機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
第三・五話 いまいましき過去

「まずは・・・・・そうですね・・・・・私とアキトが会った頃から話をはじめましょうか・・・・ 」



「私とアキトが会ったのは・・・・今から約十年前、両親の事情で私と妹が孤児院に行ったときです」

「ほえ?イツキちゃん・・・・・妹さんいたの?」

「それに孤児院になんでイツキさんがいったんですか?」

ルリとユリカが早速疑問を出す

「説明不足でしたね、両親が孤児院の院長と知り合いだったので私たちはよくそこの子供たちと遊んでいたんです、

アキトとあった時は・・・・・両親がその院長に会いに行ったときでした・・・・・・

初めてアキトと会ったときは・・・・・・今とは比べ物にならないほど暗かったです・・・・・

私はそんなアキトを見て興味がわいたのか話し掛けたんです・・・・・・・・・・

そして・・・・・アキトが何で暗くなっているのかを訊ねました・・・・・・・・・・

そしたらアキトは・・・・・ただ一言・・・・『両親が殺された』とだけ言いました・・・・・

私はとんでもないことをしてしまったと思い・・・・・・その場で泣いてしまったんです・・・・・・

アキトはそんな私を見て・・・・・必死に慰めてくれました・・・・・・・・

ちょうど両親がそんな私たちの姿を見て・・・・・アキトを引き取ろうと決意したそうです

後で聞いた話だと、アキトの両親は私の両親と親しくて、仕事柄よくお世話になっていたそうなんです。

そうしてアキトが私たちの家族の一員になって・・・・・・二年がすぎたころでしょうか・・・・・

そのころのアキトは『コックになるんだ』って家の料理を自分で作ってました

しかもその料理の味も美味しくて・・・・・私しばらくの間、女としての自信を喪失したこともありました」

イツキは本当に嬉しそうに・・・・・・・その思い出を語っていた

「でも・・・・・・・そんなある日・・・・・・・・あの事故が起きたんです・・・・・・」

急にイツキの顔が険しくなった

「そう・・・・・・あの日・・・・私とアキトは母親の誕生日プレゼントを買いに街にでてたんです

そして・・・・・道路を渡ってた時・・・・・・・・・



『イツキ、こんなのでよかったのかな?』

『いいのよ、誕生日プレゼントは思いを伝えないと』

『ははは・・・・・イツキらしい・・・・・・』

『さあさあ、早く帰りましょう、早く帰ってお母さんを驚かせないと』

『わかった・・・・・・イツキ危ない!!』

『え?きゃあああああああああああああああ!!』

『イツキ!!』

『キィィィィィィィィィ!!!ドー―ン』

確かに・・・・・あの時信号は青でした・・・・・・なんでも飲酒運転だったそうです

『う・・・・・アキト・・・・・・・・アキト!!』

『イ・・・・・ツキ・・・・・・・・だいじょ・・・うぶ?』

『私よりアキトのほうが!!』

『オイ!!急いで救急車を呼べ!!人身事故だ!!』

そのあとアキトは病院に担ぎ込まれて・・・・・・二十時間もの大手術を受けました・・・・・・

その結果・・・・・

『プシューーーーー』

『先生!!アキトは・・・・私たちの子供は無事ですか!!』

『何とか一命は取り留めましたが・・・・・・・』

『なにが・・・・・あったんですか』

『予想以上に神経の損傷が酷く、五感のほとんどを失ってしまっています。

不幸中の幸いは生命活動に関してはなんら支障のないと言うことぐらいです』           

『そんな・・・・・まだアキトは十歳なんだぞ!!』

『先生!!どうしようもないんですか!!』

『医者としてはあまり勧められませんが・・・・・・ナノマシンの力を使えば・・・・・あくまで可能性ですが・・・・・』

しばらくの間、アキトは病院で治療を受けることになりました。

アキトは、触覚と視覚、あと・・・・嗅覚を完全に、味覚と聴覚の大半を失ってしまいました

私は・・・・・・そんなアキトの杖になりました

アキトは反対してましたけど・・・・・・触覚も無い状態では動くこともままならない状態でしたから

私は自分の意見を押し通しました、そのときのアキトの悲しそうな顔は・・・・忘れられません



アキトが入院して三ヶ月がすぎたころでしょうか・・・・・・・・・

両親がアキトのために五感補助用のナノマシン研究案を本社ネルガルに提出して

その案が受け入れられたんです

そしてアキトはその被験者になったんです

まず最初は視覚からでした・・・・・・・今のアキトがつけているバイザーは視覚補助用の装置だったんです

しばらくの間は両親が中心でしたがもう一人、イネス・フレサンジュと言う人が研究を手伝ってくれました

イネスさんが参加してからアキトは少しずつ・・・・でも確実に五感を取り戻してました



そして・・・・アキトが十三歳になった時・・・・・もう一つの事件がおきました

アキトがいつものようにIFSの調整の為テスト用のエステに乗ったときのことでした・・・・・」

「どうしてエステでIFS調整をしてたんですか?」

「それはね・・・・アキトは五感補助用にナノマシンを入れてたから

人間の体と同じように動かせるエステのほうが都合がよかったらしいの」

イツキがメグミの質問に答える

「ええと・・・・エステに乗ったとこまででしたね。

あの事件が・・・・・・・テンカワ・アキトが死にアキトが生まれた最大の要因・・・ そう・・・・あの事件が・・・





『いきますよ』

『了解、・・・・・・・IFS伝達率89パーセント、ほぼ完璧ね』

『イネス博士、ちょっとこれを見てください』

『なに?・・・・・・・これは!?』

『そんなナノマシン入れる予定は無かったんですが・・・・・・なんなんでしょうか?』

『わからないわ・・・・・・アキト君、一度降りて・・『ドッゴーーーーン!!』

『何事!!』

『大変です!!反地球連合組織がこの研究所に向かってきています!!』

『狙いはエステ?・・・・・・いえ、おそらく相転移エンジン。アキト君!!急いで降りて、逃げるわよ!!』



『ぐ・・・・・う・・・・・また・・・・・奪うのか・・・・・・・・』

『どうしたのアキト!!』

『もう・・・・失いたくない!!・・・・・奪おうとするやつは・・・・・・・殺す!!



『アキト君!!どうしたの!!アキト君!!』



『ぐ・・・う・・・・うおおおおおおおおお!!』



『アキト!!おちついて!!アキト!!』

『・・・・・・・・・・いくぞ!!』

そう言うとアキトは急にエステを動かして研究所の正門前に向かったんです・・・・・・

そのあいだ、アキトからはサウンドオンリーのままだったのでイネス博士が回線を完全に開いたんです

そしたら・・・・・・・・・・・

『アキト君落ち着いて・・・・・!?ア・・・・・アキト・・・・・君?』

『くくくくく・・・・壊してやる、何もかも破壊してやる!!』

そのとき、私たちははじめてあのアキトを見たんです

アキトはそのまま研究所に向かってきていた部隊と戦い・・・・・・・・・・・」



「どうなったんだ?」

「敵を・・・・・・・・・・・皆殺しにしました・・・・・・・・・・・・・・」



「「「「「「「「「「「「ええ!!」」」」」」」」」」」」

「そ・・・・そんな・・・嘘だよね・・・・・アキトが人殺しなんてするわけが・・・・・・」

「間違いなく・・・・・事実です」

「それで・・・・・・そのあとはどうなったんですか?」

「ルリちゃんは驚かないのね・・・・・・・

そのあと、エネルギーが切れて動かなくなったエステからアキトを引き摺り下ろしたの・・・・・・・

その時には、もうアキトの顔も髪の毛も元に戻っていた・・・・・眠っていたけどね」

「そういえば今回も眠ったと思ったら元に戻ってたわね」

「ええ・・・・・そして・・・・・次にアキトが目覚めた時に・・・・・五感は完全に戻ってたの

それだけならよかった・・・・・でも・・・・アキトは・・・・あの状態の記憶を持ってたの・・・・

人を・・・・・・虫のように殺した・・・・・・そのときの記憶を・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・食堂に重い空気が流れる・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それからアキトは変わった・・・・・・・・・

誰よりも争いを嫌っていたアキトが・・・・・・自分からネルガルのテストパイロットになったの・・・

『アキト・・・・・・本当にテストパイロットになるの・・・・・学校までやめて・・・・・』

『もう・・・・学校に僕の居場所は無いよ・・・・皆がいっていた通り・・・・俺には戦場で生きるしかないんだよ・・・・・』

『あんなの単なる妬みじゃない!!・・・・・どうして・・・・・夢まで諦めちゃうのよ・・・・・』

『・・・・・・もう・・・・だめなんだよ・・・・イツキも聞いただろ?僕の五感がよみがえった原因を・・・・・・』

『でも・・・・・でも!!』

『もう・・・・イツキが知っているテンカワ・アキトは死んだんだよ・・・・・・あの日に・・・ね・・・』

『アキト・・・・・・・・・・・・・・・・』

『今ここにいるのは人間じゃない・・・・生物兵器の『アキト』なんだよ・・・・・・』

『ちがう!!アキトは兵器なんかじゃない!!アキトは・・・・・アキトは・・・・・・・』

『ごめん、イツキ・・・・・・・のことはもう忘れた方がいい・・・・・・・』

『いや!!忘れたくなんか・・・・・・・ない・・・・・・・・・・』

『もう・・・・イツキと同じ道を歩むことはできないんだ・・・・いや・・・・人と同じ道・・・・かな』

『アキト・・・・・・帰ってきてくれるよね・・・・・・・・・・』



そのときアキトは微笑むだけだった・・・・・・・あの日・・・・アキトは完全に人であることを捨てた・・・・・・・

セイヤさん・・・・これが・・・・アキトにとって『アサルトピットがゆりかご』と言うことの真実です・・・・・・・」



「なるほどな・・・・・・・・・・でもそれからアキトのやつはどうしたんだ」

「アキトは・・しばらくは研究所で・・・・・体内に入った『生物兵器製造用』のナノマシンの・・・・調整をしてました」

「生物兵器製造用!!・・・・・・どういうことだい?」

食堂の長、リュウ・ホウメイが発言する

「何者かが・・・・・アキトの体内に遺跡から発掘されたと言うナノマシンを植え付けてたらしいんです・・・・・・

そして・・・・その中の一つが・・・・生物兵器用のナノマシンだったそうです・・・・・・・

アキトの五感が戻ったのも・・・・・このナノマシンが活発化し・・・アキトの身体を作り変えたからだそうです・・・・・」

「作り変えただ!!・・・・・・・・一体どういうことなんだよ」

「私も詳しくは知りません・・・・・ただ・・・基本構造だけは人間と一緒としか・・・・・・」



「アキト君・・・・・・相当重いものを背負ってたんだね・・・・・・・・・」

「精神崩壊を起こさなかった方が不思議だ・・・・・・・」

「簡単にはテンカワから聞いてたけど・・・・・・・これほどとはね・・・・・・・・」

「そういえば・・・・・・どうしてイツキさんとアキトさんはそんな別れ方をしたのに婚約したんですか?」

「ふふふ・・・・・・・実は私も両親に頼んでテストパイロットになったんですよ。

妹も・・・・・私の二年後にテストパイロットになりました

あの時のアキト・・・・・・本当に驚いてたな・・・・・・・・

まあそれからずっと・・・・・私とアキトはタッグを組んでたんですよ」

「それはともかく・・・・・・アキトさんは何度あの状態になった事があるんですか?」

「そうね・・・・・私が知るだけであの状態になったのは・・・・・・今回で十回目ね・・・・

・・・・あの状態になるたびにアキトは精神的にも・・・・肉体的にも強くなる事が多かった・・・・

だから・・・・・今回はあそこまで自分を制御できたんだと思う・・・・・・・・

でも・・・・私はあんなアキトを見るたびにこう思うわ・・・・・・・・

『自分はなんて無力なんだろう』・・・・・・・ってね」

「そうですか・・・・・・」

「でも・・・・あの時は嬉しかったな・・・・・私でもアキトを止める楔になれるって・・・・実感できたから」

「?・・・・・・あの時ってなんですか?」

「私とアキトが軍に入って・・・・・二年がすぎたころだったかしら・・・・・

私とアキトは最年少のエースパイロットって火星ではかなり有名になってたの

そして・・・火星会戦の一ヶ月前だったかしら・・・・私は地球に転属になったの・・・

そして私が地球に向かう日に・・・・アキトが見送りに来てくれて・・・・・・

『イツキ・・・・・これを・・・・・・・受け取ってくれ・・・・・・』

『え?・・・・・これって・・・・・・・・・・・・』

『気付くのに時間がかかったから・・・・・・こんなものしか買えなかったけど・・・・・』

『ねえ・・・・・・・アキト・・・・・これ・・・・・・左手でいいんだよね?』

『あ・・・・ああ・・・・・・・必ず・・・・再会しよう・・・・・その時には・・・ちゃんとした物を・・・・買ってやるから』

『アキト・・・・・・・』

私・・・・・思わず抱きついちゃったっけ・・・・・・・今考えると恥ずかしいな・・・・・・・

『イツキ・・・・・・この約束だけは・・・必ずまもって見せるから・・・・・待っててくれないか?』

『わかった・・・・・・・必ずまもってよ・・・・・ずっと待ってるから・・・・・・』

そのとき渡されたのがこの指輪なの・・・・・・・・・」

どこかうっとりとした表情でイツキがそう締めくくる

「はいはい・・・・・・ご馳走様」

ミナトの言葉はここにいるほとんどの人の意見であっただろう

「ところで・・・・アキト君はいつになったら目覚めるのでしょうか・・・・彼が抜けるとかなりの戦力ダウンなのですが」

「そうですね・・・・・経験上十時間後には目覚めると思います・・・・・・・

後・・・・最後に一つお願いがあります」

全員が、イツキの次の言葉を聞き逃すまいと集中している

「アキトに接する時は・・・・できるだけ今までどおりにしてほしいんです・・・・・

・・・・アキトの居場所を・・・・・減らさないでほしいんです・・・・・・

アキトが・・・・中学を辞めることになった時のように・・・・・・」

「へっ、いわれるまでもねえ。俺たち整備班はあいつのことをよく知ってんだ、今更付き合い方を変えれっかよ」

「私には聞くまでも無いでしょう、テンカワが軍にいたとき、一番付き合い長いのは私よ

今更付き合い方を変えたら恩を仇で返すことになっちゃうわよ」

「ま・・・・私もかえる気は無いわよ。

あの時のアキト君・・・・・本当に怯えていたもの・・・・・

あんなの見たら・・・・・よけいに構いたくなるわよ」

どうやら、母性本能をくすぐられた者がいたようだ

「みなさん・・・・・・ありがとうございます・・・・・・・」

「さてさて、サツキミドリに到着するまでまだまだ時間はありますから。皆さん身体を休めておいてください」

プロスの言葉とともに今回の集まりは解散と相成った

今回の話の中心となった『白騎士』は・・・・・・一時の安らぎにその身をゆだねていた・・・・









あとがき

今回はアキトの過去について簡単に触れてみました

簡単・・・・って言うよりほとんど核心をついてしまいましたが・・・・・・

アキトが力を得た代償・・・・・わかっていただけると幸いであります

さて、次回はサツキミドリコロニー事件ですが・・・・・・・・

オリキャラを一人出す予定です

今回もその伏線を入れましたが・・・・・・ばればれですね(苦笑)

では次回、またお会いしましょう

 

 

 

代理人の個人的な感想

・・・・・・・・・・・・・・・ベタっすね(爆)。

キライじゃありませんけど(笑)。