ナデシコからアキトがいなくなり早一ヶ月。

ウリバタケの私刑や、アキコ&ルリの風邪引き幼児化事件、

それによる緊急休暇事件など、トラブルが多かった。

とはいえ、アキコのお陰でというべきか、クルー達は以前の調子を取り戻していた。

だがー。




第2話「アキコがオーバーヒート」











じゅぅぅぅ・・・。




いつも通り、アキコは料理を教えている。

今では三人のレベルはホウメイガールズすら脅かすほどである。

その練習した料理は整備班に差し入れられる。

毎回一品はウリバタケが食べる。他の二品は整備班の山分け。

そして食べるたびに吼え、整備効率が30%も上昇するそうだ・・・。

プロスもこの作戦(違)には一目置いている。

「今日はここまでにしましょう」

「「「はい(おう)!」」」

三人の声が厨房に響く。




そして、トレーニングルーム。

「こい!」

「行きます!」

アキコとリョーコは料理の講習の直後、トレーニングに励む。

「そこか!?」


どど・・・・。ちゅいん。


(かすった!?)

アキコのエステに弾がかする。

だがそれにひるむ事無く、アキコはリョーコのエステにライフルで一撃した。


『GAME OVER』


「リョーコさん、今日は当たりましたね」

「かすったぐらいじゃまだまだだ!もういっちょ行くぞ!」

「上等!」

・・・リョーコと戦っているときはアキト以上に男っぽくなるアキコだった(笑)。




『敵が現れました』

オモイカネが敵を発見した。

「総員戦闘配置!」

「数はチューリップが2、機動兵器の数は現在で500」

「エステ隊は敵を誘導、ナデシコの前に集めてください!

その後、グラビティブラストで殲滅、チューリップを アキコちゃんが破壊してください!」

ユリカの指示が飛んだ。

と、そこにー。

『ちょっと待ちな!艦長!』

「ウリバタケさん?どうかしたんですか?」

『ついさっき簡易DFSが人数分完成した。全員に持たせるぞ』

「チューリップは切れますか?」

『バーストモードを使ってからフルパワーなら何とかできるが・・・お勧めは出来ないぞ』

「何故ですか?」

『あれはディストーションフィールドをプログラムで制御している。

だから人がイメージするのより安定するが代わりにDFSにもエンジンにも負担がでかい。

それに整備に時間がかかりすぎる。

次の出撃までに修理しきるか否か、ってぐらいだ』

「わかりました。出撃してください!」



ばしゅっ・・・。


エステ隊が発進した。

だが、簡易DFSを使用するのはガイとリョーコだけのようだ。

この簡易DFSは完全に一本の剣として生成するのではなく、

長刀、つまり薙刀に似た作りになっている。

刃先はイミティエッド・ナイフだが、その刃先、切るのに使う部分のみにフィールドをまとわせる。

よって、破壊できる範囲は少ないものの、切れ味で言えば格段に上だ。

『お〜!よく切れるよく切れる!』

リョーコは機動兵器を大根のように切っていく。

彼女はイミティエッド・ナイフに不満を持っていた。

短すぎて自分の得意とする居合を使用できなかったのだ。

薙刀でも居合は難しいかもしれないが、彼女にとってはこれでも十分だったのだ。

『おらおらおらーーー!』

『・・・リョーコ張り切ってるね〜』

『刃物を持ったなんとやら、かしら』

二人は普通に敵を撃墜していた。

だが、リョーコの奮闘によってかなりの数の機動兵器が落とされた。

『そりゃあ!』

アキコはアキコでチューリップに向かいながら邪魔になる機動兵器を破壊していた。


どごん!


『チューリップ撃破!次!』

結局、簡単に迎撃してしまったようだ。



戦闘後、食堂。

「ホウメイさん、遅れました!」

「なんだいテンリョウ。戦闘後は休んでいいって言ったろう?」

「いいえ、大丈夫です!」

・・・アキコは自分の身体を酷使している。

だが、彼女は「あのころと比べれば」と休もうとしない。

彼女が思っている以上に身体にダメージが溜まっているのだ。

「お姉ちゃん・・・」

アイは以前気を使ってアキコを休ませたがー

またそれをやることも考えている。

それほどにアキコの疲労は大きいのだ。

・・・確かに人一倍といわず、人三倍は動いている。




そして、その時は来た。

アキコは過労で倒れたのだ。

「う・・・」

ばた・・・。

「アキコちゃん?アキコちゃん!」

料理を教えている最中に倒れ、

ユリカ達は大いに驚いた。

アイなら分かるが、他のクルーから見れば普通の状態に見える。

そして、アキコがイネスに診断されている。

「・・・最悪ね、アキコちゃん」

「そんなに・・・ですか」

「昔、色々と無理をしてきたでしょう・・・

それにこの傷。何か実験でもしたのか知らないけど

こんな体であんなに動くなんて自殺行為よ。少なくとも二週間は動いちゃだめよ」

「・・・でも、俺が居なくなったら・・・」

「分かってないわね。その様子だと「自分には何でも出来るんだ」なんて自惚れがあるんじゃない?」

「!そ、そんな事・・・」

アキコはあくまでこのナデシコのために動いてきた。

それは真実だ。

「あなただって人間なのよ。疲れたら休まなければ、眠ければ眠らなければ、お腹がすいたら食べなければ、

大怪我をしたら治療をしなければ、死ぬ。

・・・あなたがナデシコ全体のことを思って動いていたのは分かるわ。

でも、ここで死んでしまっては元も子もない。

何一つ護りきれないで死ぬわよ」

「・・・・」

アキコは黙り込んだ。

だが、もし、という気持ちで一杯になっていた

しかし、身体は休養を欲している。

「・・・と、急に言っても聞いてくれないわよね。少しここで考えなさい」

「お姉ちゃん、どうぞ」

アイはオレンジジュースを持ってきた。

アキコは無意識にー自然とそのジュースに手を伸ばした。

体が疲労に沈んでいる今、何かで渇きを潤したくなったのだ。


ごく・・・・ごく・・・・・。


が、それはー。

「・・・っ」

アキコは急激な眠気に襲われた。

そう、この感覚は以前、風邪で倒れたときにもー。

「アイちゃん・・・まさか・・・」

「ごめんね、お姉ちゃん」

意識を必死に保とうとするも、目の前がかすんできた。

そして、意識とともに、視界が暗転した。








アキコは夢を見ていた。

あの時、あの場所でもし治療を選択しユリカの元に戻ったら・・・と言う夢を。

「アキト君、実はあなたの体の中にある悪性ナノマシンを除去する方法が見つかったのよ」

「!ほ、本当ですか!」

思わず笑みをこぼしてアキコーアキトが反応する。

「ええ。そして・・・これは多分アキトくんが指名手配されているのにも有効だと思うわ」

「?それはどういうー」

アキトの言葉をさえぎってイネスが続ける。

「それは飲んでみてのお楽しみ」

アキトはイネスに薬を渡された。

「まあ・・・四の五の言う気は・・・・

飲んでみて不満だったら文句のひとつも出るけど・・・んむっ・・・」

渡された粉薬を水で流し込む。

そしてアキトは倒れた。


ばたり・・・・。



一時間後。

「ん?・・・・!視覚がもどった〜!」

アキトは体がだるいのも気にせず、跳ね上がる。

「触覚も、嗅覚も・・・味覚も!」

自分の手を触ったり、指をなめたりして自分の体の正常化を確認した。

「アキトくん」

そこにはイネスがいた。

ず〜っと見ていたのかは謎だ。

「イネスさん!本当にありがとうございます!」

「いいえ。それよりも自分の体を見てみなさい」

「へ?・・・!?なんじゃこらー!」

アキトが体を見るとー胸が大きい。

股には何もないし、体も縮んだ気がする。

すると、何もいわないうちにイネスはホワイトボードを取り出す。

「説明しましょう!悪性ナノマシンは基本的に女性の体につきやすいの。

でも、摘出する時は女性の体でないとホルモンに取りついて 

摘出する事そのものが困難になりやすいのよ。

だからアキトくんに飲んでもらった薬は性転換も兼ねてるの。でも、

それだけじゃなくて十代の体でないと

体も耐え切れない。だから体は16歳ぐらいになっているはずよ。

あと、悪性ナノマシンはこの薬の除去作用によって完全に消滅し、

良性ナノマシンが体を健康体に戻した・・・ってこと」

「でも・・・これでまた店が開ける!

もう火星の後継者の残党を追わなくてもすむ!

そして・・・ユリカに会える」

アキトはユリカに会うには自分が追われている人間ではいけないと考えていた。

「ユリカさんももう回復したそうよ。

明日、ユリカさんたちを呼ぶから」

「はい」



その後、アキトにの元に戻ったラピスはアキトの姿を見て

すっ飛ぶほど驚いた。

そして、ラピスの表情が最も人間らしく見えた瞬間でもあった。

翌日。

「・・・本当にその格好で行くの?」

「ええ。これ着てないと認識してくれそうもないですから」

アキトはいつも通りにあのスーツを着ている。

不信感爆発のあれだ。

見た目的には確実に職務質問される格好だ。

バイザーもつけている。

「アキト、これから会う人ってどんなひと?」

「俺が好きになった人だよ。ラピスも仲良くしてくれ」

「うん!」

アキトといっしょに居るときは満面の笑みを見せるラピス。

リンクが切れた(つけたままにしておくと自立できなくなるので)時から

アキトの心情は分からなくなったが、その分、アキトの表情を見ることによって表情の作り方を覚えた。

そしてー約束の公園にきた。

「ユリカ・・・」

遠くからユリカの姿を見て万感の思いで走りよるアキト。

そしてその姿を見つけて喜ぶユリカとルリ。

「アキト〜!」

「ユリカ〜!」

二人はー抱き合った。

だが、ユリカはアキトの胸元に不穏な感触を覚える。

「ア・・キトだよね?」

「ああ」

「なんか縮んでない?」

「ああ」

「心なしか胸があるように思えるんだけど」

「ああ」

「どうしたの?」

少しばかり怒気を含んだ声で喋るユリカ。

「実は・・・なくした五感を取り戻そうとして飲んだ薬の副作用みたいなもんでこうなっちまったんだ」

「そう・・・なの?イネスさん」

「ええ、そうよ。

しばらくその格好で居てね。

一ヶ月はそのままじゃないと悪性ナノマシンが全滅しないから」

「はい。分かりました」

「アキト!」

「アキトさん!」

「何?」

「行きましょう。あの場所へ!」

「あ、うん」



アキト達が向かったのは昔すんでいたアパートだ。

「戻ってきたんだね・・・」

「うん!そうだよ、戻ってこれたんだよ!」

「アキトさん・・・お帰りなさい」

「ただいま・・・」

四人はー楽しそうに話しながらその日を過ごした。

その夕方。

「あー・・・そういえばここ風呂がないんだよね」

「ないよねー・・・!」

ユリカはにやりと笑った。

いたずらっ子の目だ。

「アキト〜」

「な、なに?」

アキトはその眼光に身を引く。

「アキトは今、女の子だよね〜」

「・・・!?」

「そういえばそうですね」

「アキト、女の子」

三人の反応を見てアキトは驚く。

そして、三人は声をそろえて言った。

「「「いっしょにお風呂に!」」」

「・・・・」

アキトは腰を抜かして逃げることすらままならない。

ついでにあごをはずして返事もできない。

「銭湯に行こう〜!」

(やめてくれ〜!!!)




(ひ、ひどい目にあった)

アキトは銭湯に連れて行かれて、

鼻血出すわ、ユリカに引っ張られて頭を強打するわ、

体を抑えられて体を洗われたりするわで気苦労が尽きない。

まあ、今日は屋台を作り直し久々の開店をするのだ。

それを考えると嬉しくてならない。

朝早くから金槌の音が響く。

昼は、ラーメン作りの勘を取り戻すための特訓をする。

そして・・・おまちかねのラーメン屋台開店。

「さ〜やるぞ!」

「お〜!」

今日はルリもユリカも軍の仕事で忙しい。

ので先に屋台のほうに出向くアキトとラピス。

するとすぐに客がつき始める。

こんな美女(失礼)&美少女がラーメン屋台を引いているのだから

まあ、ものめずらしさとともに人が来る。来る。

満席でも客は立ち食いまで申し出る始末。

「ラピス!あっちのお客さんにラーメン二つ!」

「わかった!」

「チャーシューメンひとつ」

「味噌バターラーメンひとつ」

注文がひっきりなしに入る。

二人も到着し、フルメンバーで応対するも・・・

それでも人手が足らないほどである。

「いや〜ここのラーメンはおいしいですな」

「むう」

「しかも美女揃いだし言うことないね」

「いらっしゃい・・・って何で来てんですか」

ルリが来てみるとそこにはプロス、ゴート、アカツキらがラーメンをすすっている姿が。

「君はネルガルの本社の近くにラーメン屋台を引いてるのを忘れたのかい?」

「そー言えば・・・」

昔、屋台をやっていたときにそんなことを聞いた気がした。

しかしもう3年前の話なので忘れていた。

「アキトくんは帰ってきたかい?」

「あ、はい。あそこに」

ルリが指差す先にはラーメンの湯切りをしているアキトの姿が。

「・・・どこにも見えないけど?」

「・・・あのラーメン作ってる人がアキトさんです」

「what!?」

思わず奇怪な英語を発してしまうアカツキ。

「五感を戻すにはあの姿になる必要があるそうです」

「そ、そうなのかい」

アカツキは驚いた。

よりにもよって一番好みに見えたのがテンカワ・アキトだったとは。

「ふむ・・・また味があがってる。テンカワ!成長したね」

「ホウメイさん!?」

アキトが驚いたのは、ホウメイがいたことだけではない。

自分の姿を見てテンカワ・アキトだと認識したことにも驚いた。

「いやあ、驚いた驚いた。買い物帰りに何かの行列が

出来てたから来てみりゃ元艦長とオペレーターが居るじゃないか。

それにテンカワが調理した味のラーメンが出てんのにテンカワが居ない。

さっき会長たちの話聞いてそりゃー心臓が止まるかと思ったよ」

「は、はは・・すいません(あの極楽トンボも居たのか・・・)」

「こっちラーメン三つ!」

新たな注文が入った。そこには。

「はいはい・・・!リョーコちゃん!ヒカルちゃん!イズミさん!」

「?誰だ?」

リョーコは自分にこんな知り合いがいた記憶がいない。

「いや〜説明してるひまない!ホウメイさんに聞いて!」

ラーメンを茹で続けるアキト。

その横でリョーコが驚いていた。

「なに〜!あいつがアキトだ!?」

「ウッソ〜!!」

「・・・・」

三者三様の驚き方を見せる。

「治療のため、だって言ってた」

「へえ〜」

「漫画みたいな話だよね」

ヒカルは目を輝かせてアキトの方を見ている。

・・・さも羨ましいように。

イズミは意外にも驚いている。

そして、スープが切れて営業終了となった。

四人は帰路についた。

アキトは屋台を引っ張っている。

ユリカはラピスを背負っている。

ルリは屋台を押して手伝っている。

「なあ・・・ユリカ」

「なに?アキト?」

「俺は・・・戻ってきてよかったんだよな?」

「・・・アキトはここに戻ってきちゃいけない理由なんてどこにもないんだよ?」

アキトはー自分の侵した罪に責任を感じている。

自虐の癖があるアキトはおそらく一生その十字架を背負って生きていかなければならない。

そうでなくとも責任を感じさせる事実だ。

それをユリカは知っている。

そして、半分は自分のせいだと思っている。

悪いのはすべて火星の後継者だというのに。

「しかし・・・俺は・・・俺は・・・!」

「アキトさん!」

アキトの言葉をルリがさえぎる。

その目に涙が浮かび、

やがて零れ落ちた。

「ルリちゃん・・・」

「・・・私たちが悲しい思いをしているのに・・・

アキトさんは・・・アキトさんは放って置くんですか!?

放って置けるんですか!?」

「・・・出来ない」

「なら!アキトはここに居ていいんだよ」

「・・・ありがとう、ユリカ。ルリちゃん」

アキトの目にも涙が溢れ出す。

「俺は・・・俺を許せない。

あの殺人鬼だった俺を。

そして誰かに殺されることで人を殺した事を

許してもらえると思い込んでた。

けど・・・俺は背負わなきゃいけないんだよな。

殺してきた人の人生を。

どんなに無様でも生き抜く。

・・・もう誰も傷つけたくない。

誰も殺したくない。

俺が傷ついたとしても。

だから・・・」

「アキトさんはもう消えたりしないと?」

「ああ。死んだ人の分まで幸せに生きようなんてのはー

傲慢だが、俺は自分の出来る限りの事をするつもりだ」

「アキト・・・無理しないで。

私にも背負わせて。

そのーアキトが背負う業を。

私達は・・・・

家族なんだよ?」

「私も背負います。

この身が・・・心が果てようと。

アキトさんが苦しむ姿を見るより苦しいことはないですから」

「・・・ごめん、湿っぽい話になっちゃったな」

アキトは微笑を浮かべる。

どこか・・・ひどくさびしそうな笑みを。




「・・・・っ」

アキコは目を覚ました。

その目からは涙が流れている。

そして、身体はあの時のように縮んでいた。

ベッドに横たわっていた彼女は、体が動く事を確認した。

アイは少し気を使ってくれたようだった。

(そうだよな・・・あの時ああ言えばこんな辛い思いをしなくて良かったんだよな)

アキコはえもいえぬ孤独感にさいなまれた。

(俺・・・馬鹿だ・・・)

今、アキコが見たのは夢だがー

もし「IF」の世界の法則を使うなら実際に起こりうる話かもしれない。

「ひっく・・・えく・・」

アキコは・・・また泣き始めた。

彼女の背負うものは大きいーその心の傷も大きく、心に残る悲しみはもっと大きいかもしれない。

「・・・ぅ」

アキコは、もう何も考えたくないと思う。

そうもいかないがー眠ることも起きていることも大きい苦痛だった。

(生きてるのが辛い・・・辛いよ・・・)

こうして呼吸をしているだけでもー自分がいやでも生きていなきゃいけないことを実感させられる。

昔のように強い人間ではないのだ。

今・・・彼女は誰よりも孤独であった。

その彼女の心の傷を癒せるのは・・・一人しかいない。

だが、その人物はいない。

少なくともアキコの中ではそういうことになっている。

アキコはもう一度眠った。

せめて夢だけでも。

彼女は夢に浸ることだけでも許されているならそれにすがるしかないと思い、

苦痛になるのか、逃げ場になるのか分からない夢に落ちた。



次に現れたのはーアイだった。

「お姉ちゃん」

「アイちゃん」

二人はー服をまとってはいなかった。

アキコの心の痛みーそれを一番理解している者。アイ。

「俺・・・やっぱり戻りたいよ」

「・・・」

「アイちゃんにとってこの話はあまり気持ちのいい話じゃないとは思うよ」

「・・・」

「でも・・・俺は不器用だから、

こんな風に思ったことしかいえないし、

その時々の思いつきでしか行動できない」

「・・・」

「アイちゃん。俺は・・・どうすればいいかな」

「お姉ちゃんは・・・我慢しなくていいんだよ?

私も、ルリちゃんも・・・お兄ちゃんも。

皆いるんだよ?

支えてくれる仲間が、

大事な家族が。

お姉ちゃんはお兄ちゃんの分の苦労まで持とうとして・・・

私達にも手伝わせて。

ね?」

「うん・・・ごめん」

アキコはー座り込んで足を抱える。

アイも足を崩して座る。

「何でだろう?

俺はもうアキトじゃない。

アキトの幸せを願うだけの存在なのにー

何でここまで執着してるんだろう?」

「お姉ちゃんが自分を許してないんじゃない?」

「・・・うん。許せないよ。

俺がやってきたことを考えれば、被害者の側に立てば許せない。

でも・・・もう失いたくないんだ。

自分が許せないのに・・・幸せになりたかったんだ。

ただ、平凡に生きて、平凡に死ぬだけのーそんな人生を望んでいたんだ」

「お姉ちゃんはーユリカさんを求めなくても生きていけるよ。

一人の女性としても。

一緒に進もうよ。

平凡な道を」

アイはアキコを抱きしめる。

「アイちゃん・・・ひっく・・・」

アキコは涙を流す。そして抱きしめ返す。



























「お姉ちゃん・・・泣いてもいいんだよ?」






























「う・・・うわあああぁぁ・・・」























アキコはーひたすらに泣いた。

自分の溜めてきた悲しみを解き放つかのように。




そして・・・アキコは夢から覚醒した。

アキコの面前にはー自分を抱きしめているアイの姿があった。

(今のはー夢なのに。アイちゃんは現実でも抱いてくれたんだ・・・)

アキコは自分の浅はかさに苦笑する。

こんなに自分を大事にしてくれる人がいるのに、

何故、自分はそれに気付かないのだろうと。

アキコは誓った。

アイ一人のためにでも生き続けようと。

「ありがとう・・・アイちゃん」

聞こえていないかもしれないが、彼女はアイに礼を言った。

そしてーアキコはもう一度眠る。

この温かいー胸の中で。

自分を大切にしてくれる人の腕の中で。








作者から一言。

アイは普段は幼い少女を演じているが、その本質は母親のようなものだった。

アキコを抱擁できたのはその母性ゆえだったのだろう。

いつも優しくしてくれたアキコに、そのお返しをしたかったのだろう。

ボロボロになってナデシコを護ろうとしている彼女を救いたかったのだろう。

・・・なーんて、格好つけてみました。

まあ、書きたい事は書いているつもりなんですけど、伝わってますかね?

次回は、アキコ不在のナデシコクルーの心境の変化を描きたいと思います。

では、次回へ。


 

改定後の一言。

・・・実は凄え楽してます。

修正作業。

HTLMに直す時、プログラム使ってますんで。

・・・文体だけ変えたいなら迷惑かけんでもいい気がしますが。

すいません。

04年2月26日武説草良雄。 



管理人の感想

武説草良雄さんからの投稿です。

ま、アキトサイドはある意味順当ということで。

・・・シュンそんなに素性の怪しい人間を軍に雇うなよ、傭兵じゃあるまいしw

アキコはアキコで奮戦しすぎてオーバーヒートしてますし。

コウタロウとの再会の日が楽しみですなw