火星高空での戦いから低空飛行による潜伏移動を開始したナデシコ

その中では・・・・・

「・・・では相転移エンジンは事実上半永久的に稼動可能と言うわけか・・・・

敵が自力で開発した物だとしたら・・・・・・相当厄介だな」

「そうね、無限にエネルギーを生み出せるんだから普通に戦ったら勝ち目は薄いわよね」

「しかし・・・・・重力・・・いや・・次元を捻じ曲げているのはどういう原理なんだ?」

「あら、いい質問ね。正確にはわからないけど一通り解明できているわ・・・・説明してあげましょう」

「もうやめてーーー!!」×ミナト&ユリカ&ジュン&メグミ&スズカ&プロス

イネスとアキトがブリッジでナデシコのシステムなどについて話しあっていた





刻まれゆく神話
第六話
時を越えた再開





「あら・・・・これくらいで根をあげるなんて柔ね」

「ううう・・・・・・そんなこと言われたって・・・・」

「いくらなんでも・・・・・きつ過ぎるわよね」

「艦長はまだしも・・・・イネス博士、貴方はどうしてブリッジにいるのですかな?」

プロスが後頭部に冷や汗をかいたままいう

「そうそう・・・・・一つ聞きたい事があったのよね・・・・・

艦長・・・・貴方の眼・・・金色だったわよね?

その眼・・・・・生まれ付き?それとも・・・・しばらくしてそうなったの?」

「・・・・・生まれ付きです」

イネスがその言葉を聞き目を僅かに細める

「そう・・・・貴方は何歳以降の記憶が完全になくなってるの?」

「・・・・・三歳・・・くらいでしょうか・・・それ以降の記憶は以外に正確なのに

それ以前になると何一つ記憶していません」

「そう・・・・・・ありがとう。

急用ができたわ、説明はまたの機会ね・・・・失礼」

イネスはそう言うとブリッジから出て行った

「・・・・なんだったんでしょうか・・・・」

「さあ?」

メグミとミナトがそんなイネスを見て顔を向かい合わせていた

「さてと・・・・・作戦の話をしましょう」

スズカがアキトに向かってそういう

「そうだな・・・・・・プロスさん、研究所に相転移エンジンのスペアがあるって話は本当ですか?」

「はい・・・おそらく・・・ですが・・・・相転移エンジンならナデシコの肩代わりも可能でしょう」

「もし・・・・・無かったらどうするのアキト?」

「そうです、もし無かった場合はどうするんですか。

今すぐにでも火星圏を強引に突破した方が・・」

ユリカの疑問にジュンの反論が続く

「パイロットを何人か殺してもいいのならその作戦でいこう

だが・・・・火星圏突破の段階でパイロットが減ってしまえば・・・地球勢力圏に入る前・・・・・

月軌道上で蜥蜴の部隊の待ち伏せにあったとき生きて帰れる保障が無くなる

それに・・・・・エンジンが無ければ研究所を爆破して眼をそらさせればいい」

アキトはジュンの言葉を冷静に返した

「・・・前方にチューリップ確認、ついでに連合軍の戦艦らしきものも発見」

ラピスのその言葉とともにブリッジ全員が前方を見る

そこには・・・・チューリップの近くで凍り付いている連合軍護衛艦・・・・クロッカスがあった

「・・・・・・・イネス博士に連絡を・・・・データ照合を開始してくれ」

「了解」

アキトの言葉とともに、メグミとルリが仕事に移った





それから・・・・しばらくたって・・・・

「間違いありません、極東方面軍のクロッカスです」

「そうか・・・・ありがとう」

「何故火星に・・・・・あれが飲み込まれたのは地球だったはずです」

「・・・・それが・・・・チューリップの力さ」

「ほえ?・・・・アキト・・・なんでここにクロッカスがあるか知ってるの?」

「ああ・・・・俺の両親が研究していた物に・・・ボソンジャンプと言うものがあった

俺は・・・父さん達の研究レポートをよく家で盗み見ていた・・・・

ボソンジャンプは発生時にボース粒子が感知されるのが最大の特徴・・・・

そして・・・・・距離を完全に無視して別の場所に移動する事ができるらしい

もっとも・・・・条件がそろわない限り生体のボソンジャンプはできないようだけどな・・・」

「それだけじゃあないわよ」

その言葉とともにブリッジの扉が開きイネスと一人の女性、ルミが入ってくる

「ボソンジャンプは距離だけじゃあない・・・・・・時間さえ無視するのよ」

「イネス博士・・・・それは本当の事ですかな?」

「ええ、しかも・・・・生身で跳べるのはほんの一握りよ・・・・・・・」

「そんなことよりも・・・・・話があります」

ルミが・・・・真剣な表情でフクベ提督の前に立つ

「あなたが・・・・・ユートピアコロニーにチューリップを落としたのは本当ですか?」

「何いってるのルミちゃん、フクベ提督が火星会戦で唯一チューリップを落とした英雄だって事は誰でも知ってるよ」

ユリカの言葉にアキトとフクベの表情が曇った

「地球ではね・・・・・貴方が落としたチューリップのせいで・・・生き残った人たちがどれだけ怖い思いをしたか・・・!!」

その言葉とともにルミが手を振り上げる

「貴方が・・・貴方がいなければぁあああ!!」

『ガシッ』

振り上げられた手は・・・・・アキトの手により抑えられた

「お兄ちゃん!!放して!!」

「・・・・・フクベ提督を殴ると言うのなら・・・・先に俺を殴れ

俺もフクベ提督も・・・・・火星の人たちを見殺しにしてしまったのは同じことだ

結果はああだったが・・・・・・俺はあの時の提督の判断は最良と見ている

お前がフクベ提督を許せないのなら・・・・・俺を先に・・・好きなだけ殴れ」

「くっ・・・・・・・う・・・・・・・」

「それに・・・・フクベ提督は偽りの英雄として担ぎ上げられ続けていた・・・・それがどれほど提督を苦しめたか・・・・

俺が・・・この眼のせいで何かと恐れられていた時に・・・庇ってくれていたお前ならわかってくれるはずだ

好き勝手なことを言われることの辛さが・・・・・・・」

「う・・・う・・・」

「理解しろ・・・・と言うつもりはない・・・・・だが・・・・・フクベ提督も苦しみ続けたんだ・・・・・

ナデシコに乗ったのだって・・・・・・自らが犯した罪の贖罪をするためだったんだ・・・・

俺も・・・フクベ提督と同じだ・・・・・民間人を守れずに・・・・火星から撤退してしまった・・・・

裁きを受ける必要があるのは・・・・俺も同じだ

だが・・・・・今はまだ裁きを受ける時じゃあない・・・・せめて・・・・この戦いが終わるまでは保留にしてくれ」

「・・・・・わかった・・・・・・・提督・・・貴方が本当にすまないと思っているのなら・・・・・・・

どんなに惨めでも・・・・生き延び続けてください・・・・戦争が終わっても・・・生き続けてください・・・

そして・・・・火星の人たちのことを忘れないでください・・・・絶対に・・忘れないでください」

「ああ・・・・・わかった・・・・・・・ありがとう」

フクベはそう言うとルミの前で土下座をし、ゆっくりと立ち上がると提督席に戻っていった

「さて・・・・私の話に移っていいかしら?」

イネスが何処かそわそわした感じでアキトに向かっていった

「はい、先ほどの発言を聞くと・・・・ボソンジャンプを解明したようですが・・・・・」

「まあ・・・ね・・・・・その前に・・・艦長・・・・貴方の本当の両親を覚えているかしら?」

「何言ってるんですかイネスさん、お兄ちゃんがお父さん達の事を覚えていないわけが・・・・」

「いえ・・・・・覚えていません」

ルミの言葉を遮る形で・・・・・アキトが衝撃の事実を告白し始めた

「ルミ・・・・お前が結婚した時に話すつもりだったんだけどな・・・・・・

俺は・・・・今から約十五年前・・・一人震えていたところを・・・テンカワ夫妻に拾われた・・・・

テンカワ夫妻には・・・・一人の娘がいた・・・・それが・・ルミ、お前だ

テンカワ夫妻は俺のことを本当の息子同然に育ててくれていた・・・・・・・

俺も・・・本当の両親のように甘えていた・・・」

「そ・・・・それじゃあ・・・・お兄ちゃんと私は・・・・」

「ああ・・・・・血の繋がりは無い・・・・俺の本当の両親はわからない・・・・・

十年前にDNAチェックをしてみたが・・・・・両親は存在していなかった・・・それどころか該当者無しの遺伝子データだった」

その後アキトは自分の証明を遺伝子データではなく指紋や声紋等で証明してきた

「それは年数のせいね」

イネスがアキトの言葉を遮った

「今チェックをすれば・・・・・該当者が出るわよ・・・・・・」

イネスはそう言うとDNA判定の機械をアキトの腕に当て、オモイカネに頼んでウィンドウに大きく表示させた

そこには・・・・・こう映っていた



アキト・クロフォード 出身地 火星 年齢 四歳

三歳の時火星会戦に巻き込まれそれ以降行方不明


そして・・・・・映っていた顔も・・・・アキトと同じ金色の瞳と黒色の髪を持っていた

「な・・・・・・・なに?」

「クロフォード?・・・・・それに四歳って・・・・・」

「アキト!!」

イネスの隣にいた女性がそのデータを見るとアキトに抱きついた

「なっ!?あ・・・貴方は誰なんですか?」

「貴方の母親よ・・・・両親データを移して頂戴、年齢と名前、顔も映して頂戴」

イネスの言葉とともにアキト・クロフォードの両親のデータが写される



父親:アマザキ・リュウジ 出身地 不明 年齢 推定三十五歳

備考:四年前のテロ鎮圧作戦で子供を庇って殉死

母親:フィリス・クロフォード 出身地 地球 年齢 二十五歳

備考:ナノマシンにより遺伝子治療を受けた初の人物、金色の瞳はその副産物




「な・・・・・・まってくれ・・・・・俺との年齢差はどう説明するんだ」

「言ったでしょう、ボソンジャンプは時間をも超えるって・・・・・・・

私のことも覚えていないかしら・・・・・・その眼の事でいじめられていた貴方と始めて友達になった私のこと・・・

いつもお姉ちゃん、お姉ちゃんってついてきてたわよね」

イネスの言葉にアキトは自分の記憶を深く掘り起こした・・・・・すると・・・今まで無かった物も・・・段々と出てきた

「ま・・・まさか・・・・・アイ姉ちゃん?」

「ふふふ・・・・・思い出したようね」

「そうか・・・・あの火星会戦のとき・・・俺はルミとあっていたんだ・・・・・・・・

ルミがバッタを倒した後・・出口の方からバッタが来て・・・・その時にルミの近くで青い光が出てきて・・・・」

「私とアキト君は過去に飛ばされてしまった・・・・・・・」

「・・・・そうか・・・・そう・・だったのか・・・・・」

「ええ・・・・フィリスさんは間一髪助かった・・・・半年前まで昏睡状態だったけどね・・・・・」

アキト、イネス、アキトに抱きついたままのフィリス以外の面々は余りの話の大きさについていけていない

「アイ姉ちゃんはいつ記憶を?」

「フィリスさんが目覚めてしばらくしてよ・・・・・フィリスさん起きたと思ったらすぐアキト君を探そうとしたのよ

それに付き合っているうちに色々話を聞いて・・・・それで・・・ね・・・・・

おかげで長年の疑問が解けたわ、私の本当の両親は誰かって言う疑問がね」

「ちょっとまってください・・・・さっきの話だと・・・・・・

ユートピアコロニーの地下シェルターであったアイちゃんがイネスさん

アキトくんがお兄ちゃん・・・・・ってことになるんですけど・・」

「ええ、それに間違いないわよ」

ルミの言葉にあっさりとイネスが返した

「それじゃあ年齢の問題が・・・」

「だから言ってるでしょう、貴方が行ったボソンジャンプに巻き込まれる形で私達もジャンプした

貴方は無事タイムラグなしに地球にとんだ、でも私達は過去の火星に跳んだ、それだけよ」

「ごめんなさい・・・・・・取り乱しちゃって・・」

そういいながらアキトに抱きついていた女性、フィリス・クロフォードがアキトから離れる

「仕方ないわよ、親子の感動の再会ですものね」

イネスはそう言うとチューリップのほうに向き直った

「クロッカスに生存者はいないわ・・・・・それは保障できる

でも・・・・・ナデシコなら・・・ナデシコのディストーションフィールドならたとえ限られた人でなくてもジャンプできるはず

まあ・・・どこのチューリップに出るかはわからないから一か八かの賭けになるでしょうね」

「そうですか・・・・・ならまず研究所に向かおう、偵察隊をだす

イツキ、リョーコ、アリサ、ヒカル、イズミの五人で向かってもらう

残るパイロットはナデシコの防衛に回れ

あと・・・・・しばらく指揮はユリカに委ねる・・・・・・俺は・・・少し用事がある」

アキトはそう言うとフィリスの顔を見てブリッジから出て行った

フィリスもアキトの後を追いブリッジから出て行った・・・・・・



偵察部隊・・・・

「まったく・・・・砲戦フレームはこれだから嫌なんだ!!」

「ぼやかない、ぼやかない」

「重機動戦フレームも使い方次第ではかなりの戦力ですよ」

じゃんけんに負け、重機動戦フレームに乗ることになったリョーコが愚痴を言っていた

「そろそろ研究所ね・・・!?・・・・皆止まって!!」

地図の照合をしていたアリサが全機に停止を促した

「なんだよ・・・・何かあったのか?」

「・・彼女の言葉は正しそうね・・・・・何かが近づいてくるわ」

「そんな事いわれても反応は無いよ?」

「来る!!リョーコ、右足をすぐに上げて!!」

アリサの言葉と共にリョーコが右足を上げ、そこを蜥蜴の無人兵器が飛び出していった

「こいつ・・・氷の中に潜んでやがったのか・・・うわぁ!!」

リョーコが重機動戦の脚をおろし、体勢を立て直そうとした瞬間にその無人兵器にタックルされてしまった

「ちくしょお、これだから砲戦は・・・・ひぃ!?」

軽く頭をぶつけ、意識をしっかり保ちなおそうと頭を振ったリョーコの目に映ったのは・・・・・・

口に当たる部分からドリルを出しリョーコ機のコックピットに攻撃をしようとしている無人機の姿だった

「ち・・ちょっとまて・・・・ヒカル、イズミ、アリサ、イツキ・・・・・・艦長!!

「はあ!!」

『グワシャアン・・・・・ガスン』

「これで終わりです!!」

『カタタタタタタタ・・・・・・ドッゴーーン』

リョーコ機にくっついていた無人機をもう一台の重機動戦であるアリサ機がタックルで引き離し

離れたところをヒカル、イズミ、イツキの三人同時攻撃で粉砕した

「ふぅ・・・・・助かったぜ」

「重機動戦はヴァルハラでの団体行動ではこういう役割なんです。

タックルで敵の出鼻をくじく・・・・その後距離をとり攻撃に参加する。

それと・・・・・今日から貴方はもう一つの意味でもライバルですね」

アリサが笑顔で、しかし何処か挑発するような口調でそういう

「・・・・・へへへ・・・俺はそういうのは好きだぜ・・・・面白え、勝負だ」

リョーコはアリサの言いたいことを正確に理解しそう言った

「二人共・・・・私だって負けませんよ」

イツキがそこに乱入してくる

「あらら・・・・・リョーコちゃんにしては珍しいね」

「良いんじゃないの?私達からすれば面白いんだから」

「それもそうだね」

その光景を見ていた女性二人はそう語っていた



ナデシコ、艦長室

「フィリスさん・・・・いや・・・・母さん・・・・と呼ぶべきかな?」

「ええ・・・・そうよんでくれると嬉しいわ・・・・・アキト」

「少し聞きたい事があるんだ・・・・僕のこの眼は・・・・いつからこうなってたの?」

「・・・生まれてからよ・・・・お医者さんは胎児の時にナノマシンが入り込んでしまったのだろうって・・・

本来は遺伝される物ではなかったらしいけど・・・・数万分の一の確率が貴方のその眼、そしてIFSよ」

フィリスはアキトのつけているバイザーを外し、その眼を見てそう言った

「アキト・・・貴方はお父さん似ね、センスまでよく似てるわ・・・・・・」

フィリスは、アキトの顔をなでる様に触りながら、優しい声で言った

「・・・・・父さんは・・・どんな人だったの?・・・・僕が知っているのは・・・宇宙最強の傭兵だって事しか知らないんだけど」

アキトの父・・・アマザキ・リュウジ・・・彼のことを簡単に説明しておこう



約十年程前に急にその姿を表し、傭兵として軍の仕事を手伝った男である

金しだいで誰にでも雇われたが余りにも非人道的な作戦には一度も参加せず、逆に阻止している

一度、彼を独占しようとしたクリムゾンのSSの精鋭部隊を単独で壊滅させた男である

常にその眼を、表情を隠している事からついた二つ名が『Knigt of Mask』

その武勇は軍にも知れ渡っていた、火星を拠点としていたのがもう一つの特徴でもある

四年前、軍との共同作戦中迷い込んできた子供を庇い、銃弾を無数に受け死亡した



「リュウジさん・・・貴方のお父さんはね・・・一言でいえば・・・・酷く弱い人だったわ」

「弱い?」

「そう、確かに・・・・肉体的には彼にかなう人はそういなかったと思うわ・・・・・

でも・・・彼は心がとても弱かったの・・・・私が引かれたのもそんなところだったわ」

「・・・・・父さんとはどう知り合ったの?」

「ふふふ・・・私が十八の頃かしら・・・・喫茶店でバイトしててね。

貴方のお父さんはそこの常連だったのよ

ある日・・・その喫茶店がテログループの脱走者たちに占拠されてね。

私がその時人質になっちゃったの・・・・・その時助けてくれたのが貴方のお父さん・・リュウジさんだったの

助けられた時・・・気が抜けて倒れちゃってね・・・・その時看病してくれたのが初めて普通に話をしたときだったわ」

フィリスは、懐かしむような口調で、アキトの頭をなでながら話し続けている

「それから・・・私が彼の家に押しかけて洗濯とか、掃除とかをしたわ・・・・・

お父さんは料理が本当に上手だったわ・・・・・どこか寂しげだったけどね・・・・・

そんな生活が三ヶ月くらい続いた頃かしら・・・・彼はしぶしぶ合鍵をくれたの

『雨の中外で待たれて風邪でもひかれたら迷惑だ』ってね

それから私は毎日の様に彼の家に行って掃除や洗濯をしてたわ」

フィリスは・・・何所も悪びれた様子など無しにそう語った、まあ特に悪いことをしたわけでは無いのでいいのだろうが・・・・

「母さんって・・・・・見かけによらず積極的なんだね・・・・・」

「そうよ、それくらいしなきゃ彼の心を奪えないって何となくわかってたしね・・・・・・・

合鍵をくれてさらに六ヵ月後・・・かしら・・・・・彼がね・・・自分のことを話してくれるようになったの

お父さんは・・・・記憶が無いんだっていってた・・・・断片的にしか思い出せないって・・・・・・

その記憶の中で・・・・一人の女性が自分のことを追っかけてきているって言ってったっけ・・・・

あの時は悔しかったな・・・・何となくわかっちゃったからね・・・・その女性と彼は愛し合ってたんだって・・・

でも・・・それくらいじゃあ私は諦めなかったけどね・・・・・・・・」

フィリスはそこで一度区切り大きく息を吐いた

「その後は・・・・もう突撃あるのみ・・・って感じだったわね・・・

彼も段々と私に心を許してくれるようになったわ・・・・一緒に笑ったり、泣いたり・・・・デートしたり・・・

そして・・・・彼の方から結婚を申し込んできてくれたの・・・・あの時は本当に嬉しかったわ・・・・

でも・・・・その三ヵ月後に・・・・貴方のお父さんは知っている通り、子供を庇って死んでしまったのよ・・・・

それと入れ違う様に・・・・私は貴方を身篭っている事を知ったの

貴方の名前はね・・・・お父さんが付けた名前なのよ

男の子が生まれたら『アキト』がいいって言ってたから」

フィリスはそこで話を終えた・・・・・ちょうどその時、アキトのコミュニケに通信が入った

「親子水入らずのところ申し訳ありません艦長、偵察部隊が帰還しました」

プロスが軽く頭を下げるような姿勢でアキトに報告した

「わかった、すぐにブリッジに戻る」

「私もいきます、これでもオペレーターの資格を持ってますから・・・マシンチャイルドにだって引けを取りませんよ」

「そうですか、では契約とまいりましょう、ブリッジで細かな話をさせていただきます」

「わかりました」

フィリスがそう言うとコミュニケはきれ、アキトはバイザーを付け直すとすぐにブリッジに向かった

フィリスもその後に続く・・・・・全速力のアキトと全くの同速度で・・・・・・・



ナデシコブリッジ

「研究所周辺にはチューリップが五個か・・・・・・」

「正直に言って・・・・このナデシコでは勝ち目はゼロ以下ね」

「しかし・・あの研究所を囮にしなければ脱出に多大な被害が出ることに・・・・・」

「けど・・・・迂闊に戦闘を仕掛けるのは愚策としか言いようがありません」

上からアキト、イネス、プロス、カズヤである

「・・・・・これはチューリップに賭けるしかないわね」

「・・・・そうですね・・・・」

「イネス博士!!貴方はつい先ほど生身で跳べるのはほんの一握りだといったではありませんか!!」

「確かに・・・生身で跳べるのは一握りよ、でもね・・・ディストーションフィールド・・・次元歪曲場なら・・・

ナデシコクラスのフィールドなら・・・・・何とかなるはずよ」

「しかし・・・・チューリップに入るまでに囮が必要では?」

「ならば・・・・・あれを使おう」

フクベ提督はそう言うとクロッカスを指差した



ナデシコ格納庫

「何も艦長自らいかなくても・・・」

「艦長だから・・・軍人だから・・・ですよ、フクベ提督は退役されています、つまり民間人ですから・・

それに・・・・俺以外に手動操作ができる人間はいないみたいですしね

安心してください、必ず帰ってきます」

「うむ、我が神も安全といっている、艦長に任せることこそ我が神の御意志だ」

いつの間にかそばにいるゴートがそう言うと、整備員の数人が同時に頷いていた

「安心しなさいミスター、我に策あり・・・・よ」

イネスがそう言うと共に重機動戦フレームの出撃準備が整った

アキトとイネスはコックピットに乗り込み、クロッカスへと向かう・・・・・・



連合宇宙軍極東方面護衛艦クロッカス内部

「・・・・これがジャンプの後の惨劇ですか・・・・」

「そうね・・・・酷いありさまね」

アキト達の眼には壁と融合した軍人達が映っていた

「・・・・・!?イネスさん、横に飛んで!!」

「わかったわ!!」

『ズシャッ、バシュン・・・・ドスッ・・・ザシュ、ゴトッ』

アキト達がいたところに小さなバッタが降り立ち、そこにアキトがエレキショックガンを放ち

それで麻痺し、動きを止めたバッタにマントに入れている刀を取り出し、その首を切り落とした

「・・・・これで大丈夫のはずです、先を急ぎましょう」

アキトがそう言うとイネスは頷き、ブリッジへと駆け足で向かっていった



クロッカスブリッジ

「・・・・・・・これでよし、クロッカス浮上準備整いました」

「・・・こちらもOKよ、自爆装置の設定を完了したわ」

「そうですか・・・・・・ナデシコに通信を」

「アキト!!クロッカスが動いたんだね!!」

通信を入れた瞬間にユリカがドアップでそう言ってきた

「ああ、浮上はできるし武装も大丈夫だ・・・・ナデシコはチューリップに入れ

クロッカスを自爆させ敵の追撃を絶つ!!」

『自爆装置起動、爆発まで後三百秒』

アキトの言葉と共にクロッカスの自爆のアナウンスが流れ始める

「そんな!!アキト!!早く戻ってきて!!」

「俺たちは大丈夫だ、艦長が命じる、ナデシコはチューリップに侵入せよ!!」

「わかった」

アキトの命令にラピスが小さく答えてナデシコはその身体をチューリップへとむける

ナデシコクルーはアキトに早く避難するように言ったが、アキトは通信を遮断した

「イネス博士・・・・・あれを」

「ええ・・・・・いいわね、ナデシコのブリッジをイメージするのよ」

イネスはそういいながら青い石・・・C・Cをアキトに手渡した

アキトは軽く頷くとその目を瞑った・・・・・・二人にナノマシンの紋様が走り始める・・・・・・・



ナデシコブリッジ

「アキト!!お願い返事をしてアキト!!」

「無駄、アキトが通信を遮断してる、しかも物理的に」

「しかし!!このままでは艦長が!!」

「落ちつきなさいジュン、艦長ともあろう人が何の策もなしにあんな行動するわけ無いでしょう」

ブリッジは大騒ぎだった、アキトを救いに行こうと言うものと命令を守ろうと言うものに分かれてしまっているのだ

片方が何か言えばもう片方がそれを返す、もはや堂々巡りになっていた

「静まれ!!」

その不毛な議論を止めたのは提督のフクベ・ジンだった

「君達の艦長を信じたまえ・・・・彼は帰ってくるといったではないか」

フクベのその一言にブリッジにいる全員が黙った・・・・・・その時

「チューリップまで後四十、ボース粒子反応、場所ナデシコブリッジ艦長席付近」

ラピスからの報告が入り全員が艦長席を見る

そこに急に光が発生し始め。段々と人の形が現れ・・・・光が収まった時・・・そこにはアキトとイネスがいた

「・・・・・・上手くいきましたね」

「当然よ、私自身で実験を繰り返していたのよ、生身でのジャンプだってある程度解析は終了しているわ」

「アキト!!」
「お兄ちゃん!!」


ユリカとルミはアキトの姿を認めると精一杯の声でその名前を呼んだ

それにより・・・気絶者が出るかと思ったがブリッジ全員が先に耳栓をしていたため誰も気絶しなかった

「ナデシコ、このまま前進、チューリップに突入せよ

クロッカスはチューリップ目前で自爆するように速度を調整してきた、急がなければ巻き込まれるぞ!!」

アキトの言葉と共にナデシコは最大加速でチューリップの中に進んでいった

誰一人欠けることなく、ナデシコは火星を脱出した・・・・・

理想通りとはいかず、チューリップと言う一か八かの賭けにでることになってしまったが・・・・・

それでも・・・・クルーに不安はなかった・・・・

たとえ戦地の真っ只中でも・・・・・敵を倒していけばいいだけ・・・あえてそう楽観視していた

これから・・・ナデシコは八ヶ月ほど歴史の表舞台からその姿を消す・・・・・・

ついに絡み始めた二つの歯車、この歯車が導く物は光か闇か・・・・知る者は誰もいない








後書き

少々まとまりが悪くなってしまいました今回、いかがだったでしょうか

次回、やっとナデシコクルーが勢ぞろいします

その分脱線も多くなるかもしれません・・・・・

では・・・次回お会いしましょう

 

 

管理人の感想

B-クレスさんからの投稿です。

おいおいおいおいおいおい(汗)

うわぁ、そうくるのかー

・・・このカップルは確かに意外でしたねぇ

それにしても、息子までその性格を見事に引き継いでるんだなぁ(苦笑)