機動戦艦ナデシコ
ORIGINAL GENERATION






第2話

悲しき『家族の再会







混乱するアマテラスの内部にて、3年ぶりに再会する二人

周囲の慌てふためく人々を他所に、二人は再会を喜んでいた

だが、現状ではゆっくりと喜びを交わす事はできない



カケル「こんな状況じゃなかったら、ゆっくりと話したいんだけど」


ルリ「そうですね。この状況では・・・・・・」



ルリは残念そうに俯く

理解はしていても、もう少し話していたい

それでもルリは艦長としての責務をまっとうしなければならない



ルリ「私はナデシコに戻ります。カケルさんはどうするんですか?」


カケル「俺はちょっと確かめたい事があるから」



カケルはそう言うと、OTIKAの文字を逆から指差す

それはルリも予想していたことだった



カケル「敵が来たけど、本当の敵は違う気がするんだ
     敵の敵は敵。俺の敵がどいつか確かめる必要がある」


ルリ「カケルさんも気づいていたんですか」


カケル「まぁね。それに、此処は色々と怪しすぎる」



設計にはなかった通路

そこで襲ってきた謎の暗殺者

しかも、希少種である気の使い手だった

それに、ルリを捕まえようとしていた謎の兵士たち

極めつけは散乱しているOTIKAのウインドウ

誰がどう考えても怪しい



カケル「だから俺は、真実を確かめに行ってくる」


ルリ「気をつけてくださいね」


カケル「ルリちゃんもね」



二人はお互いを信じ、笑顔で一時的な別れをした

ルリはナデシコBへ

カケルはアマテラスの格納庫へ向かい

マニュアル操作の量産型エステバリスに忍び込み、何事も無いように出撃した














現在、アマテラスの司令室は混乱の極みだった

突然現れた例の幽霊ロボットの襲撃を受けていたからだ

防衛ラインの攻撃衛星も、配置されている守備艦隊も突破され

一気に第三防衛ラインにまで突入していた

アマテラス警備部所属、統合軍中佐のシンジョウ・アリトモが指示を出す



シンジョウ「コロニーに近づけるな!弾幕を張れ!


オペレーターA「第三中隊、出すぎるな


オペレーターB「キルタンサス現状維持!



的確に指示を出しながらも、幽霊ロボットに振り回される

すると、モニターウインドウが切り替わり、アズマ准将が全面に現れ



アズマ「肉を斬らせて骨を断ァつ!


シンジョウ「な、なにをおっしゃっているのですか准将?」



突然後ろから現れたアズマに聞き返すシンジョウ

すると、アズマはとんでもない命令を下す



アズマ「コロニー内およびその周辺での攻撃を許可する!」


シンジョウ「ええっ!?じゅ、准将、それではコロニーが・・・・・・」



アズマの出した指令に驚きつつ、シンジョウは進言する

そんな進言がまったく通じる相手だと思っていないが、一応だ

アズマは部下の進言をまともに聞いた試しがない

故に・・・・・・



アズマ「飛ぶハエも止まれば打ちやすし



まったく人の話を聞いていない



アズマ「多少の犠牲はヤムをエン!!


リョーコ「おっしゃあ♪



まるで待っていましたとばかりに、アズマの前にリョーコのウインドウが開く

それにはアズマも面食らってしまう














アズマのコロニー内での発砲許可を聞き

その命令を待っていたかのように、姿を現すエステバリス隊

リョーコの率いるライオンズ・シックル中隊だ



リョーコ「野郎ども、行くぜ!


「「「「「「「「「「おう」」」」」」」」」」



アマテラスに接近するブラックサレナ

だが、先手を取ったのはリョーコだった



リョーコ「遅い!!」



リョーコのエステバリスカスタムからレールカノンが放たれる

それを簡単に回避し、その場から退こうとした



リョーコ「逃がすかよ!」



それを追跡するライオンズ・シックル隊

途中に連合のステルンクーゲルが展開していたが

それらを無視し、無理矢理その場を突破した

しかし、リョーコは気づいていなかった

自分たちの部隊の中に、1機別のパイロットが乗ったエステバリスが在ったこと














リョーコたちが戦闘を始めた頃

ルリはナデシコのブリッジへ戻ってきた



ルリ「おまたせです」


《おかえり》



Vサインと共に駆け込んできたルリにオモイカネが出迎える

すぐに艦長席に就き、テキパキとクルーに指示をだす



ルリ「戦闘モードに移行しながらそのまま待機、当面は高みの見物です」


ハーリー「加勢はしないんですか?」



もっともな疑問を口にするハーリー



ルリ「ナデシコBは避難民の収容を最優先します
   それに、向こうからお断り、って感じですから」


ハーリー「はぁ・・・・・・」



ハーリーがそれを聞き、溜め息を漏らすと

突然アズマの巨大ウインドウが表示される



アズマ「その通り!!
    今や統合軍は陸海空、そして宇宙の脅威をも打ち倒す無敵の軍だ
    宇宙軍など無用の長物!まあ、そこでゆっくり見ているが良いわ
    ガハハハハハハ



散々高笑いを浮かべ、宇宙軍を貶すだけ貶すと、勝手に通信を切った

これにはハーリーも呆れていた



ハーリー「なんか、熱血ですね」


ルリ「それよりハーリーくん、もう一度アマテラスにハッキング」


ハーリー「え?またですか?」


ルリ「そ。キーワードじゃ『AKITO』です」



OTIKAのウインドウを反転させてみせる

それに首を傾げるハーリー



ハーリー「アキト、ですか?」


ルリ「はい。あの人がそう教えてくれました」



自分一人ならば、何の根拠もない非科学的で終わったかもしれない

だが、これにはカケルの同意も含まれていた

4人が共有していた家族の時間

それが一連の事件に対して、何か確信めいたものを感じさせてしまう

もっとも、ハーリーは別の事が気になっていた



ハーリー「艦長、あの人って誰ですか!艦長ォ―――!



隣で泣き叫ぶハーリー

ルリはそんなハーリーには取り合わずに、ナデシコを戦闘モードに移行する



ルリ「IFSのフィードバック、レベル10までアップ
   艦内は警戒体制パターンA。システム統括!!」



ルリを中心にウインドウボールが展開する

ナデシコがワンマン・オペレーションモードへとなる



ルリ(あの人が帰ってきた・・・・・・あの人が教えてくれた・・・・・・アキト・・・・・・)



ルリの脳裏にかつての思い出が浮かんだ

頬を染め、誰にも気づかれないくらいに小さく微笑む














こちらではブラックサレナとライオンズ・シックルの鬼ごっこが続いていた

これまで不意を突かれた襲撃に、ボロボロにされていた宇宙軍だったが

リョーコたちの執拗な追撃により、最終防衛ラインからみるみる遠ざかる

それを満足そうに眺め、品の無い高笑いを上げる



アズマ「ガハハハハハ
    見たかねシンジョウくん。これこそ統合軍の力、新たなる力だ


シンジョウ「はあ・・・・・・」



そんなアズマに気のない返事を返すシンジョウ

それからアズマは止まる所を知らずにハッスルし続ける



アズマ「宇宙軍のやつらめ、戦争の時はデカイツラをしていたが、今は違う
    地球連合統合平和維持軍万歳!ヒサゴプラン万歳!!



アズマは宇宙軍に怨みでもあるのだろうか

必要なまでにボロクソ言い続ける

これにはシンジョウだけではなく、周りのオペレーターまでも呆れていた

だが、一人のオペレーターが異状に気づく



オペレーターA「ボース粒子の増大反応!」


アズマ「え!?」



アズマが驚くのも無理はなかった

A級ジャンパーは突然の失踪を遂げ、そのほとんどが存在しない

戦艦クラスともなれば、A級ジャンパーのナビゲートがなければ単独ジャンプは不可能

それが目の前に現れようとしていたのだ



オペレーターB「未確認艦ボソンアウト!!グラビティブラスト来ます!!」



突如現れた白き戦艦『ユーチャリス』

ユーチャリスから放たれる多連装グラビティブラスト

統合軍の戦艦はあっさりと撃沈された














ヤマサキ「今度はジャンプする戦艦かい?」



激しい揺れのなか、のんきな口調で言うヤマサキ

この通路は非公式ブロックに通じる唯一の道で、特定の人間しか所在は知らない

そこをヤマサキは、黒尽くめの男と白衣を着た男の二人を連れて歩いている



白衣「ネルガルでしょうか?」


ヤマサキ「さあ・・・・・・」



白衣の男の質問を軽く流す

まるで初めから興味がなかったかのように

それからヤマサキは通路の周囲に目をやる

実はこの通路、カケルが偶然誘い込み、格闘戦を繰り広げたのだ

端などを見てみると、凹んだり砕けたりしている



ヤマサキ「まったく、派手にやったもんだね」


黒尽くめ「はぁ?」


ヤマサキ「いやいや、こっちの話。それよりあの連中は?」


黒尽くめ「『五分で行く』と」


ヤマサキ「は―――、それは大変だァ」



それを聞いたヤマサキは焦るというより、呆れた様子で苦笑した

目的地の非公式ブロックの一つ

遺跡』の制御室に入ると、右手を上げて叫んだ



ヤマサキ「緊急発令、5分で撤収!」



ヤマサキの合図で、制御室の職員たちが慌てて資料をまとめだす

のんびりとしていたら、シラヒメのように口封じで殺されるからだ

そんな恐怖が支配する中でも、一人だけ冷静な狂気にとらわれていた



ヤマサキ(上手くすれば、4人の実験体が手に入るかもしれないな
      翼は意識が戻らないから見送っていたけど、先に捕まえておけば良かったかな)














リョーコ「この!!」



アマテラスから少し離れた宙域では、相変わらずブラックサレナとライオンズ・シックルが戦闘していた

数で勝るライオンズ・シックルだが、基本性能は明らかにブラックサレナが上

唯一その機動性に対抗できているのはリョーコのエステだけだった

そんな中で、1機のエステバリスがブラックサレナに突っ込む



リョーコ「おいバカ!何考えてんだ!戻れ!!」



リョーコが叫ぶのも無理はない

はっきり言って、アマテラスにはリョーコ以上に腕の立つパイロットはいないし

ましてや、量産型のエステバリスでは死にに行くようなものだ



???「愚かだな」



ブラックサレナはディストーションフィールドを纏ったまま突撃してくる

このタイミングでは絶対に避わせない、そう思ったが



???「なに!?」



量産型エステは避わさず、2本のイミディエットナイフで受け止めていた

だが、肝心のパイロットはというと



カケル「危なかった〜。まさか本当に受け止められるとは思わなかったし」



計算したわけではなく、思いつきでやったらしい

全面に展開しているディストーションフィールドを前面に集中させたのと

ブラックサレナがたいして加速していなかったのが幸いした

本人は冷や汗をかきながらも、止まったブラックサレナに向かってナイフを振り下ろすが

テールによってそれを弾かれてしまう

さらにテールで、こちらにたいして攻撃を仕掛けてきた



カケル「ちっ・・・・・・」



避けきれない

そう思い、とっさに両腕でガードするが、そのまま弾かれてしまう

流された機体をリョーコのエステが受け止める



リョーコ「なかなか根性があるじゃねえか、気に入ったぜ」



隊長としては叱るべきとこなのだが

なにぶんライオンズ・シックルは個性の強い連中の宝庫だ

こういった強気な行動の方が褒められる事が多い

当然そんな事を知るカケルではない



カケル(ははは・・・・・・リョーコさんの部隊だけあるな)



などと考えて苦笑していた

すると無数のバッタが押し寄せてきた



リョーコ「なっ!バッタだと!?」



突然のバッタの出現に足浮き出すライオンズ・シックル

その一瞬の隙を狙い、ブラックサレナが包囲網を突破しようとしたが

そこにカケルのエステが立ち塞がる



???「ちっ、冴える奴がいるか」


カケル「行くぞ!」



右手にラピットライフルを構えて発砲する

正確無比の射撃だが、全てディストーションフィールドに弾かれる

故に、ブラックサレナは目の前のエステを気にせずに突っ込む

今度はさっきみたいに受け止めるのは不可能と察し

フィールドを右手に集中させ、払い除けるように受け流す



カケル「やられた!」



ブラックサレナはカケルのエステを無視し、アマテラスへと向かう

それを追撃に向かおうとしたが、すでに周囲はバッタに囲まれていた

ライオンズ・シックルもそれに手間取っていた




リョーコ「ちィッ!俺の相手は、ヤツだ!!
     おめーらなんかじゃないんだよォッ!!



リョーコはバッタを撃墜しながらブラックサレナを追う

邪魔なバッタが多すぎ、敵を捉える事ができない

だが、僅かに包囲網に穴ができる



リョーコ「そこか!!」



リョーコのエステバリスカスタムから放たれたレールカノンの弾丸が命中する

フィールドに防がれるも、僅かにダメージを与えた

そのためか、驚異的だったスピードが衰える



リョーコ「へ、逃がさねぇぜ」



追撃を掻けようとするリョーコ

そのコックピットにライオンズ・シックルのメンバーのウインドウが現れる



部下A「お供します!」


リョーコ「来れれば、なッ!」



ブラックサレナを追い、一気に加速するリョーコのエステ

それを必死に猛追する部下たちのエステバリス

だが、1機だけそれを追わず、ユーチャリスに向かうエステバリス

カケルの搭乗するエステバリスだ



カケル「まずはこのバッタを何とかしないと、被害が広がるばかりだ
    その為には・・・・・・」



カケルの目には、バッタを制限無く射出しているユーチャリスの姿が映る

この手のタイプは予めプログラムされているか、常に何処からかコントロールされているかだ

戦況に応じて行動パターンを変えてくるあたり、後者と考えて間違いないだろう



カケル「けど、このままじゃ厳しいな」



自分の現能力、機体の性能、敵戦力

それら全てを総合すると、確実に辿り着く前にバッタに撃沈されるだろう

それでは何の意味もない



カケル「かなり疲れるけど、『ゼロの領域』を使うしかないか」



カケルは全神経を研ぎ澄まし、解放する

それにより、知覚の限界を超えた先、ゼロの領域へと突入する

ゼロの領域に入ると、今まで分からなかった事が全て分かる

『予測する』のではなく、『知る』ことができるのだ

こうなればバッタの動きなど恐れるに足らない



カケル「それじゃ・・・・・・行くぜ!!」



全開加速でユーチャリスに突っ込む














アズマに黙ってろと言われ手前

ハッキングに集中しているハーリーとは違い

たいしてする事のないルリとサブロウタは例の機動兵器の動きを分析していた



ルリ「不意な出現、そして強襲。反撃を見透かしやような、伏兵による陽動
   その間に突入ポイントを変えての再強襲・・・・・・」


サブロウタ「やりますね」



ルリの指示で、格納庫で待機しているサブロウタが感想をもらす

パイロットとして関心しているよだ



ルリ「気づいたリョーコさんもサスガです」



サブロウタはウインドウに表示された駒を見て

一つだけ違う動きの駒に気づいた



サブロウタ「けど、コイツだけは他と動きも行動も違うっすね
       なんて〜か、本来のパイロットとは別人って感じっすよ」


ルリ「・・・・・・そうですね」



ルリはそのエステバリスのパイロットを知っている

なぜ他の連中と行動が違うのも

だからルリは知らないフリをして答える



サブロウタ「で、俺たちはどうしますか?」


ルリ「もちょっと待ってください」


サブロウタ「は?」



呆けた声を上げるサブロウタ

ルリはいたずらっぽく微笑んで



ルリ「敵の目的、敵のホントの目的。見たくありませんか?」














そのころリョーコ率いるライオンズシックルはブラックサレナを追い詰めていた



リョーコ「へっ、捕まえたぜ!」



サレナの後ろにつけると同時に一斉に攻撃を開始するライオンズシックル



リョーコ「どんなに性能が良くても、この数を一機じゃどうしようもねぇだろ!」



勝ち誇ったかのようにリョーコが叫ぶ



《背部ユニット損傷、このままでは機動性に障害が出る恐れあり》


???「あの時か・・・・・・高機動ユニットを切り捨てる」



そう呟くと、コンソールのボタンを押す



《高機動ユニット、強制排除》



ウィンドウにその文字が表示されると、次々と切り離されていくパーツ

そして脱落したパーツは、追撃していたライオンズシックルに質量弾となって襲いかかった

突然の出来事にライオンズ・シックルは対応が遅れてしまい



部下B「うわっ」


部下C「脱出します」


部下A「隊長、すいません。」



切り離されたパーツの直撃をうけ次々と撃破されていくライオンズシックルのエステバリス隊

精鋭ぞろいの彼らといえど、流石に予想だにしていなかった攻撃は避わせなかったようだ

唯一残ったのはリョーコのエステバリスカスタムだけだった



リョーコ「くそッ!!おめえはゲキガンガーかよッ!!



無茶苦茶な構成をした相手の機動兵器をなじるリョーコ

次の瞬間、突然アズマのウインドウが現れ



アズマ「撃ち落せ!撃って撃って撃ちまくれ!



アズマ准将の怒声がコックピット内に響く

アマテラス近辺で活動している全ての統合軍機に強制通信を入れてきたのだ

アズマの命令を受け、ライン上に並んだ砲戦フレームが、一斉に砲撃を開始する



アズマ「撃てェ―――――ッ!撃ちまくれ!



無差別に放たれる砲弾

それをブラックサレナは難なく避わし、通り過ぎた砲弾はというと



リョーコ「わ―――――ッ



当然後ろから追撃していたリョーコ機に降り注ぐ

砲弾の嵐を何とか避けるリョーコ

そんな様子に目も暮れずに、アズマは雄叫びを上げている



アズマ「撃てーッ!落とせッ!撃ちまくれーッ!



アズマの咆哮は止まらない

砲戦フレームの砲撃も止まらない

そして、リョーコの堪忍袋の尾が切れた



リョーコ「バッキャローッ!てめぇら邪魔なんだよ!
     そこで黙って見てろ!!


アズマ「何―――――っ!!



睨み合う二人

とても上官と部下の様子には見えない

誰もがその様子を呆れて見ていた時、ルリのウインドウが開いた



ルリ「ゲート開いてますよ。いいんんですか?」


「「え?」」



ルリの冷静な突っ込みで、やっと事の状況に気づく二人

言われるまで気づかないとは、頼りない隊長と司令官だ



オペレーターB「13番ゲート、オープン。敵のハッキングです!」


アズマ「13番?なんだそれは?わしゃ知らんぞ?」



アマテラスの構造図には12番ゲートまでしかなかった

13番ゲートは存在しないはずなのだ

だが、確かに13のナンバーが記された扉が開いていく

これにはサスガのアズマも驚きを隠せなかった

そこに後ろで控えていたシンジョウが口を開く



シンジョウ「それがあるんですよ、准将」


アズマ「どういうことだ!?」


シンジョウ「茶番は終わり、ということです」



驚くアズマとは裏腹に、冷静にモニターを眺めるシンジョウ

復讐者となった者の姿を見て呟く



シンジョウ「・・・・・・人の信念」














13番ゲートを突き進むブラックサレナ

すると最初の巨大な隔壁の手前で、機体を固定する

闇の皇子にして復讐者『テンカワ・アキト』

ブラックサレナのテールからコードが伸びる



アキト「ラピス、パスワード解析」



アキトが呼びかけるが、何の変化もない



アキト「ラピス?」


ラピス「・・・・・・うん。了解」



時間が掛かったことに疑問を感じる

それに少し焦っているようにも思える



アキト「どうした?」


ラピス「大丈夫・・・・・・少し手強い敵がいるだけ。解析、続ける」



アキトの脳裏に響くラピスの声は、やはり疲れが滲んでいた

ユーチャリスは完全なワンマンオペレーションの艦だ

守備隊を相手にしながらアキトのサポートまでしているのだ

いくらマシンチャイルドとして遺伝子操作されていても、歳場もいかない少女だ

疲れてないわけがない



アキト「ラピス、もう少しだけ頑張ってくれ」



アキトにはそう言うしかなかった

今更引き返すことなどできない



ラピス「うん。それよりアキト、後ろから・・・・・・」


アキト「気づいてるよ。俺は大丈夫だから、ラピスも無理するなよ」


ラピス「うん」



アキトは開いた隔壁の中を突き進む














カケルのエステバリスはバッタの攻撃を避わしつつユーチャリスに迫る

臨機応変に行動パターンを変えるバッタだが

ゼロの領域の状態のカケルには、まったく意味がなかった

カケルの放つシャープなプレッシャーが、ユーチャリス内のラピスを威圧する

ラピスはそんな相手に対して、嫌悪を抱いていた



ラピス「アキトと違う・・・・・・優しくない・・・・・・嫌い・・・・・・嫌なヤツ!」



嫌悪とはいえ、ラピスがアキト以外に感情を露わにするのは珍しい

ラピスにとって、アキトの存在が全てで、その他の全ては無いに等しい

その心境の変化に途惑ったのか、意識を僅かに乱してしまった

ゼロの領域に入っているカケルが、そんな隙を見逃すはずがなかった



カケル「チャンス!」



動きの止まったバッタをラピッドライフルで撃破し

空いたスペースを掻い潜り、ユーチャリスの艦橋の真上を取る



カケル「これで終わりだ」


ラピス「!?」



ラピスは相手の声が聞こえた気がした

外部との通信は全てカットしているのにも関わらずにだ

それと同時にエステバリスのイミディエットナイフが振り下ろされた



ラピス(私、死ぬんだ。それも良いかもしれない・・・・・・)



人の手によって生み出され、感情らしい感情を消去されたラピスには、生への執着がなかった

それでも、一つだけ心残りがあるとすれば



ラピス(アキト・・・・・・)



自分の大切な人の事を思い浮かべて目を閉じる

しかし、いつまで経っても意識が途切れる事はなかった

不思議に思い、閉じた目を開くと、ブリッジの前に立っていたエステバリスは武器をしまっていた

そこに一つの通信が入ってくる

普段なら完全に無視するのだが、なぜかラピスは通信を開いてしまった



カケル「あ、開いた開いた・・・・・・って、え〜!?」



ラピスの姿を見たカケルは驚きの声を上げる



カケル「きみが・・・・・・その戦艦を?」


ラピス「そう。私はユーチャリスのオペレーター」


カケル「そうか、ゴメンね。怖い思いをさせたかな」



突然頭を下げるカケルに驚くラピス

自分を殺そうとした相手に対して、頭を下げて謝る人間なんてそうはいない

ラピスは理解した



ラピス(この人、アキトに似てる・・・・・・あれ?)



ラピスは何かが引っ掛かり、尋ねてみる事にした



ラピス「私はラピス、ラピス・ラズリ。あなたは?」



自分でも名前を名乗った事に疑問を持ったが、それもどうでもよかった

ただ相手の事が知りたい。それだけだった



カケル「俺はカケル、テンカワ・カケルだよ」


ラピス「!!」



ラピスは思い出した

アキトと一緒に一度だけ目にしたことがある



ラピス(アキトの義弟・・・・・・アキトの家族・・・・・・優しい人)



ウインドウ越しに笑顔を向け続けるカケルを"ジ〜"と見続けるラピス

そんなラピスに見つめられると、カケルも照れてしまう

そして、何処となくラピスとルリを重ね合わせてしまう



カケル(ルリちゃんと似てる・・・・・・姉妹?従姉妹?親子・・・・・・それはないか)



などと勝手な考えをしていたら

ラピスが驚くべき事を聞いてきた



ラピス「カケル、カケルはアキトの義弟なの?」



それを聞いたカケルの胸に衝撃が走る

死んだ義兄の名をなぜラピスが知っているのか

なぜ自分がアキトの義弟だと知っているのか

聞きたい、知りたい、確かめたい、そう思うと、言葉が自然と漏れる



カケル「うん。俺はテンカワ・アキトの義弟だよ
    でも、どうしてきみが・・・・・・義兄さんを知ってるのか?」


ラピス「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足
    アキトの・・・アキトの・・・・・・」


カケル「・・・・・・・・・」



その言葉を黙って聞く

ラピスの言葉からある程度の事情を飲み込む

そして、ラピスが本当に純粋な女の子なのだと



カケル「なんとなく分かったよ。キミは優しい子なんだね」


ラピス「ありがとう。それじゃあ、私は行くね」


カケル「行くって、何処に?」


ラピス「秘密」



ラピスは悪戯っぽく言うと

カケルのエステバリスから離れてボソンジャンプに入る

ユーチャリスもバッタも消え

カケルのエステバリスだけが残った



カケル「行っちゃった・・・・・・さて、俺も行くかな」



カケルはゼロの領域を解除し、アマテラスへ向かって機体を加速させる

ゼロの領域を解除したのは、体力と精神力を極端に消耗するからだ

ただ立っているだけでもそれは変わらない

無駄な力を使わないよう、全速力で宇宙を駆ける














アキトの駆るブラックサレナは巨大な隔壁の前に立っていた

これまで4つの隔壁を通り、これまでで一番大きな隔壁だった



アキト「これで最後か・・・・・・」



アキトは不適な笑みを浮べる

すると、後ろからリョーコのエステが追いついてきた

そのままブラックサレナの背中にワイヤーを撃ち込む



リョーコ「よ―――、そのまま、そのまま!」


アキト「・・・・・・・・・」



言われたとおりに、その場で静止する

ブラックサレナのプロテクトが解除され、リョーコのウインドウが表示される



リョーコ「俺は頼まれただけでネ。この子が話をしたいんだとさ」



今度はルリのウインドウが現れた



ルリ「こんにちわ。私は連合宇宙軍少佐、ホシノ・ルリです
   無理矢理ですみません。あなたがウインドウ通信の送受信にプロテクトをかけているので
   リョーコさんに通信を頼んだんです」


アキト「・・・・・・・・・」



アキトは何も答えない

目の前にルリとリョーコが居るにも関わらず、まったく反応を露わにしない



ルリ「あの・・・・・・教えてください・・・・・・あなたは・・・・・・誰ですか?
   ・・・・・・あなたは・・・・・・」



ルリは静かに訊ねるが、答えは返ってこない



アキト「ラピス、パスワード解除」



ブラックサレナのテールから伸びたコードが、パスワードを解析し解除する

隔壁が開き、中に入っていく



アキト「時間がない。見るのは勝手だ」


カケル「それ、俺にも見せてもらえる?」



突然2機のコックピットにカケルのウインドウが開かれた



リョーコ「カケル!カケルなのか!?」


カケル「リョーコさん、久しぶり。ルリちゃん、また会ったね」


ルリ「はい」



カケルはルリとリョーコに軽く挨拶して、アキトの方に視線を向ける

アキトもその視線に気づいているが、あくまで気づいてないフリをする

二人の間に奇妙な緊張感が漂う


ふとカケルは視線を逸らし、溜め息を吐いた



カケル「ふう・・・・・・先、急ごうか」


リョーコ「お、おう・・・・・・」



何はともあれ、3機と4人は内部を進んでいく

少しして、中心部らしき場所が見えてきた



リョーコ「何ィ!?」



チョーコが何かに気づき、機体をを加速させる

後ろのカケルとアキトを置き去りにして



カケル「リョーコさん!?」



それを慌てて追うカケル

アキトもそれについて行く



リョーコ「ルリーッ、カケルーッ、見てるかーッ!?」


ルリ「リョーコさん・・・・・・」


カケル「見てるけど、あれは何?」


リョーコ「何だよ、こりゃあ・・・・・・」


ルリ「リョーコさん落ち着いて」


リョーコ「ありゃ何なんだよ!何なんだよ、ありゃあ!!」


カケル「だからそれが知りたいんだけど・・・・・・」



動揺するリョーコと声を荒げるルリ


そして、今だ状況を理解していないカケルと沈黙を保つアキト

4人の目の前に映る物体

それは解体され、原型を失った初代ナデシコ

そして、消失したと思われた遺跡だった



ルリ「形は変わっていても、あの『遺跡』です」


カケル「遺跡?」


ルリ「前の戦争で、地球と木星が共に狙っていた火星の遺跡・・・・・・
   ボソンジャンプのブラックボックス・・・・・・ヒサゴプランの正体はこれだったんですね」


カケル「なるほど、これがあなたの目的なんだ」


アキト「・・・・・・そうだ」



2機の後を追ってゆっくり降下してきたブラックサレナ

3人の様子を見ながら静かに答えた

そんな時、カケルとアキトは自分たちを見ている視線を感じた



アキト(奴らが来ているのか・・・・・・どこだ!?)


カケル(誰かが見ている。さっきの奴らか?)



確かに誰かが見ているが、どこに何人潜んでいるか分からない

完全に気配を絶ち、姿を潜めている



リョーコ「これじゃ、あいつらが浮かばれねェよ・・・・・・」


ルリ「リョーコさん・・・・・・」


リョーコ「何でコイツがこんなとこにあるんだよ・・・・・・」



目に涙を滲ませて問い掛けるリョーコだが、ルリには答えられない

全員が遺跡を見つめていると、突然巨大ウインドウが出現した



草壁「それは人類の未来のため!


ルリ「え?」


リョーコ「草壁?中将?」



ルリとリョーコが同時に反応を示した

その刹那、これまで気配を隠していた連中の気が読み取れた

だが、リョーコはショックのためか反応できていない



アキト「リョーコちゃん、右ィ!」


カケル「危ない!!」



上下、前後、左右から出現した新たなる敵

反応できないリョーコの前に立ち、攻撃を防ごうとするカケルだが

さすがに6機を止める事はできず、リョーコのエステは一斉攻撃を受ける



リョーコ「くッ!くッ!うわぁッ!」



機動兵器の連携攻撃を受けて、床に叩きつけられてしまう

そこに錫状を投げつけられ、手足を貫かれて床に縫いとめられた



ルリ「リョーコさん、大丈夫ですか?」


リョーコ「今回はかなりヤバイかナ・・・・・・」


ルリ「動けます?」



錫杖で床に縫いとめられた左腕と左足を炸薬で切り離す

その頭上では敵の機動兵器『六連』とブラックサレナ、エステが戦闘を繰り広げていた

ブラックサレナはハンドカノンで距離を置き

一瞬できた隙をカケルのエステが突撃して殴り飛ばすが

さらにその上から接近してきた六連により、右腕を破壊されてしまう

すぐさま離れて、リョ―コのエステバリスカスタムの横に着陸する



アキト「おまえたちは関係ない、早く逃げろ」


リョーコ「今やってるよ!」



答えながら機体を起こそうとする

そこに錫状の子が響き渡ってくる



リョーコ「な、何だ!?」


《マスター、ボース粒子増大》



ブラックサレナに搭載されている学習型高性能AIが敵の出現を告げる

ボソンフィールドから真紅の機体『夜天光』が舞い降りる

夜天光を囲むように6機の六連が囲む



北辰「一夜にて天津国まで伸び行くは、瓢ごとき宇宙の螺旋・・・・・・」



夜天光のパイロットの北辰

目に狂気を宿らせ、ブラックサレナを見ながら語りかける



北辰「女の前で死ぬか?」


リョーコ「おんな?え?」


アキト「・・・・・・・・・」


カケル「何ッ!?」



目の前で遺跡が光り輝く

花が咲くように遺跡が開いていく

それを見ていたアキトの体が発光していた



ルリ「!?」



ルリは息を飲み、リョーコが覗き込む

カケルは自らの目を疑いながら凝視して呟く



カケル「ユリカ・・・・・・義姉さん・・・・・・?」



展開が終わった遺跡の中心にある物

それは2年前にシャトル事故で死んだはずの義姉『ミスマル』、改め『テンカワ・ユリカ』だった

今此処に、かつて失われた家族が全員揃った



















〜〜〜あとがき〜〜〜




劇場まんまですが、ようやくオリジナルが入ってきます

まあ、ちょっとだけで劇場通りに進んで行ったんですけどね

『ゼロの領域』は自分の好きなレースアニメから貰いました

この状態はSEEDの『種』や歴代ガンダムの「ニュータイプ」に充分匹敵するでしょう

MXだとブラックサレナとエステバリスカスタムには天と地ほどの差があったんですよね

量産型だとどれくらいになるんでしょうね

次からはオリジナルな展開を増やしていこうと思います


そろそろカケル専用の機体を出してみようかな

それなりに便利な機体を考えます


余談ですが、ブラックサレナのAIなんですけど

考えが纏まらなかったので、まだ名前がありません

何かナイスな名前を募集します



管理人の感想

アテムさんからの投稿です。

ゼロの領域って・・・何のアニメですか?

いや、私の知識にないだけで、有名な作品かもしれませんが(苦笑)

しかし、種とニュータイプに匹敵するっていう事は、かなりの性能なんでしょうねぇ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・種は強いんだか弱いんだか、よく分からない世界ですけどね(爆)

さて、ストーリーは劇場場に沿いつつ、役者は揃ったみたいですね。

次回からの北辰の暴れっぷりに期待してます(笑)