私、ナデシコオペレーターのルリです。

アキトさんはアキコさんに説得を受けて少なくとも姿をくらませる心配はなくなりました。

でも前途多難のようです。

現に・・・目の前にナナフシがあるのですから。


第8話「帰るべき場所、問われる自分の価値」



 
「ついた!」

ついに二人はナナフシに到着した。

とはいっても一時間もたっていないのだが。

「よし、決めて来い!」

「おう!」

アキトはナナフシに向かって飛び立った。

この時、アキトはトレーニング中に編み出した技を試してみた。

「吼えろ!我が内なる竜!





・・・天竜閃!」



アキトのDFSが10メートルほどに縮む。変色し、赤に変わり、最後に黒に変わった。

「マイクロブラックホール!?」

その映像を見てイネスは叫ぶ。

そして・・・その黒い剣は弾け飛び、

一匹の竜に姿を変えた。

その竜はナナフシを跡形も無く消し飛ばした。



どごごごごごごごんん!



竜はアキトの中の野獣を象徴するかのように暴れまわり、

空に消えていった。

「撃破完了!帰還します!」

アキトが勝利宣言をした。

だがー。

「あぶない!」

「!?」

アキコが叫ぶのに反応してアキトが振り返ると、そこにはー。

「グラビティーブラスト!?」

何故かグラビティーブラストが迫っていた。

「ちぃ!」


ばちん!


アキコがレッドサレナでそれを弾き飛ばした。

もしこれがノーマルエステであるアキトの機体に当たっていたら・・・ひとたまりも無いだろう。

「何だ・・・何が起こった?」

そこには・・・ダイマジン、ジンシリーズの一機であるものが立ちはだかっていた。

「なんだと!?」

「生体反応は無いが・・・何故だ!」

二人は驚きを隠せない。

だが今すべき事は・・・。

「破壊する!」

「・・・!DFSが動かないだと!」

さっきの一撃でDFSは動かなかった。

「俺がやる!下がってろ!」

アキコはレッドサレナでダイマジンに向かっていった。

当然、ダイマジンは応戦しようとするが・・・。

フィールド強度、速さで劣っている上に、無人では勝負は見えていた。

「くらえ・・・」

ディストーション・アタックで沈める。


どごん!


「敵は殲滅した。帰還する」

(なんなんだ?以前とは勝手が違うという事か?)

微妙な差でしかないがーその差がどれだけ今後広がっていくかは想像がつかない。

二人はそんなことを考えながらナデシコへと帰還した。







こちらも決着がつこうとしていた。

「おらおらーーー!」

リョーコを筆頭に、暴れまわる。

誘導ミサイルを撃ちまくり、数を減らす事だけを優先していく。

「ヒカル、そっち行ったぞ!」

「はいは〜い!」



どどん!



戦車隊はナナフシが撃墜されてから数を増していない。

工場はナナフシにハッキングを受けていたようでもう動いていないようだ。

「ゲキガン・フレアー!!」

ガイのゲキガンフレアー(ディストーションアタック)が繰り出され、戦車隊は全滅した。

「ふぅ〜。やっと片付いたな」

「あの二人はうまくやってるかな?」

ヒカルは何か含むところがあるように微笑んだ。

「・・・ど〜いうことだよヒカル」

「何かな〜?」

「何かな〜?カニカマ〜?」

「やれやれ・・・やっと終わったかい。僕は先に帰還するよ」

いまだに騒いでいるパイロット三人娘を尻目にアカツキはナデシコに戻っていった。






「「テンカワ・アキト(テンリョウ・アキコ)ただいま帰還しました」」 

ブリッジのクルー達は沈んだ雰囲気であった。

「み、皆どうかしたの?」

アキトは心配そうに話しかける。

「アキト・・・」

ユリカが口を開いた。

「私達の前からいなくなったりしないよね?」

「「!?」」

二人は思いっきり驚いた。

「あ、ああ」

「約束だよ!」

アキトが集中砲火を受けている間にアキコはルリに聞く。

耳打ちをして。

「ね・・・ねえルリちゃん?

もしかしてなんかした?」

「・・・すいません。

二人の会話を盗聴してました」

「あっちゃ〜」

アキコは頭を抱えた。

まあ、直接自分に被害が出ることは言っていないのでいいのだが、

アキトのマークがきつくなる。

・・・それはそれで逃げ場が減って良いのかもしれないが。






アキトは心身ともに疲労しきっていた。

久々の長時間戦闘。

ユリカ達による質問攻め。

今回は何とか逃げ切ったが・・・

前回のような逃亡はまず不可能になっただろう。

ルリに聞いたもののミナトが全放送のボタンを押したと言われ、

責任は誰にもなかった。 

アキトは食堂に向かう。

・・・疲労感をごまかしたいがためだった。

貧乏性なのかアキトに自室で眠るという選択肢はなかった。
 
シチューを作りながら鼻歌を歌っていたアキトにホウメイガールズのジュンコが話し掛けた。

「あの・・・アキトさん?」

「ん?何?」

アキトはシチューを作ることに集中しているものの、

無視をしたりはしない。

シチューは意外とかき混ぜつづけないと焦げるそうだ。

「アキコちゃんとならうまくいきそうなんですか?」


どぽっ。


アキトは豪快にシチューに手を突っ込んだ。 

「な・・・なんでそういう話になるかな」

「え・・だって・・・仲いいじゃないですか」

ジュンコは悲しそうに呟く。

もちろん、仲がよさそうに見えるとかだけでなく、

クルー内で誇張された噂が蔓延していることもある。

「言っとくけどあいつはただの友達!

そりゃ趣味が合うとか、仕事が同じとかはあるけど・・・

俺は別に特別な感情は持ってないの!」

「あ・・・そうなんですか・・・!」

ジュンコはアキトの方を見て顔色を変える。

「ん?どうかした?」

「アキトさん!手!手!」

「え・・・・あっづぅぅぅ!!」

アキトは・・・大火傷を負った。

さっきからずっとつけたままだった。

・・・さすが超ニブチン。



「アキトくんらしくない。何かあったの?」

「は・・・はは。色々と」

アキトは苦笑いをする。
 
・・・流石にさっきの話を話すことは出来なかった。

「アキトくん・・・後の参考にしたいから聞きたいんだけど・・・」

「はい?何か?」

「DFSのあの技って叫ばなきゃ出せないの?」

「いやぁ・・・真顔でそんなこと聞かれても・・・(汗)」

アキトはやはりに恥ずかしかった。

あの台詞はラピスが見ていた「るろうに剣(ピー)」の技を参考にして

名前を考えたのだ。

彼女はリンクが繋がっているおかげで常に監視できる。

そういうわけで叫ばないと怒られる。

「まあ・・・イメージの増幅と勢いですね」
 
「ふ〜ん。でもディストーションフィールドを圧縮してマイクロブラックホールに変換、

その後開放するなんて荒業、よく思いついたわね」

「はい、DFSは圧縮率を上げればあげるほど攻撃力が増しますよね?

だからその攻撃力を直接ぶつけてやればいいって思いついたんですよ」

「まあいいわ、疲れているんでしょ?そうじゃなきゃこんなミスしなさそうだし。少し休んでいきなさい」

「ええ・・・そうさせてもらいます」

アキトはー深い眠りにつく。


その二時間後。

「・・・ん?イネスさん何してんですか。

なんか後ろにはアイちゃんまで居ますし」

「あ、アキトくん起きたの?」

「・・・ひとつ説明してほしいんですが」

「「はい!説明しましょう!」」

熟睡していたはずのアイまで起きて声をはもらせる。

「二人でアキトくんの寝顔を見てたの」

「でもお兄ちゃんの寝てる姿があんまり気持ちよさそうで・・・」

「手を握ってたら・・・」

「お兄ちゃんがイネスさんの手を引っ張って・・・」

アイはいたずらっ子の目でアキトの方を見ていた。

「って・・・何妙な話しつくってんすか」

「証拠ならあるわよ」

「言っときますけどアイちゃんはイネスさんといっしょに入ってきたから無効ですよ」

「ほら、ここ」

「よっ」

カーテンを引くと・・・そこには主がいた。

「ガイ・・まだ寝てたのか」

「まあ・・・色々と訳ありだ。

半分実験材料にされてるし、半分は本当に入院してるか・・・」

「へ?お前回復力が高いと」

アキトが言いかけるもののガイは睡眠に入っていた。

「あら?薬が足りなかったかしら」

「イネスさん、ガイはどこか悪いんですか?」

最初から頭は悪いが。

「怪我自体は回復してるんだけど・・・

傷の回復について来てないのよ。

体の機能が。

体は直そうとして休もうとする。

けど傷は治ってるから体を動かすのはあまり出来ないの。

ナナフシのときも・・・無理して出撃したせいか

体の機能が少しずれてきてるのよ」

「はぁ・・・そうですか」

「アキトくんはどうする?もう少し休む?」

「いいえ・・・もう行きます」

アキトはベットから降りて自室で休むことにした。

・・・体をいじられかねないので。

「アキト君無理してるわね」

「そうですね。お兄ちゃんはいつも全部一人で背負っちゃおうとする癖があるから・・・」

「自分がいる事自体が罪、なんて思わないで欲しいわ・・・」

イネスはアキトが思っている以上に心配していた。

・・・小さいもう一人の自分とともに。

廊下に出たアキトを待っていたのはウリバタケだった。

「おう、アキト」

「ウリバタケさん、どうかしたんですか?」

「いや、お前に言いたいことがあったもんだから

探し回ってたんだよ。・・・色々と苦労してんな」

どこから話を聞いたのか・・・いや、いろいろな場所でトラブルを起こすアキトの姿はみんな見ている。

ついでに某組織に入ってるし・・・(笑)。

ウリバタケの額には一筋の血管が浮いている。

やっぱり憎い相手ではある様だ。

「・・・その件に関してはノーコメントですけど、何か用ですか?」

「DFSの事でよ。

お前にばっかり無理をさせるのは忍びないってんで

他のエステでも扱えるようにプログラムを組む予定でいる。

時間があったら手伝ってくれ。

おっと、言っておくけどこれはクルー全員の意見だ。

お前が全部背負うなんて無理だって覚えとけ。

うぬぼれんな!」

「はい、分かりました。時間があったら行きます」

「たのむぜ」

ウリバタケは少してれながら帰っていく。

アキトはそのウリバタケの姿を見てなんとなく安心できた。

ここがー自分のいた世界のナデシコでなくとも

ナデシコであることには変わりがないのだと思えた瞬間であった。



その時アキコは・・・。

アキトが焦がしたシチューの代わりを作っていた。

・・・何故かアキトの埋め合わせに使われるアキコを不憫に思わずにはいられないが、

かえってホウメイガールズには羨ましいと思われている。

だが、アキコも料理をしている時は落ち着くらしく、

代理を頼まれても文句は言わない。

・・・それが誤解を生むのだが。

そこに、あの三人が入ってきた。

「アキコちゃん!料理教えて!」

ユリカ達だ。

あの日からー暇さえあれば料理を教えてもらうようになった。

その甲斐あってか何とか食べられるレベルまで持ってきた。

ちなみに、ジャンルは違う。

ユリカが中華、メグミが洋食、リョーコが和食。

深い意味はないが同じジャンルを毎回アキトに食べさせると飽きてしまう恐れがあるからだ。

「え〜と、今日はユリカさんがチャーハン、メグミさんがビーフシチュー、

リョーコさんは天ぷらをやりましょう」

今日のメニューは以上のようだ。

スタンダードな料理を(出来るだけ簡単なものを)選択している。

「ユリカさん、チャーハンはパラっとしたほうがいいんです。

絶え間なく混ぜて、欲を言えば上に上げるようにいためてください」

「は〜い」

ユリカは言われたとおりに実践する。

ユリカの不器用さといえばー料理をした事のない不精な男以上だった。

それに拍車をかけるようにユリカには妄想癖ともいえるほどの雑念が入ってしまう。

アキトに喜んでもらいたいという一心で料理をしたが・・・

前回は自分で食べてみてその毒性に(殺人的な毒性が検出された)

気付き(自分で味見もしないで誰かに食べてもらおうとする神経は謎だったが)、

こうしてアキコに指導をあおっている。

「メグミさんは火加減と中身が焦げないように気をつけてください」

メグミも料理をした事はあまりなかった。

声優という仕事上ー時間がないことが多いのだ。

そのため、外食か弁当屋の弁当で済ますことが増えていった。

「リョーコさん、天ぷらは揚げる時間が性格でなければ美味しくなりません。

時間はきっかり計ってください」

「お、おう」

リョーコはー言うまでもなく細かいことが苦手な性格をしている。

パイロット向けだが、パイロットに必要な器用さは持っている。

意外なことにこの中では上達が早いほうだった。

「できた〜!」

三人の料理が完成した。

アキコが試食してみる・・・。

「・・・」

「「「・・・(ゴクリ)」」」

三人は固唾を飲んで見守る。

そしてアキコはにっこりと笑い、

「合格!」

「「「やった〜(よっしゃ〜)!」」」

「三人とも良くがんばりました・・・感無量です」

「「「ありがとうございます!師匠!」」」

「師匠なんて・・・くすぐったいですよ。

ついでに言っておきますけど、アキトさんはコックやってるだけあって

舌が肥えてます。

だから、俺でもホウメイさんでもいつでも教わりに来てください」

三人は嬉々としてアキトの為の料理を作り始めた。

・・・アキトの逃げ場がこうしてまた減った(笑)。



「アキト〜!」

「・・・?こんな時間にどうした?」

「お夜食作ったの!食べて!」

ユリカのその手にはチャーハンがあった。

(!)

アキトは一瞬、身を引く。

過去に、夜食を持ってきた時の記憶がフラッシュバックする。

だが・・・。

(なんだ・・・このマジで美味しそうなにおいは!)

アキトの目の前にあるのは昔の見た目も味もおかしいあの料理ではない。

ごく普通の・・・とても美味しそうなチャーハン。

「・・・」

アキトは何の気なしに部屋に招き入れてしまった。

そして・・・ユリカはアキトにチャーハンを託す。

「・・・(わくわく)」

「いただきます・・・」

ぱくっ・・・。

(美味い!)

アキトが口にそれを入れた瞬間ーユリカの努力が、ユリカの愛情が篭った味が広がった。

あの時の、ラーメン屋台をしたいたときのようなユリカの性格を象徴している味。

ゆっくりかみ締め・・・アキトは涙を流しそうになった。

それを押さえー呟いた。

「・・・うまい」

「よかった!まずいって言われたらどうしようかと思った!」

(ユリカって自分の料理べたを知ってたっけ?)

「・・・どうしたんだ?いつの間にこんなに料理が上手くなった?」

「へへへ〜アキコちゃんに教わったんだ〜」

アキトはやっぱり、という顔をした。

だがーあくまでこのチャーハンはユリカの味だ。

アキトは最初は気付かなかったが、ユリカの手は傷だらけだった。

彼女は三人の中でも最も不器用で、一番怪我をしたのだ。

縫うほどではないがー貧血になったこともあるほどだ。

そこまでアキコがやらせたのはーこれぐらいの覚悟をもっているという事をアキトに認めて欲しかったのだろう。

(こんなになってまで・・・)

アキトは自分がヤマサキに体を弄ばれ、傷ついた姿でルリと再会したときを思い出した。

大切な人が傷ついている姿を見ることがいかに辛いかをアキトは今、知った。

するとーアキトは涙を流した。

「・・・っ」

「アキト?」

「こんなになってまで・・・バカヤロウ・・・」

「アキト・・・」

アキトはユリカの手を優しく握り締めた・・・・。

「ありがとう・・・ユリカ」

「アキトが喜んでくれて私・・・嬉しいよ。

ユリカの事・・・いつもみてくれなかったんだもん」

「ごめん・・・俺、必死に戦ってたし・・・

俺がユリカにずっとくっついてればみんなにも影響が出る。

そう思って俺は・・・距離を置いてたんだ」

アキトは涙をぬぐいながら話す。

「じゃ・・・プライベートだけでも一緒にいていいよね?」

「・・・俺は多分この船のに乗っている間は答えられないと思う。

それがどんなにユリカと気持ちが繋がっていてもだ。

木星トカゲが襲い掛かって来る。

人がたくさん死ぬ。

そう考えているだけで笑えない。

ユリカや・・・他のクルーを大事に出来ないかもしれない。

もし・・・俺が間違ってでも人を殺したりなんかしてたら・・・

そう思うだけで・・・俺は・・・」

「アキト」

「・・・すまない、また後にしてくれないか」

「うん・・・おやすみ、アキト」

ユリカは、アキトの部屋から出ていった。

「・・・もう一人の自分がこういうことに気を使っているというのに・・・

ー滑稽だな」

アキトが滑稽だといったのは自分のことだった。

未練からユリカを捨てられないと思っていた自分を

立ち直らせようとするもう一人の自分。

アキコ。

自分の大切なものを失った彼女の言うことは本当なんだと思う。

でも、その言葉にも自分の気持ちにも正直になれない自分を見てー

滑稽だと嘲笑した。

いつかは心を開いて抱きしめたい。

ユリカを。

アキトが思ったのはこの感情だった。


補足。

メグミとリョーコも後から来たのだが、

料理だけ渡して去っていった。

ユリカの切ない表情を見てー

そう判断しようだ。

ちなみにー。

ルリとアイも料理を教わり始めていたりする。




作者からの一言。

「稀代の女たらし」ーアキト。

彼はユリカに思いをはせながらもその気持ちに正直になれず、

・・・あまつさえ、他の女を落としていくのだった(無意識下だが)。

って感じですね。

どーも。武説草です。

アキトはユリカにアタックしたいんですけど・・・

実際は上手くいかないどころか状況が悪くなります。

どうなりますかね、これ。

では次回へ。




改定後の一言。

・・・すいません、マイクロブラックホールについては分かってません。

・・・・・こっちもほとんど修正してません・・。

文体かえるだけで何時間かかってるんだ?俺。

04年2月22日武説草良雄。




管理人の感想

武説草良雄さんからの投稿です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、まあ、一言だけ言いたい事があるんですが。

マイクロブラックホールなんて危ない代物を、地表で炸裂させちゃ駄目です(汗)

環境汚染なんてレベルじゃ済みませんぜ?(大汗)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤマダ以上にアカツキ達ネルガル組が全然目だって無い(苦笑)