「ふぅ・・・・」

一人の男が親友の死を嘆いていた

男の名はオオサキ・シュン

西欧最悪の最前線基地で部隊長を務める人物である

「・・・・・・」

彼はこれからくるであろうパイロットのことを考えていた

一人の名はよく知っていた、西欧では知らないものはいないほどの有名人であった

もう一人は・・・彼はよく知らなかった、新人だろう、としか見ていなかったが・・・

その人物の階級を見て彼は己の正気を疑った

極東方面軍所属、階級少佐、

そのとき彼は一つのことを思い出した、かつて、火星会戦において単独で百ものバッタを落とした男がいることを

その男が無事に帰還し、連合最強の船とうたわれている『ナデシコ』に乗っていると言う話を・・・

「『白騎士』に『白銀の戦乙女』か・・・・・・これで変わってくれるといいんだがな」

彼はそう呟くと今まで散っていった戦友達のことを思い出していた・・・・・・







機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
西欧編第一話 生まれた一筋の『希望』

二隻の輸送船が基地にたどり着き、その中からエステバリスと10mはあろう機動兵器が降りてくる

片方の機体は純白、もう片方は白銀の色だった

先にエステバリスのほうが格納庫に収まり、コックピットからハシゴを使って降りてくる

「ただいま到着しました、アリサ=ファー=ハーテッド中尉です」

銀色の髪をした女性が集まっている軍人に敬礼をしながら言った

「よく来てくれたアリサ中尉、私がこの部隊の隊長を務めているオオサキ・シュンだ」

そう言うとシュンは片手を差し出す、アリサもそれに答え二人は軽く握手をした

そのころ大型の機動兵器のほうも格納庫に機体を収めそのコックピットを開ける

「ちょっと待っててくれ、今はしごを伸ばすからよ」

エステ用に合わされたはしごの長さではその機動兵器のコックピットには届いていなかった

「大丈夫だ、この程度の高さは慣れている」

コックピットに乗っていた機体同様真っ白な服装をした男が9m近くある高さを飛び降り音もなく着地する

それを見てあっけにとられているシュン達の前に男は歩いていき敬礼をした

「ネルガル、ナデシコより出向してまいりました。

極東方面軍所属、テンカワ・アキト少佐であります、

これからこの部隊に所属することとなりましたこれからよろしくお願いいたします」

「ふふふ・・・・こちらこそ宜しく頼むよ」

シュンはアキトの言葉に微笑を浮かべアリサと同じように握手を交わす

「アキト、やっぱりお前なんだな!!」

「この声は・・・・カズシさん!!」

シュンの近くにいた大柄な男性が急にアキトの名を叫び手を広げて近づいていく

それに応えるようにアキトも手を開いて・・・・・・

「うりゃあ!!」

「甘い!!」

『バキィ』

その手を再び握りなおしカズシの攻撃をクロスカウンターでお返しした

「つつつ・・・・やっぱりお前だな」

「カズシさんこそ変わってませんね」

二人はにっと笑いあった

「カズシ、知り合いなのか?」

「あ・・・・すいません隊長、こいつと最後に直接顔をあわせたのは火星だったんでつい嬉しくて・・・」

「と言うことはやはり彼は・・・・・」

「ええ、間違いなく火星の『白騎士』ですよ」

「ええええええええ!!」×シュン、カズシ、アキト以外の面々

いきなり全員が叫び声をあげた

「おいおいマジかよ!!またあの白騎士が軍に戻ってきたのか!!」

「よっしゃあ!!これであいつらに一泡吹かせてやれるぞ!!」

「あいつの仇・・・・・・今度こそ果たすぞ!!」

「あ・・・あの・・・・すいません、写真いいですか?」

「あの・・・・紫衣の戦乙女と恋人だって話は本当ですか?」

最初の方は前線に出ている軍人達、後ろの方は生活課の面々だったりする

アキトも急に囲まれ四方八方から声をかけられ流石に驚いていた

アキトの人気の高さは並ではなかった、一言で言うなら闘うアイドルといったところだろうか

事実、火星にいた時代にもスキャンダル騒動がない日は一日もなかった

長いナデシコ生活で昔は慣れていた質問攻めに免疫がなくなってしまったのである

「ふぅ・・・・・まあ今日ぐらいは構わんか」

「火星の白騎士・・・・その実力見させてもらいますよ」

「やれやれ・・・・あいつの周辺の状況は何所に行っても変わらないって事か?」

アキト包囲網からやや離れたところでシュン、アリサ、カズシは思い思いの感想を述べていた

「カズシさん助けてくださいよ!!」

当の本人は質問攻めにあい非常に苦労していたが・・・・・・

「・・・・おい、サイトウ・・・・やるか?」

「ああ・・・・・この機体はじめて見た・・・・仕様書もあるし・・・・やってやるか?」

「おっしゃ!!やろうどもこの機体をばらすぞ!!

「おおーーーーー!!」

その掛け声と共に整備班全員がアーサーに向けて殺到する

「ああ!!解体するなーーーー!!」

アキトの声とエクスの必死の抵抗(電撃)を無視して整備員達はアーサーを解体し

その三時間後には完全に元に戻していた

・・・・この基地の整備員はナデシコに雇われるだけの腕をもっていたのだろうか・・・・

それとも・・・・整備員としての執念がなせる技なのだろうか

組みなおされたアーサーは何一つ異常はなかった











アキトとアリサが到着してすでに三日がすぎた

それまでは特に蜥蜴の攻撃もなく比較的平和だったといえるだろう

「ふむ・・・・ではこれでどうかな」

「そうきますか・・・・」

アキトも今はシュンに戦略シュミレーションで訓練をつけてもらっていた

そんな時・・・・・事件は起きた



「隊長!!偵察部隊からの報告、チューリップが三個こちらに向かってきています!!」

通信兵からシュンに向けて緊急通信が入った

「なに!!指示は!!」

「それが・・・・『基地近辺にて待機』・・・です」

「戦術としては基本だが・・・・街がやられるな」

アキトがその指示に対して意見を述べる

「チューリップは今どの辺りだ」

「現在街から約十五分の地点にいます、・・・・今からエステを飛ばせばギリギリといったくらいですが・・・・」

「く・・・・こうなったら「隊長、大変です!!アリサ機が出撃しようとしています!!」

「なんだと!!通信を開け!!」

シュンの指示と共に通信が開かれる

「すいません隊長、罰は帰ってきたら受けます」

「何を考えているんだ、君は死ににいくつもりか!!」

「すいません・・・・でも・・・あの街には・・・私の両親が・・姉さんがいるんです!!」

「アリサ機、出撃しました!!」

「くそ・・・・偵察部隊を編制する!!志願者を集え!!」

「了解!!」

「ふふふ・・・・シュン隊長・・・・貴方も馬鹿ですね・・・

でも・・・俺はそんな人は嫌いじゃないですよ」

アキトはそう言うとはずしていたバイザーを装着し部屋から出て行こうとした

「・・・・何所に行くつもりだ?」

「アリサ機を止めてきます、説教は帰ってから聴きますよ」

アキトはそう言うと全力で格納庫に向かっていった、その顔には焦りが僅かに浮かんでいた







街、郊外

「く・・・・流石に多い!!」

「もう一度前線を下げる!!住民の避難を急がせろ!!」

アリサは偵察部隊と近辺にいた巡察部隊と合流しチューリップを迎え撃っていた

奇跡的に死者はまだ出ていなかったがこのままなら確実に死者は出るだろう

さらに・・・・まだ距離があるといってもこのまま前線が下がり続ければ民間人にも被害が・・・・

「く・・・まだまだ!!」

アリサ機の損傷もかなり激しいものになっている、それでもアリサは闘い続けていた・・・・守るべき人たちのために・・・・

「はあはあ・・・・・はっ!!きゃあ!!」

接近していたバッタを倒して少し気が緩んだのかミサイルを脚部に喰らってしまった・・・・

「くっ・・・・ここまでなのね・・・・」

アリサが死を覚悟した瞬間・・・・

『ビュオオオオオン!!』

一陣の風が・・・・戦場を貫いた・・・・

『ドッドッドッドッドッッゴーーン!!』

風が戦場を貫いてまもなくバッタ達が次々と爆発していった・・・・

「アリサちゃん、大丈夫かい?」

「・・・・やっときてくれましたか・・・遅すぎです」

もはや大破といってもいいほど壊れているアリサ機の隣に純白の機体が立っていた

「御免、ちょっと準備に手間取っちゃってね。後ろの部隊にエステを渡してあるから急いで乗り換えて」

アキトが遅くなった理由・・・それは基地から予備の空戦フレームを二つコンテナに詰めて持ってきてからだ

いくら高出力といえども流石に重かったようで、先ほど合流した先行部隊にエステを渡し最大加速でここまで来たのであった

「そうですか・・・・しばらくの間ここをお願いします」

アリサはそう言うとすぐに先行部隊が待機しているところへと向かっていった

「さてと・・・・・シュン隊長の偵察部隊が民間人を救助してくれてるはずだからな・・・・大技でいくか!!」

アキトはそう言うと早速G・Bをその手に構える

「エクス・・・・『ベルセルク』モード起動・・・・あの技を使うぞ」

『了解しました、サポートします』

アキトは一気にベルセルクモードを起動させG・Bにフィールドを集中させる・・・・

「大いなる空を駆ける炎の鳥よ、その紅蓮の翼をもって我が前に立ちふさがる物を薙ぎ払え

朱雀双翼斬!!

その言葉と共にアキトはG・Bを横一文字に払った、それと共に真紅の鳥の形をしたものが無人兵器の群れに向かっていく

『キシャアアアアア!!』

まるで本当に鳥が鳴いている様な音を出しながらその真紅の鳥は敵を薙ぎ払っていき・・・

その中央部分と羽にあたる部分で延長線上にあったチューリップ三機を切り裂いていった・・・・

『チューリップの破壊を確認・・・・ベルセルクモード解除します』

「ふぅ・・・・何とか当たってくれたか・・・半ばぶっつけ本番だったからちょっと怖かったな・・・」

アキトは肩の荷が下りたといった感じでシートに身を委ねた

『マスター、気を抜くのはまだ早いです、無人機がまだ三百ほど残っています』

「はあ・・・・やっぱり横向きにだけ集中させたのはまずかったか・・・・・

まあいい・・・・こいつ二つで何とかなるだろ」

アキトはそう言うとG・Bをしまいイミディエットソードを装備する・・・それと同時に・・・

「アキト、またせたな。民間人の救助は終わったただいまより援護する!!」

「・・・・アキトさん・・・チューリップ撃墜ご苦労様でした・・・後は私達に任せてください」

シュンとアリサがそれぞれ味方を率いて到着した

「ふぅ・・・助かった・・・今のこいつはいつもの半分以下の出力しかありませんから少し下がります」

アキトはそう言うと最前線から中央辺りにまで下がり残ったバッタたちとの戦闘を行った

結果は・・・・死傷者もなく三十分後には全バッタを殲滅し終わった・・・・







街郊外(基地側)

「アリサ!!」

「お父さん!!お母さん!!姉さん!!」

アリサが無事だった家族のもとに走り抱きついた

「ふぅ・・・・まあ今回の行動は先行偵察としてあまり問わない事にするか」

「ふふふ・・・・やはり隊長は優しいお方ですね」

「うるさい!!」

シュンとカズシがその光景を見て嬉しそうに・・・しかしどこか悲しそうに言葉を交わしていた

「ふぅ・・・・今回は守り通せた・・」

アキトは一人やや離れたところで呟いていた・・・・・・そこに

「はい、おにいちゃん」

一人の少女がリンゴをアキトに渡してきた

「あ・・ああ・・・どうしたのこのリンゴ?」

「先ほど街から避難した人たちに渡しているんです、良かったらもらってください」

もう一人、栗色の髪をした女性がアキトに声をかける

「ああ・・・ありがとうございます・・・『シャリ』・・・・美味い・・・」

アキトは驚きの表情でそのリンゴを見つめていた

「『シャリ』・・・・このリンゴ・・・産地から直送で・・・こだわってますね?」

「ええ(笑)父が『食材こそ料理の基本だ!!』とか言って運送する食材にこだわってますから・・・」

「そうですか、でもこれ無料で配ってるんでしょう、大赤字ですね」

「ええ・・・父もいってます(苦笑)」

「・・・・そうだ!!顧問契約できますか?」

「はい?」

「基地の飯ってまずいんですよ、自分で作ろうにも素材を仕入れなきゃいけないし

第一この辺りってあんまり詳しくないですから・・・・それにそこまでこだわってるんならいい素材がそろってるでしょうし

とりあえず・・・・・これが契約金と言うことでお願いします」

アキトはそう言うとマントの中から小切手を取り出し女性に手渡した

「まあ・・・・こんなに・・・・」

「お願いできますか?」

「ええ、たぶん父も承諾してくれると思います」

「ねえねえお兄ちゃん、お名前なんて言うの?」

少女がアキトの顔を覗き込むように聞いてくる

「ああ、俺の名前はテンカワ・アキト、アキトでいいよ」

「うん、わかった。私はメティス・テアだよ」

「メティスちゃん・・・・だね?」

「メティでいいよ、お兄ちゃん」

「ふふふ・・・・そう言えば私も名乗ってませんでしたね、私はミリア、メティの姉です」

「ミリアさん・・・ですね。これからよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ」

アキトはミリアに向かって手を差し出す、ミリアはにっこり笑ってその手を握る

「アキトさん!!お父さん達がお礼が言いたいそうですからちょっと来てください」

アリサはそう言うと有無を言わせずアキトを連れて行った

後にはやや怒っているような表情をしたメティスと笑顔でその表情を見ているミリアがいた



地獄の戦場に生まれた一筋の希望、その希望が西欧を覆うのはそう遠い日のことではないだろう

そして・・・・・その希望をめぐり争いが起きるのも・・・また・・・遠い話ではない・・・・















後書き

今回一気に西欧組を出してみました

その結果、話がいっぱいいっぱいになってしまいました

西欧組を出すのを急いだのは少しでも早くオリジナルルートに行くためであります

次回・・・少しオリジナルが入って行きます。まあ今回話の流れもそうでしたが・・・・

では・・・・次回お会いいたしましょう!!

 

 

管理人の感想

B−クレスさんからの投稿です。

カズシさん・・・アキトのクロスカウンターをもらって平気なんだ(苦笑)

しかし、ハーテッド家は全員無事ですか。

今後もアリサ、サラの両親は出てくるのでしょうか?

私の作品では出番なんて殆ど無かったキャラですからねぇ(笑)

B−クレスさんの次回作に期待します。