明日が決戦・・・・そのような日だからこそ人々は数多くの思いを持ち

自らが真に護りたい人を見出し、そして・・・決意を固めていく

それは・・・何時の時代においても同じこと・・・そう・・・この世界においても

地球連合軍最強の戦艦ナデシコ、木連軍最強の戦艦シャクヤク

この二つの戦艦においても・・・様々な人物の決意が固められていた・・・・・




機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
第二十話 決戦前日 〜朝〜





AM:9.00 ナデシコ ブリッジ ミスマル・ユリカ



「みなさ〜ん、今日は午後一時からパーティを開催します

仕事は午前中に済ませちゃってください、皆でパーティを楽しみましょう

以上で艦長報告を終わります、必ず全員出席してくださいね」

ふぅ・・・これでよし・・・さて・・・次は・・・

「ルリちゃん、今回の作戦内容と、その辺りの地形図をお願い」

「わかりました、すぐそっちに送信します」

・・・ルリちゃんの仕事は速い、そう言って十秒も経たないうちに私の所に送信されている

さて・・・・私もルリちゃんに負けないように頑張らないと!!

「・・・・・・・・・・」

・・・う〜ん・・・やっぱり敵の陣形は固い、いくらナデシコが奮戦してもそう易々とは崩れないだろう

アキト達を前線に送り出す方法はもう決まっている・・・問題はそのあとだ

敵はおそらくアキト達を無視し、残った私達に殺到してくるだろう

本来戦争では守る方が難しい、特に・・・今回の戦場は自然の要害と言うわけでもないのでなおさらだろう

でも・・・油断はできない、戦力比ではあちらの方が上・・・しかもあっちは無人兵器・・・疲れなんて無いに等しい

敵が円状の配置だから・・・両翼の軍で包囲するように・・・駄目だ、包囲しきれないし、個々に撃破されかねない

じゃあ・・・戦力を集中させれば・・・これも駄目か・・私の目の前にあるシミュレーターには包囲されている地球軍が移っている

「う〜〜〜ん・・・・・」

こんなにも総大将の任務が難しいとは思わなかった・・・覚悟はしていたが・・

理想どおりに戦うのは余りにも難しい・・・・でも・・・やるしかない

お父様達・・・中将以上の階級の人たちは地球の治安維持の関係上僅かな軍を率いて地球に残っている

本来、ナデシコゼロの提督に就任したムネタケ・サダアキ少将が指揮をとる予定だったけど・・・

『老少に任せちゃあ駄目よ、未来を切り開くのは若人達の仕事なのよ

この老いぼれ少将に・・・・あなた達が開いた平和な未来を見せて頂戴』

といわれ、ちょうど階級が少将に昇格した私に全権を委任したのだ

・・・・私は・・・その期待に応えたい・・・・これ以上・・・誰一人死なず、誰一人かけることなくこの戦いを終わらせる事で

それに・・・失いたくは無い・・・私・・ミスマル・ユリカが、ミスマル・ユリカでいられるこの場所を

その為にも・・・この不可能を可能にしてみせる・・・私の・・・ううん私達・・・ナデシコのみんなの手で・・・・・





AM:10.15 ナデシコ 医療室 ヤマダ・ジロウ(ダイゴウジ・ガイ)

「ちょっと・・・・また私の言いつけを破ったわね・・・・」

俺の眼の前にいる人・・・・イネス博士の目が鋭くなる・・・まぁ・・・仕方ないだろうな

本来、俺は今ごろベッドの横になっていなきゃいけないはずだ、最近は鍛錬ばっかりで疲労がたまってるからな

実際、昨日に博士から『絶対安静にしてる事』と言われた上に、腕に包帯まで巻かれた

だが・・・・俺はその包帯を解いて、結局また訓練をしていた・・・・

「仕方ねえだろ博士、ヒーローたる者、カッコよく戦うためには日ごろの訓練は欠かせねえんだからよ」

「はぁ・・・貴方ね・・・私の言ったこと聞いてなかったの?

貴方の体は貴方が考える以上に限界に近づいているから、昨日と今日は安静にしてることっていったわよね?」

「ふっ・・・・ヒーローであるこのダイゴウジガイ様に限界など無い!!」

・・・・コレは嘘だ、俺自身限界は感じている・・・・でも・・・・今更立ち止まるわけにはいかないんだ

「はぁ・・・・仕方ないわね・・・新型の滋養強壮剤よ、私が愛用してる物でもあるから副作用は無いわ

コレを飲んでおけば、今日はこれから訓練しないんだったら明日には殆ど疲労がなくなってるはずよ」

そう言って博士がドリンク剤を渡してくれる・・・・この人にはずっと迷惑かけっぱなしだ

「ありがとよ博士、まぁ・・・・今日は博士の言うことを大人しく聞いておくわ」

「あら・・・・えらく素直ね・・・・まぁいいわ、ヒカルちゃん達にも連絡しておくから・・・・どちらにしろ訓練はできないでしょうからね」

俺は・・・苦笑いを浮かべて医務室から出る



「・・・・・ふぅ」

自分の部屋に戻り、ドリンク剤を飲み干す・・・・ちょうどいいタイミングで眠気も出てきた・・・・

「・・・・・・・・・」

眠気に身を委ねながら思う・・・・・過去に散っていった多くの戦友の事を・・・・・

今度こそ・・・・俺は護りきってやる・・・どんなに惨めでも・・・・かなら・・・ず・・・・





AM:10.20 ナデシコ 医療室 イネス・フレサンジュ



「・・・・ふぅ・・・皆無茶ばっかりして・・・・」

一週間前におこなったパイロット達の身体検査の結果を見て私は思わずそう漏らした

まず・・・全員の握力などが上昇している・・・しかも物凄い勢いで・・・

それだけでも・・・・今までどれだけ無茶な訓練をしてきたかがわかる

しかも・・・彼・・ヤマダ君とマキさんの上昇幅はものすごい・・・それとともに、肉体への負担も相当な物になっている

いまのヤマダ君なら・・・・ナデシコに乗ったばかりのアキト君といい勝負になるだろう

しかし・・・・それだけの力を得るには・・・桁違いの訓練が必要だ・・・・そして・・・その負担は直接体に害を成す

「ほんと・・・少しは大人しくできないのかしらね・・・」

そう口にだしてみるが・・・大人しくさせるのは不可能だと言うことくらい私にだってわかりきっている

彼らはまさに戦士・・・・仲間への負担を少しでも減らそうと自分を極限まで鍛え上げようとしている

ただ鍛えるだけじゃあない、自分が持つ信念を見失うことなく肉体を鍛えている・・・・

精神と肉体の強化・・・・それがどれほど難しいか・・・・

彼らとは違う形ではあるが、一種の戦士である私にはわかるつもりだ

「ふぅ・・・・・コレじゃあ決戦後は殆どの面々が倒れちゃうでしょうね・・・薬の準備でもしとこうかしら」

私はそういいながら自分の戦場・・『医療』と言う名の戦場に戻っていく

この戦いが終わればほぼ全員が安堵感からくる疲労感により殆ど行動不能になるだろう

そうなったら・・・・私の出番だ、薬を渡して少しでも早く良くなってもらわないといけない

戦場に出る事ができない私の戦い方はそれだけなのだから









AM:10.35 ナデシコ副艦長室 アオイ・ジュン



「はい、パーティ用の食料は貯蔵している物の半分だけで・・・はい、保存できる物をおいておいてください

はい、予算の制限は無いそうですから・・・はい、食料の量だけに気をつけてください」

ふぅ・・・・これでよしっ、ホウメイさんに連絡をとっておいて正解だった、地球帰還時の食料はちゃんとおいて置かないといけないからね

「次は・・・・終戦後か・・・」

この戦いが終われば間違いなく戦争は終焉を迎えるだろう、

問題はそのあとだ・・・腐っている高官はまだまだ軍には多い

今回・・・余りにも戦果が高く・・・地球の英雄となり・・木連との掛け橋にも充分になりうるアキト・・・

そして彼の最愛の家族であり最大の弱点でもあるイツキ、サツキちゃん達『カザマ姉妹』

少なくとも・・・腐った連中は彼らを放っては置かないだろう、自分達の戦力にしようとするか・・・

最悪・・・邪魔な存在として抹殺しようとするはずだ、僕は・・・それを止めてみせる

極東方面軍への楔はミスマル提督に、西欧方面への楔はグラシス中将に

中東、アフリカ方面への楔はガトル大将にお願いした

全員・・・僕の願いを快く受け入れてくれたのはありがたかった・・・やはり・・・中将たちも同じ危惧を抱いていたのだろう

できることなら・・・アキトには戦後は穏やかな道を歩んで欲しい、その邪魔となる物はすべて排除して見せよう

それが・・・僕からアキトへの恩返しでもあり・・・親友としての友情の形だと思うから・・・・







AM:10.45 ナデシコ 格納庫 ウリバタケ・セイヤ

「班長!!ブローディアの整備完了しました!!」

「よ〜〜し!!次はアレスの点検だ!!一気に仕上げるぞ!!」

「おお〜〜!!!!」

俺に続いて整備班全員がアレスの点検を開始する・・・余り効率はよくねえがこれが一番確実な点検方法だ

一人一人が別の場所から点検を開始して、既に点検されてるところももう一度点検してやる

いくら点検チェックができるといっても所詮は人間、いくつか見落とすところもある

検査機械に頼っても表面しかみえねぇ、最近はわかってねぇやつの方が多いが機械は生きてるんだ

「へへ・・・機嫌は良いみたいだな・・・せめて明日まではその機嫌を維持してくれよ?」

わかってねぇやつからみれば今の俺は変人にしかみえねぇだろうな、だが、俺はわかっている

こうやって声をかけてるのは決して無駄なんかじゃあねぇ、機械は愛情を注げばそれに応えてくれる

「・・・・そうか・・・よろしく頼むぜ」

・・・俺には・・・何となくだがこいつらの言いたい事がわかる・・・・こいつらは・・・全員生かしたいと願っている

自分に命を吹き込んでくれて、ここまで共に戦い続けた自分達にとっての主の事を・・・

「へっ・・・そうと決まったら俺ももっと気合を入れなきゃな」

一人また一人とアレスから離れていく・・・・全箇所の点検が完了した証拠だ

「班長、アレスに異常な部分はありません!!」

副班長が俺に報告する、・・・まぁ異常な部分は一ヶ所だけあったろうが・・・

こいつらはそれが何が原因かわかってるからそれを異常と見ないだけだ

「よし、念のためそいつをよこしてくれ」

手渡されたチェック用紙を見て・・・俺の考えは確信に代わる

アレス、ブローディア、アルテミス、エステカスタム・・・・全機とも本来の性能以上の値をたたき出してやがる

基本性能を超えた力がでるのはそう珍しくはねぇ・・・・機械に愛情を注いでいる奴には当然の事だ

「よっしゃ!!野郎ども次は武器点検だ!!一時間で終わらせるぞ!!」

「おお〜〜!!!!」

俺は・・・本当にこのナデシコに乗れてよかったと思っている

ここまでパイロットと整備員が愛情を注ぎ込んで、それに見事に応えてくれる奴らを見たことはなかった

だからこそ・・・俺はこいつらを全員無事生かしてやりたい

一度生まれた絆をなくすような真似はさせたくねえ、だからこそ・・・俺は整備に命をささげる

戦う事もできねぇ、傷ついた人間を癒す事もできねぇ俺にとっての戦場が・・・それだからだ

パイロットが二百パーセントの力を引き出しても平気でいられるように完璧に仕上げる

それが・・・・俺にとっての勝利だ!!





AM:11.05 ナデシコ トレーニングルーム マキ・イズミ



「くっ・・・・本当に洒落にならないわね・・・」

私の目の前にいる機体は此方での最強の機体・・・デージー、それを操るのは黒河龍斗のコピーCPU

私の攻撃はフィールドで弾かれるどころかかすりもしていない、逆に敵の攻撃は確実に私の動きを止めていっている

既に私のエステは片腕、片足だけの状態・・・・相手の武装無しというハンデでもこの状態だ

「なっ!!レーダー・・・後ろ!!」

一瞬・・・・本当に一瞬だけ恐怖に捕われてしまった瞬間・・・敵は私の視界から消えて、背後に存在していた

そして・・・私が振り返る前に・・・・

『ドグシャアアン!!』

相手の拳が・・・・私の乗るエステのアサルトピットを貫いた・・・・

GAME OVER

私の目の前にその文字が表示される・・・それと共にトレーニングマシーンが開き外の光が私の目に入る

「ふぅ・・・・・まだまだね・・・・」

「イズミちゃん、お疲れ様!!」

一時間ぶりの外の光を見てそう呟いた私に・・・ヒカルが声をかけてきた

「まったく・・・・今日は体を休めろって言われてなかったか?」

そう言いながらリョーコがスポーツドリンクを投げ渡してくる、私は苦笑を浮かべてそれを受け取る

リョーコの言ったとおり・・・今日は休むようにと艦長にも、イネスさんにも言われた・・・

でも・・・ジッとはしていられない・・・私は・・・今まで二人の婚約者をうしなっている

次の戦いは間違いなく史上最高クラスの戦争になるだろう・・・・私は・・・もう大切な人を失いたくは無い

だからこそ・・・少しでも強くなりたい・・・大切な人を・・・少しでも守れるように・・・・

「・・・イズミちゃん、あんまり思いつめちゃ駄目だよ」

・・・私の表情から察したのだろう・・・ヒカルが声をかけてきた

「大丈夫よ、死に急ぐつもりは無いわ」

・・・・私は・・・これくらいのことしかいえなかった・・・・意外にヒカルは鋭い・・・下手な嘘はすぐに気付かれてしまう

「・・・イズミちゃん・・・私達がいるからね・・・いっしょに頑張って、皆で地球に帰ろう!!」

・・・やっぱりヒカルには勝てないわね・・・話しているだけで不安が薄れていく・・・

ヒカルの根拠の無い自信が・・・今の私には何よりの宝

「ふふ・・・・そうね・・・地球に帰って・・・貯蔵しているギャグを大放出しないといけないわね」

『ブッ』

私の一言でリョーコが思わずジュースを吹き出したようだ・・・これが・・私らしさなのかもしれない

他愛の無い会話、時折出す私の渾身のギャグ・・・それで固まる人達

私は・・・この心地いい生活を崩したくは無い・・・・だから・・・戦おう・・・

婚約者を助けられず、ただ待つだけだった過去への贖罪の為ではなく

多くの親友達とともに歩む光溢れる未来へのために









AM:11.10 ナデシコ トレーニングルーム アマノ・ヒカル



うんうん、イズミちゃんもだいぶ前向きになったみたいだね、やっぱりここの環境がいいのかな?

ナデシコに乗る前のイズミちゃんより乗った後のイズミちゃんのほうがさっきみたいな暗い表情は見せないしね

「おい、聞いときたいんだが・・・・お前一体何個貯蔵してるんだ?」

リョーコちゃんが顔を引きつらせながら聞いてる・・・引きつらせるくらいなら聞かなきゃいいのに・・

「そうね・・・いまここで一割だけ出しましょうか?」

「俺を凍死させる気かぁ!!」

あらら・・・何時もながらリョーコちゃんの言葉はきついなぁ・・・まぁ・・これが私達らしさなんだけどね

「裏返したトランプを当てる・・・それは透視・・・ぷっ・・・くくくくく・・・」

「・・・・・・・はぁ〜〜〜」

ほんと・・・この二人と一緒だと飽きないなぁ、私はこの二人と出会えて本当によかった

「おいヒカル、ちょっと一戦していかねえか?」

リョーコがトレーニングマシーンを指差しながら言う・・・けど・・・

「リョーコちゃんはイネスさんに禁止令だされてなかったっけ?」

私の一言でリョーコちゃんの顔が青ざめる・・・何となく納得の反応・・・あいてはあのイネスさんだもんね

「ちっ・・・せっかく暇つぶしできると思ったのによ・・・・まぁ・・・しかたねぇか」

リョーコちゃんはそう言うとトレーニングルームから出て行った・・・・多分部屋に戻ったんだろう

「私も部屋に戻るけど・・・イズミちゃん・・無茶しちゃ駄目だよ?」

「わかってるわ・・・少し休んだら私も部屋に戻るわ」

私はその言葉を聞き、頷くとリョーコちゃんの後を追う形で部屋に向かった

・・・・部屋に帰ったら・・日記をもう一度読み返してみよう

ナデシコに乗ってからずっとつけ続けた日記・・・戦争が終わって、漫画家になったら漫画にしようと思ってた出来事

本当に・・・このナデシコの中では色々面白い事ばっかりだった・・・その事をもっと多くの人にも知ってもらいたい

勿論・・楽しい事ばかりじゃない・・・辛い事も・・・悲しい事も

戦争が終わったら皆に許可を取らないとね・・・無断で自分が原型のキャラが書かれてるのって嫌だろうし

よし!!その為にもこの戦いを早く終わらせよう、楽観視は出来ないけど・・・全力だけは尽くそう

絶対に・・・皆に直接許可を取ろう・・・・誰一人・・欠けさせる事無く・・この戦争を終わらせよう

それがナデシコに乗ったときからの私の夢・・・夢の実現まで後一歩・・・ここで・・気を抜くわけにはいかない

「・・・・うん!!」

私は一人じゃない・・・リョーコちゃんにイズミちゃん、アキト君にイツキちゃん、サツキちゃんに艦長

そして・・・・万葉とヤマダ君がいるんだ・・・・だから・・・絶対に夢は実現できる!!

「万葉・・・・・ヤマダ君は絶対に渡さないからね!!」

夢がかなったあとは・・・・まずは宣戦布告だ・・・戦争が終わっても・・恋の戦いは終わらないから・・・

恋の戦いを続ける為にも・・・・私の願いは唯一つ・・・誰一人かけることの無い和平

贅沢かもしれないけれど・・・・きっと神様もそれを望んでくれているはず

だから・・・私は全力を尽くそう・・・少しでもその夢の可能性を高める為に









AM:11.20 ナデシコ 共同部屋 スバル・リョーコ




「ふぅ・・・・」

一人だけの部屋は流石に寂しいな・・・・もとが三人部屋だから余計だ・・・

「そういや・・・俺一人だけになるのって珍しいな・・・」

つぶやいてみてそう思う・・・ここ最近訓練ばっかしでいつも誰かしら側にいた

まっ・・・こういうのも良いだろう・・・・たまにはゆっくりと考えごとした方がいい

「・・・・・・」

こう静かだと・・・・初めてアキトのやつとあったときを思い出すな・・・・

俺がエステバリスのテストパイロットとして火星に配属された時だったな

あれは偶々、俺がIFSをつけていたし新人だったからなんだろうけど・・・今じゃあ感謝している

まぁ・・それはともかく・・・俺はあの時・・同じテストパイロットだったアキトとイツキの二人に会った

あの頃のアキトは本当に静かだった・・・イツキとしか話さず、しかもそれも必要最小限だけだ

上官であるムネタケ大佐が話し掛けても同じだった・・・俺となんかまともに話もしなかったくらいだったしな

そんなあいつが変わったのは・・・・やっぱあの事件だろうな

あの頃のアキトは無愛想で・・死神の名前で呼ばれていた

そんなアキトが・・・自分の内の激情を見せたあの事件・・・イツキが誘拐された事件

あの時のアキトは物凄かった・・・それまでの様な剃刀の様な雰囲気よりも、もっと研ぎ澄まされた激怒に身を包んでいた

そう・・・まるで・・・ただ斬る為だけ、滅ぼす為だけに生まれた・・日本刀のような・・・

その後の事は・・余り思い出したくない・・・放たれた抜き身の刃が行う事なんて決まりきってる

だけど・・・その事件以来アキトの周辺は変わった・・・いい方向に

アキトにも感情があると言う事がわかってから、基地の連中は誰がアキトを笑わせるかで賭けまでしていた

まぁ・・・俺はあの時のアキトに惹かれた一人でもあるんだけどな・・・イツキとはそれ以来の親友だ

・・・火星を離れる前にアキトが俺に言った言葉を思い出した

『なぁ・・・リョーコちゃんは戦士の条件って何だと思う?

自ら戦いに向かう意思を持つ者なのか・・・それとも守るべき物の為に止むを得ず戦いに行く者なのか

それとも・・・自らの誇りのために戦う者なのか・・・・・』

あの時・・・俺は応えられなかった・・・だが・・・今ならわかる・・あの時の問いに答えは無かった

いや・・・全部が答えだったんだ

自らの誇りを持って、護るべき人たちの為に自ら戦いに赴く者・・・それが戦士

今の俺は・・・同じ問いを言われたら間違いなくそう答えるだろう

それが・・・今の俺達、ナデシコクルーの姿なんだから

「・・・ちっ・・・」

あいつの事を考えて思わず身震いした自分に対して舌打ちした

ナデシコクルーじゃあないが・・・・一人だけ・・・本当の意味で修羅だと思える奴がいた

黒河龍斗・・・・あいつは自分が守るべきものに害をなすもの、突き進む道を邪魔するものには容赦しないだろう

あいつは・・・それだけの強さと覚悟を持っている・・・もし敵対したら俺なんか一瞬で消されるだろう

だが・・・それだけに面白いとも思う・・・それだけの人物と肩を並べて戦えるんだ

「絶対・・・・誰一人失わせないからな・・・」

それは・・・俺の願いと・・アイツと一緒に戦える自分の責任

戦う事が俺の一番星である以上・・・アイツと共に戦えると言うのは幸福な事だろう

それに・・・それが人類の存亡をかけた戦いとなったらなおさらだ

そんな幸運なチケットを手に入れた俺の代金は・・全員の生還

「見てろよ親父・・・・・」

俺は思わずそう呟いた・・・・明日の戦いは・・・絶対に負けられない・・・

一週間寝込もうが一ヶ月筋肉痛に悩まされようが・・・必ず勝ってやる

そして・・・・必ず手に入れる・・・皆が・・・笑って再開できる未来を













AM:10.30 シャクヤク 三郎太の部屋 タカスギ・サブロウタ





「ふぅ・・・・・・」

通信をきりながら思う・・・やっと覚悟ができた・・・今まで黙っていた方がおかしかったのかもしれない

「こっちに来て・・・ほんと色々あったな・・・」

あの時・・・ナデシコCと共にボソンジャンプをしたときがもう何年も前に思えてしまう

こっちに来た時が木連優人部隊の式典だった・・・その時に思った事は唯一つ

もう・・・月臣少佐と白鳥中佐を悲劇に巻き込まない

それは・・・俺の予想外のイレギュラーによって成功した

舞歌様を巻き込むのは計算上元々入っていた・・・だが・・

まさか・・・もう一人のテンカワ・アキトを巻き込むとは思わなかった

黒河龍斗・・・俺とは別の時間軸からの逆行者・・・それが分かったのはつい最近の事だ

だけど・・・素晴らしいおまけまでついてきてくれた・・・神様ってのはなかなか面白い事をしてくれる

以前の時間軸で二度と会えなかった俺の婚約者に再会させてくれるとは・・・あの時から信じていない神を信じる気になった

「三姫・・・・」

俺の一番大切な人の名前を呟く・・・・それだけで恐怖が、緊張が薄れていく・・・・

『プシュー』

「三郎太、話とは何だ」

ドアを開けて月臣少佐と白鳥中佐が入ってくる・・・・

「・・長い話になりますので・・・座って話しましょう・・・」

本当は・・・・話す必要なんて無いのかもしれない・・・でも・・隠し事があるままじゃあ俺は全力は出せないだろう

だからこそ話そう・・・・あの忌まわしき・・・未来と言う名の過去の話を・・・・





AM:10.35 シャクヤク 三郎太の部屋 月臣元一朗



三郎太が俺たちを部屋に呼ぶ事自体珍しい・・・それ以上にアイツのここまで真剣な表情も珍しい

俺は・・・その表情に魅入られるように座った

「話の前に・・・ボソンジャンプ・・・生体跳躍の事について確認させてもらいます

俺達のように遺伝子に何らかの改造を加えたがチューリップなどを利用し

火星の遺跡の力を用いて時空間を移動する・・・この事はかつての実験や龍斗大佐自らの跳躍によって実証されました」

うむ、それくらい言われずともわかっている事だ、俺自身時間逆行を経験しているのだからな

「その中でも・・・特殊な逆行のケースがあるんです・・・まずは・・・まったく別の次元軸からくるパターン

もう一つ・・精神だけの逆行をし・・・・その時間軸に存在する自分に上書きされるタイプがあるんです」

「前者が龍斗大佐・・・後者が・・・お前なんだな・・・三郎太」

なっ!?どういうことだ・・・あの逆行にも二種類特殊なパターンがある?

しかも龍斗大佐と三郎太がそれを経験していて・・・九十九がそれに気付いていただと!?

「どうしてそれを!?」

三郎太も驚愕している・・・そうだ・・・何故九十九はそれがわかったんだ

「簡単だ・・・龍斗大佐の纏う空気は・・・形こそ違うがその本質はテンカワ・アキトとなんら変わっていない

それに・・・先ほどの話で三郎太の方も確信に変わっただけだ・・・

お前は時折俺たちの放している光景を懐かしい物を見る目で見ていただろう?

しかも・・・どこか悲しげな・・・・決意を固めなおすような目でな・・・何となくだが・・・呼ばれた理由はわかっている

お前が経験した未来で・・・俺と月臣に何かが会ったんだろう・・・・お前に・・そこまでの決意をさせた何かが」

九十九が・・・今まで見た事のない真剣な表情で三郎太を見ている・・・

「・・・・はい・・・もう・・あんな事は無いと思いますが・・・お二人には・・・話しておくべきだと思いまして・・

長い話になりますが・・・・・最後まで聞いてください」

三郎太はそう言うと・・・ポツリポツリと語りだした

自分が木連優人部隊に配属された事・・・龍斗大佐がかつての次元軸では木連にはいなかった事

九十九がナデシコに捕虜にされ・・・二人の女性と共に帰還した事・・・そして・・・俺がそのことで九十九と殴りあった事

そして・・・その二人を帰した後に・・・九十九がミナトと言う女に惚れ・・・和平の道を志した事

そして・・・今回のような事件は起きず・・・戦争が続いた事・・・自分も秋山と一緒にナデシコと戦った事

ナデシコの・・・相転移砲の一撃で戦況をひっくり返された事・・・

その後・・・九十九の妹であるユキナちゃんが単独でナデシコに潜入した事・・・

そのユキナちゃんが地球連合軍の秘密保持の為に殺されそうになり・・・ナデシコクルーにより助けられた事

その後・・・ナデシコクルーが船を奪い返し・・・和平の使者としてかんなづきまできたこと

そして・・・九十九がその和平交渉役としてナデシコ側と先に接触した事

草壁閣下が直々に和平交渉の場に着いたこと・・・そして・・・

「三郎太・・・・もう一度さっきの話を聞かせてくれ・・・」

聞き間違いだったと・・・信じたい・・・どうして・・俺が・・・そんなことをしたんだ・・

「はい・・・・その和平交渉の席で・・・草壁閣下はナデシコ側に無理な条件を提示し

それを諌めようとした白鳥中佐を・・・月臣少佐の手で・・撃ち殺させました」

聞き間違いでは・・・なかった・・・・俺は・・・この手で親友を・・・・殺したと言うのか

信じられん・・・・三郎太の表情は真剣そのもの・・嘘をついているとは思えない・・・しかし到底信じられない

「・・・本当・・・なんだな・・・」

「・・・・・・はい・・・・信じられないとは思いますが・・・・・真実です・・・」

その言葉を聞いた次の瞬間・・・・俺は九十九に向かって土下座していた

「すまん九十九!!俺は・・・・・おれは・・・・」

それ以上は・・・・言葉にならなかった・・・・それ以上言ったら・・・何かが壊れそうな・・そんな気がした

だが・・・・どんなに罵られても仕方ないと思う・・・・どんな理由があったにしろ・・・俺は九十九を殺してしまったのだから

「・・・・月臣・・・気にするな・・・所詮・・今の俺たちにとっては『もしも』の話でしかないんだ

今、この場に俺と月臣は生きて話をしている・・・・それだけで充分じゃないか

それに・・・三郎太がこの事を話した理由だって・・・月臣に罪を突きつけるためじゃあない

もう・・・俺たちがそんな道を歩まないようにする為の警告でしかないんだ

だから・・・・俺たちは力をあわせて・・・この戦いを生き延びよう・・・

・・・誰一人欠けることなく平和を手にしよう」

くっ・・・九十九は・・・やはり馬鹿だ・・・軟弱者だ・・・

『もしも』とはいえ・・・殺されたんだぞ・・しかも・・自分が愛する人をおいて逝く事になったんだぞ

普通なら・・・・恨み言の一つや二つぶつけるだろうが!!

だが・・・嬉しい・・・俺を変わらずに・・・親友と思っていてくれると言う事がわかるから

未来の俺が・・・今この場にいたら何を思うか・・・わかりきっている、今の俺と同じ事のはずだ

俺は・・・・なんとしてでも・・親友を生かしてみせる・・・この命を賭けてでも

そして・・・・親友の望み通り・・・・誰一人欠ける事のない平和を手に入れてみせる

それが・・・・俺にとっての贖罪であり、俺自身の唯一の願いなのだから・・・・・









AM:12.30 シャクヤク 三郎太の部屋 白鳥九十九



驚愕の真実・・・・だが俺の心は思いのほか落ち着いていた

その理由はただ一つ・・・・俺は・・・本当にミナトさんを愛していると言う事が再確認できたからだろう

俺は何らかの引け目からミナトさんに好意を持っていたのではないかと思っていたが

それが違うと言う事がさっきの話で証明されたんだと思っている

だからこそ・・・今の俺の心は澄んでいるんだろう・・・自分でも実感できるほどに

「月臣・・・三郎太・・・あれをやるぞ」

俺の言葉に二人は困惑しているようだったが・・・・俺は構わず行動に移った

「人類の平和は!!」



・・・・言葉は違うが・・・俺の考える事が二人にもわかったらしく月臣が先に行動に移る

「俺たちが護る!!」

「レッツ!!」


「「「ゲキガイン!!」」」









俺たちはその後・・・・腹の底から笑った

ここまで笑ったのは本当に久しぶりだ・・・・逆に・・・そこまで余裕を無くしていたのかとも思う

だからこそ・・・この戦いは次の一戦で終わらせよう、少しでも早く・・・こうやって笑い会える日がまた来るように























後書き

最終決戦前日〜朝〜いかがだったでしょうか?

こうやって分けたのは・・・一人称を書きたい人物がおおくて全員かいたら物凄い量になると思ったからです

まぁ・・・殆どの人物が似たような決意になってますが・・・そこはどうかお許しください

シャクヤク編になった時に時間が戻ったのは・・・別におかしいわけじゃなくて

ナデシコがその時間帯に何らかの事があったときに、シャクヤクでもあったと言うわけです

何らかの形で重なる人物達の決意はこういう形になっていくと思いますので御了承ください

次は・・・昼編です、慣れない一人称に頭を悩ませながら書いている為少々時間がかかると思いますが・・

一ヶ月に最低一話はアップする予定なので・・・・気長にお待ちください

では・・・昼編でお会いしましょう

 

 

 

代理人の感想

うわはははははははははははははははははは(爆笑)。

 

いや〜、気持ちの良い馬鹿だわこいつら。