テンリョウ・アキコ。

彼女はテンカワ・アキトを幸ある未来へ導くために奮闘している。

その甲斐あって、アキトの心の傷をいやす作戦は次々に成功している。

すべては順調・・・だったのだが。

イレギュラーが現れた。




最終話「単身赴任」




ナナフシ撃破から一ヶ月。

ナデシコは木星トカゲにとって脅威として認識されたのか、

たびたび襲撃を受けている。

ユリカは乗り気で撃退命令を出している・・・・が。

最近は少し影が出てきた。

ま・・・とにかくここまでは問題は生じていなかった。

だが。



ぴっ。



「へっ?」

オモイカネの反抗期が来た。




どががががん!



「何だ〜!?」

「味方に攻撃しちゃってる!?」

「どうにかしてくれ〜!」

エステパイロットからの苦情が次々と入る。

もちろん・・・。

「バカヤロー!」

・・・といった連合軍側からの苦情も入っている。

「今、敵を撃破出来ているのは・・・アキトさん、アキコさん、ガイさんのみです」

ここで意外な活躍を見せたにのがガイだった。

ガイは接近戦のみで戦おうとする癖があった。

「今日の被害は・・・

味方の戦闘機500、

機動兵器200、

戦艦30です。

・・・すべては保険でまかないますが。

どういうことでしょうか?」

プロスは半ば呆れた顔でパイロットたちに問う。

「そんなこといったって・・・マーカーが味方をロックしちまうんだから仕方ねーじゃねーか」

「恐らく・・・これはプログラム関係かもしれません」

ルリが冷淡につぶやく。

「プログラム・・・というと?」

「マーカーがロックオンを外してしまうというのは

どう考えてもありえません。

人為的ミスとは考えにくいです。

ウリバタケさんたちは整備を失敗しないでしょう?」

「あたぼ〜よ!」

「それに仮に整備不良でもすべてのエステが異常をきたすことは考えずらいと思われます。

パイロットの皆さんも腕は一流ですし、味方の誤射はあまり考えられません」

「・・・なるほど」

プロスはうなりながら納得した。

「調査団が来てます」

「原因は・・・調査結果を追って知らせます」



「・・・はぁ〜」

「気にしないほうがいいよ、ルリちゃん」

「・・・気にしてなんかいません」

ルリは、オモイカネの事を少なからず心配にしている。

だが、自分で原因がオモイカネだということを説明していたことには

罪悪感を感じていた。

あらかじめ解説ぐらいは・・・と思ったのだが。

「ウリバタケさんがもうすぐ声をかけに来るころだし。ルリちゃんに暗い顔は似合わないよ」

「・・・アキコさんってたくましいですね」

「そうでもないよ、元が元なんだから」

「・・・そうですか」

ルリはため息をついた。

アキトはここにきてからというもの、暗い印象が強かった。

彼の心の闇ー。

アキコも同じ道をたどっているはずなのだが、

彼女は元気そうに振舞う。

ある意味ーアキトより辛い道に立たされているというのに。

「お?ルリ、ちょっと・・・」

「はい」





「シンナーくさいですね」

「大丈夫だ。じき、慣れる」

ウリバタケは自信満々に言う。

だがシンナー中毒には気をつけたほうが・・・。

ルリはAAコンビに耳打ちする。

「今回は何でアキコさんも呼ばれたんでしょうか?」

「現時点で互角だったから選べなかったんじゃないか?」

「・・・扱いはアキトさんのほうが大きいですけど」

「おい、ごちゃごちゃ言ってないで三人ともセットしな」

そして・・・三人は意識を飛ばした。

「俺はここに気付かれないように見張ってる!

ルリ、二人のサポートを頼んだぞ!」

「はい!」

デフォルメされたエステがヴァーチャル空間に浮かび出てきた。

「いきますよ・・・オモイカネ」

しかし・・・そこでルリがみたのは・・・醜い心を持った自分自身であった。




「君を幸せにするよ、ルリちゃん」

「ああ・・・アキトさん」

二人は口付けを交わす。

白いウェディングドレスを纏い、涙を流すルリ。

そして、屋台で働きながらナデシコのみんなと楽しそうに微笑む二人。

「やめて・・・オモイカネ」

うつむいて低い声を出すルリ。

映像は止まる事はなく、ルリの心を傷つけていった。

「・・・オモイカネ、何でこんなもの見せるの?」

ルリが見せられたのは自分の理想ーユリカがいない「あの時」だった。

「私・・・醜いですよね。

ユリカさんを・・・アキトさんの大切な人を消してまで

アキトさんと一緒になりたいなんて・・・」

ルリは・・・泣いていた。

「ルリちゃん・・・」

「醜くなんてないよ」

アキコは否定した。

「ルリちゃんはあくまでアキトと一緒に居たいだけなんだろう?

それがオモイカネの思い込みでこんなものを作られただけなんだ。

・・・それだったら、自分が逃げた事を棚に上げてアキトを

何とかしようとした俺のほうが・・・」

「・・・二人とも人の事を言うときはもっと離れろよ」

アキトはめちゃくちゃ不機嫌そうな顔で二人を睨んだ。

「あ・・・すいません」

「ほら、さっさと終わらせよう」

アキト達はオモイカネの中枢とも言える大樹にたどり着いた。

「さて、鬼が出るか蛇がでるか・・・」

「それともゲキガンガーか?」

するアキトの問いに反応するように映像は止まり、ゲキガンガーが出てきた。

「あれ?アキトさんは今回はゲキガンガー見てませんよね?」

「あ・・・そういえば」

明らかな矛盾が生じた

しかし、ここで出てきた人物に三人は納得した。

「レッツゴー!ゲキッガンガー!」

「「「・・・」」」

そこにでて来たのは・・・ガイ。

「おい、ガイ。お前いつからオモイカネの手先になった?」

「何を失礼な!俺とオモイカネは医務室でゲキガンガーを見た仲なんだぞ!」

「・・・なら文句は言えないよな。

とっとと撃破させてもらおう」

「お〜っと!待った。オモイカネの計算では俺とお前ら二人の戦力差は

1:750!つまり、ここにゲキガンガー3が1000体居れば

お前らは勝つことが出来ない!」

「・・・お前、ゲキガンガーを何だと思ってる?

普通、不利でもヒーローはせいぜい頭数でかかってくるぞ?」

「やかましい!俺の正義はゲキガンガーが基本だ!

ゲキガンガーの精神に反してでもゲキガンガーを負けさせるわけには行かないんだよ!」

ガイのゲキガンガー軍団が三人に襲い掛かる!

アキトたちはエステをリアルタイプに変形させ、ルリはナデシコの姿になる。

・・・が。

ビーム兵器はディストーションフィールドにはじかれる。

物理攻撃は1000体ものゲキガンガーの集中攻撃のため絡まって当たらない。

話になるはずもなく、AAコンビのエステの前に完全に沈黙した。

「ガイ、お前こんなにゲキガンガー使っても勝てないのか?」

「・・・言うな」

「不毛だ、やめろ。アキト」

『こうも簡単にやられるとは思わなかったよ』

「オモイカネ、お前はやっちゃいけないことを・・・二度も犯した。

その償いを・・・させてやる」

アキトはなんだかんだ言ってもゲキガンガーのことは大切な思い出だ。

それを汚されたアキトはルリのこともあってぶち切れとは行かないが、

かなり怒っていた。

『・・・僕はアキトさんのことを甘く見ていたよ。

ルリが何でアキトさんのことを好きになったのか分かった気がする。

ここからは本当の切り札・・・

ジョーカーを引かせてもらうよ』

オモイカネが召喚したのは・・・AAコンビのエステであった。

『トランプに入っている二枚のジョーカー。

ポーカーにおいてはジョーカーが二枚あるというのは

圧倒的な有利を意味する。

・・・アキトさん、アキコさん。ここで終わりにするよ』

この台詞を聞いてAAコンビは低く笑った。

「く・・・ははは・・・なあ、アキト。オモイカネの奴

俺たちが今まで本気で闘ってきたと思ってやがる」

「俺たちはまだ負けられないんだ。

たとえヴァーチャルの世界でも。

ルリちゃんを傷つけた・・・

その代償は高くつくぞ。

オモイカネ。

それがいかに悪いことだったか教えてやる」

『僕はこのエステを二人のエステの戦闘データを使って、

二倍以上の力が出せるようにした。

僕が負ける要素なんて何処にもないんだよ』

「その考えが間違ってたこともついでに見せてやる」

すると、AAコンビのエステが姿を変える。

それは・・・サレナだった。

アキトが昔操っていたブラックサレナ。

今、アキコの持っているレッドサレナ。

だが、ヴァーチャル空間ということも手伝って、

DFSとバーストモードまで使用できる。

「「これが俺たちのジョーカーだ!」」





ばっしゅぅっ!!。




勝負は一瞬でついた。

二人が本気を出すまでもなく、

バーストモードのサレナのDFSはエステの比ではない。

受けることすら出来ず、一瞬にして鉄屑と化した。

『・・・負けたよ。

アキトさんたちがどうして怒ったのかはー

なんとなく分かった。

それにーこんなに本気でかかってくるなんて思いもしなかった。

・・・その機体、なんていうの?』

「サレナ・・・俺のはブラックサレナ。黒百合。花言葉は呪いと恋だ」

「俺のサレナはレッドサレナ」

『ありがとう。僕は敗北した。

僕の記憶中枢は預けるよ』

「ごめんなさい・・・オモイカネ・・・

少しだけ忘れて。

あの連合軍が敵だったことだけを。

私たちは・・・味方だから」

『・・・うん。ごめん』

オモイカネは枝を切り落とされ・・・いや、自然と成長した。




「テンカワ・アキト。

我々に同行してもらおうか」

部屋から出てブリッジに向かおうとしたアキト達を出迎えたのは軍の兵士達だった。

「嫌だといったら?」

余裕を見せながらアキトは聞いてみた。

「何の事はない。ナデシコを軍に取り入れるだけの事だ」

「・・・選択の余地はないようだな」

軍に徴収されるーつまり、木連の人を救う事も出来ないただの人殺しに成り下がってしまうかもしれないという事だ。

「・・・アキトさん!」

叫ぶルリ。だが、アキトは悲しそうな笑顔でそれを止めた。

「大丈夫だよ、ルリちゃん。心配しないで。

いつになるか分からないけど絶対に帰ってくるから。

アキコ、ルリちゃんを頼む」

「ああ、分かってる」

複雑そうな顔をしてアキトを見送るアキコ。

「よし、ついて来い」

アキトは連行された。

「アキト・・・さん」

「ルリちゃん。あいつは戻ってくる。そうだろう?」

「戻ってきます・・・でも、大人ってずるいです」

「ああ・・・ずるいよな。

あいつが居ない間は俺がナデシコを護る。

無論、ルリちゃんも。

・・・・帰る場所を護るんだよ」

「・・・アキコさん、無理はしないで下さいよ」

「・・・・・保証は出来ないよ」












「嘘・・・!」

ブリッジで、ユリカは驚きの表情を見せた。

「本当よ。

テンカワ・アキトは軍に出向になったわ」

ムネタケは皮肉たっぷりに呟いた。

「てめえ・・・ムネタケ!」

拳を作り、キノコに殴りかかろうとするリョーコ。

「やめてください、リョーコさん!」

「くっ・・・離せ、離せアキコ!」

後ろからアキコが羽交い絞めで止めた。

「ここで提督を殴ったりしたらアキトは戻ってこれなくなります!最悪、ナデシコまで軍に徴収されてしまいます!

・・・そんな事をしても何にもなりません!

アキトも喜んだりしません!」

「うっ・・・ち・・

    ちくしょおおおお!」




リョーコはアキコに止められ、涙を流した。

「提督」

「あら、何かしら?」

アキコはキノコのほうを睨み、言い放つ。

「『人の恋路を邪魔するやつは地獄へ落ちろ』って言葉、知ってます?」

「ああ、聞いた事はあるわね。

でもそれがどうかして?

私は単純にあの男が憎かっただけよ。

実力も、人柄も、名声も全て手に入れているあの男だけは!」

「・・・そこまで腐りましたか」

「ええ、人間としては腐っているかもしれないわね。

けどそれが軍で生き残る方法なのよ。

そうしてかなきゃ落とされる一方なのよ」

「あなたは・・・あなたという人は!」

お互いに引かぬ勢いで対峙する。

アキコはこの男の事を憎んだ。

北辰や山崎ほどではないものの、それ以外ではもっとも憎んだかもしれない。













アキトは少し歩いてから立ち止まった。

「ああ、そうだ。別れを言うくらいの時間の猶予はないのか?」

「ないな。私達は「テンカワ・アキトをトラブルなく連れ出す」ように言われている。

ここで時間を食えば誰かが引き止めにきてもおかしくない」

「じゃあここを出てからでいい。

手紙を届けてほしいんだ」

「遺書か?」

冗談めいた醜い笑顔を見せる軍の狗。

「そう思いたいならそう思え」

アキトは復讐鬼の視線で兵士を見つめた。

見つめられた兵士は少し引く。

「ふ・・・行かないのか?」

「ぬっ・・・こい!」

虚勢を張ってアキトを引っ張ろうとする兵士。

「ああ、どこへでも行く。・・・地獄の底でもな!」

あの、恐ろしい笑顔で不敵に笑った。

『今歩き始めた新たな扉開けるように』

(・・・俺は、ナデシコから離れなければいけない)

『失われた大地へその足跡を刻み込め』

(ナデシコを護るために、離れる)

『今なら分かるはず本当の強さを』

(・・・アキコ、ナデシコの皆を頼む。俺が居ない間に全滅なんて事態にはして欲しくない)

『夢を見失った時代や人々の群れ』

(・・・腐った軍にいくのなんかは真っ平御免だが)

『絶え間なく吹き付ける現実(リアル)の風を受け止めて』

(・・・これが今すべき事なんだ)

『この世にある形あるものはいつかすべて消えていく』

(そして・・・俺が今すべき事は)

『道無き道歩き出すその後姿忘れない』

(生きてナデシコに帰ってくることだ)

『旅立ちの鐘が高鳴る』

(ああ、そうだとも。俺の居場所はナデシコだ。ナデシコの皆の事しか考えられない、大局なんか見る事の出来ない男だ。

・・・だから、俺にはナデシコしかない・・・だから、絶対に戻る!)










オモイカネを納得させた後にアキトを待っていたのはー

軍の徴兵だった。

キノコが自分の責任を押し付ける形で軍に出向させたのだった。

アキトの戦闘力がナデシコ一隻を上回っていることは明白だが、

この処分はキノコが一言も口を滑らなかったらなかっただろう。

アキトの責任ではないのに。

クルーは自分たちの不甲斐なさにうちひしがれたが、

後日、届けられたアキトの手紙によって通常の業務に戻った。

キノコはー提督と呼ばれることがなくなった。

文字通りの無視。

呼ばれても名前を呼ばれることは二度となかった。





アキトの手紙にはこう書いてあった。







「俺はー必ず帰ってくる。

長い単身赴任になるかもしれない。

けど、どうあがいたって戻ってくる。

ここが『ナデシコ』である限り」

この手紙にーアキトに思いを寄せていた女性たちは涙を流した。

彼の強い意志に。短い手紙につづられた強い意志に。

アキトはー帰ってくる。











「時の流れに・reload」〜第1章・時空を超えても世界が違っても俺はあんな悲劇を二度と見たくない!!〜

完・・・そして続。




文・武説草良夫

絵・武説草良夫

感想・BEN様

  ・ノバ様


CAST

アキコ役・日高奈留美

アイ役・田村ゆかり



主題歌

「BE YOND THE TIME〜メビウスの宇宙を越えて〜(機動戦士ガンダム逆襲のシャアより)」

挿入歌

第5話・アキト暴走戦闘中「Magma(スクライドより)」

第7話・アキコトレーニング室睡眠時「All I need is love(スクライドより)」


エンディング

「旅立ちの鐘が鳴る(スクライドより)」


作者から一言。

ふ〜、終わった!


ばきっ。


ごふっ。誰だー!

「終わってないでしょう!」

あー第1章マスコットキャラ・アイちゃんか。

「何よそれ!第1章マスコットって!」

ああ、各章に作者から一言に出てくれるゲストキャラを設定してるんだ。

「へー・・・で?あまり出番がなかったけど私は第1章のマスコットだったわけね?」

そゆこと。

「と、言う事は次章のマスコットキャラは?」

次号掲載。

「これからの展開は?」

秘密。

「さっき掲載されていたのは?」

アニメにしたいという妄想の元設定付けられた挿入歌と声優。

「この話はこの辺で終わり?」

終わり。





今度こそちゃんとした作者から一言。


え〜ども、武説草っす。

アキトの単身赴任(笑)が始まります。

別れの言葉も言えずに旅立ったアキト。

彼を待つのは地獄か。もしくはー。

・・・泥沼か(笑)。

挿入歌が分からない場合はスクライドのサントラ買ってください(待て)。

最近スクライドに凝っているせいかスクライドよりになってしまいました。

では・・・次章へ。




改定後の一言。

ここも挿入歌ぐらいしか変更点が見当たりません。

・・・効果音の変更とかも無かったんで、文章を少しいじっただけです。

04年2月22日武説草良雄。



 

管理人の感想

武説草良雄さんからの投稿です。

ここで一区切り、というわけですね。

まあ、外伝に入る前ですからねタイミング的には悪くないでしょう。

アキコが残る以上、ナデシコクルーの成長がどうなるかが微妙ですがw

 

PS

武説草良雄さん、CGは届いてないんですけど?(汗)