「うっ・・・」

ここは・・・

どこだ?





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第五十一話 英雄





目覚めると、見た事もない部屋にいた。

確か俺は・・・・

と、俺が記憶の糸をたどっていると、シュンさんが入ってきた。

「気が付いたか、アキト」

「あ、シュンさん、

 ここどこですか?」

「病院だ、

 まったく無茶しやがって・・・」

そうか、あの時気を失って・・・

失って・・・

「メティちゃんは!!」

「落ち着けアキト、彼女なら無事だ」

「そ、そうですか・・・」

「ま、今は眠ってるがな・・・」

「眠ってる?」

「・・・今何時だと思ってるんだ?」

そう言われて時計を見ると・・・

午前三時・・・

子供なら、遅くまで起きてる人も、さすがにそろそろ寝ているだろうし、

早起きの人も、さすがにまだ起きていないであろう時間だ。

まぁ、ルリちゃんみたく特殊な仕事をしている人とか、

はじめから徹夜するつもりの人は別だが・・・

「ははははは、

 でも、何でシュンさんは・・・」

「お前が気がついたって聞いたからな」

「すいません」

「別に気にしないで良い、

 お前の行動も、結果として最善の策だった見たいだしな」

「・・・そう言えば、テツヤは?」

俺が気を失ったあと・・・

「死んだよ」

「え?」

「・・・聞きたいか?」

「・・・はい」

「俺たちがあいつらの基地に向かうとな、

 空からチューリップが落ちてきたんだ」

「はい、知ってます」

「そのあとな、その基地からグラビティ・ブラストが発射されて、チューリップを破壊 した。

 何でわざわざ落としたチューリップを、

 グラビティ・ブラストで破壊しなくちゃなんないのかわからなかったが、

 とにかくグラビティ・ブラストを警戒しながらあの"谷"を渡ってな。

 苦労したぞ、色々とな」

「すいません・・・」

「とにかく、気を失っているお前とメティちゃん・・・

 そして、観念したようなテツヤを見つけたんだ」

「生きてたんですか?」

「ああ、その時はな。

 その後、基地の独房に閉じ込めていたんだが・・・

 どうするにしても、お前の意見も聞きたかったからな。

 だが、どこに隠し持っていたのか・・・

 ブラスターで頭を・・・」

「・・・・・・・・・・・・

 そうですか。

 何か言ってませんでしたか?」

「・・・聞きたいか?」

「はい」

「・・・・・・・・・・・・

 テツヤの独房に落ちていた・・・」

そう言ってシュンさんは、一枚のディスクを取り出す。

そして・・・

「よお、元気か?

 ま、元気だろうな。

 さすがだよ、お前は。

 さて、それはさておき・・・

 俺は俺のした事を後悔なんてしていない。

 お前に対しても、

 今まで俺が殺してきたやつらに対しても・・・

 まぁ、そのメティとか言う子とその家族には、気の毒だったがな。

 さて、お前と、俺が今まで殺してきたやつらの、共通点は何だと思う?」

そこで間が入っていた。

共通点?

「解らないだろうな、

 人はな分相応に生きるべきなんだよ、

 俺が今まで殺してきたやつら・・・

 あいつらは、英雄の資格もないくせに、英雄のふりをしてやがった。

 だから殺した。

 俺か?

 俺はちゃんと分相応に生きてる・・・生きてたぜ?

 俺みたいなクズには・・・こういう生き方が、ふさわしかったんだよ。

 で・・・お前は・・・

 はっきり言おう、

 お前は英雄だ。

 お前がなんて言おうとな。

 しかし、お前は英雄でありながら、英雄でないふりをしていた。

 だから・・・殺そうとした。

 ま、結果は・・・

 だから俺は後悔していない、

 ま、お前を殺せなかったのが心残りだがな・・・

 あと例を言うぜ、

 最後に・・・本物の英雄に会わせてくれた事にな」





「アキト・・・」

「すいません、一人にしてください」

「・・・人は、

 俺たちは、お前みたいに強くない、

 だから心の支えを・・・

 英雄を求めるんだ。

 お前になにがあったのかも知らないし、

 あの男に何があったのかは知らないが、

 そう言う意味では、あいつの言いたい事も理解できる。

 じゃな、一晩ゆっくり考えろ」





翌日、俺はメティちゃんの病室を訪れ・・・

「メティちゃん・・・」

「・・・出てって」

「え?」

「お兄ちゃんのせいで・・・お兄ちゃんのせいで・・・

 出てって!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「これもいらない・・・返す・・・

 早く、出ていって!!」

「・・・解った。

 謝ってすむことじゃないことは解ってる。

 でも、最後に謝らせてくれ、

 ごめん・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「じゃぁ・・・」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「ごめんね、お兄ちゃん・・・

 さようなら・・・」





「アキトさん!!」

「ミリアさん!!

 傷は・・・」

「アキトさん、メティは、メティは・・・」

「解ってますよ、

 メティちゃんの気持ちは・・・

 多分・・・ね」

「じゃぁ・・・」

「メティちゃんに伝えておいてください・・・

 いや、伝えない方が良いのか?

 とにかく・・・全てが終わったら・・・また来ます」

「・・・アキトさん。

 メティのためにも・・・がんばってください。

 あの子に・・・私たちにも、あなたの活躍が届くように・・・

 そして、あの子の心の支えになってください」

「・・・俺に英雄を演じろと言うのか?

 俺に・・・みんなのための人身御供になれと?」

「・・・・・・・・・・・・

 そう・・・なりますね」

「・・・俺には、その資格はないし、

 そんな事はできないよ」

「資格ってなんですか?

 できるかできないかじゃないと思います。

 やるか・・・やらないかです」

「・・・・・・・・・・・・」

「あの子には・・・私たちには希望が必要なんです。

 アキトさんには、わかるでしょう?

 希望を失うことのつらさが・・・・アキトさんなら・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「お願いします」

「・・・・・・・・・・・・」

「お願いします」

「・・・・・・・・・・・・

 考えておく」





「アキト」

「アキトさん」

「テンカワ君」

「三人とも・・・」

「逃げるのは卑怯です」

「アキト、人の話を聞いてなかったのかって言ったのはアキトですよ」

「この前お爺様とあったとき、

 お爺様が言っていた事を覚えていますか?」

「え?」

「お爺様は、

 "建前もプライドも必要なんだよ。

  私には君のようなカリスマ性はないからね、

  建前や、プライドがなければ・・・人はついてこない。"

 って・・・そう言いました」

「アキトの目的が何かはわからない・・・

 でも、アキトがその気になれば、

 みんなに助けてもらえるのに・・・」

「責任をとる事を・・・リスクを恐れてたら、何もできないんじゃない?」

「・・・そうかも知れんな」





その日の夜・・・アキトさんが、全てを話してくれた。

「と・・・これが、

 この戦争の裏側です」

その話を聞いたとき・・・私は、自分の言った言葉を後悔した・・・

結局、この戦争も・・・"戦争"なのだとわかったから。

私はアキトさんに"英雄"と言う名の人殺しになる事を望んだのだから・・・

だけど・・・でも・・・

「アキトさん、

 アキトさんは、どうするんですか?」

「・・・和平を実現させる」

「・・・今の君のままでかね?」

「・・・もちろん、変わるべきところが有れば、変わっていくつもりですよ」

・・・アキトさんは・・・私が言ったように、英雄になるつもりなの?

でも・・・それは・・・

でも、アキトさんには英雄になってほしい、多分・・・メティはそれを望んでいる。

「そのためにも・・・ナデシコは守らなくてはいけない。

 あの艦が・・・和平を成功させる、最も可能性の高い方法だから・・・」

「今は無人兵器だけだが、

 いずれ有人機も出てくるかもしれない、

 それでも、君は戦うつもりかね?」

「もちろんです」

「・・・そうか、

 何か私にできる事は?」

「・・・地球で和平実現のための工作をしてほしいですね、

 あとは・・・」





「アキトさん・・・」

「さっきの答えですか?」

「・・・いえ、もう良いです。

 私に・・・・それを言う資格・・・じゃありませんね。

 "それ"を言うことで負わざるを得ない、

 "責任"を負う"覚悟"がありませんから」

「一つ良いですか?」

「なんですか?」

「ナオさんを、貸してほしい」





「アキト」

「・・・なんですか、シュンさん」

「・・・すまなかった、

 お前の気持ちも考えずに・・・」

「良いですよ、知っているはずがないことですから」

「・・・だがな、アキト。

 つらいかもしれんが・・・

 俺は今でもお前は英雄になるべきだと思っている。

 その方が、お前自身も楽だろう?」

「それは・・・」

「お前の理想をつかむんだったら、

 方法は二通りある。

 一つは今まで通り、ちょろちょろと動いて、

 お前の理想に近い道に進むように、働きかける方法だ。

 だが、いつも思い通りの道があるとは限らないし、

 ・・・今のままのお前じゃ、そんな力は無い・・・

 政策の根幹を動かすような力は・・・な。

 お前の目的には・・・今のままの方法じゃ・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「そしてもう一つは、

 お前の理想のある方向に・・・たとえそこに道が無くても、

 強引に引っ張っていく方法だ。

 だが、それには人をひきつける、力強い象徴が必要だ。

 そして、それができるのは・・・」

「・・・俺だけ・・・ですか」

「そう言うことだ」

「・・・・・・・・・・・・」

「さぁ、今日はもう寝ろ、

 別に今結論を出す必要はない。

 だがな、お前がどんな選択をしようと、俺たちはお前の味方だ」

「・・・ありがとうございます」

「解ったらさっさと寝ろ」





「アキト・・・」

「アキトさん・・・」

「テンカワ君・・・」

「・・・・・・・・・・・・

 結局、みんなの言う通りだったんだよ」

「「「そんな!!」」」

「俺は、俺の都合で・・・

 みんなに迷惑を・・・」

「でも、何で・・・

 アキトは人を殺したりできるような人じゃない」

「・・・言わなかったっけ?

 今更・・・だよ。

 俺は・・・もう人を殺している」

「だったら、なおさらなんじゃないんですか?」

「一万人以上の人を殺した身だ。

 一人や二人増えても、関係ない」

「え?」

「一人殺したら人殺しだが、百万人殺せば・・・英雄らしいからね・・・」

「アキト・・・」

「アキトさん・・・」

「テンカワ君・・・」

「期待に添えなくて悪いけど・・・」

「で、でも、アキトが殺したって人は・・・」

「そうです、アキトさんが殺さざるを得なかったような人は、きっと・・・」

「あいつのような・・・」

「・・・・・・・・・・・・

 そうだな・・・

 いや、そうでもないか・・・

 ちょうど・・・メティちゃんぐらいの子を・・・

 それこそなんの罪もないような子を・・・処理したことも・・・

 いや、なんでもない。

 どうせ、俺はこれから、一世一代の犯罪をするんだ、

 全てを・・・地球だけ出なく、木連の人たちを含めた全ての人を相手に・・・

 この上なく大きな"詐欺"をね・・・

 些細なことさ、そんなこと・・・」





「もういくのかね?」

翌日、俺は"半壊したブラックサレナの修理"と言う名目で、

西欧を離れることになった。

行き先は極当地区、ネルガル本社・・・となっているが・・・

「ええ、俺の居場所は・・・

 俺が俺であれる場所は、俺が俺になるための場所は・・・

 ナデシコですから」

ブラックサレナの修理など、ウリバタケさんレベルで無ければ不可能だ。

「そうか、

 しかし、そんなめんどくさい事をしなくとも、

 君の一人や二人ぐらいどこへでも転属させることは・・・」

「それは困りますよ、

 大丈夫です、うまくいくようにこちらから手を回しますから。

 大体・・・今あなたに我侭を言わせるわけにはいかないんですよ」

「フム・・・

 しかし護衛ぐらい・・・」

「大丈夫ですって、

 半壊しているとは言え、そこらのエステよりは強いですよ、この機体は」

「そうか・・・」

「それより、和平工作を頼みます。

 近々ネルガルが、ナデシコを第十三独立部隊として軍にいれ、

 その代わり俺を戻すようにいってくると思いますので、

 表向きはネルガルに対する警戒と言う形で、

 シュンさんたちをナデシコに回してください。

 強力な手駒である俺を引き抜かれるんですから、

 それくらいどうってことでしょう?」

「ついでにサラやアリサも引き抜くのだろう?

 ・・・二人を、宜しく頼む」

「ふっ、俺を誰だと思ってるんですか?

 ネルガル重工所属、機動戦艦ナデシコ勤務、パイロット兼コック、

 漆黒の戦神・テンカワ アキトですよ」

俺は、今できる最高の微笑みを浮かべて答えた。





第五十二話に続く





あとがき

やっとのことで西欧編が終わりました・・・

当初、四十八話で西欧編は終わる予定だったのですが・・・

いつの間にやら三話ほど増えています。

なぜ?



結局テツヤは殺してしまいましたが、

メティちゃんとミリアさんは生き残らせました。

テツヤに関しては、偽悪者には、死に場所を与えなければ、

どうしようもなくなってしまいますし、

メティちゃんに関しては、生きていて、アキト君にくっ付き続けていられると、

ややこしいことこの上なくなりますから・・・

しかし、メティちゃん・・・

かわいそうな役回りですね・・・

何気に距離をとられて、巻き込まれて、さらわれて、

そして失恋・・・

嫌いじゃないんですけど・・・

まぁ、人にはもって生まれた星まわりと言う物が有りますから・・・

当初は殺すつもりでしたが、この方が面白いかと・・・



ちなみに、最後の台詞ははじめから考えていたものです。

英雄である事・・・

自分の犠牲の上に平和を築くことを否定した西欧編で、

百八十度逆の結論を出してみたかったので・・・

また、アキト君が自分のことを、

パイロット兼コックと言うシーンは、個人的に好きなんですよ。

「時の流れに」では、最後までコック兼パイロットと言っていたようですが・・・

自分の影響力を自覚させる・・・

自覚するからこそより強い影響量を発揮できる・・・

もちろん期待を裏切ったら、反動で極悪人に仕立て上げられるでしょうから、

結局は軍や民衆の都合ですけどね。



アキト君に対する評価は、色々あると思いますが、

私的に、もっとも嫌いなアキト君は、

「時の流れに」の後半のアキト君だったりします。

逆に一番好きなのは、劇場版のアキト君です。

私は"護る"と言う言葉が嫌いです。

"護る"と言う言葉ほど、独善的で、排他的で、押し付けがましい言葉も珍しいと思い ます。

"正義"の方が、まだましです。

"正義"と違い、"護る"のその先には草壁中将の理想にすらある、

自己流の"全ての人の幸せ"すらなく、

草壁中将のような、一人よがりの正義ならともかく、

相手の正義を認めているのなら、自分や仲間を不利にすることや、自分の考えを改め るなど、

妥協や交渉の余地のある"正義"と違い、

守護対象の安全のみを追う"護る"には、

妥協の余地が一切ないでしょう。



結局、「時の流れに」のアキト君は"正義"の多彩さから、逃げているんですよね。

「時の流れに」後半にアキト君は、自分から逃げているという点では、

TV版初期のアキト君に勝るとも劣らないと思います。

"正義"の多彩さを理解しつつ、自分の信じる"正義"を貫く・・・

"自らの欲するところに従い、なお天道にそむかず"

どこかで聞いた言葉で、

記憶があいまいなので、もしかしたら間違っているかもしれませんが、

それが理想だと思います。



実際は、この"護る"状態のアキト君が、

"護る"と言うことの傲慢さに気付き、

この話のはじめの状態である"偽悪者"となって、

さらに"正義"に目覚めさせようと思っていたのですが、

"護る"ことの傲慢さに気付くには、"相手"が必要で、

無人兵器相手では、非常に難しいのです。

よって、逆行してからに一年の間に、

何事かがあったという事にしました。

この話は、そのうち書こうと思います。





追記

前回の代理人の感想より、

>武術の達人は瓦を割らずに指でぽこり、と穴を開けることが出来ます。

つまり、運動エネルギー自体を使う方法ですね。

う〜ん・・・かわらのように"脆い"物でしたら、それも可能かもしれませんが、

金属には"弾性"や"展性"がありますから・・・

それに、我が家の壁を調べて見たのですが、どう好意的に考えても、

私の指の長さより厚いのですよね・・・

世界各国の調味料をそろえているぐらい、

生活環境に気を使っているくらいですから、

壁も普通の家以上の厚さがあるでしょうし、

"指で穴をあける"以上指の長さより深い穴があくわけがありません。

もしそれをしたいのなら、指ではなく拳で穴をあけると言うべきことに・・・

やはり、それは難しいと・・・



>ちなみに「質量」をコントロールするとはどこにも書いてありません。 ええ〜と・・・

どこかでそのような事を読んだのですが・・・

もしかしたら、"重量"だったかもしれませんが、そう考えると、

もっとややこしい事になります。

ほかにも、そのまま読み解くだけで、あれ?と思うこともおきていますし・・・

無理やりそれをすると、まぁ、結論は同じ所にいきつくと言う・・・

まぁ、この話ではそう言う事にしておいてください。



なお、昂氣についての説明は、どうにもうまく説明できないので、

公開は無期限延期いたします。

必要な時には、随時説明を入れますので、ご了承ください。



・・・本当は、新しく伏線を張ったり、

色々と遊びたかったのですが・・・





さらに追記

アキトが処理(殺した)という、

"メティちゃんぐらいの、何の罪もない子"については・・・

二回目メティちゃんを見殺しにしたとか言うものではありません。

巻き込んだとか言うものでもなく、

実際にその手で、明確な意思を持って殺しています。

まぁ、それがだれかは考えればわかるかもしれませんが・・・

本当に、どう考えてもかわいそうな子です、その人は・・・

現在一人にしようか二人にしようか、

もしくはそれ以上にしようか考え中です。



かわいそうな人は少なくすべきか・・・

いや、しかし複数いたほうがリアリティーが・・・

 

 

代理人の感想

「護る」を否定すると言うことは軍隊が民間人を護る為に戦う事も否定しているのでしょうか?

つまり「軍隊が勝つ為なら民間人を見殺しにしてもいい」という風にも取れるんですが(汗)。

「護る」と言う言葉の意味を限定しすぎではないかと思います。