「さてと・・・困ったな。

 急がないと・・・

 しかし・・・

 はぁ」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第四十五話 差異





いつの間にか寝てしまったらしい。

まぁ・・・仕方が無いといえば仕方が無いんだよな。

西欧のほうじゃちょうど夜だったしな・・・

ただし、ルリちゃんが抱き着いているのが問題だ。

まぁ、前回散々慣らされていたから、

大声を上げて騒ぎを大きくする愚は避けられたが・・・

俺は今ナデシコにはいない事になっているんだから、

騒ぎを起こすわけにも行かないしな・・・

さて・・・

もちろん無理やり引き剥がそうと思ったら引き剥がせるが・・・

起こさないようにするのはちょっと難しいし・・・

起こすのはなんかかわいそうだし・・・

かといって、いつまでもここにいるのは・・・

さてさて・・・





うう〜ん・・・

今・・・何時?

起きなきゃ・・・

起きて時間を確認して・・・

いつまでも寝てるわけには・・・

でも・・・なんか安心する・・・

ん?

何かに抱きついていますね、私・・・

抱き枕?

そんなものありましたっけ?

まあいいです、

気持ちいいですし・・・

もう一眠りしましょう。

く〜。

ん?今なんか動いたような・・・

枕が逃げないで下さい、

ネムネム・・・

ん?

枕って動く物でしたっけ?

動かなかったような・・・

でも実際動いてますし・・・

きっと寝ぼけてるんですね、

動いているのが気のせいか、

寝ぼけて動く物だってことを忘れているんです、きっと。

ファ〜。

ちょっと位遅れたってきっと大丈夫です、

元々戦闘があって時間外労働をしたんですから・・・

モゾモゾ・・・

良い感じですね、この枕。

気持ちよく動いてくれます。

・・・・・・・・・・・・

あれ?

「あ、ルリちゃん、起きた?」

「へ?」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「おはよう、ルリちゃん」

「お、おはようございま・・・す・・・

 え?

 へ?」

「・・・もしかして寝ぼけてる?」

・・・・・・・・・・・・

「あ、アキトさん、何で?」

「い、いや、あの後俺も眠っちゃってさ、

 日本じゃ昼かもしれないけど、西欧じゃ夜なんだよね」

「今何時ですか?」

「今、今は・・・

 四時ごろかな」

「そうですか」

「ね、ねえルリちゃん」

「なんですか?」

「いいかげん離してくれないかな、

 俺もそろそろ西欧のほうに帰らないと・・・」

「す、すいません」

「い、いやいいよ、

 じゃ、俺は帰らないと、皆が心配するから・・・

 じゃ、ルリちゃん、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいアキトさん」

「・・・ジャンプ」





さて・・・

皆は・・・居た居た。

「おはよう」

「お、アキト、お前どこに・・・」

「どこだっていいじゃないですか、

 それよりどうしたんですか?

 血相を変えて・・・」

「い、いやな、

 今日街に行くから付き合え」

そういえばそうだった・・・って!!

じゃあ今日・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「な、なんだよ、怖い顔して・・・

 そ、そりゃお前にも都合があるかもしれねーがよ、

 ほ、ほら、なんつったっけ?

 あの・・・そうそう、メティちゃんなんかもくるからよ、

 頼むよ、俺を助けると思ってさ、な?」

「・・・・・・・・・・・・」

「お、おい?」

「・・・へ?

 あ、なんですか、ナオさん?」

「・・・お前・・・もしかして今の話し聞いてなかったのか?」

「い、いえ、聞いてましたよ、街ですね、行きますよ」

「そうか、恩にきる」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

(ラピス?)

(ん?何、アキト?)

(・・・クリムゾンの衛星の監視と、

 クリムゾン諜報部のテツヤという男の監視を頼む、

 できればリアルタイムで・・・無理なら定期的に教えてくれ)

(う〜ん・・・私の仕事をハーリーにやらせれば、

 リアルタイムで情報を流せるよ。

 けど・・・なんで?)

(・・・色々とな、  今度・・・機会があれば話す、今は頼む)

(うん、じゃあハーリーに仕事は任せてリアルタイムで情報を流すから、

 テツヤって男・・・名前しかわからないの?)

(ちょっと待て・・・

 ライザという部下と、チハヤという妹がいた・・・はずだ)

(・・・妹って女?)

(違ったら怖いだろう?)

(・・・・・・・・・・・・)

(とにかく、その男の監視を頼む、

 あ、あとできたら部下とかの監視も・・・)

(解った)

(じゃ、ハーリー君に宜しく)

(うん)

ふぅ、ラピスが・・・ねぇ。

俺はあいつを復讐の道具としてしか見てなかったのに・・・

俺なんかじゃ、あいつを幸せにはできないよな・・・

はぁ〜。





「あ、レイナちゃん、

 パーツでも買いに来たの」

「え、ええ、

 アキト君こそ何をしに街に出て来たの?」

「俺ですか、俺は・・・」

といってナオさんを指差す。

「ダシ・・・ですね(ひそひそ)」

「そ、そう・・・」

一番もっともらしい理由だからな。

「あ、アキトさん!!

 丁度良かった、姉さんとはぐれてしまったんです!!

 ・・・一緒に捜してもらえませんか?」

「サラちゃん?

 サラちゃんなら・・・

 ほら後ろに・・・

 同じとこに居たみたいだけど、一緒だったんじゃなかったの?」

「え?

 あ、ほ、ホントですね、ははははは・・・」

「アリサ!!ああ、良かった・・・

 はぐれた時の待ち合わせ場所なんて、決めてなかったからね。

 あら?アキトじゃない。

 どうしたの街に出て来るなんて?珍しいわね」

「ね、姉さん・・・」

たまにはからかってみるのも面白いな。

「お姉ちゃん達!!

 今日はアキトお兄ちゃんとメティはデートなんだから!!」

デートか・・・

そういえば、結局"あの"ユリカとはデートなんかした事無かったな。

いつも忙しかったし・・・

ルリちゃんがいつも一緒で、そんな雰囲気にならなかったし・・・

初めて二人きりで・・・って時に・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「アキトお兄ちゃん?

 どうしたの?

 怖い顔して・・・」

「い、いや、ちょっと考え事を・・・」

「そ、そう・・・」





やっぱり俺を監視しているか・・・

しかしどうするかな、

ラピスに頼んで、一瞬衛星を騙してもらって、

その隙に車を降りて、メティちゃんの家のそばに・・・

よし、それだな。

しかし・・・

「食事位喧嘩せずに食えよ・・・」

はぁ・・・

「あの・・・」

「はい?」

「テンカワ アキト様ですね?」

「そうですが・・・」

「今しがた、メッセージを渡して欲しいという方が・・・」

「・・・ほう?」

「煩いぞアキト」

「ナオさん!」

「どうした?」

「はははは、さすが稀代の英雄様だな。

 よく解ったな、俺がウエイターじゃないと」

・・・いつの間にか他の客もいなくなっている。

もしかしたらこの店ごとクリムゾンが買い取ったのかもしれないな。

ラピスは何も言ってなかったが・・・

まぁ、そんな事まで期待するのは酷という物か・・・

まぁ良い、何れにせよこれなら回りを気にせず暴れられる。

「お前は・・・」

「おや? 久しいなナオ」

「で、用件は何だ?

 一日中俺たちを監視してまでのご招待だ。

 まさかナオに再会の挨拶するためではあるまい?」

さて・・・どう来るか?

ここで俺を足止めして何を・・・

「まさか、監視などしていないさ、

 "漆黒の戦神"ともあろうものがずいぶんいいかげんだな」

「そうか?監視衛星が今朝からずっと俺を睨んでいたぞ?」

「・・・さすがは"漆黒の戦神"と呼ばれるだけの事はあるな」

俺は気配を広げ、回りを確認する。

・・・メティちゃんはいる、

・・・俺の隣・・・近くに狙撃兵もいないな。

サラちゃんにアリサちゃんも・・・

「臨戦体勢か?

 いいのか、子供の前で」

「・・・俺はお前の嫌いな"英雄"じゃない。

 ただ俺のやりたい事をやってるだけだ、

 別に子供の前だからって気にする必要はない。

 お門違いだな、出直してもらおう」

「・・・・・・・・・・・・

 そこまで知っているのなら、俺の目的・・・

 表向きの目的も知っているだろう?」

「・・・アキトをクリムゾン・グループに引き抜くつもりか」

「おいおい、折角の余興を潰すなよナオ・・・

 まあ、本人も理解していたみたいだけどな。

 少なくとも軍隊に出向するよりは破格の扱いを約束しよう。

 勿論給料は英雄様の言い値でOKだ。

 アンタにはそれだけの価値があるからな。

 ネルガルより余程居心地は良い事は保証するぜ。

 ・・・で、答えは?」

「・・・条件次第だな」

「アキト(さん)(君)!!」

「ほう・・・で、その条件とは?」

「一つ、

 西欧方面の安全の確保。

 二つ、

 ネルガルの戦艦"ナデシコ"に乗せてもらえるよう交渉する事」

「おいおい、ライバル企業に・・・」

「三つ、

 俺に木連・・・いや、あいつ等と直接交渉する機会をくれ」

「おい、アキト・・・」

「アキトさん?」

「アキトお兄ちゃん・・・」

「アキト・・・何言ってるの?」

「アキト君・・・一体・・・」

「・・・お前は何を知っている?」

「どうでもいいだろう?」

「・・・で、それだけか?」

「いや、もう一つ、これは特に重要なんだが・・・

 取り敢えず、店の外で待機している、ライザさんに、

 ミリアさんを開放するよう伝えてくれないか?」

「何!!」

「お姉ちゃん!!」

「・・・・・・・・・・・・

 それを知っているなら、お前に選択肢が無い事も解るはずだが?」

「・・・だから交渉しただろう?

 それともう一つ・・・なんでミリアさんなんだ?」

「解らないのか?

 聞いているぞ、お前がミリアさんに気があるということはな」

「・・・俺が、ミリアさんに?

 ははははははは、そうか、それはいい」

「何を笑っている」

「なるほど・・・確かにそう取れない事も無いな。

 教えてやろう、俺はミリアさんが好きなわけじゃない。

 ミリアさんには・・・償っても償いきれない借りがあるだけだ」

「・・・・・・・・・・・・

 その恩人はこちらの手の中にあるんだが?」

「だから交渉しただろう?

 で・・・条件を飲むのか?」

「ははは、英雄様のためなら罪も無い一般市民は犠牲になって当然・・・か。

 居場所は明日の昼にでも、ナオの携帯に連絡してやるよ。

 それまでに決断をしておく事だな・・・それではさらばです、英雄様」

そう言ってテツヤは店を出て行く・・・

追いかけ・・・いや、サラちゃんたちを危険な目にあわせるわけには・・・

「おい!!アキト!!」

「解っている、

 皆、急いで基地に戻るぞ!!」

「おい・・・」

「ミリアさんに居場所なら察しは付いている、

 テツヤが"昼頃に・・・"といったからには、

 それを聞いてから俺たちが駆けつけたころには、

 ちょうど手遅れというぐらいのタイミングで殺すはずだ。

 今は皆の安全が第一だ。

 急ぐぞ!!」

「お姉ちゃん・・・

 アキトお兄ちゃん・・・」





「止まれ・・・あそこに監視カメラがある」

「それならとっくに監視衛星に・・・」

「いや、今は大丈夫だ・・・

 後十秒・・・

 取り敢えず、そこの影に・・・」

しかし・・・

前回とは違う場所だとはな。

あらかじめルリちゃんに何箇所か見当をつけてもらってなかったら、

見つからないところだった。

・・・やっぱり、俺一人じゃ何もできないな。

「行くぞ」

「監視カメラは・・・」

「今はジャミング・・・

 ちょっと前に映像が流れている、

 急げ」

「あ、ああ」

さてと・・・

意外とハイテクな場所を見つけたな・・・

前回は何でここを使わなかったんだ?

何か理由が・・・

俺のせいか?

俺が前回より活躍しているから・・・

「で、どうするんだ?

 パスワードは・・・」

「ラピス、頼む」

「へ?」

シュッ!!

「・・・・・・・・・・・・

 はぁ、お前に驚くのは、もうばかばかしくなってきたよ」

「無駄口叩いている暇は無いぞ?」

「ヘイヘイ」





「アキト・・・お前ここに来たことあるのか?」

「いや、初めてだが?」

「・・・じゃぁどうやってパスワードやら、構造を調べてるんだよ」

「ま、色々とな」

「・・・はぁ」

しかし・・・ラピスに色々調べてもらいながら進入・・・か。

まるであの時のようだな・・・

忘れたい・・・忘れてはいけない記憶・・・

俺の犯した罪・・・

ふ、今更何を・・・

その罪を償うため・・・せめてもの償いとして・・・

今俺はここに・・・この時間を生きているんだ。

「・・・ここだ」

「・・・良くわかるな」

「人質を助け出すとき、一つだけ有利な点がある、それが何か解るか?」

「・・・なんだよ」

「いくら犯人が気配を消しても、人質の気配は消せない・・・

 つまり、居場所が丸解りなんだ」

「・・・それはお前だけだよ」

「それより・・・正面から行く訳にも行くまい・・・

 隣から壁を破るぞ」

「壁って・・・ここの壁・・・こいつは宇宙船の外壁なんかにも使われてる・・・」

「俺に任せろ」

「・・・ヘイヘイ、私が悪うございました」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

ドッゴォォォォォォォォーーーーンンンンン!!

「な!!」

「大丈夫か、ミリア!!」

「ヤガミさん!!

 アキトさん!!」

「久し振り・・・というには時間が短すぎるか・・・テツヤ」

「・・・どうしてここが解った?」

「知り合いに妖精が二〜三人いるんでな、

 調べてもらった」

「ふざけるな!!」

「ふざけてなどいないが・・・」

「く・・・まさかここが見つかるとは思わなかったが・・・

 チッ、死ね」

ダァーーン!!

おそらく威嚇の意味があるのだろう、

わざわざサイレンサーを外した銃の音が響く・・・

その銃弾は一直線にミリアさんの・・・

「ミリア!!」

それをナオさんがかばう・・・

駄目だ!!間に合わない・・・

ナオさんも、俺が飛び出しても・・・

そうだ!!

「ナオさん!!」

そう言って、俺はナオさんの背中を蹴り飛ばした。

計算通りなら、急所は外すはずだ。

「ヤガミさん!!」

「よ、よう・・・大丈夫だったか、ミリア・・・」

「何で・・・なんで・・・こんな・・・」

見たところ計算通り・・・とは行かないものの、

急所は外しているようだ、

ミリアさんなら・・・止血ぐらいできそうな気がするし・・・

仮にできなくても、ナオさんが自分でやるか・・・

弾が貫通していないのが気になるが・・・

俺はラブコメをしている二人を残して、テツヤを追うことにしよう。

後五分後には軍の応援も来る手筈になっているしな。





「ちっ!!こう、隠し通路や隠し部屋が多くては・・・」

「おい、アキト!!」

振り返ると・・・シュンさんが立っていた。

「・・・で、テツヤには逃げられたわけか」

「・・・ああ」

テツヤ・・・か、

俺の目的・・・俺は英雄じゃない・・・

俺は・・・俺は・・・

・・・・・・・・・・・・

何を考えてるんだ?

俺は俺の目的・・・皆を・・・俺のやり方で守るだけだ。

俺らしく・・・か。

「いいだろう・・・やってやるよ、

 テツヤ・・・」





「で・・・聞かせてもらえないか?

 お前は何を知っている?」

基地に帰ると、シュンさんが聞いてきた。

「・・・テツヤは、俺・・・英雄を恨んでいるんですよ」

「英雄?」

「あいつの父親ですよ、

 英雄のふりをして・・・死に、

 自分勝手な、新しい人生を生きていた・・・

 あいつと、あいつの家族を捨てて・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「だから、英雄である、"漆黒の戦神"が、許せないんでしょう」

「そんなの、アキトには関係無いでしょう!!」

「アキトさんはそんな人じゃありません」

「アキト君・・・」

「で・・・あいつとしては、英雄を徹底的に苦しめたいんですよ」

「・・・だからアキトさんと仲の良い人を襲ったというんですか?」

「そうなるな、俺が・・・俺と仲のいい人を消し・・・

 俺を孤立・・・仲間の信頼を引き裂き・・・

 そして、その俺の仲間の手で・・・」

「腐った奴だ」

「・・・俺も・・・同じような物ですよ。

 俺も・・・復讐のために・・・

 だからこそ・・・あいつは俺の影だから・・・

 俺の・・・俺が否定したい・・・忘れてはいけない・・・けど・・・

 封印しなければならない・・・俺だから・・・

 俺は、あいつを・・・」

「・・・駄目です。

 アキト、軍人の私がこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、

 人を殺しちゃ・・・」

「姉さん・・・」

「サラ・・・」

「・・・・・・・・・・・・

 今更・・・だよ。

 それに・・・俺は、皆の幸せや安全と・・・あいつの命なら・・・

 俺はあいつを殺す・・・」

俺にできるのはそれだけだから・・・

俺には・・・それしかできないから・・・





第四十六話に続く





あとがき

と、言うわけで、アキト君の予想に反してミリアさんを狙ってみました。

自分で書いておいてなんですが、

アキト君・・・

テツヤがミリアさんを殺すのなら、

明日の昼だとアキト君は確信していたようですが、

もしその場で殺したら、どうするつもりだったんでしょう?

このあたり、逆行者の欠点だと思います。

なまじ未来の一つの可能性を知っているだけに、

分の悪い賭けに平気でのってしまう・・・

まぁ、テツヤがそんな事をするとは思えないので、それは止めましたが・・・

 

 

 

代理人の感想

>ミリアを殺すなら

・・・・・・・いや、それはアリアさんのアキトだけだと思うんですが(爆)。

ミリアがさらわれる事自体前にはなかったんだし、

それでもメティちゃんの時と同じように話が進むとは普通考えないんじゃないかと思いますが。