「・・・本当にいいのね?」

「ええ、お願いします」

アキコはナデシコが停泊した際、レッドサレナを預けた。

ーエリナは知らないが、レッドサレナは月基地に送られ、新サレナタイプの開発にまわされる。

彼女の思惑は、サレナを一刻も早く完成させる事である。

ーだが、彼女の思惑は仇となった。

それは第3章に続く事であろう。

今は、アキトからの手紙が届いた後、ナデシコのクルーが意気消沈をしている最中である。

そして、アキコは思う。

(・・・俺みたいな道にアキトを引き込んじゃいけないんだ)

『このままもう少し歩こう肩を抱き』

(俺はアイちゃんと一緒にいる。だがアキトは全てが終わったらルリちゃんすら突き放すかもしれない)

『枯れ行く夢を数え枯れてく仲間を見た』

(それだけは避けないと・・・まずはナデシコを護る)

『通い慣れた道に迷う今日この頃』

(言われなくてもやる事だけどな)

『闇がもう一人の自分を作る』

(・・・もうあんな未来も、現在の俺も作りたくないんだ)

『渇いた叫びが挫けそうな胸を突き刺す』

(・・・ユリカ、俺を笑ってくれ。この惨めで格好悪い俺を)

『君を誘って世界を見たいな』

(今になってお前を欲しがっている俺を)

『誰にも出せない答えが僕の中にある』

(・・・遅いんだよな、全部が終わって帰れなくなってから結果が出ても)

『駆け引きが鍵 届け fly higher at game』

(・・・・・俺が・・・出来るのは・・・これ位しかない)

物語は続く。









合言葉は





 「r」




 「e」 




 「l」




 「o」




 「a」




 「d」






「reload」=リロード








r=return


e=end


l=long


o=over


a=akito


d=drive








終わりの場所から戻る。長い時を越えた場所から。











ジャンプで過去に戻ったアキトはアキコとなった。










彼女は、自分の恋人の面影を求め、涙を流しながらナデシコを護る。











・・・アキトを光のある道へ戻すために。









・・・今、アキコは何を求める?







終わり?


忘却?


過去?


家族?


幸福?


居場所?










・・・・・ユリカ?













nadesiko.





なでしこ。





撫子。




ナデシコ。





機動戦艦ナデシコ


「時の流れに・reload」





〜第2章SIDEーB・「俺がナデシコを護る」鮮血の鬼女とその奮闘記〜






第1話「自分を迎えに来てくれる人を知らずに過ごすアキコとナデシコの陽気な面々。「俺の話を聞け〜〜〜〜〜!」の巻」
















がーん・・・がーん・・・。



銃声が響く。

そこで、巨漢が一人の女性にボディを殴りつけられた。



どむっ。



「ぐむっ・・・」

ゴート・・・巨漢が倒された。

「まだまだですね・・・」

アキコ・・・痩せ型の、16程度の女性が呟く。

「さて・・・止めを刺しますよ」

「・・・おい、テンリョウ」

「何か?」

あたかも当然そうに止めを刺そうとしているアキコをゴートは制止した。

「これは訓練ではないのか?」

「訓練ですよ」

「なら・・・何故ここまでするんだ!?」

ぼろぼろのゴートはゆらりと立ち上がって叫んだ。

「ゴートさん・・・」

「確かに時には本気で戦わなければ勘が鈍るのは分かる!

だが・・・何故ここまで執拗に攻撃してくるんだ!?」

「・・・諦めてください。今、虫の居所が悪いんです」

「そんなことで・・・うあああぁぁ・・」

ここはーヴァーチャルルーム。

今、アキコ達が訓練しているのはヴァーチャル空間だ。

だが、痛覚もリアルに再現してくれるのがこの場合は逆効果だった。

「俺の話を聞いてくれ〜」

・・・ゴートが珍しく半泣きの表情を見せた日だった。








「はぁ〜少しストレス解消」

アキコはヴァーチャルルームから出てきた。



ゴートは、といえば、とどめに|金的蹴り



を食らって悶絶中だ(笑)。

廊下に出ると、ユリカがため息をついていた。

「ユリカさん?」

「う〜アキコちゃん・・・・わ〜ん」

「うわ!?」

ユリカに突然抱きつかれて驚くアキコ。

「アキトのためにがんばってお料理覚えたのに・・・アキトが居ないよ〜」

ユリカは泣いていた。

アキトの心の傷が癒え始めた所にーあの徴兵。

今回ばかりはユリカにもダメージが大きい。

もちろん、あの二人もー悲しんでいた。

だが、今アキコはそれどころではなかった。

(う〜〜!!)

ユリカに抱きつかれ、今にも押し倒してしまいそうな衝動に駆られていた(爆)。

いや、少なくとも強く抱きしめてしまいそうな気分にはなっていた。

しかし、彼女の中の何かがブレーキをかけた。

力を殺し、ユリカの肩をそっと抱き、アキコは囁くように話しかけた。

「大丈夫ですよ・・・アキトは絶対帰ってきます。ユリカさんの王子様でしょ?」

「うう・・・そうだね」

ユリカは涙をぬぐう。

「それなら、アキトが帰ってくるまでにもっと料理を覚えて驚かせてやりましょう!」

「・・・うん!ありがとう、アキコちゃん」

ユリカはいつもの笑顔を取り戻し、アキコに礼を言った。

「いいえ。ユリカさんのことを放って置けませんから」

アキコはーこれも本心で、なおかつ元恋人としてのよしみ(?)みたいな情でユリカをサポートしたいのだろう。

もっとも、これもアキト関連ではあるが。

その時、ユリカはアキコがアキトにダブッて見えた。

(あれ・・・?アキトと同じ?)

ユリカはアキト関連になると異常なまでの感性を見せる。

アキコの笑顔がアキトの笑顔に重なって見えたのはユリカの気のせいではない。

「じゃあ、早速で悪いけどお料理教えてくれる?」

「ええ、構いませんよ」

アキコはユリカの頼みを快く了承した。

(・・・?何でだろう?)

ユリカは疑問ではあったが、料理を教わることの方が重要なので、そちらに集中しようと思った。

「・・・艦長、どこへ?」

「お料理を教わりに行くの。アキトの為に頑張らなきゃ!」

「・・・アキトさん、戻ってこれるんですか?」

メグミはかなりネガティブになっていた。

「帰ってきますよ、きっと」

アキコスマイル発動!

が、メグミはその笑顔をアキトに重ねたりはしなかった。

「あいつはユリカさんやメグミさんのこと大切に思ってますから」

「・・・そうなの?」

「そうですよ、絶対」

「じゃあ、私も頑張ろう。私も教わっていい?」

「いいですよ」

そしてー。

「そこで火を止めてください」

「「はい!」」

三人は厨房に来た。

当然、料理を教えに、教わりに来たのである。

昼前の厨房ーそこにはまだ人はまばらだ。


ぷしゅ・・・。


ドアが開き、仕込みのためにホウメイガールズとホウメイが現れた。

「おや、テンリョウ。何をしているんだい?」

「あ、ホウメイさん。すいません、少し料理を教わってたんです」

ユリカが振りむくと、事情を説明した。

「ああ、そんなことがあったね」

ホウメイは度々アキコが厨房を借り、ユリカ達に料理を教えていたのを思い出した。

「仕込みをしたいからどいてくれるかい?」

「あ、すいません」

ユリカは厨房から出て行った。

「・・・」

ホウメイは何の気なしに二人が作っていった料理をつまんでみた。

「うまい・・・これなら食堂でも働けるね・・・手が足らなくなったら頼むか」

ホウメイを唸らせるほどに二人は上達していたようだ。あ、リョーコもか。

「さあ始めるよ」

「「「「「・・・・・はい」」」」」

クルーの食事を担う乙女達が動き始めようとしたがーやはり落ち込んでいた。

「ほらほら、気合が足りない!」

ホウメイが活を入れようとするもー彼女もあまり元気そうには見えない。

アキトの離脱は思った以上にクルー達にダメージを与えていた。

だがー。

「ホウメイさん、火星丼上がりましたよ!」

「ああ、持っていっておくれ」

アキコだけは調子が変わっていない。

ホウメイガールズはそれを薄情だと思わずにはいられなかった。

「先、あがりまーす」

昼食の時間が終わり、エプロンをはずしてトレーニング室に行こうとするアキコ。

「・・・アキコちゃん、アキコちゃんは寂しくないの?アキトさんが居なくなったのに」

ホウメイガールズの一人、サユリが話し掛けてきた。

その一言にアキコは振り向き、

「寂しくないわけじゃないです。けど、アキトは落ち込んでいても戻ってきません。

それにアキトが一番辛いはずです。みんなと会えないんですから。

アキトが望むのは俺達が落ち込む事じゃなくて、悲しまない事だと思うんです。

だから俺はいつも通りにしているだけです」

そう言ってアキコは食堂から出て行った。

「・・・強いのね、アキコちゃん。今一番アキトさんに近いのは、

アキトさんの心を捉えられるのはアキコちゃんなのね」

ホウメイガールズはその去っていく背中を見ているだけだった。











「・・・・・くそおっ!」

リョーコはトレーニング室に篭っていた。

もう3時間は経っていた。

朝食も昼食も食べず、目が覚めたらすぐにここに向かった。

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・ちくしょおおお!!!」

リョーコは後悔していた。

いや、嘆いていた。

自分がアキトよりも強ければ、アキトは連合軍なんかに連れて行かれないですんだ。出来れば代わりたかった。

アキトは自分だけの存在ではない。

ナデシコが必要とし、アキコと肩を並べるナデシコの守護神であり、ナデシコ全体の精神状態にもかかわる存在であった。

「なんで俺は弱いんだよおおぉぉ!」

だが、彼女は弱くは無い。

アキト達が強すぎるだけだ。

機動兵器を撃墜し続け、自らも無理な特攻をし、撃墜され、自分の弱さだけを実感する。

「なんで・・・なんでこんなに弱いんだよ・・・」

自分の弱さ、アキトの強さ、全てがー彼女にのしかかってきた。

アキトに淡い恋心を抱いていた。

それは認めていた。

慣れない料理も習い、自分を精一杯表した。

しかし、その結果はー恋はいまだ実らず、アキトは自分の手の届かない場所へ行ってしまった。

「俺は・・・強くなれないのかよぉ・・・」

涙を流すリョーコ。彼女も女だ、自分が至らないと思えば涙も流す。

と、一瞬の静寂を突き破り、電子音が鳴り響いた。


ちゃらっちゃちゃちゃ〜。


「・・・・・?」

その音に反応し、顔を上げるリョーコ。

そこには『挑戦者現る』の文字があった。

「上等だ、かかって来やがれ!」

自分の女々しさを振り払おうとリョーコは嬉々としてその挑戦を受け入れた。

だがそこに現れたのはー。

「アキコか?」

赤い、エステバリス。

自らのパーソナルカラーでもあるその色をしたエステはブースターなどが強化されている、専用エステだった。

「おもしれえ・・・今日は、今日こそは当ててやる!」

今までの戦績は10戦0勝10敗ー負け越しだ。

しかも一度も攻撃を当てた事は無かった。

今のアキコに勝てないようであればアキトに勝つ事など不可能だとリョーコは思っていた。

ー実際その通りだが、リョーコが思っているほどアキコは甘くは無かった。

「こいっ!」

戦場は空。だが、アキコは武装を一つも用意していなかった。

「なめてんのか・・・!?」

普段であればライフルの一つも持っているはずのアキコが今日は手ぶらであった。

その態度がリョーコは鼻持ちならなかった。

「なら一気に肩ぁ、つけてやるぜ!」

リョーコがアキコを翻弄しようとエステを舞わせた。

だがー。



がんっ。がんっ。ごすっ。


「う、うあああ!」

その動きを読んでいたがごとくアキコは回り込んできた。

そして、リョーコのエステを殴りつけ、アサルトピットを潰した。


『GAME OVER』


「ちくしょう・・・本当に勝てないのかよ・・・」

リョーコはシミュレーターから出てきた。

すると、アキコも出てきた。

「何でだよ、何で勝てないんだよ・・・」

「・・・」

アキコは黙っていた。

「何でお前はそんなに強いんだよ、アキトの代わりに連合軍に行っても良かっただろうな!」

リョーコはアキコのほうを睨み、皮肉を精一杯こめて話す。

「俺はお前になりたい。強くなりたい。強ければアキトにも認めてもらえる、

アキトの身代わりになれる、ナデシコも護れる、誰からも敬れる。俺は弱いんだよ、格好悪いんだよ!」


「甘えないでください!」


その叫びにリョーコは体を震わせる。

「俺も、アキトも生きるために、大切な物を失わないために強くなったんです!それこそ命を削って・・・。

確かに私があの場でアキトの代わりに連合軍に出るように言う事も出来ました。

けど、もしあの場でそう言ったとしても俺も連合軍に連れて行かれるだけです。

でもナデシコを護りたいから、あえて残ったんですよ!」

そう言われてリョーコは黙り込んだ。

「アキトが居なくなって寂しいのは誰も一緒です。

俺はリョーコさんより強いです。

でもナデシコを護る事は出来ても、アキトは止められなかったんです!

アキトの為にもナデシコから下りるのは俺でも良かったんです。

・・・強いから何でも出来るわけじゃないんです」

「じゃあ・・・俺はどうしたらいい?」

リョーコはか細い声で問いかけた。

「・・・さっきの話を踏まえて聞きます。

まだ強くなりたいですか?」

「ああ」

「全てが護れないとしても?」

「強くなりてえんだよ・・・お前よりも、アキトよりも誰よりも・・・。

それで全部を護れないのは分かってても・・・

護れる物があるなら、それのために強くなりてえよ・・・」

リョーコは泣いた。

他人に弱い姿を見せない彼女がアキコの前でここまで弱々しく泣いたのは、自分よりも強いものの前だったからであろう。

「・・・そうですか」

アキコはリョーコを見つめ、言葉を継ぐ。

「明日、朝一番に来てください」

「あ?」

「リョーコさんが望む物を手に入れさせてあげます」

アキコはそっとリョーコの手を握った。

「・・・アキコ、お前」

「強くなりたいんでしょう?」

「・・・ああ」

「なら強くなりましょう」

「・・・すまねえ、俺らしくも無い。弱音を吐いちまった」

「誰でもそういうことはありますよ」

そう言って、アキコはトレーニング室から出て行った。




アキコはふらふらと行く当ても無くぶらついてみる事にした。

どうも気分が乗らない。

食堂の仕事は終わったし、トレーニング室に居ても気分は晴れない。

さっきリョーコに向けた檄を出し切っていない気になっていた気もした。

自分らしくないことをしたからだ、といってしまえばそれまでだが。

(・・・アイちゃんの顔でも見に行くかなー)

最近あまり構ってあげていないアイに会いに行こうと思い立ち、医務室に向こうした。

だがー。

廊下を見れば、落ち込んだクルーの姿しか見えず、廊下を動くたびに気分が沈んだ。

「アイちゃん?居る?」

「あ、お姉ちゃん。どうかしたの?」

アイは座っていた椅子から立ち上がってアキコの傍によってきた。

「いや用事はないんだけど、暇になったから顔を見せようかと思ってさ」

そう言って笑顔を見せるアキコ。

しかしその笑顔にはどこか疲れているような節が見えた。

「・・・お姉ちゃん疲れてない?」

「んー?そんな事ないけど」

嘘である。

少なくとも、落ち込んだクルーを見て精神的には疲れている。

「少し休んでいってよ。顔が疲れてるよ?」

「うーん・・・じゃあ少し休んでくよ」

「ここに寝て」

アイはベットを勧めた。

「がー・・・ぐおー・・・」

が、隣からガイの超騒音的いびきが聞こえてきた。

「・・・ちょっと待ってて黙らせてくるから」

「い、いーよそこまでしなくて」

赤いアンプルを手に持つアイを引き止める。

「それにあんまり俺の前でそういうのを取り出すのはやめてくれないかな?

・・・どうにもヤマサキラボでの事を思い出しちゃうんだ」

「・・・うん、ごめん」

申し訳なさそうにアンプルをしまうアイ。

「じゃ、もう行くね」

「え?もう行っちゃうの?」

「・・・ガイは回復のために放っておいた方がいいし、俺もここじゃ休めそうにない」

「そう・・・」

「とりあえず自室に戻るから」

アキコは医務室から出て行った。










・・・ここはウリバタケ研究室。

「ふっふっふ」

「・・・ウリバタケ君・・・どうにかならないのかい?」

「仕方ないだろうが!ここしか安全じゃないんだからよ!」

ここはウリバタケの部屋。

アキコを監視するのが今のところの目的である。

理由を挙げるならば、

「アキトのことに関して一番詳しい奴を見張ってればアキトの弱点がわかるかもしれない」

だそうだ。

もっとも、某組織ではアキト撲滅を掲げながら、

一方では、アキトにそっくりなアキコの方に目が行ってるのだった。

その為、アキコの周りには色々と手が回されている。

料理姿を皮切りに、睡眠シーン、入浴シーン・・・

あまつさえ、着替え中の写真まである。

何故、火星の後継者に追われていたときはこんな監視を見抜き、

それを回避するなど容易だったアキコが気づかないというのかといえば・・・

色々とやることがあってそこまで気が回らず、

その上、監視されることなどないと慢心しているせいである。

ちなみに、アカツキが文句をいっていたのはこの部屋のシンナー臭である。

「・・・ここも安全じゃないと思うな〜」

「ここはルリが三番目に見たくない部屋だ、大丈夫!」

そして、一番見たくない部屋は、ガイの部屋、

二番目は医務室だそうだ。

「しかし・・・この写真どう思う?」

「あ?あ、それか」

その写真はーアキコの入浴写真(時価30000円はくだらない)、未修正。

それにはアキコの傷だらけの姿が写っている。

「どうもこうも人のプライバシーまで見る趣味はもってね〜よ」

「ま・・・それはそうだが・・・・

風呂に入っているときの写真を撮ることはプライバシーの侵害じゃないのかい?」

「クルーの士気を高めるためにやっているんだ、問題ない」

某ヒゲの父親のような台詞を吐くウリバタケ。

それとこれとは事情が違うというに・・・。




「ウリバタケさん、死刑です」

ルリは、ウリバタケの部屋を見てはいない・・・が。

サウンドオンリーで聞いている。

結局、その日の夕方にはこのことはアキコに届くのだった・・・・。

「アキコさん、これを聞いてください」

そう言って、アキコにサウンドオンリーのウインドウを見せ、その音声を聞かせた。

「・・・(怒)」

アキコは今までにないそれは鬼のような表情で・・・

復習をしていたときよりも恐ろしいかもしれない表情を見せ、ウリバタケの元に向かった。

ー格納庫。



「う〜り〜ば〜た〜け〜さ〜ん〜!!」



「あ、アキコちゃんか」

呑気に返事をするものの、アキコの表情を見て整備班全員が凍りつく。

「何してんですかあんたは〜!!」

「な・・・なんのことだ〜?」

「とぼけても無駄ですよ!これを見てもまだそんな事がいえますか!?」

そして、さっきのウインドウを見せ、聞かせる。

「!すまん!魔が差して・・・」

「ほう?魔が差したぐらいで売買しますか?」

「う、それは・・・」

「奥さんと子供に言い残すことは?」

「うおお!殺さないでくれ〜」

「・・・死にたくありませんか、それなら命は取りません。安心してください。

ただし・・・死にませんけどそれ以上に辛いかも知れませんよ・・・くくく・・・・」

「うぎゃぁぁぁ・・・」

・・・後日、その時の光景を見た整備班は語った。

「・・・ウリバタケさんが鬼に連れてかれた」

・・・・・・と。

その連れて行かれた日、・・・ウリバタケを引きずりウリバタケの家にアキコは現れた。

ナデシコは修理のため、ドッグに停泊中である。

もちろん、女性クルーの団結の力によって許可された行動である・・・。

その際、アキコはあの黒服(マントにバイザー)で

「ご主人の死と、そちらへの引渡しのどちらを望みますか?」

・・・と、言ったそうである。

「頼む!俺の話を聞いてくれ〜!」

誰も聞いてくれるはずもない叫びが響き渡った。

当然、妻のオリエにボコられた。

ー夜。

・・・ウリバタケは帰ってからもアキコ以外の女性にフクロにされたと言う・・・。

「はぁー、ボロボロだ」

ウリバタケはフクロにされた後、食堂に現れた。

「あー、アキコちゃん居るか?」

「テンリョウかい?テンリョウ、ウリバタケが呼んでるよ」

ホウメイがアキコを呼ぶとすぐに現れた。

「また何か企んでませんか?ウリバタケさん?」

少し人相を悪くしてウリバタケを睨むアキコ。

「んなこたねえよ。ちょいとDFSの事でよ」

「DFSですか」

「ああ。アキトに頼んでたんだがあいつは出張中だろ?

だから代わりに手伝って欲しいんだが」

ウリバタケはお詫びとばかりに簡易DFSの開発に誘った。

AAコンビ専用武器であるDFSの量産はうまくいけば、

戦局をひっくり返すものだ。

とはいえ、AAコンビにしか扱えないものを量産しても仕方ないので、

一定の出力を保てるだけの・・・

場合によっては変化も可能なプログラムを組むことにした。

「ええ、いいですよ」

もちろん、アキコはこれに賛同した。

今は戦力の底上げが必要なのである。

「で、データ取りをするんですよね?」

「ああ、そうだ」

「でもこの格好の意味がわからないんですが?」

アキコはパイロットスーツの代わりに何故かGガンダ○のファイティングスーツを着せられていた。

「これはな、IFSの伝達率を上げるスーツだ」

「・・・IFSの伝達率たってそんなに変わらないんですが」

シミュレーターの中でエステを動かしてみるが、たいした変化は見られない。

「データを取る側からすれば大違いなんだよ。ほら、さっさと続けろ」

(・・・やっぱり趣味だろ?)

アキコは心底疑っていた。

・・・・・だが、少なくとも趣味ではなかった。

(ふはは!読める、読めるぞ!スリーサイズ、体重、身長、全て把握できる!)

・・・そう、確かにウリバタケの言った事に間違いはなかった。

「データを取る側」では別にDFSに関係ないデータまで取れるだけに、「大違い」だった。

・・・転んでもただでは起きないらしい。




就寝時間1時間前ー。

「ルリちゃん、夜勤かい?」

「いいえ、今日はもう仕事はありません」

ルリはしょぼんとしている。

アキトが居なくなって一番不安になっているのは彼女かもしれない。

その様子を見て、アキコは何か励ませることは無いかと考えた。

そして、何かを思いついたようだ。

「ルリちゃん、一緒にお風呂でも入る?」

「え」

一瞬、ルリの中の時が止まった。

アキコの性格上、そういう気の使い方はしないと思っていたのだ。

というか、元々男性なのだからそういう事をしてくるとは思わなかったらしい。

「嫌?」

「い、いいえ!」

・・・当然、ルリはそれに食いついた。

女性になったとはいえ、ある意味憧れていた人物と入浴するのは嫌では無いらしい。

というよりも、むしろ望むところらしい(笑)。




大浴場。

「〜〜〜♪」

ルリは嬉々として服を脱ぎ始めた。

アキコも服を脱ぎ始めるがー。

「!アキコさん・・・」

「え?」

アキコの体には無数の傷・・・

幾千にも見える、おびただしい傷の量だった。

「その傷・・・」

「ああ・・・」

アキコは体に刻まれた傷を擦って見せた。

「見せたのは初めてだね。でも気にしないで」

「気にしないなんて無理ですよ!

アキコさんはそれを背負って・・・そんな傷だらけになって生きていくのは、辛く・・・無いんですか」

アキコはバスタオルを手に持っている状態で返した。

「・・・辛くないって言ったら嘘だよ。

でもね、ルリちゃん。

俺は誰かを慰めたり、何かをしていればそれを誤魔化していられるんだ」

「・・・アキトさんもそうなんでしょうか」

「さあ、どうだろう?ここに来てからずっと考え方が変わってきてるから。

変な言い方だけど、女性っぽくなったのかな?」

「・・・変わっていく自分が怖くは無いんですか」

「・・・俺は血に汚れた。その頃に比べれば怖くは無いかな。

ーいろいろな自分の姿を見たよ。それはもう多くの感情の化身ともいえる姿の数々をね。

・・・怖かった。

流れ出ていく血を見て狂喜する自分、

人を殺すこと、戦うことに生きがいを見つける自分、

それを悲しいことだと思える自分。

臆病で、常におびえる自分。

ユリカを取り戻したいと思い、狂うことを覚悟した自分。

・・・帰りたいと思っている、子供のような自分。

今は本当に帰りたい・・・

でも・・・戻れないんだ」

「そんな・・・アイちゃんなら・・・」

「・・・出来ないんだ。

戻れるなら戻りたいけどー一回この空間にきてしまうと、

元の世界に戻ることが出来ないんだ。

ー既に未来は変わっている。時間軸の分岐が増えてしまっている。

だから、元の世界に戻ろうとするのはこの宇宙で地球と木星以外に

生態がある星を見つける以上に難しいって言ってた。

平行している世界だからー

少なくとも5年後、あの火星の後継者の戦いの時まで進まないと

探し出すのは難しいって。

・・・俺に5年は永遠に等しいかもしれない。

それまでに発狂してしまうかもしれない。

今、こうしているだけだってユリカを求めようとする自分がいる。

・・・自分の中に芽生えた女性としての意識がそれを自然とセーブしてくれるのが救いだよ。

自分を・・・壊したい、死にたいって思ったことも何度かある。

・・・それくらいに辛いんだ。

俺がこの世界に居続けるっていうのは。

アイちゃんも慰めてくれるし・・・

表面上はいつもの俺だけど・・・

いつ、暴走してしまうか分からない不安定さが、そして、俺自身、この状況が不安で仕方がないんだ」

「アキコさんなら・・・アキコさんなら大丈夫です!」

「・・・多分大丈夫だよ」

アキコはルリの頭を撫でた。

「ルリちゃんを、みんなを護ることを考えていられる今は、ね」

「・・・今は、ですか?」

「・・・みんなと一緒に居られる間は何とかなるかな」

アキコの悲しそうな笑顔を見てルリは叫んだ。

「・・・アキコさんがしていることは、アキトさん以上に無理をしています!」

「・・・そう?」

「アキコさんが、アキトさんが背負うものの大きさは知っています。

けど、その重さも、すべてアキコさん一人が背負う大きさではありません。

火星の後継者の責任を・・・とらなくてもいいんですよ。

私が・・・背負います。

アキコさんの、アキトさんの傷を。

アキトさん達が負った傷は私達の傷でもあります。

アキトさんの、アキコさんの傷が癒えるなら、

アキトさん達の負った数の傷をつけてもかまいません!

だから・・・」

「・・・うん。ありがとう、ルリちゃん。

年下の女の子にこんなこと言われてるようじゃまだまだかな。

俺も。

俺は・・・背負うことはやめないけど、

頼ってもいいんだね?

・・・みんなに」

「はい・・・」

「・・・うん、少し気が軽くなったよ」

「そうですか・・・がんばりすぎないでくださいね」

「難しいかも・・・俺って手加減が下手だから・・・」

「無理をすれば、その分は返ってきますよ?」

「はは・・・それより・・・」

アキコはちょっとしたことに気づいた。

「何で裸で話してんだろ、俺たち」

「・・・(赤面)」

・・・二人は風邪を引いてしまった。




翌日には、食堂に借り出されるユリカの姿があったのは言うまでもない。

「艦長!これ三番テーブルに!」

「はい!」

「艦長!チャーハン作って!」

「はい!」

席では、ジュンがユリカを見つめている。

「ユリカ〜(恍惚)」

ジュンはこういうユリカの姿もいいな〜とか思っていた。

もちろん、チャーハンはジュンの注文。

「はい!お待たせ!」

「ありがとう、ユリカ」

すると、ジュンはユリカのチャーハンを食べ始めた。

「・・・うまい(泣)」

これが過去のユリカでなくてよかったな、ジュン。

しかしその料理はあくまでアキトのために磨いた技術だぞ?

・・・悲しいな、ジュン。





医務室で横たわっている二人。

ルリとアキコ。

その横にはー眠ったガイがいる。

「う〜」

「・・・話す場所が悪かったですね」

「そういわないで、ルリちゃん」

「何話してたの?お姉ちゃん」

アイは小さい手でリンゴをむいている。

8歳児とは思えない手つきで。

・・・メスでむくが。

「・・・何でもいいからメスでむくのはやめてね」

「なんで?・・・もうむけたよ?」

一応、未使用のメスを使っている。

が、そういう問題ではない。

「・・・まあいいや。いただきます」

「いただきます・・・」


ぱく・・・しゃりしゃり。


・・・「まあいいや」で済ますのはどうかと思うぞ、アキコ。

が、そういう問題ではない(笑)。

ここでアキコたちは「病人は実験台にしない」と甘く見ていた。

「食べたね?」

「へ?」

「そのリンゴ・・・薬が入ってるよ」

「「え!?」」

二人は固まった・・・。

「安心してね、2日で効果は消えるから」

風邪を引いたとき、抗体ができるのは3日。

まあ、寝たきりでは問題ないだろう。

「・・・何入れたの?」

「肉体退化剤」

「「はぁ?」」

アイがここで答えたのは、最初にアイが飲んだ薬に似てはいる。

だが、ここでポイントになるのは期限があるか否か、だ。

アイが飲んだのは、純粋に肉体の年齢を下げ、

DNAの設計にそって体を小さくする、

いわば若返りの薬。

対して、この「肉体退化剤」はどちらかというと

よくある、期限付きの若返り。

そして、この薬にーアイは特別に体が動きづらくなる薬も混ぜた。

元々風邪を引いてるのに意味はないがー口もききづらくなる。

「う・・・あ」

二人はそのまま眠りに落ちた・・・。





一時間後・・・。


「う・・・」

アキコが目を覚ました。

が、体は動かない。

(金縛り?・・・うう)

この時点で、アキコは気づかない。

自分の体が縮んでいることに。

「あ・・・・う」

(声が出ない?)

口をパクパクしていると、アキコは自分の視点が極端に低いことに気づいた。

「あ・・・い・・・ちゃ・・」

「は〜い♪」

傍にいたアイはなぜか楽しそうだ。

それも年下の子供に接するのりで。

「お・・・れ・・・」

「効いたみたいね、薬」

(薬・・・あっ!)

アキコはやっと思い出した。

「肉体退化剤」のせいで体が縮んでいることに。

しかもよくよく見ると、ルリが真横(同じベット)にいる。

「る・・・り・・ちゃ」

途切れ途切れのかわいい声でアキコは呟いてみる。

「・・・?」

目をうっすらと開けるルリ。

その顔は見る限り、6歳・・・いや、4歳くらいに見える。

お互いの顔を見て愕然とする。

「!あ・・・き・・・・」

「う・・・ん・・」

「二人とも聞きたい?」

二人は首を小さくこくこくと頷かせる。

「まずね・・・二人は一日休んだら現場復帰する予定だったんでしょ?

だからたまにはゆっくり休んでもらいたかったの。

・・・二人とも無理が得意だから。

だから、わざわざ薬まで使って安静にしてもらうことにしたの♪

それにさっき話してたこと教えてくれなかったし・・・

お風呂誘ってくれなかったし・・・そのお返しもね。

だからゆっくり寝てね」

「は・・・い」

「お大事に♪」

楽しそうに医務室から出て行ったアイ。

「る・・り・・・ちゃ・・・だ・・・い・・・じょ・・・ぶ?」

「は・・・い・・。あ・・いちゃ・・・も・・や・・・り・・ま・す・・ね」

二人は体をお互いの方向に向けてひそひそ話す。

すると、ガイが目覚めた。

「・・・お?なんだお前ら?」

「あ・・・き・・・」

「あ?声が出ないのか?」

「は・・・い・・・」

この二人の容姿を見れば普通の人間であれば一目で気づくがー

ガイに関してはそういう感情、思考パターンは持っていない。

「ふふふ・・・ならば俺のゲキガンガーを見ていろ。おっもしろいぞ〜!」

二人は降参、というの顔をした。

ガイに何を言っても無駄だし、この状態ではどうしようもない。

『レッツ!ゲキガイン!』

ちなみにガイは眠った。

体の状態がまだ整っていないのだ。

「あ・・・き・・こ・・さ・・・」

「?」

「こ・・・い・・・う・・・のも・・・わ・・るく・・・あ・・・り・・・ま・・・せ・・ね」

「・・・(赤面)」

アキコは二人っきりで、それもベットで寝ていることが少し恥ずかしかった。

この状態はー恋人同士のようだ。

ここで見ているのがゲキガンガーではなく、ラブロマンス映画だったら完璧だったが。

しばらく二人はゲキガンガーを見ながらお互いの体温を感じあっていた。



「きゃ〜!かわい〜!」

開口一番、ユリカの口から出た言葉はそれだった。

朝食の時間が終わり、様子を見に来た一同を待っていたのは

・・・可愛くなった二人だった。

「あ・・・う・・・」

喋ろうとしても言葉が出ない、それがまた可愛かった。

「「「きゃ〜!!」」」

「ん?うるさいな・・・あ?」

ガイが横に目をやると・・・

そこには「テンリョウ・アキコ」と「ホシノ・ルリ」のプレートが。

「・・・あの二人だったのか」

ガイにはここでの生活が長いため、一瞬で理解できた。

イネス&アイの仕業だと。

「か・・・ん・・・ちょ・・」

「きゃ〜!なに?」

「し・・・ず・か・・に・・・」

「・・・は〜い」

ユリカはばつが悪そうに静かになる。

「しょ・・・く・・ど」

「アキコちゃん、私が代わっておくから安心して」

(・・・それはそれで不安)

アキコは逆に不安になった。

いや、不安というか・・・まあまだ殻がお尻に着いているひよこだ。

ユリカはレベルが上がったとはいえ、不安材料がいくつもある。

まあ、任せておいて損はしないだろうが。

一同が去ってからーアイは戻ってきた。

「どう?調子は」

「だ・・い・・・じょ・・・ぶ」

「そう。よかった」

すると、アイは二人のベットの前に椅子を出して座った。

「二人とも最近ストレスが溜まってるでしょ?」

「「・・・・」」

「だからこんな処置をとらせてもらったの。ごめんね」

「い・・い・・・です・・よ」

「うん・・・二人が誰かに頼るのをあんまり好まない癖があるから心配だったの。

やっぱり誰かに頼ることも必要だよ?

・・・今日は私がお姉さんよ。

二人は妹になっていいわ。

だから・・・安心して、ね」

「は・・・い・・」

「子守唄、歌ったげる」

二人は、アイの子守唄を聞きながら眠った。

それを見ていたアイも眠くなって横に空いた分のベットで眠った。













余談だが、あの薬は効き目が2日でなく1週間持った。

その為、ナデシコがしばらく動かず、

オペレート不可で臨時休暇となった。

動けないことをいいことに、女性クルーがアキコ達を見舞いついでに着せ替え人形にしていたことを追記しておく。

(アイちゃ〜ん、勘弁してよ〜)

・・・アキコの心の叫びもむなしく、体が成長を始めるまで1週間、元の体に戻るには更に3日必要だったそうな・・・・。





作者から一言。

今回は壊れてみました。

どうですか?アキコとルリの4歳って?

第一章にはナデシコらしい話(=ギャグが入る話)が無かったので少し狙ってみました。

つーかこの話の見所は女性としての人格を確立してきたアキコですね。

B−SIDEは完全オリジナルなんでひねりはあるかもしれませんが、ネガティブ指数が非常に高いです。

第一章ほどではありませんが。

俺の人格からですかね。あー、やだやだ。

では次回へ。



改定後の一言。

こちらも、大した修正がありません。

ただ、ウリバタケの妻の名を間違えたのを修正しただけです。

・・・シオリはないなーとか。

だってそしたら北斗の二重人格のほうになっちゃうし。

04年2月26日武説草良雄。
 

 

管理人感想

武説草良雄さんからの投稿です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、何だかユリカ(男性化)が気の毒になってきたのは、私だけでしょうか?(苦笑)

ま、アキコとは幸せになれるかもしれませんがw

アキトには余計な荷物だけが増えているような気が気が気が(爆)