え?」

地球のテンカワの家で使ってた、シミュレータのエステバリスカスタムは、

確かもうできているはずだ。

あれなら、戦局を動かせる・・・

今必要なのは勢いだ。

あの規模の敵はテンカワ無しのナデシコの戦力でも、勝てない相手じゃないはず・・・

コミュニケを開き、戦局を確認する。

・・・押されてる。

ヤマダを戻してナデシコの防衛を・・・

いや、それじゃあ、チューリップからもっとたくさんの・・・

チューリップは、近くに敵がいると戦艦よりバッタを優先して出す。

正しい判断だ。戦艦の出現中を狙われたらかなりやばい・・・

今のところ戦艦は五隻・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

「ん?ジュンじゃねーか、どうしたんだ?」

「僕もエステで出る」

「え?しかしよ、エステが・・・」

「あれをつかわせて貰う」

「あ、あれはアキトの・・・それに起動させるにはパスワードを・・・」

説明してる時間はない。

僕は素早く乗り込み、パスワードを入れる。

・・・・・・・・・・・・

機動。

「アオイ ジュン、出る!!」

「お、おい、ジュン、何でおめぇ・・・」

「後で説明します」

ウリバタケさんにそういうと、メグミちゃんに向けてコミュニケを開く。

「ジュ、ジュンさん、何ですか?」

「リョーコさんとヤマダに連絡、

 アルファ3のチューリップをマークから外してくれ」

「良いんですか?」

「ああ、急いで!!」

「了解!!」

アルファ3のチューリップから戦艦が出るところを狙って・・・

続いてフィリスさんにもコミュニケを開き、一瞬だがフィールドを解除してもらう。

チャンスは一瞬・・・チューリップから戦艦が出て、

そのフィールドから戦艦が顔を出したとき・・・

このグラビティ・ライフルなら・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

今だ!!





「おい、リョーコ君、ヤマダ!!何やってるんだ!!チューリップに対するマークが・・・」

僕はリョーコ君たちの空けた穴をふさぐべく、

急いでチューリップに向かう・・・

「俺の名前は・・・」

ピッ!!

「ジュンからの命令だよ、何考えてるかしらねーが・・・」

アオイ君の?

全く、それならそれで僕を通してくれよ。

一応今は僕に指揮権があるはずだろ?

ま、アオイ君の命令なら仕方がない、

僕は穴はそのままにして、ナデシコの防衛に戻った。

その瞬間!!

ゴォォォォォォォォ・・・

一筋の黒い閃光・・・

これは・・・グラビティ・ブラスト!!





「い、今のって・・・」

「グラビティ・ブラスト・・・」

艦長は相変わらずだし、副長はいなくなったまま帰ってこない・・・仕方ないわね。

「フィリスさん今のは・・・」

「近くに連合軍の戦艦は確認できません」

連合軍の戦艦がいない?

じゃあ木星蜥蜴の別働隊が・・・

そのとき、謎のグラビティ・ブラストが、

チューリップから出現中の戦艦に当たり・・・

ドゴォォォォォォンンンンン!!!

ズォォォォォォォォォォンンンンンンンン!!!!!!!!!!

戦艦が爆発し・・・

チューリップが誘爆、爆沈した。

チューリップを撃破した?

味方なの?

「発射地点、特定できました」

「モニターに出して!!」

何で私がこんな事までやらないといけないの?

確りしなさいよ、艦長!!

「出します」

そして、モニターに移ったのは・・・

普通のエステバリスより一回り大きなエステバリスだった。

「あの機体から通信入ります」

ピッ!!

「ジュンさん!!」

「おや、アオイさんその機体は・・・」

シュッ!!

「説明しましょう!!」

・・・・・・・・・・・・

本当にどこからともなく現れるわね、この人は。

「あの機体はアキト君のアイデアで作った、エステバリスコマンダーカスタムよ」

「コマンダーカスタム?」

「そう、

―中略―

 と、言うわけなの」

イネスさんが何か言ってるみたいだったが、

戦闘中にそんな暇あるわけない。

ホント、確りしてよ艦長!!





チャージに時間のかかりすぎるグラビティ・ライフルを捨てると、

ラピッドライフル改を取り出してバッタの殲滅に当たる。

同時にタクティクス・ビジョンを作動させる。

「ヒカルさん、右のバッタの部隊を、

 イズミさんはアルファ2、アカツキさんはアルファ1をマーク、

 リョーコさんは戦艦を!!

 ダイゴウジはナデシコの防衛に当たってくれ!!」

「了解!!」

「おい、何で俺が・・・」

「ダメージが大きすぎる、

 接近戦・・・しかも戦艦あいては危険だ!!」

「う!!で、でもよ」

「仲間を信じろ」

「お、おう。解った」

このエステのタクティクス・ビジョンにはダメージも出てくる。

敵のダメージは推量に過ぎないが、

味方のダメージは完全に把握できる。

チューリップを破壊する事で完全に流れをつかんだ僕たちは、

次々に敵を殲滅していき、

僕は要所要所でナデシコに通信を入れる。

「ユリカ、前のチューリップ・・・」

「・・・うん、フィリスさん、グラビティ・ブラスト発射」

ユリカは相変わらず元気がない・・・

悩みがあるのなら話してくれれば良いのに・・・





ナデシコを守る・・・

私がいなくてもナデシコは守れる?

今だって、私は・・・何もしなかった・・・

ジュン君がいれば、ナデシコは大丈夫・・・

ここにいたら、私は私でいられるの?

私にしかできないこと・・・私ならよりよくできること・・・

ナデシコに・・・それはあるの?

ジャンプ実験・・・私にしかできない・・・

私らしく?

解らない・・・

ルリちゃんは・・・

そう・・・アキトのため?

ルリちゃんはアキトのために・・・

アキトのため・・・

アキトは何を望んでるの?

アキトは・・・





第三十八話に続く





あとがき

ルリ君が目覚めましたが、出番はありません。

今回のメインはエリナ様の陰謀です。



エリナ様・・・なりふりかまっていません。

アキト君を見返すことに全てをかけています。

彼女には"本末転倒"という言葉を送ります。

このまま壊してみるのも・・・

とも思いますが、

ま、そのうち気付かせます。

敵の切り札を封じるのと敵を買収するの・・・

どちらかが正しいとか言うわけでもありませんが・・・



さて、エリナ様の被害者のユリカ・・・悩みまくっています。

自分にしかできないことなんて"滅多に"ありません。

ほとんどの仕事は誰でもできるんです。

自分は必要ない・・・自分がいなくても変わらない・・・

ルリ君のようにアキト君のために命をかけたい・・・

このままならジャンプ実験に参加する事になりそうです。

しかし・・・

どうしましょう?



ジュン君専用エステバリス・・・

ついに登場させました。

ついでにいきなりチューリップを落としてもらいました。

アキト君もルリ君も居らず、ユリカも無気力状態なので、

必然的に彼に活躍してもらいました。



しかし・・・我が敬愛するイネスさん・・・

久々の出番を軽やかに省略してしまいました。

すいません、

ですがジュン君専用エステについてはいつか書きましたし・・・

ああ、すいませんイネスさん。



次回はグラシス中将の話(予定)です。

さて・・・アキト君に対する彼の反応は・・・どうしましょうか?

「時の流れに」そのままじゃ面白くありませんし・・・

でもサラちゃんたちを嗾けなければ面白くありませんし・・・

・・・期待しないで待っていてください。