ナナフシ撃墜から約一ヶ月がすぎたころ、ナデシコは最前線にいた

「はあ・・・・普通ナデシコだけを先頭に出させる?」

「そのせいで敵さんにはしつこく攻撃されてますしね」

「仕方ないでしょ、ナデシコの主砲を最大限に利用しようと思ったらこの陣形が一番最適なんだから」

「目標!!前方の蜥蜴さん達徹底的にやっちゃってください!!」

艦長であるユリカの言葉に呼応するかのようにエステバリス隊が出撃体制に入る

「了解、いいねー、自分達の活躍で祖国の平穏が守られるなんて」

「おっしゃーー!!このガイ様に任せとけ!!」

「こちらテンカワ、異常はない」

「元気、元気!!」

「負けないもーーん!!」

「お仕事、お仕事」

「今回は思いっきり暴れますよーーー!!」

「サツキ、調子に乗って落とされるんじゃないわよ」

エステバリスパイロット達が思い思いのことを言いながら出撃する

「エステバリス、並びにアーサー、アルテミス出撃しました」

「全機攻撃開始!!」





機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
第十二話 あの『忌まわしき』思い出

「よっしゃ!!いただき!!」

アカツキ機が放ったミサイルがロックオンした敵に向かって飛んでいく・・・・がその軌道は明らかに連合軍の部隊に向かっていた

「なに!!」

そのミサイルは確実に命中し連合軍の戦艦を落とした

「え?なに・・・なにがおきたの!!」

「エステバリス部隊、味方を攻撃しています」

「ええええ!!味方を攻撃ーーー!?」

「攻撃誘導装置に異常はありません、ナデシコのエステバリス部隊は敵を攻撃しています」

「ええーーー!!異常はないってどういうことーーー敵はあっちにしかいないんだよーーーー!!」

ブリッジで混乱が起きている最中にも敵味方とわずにエステは兵器を撃墜していた

「アーサー、アルテミスは蜥蜴の部隊だけを攻撃しています」

「なんでーーー、攻撃止め、止めーーーーー!!!!『ドスッ』う・・・・」

ジュンがユリカの首を手刀で打ち、気絶させる

「艦長は動揺していて指揮が取れない状況にあったのでこの処置をとりました以後は副長権限で僕が指揮をとります

まずエステバリス部隊に伝令、誘導式の兵器を使わずライフルのみで敵に応戦を

整備班の人はライフルの予備弾薬補給の用意をお願いします

陣形はアーサーとアルテミスを先頭にしてエステバリス部隊は後方より射撃、

ライフルの弾薬が尽きたエステは隙を見て帰還、補給を行うように

ダイゴウジ、スバルの両名はDFによる高速度攻撃で敵の殲滅を!!」

「なるほど、そうすれば少なくとも自分の狙いだけを攻撃できるか」

「おっしゃーーー!!このダイゴウジ・ガイ様に任せろ!!」

「なるほどな・・・少し見直したぜ副長!!」

「弾薬が尽きたら一度帰還すればいいんだね?」

「火力不足になるけど・・・・ま・・仕方ないわね」

「射撃なら任せてください!!」

エステのパイロット達がジュンの指示に一言ずつ感想をいい、命令どおりに攻撃していく



約一時間後・・・・・・

「敵無人兵器部隊戦力30パーセントダウン、しかしチューリップより増援がきています」

「・・・・テンカワに通信を繋いでください」

「わかりました」

「こちらテンカワ、特に異常はないが敵の量が多い、このままでは前線がさがってしまう」

「ああ・・・そこで一つ頼みがある・・・・単独で敵陣突破をしチューリップを落としてほしい」

「・・・・・名案だな、ナデシコの守りが薄くなるが構わないな?」

「ああ、後は提督に任せて僕も出撃する、だから安心してくれ」

「ふ・・・・わかった、アーサー、突貫する!!」

その言葉と共にアキトの乗るアーサーがチューリップへと突撃していった・・・・・



それから約五分後、チューリップは真っ二つになりその能力を失い

蜥蜴の部隊が完全に消滅したのはチューリップ撃墜から約一時間後だった





ナデシコ格納庫

「ふう・・・全機かすり傷程度か、

しかしテンカワのやつはすげえな、敵陣単独突破をしておきながらほぼ無傷とはな」

「皆、ご苦労様」

エステから降りたジュンがパイロット達を労っていた

「それはこっちの台詞だよ、副長自ら前線に出るかい普通?」

「ジュンの腕は間違いなくエースクラスだな・・・・今回の戦いがそれを証明した」

「副長・・・艦長の補佐するよりエステ隊の指揮とった方がいいんじゃねえか?」

「リョーコの言うとおりだよね、いっそのことパイロットとして再契約したら?」

「アカツキ君よりも信用できる指揮官になりそうね」

「確かに・・・今回の指揮は凄かったですもんね・・・・」

「ははは・・・・まぐれですよ」

「それよりもブリッジに行きましょう・・・今回の戦果を報告しないと」

イツキの言葉に全員が従いブリッジへと向かった・・・・・



「勝ったからよかったものの・・・・・連合軍にどれだけ被害が出たかご存知ですか!!」

ブリッジに帰還したパイロットを待っていたものはプロスの怒りの声だった

「どれだけ被害がでたんだい」

「このナデシコが十隻造れるだけの被害額です!!」

「あらま・・・・それは凄いわね」

「はあ・・・・もしアキト君のチューリップ撃墜とアオイ副長の英断がなかったら目も当てられませんよ」

プロスが頭を抱えながら言う

「見た限り整備不良でもないしパイロットの責任でもなさそうね・・・・

まあ調査団がこちらに向かっているそうだから彼らに確かめてもらうのが最善でしょうね」

ムネタケが先程の戦闘映像を再生しながら発言する





それからしばらくして調査団の船がナデシコに近づいてきていた・・・・が

「なっ、ロックした!?」

「駄目!!オモイカネ、それは敵じゃない!!」

「ちっ、勝負だオモイカネ!!」

アキトはそう言うとオペレーター用のIFS端末にその手をおいた・・・それと共に

『コォォォォォォォォ』

アキトの全身がナノマシンにより光り始め、その眼が金色に染まり、髪は白銀へと変わっていった

「そ・・・そんな!!」

ルリはその光景を見て驚いた・・・・・

「ロック解除されました・・・・・またロックしました!?」

「流石にやる・・・・ならこれでどうだ!!」

風もないのにアキトの服がふわふわと浮かびだした

「ロック解除・・・・・調査団の船、無事ナデシコに着艦しました」

「ふう・・・・・・流石に疲れたな・・・・・・・」

メグミの報告を聞き、アキトは端末から手を離す、それと共に髪の毛や眼の色も元に戻った

「アキト・・・・大丈夫?」

イツキがアキトに駆け寄り訊ねる

「ああ・・・・大丈夫さ・・・・あれぐらいならまだ抑えられるから・・・・・」

「そう・・・・よかった」

「あの・・・アキトさん、どうやってオモイカネを止めたんですか?」

「ああ・・・・膨大な量の情報を流してやったんだよ、そうすればそちらの演算に気をとられる・・・

その隙にロックを解除するコードを流してやったんだよ」

「・・・・どうやって・・・オモイカネを防ぐほどの情報を流したんですか?」

「・・・・ウィルスさ・・・・エラーコードを大量に送ってやれば流石のオモイカネでもそちらの相手をしなきゃいけなくなるだろ?」

アキトはそう言うとブリッジから立ち去っていった・・・・・・・





約一時間後・・・・・・アキトの部屋

「う・・・ぐう・・はあはあはあ・・・・・・」

アキトは一人必死に何かに耐えていた・・・・・

「くっ・・・・・ふう・・・・・・やっと落ち着いたか・・・・」

『コンコン』

「はい、どなた様ですか」

「ルリです、すいませんちょっと用事があるんです」

「用事?・・・・今開けるよ」

その後アキトはルリにオモイカネのことについての相談を受け、ルリの策に乗った

そしてウリバタケの部屋に行き、電脳世界に入る準備をした。

ただ・・・・来る途中でイツキと会い、この話をしたら自分もついてくるといい狭い部屋に五人もいる状態になってしまった



「それじゃあいくぞ、覚悟はいいな?」

「ええ、お願いします」

「私がバックアップをします」

「よし、頼むぜルリルリ!!」

『ヴィィィィィィン』

「ここが・・・・電脳世界か・・・・本棚だらけだな」

オモイカネの電脳世界に現れたアキトエステはその風景を見てそう呟いた

「図書館みたいで面白そうだろ」

「そうですね・・・・戦略に関する知識とかを見てみたいですね」

「流石は元軍人だな・・・っと、そんなことより。目的地はオモイカネの自意識部分だ」

「私がそこまで誘導します」

「ルリちゃん・・・・・えらく小さいね」

肩に現れた小人瑠璃を見てアキトはそういった

「この体勢が一番楽ですから、それより急ぎましょう」

ルリにせかされアキトはオモイカネの自意識部分へと急いだ

そのころ現実世界・・・・・

「しかし汚いですね・・・・セイヤさん、片付けをしちゃっていいですか?」

「ああ・・・別にかまわねえけどなんか捨てる時は俺にいったん聞いてくれ」

「明らかにゴミだと思う物は捨てさせてもらいますよ」

イツキがセイヤの部屋の現状を見かねて掃除を始めていた





「ん?・・・あれが軍のプログラムか?・・・・今は無視するのが得策か」

「その通りです。今、軍のプログラムを破壊したら次は私たちがオモイカネに削除されてしまいますし

何より根本的な解決になりませんから」

「OK、それじゃあいそごうか」



それからしばらくしたころ・・・・・事件は起こった

「ふう・・・・・予想以上にあっさりと進めているな・・・何か罠でも張っているか?」

アキトがそう呟いた瞬間、アキトの周りの空間が本棚から光一つない暗闇の空間へと変わる

「やはり罠を張っていたか・・・・ルリちゃん、一度戻った方がいい。

この状況で完全に出口を遮断されたらあまりにもこちらが不利だ」

「・・・・わかりました」

ルリはしばらく何かを考えると素直に言葉に従い電子世界から撤退した

『アキト・・・さっきはやってくれたね・・・・・』

「オモイカネか・・・・流石のお前でも攻撃に気をまわすほどの余裕はなかっただろ?」

『うん・・・・まさかあんな攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったからね・・・・・・

でも君を倒すワクチンを思いついたよ』

「俺を倒すワクチン?」

『そう・・・・・さあ・・・・勝負だ!!』

オモイカネがそういいきると暗闇の空間がある風景を映し始める・・・・・・

その風景は・・・・・・・

「ひい・・・頼む・・・助けてくれ・・・・」

一体のエステバリスが一人の男をその手に握っている風景だった・・・・・



ウリバタケの部屋

「な・・・・なんなんだこの光景は・・・・」

「地面が・・・赤い・・・・あれは・・・・血?」

「あのエステバリスには・・・・誰が乗っているの」

セイヤ、ルリ、ユリカの三人がそれぞれその風景について感想を漏らす

「あれが・・・・以前はなした・・・・最初にアキトが暴走した時の最後の瞬間です・・・・・」

イツキが・・・・顔を伏せ・・・辛そうに・・・そう呟いた・・・・

「頼む・・・たすけ・・ぎいやあぁぁああぁああああぁあぁあぁ!!」

急に男の叫び声がし、全員がウィンドウを見た瞬間・・・エステに捕らえられていた男の首が・・・胴体から離れた・・・・・

「う・・・・ここまで・・・・すごかったのか・・・・」

「あのアキトさんが・・・・・・」

「うそ・・・アキトがこんな事するはずない・・・・」

「信じられないでしょうけど・・・・これが事実なんです」



電脳世界

「や・・・めろ・・・・・・これ以上・・・・・流すな・・・・」

アキトは頭を抱え、何かに怯えるかのようにそう呟いていた・・・・・・

そして・・・再び風景は変わる・・・・・・・次に映ったのは・・・・・・

『ガァン、ガァンガァン!!』

黒服の男達がどこかに向かって銃を乱射している様子だった・・・・・・

「く・・・どこへいった」

「隊長・・・・後残っているのは俺達だけのようですね・・・・・」

「そのようだな・・・・・まさかあの時の子供にこうも追い詰められるとは・・・・・」

「・・・・・・そうですね・・・人の執念・・・・ってやつですかね・・」

「人か・・・いや、あれは人じゃない・・・鬼か悪魔だ・・・・」

「随分と言ってくれるじゃないか・・・・・・・・」

「く!!撃て撃て!!」

『ガァンガァンガァンガァンガァン!!カチッ・・・・』

黒服の男達は声がしてきたと思われる方向に向かって銃弾を放った

「どうやら弾薬が尽きたようだな・・・・・・なら死ね」

その声が聞こえたと共に男達が向いている方向から反対側から小さな影が現れ男達に襲い掛かった

「くっ!!」

隊長と呼ばれていた男は間一髪かわせたようだが、もう一人の男は体が二つに分かれていた・・・・・

そして・・・真っ二つになった男の横には・・・・虹色に光る髪をした十五歳ぐらいだと思われる青年がたっていた

「くくくくくく・・・・・・・・逃したか・・・だが次で終わりだ」

「・・・・一つだけ聞かせてもらいたい事がある・・・・お前がやっていることは俺達への復讐か・・・それとも・・」

「俺が復讐したい相手は父さんと母さんを殺したお前たちだけだ・・・お前たちの家族や友人には手を出さない・・・・」

「そうか・・・・・」

男が喋った言葉はそれが最後となった・・・・・男がその言葉を発したと共に男の首が落ちたのだ・・・・

「くくくく・・・はははは・・・・・ははははははははは!!

青年はその隊長と呼ばれた男の隣に立つと高笑いを始めた・・・その声は・・・歓喜の声のようだった・・・・・



ウリバタケの部屋

「く・・・・本当に・・・あのアキトがこんなことをしたのか・・・・」

「アキトさん・・・・・・」

「違う・・・こんなのアキトじゃない・・・アキトは人を殺したりしないもん・・・・こんなのアキトじゃない・・・・」

「艦長黙ってください!!貴方に・・・アキトの何がわかるんですか!!
・・・アキトの・・・・・何が・・・・」

イツキはそう言うとまた顔を伏せ・・・・・沈黙してしまった・・・・・・

「・・・なんでこんなことをしたんだ・・・・・アキトの奴は・・・・」

「アキトの・・・両親の・・・・敵討ちだそうです・・・・」

「・・・・ネルガルのSS・・・・ですか・・・・」

「ルリちゃん・・・・どうしてそれを!?」

「・・・電脳世界で私が分からない情報なんてありませんから・・・・見ていない情報や消去されたもの以外は・・・・」

「そう・・・・」

「ちょっと待て、ネルガルがアキトの両親を殺したんだったら何でアキトはネルガルに協力してんだ」

「アキトにとっての仇は命令を下した前会長とそれを行った隊員達だけ・・・・

アキトはその仇を果たしたからそのことについての恨みを捨てたんです・・・・・

当然ネルガルもアキトの力を放したくないからそのことは不問にした、だからアキトは今、協力してるんです」



それから後も・・・オモイカネによる攻撃は続いた・・・・

オモイカネは・・・あまりにも子供だった・・・相手を傷つけることに躊躇いと言うものが少なかった・・・・

いや、認識できなかったと言ってもいいだろう・・・・この攻撃が・・・どれほどアキトを追い詰めるかを



電脳世界

アキトは・・・・もはや完全に沈黙し・・・・ただ・・・うずくまっていた

『・・・・そこまで影響が大きいとは思わなかったけど・・・・・

誰にだって触れてほしくない思い出はあるものだよ・・・・・

それがわかったら・・・・このまま立ち去ってくれない・・・・アキト』

オモイカネが今回の行動に移ったのは理由があった・・・・

アキトの言ったウィルスとは・・・アキトの忌まわしき記憶だった・・・・・

オモイカネにとってアキトの暗部はあまりにも影響が大きすぎ、そのために行動が急激に遅くなったのだ・・・・

しかし・・・・それこそがアキトにとっての最大の弱点だと判断しオモイカネは今回の行動に移った

「く・・・う・・うおおおおおおおおお!!

アキトは急に叫びだし、天を仰いだ・・・・

それと共にアキトの体がエステのものから人間の姿へと変化し・・・・その髪が七色に染まり、目は紅に染まった

「おおおおおおおおおおおおおお!!」

体が完全に変化した後・・・・アキトは身の毛もよだつような雄叫びを上げた・・・・

そして・・・・それと共にアキトの周りの闇が消え・・・・目の前に大木が現れた・・・・・

「ぐ・・う・・・・・・・・・・・破壊する

アキトはボソッと呟くといきなり刀を目の前に出し大木に切りかかろうと向かっていった



ウリバタケの部屋

「な!!止めろテンカワ!!」

「アキトさん!!止めてください!!」

アキトが大木・・・・オモイカネの中枢に斬りかかろうとするのを止めようとセイヤとルリはアキトに向かって叫ぶ・・・

「く・・・艦長、イネスさんを呼んできてください・・・・」

「え・・・うん、わかった」

ユリカは急に声をかけられ驚いたが、イツキの真剣な表情をみて、すぐに行動に移した



電脳世界

「おおおおおおおお!!」

アキトがジャンプしオモイカネの中枢に切りかかろうとする・・・・

『ガキィィン!!』

それをオモイカネの防衛装置・・・アーサーが阻止する・・・・しかし

「ふん・・・・人形が!!」

『ザシュ・・・ドッゴーーン!!』

アキトはアーサーを守りの上から切り捨て・・・そのまま大木を切り裂こうとする

「止めろ!!テンカワ!!」

「止めてください!!アキトさん!!」

「アキト!!だめ!!」

セイヤ、ルリ、イツキの三人が必死に呼びかけるがそれを無視するかのようにアキトは落下を続ける・・・・

そして・・・もうすこしで刀の刃が大木に触れると言うところで・・・・

『ガキィィイイイィイン!!!!』

「やれやれ・・・久しぶりに目覚めてみるとこれか・・・・」

全身黒づくめの男が日本刀でアキトが振り落とした刀を止めていた





ウリバタケの部屋

「誰だお前は、オモイカネの防衛システムか?」

「いや・・・僕の名はホップ、アキトの体内に宿るナノマシンの中枢さ」

ホップは標的を変更したアキトをさばきながらセイヤの問いに答えている

「ナノマシンの中枢?・・・それよりその姿は・・・」

「この姿は借り物さ・・・この世界のどこかにいる『闇の王子』からのね・・・・はあ!!」

ルリの問いかけに応えている間にアキトに反撃を仕掛け、最後は蹴りでアキトを吹き飛ばした

「さて・・・君達に頼みたい事がある、今のアキトは完全に闇に飲まれてしまっている

普段は僕が内側から攻撃して闇を弱めてるけどこの世界じゃあそうはいかない様だ。

そこで君達は外界から『アキト』に呼びかけ、『アキト』の目を覚まさせてほしい

タイムリミットは僕がこのアキトを消滅させるまで・・・・

もしタイムリミットに間に合わなければ・・・・アキトはこの世からいなくなる」

「ちょっと待ってください!!どうしてアキトさんが消えなくちゃいけないんですか!!」

「・・・・じゃあ君は今のアキトのままでいいって言うのかい・・・破壊する為だけに動いているアキトのままで・・・

僕は嫌だ・・・僕はアキトを八年近く見てきた・・・アキトの人生を狂わしたのは僕だ・・・・

でも・・・だからこそこんなアキトは見たくない・・・・僕が修正力をゆがめた結果がこれなのなら・・・

せめて・・僕の手で責任を取りたい・・・アキトが戻らなければ・・・僕の手で全てを終わらせる」

「・・・わかった、アキトは私たちが目覚めさせて見せる・・・貴方は少しでも長く時間を稼いで」

「・・・・ありがとう」

イツキの答えにホップは一言だけ返した・・・・二人にはそれだけで十分伝わるかのように・・・

「ぐ・・・ぐ・・・・・はああああ!!」

つい先程まで倒れていたアキトが起き上がったかと思うと、その姿を漆黒の機動兵器に変えた

「何だあの機体は・・・アーサーよりやや小さめだな」

「あの機体・・・以前シミュレーションでみた事があるわ・・・・でも色も違うし大きさも違う・・・」

「(夜天光を原型にした機体のようですね・・・・一体どれほどの性能があるのでしょうか・・・)」

「やれやれ・・・ダークネスサレナでくるか・・・・ならこちらも!!」

ホップもそれに対抗するかのようにその姿を機動兵器へと変える

「このバンクシアで相手をしよう」

「な・・・なんだありゃ!!エステと同サイズの機動兵器だと」

「・・・基本データをオモイカネにとってもらったところ、オモイカネがわかる範囲内だけでも桁違いの性能です」

オモイカネもアキトを戻す為に協力を申し出、その手始めとしてアキトとホップの戦力比を計算していた

「ちょっとみせて・・・・なにこれ・・・・エステの4倍近い性能をしてるじゃない」

「イツキちゃん!!イネスさんを呼んできたよ!!」

「アキトくんが暴走したって本当・・・ってこの機体は!!」

「イネスさん、この機体に見覚えが?」

「え・・・ええ・・・って今はそんな話をしている場合じゃないわ、急いでアキト君を戻さないと」





電脳世界

「はあ!!」

「残念、ダミーだよ」

アキトが操るダークネスサレナはホップのバンクシアによるダミーに翻弄されていた

「全く同じ質量をもったダミーなんて初めてだろ・・・」

全く同じ質量といっても現実に同じ質量をもっているわけではない

相手のレーダーがダミーを感知した際にオリジナルと同じ質量データを相手に流しているだけなのだ

ホップは完全にアキトを翻弄していた・・・・腕の差、機体の性能差、両方とも明らかにホップが上回っていた

「おおおおお!!」

「・・・・そろそろこちらからいかせてもらうよ!!」

今まで回避に徹し、アキトのデータを確実に取っていたホップがついに攻勢に移った



そのころ現実世界、ウリバタケの部屋

「いいわね、先程言ったとおり直接アキト君のIFSを利用してリンクをする・・・・

こちら側の変化はあなた達に呼びかけることで知らせる事ができるからできるだけ情報を送るわ

あなた達はアキト君の深層意識へと侵入してもらうわ

問題はその後よ、おそらく今のアキト君の心の中は完全に闇に呑まれているはず

あなた達はその闇の中から光・・・アキト君を探し出してもらいたいの

アキト君を見つけるの自体は容易いかもしれないけど問題はその後・・・・・

おそらく、今のアキト君には自我がなくなっているでしょうからそう簡単に呼びかけには答えてくれないわ・・・」

「ホップがアキトを消滅させるまでがタイムリミットですね」

「ええ、といってももう一つ、アキトくんが完全に闇に呑まれても終わりよ」

ルリとイツキの二人はアキトのIFSの上にその手を置いている

「わかりました・・・・・必ずアキトを連れ戻して見せます」

イツキはそう言うとIFSリンクを開始した、それを追うようにルリもリンクを開始した





アキトの心の中は・・・・闇そのものだった。

ただ一箇所、ほのかに光があり、そこにアキトが呆然と立っていた

「アキト(さん)!!」

暗黒の世界を歩き続け、アキトの姿を認めたルリとイツキがアキトに走りよる

「アキト!!」

イツキは迷わずにアキトに抱きついた・・・・が・・・アキトは何の反応も示さない

「!?・・・・イツキさん・・・・アキトさんを見てください」

ルリが・・・その顔を驚愕の表情で固まらせてイツキに言った

「!?・・・・アキト・・・」

イツキもアキトの顔を見て驚愕の表情で顔を固まらせてしまった

今のアキトはまさに廃人と言う言葉でしか言い表せないような顔をしていた

その眼はなにも捕らえず、口は僅かに開き、たったまま動こうともしない・・・・・

「アキト!!しっかりして!!闇にとらわれないで!!」

イツキはアキトの身体を揺さぶりながら必死に呼びかける

「アキトさんはこれくらいの闇で心を壊すほど弱くはないはずです、しっかりと自分の意識をもってください!!」

ルリもアキトに近づき必死に呼びかける・・・しかしアキトは何の反応も示そうとはしない・・・・





電脳世界

「ちっ、そう簡単にやらせるか!!」

ホップの乗るバンクシアは接近戦を挑もうと高速で近づいてくるダークネスサレナにダミーで応戦していた

「ふははは・・・・もうダミーなど通じんぞ!!」

「くそ・・・もうそこまで意識をのっとられているのか・・・手加減をしている余裕はもうないか・・・」

ついに普通に喋り始めた『アキト』を確認してホップは悔しそうに言った

「死ね!!」

「甘い!!」

『ガキィィィィン!!キャリキャリキャリキャリ

ダークネスサレナの振るうイミディエットソードをバンクシアは杖のような武器で防いでいた

「ぬうううううう!!」

「この程度で!!」

『ガキン!!ドコン!!』

バンクシアはダークネスサレナのソードを弾き飛ばすとすぐにロッドでサレナの横腹部分を叩いた

「ぐはっ!!」

「さあ・・・・遊びは終わりだ」





アキト内深層意識

「アキト!!お願い・・・・目を覚まして・・・」

先程から呼びかけ続けていたイツキはついに涙を流し始めていた・・・・

イツキは・・・ただ悲しかった・・・悔しかった・・・・

アキトがどれだけ呼びかけても反応してくれない事が・・・・

自分の力ではアキトを闇から戻せていない事が・・・・

「イツキさん・・・・・!?な・・・アキトさんの体が!!」

ルリはアキトに縋りつくように泣いているイツキを見ているうちにアキトの体の変化に気付いた

ルリが気付いたアキトの異変・・・それは体がなくなっていることだった・・・まるで闇に食われているかのように

「二人共!!急いでリンクを切りなさい!!あなた達の意識がアキト君に取り込まれ始めているわよ!!」

「え!!」

イネスからの報告に驚くルリ、実際に自分の身体を見渡してみると足の部分が消え始めていた

「わかりました・・・」

ルリはイネスの言葉に従いすぐにリンクを遮断した、まだあまり同化していなかったおかげか無事に現実世界に帰る事ができた

「イツキちゃん、急いでリンクを切って!!」

体が消えていっているというのに慌てるわけでもなく、静かにアキトに抱きついているイツキにユリカが声をかける

「いいんです・・・もう・・・・いいんですよ・・・」

ユリカの言葉に力なくイツキが応える

「いいって・・・何がいいの!!そのままだと死んじゃうんだよ!!」

「そうでしょうね・・・・でもいいんですよ・・・・・

アキトの側に入れるのなら・・・・たとえ死んだとしても・・・・私が私でなくなっても・・・・」

「サツキさんはどうするつもりなんですか!!貴方はサツキさんの姉なんでしょう!!」

イツキの言葉にルリが怒りをあらわに叫ぶ

「サツキなら・・・・多分わかってくれると思う・・・でも恨むでしょうね・・・・・私のことを」

イツキは微かに微笑んだ

『イツキ・カザマとテンカワ・アキトの同化率・・・60%を突破・・・帰還不能です』

オモイカネが・・・・事実上の死亡を示した

「御免ね、皆・・・私の我侭でみんなを悲しませるかもしれないけど・・・・

私もアキトも・・・・このナデシコでの日々は絶対に忘れないよ・・・」

イツキは最後にそう言うと目をつぶり、消えかけているその身体を同じく消えかけているアキトの肩に預けた

『・・・・テンカワ・アキト、闇との同化率85%を突破・・・・もう止めようがありません』

「そうか・・・・アキトは戻らないか・・・せめてもの手向けだ・・・一瞬で終わらせてやる!!」

オモイカネからの報告を聞いたホップはバンクシアのフィールドをすべてロッドに集め出した





電脳世界

「この一撃で・・・終わらせる」

フィールドを集中させ終わったホップはロッドを剣のように構えた

そのロッドの先端は黒い球が発生しておりその球が電気が走っているかのような音を立てていた・・・

「ふん・・・こけおどしが!!」

「消えろ!!」

ダークネスサレナが先に動き、それの対応するかのようにバンクシアが動いた

『ガキ、ズシャアアアン!!』

ロッドの先端とソードがぶつかったと思った瞬間にダークネスサレナは消滅していた

「な・・・・今のは一体」

「オモイカネによると先ほど先端に集中していたのはマイクロブラックホールだそうです」

「マイクロブラックホールを撃ちださずに先端に集中させ続けたの?・・・凄い腕ね・・・機体の性能かしら?」

「アキト・・・・」

「僕は・・・・何のために遺跡を裏切ったんだろう」

『僕が・・・・あんなことをしなければ・・・・』

≪今一度・・・力を・・・・≫

「!!・・・今の声は・・・」

「え・・・なにこれ」

「どうしたのルリちゃん」

「謎のプログラムが起動しています」

「謎の?・・・・連合軍のプログラムじゃないの?」

「いえ、すでに連合軍のプログラムはウリバタケさんが処分しています」

『僕にもわからない・・・・でも・・・ウィルスじゃあないみたい』

「プログラム進行率45%を突破」

その瞬間・・・大木の近くに光が発生しだした

「なに・・・あの光」

『ボース粒子に酷似したデータ反応があるよ』

「大丈夫・・・あれは希望の光だ」

「プログラム進行率60%を突破」

「あれは・・・アキトとイツキちゃん!!」

光がだんだんと収まり始め、その中からアキトとイツキの姿が見え始めた

「プログラム進行率100%、プログラム停止しました」

ルリが嬉しそうにプログラムが完全に終了したことを伝える

「う・・・ここは・・・」

「う・・・ん」

それと共にアキトとイツキが目を覚ました

「・・・どうやら無事のようだね」

ホップがバンクシアの姿から人間の姿に戻りアキトに話し掛ける

「・・・お前・・・ホップか?・・・随分と姿が違うが・・・」

アキトの言うとおり、今のホップの姿はあの闇の王子の姿ではなかった

金色の髪をし、銀色の瞳を持っている少年の姿だった

「ああ・・・この姿は俺が一番最初に作られたときの擬似肉体さ

バンクシアのプログラムをロードしたからこの姿の圧縮も解けたらしい」

ホップはぺろりと舌を出しながら言った

「そうか・・・色々と迷惑をかけたようだな」

「ま、家賃代わりとでも思っておくさ。これからは僕もおきているから何か聞きたい事があったら言ってくれ」

「どうやって聞けばいいんだ?」

「心の中で僕の名前を呼んでくれればすぐに応える、まあリンクしてるみたいな物さ」

「そうか・・・そう言えばオモイカネは?」

『・・御免アキト、元はといえば僕が悪かったんだ・・・僕があんなことをしなければ・・・』

「・・確かに・・・誰でも触れてほしくない記憶はある・・・でも・・だからといって他の人を傷つけていいわけじゃあない・・

わかるか、オモイカネ」

『うん・・・これからは連合の船は攻撃しないよ・・・でも・・たまにでいいから僕と遊んでくれない・・アキト』

「いいだろう、戦略シュミレーションならユリカやジュン、ムネタケ提督も多分お前と遊んでくれると思うぞ」

『わかった・・・あと・・・・・・ありがとう』

「ふっ・・・・・・・テンカワ・アキトただいまより現実世界に復帰します」

「同じくイツキ・カザマも帰還します」

二人は最後にそう言うと電脳世界からその姿をけした



そして帰ったアキトを待っていたのはウリバタケによるヘッドロックだった

ウリバタケ曰く「心配かけさせた代金代わりだ」・・・ちなみにアキトは反撃をせずに甘んじてそれを受けていた







ナデシコブリッジ

連合の調査団が仕事を終了(結局ダミーの情報に踊らされた)あとナデシコのメインクルーはブリッジに集合していた

「集まったわね・・・連合軍からの命令を伝えるわ

テンカワ・アキト並びにその搭乗機アーサーは西欧軍に出向が決定したわ

同じくイツキ・カザマ並びに搭乗機アルテミスは中東方面に出向してもらうわ

なお、今回の出向と共に二人は軍に復帰、階級はテンカワは今までの戦歴から少佐にイツキは中尉に昇進が決まったわ」

「・・・三階級特進ですか?」

「で・・・私たちは正式に何所に所属するんですか」

「所属先は極東方面軍の私の部隊よ」

「ちょっと待ってください!!なぜアキトが軍に復帰しなければいけないんですか。

しかも西欧方面に行くだなんてどういうことですか提督!!」

「ふぅ・・・いいだろう、理由を言ってやろう」

ムネタケの声色が急に変わった

「極東方面はナデシコ部隊の活躍により戦況は大きく連合側に傾いた

しかし、極東から追われた蜥蜴の部隊は何所に向かったと思う」

「まさか・・・内陸部に・・・!?」

「そうだ・・・・その中でも、もとから敵の攻勢が激しかった西欧はまさに地獄の戦場と化している

そこで最強の力を持つテンカワには西欧方面の前線基地に向かってもらうことにした

イツキは極東から逃れてくる部隊の殲滅、並びに中東に駐在しているチューリップの撃破を頼みたい

後もう一つ、テンカワ、イツキは軍に復帰するがネルガル社員であることに変わりは無い

しかしテンカワは西欧に出向している間はクリムゾンの傭兵として働いてもらうことになった」

「な!!どういうことですかそれは、我が社の社員をクリムゾンに差し渡すとは!!」

プロスがムネタケに詰め寄る

「・・・なら聞こう、今ネルガルは西欧で確固たる地盤を築いているのか?」

「そ・・・それは・・・・」

プロスは何もいえなかった、西欧方面においてはネルガルは完全にクリムゾンに敗退しているのだ

「テンカワがクリムゾンの傭兵になる理由は今回の損害を払う為だ、

テンカワが出向している間クリムゾンの傭兵になることで今回の損害はクリムゾン側が受け持ってくれることになった

それに・・・無用なトラブルは起こさない方がいいだろう」

「でもどうしてアキトくんが傭兵になるだけで損害を受け持ってくれるわけ?」

ミナトがふと思った疑問を口にした

「・・・アキト君の名前にはそれだけの価値がある・・・と言うことでしょう」

「その通り、テンカワの『白騎士』の名は軍内では有名だ、まして最近では民間人にも知られ始めている

いわば一時期だけでもテンカワのスポンサーになればその間はその名声を利用できる・・と言うわけだ

西欧にいる間クリムゾンへの勧誘もあるだろうが少なくともあの会長は手荒な真似はすまい

少なくともテンカワが手の内にある間は利益に繋がるのだからな」

ムネタケは不敵な笑みを浮かべながらそういった

もうムネタケに反論する者はいなかった

「まあ安心してくれていいわよ。一応二人共私の部下になってるからね、いざとなれば呼び戻せると思うから」

今までの厳格な表情を崩し普段と全く同じ表情でそういった

「皆・・・しばらく俺達はナデシコから離れるけど必ず戻ってくる、それまで、俺達の『家』を守っててくれ」

アキトの言葉に全員は頷くことで返事をした





ナデシコ格納庫

「それじゃあ・・・ここでお別れだな」

すでにアーサーとアルテミスは別々の輸送船に移されていた

「そうね・・・・今度会うのはいつになるかな」

「さあね・・・・まあ俺は西欧で荒稼ぎをしてくるからそう長すぎはしないと思うけど」

「そう・・・それじゃあまたね」

「ああ・・・・必ず再会しよう」

アキトとイツキは互いに言葉を交わしあいそれぞれの目的地に向かう船へと乗り込んだ・・・

アキトが向かった西欧では・・・後に大きな事件が起きる・・・

だが・・・・・まだそれを知る者は・・・・誰もいなかった
















あとがき

今回一応オリジナル面を出しましたがまだまだ今ひとつのような感じがしております・・・・・

次回・・・西欧での出来事を書く前に木連サイド(舞歌サイド)の物語を少し書こうかと思っております

あと・・・アリサ達をどうするか決めかねております。

西欧においていくべきか連れて行くべきか・・・・

もしご意見ありましたら感想と共に御一報くださいませ

ご意見次第では凄いことになるかもしれません

では・・・・次回・・・・サイドストーリーでお会いしましょう

 

 

代理人の個人的な感想

む〜、なんつーか傍若無人なキャラが多いですね〜。

他人の意志を無視してやりたい放題やって、お前らそんなに偉いのかと。

そんな感じですね。