「お爺様!!」

「おお!!久しぶりだなサラ、アリサ」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第三十九話 祖父





さて・・・前回はガードが拉致しに来たが・・・

どうするかな?

・・・覗きは趣味じゃないが、隠行術で忍び込んでみるか、

面白い物が見れそうだ。

グラシス中将は・・・仲間に引き入れないとな。

・・・遅かったか、

まぁいい。

こいつらを処理した後で、忍び込んでも遅くはあるまい。





「あ〜、グラシス中将。

 ちょっといいですか?」

「何だね?」

「自分、今から逃げても良いですか?」

「何をふざけてるんだ、君は!!」

「いえね・・・無線で連絡が入ったんですけど、

 例の彼が既にガードを全滅させたんですよ」

「あら〜」

「どうやら・・・ガードの方がアキトさんを怒らせる台詞を言ったみたいですね」

「来るかしら、アキト?」

「どうかしらね?

 良くも悪くも想像を超えている人だから・・・

 どうしましょう、姉さん?」

「来ないなら・・・」

「一応修羅場だけは避けられるわね。

 でも、もう二度とお爺様と会ってはくれないでしょうね・・・

 来たら・・・」

「事情の説明・・・だけで済むかな?」

「う〜ん」

後ろで交わされている会話では、

彼がこのホテルに襲撃をかける可能性を示唆している。

ここにはまだ武装したガードが二十人もいるのだぞ?

そんな馬鹿な事をするわけが・・・

しかし・・・

「で、自分としては折角の再就職を蹴って逃げるのですが・・・

 許してもらえますか?」

「・・・君はもしかして彼、テンカワ アキトを知っているのか?」

私はなにやら色々と装備の確認らしき物をしている男に声をかけた。

「ええ、前の就職先でちょっと・・・

 名前は知りませんでしたが、今日の来客予定者の写真で確認しました。

 怪我一つせずにやられましたよ。

 まぁ、関節を一つ外されましたが・・・

 相当実力に差がなくてはできることではありませんね。

 ああ、でも自分はそれ程弱くないですよ中将。

 これでも軍のガード採用試験での格闘・諜報戦ではトップでしたから」

そう言って苦笑するガードには・・・確かに隙はなかった。

「・・・逃げてどうなる?

 私は逃げるわけにはいかん。

 アリサが言う通り今日会えなければ、

 二度と会う事はできないだろう。

 そういうわけにもいかんのでな」

「そうですか、まぁ良いですよ、

 あれから鍛え直しましたし、

 色々とやってみたい事もありますから・・・

 それに・・・彼とはもう一度戦ってみたいですからね」

ほう、意外に職業意識は高いようだな。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「で・・・アキトはどうしたんでしょうね?」

「あれから三十分も経つのに・・・

 基地にも帰ってないし・・・

 街にもいない・・・」

「もしかして・・・」

「西欧から?」

「ええ・・・」

「それはないと思うけど・・・」

「そうよね、アキトが私たちを見捨てるはずがないわよね」

既に西欧からいなくなっている・・・か。

ありえない話ではない。

「彼に会うのは諦めた方がいいのかもしれんな」

私がそう呟くと、たまたま報告に来ていたガードたちのリーダーが反応した。

「いえ、我々の誇りにかけて、草の根を別けても必ず探し出します。

 おい、ガードの数を倍に増やせ!!」

「あ、それは・・・」

サラがなにか言いたそうだったが、その男は続けていった。

「では、私もその英雄殿を捕獲に行きますので、失礼します!!」

「あのガードリーダーさん、殺されなきゃ良いけど・・・」

「アキトのことだから、殺しはしないと思うけど・・・」

「私たちも逃げましょうか?」

「逃げるってどこへ?

 基地に帰ったとしても・・・」

「・・・もしかして、私たちも同類?」

「アキトはそう思ってるかもしれませんね・・・」

「そんな!!」

そんなに恐ろしい男なのか、テンカワ アキトとは。

「お・・・」

その事に対して、二人に聞こうと思ったとき、 私たちの背後に気配を感じて振り返った。

そこには・・・





「そうだな、同類・・・といえるだろうな」

俺は、手に持ったガードを床に投げながら答えた。

これが軍の上層部の実情・・・か。

上の考えがきちんと下まで届かず、下が暴走する・・・

「「アキト(さん)!!」」

「い、いつの間に・・・」

「その質問に答える必要はない。

 さて・・・

 なかなか面白い物を見させてもらった・・・

 やる気があるんならそう言え、

 きちんとルールを決めた上で叩き潰してやる。

 西欧方面軍全軍で来るか?

 十五分で全部"消して"見せるぞ?」

「あ〜、アキトってば完全に戦闘モードね」

「どうしましょう、姉さん」

「何とか説得して、お爺様にきちんと紹介したいけど・・・」

「貴様らが守っているのは何だ?

 国か?名誉か?それとも一部の大富豪か?

 もう少し軍のモラルの教育をしておくんだな」

二回目と同じ台詞(なぜか知らんが、ディアのデータベースに残っていた)を言いつつ、

グラシス中将を睨みつける。

「おいおい、何があったかくらい説明してくれよ。

 中将はお前さんを連れて来い、しか言って無・・・い、ぜ?」

俺は殺気をぶつけると、ナオさんは押し黙った。

「ほう、貴様の世界では、敵が逐一状況を説明してくれるのか。

 いい世界だな。

 だが、ここは違う。

 状況が急変して、自分の認識が状況に追いつかなくても、

 敵は待ってはくれないし、ましてや教えてなどくれようはずもない。

 何があったのかは自分で考えろ」

「ま、まあ良いじゃないか、俺とお前の仲だろう?」

この状況で冗談が言えるか・・・

面白い男だよ、ナオさんは。

「どんな仲かは知らんが・・・

 まあ良い。

 しかしいい身分だな、中将というのは。

 代わりに頭を下げてくれる奴までいるのか・・・

 民間人を拉致してもかまわないし、

 解らない事があれば何でも・・・誰でも教えてくれるのか・・・

 何か勘違いしていなか?

 自分達の存在意義を。

 手紙の一つでも寄越せば別だが・・・招待と拉致の違いすら判別出来ないのか?」

「まあ落ち付けよ。

 確かにこちらの不手際もあったかもしれないが。

 別段、悪気があってやった訳じゃ無いんだからさ」

「そうか、悪気がなかったのか・・・

 なら・・・」

「なら?」

「・・・なおの事許しては置けんな」

「な!!」

「悪いと自覚しているのであれば、説得してやめさせる事もできる。

 悪いと解りつつもそれをやらなければいけない理由があるのなら、

 その"理由"に関しては譲歩する事もできる。

 だが、悪いという自覚がないのなら、どうやっても止めさせる事ができんだろう?」

「け、けどよ・・・」

「それに・・・

 本気で悪いと思ってるのなら、何で貴様は一言も喋らん!!

 自分に不備があろうがなかろうが、

 貴様が俺に迷惑をかけたのは事実だ!!」

「で、でもよ・・・」

ナオさんも健気だね、

そこまで雇い主に尽くす事もなかろうに・・・

「それに、俺が誘いを断れば諦めたのか?

 こいつ等は俺の意思など関係無い、とまで言い切ってくれたぞ」

グラシス中将の表情が変わる。

「ふん、驚いている所を見ると本当に知らなかったらしいな。

 だが、部下の不手際は上官の責任でもある。

 ・・・それが軍隊だろう?」

「それは否定しないが・・・はあ〜

 一応これも仕事でね、お手合わせ願いますかね?」

結局こうなるのか・・・

ま、少しは楽しませてくれよ。

「勝てない戦いをするのは馬鹿のする事だ」

「そうかもな・・・

 でも・・・引けない戦いもあるんだよ」

今回はスタン・グレネードは使わないか。

そのままナオさんが一歩前に出てくる。

俺はそれに合わせて一歩引く・・・

が、微妙に歩幅を調整して、間合いを調整する。

暫くこれを続けると、そこそこの達人でも間合いをミスる事が多い。

だが、ナオさんはそれにかまわず突っ込んできた。

胸を狙って掌底を打ってくる・・・

俺はそれをバックステップで避わす・・・が、

突然ナオさんの袖からゴム弾が飛び出てきた。

俺はそれを右腕ではじく・・・

が、俺が驚いた一瞬の隙をついて、ナオさんがスタンロッドで殴りかかってくる・・・

さっきのように、バックステップで避わすのは危険・・・なら、

と思った瞬間、スタンロッドが割れて、幾筋ものワイヤーが飛び出てきた。

と、同時にそのワイヤーが青白く光る・・・

スタンロッドとしての機能をなくしたわけではなさそうだ・・・

このワイヤーに触れると危険だな。

俺はジャンプして天井に張り付くと、天井を蹴ってナオさんの後ろへ廻る。

ところがナオさんはそのままの体勢で肩の部分からまたゴム弾を打って来た。

両肩からそれぞれ一発・・・

俺はそれ右と左に避ける・・・

その間にナオさんがこちらを向こうとする・・・が、

俺が飛び出すほうがやや早い・・・

しかし、その時何かに引っ張られる感じがして動きが鈍る・・・

!!さっきのゴム弾か。

どうやらあれにワイヤーか何かが仕込んであったらしい。

あたればよし、避わされてもワイヤーで足止めできる・・・いい作戦だ。

俺が止まった一瞬の隙に、ナオさんは俺のほうを向き、

俺の右腕をつかみ、決めながら投げ飛ばしにかかる。

別に外そうと思えば外せるし、

受身も取れると思うが・・・

それも面白くないな。

昂氣を使うのも問題があるかもしれないが、

そのほうが絶対に"面白い"

俺は昂氣を集中して・・・

「我流・・・胡蝶之夢・・・」





格闘戦のさなか、

テンカワ アキトの動きが一瞬止まった。

その身体に一筋の光が絡み付いている。

ワイヤーか?と、思った瞬間、

ガードの男が彼を投げ飛ばす。

彼は一瞬目を閉じたかと思うと、一言呟いた。

「我流・・・胡蝶之夢・・・」

一瞬強烈なプレッシャーを感じ、思わず目を閉じる・・・

次の瞬間、私と二人の孫娘たちの前で、

勝負は既についていた。

テンカワ アキト"が"ガードの男"を"投げ飛ばしていた。

「い、一体・・・」

孫娘たちが、思わず声を漏らす・・・

「いつつつつつつ、なんだったんだ今のは・・・」

「空中で逆に投げただけだ」

投げられてるとき、空中で逆に投げ返した・・・だと?

「・・・マジかよ、

 とんでもねぇ奴だな」

「しかし、お前が暗器使いだと思わなかったな」

「お前に負けてから練習したんだ、あそこまで完全に叩きのめされて、

 黙ってられる程お人好しでもないんでね」

「そうか、なかなか手ごわかったぞ」

「そ、そうか・・・

 お褒めに預かり光栄の極み・・・」

そこまで言ってガードの男は気絶した。

「さて・・・

 残りは親玉・・・

 目標・・・補足・・・」

彼のその眼光の前では・・・

私は肉食獣に捕われた獲物だった。





「アキト・・・お願い、お爺様を許して上げて」 

「アキトさんの軍人嫌いは知ってます。

 でも、お爺様は私達の大切な家族なんです!!」

私の前に立つ二人の孫娘・・・

私を・・・庇ってくれるのか?

「いや、どくんだ二人とも。

 彼の言い分の方が正しい・・・

 私が自分の足で彼を訪ねるべきだったんだ。

 私も何時の間にか傲慢な軍人になっていたらしい」

「言い訳だけは得意なようだな・・・」

彼はゆっくりと私に向って歩んで来る・・・

その瞳は私の目を凝視し、少しの嘘も許さないと言っている。

「アキト!!」

「アキトさん!!」

「大体本気で悪いと思ってるんだったら、

 ナオさんが戦う事になる前に手を打つべきだろう?

 自分が安全なうちは謝らず、危険になったら謝る・・・

 言ってる事だけは立派だが・・・俺にそれを信じろと?

 遅すぎたんだよ、何もかも・・・

 二人とも・・・チャンスをやる、どけ」

「どきません」

「お爺様を許してあげてください」

お、お前たち・・・

「お前たち、どきなさい。

 彼の言う通りだ。

 全ては遅すぎたんだよ、

 君に一つ質問だ、

 私おとなしく殺されれば・・・この子達の命は助けてくれるか?」

「・・・答えは、

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 ノーだ」

「な!!」

それは予想外だった。

「なぜ・・・」

「なぜ?決まっている。

 ・・・・・・・・・・・・

 俺には・・・貴様を殺す気がないからだ」

「・・・・・・・・・・・・は?」

私を殺しに来たのではないのか?

「で、では・・・」

「別に貴様を如何こうしようという気はない」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

では今までのやり取りはなんだったんだ?

私は思わず、床にへたり込んだ。

「さて・・・質問の時間だ、

 あんたは何の為に軍にいる?

 何の為に戦う?」

それは・・・

私が彼に聞きたかった質問ではないか。

「私は・・・祖国を・・・」

「建前を聞きたいわけじゃない」

彼は一言で私の言葉を建前だと切って捨てた。

「中将としてではなく、あんた個人の答えを聞かせろ」

「・・・今は亡き妻と息子夫婦守りたかった。

 孫娘達を守りたい。

 家族の思い出の土地を、小さな幸せを守っていきたかった」

これが・・・私の本心。

何時も軍務の影に隠れていた想い。

妻には最後まで告げられず。

息子には己の矮小さを恐れたゆえ、話さなかった想い。

「お爺様・・・」

「・・・」

サラとアリサが私を黙って見詰めている。

「・・・ふん、まあマシな理由だ。

 だがな・・・目的があるのなら、それだけを見つめ続ける事だ。

 建前やプライドに縛られて、中途半端にしか取り組めない目的なら・・・

 ないほうがましだ」 

「・・・・・・・・・・・・

 なるほど・・・な。

 だが・・・建前もプライドも必要なんだよ。

 私には君のようなカリスマ性はないからね、

 建前や、プライドがなければ・・・人はついてこない。

 私には君のような戦闘力もないから・・・

 一人では家族を守りきれない。

 ・・・君にはわからないかもしれないが」

「いや、解る、一人じゃ何もできないという事はな、

 だから・・・俺はここにいる。

 それだけだ」

そう言って彼は後ろを向いて部屋を立ち去ろうとする。

「私の質問も一つくらい答えてくれんかね?」

「お爺様!!」

しかし、私にも意地がある。

いくら相手が化け物じみていても、十八の小僧に何時までも気圧される訳にはいかん。

「・・・何だ?」

何かを私の言葉に感じたのか・・・

彼はドアのノブを手に掴んだ状態で私に聞き返して来た。

「君は・・・なぜこの最前線に来たのだ?」

「・・・人の話を聞いていなかったのか?

 一人じゃ何もできない、だから俺は今ここにいる。

 今そう言っただろう?」

「そうじゃない、君の目的だよ、聞きたいのは」

「・・・聞いてどうする?」

「君の目的しだいでは協力してやっても良い。

 私はこれでも連合軍西欧方面総司令だ。

 君の目的が何であれ、力になれると思うが・・・」

「・・・俺の目的は、俺の理想とする世界を創ることだ。

 俺は英雄じゃない。

 自分の理想とする世界を創るために仲間の運命すら弄ぶ・・・

 悪魔のようなものだ。

 いい孫娘を持ったな」

そう言って彼はこの部屋を出た。





「ふう・・・」

寿命が縮まったな。

「お爺様・・・アキトの理想って?」

「それを聞きたかったんだがな」

しかし、そこの見えん若者だ。

結局、彼を試すつもりが・・・

逆に私が彼に試されるとは、な。

末恐ろしい若者だ・・・

「じゃあ・・・アキトさんは・・・」

アリサが何かを考えながら呟く。

「ふむ・・・いつかはここからいなくなるだろうな。

 ネルガルの機動戦艦ナデシコか・・・

 他に彼の理想のためにいくべき場所があれば、どこでも・・・

 だが、おそらくナデシコだろうな。

 そうなってしまうと、彼を諦めるかね?」

私は孫娘達に確認をしてみる。

「そんな!!私はどこまででも追い掛けますよ、お爺様」

「私も負けませんよ!!姉さん!!」

データ通りだと多分ナデシコでは修羅場になるぞ、サラ、アリサ。

だが・・・それも面白いかもしれんな。

それに・・・彼に一泡吹かせる事が出来る。

まぁ彼には読まれているような気もするが・・・

悪く無い考えだ。

サラかアリサ・・・どちらかが彼と結ばれれば・・・

別に軍に入らなくても、彼は孫娘たちを全力で守ってくれるだろう。

それに私が守りたかったあの深緑の光景も・・・

だが・・・

「よし!!私も全面的に協力しよう!!

 まずは彼の気持ちを掴むんだ!!

 いいな、サラ、アリサ!!」

「はい!!お爺様!!」

そういうと、孫娘達は部屋を飛び出して行った。

「テンカワ アキトの一番になれ・・・」

まぁ、いずれにしろこれから面白くなりそうだ。

全てを手に入れた為、全てを失った者・・・

まさに言い当て妙だな。





第四十話に続く





あとがき

今回も得に書くべきことはありませんね・・・



仕方がないのでナオさんについて・・・

暗器使いにしたのは、

それ以外にアキト君に対抗できそうな技術が思いつかなかったからです。



後、事故だったというのなら兎も角、

悪気はなかったという言葉は、

言い訳にはなりませんよね。