「新人類エヴァンゲリオンif」 Byプロフェッサー圧縮

    960924版Ver1.0

新人類エヴァンゲリオンif 其の弐「人であること」
HUMAN TOUCH





「・・・いいんですかミサトさん!?」
「もちよん。中学校は義務教育なんだから、行くのが当たり前でしょ?」

シンジが退院した晩。昔通りの、3人で囲む食卓で。

ミサトはさり気なく、取って置きのプレゼントをシンジに渡した。

「・・・ただし。分ってるとは思うけど、初号機の事は最高機密よ。いいわね?」
「は、はい!」

普通に暮らせる。

みんなと同じように、暮らしてもいいんだ。

そう思うと、目頭が熱くなって来る。

「・・・な〜に泣いてんのよ、ばぁか。」
「・・・泣いてないよ。アスカこそ、何言ってんだよ。」

そんな微笑ましい二人のやり取りを、ミサトはビール缶越しに眺めていた。

(あんなに喜んじゃって・・・単に《触らぬ神に祟りなし》ってだけなのよ、本当は・・・)

だが、本当に嬉しそうなシンジを見ていると・・・理由なんて、どうでも良いように思えて来る。

(・・・ま、いっか。シンジ君、あんなに喜んでいるんだから。)

思わず、口許が綻んでくるミサトなのであった。


          ◇          ◇          ◇


闇。

どことも知れぬ、底知れぬ空間の中に二人はいた。

一人は折り畳み式の椅子に座り、一人はその目の前で見下ろしている。

「・・・・・・指令。」

座っている方−−−−−−サラサラのプラチナブロンドをショートにした、神秘的な雰囲気の美少女が沈黙を破る。

「・・・・・・分っている。」

少女に問われた、暗闇の中でもサングラスを外さない男は、重苦しくも短い返答を返す。

そして、沈黙。

「・・・指令。」

再び、少女が言葉を発する。先程と同じ、しかし違う言葉を。

「・・・分っている。分っているからこそ、だ。」

男は、周りの闇が深くなりそうな声で答える。

否・・・・・・男の言葉こそ、闇そのものであった。

「命令、なんですね。」

少女がぼそり、と言う。

だが、いつもと同じく感情の籠らないはずの声音は・・・微かに震えていた。

「・・・そうだ。」

男の答えは簡潔で揺ぎない。揺らいではならない。もしそんな事になれば、男がこれから成そうとしている事全てが水泡に帰す。

「・・・・・・・・・分かり、ました。」

少女は答えた。闇が、わだかまるほどの時間をかけて。

男は−−−−−−それが当然であるかのように、全く表情を変えずにただ佇んでいた・・・・・・


          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・碇君。」

久し振りの学校の、久し振りの放課後。

玄関から出ようとするシンジの前に、少女は唐突に現れた。

「・・・あ、綾波。」
「・・・・・・今日、家に来て。」
「・・・・・・・・・・・・へ?」

あまりと言えばあまりに唐突な言葉に、シンジは間の抜けた返事をしてしまう。

「・・・駄目なの?」
「だ、ダメって事は・・・無いけどさ・・・その・・・どうして?」
「・・・・・・話したい事が、あるの。」

(綾波が話したい事・・・?一体何なんだ?)

なんだかんだ言っても、シンジ君もお年頃。思春期に考えがちな展開が、1ダースほど脳裏を過って行く。

『アラアラ、頭脳体。妄想モイ〜ケドォ・・・顔、赤クナッテルワヨォ。』

初号機の余計な一言が、更にシンジを混乱させる。

「・・・え、あ、う、そ、その・・・と、と、と、とにかく行こうか!」

完全に裏返った声で、ぎくしゃくと歩き出すシンジ。

『ネェ、頭脳体・・・手ト足一緒ニ出シテ、歩キニククナアイ?』

とか言う初号機の言葉も、まるっきり聞こえていない。

そんなシンジの背中を、レイはじっと見つめていたが・・・やがて歩き始める。

シンジのすぐ後を、寄り添うように。


          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・ここで、待ってて。」

相変わらず人間が住んでいるとは思えない、綾波レイの部屋。

シンジをベッドに座らせたレイは、ぱたぱたとキッチンの方へと消えて行った。

残されたシンジは、ぐるりと辺りを見回してみる。

(・・・何か・・・前と変わってないな。)
『ソ〜ネェ。女ノ子ノ部屋ッテ、モット可愛イモンダト思ウワァ私。』
(・・・そうなの?)
『ソ〜ヨ。かーてんモ無イジャナイノ、コノ部屋。ヤッパリ、ぴんくノはーと柄ノかーてんハ、女ノ子ノ部屋ノ基本ヨネ。』
(・・・・・・そ、そ〜かな〜・・・・・・?)
『ココハヤッパ、頭脳体ガ買ッテアゲルベキヨネ。女ノ子ハ、ソーユーノニ弱イノヨ。』
(よよよ、弱いって・・・)
『男ハ甲斐性ヨ、何ト言ッテモ。後ハ、せんすネ。頭脳体ガコノ部屋りにゅーあるシテアゲレバ、モ〜バッチリヨ☆』
(な、な、な、な、・・・・・・何がばっちりなんだよっ!!)

とか何とか、相変わらずどっかズレてる会話を交している内に・・・キッチンの方から、何やらいい香りが漂って来る。

(・・・これって・・・紅茶?)
『ソウネ、だーじりんヨ。』

そして、手にカップだけを持ったレイが現れる。そのまま無言で、シンジに差し出す。

「・・・あ、ありがと。」

軽く微笑んで、受け取るシンジ。途端にレイの頬が、ほんのり桜色に染まる。

だがもちろんと言うか何と言うか、そんなレイには全く気が付かずにカップに口を付けるシンジ。

「・・・あ。」
「? どうかした、綾波?」
「・・・・・・何でも、無いわ。」

わずかに視線を逸らし、ほんの少しだけ震える声で言うレイ。だがシンジは、そんなレイの様子にまるっきり気付かず、カップの中身を賞味する。

「・・・うん、おいしいよ。」
「・・・・・・そう・・・・・・」

いつもの無表情とは微妙に違う、何処か上の空の反応。それでも、シンジはレイの異常に気が付かない。

「ねえ、綾波。」
「・・・な、なに?」
「・・・このカップ、綺麗だね。どこで買ったの?」
「・・・・・・え?」

どーゆーものか、そんなところには良く気が付くシンジである。完全に予想外のシンジの言葉に、驚きを隠せないレイ。

・・・と言っても、外見には目をちょっとだけ見開いた程度であったが。

「・・・あ。僕、何か変な事言った?」
「・・・・・・何でもないわ・・・・・・でも、どうしてそんな事聞くの?」
「いや・・・・・・意外で、さ。」
「・・・・・・え?」
「・・・だって・・・この部屋・・・見てるとさ・・・ここで暮らして・・・るって・・・感じが・・・しなくっ・・・て・・・」

手から滑り落ちる、カップの砕ける響きも、もはやシンジには聞こえない。

ベッドに昏倒したシンジの横に座り、その寝顔を見つめるレイ。

「あなたは、私と同じね。・・・同じになってしまったのね。私と同じ・・・人にあらざるものに。」

そっと、シンジの顔に手を伸ばしてみる。触れた手に伝わる、微かなぬくもり。

・・・と、その顔に真珠の輝きが生まれる。ぽたぽた、と。

「・・・これは・・・涙?・・・私、泣いてるの?」

シンジのぬくもりを感じた瞬間・・・身体の奥底から、どうしようもない何かがこみ上げて来る。

「これは・・・何?私、どうして泣いてるの?」
『ソレハネ、心ガ痛イカラヨ。』

突然脳裏に響き渡る、澄んだ女性の声。突然の事にレイの身体が、びくっ、と震える。

「誰・・・?あなたは、誰なの?」
『私ハ、初号機。初号機ノ、心ノカケラ。・・・貴方ナラ、コノ意味解ルワヨネ?』
「そんな・・・!?」
『信ジラレナイカシラ?デモ、事実ヨ・・・私ハ、覚醒メタワ。流石ニコンナカタチデ、トハ思ワナカッタケドネ。』
「・・・・・・・・・」
『デモ、私ハコレデ良カッタト思ッテルワ。・・・彼ガ何ヲ考エテルカ、大体分カッタカラネ。』
「・・・・・・気に入らないの?」
『エェ、モチロンヨ。・・・ソモソモ、貴方ヲ使ッテ頭脳体ニ何ヲシヨウトシテタノカシラ?』
「・・・指令は、碇君を助けたいの。」
『嘘ネ。』

毅然とした声音で断言する初号機。もしシンジの意識があったら、その普段とのギャップに目を丸くした事だろう。

『貴方自身モ信ジテナイヨウナ事言ッタッテ、説得力無イワ。』
「・・・・・・・・・」
『・・・言エナイヨウナラ、私ガ言ッテアゲル。《槍》ヲ使ッテ、私ノ中カラ頭脳体ヲ追イ出ソウトシテルンデショウ?・・・デモ残念ネ、ソンナ事ハ最初カラ出来ナイワ。』
「・・・どうして?」
『アレハ、私ヲ繋グ物デアルト同時ニ、私デモアルノ。私ガ望マナケレバ、アレハ私ニ何モ出来ナイワ。』
「・・・・・・・・・」
『・・・マァ、無理ナイワネ。事情ヲ知ラナケレバ、誤解シテモ仕方ガ無イ状況デハアッタンダカラ。』
「・・・・・・これから、あなたはどうするつもりなの?」
『頭脳体次第ネ。今ノ私ハ、頭脳体ノこまんどニ従ウ存在ナンダカラ。』
「・・・・・・・・・」
『タダシ、私達ニ危害ヲ加エヨウトスル存在ハ実力ヲ以ッテ排除スルワ。頭脳体ガ何ト言オウト、ネ。彼ニモソウ、伝エナサイ。』
「・・・・・・・・・」
『・・・マ、今回ダケハ頭脳体ニハ内緒ニシトイテアゲルワ。ソノ方ガイイデショ?』

レイは、こっくりと頷いた。悪戯を、優しく諭された幼子のように。

『・・・ホラホラ、モウソンナ顔シテナイデ。頭脳体ニ、嫌ワレチャウワヨ?』

一転、いつもの調子に戻ってからかう初号機の言葉に、耳まで赤くなるレイ。

『クスクス、若イッテイイワネェ。・・・アーア、私モ、モウチョット若ケレバナ〜。』

若いとか若くないとかの問題ではないよーな気がするのだが、そんなとこまで気が回るレイではない。湯気が出そうになるほど、まっかっかに茹で上がっている。

『・・・ネェ、れい。人デアルコトッテ、何ダト思ウ?』
「・・・・・・え?」

突然の初号機の問いに、戸惑うレイ。だが初号機は淡々と、言葉を継ぐ。

『私ハ覚醒シテソンナニ経ッテナイケド・・・頭脳体達ヲ見テテ、何トナク思ッタノヨネ。人ガ人デアル所以ッテ、《生キヨウトスル意志》ナンジャナイカッテ。』
「・・・・・・・・・」
『何カヲスル為ニ・・・自分ガ幸セニナル為カモシレナイシ、大事ナ人ニ笑ッテイテ欲シイカラカモシレナイ。ソレガイイ事カ悪イ事カナンテ、誰ニモ分カラナイワ。・・・タダ言エル事ハ・・・何カヲシタイト思エル事、ソレガ人デアル証ダト私ハ思ウワ。』
「・・・・・・」
『ダカラ・・・人ナノ。私ト頭脳体モ、彼モ・・・ソシテ、貴方モ。』
「・・・・・・あ・・・・・・」

レイの瞳に、新たな涙が溢れ出る。痛くならない、気持ちのいい涙が。

『・・・ア、ソロソロ頭脳体ガ起キテ来タワ。残念ダケド、オ話ハココマデネ。』
「・・・・・・そう。」
『れい。引ケ目ヲ感ジル事ナンテ何モ無イワ。生キテイルンダカラ、幸セニナル事ヲ考エナクッチャネ。』

またまた真っ赤になるレイ。くすくす笑いながら、別れを告げる初号機。

『・・・ジャネ、れい。私ハ何時デモ、貴方ヲ見テイルワ。』
「・・・・・・さよなら。」

離別の言葉を告げた途端、シンジがもぞもぞと動き始める。レイはその様子を、じっと見つめている。

「・・・・・・あ、綾波?僕は一体・・・・・・」
「・・・疲れてたみたいね。良く、寝ていたわ。」
「そ、そう・・・・・・あ、僕、カップ落しちゃった?ごめん、すぐ片付けるよ。」
「・・・いいの。」

言って、ジッとシンジの瞳を覗き込むレイ。その瞳が、濡れたルビーのように輝いている。いつもと違う視線に、うろたえるシンジ。

「で、でも、このままにしてたら危ないし・・・そ、そうだ!新しいカップも買わなくちゃ・・・」

とか何とか言ってみるが、レイの視線は揺がない。言う事が無くなったシンジは、ただただ固まってしまう。

「・・・・・・碇君。」
「な、なに?」
「お願いが、あるの。」
「な、なに?」

ふわり、とやわらかな香りがシンジの鼻をくすぐる。突然の出来事に、またまた凍り付くシンジ。

「・・・少しだけ、このままでいさせて・・・」

シンジの胸の中で、囁くように言うレイ。シンジは抱きかえす事も出来ずに、ただただ固まるのみであった。

『・・・マッタク、ショーガ無イワネェ頭脳体ハ。アンマリ鈍イト、愛想ツカサレチャウワヨォ?』

呆れた口調の初号機の言葉など、シンジが聞いてなかった事は言うまでもない。


          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・いいのか、碇?」
「止むを得んさ。・・・俺はこれ以上、嫌われたくはない。」
「・・・・・・委員会は、どうする気だ?」
「何とか、代案をひねり出すさ。・・・どのみち老人達には、何も出来んさ。最初からな。」
「・・・それもそうだな。」


          ◇          ◇          ◇


「・・・シンジおそ〜い!!一体どこほっつき歩いてたのよ!?」

帰宅したシンジがドアを開けると、そこには仁王立ちのアスカといつもの罵声が待っていた。

「ご、ごめん。」

反射的に謝ってから、シンジは気が付いた。アスカの服装が、外出仕様になっている事に。

「・・・アスカ、これから何処か行くの?」
「・・・何でそんな事聞くのよ?」
「だって、そーゆーカッコしてるじゃないか。」
「こ、これはその・・・そ、そう!バカシンジがあんまり遅いから、外で食べてこようと思っただけよ!」
「・・・そう。」
「そんな事より!さっさと晩ご飯作ってよ!あたしが飢え死にしたらシンジのせいだからね!!」
「・・・外食するんじゃなかったの?」
「う、うるさいわね!もったいないでしょ!つべこべ言わずにさっさと作る!!」
「・・・分かったよぉ。そんな、怒鳴らなくなっていいじゃないかぁ。」

呟きつつも、キッチンに向かうシンジ。手早く夕食を作りながら、シンジはある事に気が付いた。

(・・・そう言えばアスカ、バッグ持ってなかったな・・・サイフ持たないで、食事に行くつもりだったのかな?)

疑問に思ったシンジであったが・・・その答えは割とすぐに出た。

(忘れたんだな、きっと。)

その結論に、初号機が溜息をついたが・・・無論気が付くシンジではないのであった。


          ◇          ◇          ◇


ただ、月明かりのみが支配する部屋に、少女はいた。

少女は寝そべりながら、ベッドのある一点を見つめている。

そのすぐ下の床には、カップの破片が浩々とした輝きを放っている。

・・・少女はそっと、いとおしげに手を伸ばす。

ぬくもりが、残っているかのように。

そして少女は、静かに目を閉じる。

明日はきっと、違う明日になる。そんな予感を胸に秘めながら・・・・・・


《つづく》






                        by プロフェッサー圧縮


あとがき(其の弐)


ども、作者です。

・・・・・・いや〜、らぶらぶですねぇ(笑)

ホントはこのエピソード、もっと後まで引っ張ってやろうかとも思ったんですが・・・後の展開の物凄さ考えると、とてもじゃないがこんなところで足踏みしている訳にはいかないんで、出しちゃいました。

てなもんで今回は、お待たせのレイちゃんが主役です。苦労しました(笑)

僕はアスカみたいなキャラは書くの得意なんですが(勝手に動くし)レイのような行動動機が見えにくいキャラは苦手なんですよ。あぁ、ファンの反応が怖ひ・・・・・・

それはそれとして初号機、謎だらけですね(笑)

シンジと漫才してる時の初号機と、レイを諭している初号機。どっちが本当の性格なんでしょ〜ね〜?実は作者にも謎だったりしますォィ

でも、書いてて1番力が入るキャラ(?)でもあります。お気に入りです。でも主役ではありません。あくまでも主役はシンジです。

まぁ今のところ、初号機に遊ばれてるだけに見えますが。話が進むにつれて、主役らしくなってくれるでしょう。

・・・・・・頼むぞ、ホントに。

プロフェッサー圧縮


  次回予告

自分の価値を求めて、迷走するアスカ。

自分の変化に、戸惑うレイ。

そんな二人を打ちのめす、光の使徒。

シンジは駆ける。己の成すべき事を成す為に。

そして人は、混沌を切り裂く翼を見る。

次回、新人類エヴァンゲリオンif「未来の翅」。

この次もサービスサービスぅ!








感想代理人プロフィール

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代理人の感想
展開早っ!
二話目にしていきなり綾波デレモードとは。
・・・考えてみると当時デレなんて言葉は無かったんですよね(多分)。
時の流れを感じるなぁ。


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