「ふぅ・・・

 ようやく一段落ついたね・・・

 まったく、忙しすぎだ」

「それを望んでいるのでしょう?」

「・・・嫌だとは言っていないよ、

 ただ事実を述べたまでだ」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第五十八話 悩み





「で、これからどうするんです?」

未だ雑然とした空気が漂っているブリッジを後にして、

俺の部屋に帰ってくると、

当然のように一緒に入ってきたルリちゃんがそう聞いて来た。

「ああ、そうだな・・・

 C計画についてやる事とか、リョーコちゃんたちを鍛えてあげる必要もあるけど、

 とりあえず当面の問題は片付いた。

 どちらにしろ、皆状況を飲み込むのに時間が掛かるだろうからな。

 ちょっと休憩・・・かな?」

俺としては、のんびりと何もしないでいるのも好きなんだけど・・・

ルリちゃんは嫌なのだろうか?

そう言えば、ルリちゃんは暇な時にはゲームしたりしていて、

何もしないでいる記憶はないな・・・

「そうですか・・・」

「ああ」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・ 





・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「暇・・・だな」

特に意味のない沈黙・・・

強いて言えば、沈黙自体に意味のある沈黙がしばらく続いた時、

アキトさんが唐突にそう言ってきました。

「そう・・・ですね」

アキトさんは、退屈なんでしょうか?

私は・・・アキトさんとこうやっているのが、楽しいんですが・・・

何か・・・話をするべきなんでしょうか・・・

隣のアキトさんの顔をそっと見ましたが・・・

解りません。

つまらなくはなさそうですが、

かといって、楽しそうでも・・・

どう・・・しましょうか?

「楽しい?」

「・・・馬鹿」

「ああ」

・・・これで良いんですね、きっと・・・

ゆっくりと、時間が流れていく・・・

何もない、何もないからこそ、重要な時間を、

私は生きている・・・

重要で、意味のない時間を・・・

意味がないからこそ重要な時間を、

二人で・・・

だから・・・

もう少し・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・





その後、アキトさんとしばらくボーっとしていると、

とりあえず、何かをしていないと不安なのか、

リョーコさんたちがアキトさんをトレーニングに誘いに来ました。

さて・・・

一人でボーっとしていても、意味はありませんし・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「・・・ミナトさん」

「ん?

 どうしたの、ルリルリ?

 珍しいわね、あなたが私の部屋に来るなんて・・・

 しかも深刻な顔しちゃって・・・

 何か悩んでるの?

 もしかしてアキト君に告白されたとか・・・」

しばらく一人で考え事をしていたのですが、

時期的には最悪だとは知りつつも、

どうしてもミナトさんの意見を聞きたくて、ミナトさんの部屋に行くと、

いきなりからかわれました。

「すいません。

 ・・・今は冗談に付き合っている気分じゃないんです」

「そう・・・

 でも、あなたはもう答えを見つけているはずでしょ?」

「どう言う意味・・・

 ・・・ミナトさん、

 たぶんミナトさんは勘違いしてます」

「え?

 ナデシコに残るか・・・じゃないの?」

やはり勘違いしていたようですね。

無理もありませんが・・・

「はい。

 実は・・・」

そこまで言って、言葉に詰まりました。

・・・何と言えばいいのでしょう?

「実は?」

「・・・ミナトさん、幸せって・・・なんだと思います?」

数秒考えた後、私の口から出たのは、

余りに抽象的な質問でした。

「い、いきなり哲学的な質問ね・・・。

 そうねぇ・・・

 どんな状態でも、本人が幸せだと思っていれば、幸せよ?」

「・・・そういう意味じゃなくて、

 その・・・

 ミナトさんはどう言う状態なら、

 自分は間違いなく幸せだと思えると思いますか?」

「私?

 そうねぇ・・・具体的に・・・は言えないけど良い?」

「かまいません」

「満たされている状態・・・かな?」

満たされている。

自分にとって、もっとも大切な物を得ること、

自分の好きな人と一緒にいる事・・・

それなら、十分に満たされていると思うのですが・・・

「・・・ですよねぇ」

「何?

 違うの?」

「違う・・・らしいから困ってるんです」

違うそうです。

もっとも、"満たされている"と言う言葉に、

私が思いつく以外の意味があるのかもしれませんので、"らしい"ですが・・・

「具体的に話してくれない?

 幸せとは何か?・・・だけじゃ、

 一般論しかいえないわ」

そうですね、始めからそうすれば良かったんですね。

「はい、

 えっと・・・

 実は、アキトさんと話している時、

 こんな会話になったんです。

 もし、人生をやり直せたとしたら、

 今より不幸になるだろうって・・・

 やり直したらできるであろう、

 先の先まで読んで、一番正しい選択肢を選ぶ人生より、

 限られた時間で、一番正しいと思う選択肢を選び取らなくてはいけない、

 後悔の連続の人生の方が、幸せだって・・・

 ・・・なんでですか?」

悩むことが大切だと言う意見はわかる。

しかし、先を知っていても正しい道を選ぶには悩む必要があるでしょうし、

先を知っていても、不測の事態はおき得るはずです。

「それは、今の私たちとかけてあるわけ?

 あなたたち、この戦争の裏側を知っていた人たちと、

 今それを知らされた人たちを・・・」

と、悩んでいると、予想もしなかったことを切り返された。

・・・そうですね、そう言う考え方もありますね。

「・・・ごめんなさい」

「まぁ、謝ってもらうぐらいの事ではあるわね、

 切実に悩んでる私たちをネタにされたんだから・・・

 でも、別に責めてるわけじゃないわ、

 気にしないで」

ミナトさんは、気にしていないと言わんばかりに顔の前で手を振ると、

そう言ってくれました。

「ありがとうございます」

「で、質問の答えだけど・・・

 アキト君は、その問いになんて答えたの?」

「・・・答えてくれませんでした、

 宿題だ、自分で考えろって・・・」

「私もアキト君の意見に賛成よ、

 自分で考えなさい」

「お願いします、教えてください」

「その答えは、自分で考えないと意味がないんじゃない?」

「でも・・・」

それで納得できるのなら、始めから相談に来ません。

「そうね・・・

 確かに、ルリルリにはちょっと難しすぎるかも知れないわね・・・

 大人になれば、解るかもしれないけど・・・

 ヒントぐらいは良いかな?

 ・・・人はね、一人じゃ幸せにはなれないのよ。

 他人を知っているから・・・」

ヒントといって、解りきった事を言います。

しばらく考えた後、一つの答えが出てきました。

わざわざアキトさんがそんな宿題を出すとは思えませんが・・・

「・・・

 その人の、もう一つの姿を知っているから・・・ですか?」

「ああ、そういう考え方もあるわね、

 でも、この場合それは関係ないわね」

・・・違いますか。

「・・・解りません」

「それを考えるのが、アキト君からルリルリへの宿題でしょ?

 せいぜい悩みなさい。

 それが、私たちをネタにしたことに対するお仕置きよ」

一人では生きていけないと言うのは、

今のように先を知っている事で、孤立すると言うことでしょうか?

「・・・

 別に先を知っていても、友人はできますよ?

 むしろ、死ぬとわかっている人たちを助ける事もできるんですから、

 一人にはならないんじゃないんですか?」

「私はアキト君じゃないから本当の答えは解らないけど、

 たぶんそれはアキト君が望んでいる答えじゃないわね」

「じゃぁ・・・」

「ヒントはさっきのだけよ。

 さぁ、アキト君の所にでも行って、悩みなさい」





「ねぇ、皆どうする?」

「ナデシコを降りるかって?

 そうねぇ、

 アキトさんは残るみたいだったけど・・・」

「結局、人間相手に戦うことになるのよね?」

「そうだって、アキトさんは言ってたよ?」

「じゃぁ、敵のパイロットとか死んじゃうのかしらね?」

「そうでしょうね・・・」

「嫌だなあぁ」

「私たちが直接殺すわけじゃないけど・・・」

「その人たちを助けているわけだから・・・」

「人殺しの片棒を担ぐのはねぇ・・・」

「やっぱり軍のする事は信じられないよね」

「そうそう、そんな重大な事隠してるなんて、ホント信じられない」

「さすがは軍よね」

「でもさぁ、

 私たちって、軍人になるんでしょう?」

「違うってプロスさんが言ってたでしょ?」

「軍人と軍属ってどう違うのかな?」

「さぁ?」

「なんか軍に雇われてるって言ってたけど・・・」

「じゃぁ、今まではどうなってたの?」

「ただの協力者?」

「そんなとこじゃない?

 拒否権があるってことは、

 下請けじゃないってことでしょう?」

「そんな事私に聞かれても困るわよ」

「そりゃ、そうよね」

「でも、いずれにしろ軍に関わりあうのは確かなんだよね」

「でも、軍人じゃないんでしょ?」

「そうかもしれないけどさぁ、

 たとえば友達に会った時に、

 軍人じゃなくて軍属だって言って、納得させられる?」

「その二つの違いがイマイチわからない以上、難しいわね」

「結局、私たちがどう思うかじゃなくて、周りの人たちがどう思うかでしょ?

 私たちが、軍人と軍属の区別がつかない以上、

 皆もつかないもん。

 一緒にされるの嫌だなぁ」

「結構きついわね、あんた」

「だってホントの事じゃん」

「確かに・・・」

「「「「はぁ」」」」

「何暗くなってるのよ、

 ナデシコが暗いからこそ、

 食堂は明るくなくちゃいけないって、ホウメイさんも言ってたでしょ?」

「だって・・・」

「暗くもなるよね」

「「「うんうん」」」

「そりゃそうだけど・・・」

「大体、皆沈んでるじゃん、

 食堂だけ楽しくしてても、変だし・・・」

「そ、そんな事ホウメイさんに言ってよ」

「第一に、あの艦長ですら落ち込んでるんだよ?

 そんな状態で落ち込むなっていわれても、無理だよ」

「あんた、なにげにひどい事言ってるわね」

「そ、それでも、とにかく明るくしないと行けないの!!」

「何一人でいい子ぶってるの?」

「きっと、一人で点数稼いでるんだよ?」

「「「ア〜ヤダヤダ」」」

「な、何よ、そんなわけじゃ・・・」

「それに、今お客さんもいないし・・・」

「ホウメイさんもいないんだからさぁ」

「息抜きぐらいしても良いじゃない」

「それはそうだけどさぁ、

 近くで暗い話されると、こっちまで暗くなっちゃうじゃない」

「?

 何暗くなったら困るような事やってるの?」

「え?」

「そうね、

 今の言葉を整理すると、

 暗くなったら困るようなことしてるから、

 私たちに当たってきたってことよね?」

「何やってるの?」

「そ、それは・・・」

「あ、解った!!

 きっとアキトさんに差し入れでも持っていくつもりだったんだ」

「なるほど、

 それなら、暗い気分で作りたくないと思うのも当然ね」

「まぁ、それは置いといて・・・」

「抜け駆けは駄目だよ?」

「そうそう、

 大体、差し入れなんかもって行かなくても、

 アキトさんたちはトレーニングが終わったら、

 間食をとりにくるじゃない」

「ちょっと意地汚いよね?」

「で、でもさ、最近やたらと気合入れてトレーニングしてるし・・・

 もって行った方が良いかなって・・・」

「認めたわね?」

「うっ」

「昨日も一昨日も、気合入れてトレーニングしてたけど、

 終わったら来たじゃん」

「苦しい言い訳ね」

「うぅ・・・

 そ、それは置いといてさ、

 なんでアキトさんは、木星蜥蜴の正体なんて知ってたのかしらね?」

「逃げようったってそうはいかないわよ?」

「でも、確かに何でだろう?」

「さぁ、

 艦長じゃないけど、アキトさんだからね」

「何でもあり?」

「確かに、不可能はなさそうだよね」

「王子様って雰囲気じゃないけどね」

「どっちかって言うと、正義の味方・・・かな?」

「そうそう、変身したりして」

「アキトさんを、あれ以上強くしてどうするのよ?」

「ヤマダさんじゃないけど、スーパーロボットのパイロットじゃない?」

「それにしては影が強いけどね」

「やたらと暗い過去が多い主人公のでてくる話もあるんじゃない?」

「さぁ?

 私はそう言う話には、疎いから・・・」

「ヤマダさんなら知ってるでしょうけど・・・」

「わざわざ聞きに行きたくないよね」

「そのままビデオとか見せられそうだし・・・」

「間違いないわね」

「イネスさんでも知ってるかも・・・」

「ああ、あの人も何でもアリよね」

「でも、あの人に聞きに行く位なら、ヤマダさんの方がマシだな・・・」

「う〜ん・・・

 微妙なとこね・・・」

「アキトさんも知ってるかも知れないわよ?」

「え?」

「だって、いつかヤマダさんが注文していた、

 ゲキガンガーのなんたらかんたらとか言う注文に、

 完璧に答えてたのよ。

 まぁ男の子だから、小さい時によく見ていた程度かもしれないけど・・・」

「そう言えば、アキトさんと言えば、

 なんか帰ってきてから雰囲気変わったよね?」

「そうそう、

 なんか・・・透明になったって言うか・・・」

「あったかい感じかな?」

「それもあるけど、

 なんか・・・

 遠くに行っちゃった感じ?」

「太陽みたいって事?」

「そうそう、

 やさしいし、近くにいて安心できるって言うか・・・

 護られてる感じがするんだけど、

 なんか親近感がないって言うか・・・」

「前は、闘ってる時は違うけど、

 料理作っている時は身近に感じたのにね?」

「でも、一人で料理している時は、

 今みたいな感じだったよ?」

「まぁ、さすがはアキトさんってことでしょ?」

「あんた・・・

 アキトさんに関する、全ての疑問をそれで済ます気?」

「でもさ、

 なにせほら、アキトさんだし・・・」

「言いたい事は解るけどね?」

「そう言えば、アキトさんの機体見た?」

「見た見た、

 ちょっとアレだけど・・・」

「確かに、ちょっと恐いよね」

「でも、やっぱりアキトさんよね、

 絶体絶命の危機を、一瞬でひっくり返しちゃったんだもん」

「あれで大破状態だったんでしょ?」

「らしいわね」

「整備班が、不眠不休で修理してるもん」

「整備班としては、何かに打ち込んで居たいんじゃない?」

「余計な事考えないですむように?」

「そうそう、

 やっぱり、皆悩んでるのよ」

「でもさ、ルリちゃんも悩んでいるみたいだったよね?」

「それが?」

「ルリちゃんは知らなかったのかな?」

「そうね、言われて見れば、

 アキトさんといつも一緒にいるんだから、

 知らないと言うのもおかしいわね」

「西欧の方で調べたんじゃない?」

「なるほど・・・」

「確かに、ナデシコにいたんじゃ、機密情報を見つけるのは難しそうね」

「軍のコンピュータとも、直接は繋がってないものね」

「でもさ、ジュンさんはあんまり悩んでないみたいだったわよ?」

「まぁ、副長は士官候補生だったらしいから、

 そのせいじゃない?」

「士官学校では、さすがにそんな事教えないでしょ?」

「そう言う意味じゃないでしょ?」

「人間相手に戦争する覚悟なんて、とっくに出来てるって事じゃないの?

 違う?」

「さぁ?

 私は副長じゃないからね」

「でもさ、艦長は悩んでるみたいだよ?」

「艦長は特別」

「艦長を基準にしちゃ駄目よ」

「軍人以前に、人間として特別だからね」

「私たちの常識で理解できる存在じゃないわよね」

「うぅ〜、

 そんな皆で責めなくてもいいじゃん」

「だって・・・」

「まぁ、とにかく普通の軍人としての反応は、

 ジュンさんを参考にするべきってことよ」

「軍人って言えば・・・

 キノコは?」

「あぁ〜、

 いたわね、そんなのも」

「そう言えば、あれは軍人だったわね」

「あの軍キノコは、悩むとかそう言う高等な知能があるかどうか自体疑問だけど・・・」

「そんなことより、あんたよくあんなのの事覚えてたわね」

「えっへん」

「でもさ、アキトさんって、なんかキノコに肩入れしてるよね」

「そうねぇ、何でかしら?」

「あんなのほっといても良いのにね」

「あぁ、疲れた、

 とりあえず飯食おうぜ、飯」

「ホント、もうお腹ペコペコ」

「でも残念ね」

「何がだよ?」

「「アキト君の料理は食べられなくて」」

「な!!」

「やっぱり、疲れて帰ってくると・・・」

「エプロン姿のアキト君が、

 お帰り、ご飯にする、お風呂にするって出迎えて・・・」

「「そのまま二人に世界へ・・・」」

「テ、テメーら!!」

「リョーコ・・・」

「アキト・・・」

「ま、待ちやがれ!!」


「お客さんみたいだよ」

「まぁ、この調子じゃあの三人はしばらくは来ないでしょうけど・・・」

「アキトさんたちは来るんじゃない?」

「そう言うこと、

 さぁ、準備準備!!」



そして、数日後、

明日ヨコスカドックに入るとかで、

エリナさんがブリッジに集合をかけた。

ヨコスカドックに入るタイミングは、前とあまり変わらなかったようだ。

もっとも、補給のために入る以上、

そう簡単に時期がずれるとも思えない。

戦闘は多少増えたようだが、

グラビティ・ライフルとか、簡易型DFSなんかを使えば、

相転移炉からのエネルギーだけで戦えるわけだし、

機械が増えた分、整備用の部品は必要かも知れないが、

被害が少なくなれば、その分使いまわしも可能になるわけで、

まぁ、たいした違いにはならなかったのだろう。

それ以外に関しては、数人クルーが増えているとは言え、

始めから解っていれば、そのくらいは何とかなる範囲だろう。

「はいはい、皆注目!!

 ほら、人の話を聞く時は、相手の顔を見る!!

 そこ、おしゃべりをしない!!

 艦長も手遊びをしない!!

 髪の毛が気になるんなら、後にしなさい!!

 ハイ、いいわね?

 えぇー、明日にはとうとうヨコスカドックにつきますが、

 ネルガル重工の一員として、恥ずかしくない行動を心がける様に。

 そもそも、我々は補給のためによるのであって、

 決して遊びで寄るわけではないのです。

 皆さん一人一人が、きちんとそれを・・・



 =中略=



 ・・・と、解った?

 基地の外に出る人は、詳しい予定をこの用紙に記入して、

 前日までに私かミスターに提出して許可をもらう事。

 他にも、立ち入り禁止区域には近付かない事、

 後私たちは軍の人たちにお世話になっているんだから、迷惑をかけない、

 きちんと大きな声であいさつをしなさい。

 ゴミはちゃんとくずかごに、

 来た時よりもきれいにして帰ってくる事、

 何があっても日没までには戻ってきなさい。

 どうしても遅れる時は、その一時間前までに私かミスターに連絡を入れること。

 五分前行動を心がけるようにしなさい。

 そのほか注意事項はちゃんとしおりを・・・

 って、聞いてるの?」

エリナさんが、基地での過ごし方を指導しているが、

やっぱりと言うか、当然と言うかだれも聞いていない。

というか、注意事項が小学生の遠足みたいなんだが・・・

まぁ、今まで補給はネルガルが行っていて、

軍の基地を使う事はなかったから、

今までと同じ感覚でやられると困るのかもしれないが、

最初の時も前回もこんなことしてなかったと思うんだが・・・

「たぶん憂さ晴らしですよ」

「・・・そう?」

口に出していないはずの言葉に、明確な返答があった事は無視して、俺は答えた。

今に始まったことではないし、気にしたって始まらない。

大体、それはお互い様だ。

「ええ、多分、

 最近ストレスがたまっているようですし・・・」

「まぁ、イネスさんの説明ほど威力はないから、別にかまわないけどね?」

「あれほど威力があるのなら、

 何とかしてストレスを解消してもらう必要があります」

「全くだ」





結局、ナデシコを降りたものは数名だったので、

やはり、ユリカの演説は効果があったようだ。

もっとも、俺は降りる、と言ってプロスさんに話をしに行って、

説得されて戻ってきた人もそこそこいるようだが、

交渉のプロに口で勝つのは難しいと言うことは、気にしてはいけない。

・・・まぁ、ナデシコクルーの大半が入れ替わるとかいうことにならなかったので、

口を挟む余地はない。





で、翌日、

クリスマスの前日になって、ようやく

シュンさんたちがやってきた。

で・・・その後、やはり皆に追いかけられる事となった。

まぁ、十二分に予想できたことではあるが・・・

全く、このままじゃ泥沼だよな・・・

二回目のルリちゃんたちは気が付いていないようだったけど、

コミュニケの反応がわかるということは、

監視されているとそれがわかるので、

無意識の内に警戒するから、非常につかれる。

空間が変なんだよ、コミュニケが動いてると・・・

さすがに四六時中周りに不安定な気配があると、

どうしても・・・ね。

さて・・・

何とかしないとな・・・





「っと・・・

 あのー、プロスさん?」

「おや、テンカワさんにルリさん。

 何かようですかな?」

私たちがプロスさんの元を訪れると、

例によって例のごとくといった言い回しで迎えられました。

「用もないのに、わざわざ声をかけるわけがないでしょう?」

「はは、その通りですな、いやこれは失礼、

 今のは忘れてください」

・・・相変わらず食えない人ですね、この人は。

「そんなことはどうでも良いんだが・・・」

「ハーリー君たちを、サブオペレーターとして、

 ナデシコに乗せるという話はどうなったんですか?」

「ハーリー君?

 ああ、マキビ博士の・・・

 確か、ハリ君でしたね。

 ハリ君だからハーリー君ですか・・・

 安直ですなぁ・・・」

と、プロスさんが一人で納得していますが、

予定では明日には白鳥さんたちがやってくるはずです。

そんなとぼけた会話をかわしている余裕はないんですが・・・

「そんなことはともかく、期限は明日だぞ?

 俺はてっきり、今日シュンさんたちと一緒に来る物とばかり思っていたんだが・・・」

その通りです。

アカツキさんならともかく、

まぁ、アカツキさんもいいかげんな振りをして、

意外に抜け目がないので、実際は違うでしょうが、

とにかく、プロスさんは期限ぎりぎりまで、ことを伸ばしたりしないタイプだと思うのですが・・・

「はぁ・・・

 それはそうなのですが、こちらとしても色々と事情が・・・

 何せ、年齢が年齢ですから・・・

 ネルガルの船に乗せる分には、まだ問題が少ないのですが、

 一応軍艦と言う位置付けになってしまったので・・・

 私としては、ナデシコが純粋にネルガルの船であるうちに、

 彼らをナデシコのクルーにしてしまい、

 元々ナデシコクルーだったということにして、何とか書類を通すつもりだったのですが、

 軍の対応が予想外に早くてですな、

 そちらの書類が通る前に軍に入れられてしまったわけですよ。

 いや、申し訳ない」

なるほど・・・

さすがはプロスさん。

言い訳なのか、本当なのかはわかりませんが、

非常にもっともらしい理屈です。

が、理屈が完璧なら許されるのなら、苦労はしません。

「申し訳ないのはかまいませんが、明日中に何とかなるのですか?」

「はぁ・・・

 手厳しいですなぁ、

 ええ、一応何とかしては見ますが・・・」

「何とかしてみるのではなく、

 何とかしてくださいね?」





第五十九話に続く





あとがき

ルリ君ですが・・・

彼女は即物的な発想をする人だと思います。

機械的な思考と言うか、解り易い目に見えるものを優先すると言うか・・・

一緒に悩んでいること自体に意味があると言うのは、ちょっと解りにくいでしょう。

確かにほしい物が手に入れば幸せでしょうが、しかし・・・



ホウメイガールズの井戸端会議・・・

全く地の文がありませんが、

これは、どれが誰の台詞か、私にもわからないからです。

もっとも、地の文が必要な文章じゃないと思うのですが・・・

読みにくいですかね?

読みにくいようでしたら、これに地の文を入れて書くことは私には出来ないので、

ホウメイガールズの井戸端会議は、今回で最後にしますが・・・



とりあえず西欧の方々がやってきましたが・・・

駄目です。

私に、同盟VSアキト君はかけません。

苦手なんですよね、ああいうノリが・・・

もっと、暗くてじめじめした陰湿な戦いなら得意なんですが・・・

そんな訳で、景気良く飛ばしました。

どうしても気になる人は、「時の流れに」のシーンを思い浮かべてください。

多分、大体同じようなものです。

特に差別化を果たすのは難しいシーンですし、

どう考えても同じ内容の話を書いて管理人様より面白い話を書くのは不可能です。

まして、私の苦手分野なのですからなおさらです。

よって、これからもよほどの事がない限りこの手の話は書かないでしょう。





追記

確かに必ずしもヒロインが可愛い必要はないでしょうが、

ヒロインが嫌なキャラであるわけにはいかないでしょう。

可愛い方が良い、と言われたと言うのはきっかけに過ぎません。

どちらにせよ、このままでは嫌なキャラになりそうでしたので、

遅かれ早かれ進路修正は行ったでしょう。

たまたま、その時可愛く、と言われたので、

進む方向が、可愛い方に向かうことになっただけです。



もっとも、ルリ君は私の中では元々やや傲慢なところのあるキャラですので、

目立たなくなるだけで、傲慢な部分はなくならないでしょうが・・・





追記その2、

すいません、テツジンのシーンまで行く予定だったのですが、

予想外に話が伸びてしまいました。

エリナ様関連のネタを書きたいのですが、

そうすると、話が異常に長くなってしまうので、

二つに分ける事にしました。

後ラピスの話も書きたいですし・・・

一応テツジンのシーンはほぼ書き終わっているのですが・・・

内容の薄さは、更新速度を上げる事で対応させて頂きますので、

なにとぞ、ご容赦ください。

 

 

代理人の感想

決められた道をただ歩くよりも♪ 

選んだ自由に傷つく方がいい♪

 

とでも言いたいのかな、彼は?

まぁ、それも幸せの定義と同じく人それぞれだとは思いますが。

私なんかは孤独でも幸せになれない事はないと思ってますしね。