「・・・と、言う訳で、

 シャクヤクを改造してジャンプユニットを建造、取り付ければ、

 あっという間にジャンプ対応艦の完成だ。

 具体的なことは、もうほとんど済ましてある。

 数日中には、見積もりが出るはずだよ」

「しかし・・・

 ならば、ナデシコでもカキツバタでも良いじゃないですか。

 わざわざ、最強の艦であるシャクヤクを・・・」

「シャクヤクが一番改造しやすいんだよ。

 そもそもユニットをつけることを前提としてるからね」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第六十七話 月臣





会議が始まって一時間はたつが、

重役たちはあれこれ文句をつけるばかりで、一向にまとまらない。

とは言え、あいつらも言っていた通り、

ボソンジャンプの実用化は、ネルガルにとって長年の悲願だ。

スキャパレリプロジェクトの最終形態・・・

ナデシコ級最強・・・ひいては、地球圏最強の戦艦、

と、いう名前には、やはり未練があるようだが、

ボソンジャンプとは比べるべくもなかろう。

それに、木連が曲がりなりにも、単独でのボソンジャンプを実現した今、

そのために新しい船を作っている余裕はない。

それもわかっているはずだが・・・

けどなぁ・・・

「大体、本当にこれでボソンジャンプ・・・

 有人ボソンジャンプが可能なのかね?」

「可能だ。

 なんなら、処女航海に立ち会おうか?」

「し、しかし、こう言うものはデータの裏付けがないと・・・」

「そうだ、いきなりこんなことを言われても困る。

 シャクヤクはもうほとんど完成しているんだ。

 なぜもっと早く言わなかったんだ」

ふぅ、全く・・・

俺は、全然進展しない会議を聞きつつ、

気付かれないようにため息をついた。

自分たちが主導権を握りつづけないと、

一度主導権を渡したら取り返すのは無理・・・か。

まぁ、潔く引くことができない時点で、

まさしくその通りだろう。

全く粘らないのも問題だが、負けを認められないもの問題だ。

「だから言ったろ?

 この間ようやく僕が口説き落としたんだって。

 それに・・・忘れたわけじゃないよね?

 ボソンジャンプの実用化に優る急務はない・・・

 ・・・て、さっき自分たちが言っただろ?

 そのために、シャクヤクを使おうと言っているんだ。

 文句を言われる筋合いはないと、思うけどね?」

「くっ・・・」





その後、俺たちは駄々をこねつづける役員たちを何とか説得することに成功し、

ようやく開放された俺は、食堂へと向かって、プラントの中を歩いていた。

アカツキはいまだに文句があるらしい役員たちと、

細かい打ち合わせをするというので、あの後すぐに別れた。

どう考えても、さらに愚痴やいやみを聞かされることになると思うが・・・

まぁ、会長の義務だ、頑張ってくれ。

で・・・俺の方は・・・

食堂への向かう途中、エンジニアらしき人に呼び止められていた。

どうやら、ブラックサレナ・・・小型相転移炉について、質問があるらしい。

当然、そんな専門的なことを答えられるはずもなく、

ブロスとディアの助けを借りて、何とか質問に答えていたが、

通訳をしているようなもので、当然答えるまでに数秒のタイムラグができる。

幸い、技術的に難しい質問なので、

ちょっと考えてから答えているのだと思っているようだが、

長くかかると怪しまれる・・・

「はぁ、でもそれだと、ここは・・・」

「ええ、ですからえっと・・・」

『そこは・・・』

と、途方にくれつつも、きっかけがつかめずに話し込んでいると、

突然通信が入った。

「あ、スイマセン、ちょっと・・・」

「え?

 ああ、いいですよ、

 大体わかりましたしから。

 じゃぁ、また後で。

 そうか、膠着子を・・・

ぶつぶつ呟きつづけている作業員に背を向けて、

俺は、できるだけここに近付くのはよそうと誓いつつ、

人気のない場所へと移動する。

『後でイネスさんを紹介すれば?』

(イネスさんか・・・

 熱心な生徒ができて喜びそうだな)

『ついでに、説明地獄からも逃れられるし?』

(まぁな。

 別にわかりにくい説明じゃなく、

 ちゃんと聞いていれば、俺なんかにも理解できるように説明してくれてるし、

 専門用語が出てきても、きちんと注釈をつけてくれるし・・・

 もっとも、そのせいで長くはなっているけど、決して無意味に長い説明って訳じゃない。

 むしろ、質を考えれば、驚異的といえるほどに、短くまとめてあるんだから、

 説明としては、かなり理想的といえるんだが・・・

 ただ、誰もそんなこと詳しく知りたがっていないって事がわかってないんだよな)

『そうそう、

 詳しい原理まで知らなくても、

 効果と使い方、使用上の注意さえ知っておけば、

 とりあえずは困んないしね』

全くだ。

と、ため息をつきながら、周りを見回し、

人がいないことを確認してからコミュニケのスイッチを入れる。

ピッ!

「アキトさん」

「ああ、ルリちゃん、おはよう」

「あ、はい、

 おはようございます・・・て、

 そうじゃなくて・・・」 

「わかってる、

 チハヤさんが動いたんだろ?」

このタイミングなら、それしか考えられない。

急がないといけないな。

と、思ったのだが・・・

「ええ、

 まぁ、そういえないこともありません。

 ですが・・・」

どうも歯切れが悪い。

「?

 ブラックサレナごと盗むつもりだとか?」

「いえ、そうでなくて・・・・

 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 と、言うわけなんです。

 どうやら、役員たちの差し金のようですが、

 詳しいことはわかりませんでした。

 そもそも、彼女と役員たちのつながりも見えてきませんでしたし・・・

 どういうことでしょう?」

チハヤさんがナデシコに・・・ねぇ?

「一応、彼女はネルガルに所属していたはずだから、

 どうしてもおかしいと言うことはないが・・・・

 そうだな、忙しいとは思うけど、一応注意しておいて」

「はい、それは既に・・・」

しかし・・・

本当に、何が彼女の行動を変えたんだ?

テツヤが自殺したことが原因か?

しかし、自殺に追いやったのは俺だ。

そんなことで納得できるようなら、初めから復讐など考えないだろう。

・・・俺の知らない何かがあるのか?

となると・・・

「後、シュンさん達に相談した方がいいかもしれない。

 テツヤの事が事態の引き金になっていることは間違いないはずだから・・・」

シュンさんなら、何かを知っているかも知れない。

テツヤについて、俺の知らない何かを・・・





ラピスちゃんを追いかけて、

ブリッジへと向かう廊下を小走りに進んでいると、

天井に何か影を見たような気がした。

天井に影?

ナデシコクルーなら、ありえない事はないかもしれないけど・・・

自室ならともかく、廊下でそういうことをするのは、止めて欲しいわね。

そう思い、注意しようと立ち止まって上を見上げたその瞬間・・・

突然私の真上にその影が落ちてきた。

「きゃぁ!!」

そして、私はそのまま倒れて、

床で頭を打ってしまう。

ガン!!

・・・良い音がした。

でも、けっこう鈍い音だったから、

脳はちゃんと詰まっているみたいね。

・・・じゃなくて。

一瞬遅れてやってきた痛みに、私は後頭部をさすろうとして、

腕が動かないことに気が付く。

驚いて、目を開けると・・・

見た事も無い人が、目の前にいた。

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

お互いに見つめあったまま、凍ったような時が流れる

天井に張り付くなとは言わないけど、

一応下を確認してから下りてちょうだいよね?

と、ちょっとずれた感想が、脳裏をよぎる。

きっと頭を打ったせいね。

けど、この人は誰かしら?

確か、こんな人はナデシコにいなかったと思うんだけど・・・

と・・・そんな事言っている場合じゃないわね?

「どうでも良いけど、

 いいかげん下りてくれない?

 重いんだけど?」

彼は、いまだに私の上に押しかかっていた。

「し、失礼しました!!」

そう言って、彼は脇に飛びのくと、

床に頭がつかんばかりに、深々と土下座してきた。

そのまま延々となにやらしゃべっている。

どうやら、謝罪の言葉みたい。

私が立ち上がっても、

彼は額を床にこすりつけたまま、

やたらと時代がかった、大仰な謝罪を続けている。

もし、上から降ってきて、すぐに動けたのなら、反射的にひっぱたくこともできたけど、

この期に及んでは、それをするのも・・・

今叩いたりしたら、私が悪者になってしまう。

それに・・・

・・・面白い。

怒る気力もうせるほどの、みごとな謝罪ね。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

そのまま観察を続けること数分、

どうやらこの人は、

私から許しをもらうまでは、梃でも動かないつもりらしい。

額を床にこすりつける、さっきの姿勢のまま、

延々と謝罪を続けている。

さらに、さっき気が付いたことだけど、

それだけ謝っているのに、

一度として、同じ言葉を繰り返していない。

よくもまぁ、そんなに謝罪の言葉が口に出るわね?

こんなにいじめ甲斐のある人も珍しいわ・・・

私は、半ば呆れながら、その人の目の前にしゃがみこみ、

見下ろすようにして観察を続ける。

もはや、押し倒された怒りなど、微塵も残っていないし、

人に見られたらどうしよう・・・

と言う気持ちもないではなかったけど・・・

ここで許しを出すのも、なんか癪よね?

こうなったら、この人の語彙が尽きるまでは許さない事にしましょう。

途中で、なにやら放送があり、

警報もなったけど、この人が立ち上がらない以上、

立ち上がるわけにはいかないわ。

私は、そんなくだらないことに執念を燃やしつつ

さらに観察を続ける。

すると・・・

「腹を切るつもりなら、

 俺が介錯を勤めるぞ?」

と、突然後ろから声をかけられた。

驚いて後ろを振り返ると、

ナオさんが立っていた。





アキトさんに通信を入れ終わった後、

ブリッジにやってくると、

ハーリー君がうめいていました。

「ハーリー君、調子はどうです?」

「はい、意外とフレンドリーなので、一応心は開いてくれたみたいなんですが・・・」

どうやら、ナデシコCのオモイカネとの違いに、やや戸惑っているようです。

「そうですか、

 まぁ、色々と試してみることですね。

 信頼関係と言うものは、双方が歩み寄って成り立つものなんですよ?

 一方的に押し付けたりしていては、

 いつまでたっても、まともな信頼関係など築けません。

 押してだめなら引いてみな・・・と言うでしょう?」

「はぁ・・・」

そういいながら、私はサブオペレータ席に付きます。

ハーリー君が、慌てて席を立とうとしましたが、

戦闘が起こるわけでもありませんし、

いちいちそんなことをやる必要はないでしょう。

「で・・・白鳥さんの様子はどうです?」

サブオペレータ席に座ると、ハーリー君に小声で話し掛けます。

「えっと・・・

 スイマセン、

 そこまで手が回らなくて・・・」

「そうですか・・・」

フム・・・おかしいですね。

そんなに苦労するようなことではないはずなのですが・・・

そう思いつつ、私は白鳥さんの捜索とオモイカネのログの引き出しを同時に行ない・・・

ため息をつきました。

「ハーリー君?

 こんなことまで、私がやってあげなくてはいけないのですか?」

「ひぇ?」

思わず、どこから声を出せば、そんな声が出るんですか?

・・・と突っ込みたくなるような声で、ハーリー君が答えます。

「なんで、私がわざわざハーリー君の設定までしなくてはいけないんですか?

 使いにくいのであれば、使いやすいように設定しなおせば良いじゃないですか」

「え?

 あの・・・その・・・えっと・・・」

相変わらず、応用力に欠ける子です。

「とりあえずは、そこからスタートですね」

全く・・・IFS対応のコンピュータを初期設定のまま使いますか、普通?

うなだれながら設定をしなおしているハーリー君を視界の隅に捕らえつつ、

私はミナトさんと白鳥さんの捜索を続け・・・

幸い、どこかに隠れているとか言うことはなかったので、

すぐに見つかったことは見つかりました。

ですが・・・

目の前のウインドウには、土下座した白鳥さんと、

その目の前にしゃがみこんで、それを見下ろしているミナトさんの姿が映っています。

・・・一体、何が起こったのでしょうか?

と、その時、ドアの開く音とともに、ラピスが入ってきて、

私たちの後からそのウインドウを覗き見ます。

・・・どうでもいいですが、重いです。

寄りかかるのは止めてくれませんか?

と、私が白い目で見ているのに気が付かないのか、

それとも無視しているのか、

ラピスは全く意に関することなく、ハーリー君に話し掛けます。

「ハーリー、これ何やってんの?」

「知らないよ、

 僕も今見始めたところだもん」

「なんで知らないの?

 全く、何でハーリーって、肝心な時に役に立たないんだから」

「そんなぁ〜〜」

そんな二人のやり取りに、

警報音と、侵入者注意のアナウンスが重なりました。

「艦内に侵入者の形跡あり、

 できるだけ単独行動は控えるよう・・・」

しかし・・・

本当に、一体何があったのでしょう?





ルリちゃんとの通信を機に、何とか質問攻めから逃げ出したあと、

食堂へ向かって歩いていると、突然警報が鳴り響いた。

「月臣の登場・・・か、

 さて、急がないとな」

ラピスからの報告では、

さっき、白鳥さんはミナトさんと一緒にいるところをナオさんに発見されたらしい。

まぁ、そっちの方はユリカに任せておけば、そうひどいことにはならないだろう。

しかし・・・どうしても、ミナトさんと白鳥さんは出会うらしいな。

こう言うものを運命とでも言うのだろうか?

千沙さんは報われないな・・・

まぁそんな事はどうでもいい。

それより、急がなくては。

北辰の潜入のタイミングはわからないが、

前回同時に攻撃されたのは、

月臣の攻撃とタイミングを合わせたからだ・・・と考えた方がいいだろう。

そう考えると、月臣の攻撃が、今まで遅れたのも、

同時攻撃を行うために、草壁が直接命令を出したと言う理由で説明がつく。

何より、攻撃がないと思っていて、実はあるよりは、

あると思っていて、実はないほうが、いくらかましだ。

そう思い、急いでエステのところまで走っていくと、

作業員に呼び止められた。

「出撃ですね?

 追加装甲は外したままです、

 七分あれば付けられますが・・・」

・・・そうか、そういえば、今回小型相転移炉は盗まれていないんだったな。

「そんな暇があると思うか!?

 武器は!!

 何でも良い!!」

「あ、はい、

 ラピッド・ライフルだったら・・・」

「貸せ!!」

そのまま、エステバリスに飛び乗ると、

ライフルを片手にプラントを飛び出す。

その時、頭にラピスの悲鳴が響いた。

(アキト!!

 アイツが・・・アイツが来た!!)





「くっ・・・

 やはり、鈍い!!」

成り行きで、エステに乗って出た前回と違い、

曲がりなりにも予想していた分、戸惑いは少ないものの、

やはり動きが鈍い。

さらにDFSもない。

「退け〜〜〜〜〜!!」

鈍い反応にいらつきつつも、

俺は月臣の駆るジンタイプに近づいていく。

右手には、ライフルが握られているが、

ジンタイプを相手にライフルでは、いかにも心細い。

とは言え、他にない以上仕方がない。

とどめは虎翔閃なり虎牙弾なりを使うとして、

牽制になら使い方によっては十分いけるはずだ。

俺は、月臣の攻撃を見切りつつ接近し、

ジンタイプのフィールドの波長に合わせてライフルを撃ちまくる。

ディストーション・フィールドは、常に一定の出力で展開されているわけではない。

ディストーション・フィールドは波長を持っていて、

同じ出力で展開していても、出力の高い時と低い時が生じる。

当然出力が弱まった時に攻撃したほうが、防御力が低いため、

当然フィールドを突破しやすいし、フィールドにかかる負担も大きく、

全体的に攻撃力・・・対DF破壊力を上昇させることができるのだが、

その波長の周期は非常に短く、

さらにディストーション・フィールドの出力調整をはじめとする様々な要因が複雑に絡み、

理論上はともかく、現実問題としてはほとんど規則性など見出せないような複雑な周期を描くので、

それに合わせて攻撃するには、DFSのコントロールと、高速機動戦の両立以上の集中力を必要とする。

そのくせ、攻撃力はDFSとは比べ物にならないぐらい低い。

DFSを使えば、そんなものを気にしなくても、

戦艦のディストーション・フィールドぐらい紙のように突破できる。

そのため、普段なら全くと言って良いほど実戦的ではない戦術だが、

DFSを使えない状況なら、非常に有効な戦術ではある。

この場合は、フィールドを突破するよりも、フィールドに負担をかけるのが目的だ。

実際のところ、ライフルのみではディストーション・フィールドを突破しても、

ジンタイプの装甲に阻まれてたいしたダメージは期待できないのだが・・・

月臣も、自分の機体のフィールド出力はわかっているだろうから、

フィールドにかかる負荷を見て、こいつの出力を過大評価するだろう。

フィールドに馬鹿にならない負担をかけるような高出力武器があり、

(勝手に疑心暗鬼に駆られているだけだが・・・)

相手に、機動戦で圧倒された以上・・・

機動戦では、このまま突破されるし、遠距離戦は不利。

「となると、格闘戦しかないよな」

俺は、ライフルの間合いの内側に飛び込んできた月臣と間合いを取ると、

ライフルを左手に持ち替えつつ、バーストモードをスタートさせる。

そして、そのまま月臣の放ったパンチをノータイムで放った虎牙弾で迎撃する。

「必殺 虎牙弾・ゼロ式!!」

十分な収束時間無しに放った虎牙弾ではたいした威力はないが、

パンチの軌道をそらすぐらいのことはできる。

俺は、その隙をついてそのまま月臣の懐に飛び込こみ、

「同じく、

 虎翔閃・ゼロ式!!」

そのまま虎翔閃を放つ。

本来なら、見事に胸部のグラビティ・ブラスト発射口を切り裂くはずのそれは、

やはりため時間ゼロでは威力とコントロールが不十分だったらしく、

予定より大きく右にそれ、股から右肩にかけて大きな傷を作っただけに終わった。

仕方なく、フィールドが消えたのを確認すると、

切り裂かれた装甲の内側に、直接ライフルを打ち込む。

月臣はそれを避けようと後ろに下がろうとしたが、

機体が持たず、右腕がへし折れた。

とっさに月臣が、それを俺の真上に振り落とす。

「っと!!」

それを最小限の動きで避けた俺は、

それでもなお目を輝かすジンタイプとにらみ合う。

ピッ!!

「貴様!!

 よくも俺のダイマジンを!!」

その時、通信ウインドウが開き、月臣が通信を入れてきた。

生憎とゆっくり語り合っている暇はない。

「退け!!

 その状態で戦うつもりか?」

「ふ、余裕だな、

 しかし、その余裕こそが貴様の仇となるのだ!!

 くらえ、ゲキガン・・・」

と、月臣がグラビティ・ブラストを撃とうとしたその時、

ジンタイプの胸部から火花が飛び散り、

右脇腹あたりに小さな爆発が起きる。

「止めろ月臣!!

 機体が持たんぞ!!」

「な、なぜ俺の名を・・・」

「急げ!!」





往々にして、悪いことは、それが最も起きてほしくない時に、

しかもまとめて起きる。

ジンタイプの脇腹に爆発が起きた瞬間、俺の意識はそちらへ集中してしまった。

そのため、その次の瞬間に起きたことに、十分対処することができなかった。

俺が、思わず身を乗り出し、月臣に向かって叫んだ瞬間、

ジンタイプの胸部に爆発が起き、

壊れたグラビティ・ブラスト発射口から重力子が、

ほとんど全周囲に撒き散らされた。

ほとんど全周囲に撒き散らされたと言うことは、当然回避は困難を極めるということだ。

俺は、回避は不可能と判断して、

とっさにディストーション・フィールドを展開したが、

これが間違いだった。

冷静に考えるなら、回避と防御を、両方行うべきだったのだ。

元々準備途中だったものが、さらに全周囲に撒き散らされたため、圧縮・収束が不十分で威力は低く、

ノーマルエステはおろか、個人用のディストーション・フィールドほどの出力であっても、

十二分に防げる程度のものだったが、

さすがにディストーション・フィールド無しでは、無傷とはいかない。

エステは、ディストーション・フィールドで防御して、

完全に防ぐことができたが、

ディストーション・フィールドを持たないモノ・・・

地面や、足元に転がっていたジンタイプの右腕は、耐えられなかった。

足元の岩が破壊され、砂利状になっていたところに、

ジンタイプの右腕が爆発を起こし、足場が完全に崩壊する。

俺がミスを悟った時には時既に遅く、俺はバランスを崩してしまった。

当然、その隙を見逃してくれるほど、月臣は甘くない。

「くぅ・・・

 俺のダイマジンを!!

 許さんぞ!!」

そう叫びつつ、月臣はそのまま突っ込んできた。

普通なら、半壊して動きの鈍ったジンタイプの突撃が、

エステに当たるわけがないのだが、完全にバランスを崩した今、

月臣の腕を持ってすれば、普通の行動では回避できないだろう。

ならば・・・普通ではない行動をするまでだ。

「ちっ!!」

俺は、舌打ちをしながら、再び虎牙弾・ゼロ式を足元に放つ。

爆発の衝撃で、砂利が舞い上がり、煙幕代わりになるのと同時に、

その反動で起き上がるのが狙いだ。

同時に、スラスターを全開にして、無理やり上昇を開始する。

パイロットの腕とは、ミスをしないことでなく、ミスをカバーすることにある。

かなり強引な手段で、何とか少し体勢を立て直せたところに月臣が突っ込んできた。

「死ね!!」

その声を聞きつつ、俺は打開策を模索していた。

別に、当たったからといって、一撃で落ちるとは思わないが・・・

漆黒の戦神が、こんなことでダメージを受けるわけにはいかない。

ライフル・・・数歩先に飛ばされていて、拾っている暇はない。

DF格闘術・・・収束させる暇がない、

DF格闘術ゼロ式・・・コントロールがうまく行かず、手加減は難しい。

避ける・・・ぎりぎり可能、ただし分の悪い賭けとなる。

徒手空拳での戦闘・・・月面であることを考えるなら・・・可能、これだ!!

「これが最後だ、

 もし引かないのなら・・・

 次は命をもらう!!」

俺は、ジンタイプと衝突する寸前につかむように手を当て、

さらに機体の動きを同調させると、体全体を使ってジンを放り投げた。

ジンは人型を模してはいるが、完全な人型ではない。

そのため、普通の投げ技は難しいが、

相手が十分な速度で移動していれば、そのエネルギーを使って投げ飛ばすことは可能だ。

もっとも、重力の低い月面だからこそできる芸当で、

地球でやれば、投げ飛ばすのではなく、

その場に倒れこませると表現すべき状況になり、

下手すれば、下敷きになって潰されてしまう恐れすらあるが・・・

まぁ、ブローディアなら、完全な人型・・・翼がついているが・・・なので、

普通の投げ技も可能だろうし、

あのスペックを持ってすれば、潰される事も無いだろうが・・・

そんなことを考えつつ、地面に背中から着陸した俺は、

受身を取りつつライフルのある方向へ回転し、

素早く起き上がると、同時にライフルをつかんでジンタイプの頭部・・・

コックピットに狙いを定める。

ジンタイプはもうボロボロで、これ以上戦闘はできそうではない。

が、もしこれで引いてくれなかったら・・・

「く・・・

 これ以上の戦闘は・・・

 貴様!!

 名は・・・」

と、その月臣の声に別の声が重なった。





「月臣少佐!!

 ご無事ですか?」

「その機体では、もう戦えません、一度引いてください」

この声は確か・・・

「おまえたちは・・・」

「その敵パイロットはテンカワ アキトです。

 草壁中将は、月にテンカワ アキトがいることを感知され、

 援軍として自分たちをよこしました。

 その機体では、もう戦えません、後は自分たちに任せて、引いてください」

「く・・・

 すまない。

 テンカワ アキト、後日再戦を申し込む」

そういうと、月臣の機体は七色の光に包まれてジャンプし・・・

次の瞬間、予想通りといえば予想通り、

予想外といえば予想外の機体がジャンプアウトした。





第六十八話に続く





あとがき

引いちゃった・・・

と、言うよりも、

前回から悩んでいる、"ミナトさんの同行者"を誰にするか・・・

が、いまだに決まらないので引き伸ばしたんですが・・・

まぁ、愚痴っていても仕方がないので、

さっさと続きを書かなくては・・・



アキト君とエンジニアの会話・・・

月プラントの人間には、小型相転移炉の開発者もいるはずです。

「時の流れに」のブラックサレナがどのような形で、

小型相転移炉がどれくらいの大きさなのか知りませんが、

少なくとも三人で運べる程度の大きさです。

月面フレームのそれとは、比べるべくもありません。

自分たちもそれを作っているからこそ、

ブラックサレナの小型相転移炉のすごさがよく理解できるはずです。

さすがに勝手に分解までするとは思えませんが、

当然、並々ならぬ興味を持つはずです。

が・・・「時の流れに」では、そのあたりは全然触れていませんよね?

まぁ、触れていないだけで、何かしらの手は打ったのかもしれませんが・・・



後、テツヤについてですが、

テツヤが残したディスクにあるように、

分不相応に生きている人を殺すことが、

彼の真意かと言うと、必ずしもそうではありません。

一応色々と書いたつもりなのですが、

どうにも読み取り難いようですので解らないかも知れませんけど・・・

彼が、ああ言う遺言を残したのは、

ひとえにアキト君に英雄として生きてもらいたいからです。

ではなぜ英雄として生きて欲しいかと言うと・・・?

一応、シュン隊長は、そのあたりも含めて、全てを知っている・・・

と、言う設定にするつもりです。

チハヤさんとシュン隊長の会話を書かなくては行けませんし、

アキト君やジュン君とも話をさせなくては・・・

後、シュン隊長とフィリスさんの会話もまだですし・・・



やることがたくさん・・・

さて、これからどうするか・・・





追記

月臣との戦闘シーン・・・

一瞬で終わると言うパターンも考えていました。

実際それくらいの技量差はありますからね。

その場合やっぱりどこか抜けているブロスとディアのコンビと、

良く考えずに、それをそのまま実行するアキト君・・・

と、言う話になる予定でした。

ノリで月臣を殺しかけると言う、

ブロスとディアの、空恐ろしさ・・・と言うのも、書いてみたかったのですが・・・





追記その二

ミナトさんの同行者・・・

現在、試験的にいくつかのパターンを書いていますが・・・

どうにもうまく行きません。

誰か、アドバイスをくれませんか?







代理人の個人的な感想

・・・ハーリー苛められてますねえ(苦笑)

もうちっと有能に(つーか普通に役に立つ程度に)書いてもらっても

いいんじゃないかなぁ、とは思うんですが(苦笑)。