「さて・・・

 早いところ軍に入る話をしてくれないと・・・」

「皆さん身のふり方を決めるのに、それなりに時間がかかるでしょうからね」

「俺たちのように、始めから決めているわけじゃないからな・・・」

「限られた時間で、一番正しいと思う選択肢を選び取らなくてはいけない・・・ですか・・・」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第五十七話 真相





ルリちゃんが気の毒そうな声でそう言う。

それはルリちゃんらしい反応と言えば、

ルリちゃんらしい反応なんだろう、しかし・・・

「まぁ、その方が幸せかも知れんな・・・」

俺たちは、別に偉いわけでも、優れているわけでもない。

むしろ・・・

「・・・アキトさんは不幸なんですか?」

心配そうな、あきれたような声でルリちゃんが聞いて来た。

「・・・言う必要があるのか?」

俺は自分が不幸だとは思っていない、

しかし、ユリカたちのように、"今"を生きている方が、

何倍も幸せだと、そう思う。

「聞いただけです」

そう言うだろうな、ルリちゃんは、

と、ルリちゃんが俺の腕をつかんで、すりよってきた。

「ル、ルリちゃん?」

「でも・・・」

予想もしていなかったルリちゃんの行動に、一瞬驚いたが、

ルリちゃんの不安そうな声を聞いて、俺は冷静に聞き返した。

「でも?」

「なんでそれが幸せなんですか?」

そう言うと振り返って俺の方を見るルリちゃん。

「・・・解らない・・・か。

 ・・・宿題だ、自分で考えて見ること」

「・・・意地悪」

ルリちゃんがすねたように言う。

そのしぐさが可愛く、苦笑しながら答えた。

「否定はしないが・・・

 ルリちゃんに言われる筋合いは無いな」

「それが意地悪なんですよ」





「えー・・・皆さんに重要なお知らせがあります」

ブリッジに現われたプロスさんが

全クルーのコミュニケを強制オープンさせると、

そう切り出しました。

「重要なお知らせ?」

「なんでしょうね?」

「ルリルリ、何か知ってる?」

「知っていると思いますか?」

実際は知っているんですけど・・・

嘘は言ってませんよね。

「そう・・・」

でも、思いのほか早く話がつきましたね、

クリムゾンの息のかかった軍人が、

強硬に反対するかと思ったのですが・・・

ナデシコBやCに乗っている時も、彼らには苦労させられましたから・・・

「ま、軍としても、渡りに船だったんだろう。

 力を持たない軍は、存在意義自体がないからね」

「え?私口に出してました?」

「・・・ルリちゃんとも長いからね、

 口に出さなくても、大体の事はわかるよ」

そういうものですか・・・

・・・そう言うものかもしれませんね。

「・・・と、言うわけで、ナデシコは連合軍の第十三艦隊となる事となりました」

「第十三艦隊?」

「要するにこれまでと、どう違うんだよ」

「えー今までと違い、ナデシコとしての活動にかなりの自由が生まれます」

「要するにどう言う事?」

リョーコさんとメグミさんがプロスさんに食って掛かりますが、

そう言うことを言うと・・・

「説明しましょう!!」

・・・となりますよね、

当然・・・

「地球連合法連合軍関連法にはこうあるわ。

 地球連合法連合軍関連法第・・・」

「つまり、今までのように、

 ここのチューリップを倒せとか、あの部隊と一緒に行けとか言わないから、

 勝手に自分の判断で敵を倒せってことよ」

イネスさんの説明を無視して、エリナさんが簡潔に言います。

「ま・・・掻い摘んで言えばそういうことね、

 具体的に言うと今までと違い、抽象的な命令が下ることになるわね。

 これこれの作戦に参加せよ・・・とか・・・

 その場合私たちには連合宇宙軍の艦隊提督と同等の発言権を持つことになるわ。

 ま、末席である以上、色々と制限はつくでしょうけど・・・

 つまり戦略規模での作戦立案に参加できるわけ、

 後は、敵を倒してさえいれば、どこで何をやっていてもかまわない・・・」

・・・やっぱり、この人は自分で説明しなければ気がすまないみたいです。

しかし・・・それだけ簡単に説明できるのなら、

何故始めからそうしないんですか?

「つまり勝手にやれって事?」

「基本的にはね。

 それどころか、必要なら援軍の要請や、

 他の部隊を、その部隊に本来の任務に支障が無い限り、

 一時的に旗下に入れる事もできるわ。

 とはいっても、事実上監視されることは間違いないでしょうし、

 援軍の要請なんかは受理されにくいでしょうけど・・・

 まぁその辺りは艦長に任せるわ。

 高速性と隠密性を活かした戦法を取るんだったら、

 単独のほうが良いものね」

「だったら良い話じゃねーか」

「いえ・・・そうも行かないわけでして・・・」

まぁ、そんな都合のいい話があるわけありませんね。

禍福は糾える縄が如しとは、よく言ったものです。

「実は、それに伴って、皆さんには軍隊に入ってもらう事に・・・」

「つまり軍人になれって事?」

「いつまでも軍艦のクルーが、民間人という訳には行かないという事だ」

ゴートさんがそういいます。

ま、それもそうですけどね・・・

「一応軍人ではなく、軍属、

 所属はネルガルで、そこから更に軍に雇われている・・・

 ちょうど、いまのテンカワさんと同じ扱いです」

私にとっては解りきっている事なので、

プロスさんの話にさして注意せず、

アキトさんたちの顔を眺めていると、

アキトさんが、そうなんだ、と言う顔をしました。

・・・自分の立場を理解していなかったんですか?

「今降りられれば、厄介な監視もつきますし・・・

 どうでしょう皆さん?

 このままナデシコに残られては?」

「具体的に言うと、クルーの扱いは今までとどう変わるんですか?」

プロスさんの勧誘に対して、ユリカさんがクルーを代表して質問します。

「ええ〜、まず今まで認められていた命令に対する拒否権はなくなります。

 ですがこの拒否権も名目上のものでしかなかったわけですし・・・

 ナデシコ自体の自由度が上がりますので、

 いままでのように、軍の立てた作戦を一方的に押し付けられる事も少なくなるでしょうから、

 むしろ今までより安全だと・・・

 もちろん、その分規制は厳しくなりますが・・・

 また、給料は・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・」





「・・・以上です。

 それにともない、パイロットその他、数名の補充人員が来ます。

 詳細は掲示板に張り出しますので、

 あとで見ておいてください。

 それともう一つ・・・

 テンカワさんから、重大な話があるそうです」

「俺が・・・

 そうですよね、

 当然・・・」

そう言うと、俺はプロスさんのいた位置まで歩き、

軽く深呼吸すると、

この戦争の裏側を話しはじめた。

・・・全く、何度この話をすれば良いんだ?

「ええ〜と・・・

 まず、この話は他言無用です。

 ムネタケ提督も、軍には報告しないでください」

「・・・

 話によるわね」

ほぉ・・・

てっきり速攻で断られるかと思ったが、

意外に感触が良い。

まぁ、いずれにしろうまく立ち回らないと大変な事になるし、

まだ軍に知らせてもらうわけにはいかないからな。

「とんでもない話ですよ。

 ただ・・・

 そんなことを隠していた軍と俺と、

 どっちを信用してくれるか、それだけです」

「それを判断するのは、私じゃないの?」

「その通りですよ、

 ただ、下手なことはしないでください。

 それと・・・信じられない人は、あとでいくらでも証拠を見せます。

 嘘ではありませんよ、この話は。

 それに・・・秘密と言うものはもれる運命にあるんです。

 ちょっとぐらい早く知っていても、おかしくありませんからね」

「ふーん・・・

 まぁいいわ、

 聞いてあげる」

聞かないわけにはいかないだろうに、

なんでこの人はそうわざわざ憎まれ口を叩くかな・・・

「そうですか?

 じゃ、ええーと・・・まず・・・」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「・・・と言うわけです。

 おそらく、そろそろ木連の方も有人機を出してくるでしょう。

 無人兵器の思考ルーチンは、余り高性能とはいえませんので、

 有人機の方が強いでしょうから・・・

 本当の意味で"戦争"がはじまるわけです。

 必然的に最前線で戦っているナデシコはそのことを逸早く知る可能性が高くなりますし、

 そうなるともう今までの生活には戻れないでしょう。

 それが嫌なら、今のうちに降りることをお勧めします」

俺が話し終わると、数秒静まり返ったあと、

いたるところでざわざわと言う話し声が聞こえてきた。

「ええー、なおこの話はトップシークレットですので、

 仮にナデシコを下りる方でも、いっさい他言は無用です。

 契約書にある機密に該当しますので、

 違反した場合はネルガルも強硬手段を取らざるをえませんし、

 場合によっては逮捕されることも・・・」

「アキト」

プロスさんが注意事項を無視して、ユリカが俺の名を呼ぶと、

その場にいる全員が俺に注目した。

「ん?

 なんだ、ユリカ?」

「アキトは・・・どうするの?」

皆が注目しているのは無視して、俺が勤めて冷静にユリカに切り替えすと、

ユリカは俺が予想した通りの質問をして来た。

・・・変わらないな、ユリカは。

もっとも、そう言うところがユリカの魅力なんだが・・・

同時に恐い所でもある。

「・・・俺がどうするか、お前に関係あるのか?

 それより、俺としてはお前がどうするかが知りたいな」

「へ?」

「・・・いずれにしろ、俺は軍に入る、

 忘れているかもしれないが、

 一応今の俺は西欧方面軍に組み込まれてるんだぞ?

 で・・・

 事の真相を知って、お前はどうするつもりなんだ?

 この戦争は過去の亡霊が引き起こしたものだが、

 戦争をしているのは亡霊じゃない。

 俺たちだ。

 それを踏まえた上で・・・

 お前は何を目指し、何をする?」

状況によっては、"俺たち"の目指すものを舞歌さんに伝えるのは、

ユリカに変わってもらう必要もありえる。

できれば、早く結論を出してほしいんだが・・・

「そ、それは・・・」

「艦長が、具体的な道を示してくれないと、

 部下は何を信じてついていけば良いんだ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「俺がどうするか、

 それは、お前次第だ」

「・・・・・・・・・・・・」

「と、とにかく一週間後カワサキのドックに停泊いたします。

 ヨコスカドッグには、一週間ほどいる予定ですので、

 それまでに身の振り方を決めていてください。

 以上です」



「で・・・ムネタケ提督、

 あなたは・・・どうするつもりですか?

 真相を知った以上、あなたも後戻りはできませんよ?」

この人もできれば助けてあげたいんだけど、

難しそうなんだよな・・・

「それを知ってて話したわけ?

 悪趣味ね。

 そんな危険な情報は、一人で持っとけば良いじゃない」

無能な人じゃないはずだ。

親の名前を意識しすぎて、焦って失敗しているみたいだけど・・・

「・・・言ったでしょう?

 良くも悪くも、ナデシコは地球圏最強の艦です。

 有人機動兵器と、真っ先に戦うことになるのは、おそらくナデシコでしょう」

もう少し余裕を持てれば、

"軍人"として出世するかどうかはともかく、

"文官"としてはそれなりだと思うんだが・・・

「そうかしら?

 私は、地球圏最強は西欧方面軍だと思うわ。

 "漆黒の戦神・テンカワ アキト"がいる限りね?

 結局、私たちはただ巻き込まれただけ、

 迷惑以外の何物でもないわ。

 違うって言うの、英雄様?」

「・・・俺はおそらくナデシコに戻されますよ、

 それに・・・

 いずれ知らされることです。

 その時になって慌てないように、今の内に話しておくべきじゃないんですか?」

「ものは言いよう・・・ね」

「確かに・・・」

「で?

 どうやって、その事を知っているということを、軍に知らせるわけ?」

「あちらから連絡をとってもらいましょう。

 多分・・・うまく行きますよ?」

木連に与えた俺の影響は、二回目とほとんど変わらないはずだから、

おそらく舞歌さんと連絡が取れるはずだ。

「具体的な方法は?

 聞こえのいいことだけ言って、

 自分の手札は何にも見せずにただ協力しろなんて、

 ちょっと虫が良すぎるわよねぇ〜」

「・・・すいません、今の所、俺にはあなたを担ぎ上げる余裕はありません。

 ですが、あなたが俺たちの敵で無いのなら、同じ艦に乗る仲間です。

 悪いようにはしませんよ。

 どうせ、いつまでも隠しきれるものじゃありません。

 おそらく、数ヶ月たたないうちに、

 どこからか情報が漏れるはずですよ・・・」

「ふーん・・・

 まぁいいわ、

 確かに、下手にこんなこと報告したら、

 私に責任を擦り付けられかねないから・・・」

「ありがとうございます」

「せいぜい感謝することね、この私に」

「ハイ、ありがとうございます」

「・・・で、

 艦長じゃないけど、この戦争をどうするつもり?」

「さぁ?

 俺はただの一パイロットです。

 良くも悪くも、一パイロットの意見など無視されるのが軍と言う組織でしょう?」

「あんた、自分がただのパイロットだとでも言うつもり?」

それはそうでしょうが・・・

ただのパイロットでないから、

俺の一言で方針を変えられるのなら、

これほど楽な事はないんですけどねぇ・・・

「この戦争をどうするかなんて大きな問題を、

 一人の人間の意見で決めるつもりですか?

 例えどんな人間であれ、

 一人の意見では何も決められない、

 また、決めてはいけない。

 組織とはそうあるべき・・・と言うのが最近の考えだと思いますが?」

もっとも、ネルガルのように"リスキーシフト"が起こることもあるけどね。

「まぁ、俺個人としてはなるべく穏便に事を済ませたいですけどね。

 実際のところどうなるかは、まだわかりませんよ。

 その時になって見ないとね」

「まぁ、それはそうね」





第五十八話に続く





あとがき

一番初めのルリ君の台詞ですが・・・

傲慢な台詞ですね・・・

ルリ君らしいとは思いますが、

ヒロインである以上可愛くあるべき・・・

と、とある方にお叱りをうけましたし、

事実このままでは嫌なキャラになりそうでしたので、ちょっと進路修正。



ただ話を進めるのを一時中断して"「宿題」について悩んでいるルリ君"

を書く必要がでてきましたが・・・

何か、最近インターミッション的な話ばかりですね。



しかし、木連についての話はどうしましょう?

ナデシコクルーだけが知っていても、何の役にもたちません。

とは言え演説をさせるわけにはいかないでしょうから・・・

さてさて・・・



"リスキーシフト"

たくさんの人が話し合う際、

往々にして急進論や、冒険的な意見の方が強い印象を与える他、

そう言う意見の持ち主の方が表面的な印象としてのリーダーシップが強いため、

そう言う意見に引きずられ易く、

更に"皆で決めた"ために責任の分散がおきて、

危険な意見を容認してしまう現象。

ネルガルの、"重役たち"の利益最優先の危険な意見は、

多分これが原因だと思うのですが・・・



サブタイトル・・・ネタが尽きてきました・・・

二文字でその話を端的に・・・

難しいです、ハイ。

どうやら、私には自分の首をしめる楽しみは合わないようです。





追記

"地の文"を増やすよう努力してみたのですが・・・

まだまだですね・・・

精進します。

 

 

 

代理人の感想

ヒロインが可愛くなければならないかどうかはちょっと微妙な気もしますね〜。

本質的に必要なのは「人(読者)を惹きつける能力」であって、

ぶっちゃけ傲慢でも読者が引き寄せられるような魅力があればよしではないでしょうか。

 

ま、それはそれとして。

 

御自分でもおっしゃってるように話が動かない話ばかりで、読んでいてあれなんですよね。

もうちょっと「動く」話を期待したい所ですが・・・。