僕、ハーリー。 

本名マキビ・ハリ。 

今、ラピスの補佐をしているんだけど・・・・。 

・・・正直つらいです。 

一緒にハッキングをしてたんだけど雰囲気が痛すぎるよ。 

(ネット上とはいえ)一緒に居るのに一言も言葉を発してくれないし。 

話しかけても煩いの一言。 

こんな状況じゃ・・・・作戦に支障が出そうです。 

ストレスが溜まるだけです。 

この状況・・・まるで信頼のない部長とOLの二人きりの職場のようです。 

ラピスは家族がアキトさんだけだから信用できる人はアキトさんだけ。 

イコール僕は心を開いてもらえない・・・。 

だめだ!こんなんじゃ困難だ! 

「・・・ハーリー煩い」 

・・・声に出てたの。 

完璧な親父ギャグまで・・・。 

そういえば木連の人はゲキガンガーっていうアニメでさびしい心を紛らわせたらしい。 

ダッシュに頼んでラピスに見せてあげよう。 

アキトさんも見ていたって言う逸話を艦長から聞いたし。 

「ねーラピス」 

「・・・煩い」 

「まあ聞いて、ね。アキトさんが昔みてたアニメがあるんだけど」 

お、「アキトさん」っていうキーワードだけで反応したな? 

ラピスはアキトさんが神経リンクを必要としなくなってから不安がってたもんな。 

アキトさんと同じでいたいからかな? 

「・・・見せて」 

「うん。ダッシュ」 

『OK。データ転送』 

・・・この時、僕は止めておくべきだったのかもしれない。 

 

数日後。 

ラピスはなんとなくではあるが人の表情、感情を理解してきたようだった。 

・・・問題がおきたのはその後だ。 

「レッツゴー!ゲキガンガー!」 

アニメを見ながら楽しそうにしているラピス。 

この表情を見て僕はルリさんたちに貢献できたと内心うれしい気持ちになっていた。 

「ね、ハーリー。ゲキガンガーって兵器転用できないかな?」 

・・・は? 

「だってアキトがこんな風にかっこいいロボットに乗って叫んでくれたら〜」 

マジすか(汗)? 

こんなこといってたらブラックサレナの立つ岸がなくなっちゃうじゃないか。 

「ら・・・ラピス?アニメは実際に使うことが出来る設計じゃないんだよ?」 

「ぶー」 

頬を膨らませてむくれるラピス。 

・・・かわいい。 

まあ、実際はだめだよね。 

木連の二番煎じだし。 

「じゃあ他のアニメでも見てて。ね?」 

「はぁ〜い」 

ダッシュに指示を出して出来るだけロボット物から遠いものを選んでもらう事にした。 

『撃滅の!セカンドブリットォォ!』 

 

 

おい。

 

 

「あのさ、ダッシュ。ラピスはこのままで良いからちょっとこっち来て」 

『何?』 

ダッシュはウインドウごと部屋の端に来た。 

「ラピスにあんなもの見せてどーすんの。思い切りラピスの境遇をえぐってるじゃないか」 

『え?そっちのほうが感情移入しやすいじゃないか』 

こいつ・・・まだ経験浅いからってこんなに単純だとは思わなかったぞ。 

だって「スクライ(ぴー)」はないだろ。 

思い切りキャラはまるし。 

「いいから他のを頼むよ」 

『了解』 

 

数分後・・・・。 

『おっつあん。ボクシング協会に出向いてよ、カード組んでくれや』 

 

 

おいおいおい。 

 

 

「・・・ダッシュ」 

『何か不都合でも?』 

「まだ分からないのか?最終回で主人公が視覚を失うんだぞ?それに色々と似てるし!」 

『・・・了解』 

・・・本当に分かってんのか? 

さらに数分後・・・。 

結局「るろうに剣(ぴー)」に落ち着いたようだ。 

何でって? 

それはアキトさんに似た声の人がいるからさ(爆)。 

もうすぐアキトさんが戻ってくるころだなー。 

艦長どうしてるかなー・・・。 

 

 

 

第5話「ジャンプ後・・・どういう状況だ?」 

 

 

 

ナデシコはジャンプして地球に戻ってきた。 

8ヶ月の時を得て。 

その時、ナデシコは戦場の真っ只中にいた。 

艦長・ユリカはというと・・・・。 

「アキト〜」 

眠っていた。 

A級ジャンパーたち(アキト、アキコ、アイ、ユリカ、イネス)は展望室に集まっている。 

アキトが目を覚ました・・・そこには。 

「・・・!?アキコ!」 

「ん?なっ!」 

なんとアキトが寝ている上にアキコが覆いかぶさっていた。 

その時、タイミング悪くルリがウインドウを開いた。 

「おはようご・・・ざいます」 

「「ル、ルリちゃん」」 

二人は大いにあせった。 

流石に自分とまぐわったりはしないだろうが、この状況を見てしまうと・・・・そうも言ってられない。 

「何もしてないよ、俺達」 

「そ、そう何もしてないよ」 

「・・・お二人が何をしていても構いませんが。他の方に意見を求めましょうか」 

ルリは半分いたずらで他の人々にモニターを公開した。 

「「「「「あああーーーー!!??」」」」 

「「(汗汗汗汗汗)」」 

さっさと離れれば良いのに・・・二人は接触したままの状態でいたため 

恐ろしい誤解を買ってしまった。 

「・・・とりあえず艦長を起こしてください」 

アキトがユリカを起こそうとする。 

が、おきない。 

何を思ったのか、アキコはモニターに移らない角度でアキトを引っ張りユリカにキスさせてみた。 

「うぐっ」 

「んむっ」 

「「「「「あ!」」」」」 

アキトはすばやく離れるが、時既に遅し。 

モニターからは見えている。 

さらにユリカ自身はアキトに抱きつく。 

「アキト〜ユリカの気持ちに気づいてくれたんだね〜」 

「わっ・・・ちがっ・・」 

アキコはひそかに怪しく笑う。 

(自分のうわさを消すためにはそれより大きいうわさを作ればいい・・・・) 

とんでもないことを考えているアキコだった。 

ついでにルリも隠れて爆笑している。 

 

 

 

で。 

 

 

 

その後。 

戦場の真っ只中にいたナデシコは戦闘に突入した。 

「いっけ〜!」 



ごおっ。




ヒカルのエステバリスが突撃していく。 

だが、10機の機動兵器に対し、3機しか撃墜できなかった。 

「ウソッ!?フィールドが強化されてる!」 

「バッタが強化されてる・・・か」 

アキコは一人、呟く。 

だが、AAコンビにはあまり関係ない。 

「・・・フィールドを集中すれば!」 

アキトはある程度フィールドを密集させ、拳に宿す。 

「これだ!」 

アキトエステは敵のいる地点に突っ込む。 

 

どどどどどどん! 

 

数十機の機動兵器が葬られた。 

他にはラピッドライフルを一箇所に集中させて撃墜したりもした。 

本来はマシンガンという武装は弾丸をばら撒き、命中率を上げるものだが、 

AAコンビにはそれは当てはまらない。 

一発の無駄弾でさえ生死を分ける戦場ではできるだけ弾を温存するのが常套手段ではある。 

それを知っている二人はそれこそ一発の弾丸をも無駄にしない戦いができるのだ。 

二人が敵を殲滅するのにあまり時間はかからなかった。 

すると・・・。 

『やあ、大丈夫かい?』 

 

きらーーーん。 

 

登場するタイミングを逃したアカツキが出てきた。 

遅れて出てきた割には無駄に歯を光らせる事を忘れない。 

『おせーよ!終わってから出てきてもしょうがねーじゃねーか!』 

『・・・面目ない』 

アカツキはエステ隊のメンバーに手荒い歓迎を受ける事と相成った。 

そしてナデシコはシャクヤクに収容された。 

「おお!新型か!?」 

格納庫に入ったエステに鼻息も荒くウリバタケは飛びつく。 

「・・・俺達のエステが最新式じゃなかったのか?」 

「・・・説明しましょう!」 

イネスがメインスクリーンに陣取って説明を始めた。 

「シャクヤクのメンバーに話を聞きました。 

それから推測するにボソンジャンプは瞬間移動では無いようです。 

少なくとも8ヶ月の月日が流れています。 

その間に連合軍とネルガルは和解、協力して木星蜥蜴に対抗する事になりました」 

・・・当然もう一人の説明依存症の人間であるアイは前に出たくて仕方が無い。 

流石に前に出るわけには行かないが(笑)。 

「と言うわけで、ナデシコは軍に協力する事になりました。 

私は新クルー、副操舵士のエリナ・キンジョウ・ウォンです」 

「僕はアカツキ・ナガレ。パイロットさ」 

再び歯を光らせて笑顔を見せるアカツキ。 

「そして!私が・・・」 

「はいはいあなたは前見ましたから」 

ミナトがキノコに突っ込みを入れる。 

すると、ユリカが憮然とした態度で前に出た。 

「一応言っておきますが私達は理不尽な命令には従いません。 それを重々承知して置いてくださいね」 

「ええ、わかっているわよ」 

ユリカの宣言にキノコが割り込む。 

「今回の作戦は救出作戦よ」 

「「「「「救出作戦?」」」」」 

・・・親善大使(白熊)の救出。 

意外な作戦にあっけに取られるクルー達。 

「北極に調査に向かった親善大使を待っていたのは木星蜥蜴の襲撃で取り残されたのよ」 

この作戦は連合がナデシコが協力する姿勢があるか否かのテストの意味合いが強い。 

「任せて置いてください!」 

しかし、そんなこととは露知らず、ユリカは救出作戦なら・・・・と意気込んでいる。 

「ブリザードの中、なんで親善大使はそんな所に?」 

「あの方は好奇心が旺盛でね・・・」 

そう言うと一度言葉を切り、コーヒーを口にするキノコ。 

「・・・まさかその場所に居るのが白熊ってことはないですよね」 

 

ぶーーーっ! 

 

「わっ!?きたなっ!」 

いたずら半分でアキコがつぶやくのを聞いてキノコは飲んでいたコーヒーを吹き出した。 

アキトたちはもちろん笑いをこらえていた。 

 

 

「む〜俺達は出撃が無いと暇だよな」 

リョーコは廊下の自販コーナーでぼやく。 

今は親善大使の居る北極への移動中。 

パイロット達が集まっているここにアカツキがやってきた。 

「アキト君、アキコ君、暇ならちょっと付き合って欲しいことがあるんだけども」 

と、アカツキのこの一言に近くに居たパイロット三人娘は怪しい目で見る。 

「っと、そういう意味じゃないよ。ちょっと模擬戦でもしないかって言いたかったんだ」 

そういうことなら最初からそう言えばいいだろうに。 

「それなら俺達も付き合うぜ。アキトとはまだ模擬戦やったことないしな」 

「そうだね、やろやろ!」 

リョーコとヒカルは乗り気だ。 

二人にいじられていた(遊ばれていた)アキコと、イズミは乗り気ではないが。 

「・・・少し話をしたかったんだけどね」 

そんな話も聞かないメンバーをよそにアカツキは仕方なく付いていった。 

「まてぇぇ」 

「うおぉ!?」 

医務室からガイ(本名ヤマダ)が出てきた。 

包帯を体中に付けて。 

「俺もやるぞぉぉぉ」 

「ガイお兄ちゃん!まだ実験終わってないのよ!」 

中からアイが出てきた。 

そこにはイネスの姿もある。 

「ヤマダ君、模擬戦に出たいならその体を直してからね〜」 

「みんな!騙されちゃだめだ!こいつらは俺の怪我が治っているのを知っててこう言ってるんだ! 

実験材料が(ぷす)・・・うぎゃあぁぁ・・・」 

注射をさされ、沈黙するガイ。 

「じゃ、そういうことで〜」 

「・・イネスさん?」 

「なあに?」 

「ガイはこの前全治一ヶ月の怪我を負っていましたよね?」 

確かに、その診断からまだ一週間とたっていない。 

「さあ?色々試してたら傷の治りが早くなってたわよ?」 

おいおい・・・(パイロット達の心の叫び)。 

「さ、さあ、トレーニング室にいこう」 

逃げるようにパイロット達はそこを立ち去った。 

この時、パイロット隊は心に誓った。 

イネス&アイには反感を買わないようにしようと。 

「人数が足りなければ僕が〜」

全く 相手にならないかもしれない薄幸の美青年の叫びは誰にも届かない。









 

トレーニング室。 

今回の模擬戦はチーム戦だ。 

チーム分けは、 

Aチーム・・・アキト・アカツキ・ヒカル 

Bチーム・・・リョーコ・イズミ・アキコ 

となる。 

普段ならばパイロット三人娘が組むのだが、 

戦場ではいつも出撃メンバーを選べるわけではない。 

チームワークの向上が今回の目的である。 

「戦闘開始」 

それぞれのモニターに文字が浮かぶ。 

Aチームはフォーメーションを組む。 

前衛・アキト。中衛・アカツキ。後衛・ヒカル。 

対してBチームは前衛のアキトを囲む形で回り込もうとする。 

しかし、アキトは大胆にも前進してきた。 

そして、正面を担当していたリョーコに突撃する。 




ぐぉっ。




「うおっ」 

「予想外かな?」 

 

 

どどん! 

 

 

アキトはリョーコのエステのラピッドライフルだけを狙撃、破壊した。 

もちろん手加減しているのだ。 

「なめてんのか!アキトォ!」 

ひるませたところで、アキトの後ろに居た二人が現れてアキトを囲もうとしたところをブロックした。 

「イズミ〜落ちちゃいなさ〜い」 

「・・・おちゃらけてると早死にするわよ」 

二人の管轄は中・遠距離援護。 

リョーコの突撃を支援するのが役目だ。 

対してリョーコは居合いを得意とし、接近戦を好む。 

もっとも、エステの武装は剣ではなくナイフで不満らしいが。 

「アキコ君、今夜開いてるかい?」 

「こっちはトレーニングや料理修行で忙しいんです。もし俺に勝てたら考えてあげます」 

「ほぅ!大きく出たねえ」 





どどどどどどっ・・・・。 





アカツキはトータルバランスの高い戦闘スタイルだ。 

援護も接近戦もOK。 

もっとも、得意なのは射撃で接近戦は暑苦しいとの事。 

アカツキはアキコ機と距離を測りながらラピッドライフルを乱射する。 

AAコンビはほぼ瞬殺が出来る腕前だが、トレーニングにならなくては意味がないので 

当然手加減をする。 

二人はその上で援護すらする。 

彼らの動きは人間業ではない。 

正確な機械すら上回る、達人技だ。 

しかし、AAコンビの相手をしていた二人も撃墜された。 

そして、ヒカルとイズミもAAコンビの援護射撃によって撃墜された。 

「・・・アキト、もう本調子か?」 

「・・・ああ。そろそろ行くか」 


 


・・・ばしゅぅぅぅぅん・・・・・。 



 

すると、二人はエステの・・・エステの基本性能の限界を超えた動きで動く。 

スラスターをふかし、二人は駆けて行く。 

その動きを見たエステパイロットたちは・・・愕然とした。 

 


どどどっ・・・・。


 

「すげえ・・・」 

二人のエステは単純な射撃ですらも桁が違う。 

反応速度、回避運動。 

ほとんど予測していたといわんばかりの動きだ。 

自分の手足のように動くというレベルではない。 

人間の動きを超えた、まさにロボットを動かすためだけに考えられた動きもある。 

やがて弾が切れると・・・。 

 


がきぃん! 


 

機動戦。 

まさにその言葉がぴったりはまる。 

まるで巌流島の武蔵と小次郎のように並んで移動し、 

その間にイミテッド・ナイフで攻撃しあったりディストーションナックルによる攻防があった。 

やがてその攻防が長く続くと・・・。 

「制御不能」 

エステバリスのほうが限界が来た、という表示だ。 

結果は引き分け。 

「おいおいおいおい・・・アキト!アキコ!お前らホンット〜に底がみえねえな」 

「いえいえ」 

謙遜してみせるアキコ。 

だがーこの動きでさえ、二人には手加減をしたといえるのだ。 

傍から見れば常人を超えた動きでも、これが目立たないような動きと思い込んでいる(笑)。 

「俺達は腹減ったから食堂に行ってるからな」 

パイロット三人娘はトレーニング室を後にした。 

「やれやれ・・・僕は君達に少し聞きたいことがあるんだけどね」 

アカツキはさっきまでのにやけた顔ではなく、いたって真剣なまなざしで二人を見つめた。 

「何で君達はこんなにエステの操縦がうまいのに軍に入らなかったんだい? 

理由はとにかく、これだけの戦闘力があるならすぐにどんなポストにでもつけたろうに」 

AAコンビは顔をあわせ、微笑む。 

「「俺(私)はコックですから」」 

二人の微笑が眩しい。 

 


ダブルアキトスマイル!! 


 

(うおっ・・・眩しすぎるぞ、これは・・・じゃなくて) 

「それは詭弁だろう?君達は戦うことを楽しんでいる。僕から見てもそう見える」 

アキトは顔をしかめ、呟く。 

「否定はしません。けど、あくまでここに居る理由はこの戦艦にのる大切な人を守る事だけが目的です」 

「・・・質問を変えよう。君は彼女達の誰が一番好きなんだい? 

見る限りはアキコ君が好きみたいだけど」 

「っぷ・・・くくく・・」 

「?」 

アキトは目を丸くする。 

アキコは苦笑する。 

「アカツキさん、アキトは多分気づいてませんよ」 

「・・・本当かい?」 

「ええ。俺はコック仲間に聞いたりしてます。俺自身はアキトには特別な感情を持ってませんし」 

アキトは会話についてこれていない。 

「アキト君、良く聞いて欲しい。多分君はナデシコクルーの中で一番人気の男性だ。 

ユリカさんを筆頭にルリちゃんに、メグミちゃんに、リョーコ君に、イネスさんに、ホウメイガールズとか。 

まだいるかもしれないな」 

「え?それって誤解じゃないですか?」 

「あはははは・・・」 

これを聞いてアキコは爆笑する。 

「・・・今、分かったよ。君は男性クルーの敵だ!彼らの代表として宣戦布告をする!」 

「え?ちょっと・・・なんすかそれ」 

「ウリバタケ君から勧誘を受けていた某組織への加入もする! 

今後は夜道・・いや何処でも気をつけるんだな!」 

アカツキはトレーニング室から走り去る。 

「・・・なあ、アキコ。俺ってなんかしたかなあ?」 

「あーはっはっはは・・・」 

「おい」 

腹を抱えて笑うアキコにアキトは怒気をはらんだ声で突っ込む。 

「あー・・・ごめっ・・・ごめん。俺も女になってから気づいたんだ。 

女心とか。結構気づかないんだよなー」 

「どういうことだよ」 

「まー、あれだ。ユリカみたいな表面に出るタイプとひそかに思いを募らせるタイプとか 

色々いるんだよ。少なくともさっき言ったメンバー全員はお前にほれてるぜ」 

「・・・おいおい」 

「いや、前回は逃げおおせたけどな今回は逃げんのが困難かもな」 

そう言って再び笑い始めるアキコ。 

「・・・よくわからん」 

アキトはとぼとぼと食堂に向かうのだった。 

 

 

 

「・・・」 

黙々と料理を始めるアキト。 

だが、その目には光が見えない。 

自分のアイデンティティに疑問を持っていたのだった。 

ー要は何故アキコに分かる事が自分には分からないのかと悩んでいた。 

・・・単純に男性か女性かの違いでしかないのだが。 

その違いが状況を把握できるか否かにかかわっていたのだが。 

「こら、テンカワ!気合が入ってない!」 

ホウメイがアキトに気合を入れるが、アキトは虚ろな瞳で逆に話しかけた。 

「・・・ホウメイさん、俺って鈍いんでしょうか?」 

「?何があったんだい?」 

さっきのトレーニング室での出来事を話すアキト。 

「・・・そうだね、あんたは少し鈍すぎるよ」 

「・・・そうですか」 

「ああ、鈍い。 

ここでもあんたが居ない時はみんなあんたの話題で持ちきりさ。 

テンリョウは興味が無いみたいだね。 

直接・・・・は無理か。 

誰かに聞いてごらん」 

「・・・ええ、考えておきます」 

再び、料理を作り始めるアキト。 

しかし、その目には覇気が戻らなかった。 

(・・・でも俺みたいなのと一緒に居ても幸せになれる人なんかいないよなあ・・・) 

相変わらず自虐し続けるアキトだった。 

 

 

「あ、アキトさん今暇ですか?」 

「・・・暇だよ」 

「じゃあ一緒に来てください」 

アキトはヴァーチャルルームに引っ張られていった。 

・・・もはや反対する気力も失せていた。 

設定は放課後の学校。 

「アキトせんぱ〜い」 

「・・・・・・」 

彼はメグミの誘いを断るには少々気が弱すぎた。 

その時、彼は思った。 

(・・・アキコの言ってることはやっぱりあたっているのだろうか?) 

・・・とことんこういうことには疎いな、アキト。 

というか、メグミがお前に好意を持っているのは過去で知ってるだろう! 

「・・・どうしたんですか?」 

話しかけられてもうなだれたまま返事もしないアキトにメグミは話しかける。 

「ああ、ごめん少し考え事をしてたんだ」 

断る気力すらないアキトには他の人に気を使う事すらままなら無いようだった。 

「あの・・・私・・・先輩を慰め・・・」 

胸のホックを外そうとするメグミ。 

だがー。 

「待ってくれ」 

アキトはそれを止めた。 

「・・・俺は慰められるほど傷ついて無いよ」 

そう言うと悲しい笑みを浮かべる。 

嘘を隠しきれるはずも無い、その笑顔を見てメグミは表情を曇らせる。 

「そんなこといってもアキトさん・・・」 

「いや大丈夫だ。それよりメグミちゃんは俺の事をどう思ってる?」 

さりげないーというより直球勝負だ。 

アキトは探りを入れてみる事にした。 

「え!?その・・・」 

「俺は今・・・少なくともナデシコに乗っている間は誰とも付き合わないつもりなんだ。 

・・・俺を誘ってくれた事は嬉しいけどそれを理解して欲しい」 

あえて突き放した。 

アキトは本当に誰も寄せ付けたくないのだ。 

「どうして・・・ですか」 

メグミはアキトの頑なな態度に疑問を感じた。 

「・・・俺は救えなかったんだ。 

火星でシェルターに隠れていたあのとき。小さな女の子とその母親、そして後ろで隠れていたみんな。 

それを奪った木星蜥蜴が憎い。 

今こうして時間が過ぎていくだけで人がどんどん死んでいくのを考えると浮かれている事なんかできないんだ。 

・・・だから木星蜥蜴を追い出すまでは・・・」 

「そんな・・・」 

「・・・分かったかい」 

「分かりません!!」 

メグミは大きい声を出して檄を飛ばした。 

「確かにアキトさんの気持ちは分かります! 

・・・でもアキトさん、最近顔が疲れてます。 

ニコニコ笑いながら楽しそうに振舞っていても。 

アキトさんが潰れてしまったら意味が無いじゃないですか!」 

「・・・だが」 

「死んだ人達はアキトさんが死ぬ事を望んでいるとでも思っているんですか!?」 

「・・・!」 

「・・・失礼します!」 

メグミの姿が消える。 

(・・・それでいい。 

綺麗に終わらすには俺に情を注ぐ人が居なくなればいいんだ) 

しかし、アキトの思惑とは逆に、メグミはアキトへの思いをいっそう強くしてしまった。 

・・・だが心の底で自分の矛盾を悩まずには居られないアキトだった。 

「アキ・・・ト」 

ユリカはヴァーチャルルームから出てきたアキトの疲れた顔を見た。 

「どうしたの?」 

「・・・すまない、一人にして欲しい」 

そう言って立ち去るアキト。 

「アキト?」 

ユリカは半ば心配しながらアキトを見送った。 

(俺は・・・もうユリカに触れたりしていい人間じゃないんだ・・・!) 

アキトは自分の部屋に戻り、倒れるようにしてベットに就く。 

「・・・」 

 

 

 

彼は夢に落ちた。 

 

 

 

そこはあの日、あの場所。 

 

 

 

ユリカが地球に行く一年ほど前の火星。 

 

 

 

「アキト〜どうしたの?ぽんぽん痛いの?」 

土手で体育すわりをしているアキトにユリカが話しかけた。 

「・・・うるさいな!ユリカはあっち行っててよ!」 

冷たい態度で突っぱねるアキト。 

だがその態度を気にも留めず、ユリカは言葉を発する。 

「元気の出るおまじないしてあげる」 

「おまじない?」 

「うん。目を閉じて」 

目を閉じた・・・そして次の瞬間、唇が触れた。 

「・・・!!」 

アキトが目を開けるとそこにはウェディングドレスを着たユリカが立っていた。 

「・・・アキト」 

ユリカは静かに呟き、微笑を浮かべる。 

「・・・くっ」 

彼は目覚めた。 

だが、それは敵襲のサイレンが鳴ったからだった。 

「・・・俺はまだユリカと一緒になれる気で居るのか・・・・!」 

自分の思考に怒りを感じるアキト。 

「甘えてんじゃねえよ・・・俺は人殺しだろうがっ!」 

彼にとってはもう触れる事すらためらう存在であるユリカ。 

心の底でユリカを求める自分を嫌うがー。 

「・・・くそっ!」 

ぶつける場所は無かった。 

・・・あるとすれば敵、今迫っている機動兵器しかなかった。 

格納庫に向かうアキト。 

「お?アキト、作戦会議はいいのか?」 

「・・・ウリバタケさん、あれはできてますか?」 

「・・・ああ。だがまだ試作品だ。 

それに危険だという事を理解した上で使うんだな?」 

「ええ」 

アキトはエステに乗り込む。 

ブリッジでは作戦説明をしている途中であった。 

「えー今回の作戦は・・・」 

ゴートが作戦の説明をしようとしていた。 

そこにウリバタケの通信が入る。 

『艦長、アキトが出るぜ』 

「ええ!?そんな指示出してませんよ?」 

『あ!?』 

ウリバタケは思わず声を裏返す。 

「アキト!戻って!」 

『・・・テンカワ・アキト発進する』 

 

・・・ばしゅっ。 

 

アキトは飛び立つ。そして・・・彼は戦場を駆ける「黒い鬼」となった。 

 

「ぅう・・うおおおおおおお!!!!」 

 


ざしゅっ! 




(俺は・・・俺は・・・!)

『今お前の夢の中でこの俺はどう映るのだろう?』

(ユリカ、そして俺の見る皆・・・俺を忌み、嫌ってくれ)

『敵は誰?と喚いたりイキがっても不意に虚しさが襲ってくる』

(そうじゃないと多分、傷を刻んでしまうだろう。なら・・・)

『優しさに触れたい・・・でもそれは甘え。空回るだけならいっそ』

(俺に触れるな。誰も触れないでくれ)

『全部投げ出せばいい一回壊せばいい実体無いイメージかなぐり捨てて始まってく次のラウンドへ』

(それが最善策なんだ。俺は結局戦意を煽ったり、俺に頼る事しか教えられない)

『考えるまでも無い実際動けばいい そのリセットボタンを押してゼロからの荒野へ』

(・・・俺は、殺人鬼・・・復讐鬼・・・テンカワ・アキト・・・)

『今お前の夢の先にこの道の果てが見えるか?』

(プリンス・オブ・ダークネス・・・これが)

『気が付けば終末なんて過ぎ去ってたどこへ消えた煽動者(アジデーター)?』

(これが俺の本性だ)

『散々不安になって後悔重ねてどうすんの?』

冷たい瞳をしたアキトは無人兵器を切りつづける。

『ゼロからの荒野へもう一度刻み込む足跡gainを上げて進め!』

テンカワ・アキトーかつてのコロニーを落とし、火星の後継者と戦っていたころの、 あの「復讐者」としての一面を見せるのだった。 

紙のようにバッタたちが切り裂かれていく。 

その映像がブリッジに流れる。 

「そんな・・・!?」 

アキコは自分のかつての姿に戦慄した。 

自分が振るっていた暴力。 

相手を一方的にひれ伏せさせるだけの「力」。 

自分がやっていた事の恐ろしさを初めて知った。 

しかしー今、アキトがやっている事はー。 

エステバリスでの異常なまでの加速。 

謎の刃による切断。 

その戦闘力はブラックサレナにも引けを取らないだろう。 

「イネスさん!」 

「はいは〜い」 

「何ですかあれは!」 

説明を求められ、嬉々として説明を開始するイネス。 

「あのエステバリスの異常な加速・・・リミッターをはずしてるわ。 

それに、あの剣・・・DFSと呼んでいるわ。 

あの剣はディストーションフィールドを収束して生成した剣なの」 

「・・・!まさか!」 

アキコは顔色が悪くなる。 

「そう。エステバリスを覆うディストーションフィールドは無くなる」 

その説明は空恐ろしいものだった。 

エステがディストーションフィールドをまとうのは、小型機動兵器としては 

法外な火力を得るために機体の装甲をなくすのが目的である。 

もう一つの装甲はナデシコによって放出される重力波を受け取っていることによって成り立っている。 

そのーたった一つの鎧をはずし。 

なぜ戦場におもむいたのか。 

それが理解できなかった。 

「本来の運用法は20〜80%のフィールドをDFSに回して 

他を防御フィールドに使うんだけど・・・ 

彼は100%をまわしているわ。 

ミサイル一発でも受けたら確実に空中分解。 

それにリミッターも外してるから制御を誤れば粉々。 

・・・でも彼は表情一つ変えてない。いえ、汗一つかいていないわ」 

アキコは自分が恨めしくなった。 

今、アキトを失うことはこのナデシコの戦意を喪失させることに他ならない。 

自分がアキトを止めるべきなのにそれが出来なかった自分を責めた。 

「ウリバタケさん!レッドサレナを使います!」 

「あ?あの赤いやつの事か?」 

「はい!」 

アキコはレッドサレナを使用してでもアキトを止める気でいた。 

(俺があいつを止めなければ・・・) 

『お姉ちゃん!』 

コミュニケの通信がアイから入る。 

「止めないでくれ、アイちゃん!」 

『・・・もう終わったよ』 

「え!?」 

『機動兵器は全滅したわ』 

驚くべき速さだ。 

アキコが格納庫に来るまでの5分という短い時間でアキトは敵を殲滅していた。 

そして・・・アキトが戻ってきた。 

「・・・・・・」 

「おい、アキト!」 

アキコが口を開こうとしたが、ウリバタケが先に声を発する。 

そして、アキトを殴りつけた。 

 

ばきっ! 

 

「お前何のために出撃したんだ!? 

死ぬためか!死にたいんなら余所で死ね!俺達は自殺志願者のために整備してんじゃねえぞ! 

あくまで生きて帰ってきて欲しいからだ!」 

「・・・すいません」 

「謝る位ならはなっからやるな!・・・お前に何があったかは知らん。 

だけどな・・・お前の帰りを待つ奴が多過ぎるんだよ・・・分かるだろうが」 

アキトはそうかも知れないと思った。 

アキコのあの時の一言を思い出した。 

「はい・・・分かりました」 

「分かったらお前の帰りを待ってる奴に謝りに行けよ・・・ 

こちとらお前のエステの整備でヤローの言い訳なんざ聞く暇ねえんだよ」 

(ウリバタケさん・・・照れてんのか?) 

ウリバタケの優しさに思わず手を握り締めるアキト。 

「アキト」 

アキコも話し始める。 

「俺が言いたかったこともしたかった事もほとんどウリバタケさんにとられたよ・・・ 

・・・そんでも一言だけ言わせて欲しい。アキト、お前はそんなに無理をしなくてもいい。 

俺はこんな中途半端な位置にしかいないけど・・・ 

もっと頼ってやれよ。ナデシコクルーに」 

「・・・ナデシコクルー、か・・・」 

『・・・アキトさん』 

「ルリちゃん」 

コミュニケが開きールリからの通信が入る。 

「・・・艦長からお話があるそうです」 

「・・・ああ」 

ブリッジに向かうアキト。 

 

 

ブリッジでユリカの口から放たれたのはー。 

「・・・テンカワ・アキト、あなたに三日間の自室謹慎を命じます」 

「・・・」 

「・・・テンカワさん、今回は一人で敵を殲滅してくれた事に免じての処置ですよ。 

本来であれば一ヶ月の謹慎と無効一ヵ年の減棒に値するんです。 

それを重々承知してください」 

プロスがフォローを入れた。が、アキトはまだ表情が優れない。 

「・・・はい」 

言葉少なげに答える。 

そしてその場を逃げるように立ち去った。 

そうでなければ自分を抑えられないような気がしたからだ。 

「・・・艦長!」 

メグミはユリカに向かって言葉を発しようとする。 

「・・・分かってるよ、メグミちゃん」 

「なら・・・」 

「でも分かって。私がアキトだけをひいきするわけには行かないの。・・・少し休んでもらうと思って、ね?」 

「・・・はい」 

ユリカも寂しそうな顔をしているのを見て、メグミは食い下がった。 

「艦長も大変ね・・・思い人を裁かなきゃいけないんだから」 

「・・・仕事ですから」 

仕事ー仕事でも辛い事には変わりは無いはずだが。 

ミナトの一言に、ため息をつくしかないユリカだった。 

 

 

アキトは自室でポツリと呟く。 

「・・・ユリカももうああいう判断がつくんだな」 

ユリカの態度にアキトは寂しい物を感じつつも納得していた。 

(・・・俺は・・・だめだな。今になって皆に心配をかけるなんてな) 

彼が感じていた「自分が甘えてる」という思い込みは果たしてその通りなのだろうか? 

違う。 

それはアキトが自分にすべてを背負わせているだけだ。 

アキトは・・・変われるのだろうか? 

そして彼はひと時の休息にー眠りに就いた。 

 

 

作者より一言。 

え〜今回はラピスの暴走とアキトの暴走でしたね。 

アニメの選択については既に何も言うことはありません。 

・・・感情を描く事を目標にしてますけど、これでいいですかね? 

ブリッジの描写が少ないとのご指摘を受けていますけど、あまり変わって無いかもしれませんね。 

・・・つ〜かノバさんのご指摘通りつなぎをうまくして見たのですが、 

容量が大きくなりすぎましたよコンチクショウ(笑)。 

では、次回へ。 




改定後の一言。

えー、挿入歌を設定しても俺だけ分かっては意味が無いので歌詞を載せました。

第3章からの設定です。

それと、

>それにしても、ジュン・ゴートには台詞すら無かったですな(苦笑)

・・・あの、一応ゴートは言わせましたよ?

ジュンは改定後に追加しました。

後は細々した効果音などの統一です。

04年2月22日武説草良雄。



 

管理人の感想

武説草良雄さんからの投稿です。

色々と注意をされながら書かれているみたいですね。

話の展開がかなり早いので、いまいちアキコとかアイちゃんの境遇について共感が得難いかも。

それにしても、ジュン・ゴートには台詞すら無かったですな(苦笑)

エリナも最初の挨拶だけで・・・キノコにすらスポットは当たっていたのに(爆)