「さてと、

 確かサラちゃんたちが俺の部屋に来るんだったよな、

 カードキーのコードを変更しても良いけど・・・

 さて、どうするかな?」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第四十一話 署名





(と、言うわけなんだが、どうしたら良いと思う?)

『そうだね、締め出すだけじゃ面白くないから・・・

 ちょっと悪戯をしてみても良いかもね』

『二回目みたいにアキト兄が苛められるのも面白いけど、

 たまには逆なのも良いかもね』

(・・・人で遊ぶなよ)

『大丈夫大丈夫、

 因果応報って言うでしょう?』

(・・・まぁ良いが、

 で、どうするんだ?)

『そうだね・・・

 罠でも仕掛けてみたら?

 それとも入ってきた時点で狙撃するとか・・・』

(・・・それは、

 いくらなんでも・・・)

『コードを変更して、間違ったカードキーをさしたら警報を鳴らすとか・・・』

(どっちかと言うと、騒ぎを大きくしたくないんだが・・・)

『ええ〜、でもそれじゃ面白くない・・・』

(面白いとか面白くないとか言う問題なのか?)

『『問題なの』』

(はい、そうですか)

『取り敢えず・・・一晩中明かりつけて、

 起きてるとか・・・』

(それは根本的な解決には・・・)

『じゃあやっぱり部屋の入り口に罠でも仕掛ける』

(で、どうしろと?)

『いっそのことジャンプで避難してみたら?』

『だからそれじゃ根本的な解決に・・・』

(やっぱりカードキーのコードを変えるだけにする)

『ええ〜それじゃ面白く・・・』

(つまらなくていい)

『うう〜』

『じゃ、じゃあさ、こういうのはどう?』

(どういうのだ?)



「あら?」

おかしいな、この前はこのカードキーで開いたんだけど・・・

カチャ!

カチャ!

「なんで?」

「あ、姉さん、こんなところで何を?」

「アキトの部屋に入ろうとしてるんだけど、

 開かないの」

「かして」

カチャ!カチャ!

「ね?」

「何ででしょう?」

ドンドンドン!!

「ア〜キ〜ト〜!!

 開けて!!」

「ね、姉さん!!」

ドンドンドンドン!!

「アキト〜」

「はぁ、ちょっとどいて」

そういうと、アリサはドアの前に立って構え・・・

「は!!」

ドガッシャ〜〜ン!!

「つぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜!!!」

盛大な音がしたけど、ドアは壊れなかった。

でももしかしたらアキトが気付いて開けてくれるかも?





痛い・・・

何でこんな事に・・・

おかしいですね、この駐屯地のドアはそんなに丈夫じゃないから、

いまの蹴りで壊せるはずなんですけど・・・

あ、でも、もしかしたら脚をいためている私を見て、

アキトさんが看病してくれるかも!!

大丈夫かい、アリサちゃんとか言いながら・・・

手当てをしているうちに・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「おい、大丈夫か!!」

「あ、アキトさん、そんな・・・」

「おい!!」

「・・・へ?」

「今凄い音がしたんだが・・・」

「か、関係ありません」

「なんだなんだ・・・」

いけませんね、人がたくさん集まってきました。

こういうものは人に気付かれては・・・

そ、そうです。

「アキトさんが・・・」

「俺がどうかしたのか?

 何の騒ぎだ?人の部屋の前で・・・」

「ア、アキトさん、いままでどこに・・・」

「いままで?

 シュンさんと戦術について話を・・・

 俺も一人で戦うのは疲れるからね、

 この駐屯地の兵力を有効に使って、

 俺が出なくてもチューリップ一つぐらいは撃破できないかなって・・・」

「そ、そうですか・・・」

困りましたね、アキトさんといろいろあって、

部屋から出て来た所だと言うつもりだったんですが・・・

隊長さんが証人では・・・

「脚を痛めてるみたいだけど・・・何があったの?」

「い、いえ、何でもありません」

こんな格好悪い事いえません。

でも言ったら・・・あんな事やこんな・・・

い、いえいえ、そんなこと考えている暇はありません。

「そ、そう、たいした事ないんなら良いけど・・・

 歩ける?」

「ちょっと・・・」

「そ、そう、

 じゃあ、部屋まで送るよ」

「え、あ、はい!!」

このまま・・・

部屋について私を・・・

ふふふふふ・・・

!!

そんなこと考えているところをアキトさんに見られたら・・・

駄目です、確りしないと。

ん?

ゾロゾロゾロ・・・

なんなんですか、この人たちは・・・

これでは計画が・・・

しかしそれを言うわけには・・・

仕方ありませんね。

「駄目だよ、気を付けないと、

 パイロットは体が資本なんだから」

体が・・・

アキトさん・・・

姉さんが私を睨んでいる。

ふふふふふ、これで私が一歩リードです。



「サラちゃん、どうしたの?」

今日はサラちゃんがちょっと不機嫌だ。

(ディア、何で・・・)

『アキト兄はどうしてだと思う?』

(・・・そうだなぁ、

 昨日の夜あったときは・・・まだ機嫌が悪くなかったな。

 昨日アリサちゃんを部屋まで送っていって、

 その後サラちゃんも部屋まで送って欲しいって言ったから送って・・・ 

 う〜ん・・・)

『・・・アリサさんのときは肩を貸してあげてたけど、

 サラさんのときは隣を歩いていただけだからだよ』

(いや、でもあれは・・・)

『そう言う物なの!!』

(・・・なんで?)

『理由なんてどうでもいいの、そうなものはそう、

 大体アリサさんだって、歩けないほどじゃなかったんだし・・・』

(・・・いや、意外と痛かったのかも)

『・・・そうなんだからそうなの』

(・・・わからん)

『解ってよ、お願いだからさ』

(いや、お願いされても・・・)

ん?

ナオさんか。

「・・・何をしに来た?」

いや、解ってはいるが・・・

迷惑この上ない・・・

ちょっと殺気が漏れるのを自覚した。

「おっと、アンタと戦うのは流石の俺ももう御免だぜ。

 今日は・・・まあ就任の挨拶をしに、な」

「・・・なるほど、な」

「おいおい、今のでわかったのかよ」

「お偉いさんの親族のガード・・・

 それ以外にここにガードは必要あるまい」

「いや、ガード以外の仕事をしに来たかもしれねーじゃねーか」

「・・・ヤガミ ナオ、年齢二十八、

 趣味は釣りと読書・・・」

「ああ、解った、もう良い、

 つまりなんだ、俺のことはもう調査済みって訳か」

「ああ」

「ここに来てから調べたとも思えんしな。

 ・・・テニシアン島の時か?

 行き先にどんな人がいるか調べている・・・

 ま、事前調査はSSの基本ではあるが・・・」

「ま、そんなところだ」

「お前は知っているかも知れんがな、

 取り敢えず自己紹介しとくぜ。

 俺の名前はヤガミ ナオ 28歳 独身。

 趣味は釣りと日曜大工。

 グラシス中将からの依頼により、軍のガード本部から派遣されて来ました。

 今後はサラさんとアリサさんの身辺警護にあたります。

 以後、ヨロシク!!」

はあ、取り敢えず役者がもう一人そろったわけか。

さて・・・忙しくなりそうだ。

・・・先手を打ってみるか。

「ところでちょっと良いか?」

「何だ?」

「ちょっと話がある、部屋まで来てくれるか?」

「・・・良いぜ」

「アキト・・・」

「じゃ、後でね、サラちゃん」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「で、何のようだ?」

「いや、ヤガミさんの本当の目的について・・・だ」

「ナオ・・・で良いぞ、アキト」

「ではナオさん、答えは?」

「何のことだ?」

「そうですか、ならいいです。

 彼女たちのガードだけをしてください。

 それ以外のことはしないで下さいね。

 ・・・例えば書類を渡すとか」

「・・・なんでもお見通しかよ。

 俺としては早いところこの書類にサインしてくれると嬉しいんだが・・・」

「初めからそういえばいいんですよ。

 ・・・俺は少なくとも目的を達成するまでは、

 そういうことに付き合うつもりはありませんよ。

 悪いが、この戦争が終わるまではその書類はあんたが持っていてくれ」

「そうもいかないんだけどなぁ・・・」

「俺もそうもいかないんだ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「まあ良いや、

 で、どっちが本命だ?」

「この戦争が終わるまではそういうことに付き合うつもりはない」

「・・・・・・・・・・・・

 それは・・・」

「解っている、

 はっきり二又をかけているより性質が悪いという事もな。

 だけどな、そうもいかないんだ」

「・・・

 他に好きな奴でもいるのか?」

「・・・・・・・・・・・・

 好きな人は・・・いたんだけどな」

「・・・そういうことか、

 一つ言っとくぜ、

 いつまでも過去を引きずっている事を、

 その女も良しとはしないぜ」

「・・・解っている」

「・・・ならいいがな」



「なあ、アキト・・・お前何で料理がこんなに上手いんだよ?」

厨房でエプロンをしたアキトが忙しそうに晩御飯の仕込みをしてる。

私は今日は非番なのでその手伝いをしている。

アキトにお礼を言われて、私は今かなり機嫌がいいの♪

「・・・聞いていないのか?

 俺の本職はコックだ。

 ネルガル重工所属、

 機動戦艦ナデシコ勤務、

 コック兼パイロット、

 現在は連合西欧方面軍にパイロットとして出向中だ」

「解ってるよ、

 しかしお前も多才な奴だな、

 パイロットにコックに整備士・・・

 ガードに諜報員・・・

 お前ならひもでも食ってけそうだしな。

 俺みたいな不器用な男なんかはな、仕事を選べずに何時も泣いてるんだぞ」

「欲しくて手に入れたのは、コックの能力だけだ。

 手に入れなくても良かったんなら、

 そのほうが良かった・・・

 後な・・・

 文句を言うか食べるかハッキリしろ!!」

「じゃあ、食べる・・・おかわりだ、アキト」

無言でその皿に炒飯を追加するアキト。

・・・でも、怒ってはいない。自分の料理を誉められて悪い気はしないのだろう。

ちょっと微笑んでるし。

でも、このナオさんって・・・不思議な人よね?

だって聞いた話しによると、今迄に二度アキトに倒されているらしいわ。

それもコテンパンに。

それでもアキトに気軽に声を掛けて、しかもからかって遊んでる。

アキトが恐く無いのかしら?

「そういえばサラちゃん」

「・・・誰が名前で呼んで良いと?」

「そうですね、ナオさん。

 いきなり名前で呼ぶのは、失礼ですよ。

 後・・・何を言うつもりか知りませんけど・・・

 俺は俺の目的の邪魔になるものは、たとえ誰であろうと・・・

 まあ良いです、サラちゃん、呼び方なんてどうでもいいだろ?

 で・・・なんだったんですか、ナオさん?」

最後の文だけアキトの声から抑揚がなくなる。

「い、いや、なんでもない。

 どうでも良いから、その手の包丁を下ろせ」

「包丁無しで、どうやって食材を切れと?」

アキトがキャベツを切りながら言う。

「い、いや、お前ならできる。

 うん、間違いない、お前ならできる」

無理だと思うけどな・・・

「・・・解リました」

・・・はい?

そういうと、アキトは包丁を下ろし、

そして・・・

無造作に手でキャベツを叩くと、まな板と机ごとそれが切れた・・・

「・・・やっぱり包丁を使うべきですね、

 まな板や机が幾つあっても足りない・・・」

そういう問題じゃ・・・

しかし・・・どうやったんですか?

「わ、解った、俺が悪かったから、な」

「・・・別にあなたを責めているわけじゃありませんよ?

 俺はただ、俺の生き方を語っただけで・・・ねえサラちゃん?」

「は、はい」

「そうか?でもな、俺も仕事だから・・・」

「そうか、ガードだからな、仕事中に死ぬことも"当然"考えてるよな」

「い、いや・・・」

ナオさんはおびえているみたいだけど、

良く見ると、アキトは微妙に笑っている。

ナオさんをからかっているみたい。

「それと・・・ナオさん」

「何だ?」

・・・いきなりまじめになるアキトとナオさん。

「殺気や気配を読むのは良いですけど、

 当てにしすぎると、フェイントに引っかかりますよ、例えば・・・」

そう言ってアキトが動く・・・

ナオさんは、素早く上半身をガードしたが、アキトの攻撃はローキックだった。

「こういうふうに、

 一流の格闘家なら、気配と身体を別々に動かす事もできますから・・・」

「できねーよ、普通・・・」

ナオさんが蹲りながら唸る・・・

「アキト君、ブラックサレナの整備が終わったよ!!

 テスト宜しく!!

 ・・・って、何をしてるのかな?」

「そうか・・・

 じゃ、サラちゃん、俺はテストに行って来るよ!!」

アキトが食堂から出て行く・・・

レイナ・・・私が休みの日にわざわざそういうものをぶつけないでも・・・

「ふう、アキトは行ったか・・・」

「何倒れてるの、あなた?」

レイナが聞く・・・

ま、見ていない人には、何があったか解らないでしょうね。

「・・・なんでもない。

 それよりサラちゃん」

「だから、誰が名前で呼んでよいと・・・」

「そうか、ならこれは君には渡さないでよしと・・・」

・・・?

「なんです・・・」

その時、基地に非常警報が鳴り響いた。

「・・・仕方ない見たいね。

 後でちゃんと見せてね!!」

私は司令室へと急いだ。





第四十二話に続く。





あとがき

久し振りに登場ブロスとディア・・・

この二人(?)・・・遊んでいます。

まぁ良いんですけど・・・



アキト君の目的と、グラシス中将の目的、そしてディアたちの計算・・・

アキト君としては、これ以上人間関係をややこしくしたくないでしょう。

しかし、グラシス中将は、アキト君を孫娘の婿殿として迎えたい・・・

また、ディアたちとしては、これ以上アキト君が好きな人を増やしたくない・・・

しかし、これからの戦いには、ここの人たちの協力は必要不可欠・・・

そのためには、アキト君に惚れていてもらう必要がある・・・

近づけ過ぎると、後で面倒。

遠ざけすぎると、今度は計画に支障が・・・

非常に難しいです。



取り敢えず婚姻届だけは排除しようとしていますが、

ナオさんは結構まじめというか、

仕事はきちんとやるタイプなので・・・

恐らく、次回司令室で渡すことに・・・

大騒ぎになることは目に見えていますね。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・アキトって。

 

>そのためには、アキト君に惚れていてもらう必要がある・・・
>近づけ過ぎると、後で面倒。
>遠ざけすぎると、今度は計画に支障が・・・

 

タチの悪いジゴロみたい・・・・いや、結婚詐欺師か(核爆)?