決戦を待つ地にも・・・・・例外なく夜は来る・・・・・・・・

 あと少しの残された時間の中で・・・・・人は様々な思いに身を置く・・・・

 決戦前だからこそ・・・・・・・

 そんな思いを胸に・・・・・人は最後の決意を抱く・・・・・・

 いずれ来るであろう・・・・平和な未来へと託す思いを・・・・・・






機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
第二十話 決戦前日 〜夜〜





PM:9.25 かぐらづき 艦長室 草壁春樹



 ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ・・・

 『プハー・・・・・・・』

 ・・・・・・二年ぶりに飲む酒だが・・・・・・やはり美味い物だな・・・・・・・・

 トクトクトクトクトク・・・・・

 二年・・・・・・・・まさかたったこれだけの期間で私の夢が叶うとはな・・・・・・・・

 『コンコン』

 「誰だ?」

 「南雲であります」

 南雲か・・・・・・・・・・・・

 「入れ」

 「はっ、失礼いたします・・・・・」

 ・・・南雲の顔を見ればわかる・・・・・やはり・・・・私と同じ思いを抱いておったか・・・・

 「やはり・・・・・閣下も飲んでおられましたか・・・・・」

 「もともとそのつもりで来たのだろう?鍵をしめておけ、久しぶりにゆっくりと飲もうではないか」

 南雲はそう言うと鍵をかけ、自分が持ってきていた日本酒を置き、持参してきたコップを出す

 トクトクトクトクトクトク・・・・・・・

 「閣下・・・・・やっと・・・・閣下の夢が叶ったのですね・・・・・・」

 「あぁ・・・・・・これで安心できる・・・・・やっと・・・・表舞台から去れるよ・・・・・・」



 ・・・私の夢は・・・・南雲とあいつ以外に話した事は無い・・・・・・・・

 私の唯一の夢・・・・それは私を凌駕する指導者の誕生だ・・・・・・・・

 木連は・・・・地球への怨みを糧に耐え・・・・・そして地球と一戦を構えるほど大きくなった・・・・

 多くのものは木連はプラントを見つけたから生存できたと言うが・・・・それは大きな間違いだ・・・

 いかに優れた技術があろうと・・・・それを使えなければ意味が無い・・・・・・・

 事実・・・木連ではプラントを見つけた当初も多くの者が飢餓により死に絶え・・・・

 また・・・プラントの防衛システムによって殺されていったらしい・・・・・・

 しかし・・・人々は地球への怨みを糧とし・・・決してくじけずに・・・ついにプラントを掌握し・・・・

 この木連の礎を打ち立てた・・・・・・・今の木連は・・・地球への恨みを糧とし育ったのだ・・・

 私は・・・この事が後の世にまで影響し続けている事を恐れた・・・・・・・

 だからこそ・・・・・あえて強硬派となる事で和平推進派を活発に動かそうとしたのだ・・・・・・

 だが・・・・やはり恨みの根は深かった・・・・・和平推進派も・・・さほど活発には動かず・・・・・

 結局・・・私がおこなった行動により・・・・地球との戦端は開かれてしまったのだ・・・・・・

 私は・・・私を打ち倒し、恨みの根を完全に払拭してくれる指導者となる者を待ち続けた

 しかし・・・・それがあいつの妹・・・・・舞歌になるとは思わなかったがな・・・・・・・



 「しかし・・・・今の木連の情勢では・・・・やはり閣下が表舞台から去るのは危険では・・・・・

 やはり・・・・・表舞台からひくのは私一人で十分と思われますが・・・・・・」

 「ふっ・・・・少々の危険が無くては改革はできんよ・・・・・・・・・・・

 それに・・・・・黒河がいるだろう?・・・・あいつがいれば・・・・木連はそう易々とは揺るがんよ・・・・」



 そう・・・・・舞歌の精神的な支柱となっているあの男がいさえすれば・・・・・・

 それに・・・・・黒河自体の信用も非常に高い・・・・・

 舞歌と黒河・・・・・この二人がお互いに支えあい・・・・・木連を率いてくれる事ほど・・・・

 木連の未来にとって良い事は無いであろうな・・・・・・・



 トクトクトクトクトクトク・・・・・・・

 私はもう一個のグラスに酒を注ぎ・・・・・・私のグラスと共に床に置く

 南雲も私の意を解してくれたのだろう・・・・・自分のグラスを床に置いた・・・・・

 「八雲・・・・・やっと・・・私の・・・・いや・・・・我々の夢が叶った・・・・・・

 お前がこの場にいてくれないのは寂しいが・・・・・・・・・明日にはお前に直に話そう・・・

 ・・・・・・・・・・我々の・・・・・・・宿願の成就を祝い・・・・・・乾杯」

 「乾杯」

 『乾杯』

 !・・・・・八雲か・・・・・やはりお前は見守り続けてくれていたのだな・・・・・・・・・

 私は・・・・明日お前のもとに向かおう・・・・・そして・・・・・共に祈り続けよう・・・・・

 訪れるであろう本当の平和が・・・・・・・・未来永劫続く事を・・・・・・・






PM:9.50 かぐらづき 北辰の部屋 影護北辰



 「さな子・・・・・・・今まで・・・・本当に苦労ばかりかけてしまった・・・・・すまない・・・・・」

 我妻の遺影と対峙しながら・・・・・・・我は酒を飲んでいた・・・・・・・・

 『何を言うのですか貴方・・・・・私のほうこそ・・・・迷惑ばかりかけていたではありませんか・・・』

 ・・・・幻聴・・・・そういう輩も言うであろうが・・・・我にとっては・・・間違いなく妻がそこに・・・遺影の傍にいるのだ・・・・

 我が・・・・この我が手でその命の火を消した最愛の妻・・・・さな子が・・・・微笑んでいる写真の傍に・・・・

 「・・・・しかし・・・・我が外道になっている間は・・・・・ずっと心配ばかりしていたのではないか?」

 『それは・・・・・そうですけど・・・・・・でも・・・・あれは私の言葉足らずのせいで貴方が外道になってしまったわけですし・・・・』

 「そう自分を責めるな・・・・・我に責がある・・・・そなたの言葉を受け止め切れなかった我にな・・・・」

 やはりさな子は変わらぬか・・・・・いつでもまず自分を下におき物事を考え始める・・・・・・

 謙虚と言えば聞こえはいいが・・・・・少々自虐的ではあるな・・・・まぁ・・・そこに惹かれた我がいえたことでは無いか

 「ところで・・・・・黒河の事はどう思う?お前の事だ・・・・どうせ見ていたのであろう?」

 『そうですね・・・・とてもいい人だと思いますよ・・・・どこか脆い所を持っている人ではありますけど・・・・

 あの人が・・・北斗や詩織の伴侶になってくださったら一番安心できるのですけどね・・・・・』

 「ククク・・・・・・やはりそなたもそう思うか・・・・・・」

 『えぇ・・・・・下手に強すぎる人より・・・脆い所を持っている人のほうが信用できますしね・・・・

 でも・・・・・・競争は激しくなりそうですね・・・・・北斗と詩織・・・頑張ってくれるといいんですけど・・・・』

 「東舞歌に舞歌の影の二人・・・・各務千沙も最近では少々怪しいか・・・・・・・

 だが・・・・北斗と詩織は我とそなたの娘だ・・・・・・・そうやすやすとは負けんはずだ・・・・」

 『ふふふ・・・・・・そうですね・・・・・・』

 「さな子・・・・・・明日は激しい戦いになるであろう・・・・・・・・・

 たとえ我とて・・・・生きて帰れる保障は無い・・・・・もしかするとさな子の元へ行くかもしれん・・・

 だが・・・・・たとえそうなったとしても・・・・・我らの娘だけはなんとしても生かそうと思っておる・・・・

 我のこの考えは・・・・・・・・間違っていると思うか・・・・?」

 『そうですね・・・・理想としては貴方も生き残って欲しいのですけど・・・・・・・

 貴方がそこまで弱音を吐くと言うことは・・・・・・かなり厳しい状況なのでしょう?

 でしたら・・・・私から言うことはありません・・・・・・・

 もし・・・・貴方がここにいらっしゃっても大丈夫なように・・・準備だけはしておきます・・・・・

 でも・・・・・・準備が無駄になるように・・・・・精一杯頑張ってくださいね?

 最後の最後まであがき続け・・・・最後に勝利を得るのが・・・・私が愛した北辰様なのですから・・・・』

 「・・・・・・わかった・・・・・・限界まであがきつづけよう・・・・・さな子の為にも・・・・・・」

 さな子は我がそう言うと・・・・まるで霧のように消えていなくなった・・・・・・・

 さな子のためにも・・・・・・明日は全力で戦わねばならんな・・・・・・・

 ・・・・・・・・・今日は・・・・・大人しく眠るとしよう・・・・・妻との誓いを守る為にも・・・・・・






PM:10:15 シャクヤク 艦長室 東舞歌



 カタカタカタカタカタカタ・・・・・・・

 「舞歌様、頼まれていた書類完成しました」

 「ありがとう千沙、そこにおいて置いて、後、今日はもうあがってもいいわよ」

 さてと・・・・書類の方は・・・・・さすが千沙ね・・・・脱字どころか誤字すらないわ・・・・・

 「舞歌様はどうなさるのですか?」

 「ん・・・・・・・もう少し頑張るわ、早いとこ仕上げておかないと後が怖いから」

 さて・・・・木連の現在の生産量は・・・・・・やっぱり食料が足りないか・・・・・

 貿易では最優先で保存のきく食料を多めに輸入した方が良さそうね・・・・・・

 「はぁ・・・・・・何時もこれくらい頑張ってくださったら、私も楽だったんですけどね・・・・」

 うっ・・・・・痛い事言うわね千沙・・・・・・って・・・・・・

 「どうしたの千沙?今日はもうあがっていいのよ?」

 私はまたイスに座った千沙に話し掛ける

 「氷室さんも龍斗大佐も今は別件で仕事中なんでしょう?

 だったら・・・・私が少しは手伝いますよ」

 千沙・・・・・・・・・・いけない、この好意に甘えちゃいけない・・・・・

 「でもね千沙・・・・貴方には明日の戦いがあるでしょう?

 私は艦長として戦艦指揮だし・・・・氷室殿もいてくれる・・・・・・

 でも・・・・千沙はパイロットとして・・・しかもかなりの強豪相手に戦うのよ?

 気持ちだけはありがたく受け取っておくから・・・・今日はもう休みなさい・・・・・」

 「・・・・・・・・・・わかりました・・・・・各務千沙、今から休息に入ります」

 「了解、しっかり休んで頂戴ね」

 千沙が敬礼しながら艦長室から出て行く・・・・・・・

 さて・・・・私も仕事を頑張らないと・・・・・・

 龍斗殿には軍部の編制・・・氷室殿には西沢殿と共に木連の内政に当たってもらっている・・・

 私は・・・・外交関係の地盤固めを急がなければいけない

 木連はこの戦いが終ったら大きく変わるだろう・・・・・・・

 一番の変化は外交・・・貿易だ・・・・・木連の技術力は多くの企業にはいまだ魅力のあるものだろう

 無人機は危険な場所における作業に向いている・・・・・・この無人機を優先して取り入れる事ができれば・・・

 危険さ故に建造をできなかった場所にまで建物を建造したりする事が可能になる・・・・

 しかし・・・・相手は企業・・・・・知らず知らずの内に木連が大損していたでは話にならない

 あくまで多くの企業を相手に・・・・・できるだけ対等に外交をおこなわなければ・・・・・

 やはり・・・・・一番重点をおくべきなのはネルガルとクリムゾンの力関係だろう・・・・・

 木連の外交乱入でこの二社のバランスを崩せば地球の経済事態に変化をもたらしてしまう

 難しいけど・・・・・・やるしかない・・・・・・・・

 木連に・・・・本当に笑ってすごせるような平和な時間をもたらし・・・それを存続させるには・・・・

 この程度でくじけちゃ話にならない・・・・・・・諦めればそこで全てが終ってしまう・・・・

 だから・・・・諦めない・・・・・・たとえ・・・どんな事があったとしても・・・・・必ず・・・!!








PM:10.25 シャクヤク 龍斗の部屋 黒河龍斗



 「ん・・・・・お父さん・・・・・・」

 ふっ・・・・・お父さん・・・・か・・・・翡翠からすれば俺はもうそんな年なんだな・・・・・

 「翡翠・・・・・お休み」

 翡翠をベッドに寝かせ部屋の電気を落とす・・・・その上で机に置かれたパソコンに向かう

 カタカタカタ・・・・・カチッカチ

 ・・・・まずは現状の配置から大きく変化させる必要があるか・・・・・・

 少々首都に戦力が偏りすぎている・・・・・治安が悪化しつつある場所に戦力を裂いた方がいいな

 しかし・・・・草壁は何を考えているんだ?・・・・舞歌に全権を委任するとは・・・・・

 ・・・・・まぁいい・・・・考えても仕方ない・・・・・・

 ・・・・・優人部隊の半分を火星入植時に同時に移動させ・・・・地球の軍と共同で治安維持をおこなう・・・

 その場合の司令官は・・・・・やはり白鳥が適任だな・・・・副官は・・・月臣か

 地球軍との戦力比も考えなければいかんな・・・・・・

 まぁ・・・・一番の問題はどれだけの戦力が今回残るか・・・だな・・・・・・

 半分も即時に使える戦力が残れば上等・・・・最悪でも5分の1は残ってほしい物だな

 ・・・・・とりあえずはこれでいいか・・・・後は残った戦力を見てからだ・・・・・

 データを保存・・・・・シャットダウン・・・・・これでよしと・・・・・・

 「ふぅ・・・・・・」

 やはりデスクワークは苦手だな・・・・・・・・・



 しかし・・・・最後の決戦か・・・・終わった後はどうするかな・・・・・・

 このまま舞歌達と共に木連で生きるべきか・・・・・・それとも・・・旅にでてみるべきか・・・・・

 「おとう・・・・・さん・・・・」

 ・・・・・・・翡翠を置いて・・・旅にでるわけにはいかんか・・・・・いや・・それ以前に俺は何を考えているんだか・・・・

 「未練・・・・だろうな・・・・・」

 もう未練など残ってはいないと思ったんだが・・・・それは間違いだったと言うことか・・・・・

 ・・・・・イツキ・・・・・お前は幸せに暮らしているだろうか・・・・・・それだけはしりたい・・・・

 ・・・俺はもうお前のそばに入られないだろう・・・既に俺は・・・『黒河龍斗』なのだから・・・

 だが・・・・この思いだけは・・・・・誤魔化しようが無いか・・・・・・

 もし・・・・俺をこの時空に飛ばしたのが神と言うのなら・・・・・神に祈ろう・・・・・

 どうか・・・・・・イツキが幸せに暮らせていますように・・・・・・・・



 それが・・・・あの世界の『テンカワ・アキト』の最後の願いだ・・・・・・

 そして・・・我侭が許されるのなら・・・・『黒河龍斗』の願いもきいて欲しい・・・・・

 舞歌達が・・・・無事にこの戦いで生き残れますように・・・・・・・





 「ふっ・・・・・・俺らしくも無い・・・・・」

 少々弱気になりすぎたか・・・・・・『黒河龍斗』は今まで決して折れることなき執念で戦ってきたはずなのにな・・・・

 今回も・・・・その折れること無き執念で戦わねばな・・・・・・出なければ奴らにはそう簡単には勝てないだろう

 「わたしらしく・・・・・か・・・」

 俺らしさ・・・・そう・・・『黒河龍斗』の自分らしさを・・・奴らに見せ付ける必要があるだろう・・・・

 まだ・・・遺跡は俺とアキトを同一の存在としてみている・・・・・

 何故かはわからないが・・・・俺にはその事がよくわかる・・・・・

 そして・・・俺とアキトが同化するかどうかが・・・・・明日の決戦で決まる事も・・・・・

 「見せてやるさ・・・・・、黒河龍斗の・・・この俺の自分らしさをな・・・・・」

 もはや引く気など微塵も無い・・・・・引けばこの俺の存在が消えるだけだ

 まさしく・・・俺にとっては存在を賭けた一戦だ・・・・・俺は・・・必ず帰ってきて見せる!

 俺の帰りを待ってくれる・・・・舞歌達の為にも・・・・・必ず・・・・・!!























 後書き

 えぇ・・・・今回はいかがだったでしょうか?

 北辰、草壁に違和感を感じる方もいるかもしれませんが・・・・・あれがこの作品での二人です

 次回・・・・ついに決戦開幕です・・・・長らくお待たせしました・・・・・

 勢いが乗れば今月中にもう一作・・・乗らなければ来月に一作は更新しますので

 どうか・・・・気長にお待ちくださいませ

 

管理人の感想

B-クレスさんからの投稿です。

こんな草壁や北辰が居てもおかしくは無いと思いますよ?

ただ、遺影に話しかける北辰が、ちょっと想像しづらいですが(苦笑)

さて最終決戦に次からは突入するわけですが・・・何人生き残るでしょうか?(爆)

 

PS

ちょっと「・・・・・・」の使用率が高いですね。

間を表現するためかもしれませんが、多用しすぎると逆に読みづらくなりますよ?