何とか和平の意思をまとめたナデシコ。

・・・その翌日、アキトがルリと一日デートするように王女に命令されてしまった為、ナデシコクルー共々一日、休みとなった。

・・・・・・そして、今日。










第10話「過去をひきずりゃ過去に泣く」










「・・・今日はデート、か」

アキトは誰にともなく自室で呟く。

ルリに付き合う事自体は苦痛ではない。

だが、その他の女性陣の視線がすざまじく痛い。

「今日も休めない、か」

休暇があるたびに自分は何でここまで貧乏性なのかふと思う。

休暇のはずなのに全然休んでいないという日本人の悪い癖がアキトにも染み付いているのだろうか。

「んー。たまにはルリちゃんと出かけるのもいいんだけどね。

この前は二人誘ったから何ともなかったけど・・・。

・・・あーあ。今回は凄い見られるしなー」

・・・凄くネガティブな態度をしているアキト。

人間こんなもんだ。

「・・・・・・はぁ〜。悩むのも馬鹿らしい、腹決めて出かけるか」

いつもそれくらいの度胸で挑めばいいだろうに。

と、アキトはジャケットを着て準備を始めた。

「アキトさーん、まだですかー」

「もう終わるよー」

特に準備もなく、服を着替えるだけで出かけるアキト。








コウタロウの部屋。

「今日はアキトとデート、デート♪」

二人きりで出かけられると会って乗り気のコウタロウ。

この前デートしただろ?などと突っ込みたくもなるが、長い間お預けを喰らっていただけにやはり嬉しいらしい。

「よっし!完璧っ!」

彼はジャケットを羽織り、部屋を出た。

「アキコ、早くぅ〜!」

「はいはい、今行くよ〜」

・・・同じく、着替えるだけで出てくるアキコ。







シーラの部屋。

「ライザさん、少し街に出ません?」

「・・・いいの?」

ライザは外部との接触を取れる状況において良いのかと問う。

「だってライザさんも外出たいでしょう?」

「それはそうだけど・・・」

「だったら早く行きましょう!」

「・・・・うーん、分かった、行くわ」

「では。・・セレスー!あなたも行くでしょー!」

シーラはアニメを見ているセレスを呼んだ。

「あ、はい。でも母さん、こんな事ばかりでいいんですか?」

「何が?」

セレスの疑問顔に首を傾げるシーラ。

「・・・ジュンさん、とられちゃいましたけど・・・誰か誘わないで良いんですか?」

その一言にシーラは眉をゆがめてセレスに近づいた。

「余計なお世話!まだ私は若いから時間はあるのよ〜!」

ぎゅ〜〜〜っとセレスの頬を引っ張る。

「いたっ、痛いですよ」

「・・・・分かったら母親の恋愛事情に口を出さないの!」

「・・・・・はぁい」

ライザはその光景を見て微笑していた。

年齢が上に見えるロボットに向かって母親のような口調で、いや。

姉のような口調で話すシーラの姿はどこか間が抜けていた。

「さ、行きましょう」














ー街。

「アキトさん、今日はあくまで私のボーイフレンドとして振舞ってくださいよ」

「分かってるよ、ルリちゃん」

ルリは嬉しそうな表情でアキトにくっ付いていく。

「・・・今日はただの冴えない男として振舞うよ」

「・・・もう少し気の効いた言い方ってないですか?」

ルリは頬を膨らませる。

「まあ、それはそれ・・・・で、今日はどうしよっか・・・」

「とりあえずショッピングでも行きません?」

「ラピスにもお土産を買いに行かなきゃいけないしね」

二人はデパートに入った。

と、アキトは立ち止まった。

「・・・ルリちゃん、階段から行こうか」

「?どうしてです?」

「あれ、あれ」

アキトが指差す先にはアキコとコウタロウが居た。

二人はアクセサリーを見ているようだ。

「・・・この前みたく顔を合わせたくない」

「・・・それが妥当ですね」

二人はこそこそと二階に向かった。







コウタロウが唸りながら商品を見つめていた。

「う〜ん、何が良いかな」

「・・・コウタロウ、あんまり選ばなくても」

「駄目だよ、こういうのを少しは持っておかないと、女の子らしくないよ」

そう言ってネックレスをかけてみる。

「・・・微妙」

「そう?」

アキコの感想は至極普通のものだった。

それもそのはず、彼女はまだ男装に近い格好をしていた。

別に不自然なほどではないが、少し浮いて見える。

「俺はコウタロウとお揃いを持ちたいな」

「・・・お揃い?」

アキコは少し恥ずかしそうに言った。

「・・・うーん、やっぱりまだ慣れないし・・・コウタロウが持ってるのなら少しは・・・って」

「それならこれがいいかな」

そして手にとったのはハートが二つに割れた形をした銀色のペンダント。

「『STAY WITH ME』=「ずっと一緒に居ようね」って意味。どうかな?」

「・・・・・・」

そのありふれた形のペンダントをじ〜っと見つめるアキコ。

「・・・うん、凄くいい」

彼女は顔を赤くして頷く。

「じゃ、買うよ」

コウタロウはレジに持っていく。

「あ、払いは俺が・・・」

「これくらいは俺が買うよ。だってずっと一緒に居たいもん。だから、ね?」

「・・・ありがとう」

小さい声でアキコは礼を言った。

「あとね、これ中にプリクラの写真が入るんだって。ほら」

ペンダントが開く。

「・・・じゃ、とってこうよ」

「うん、いこっ!」

コウタロウはアキコの腕を引っ張った。

その様子を見て、彼女は微笑んだ。










「・・・そろそろお昼時ね」

「あ、母さん。そこにピザ屋さんがあるよ」

すると、一見の店が見えた。

「じゃー昼はピザ!」

・・・気楽に決め、三人は店に入っていく。

「いらっしゃい!元祖ピッザ&パスタの五つ星の店にようこそ!」

「・・・・元祖?」

「・・・イタリアとかじゃないのに?」

ライザは突っ込んでみる。

「お客さん、そこは細かいとこ抜きにして」

いや細かくない。凄く細かくない。

「じゃ、この店のおすすめを」

「はぁ〜い!最強ピザ、一枚!」

・・・雲行きが怪しくなってきた。

(ライザさん、なんでこんな騒がしいんですかね?)

(・・・私に聞かないで。っていうより何?最強ピザって)

二人がこそこそと話している間にピザが出来上がっていた。・・・所要時間5分。

「へい、おまちぃっ!」

どんっと大き目のピザが置かれた。

具は野菜中心の、スパイスが効いていそうな癖の強そうな匂いのするピザであった。

「「ぱくっ」」

口に入れた二人の顔が歪む。

「「不味っ!!」」

「何だ、うちのピザが不味いってかい!」

シェフが怒りをみなぎらせたような顔で近づいてきた。

・・・だが、その前に居た少女はもっと凄い顔をしていた。

とても優しそうな姉の顔をしていたが、顔を上げたときにはどこか切れた若者を思わせる顔つきになっていた。

カチューシャを上げ、髪を逆立てる。

「何だ、こんのまっずいピザぁ!?

辛えだけで不味い不味い!こんなもんばっか食ってたらそいつの舌は一生おかしいままだろうな!

こんなんで店が成立してるあたりで訳わかんねえ!

つーか俺が昔二度と作るなって言われた料理よりひでえぞ!

客を、いや料理舐めてんのか!?あ!?」

激昂するシーラ。

怒った時にカズマのような台詞を吐き散らすあたりが彼女らしい。

「ちょっ・・・落ち着いて」

「止めんな!これは俺の戦いだ!」

ライザがなだめるのも聞かず、シーラはアタッシュケースからシェルブリットを取り出し、装着する。

「俺の料理が、不味いだとぉぅ!?

野郎ども、女子供でも容赦するな!

やっちめええ!」

「「「「「うおおおおおお!!」」」」」

「ハッ!やれるもんならやってみろ!

いくぞ、セレス!」

「はっ、はい!ロケットパーンチ!



・・・どごんっ。



・・・この日、爆破テロがあったとかなかったとか言う報道があったそうな。

「・・・あの店、壊滅してますよ」

「・・・・・・見なかった事にしよう」

破壊した本人は口直しにファーストフードを食べに行ってしまったらしい。

見覚えのある店をアキトとルリは通り過ぎた。











公園。

「・・・思えば、アキトさんとここに来たんだ・・・」

シェリーは一人で出歩いていた。

彼女はこのピースランドの町並みを見て思う。

何故、ここでは・・・いや、地球上では表面上平和なのに悪人は存在するのだろう・・・と。

彼女はいつも思うのだ。

このピースランド付近でさえ、マシンチャイルドの実験をしていた事があった。

・・・実際は悪人なんて一握りである事も彼女は知っている。

だが、その一握りがどれだけ世界に影響を及ぼしているのかと言えば、

実例を上げれば草壁のような人間が戦争を起こし、西欧地方の上官は民間人を見捨てろといった。

そう考えると彼女はやりきれなかった。

「・・・平和って、そんなに要らないのかな・・・」

自分は平和が欲しい。

あの二人と一緒にラーメンを作る生活をしたい。

それなのに、それなのに現実はそれを阻もうとする。

この戦いが終わったとしても火星の後継者は現われるだろうし、

自分が成人してからは自分の道を歩んで欲しいと言われるかもしれない。

・・・・・色々な不安が彼女を囲む。

その不安は、恐らく自分が心配しすぎているからだと思いたい。

しかし、彼女はまだ少女である。

安定できる場所が無い訳ではないが、自らの定位置というものが存在していない彼女には心細く思えた。

「・・・・・・・」

自分だけではない。

平和を欲しているのはアキト、アキコ、コウタロウ・・・ナデシコクルー全員。

それぞれが自分の価値を探し、自分の居場所を探している。

彼女は最初にナデシコに乗っていたときからずっと大人びた性格を見せていたが、

彼女自身はまだ甘えたりていないのかもしれない。

ハーリーを諭したルリでさえー愛情を欲している。

ベンチに座ってぼーっと空を眺める彼女の姿は悩ましく、そして美しかった。

「・・・シェリーちゃん」

「あ、アキトさん」

そこにアキトとルリが現われた。

「どうしたんだい?」

「・・・空を見て考えてたんです。

・・・・・・・ナデシコの皆は平和を勝ち取る為に戦っています。

けど、それ以外の人は平和が要らないんでしょうか・・・」

シェリーの一言にアキトは小さく首を振った。

「そんな事ないよ、シェリーちゃん。

本当はみんな平和なほうが良いさ。

・・・平和が要らない人のほうが全然少ない」

「ええ、分かってるんです・・・分かってるんですけど・・・どうしても、考えてしまうんです。

結果は同じなのに、いつも同じなのに・・・。

・・・現実では戦争は繰り返され、悪人がはびこり、見えない所で悪事が起こる・・・。

そう思うと、結果が同じなのに、何度も考えちゃうんです・・・」

シェリーの言葉に二人は黙り込んだ。

二人も同じ気持ちなのだろう。

「・・・私、アキトさんもアキコさんも傷ついて欲しくないんです・・・。

二人が傷ついて作ろうとしている平和なのに・・・・・・。

傷つかず、それを壊そうとする人が・・・憎くて憎くて仕方ありません。

・・・・・・アキトさんに、アキコさんに代われるなら代わってあげたいんです・・。

私は、二人の為に何も出来ません」

そのシェリーの弱々しい姿を見てアキトは言った。

「・・・確かに何かをする度に俺は傷ついてるかもしれない。

だが、それは俺が望んだ事だろう?

シェリーちゃんもルリちゃんもその姿を見て悲しむ事は無いんだよ」

「・・・それでいいんですか?アキトさんは表面上で笑っていても・・・アキトさんの心は・・・・」

「・・・・・・良いとは言い切れないかもしれないな。

正直、アキコとコウタロウを羨ましく思ってるんだ。

・・・・あいつらは最後はお互いに求め合えたんだ。

俺は求める事も出来ず・・・今だに拒否しようとしてるのさ。

・・・・・・心の底では求めてるくせにな。

あの時代のユリカに・・・触れる事も出来ないのが悔しいくせに・・・・。本当は触れたいくせに・・・な。

俺は、どうするべきだ?

ルリちゃんを求めるのか?シェリーちゃんか?・・・・・・この時代のユリカか?

考えていくといたちごっこ、終わる事の無い思考のループにはまる。

・・・・・・二人に聞きたい。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
俺は、傷つかない為に二人を求めて良いのか?」


アキトの一言に二人は固まった。

そして、思った。

((それでもいい))

と。

「・・・多分、求めて良いって言うかもしれない。

でも俺はまだ迷ってるし、結局責任逃れ程度にしかならないのかと思うんだ。

・・・・・・・少なくとも迷いを吹っ切れれば誰かを求める事はできると思う。

今回は、もう消えたりしないけど・・・。

それでも、俺は・・・迷いを振り切れない、優柔不断な男なんだよ」

アキトは・・・鈍いのか、知っていたのか。

それともアキコに言われて、もしくは自分を比較して認識したのか。

「・・・最後に残るのは・・・・・・今みたいな後悔の念と、ボロボロになった自分・・・。

・・・・・・・そうじゃないって思いたい」

「「・・・アキトさん」」

二人の声が重なる。

「・・・アキト」

「・・・アキコとコウタロウか」

二人はいつのまにか後ろに立っていた。

「・・・・・・二人もここに来たか」

「ああ。それよりアキト、お前は自分の為に戦っているのか?」

「俺の為?皆のためだよ」

「それじゃ迷いは振り払えない」

「・・・なんだと?」

その一言にアキトは驚く。

いや、少し間の抜けた顔をしたというべきだろうか。

「・・・女になって一年半・・・最近思うんだ。

『昔より欲張りになれた』ってな。

笑っちまうだろ?開き直ってんだよ、自分の欲望にさ。

だが、だからコウタロウを求められた。自分の本音を全部言えた。

・・・・・・もちろん、それだけじゃないけどな。

けど、これだけは言える。

『自分の為に戦えない奴は、誰かの為に戦えない』」

静寂がその場を包み込んだ。

1秒・・・2秒・・・・。

20秒ほどたってから再びアキコが口を開いた。

「・・・・・・自分がユリカを求めてることを分かってるならこの木連との戦争が終わったらでいい。

この時代のユリカでも・・・いや。そこの二人がよければそれもいい。

自分の本音考えて誰かと付き合ってみろよ」

「・・・俺の本音?」

「ああ、自分の本当に望むもの。自分の意志で手に入れようとするものだ。

誰かの為に手に入れる、それはそれでいい。

だけど、だけど・・・だ。

自分が本当に望んでいる物はもっと個人的な理由だ。

「あいつが好きだ」「キスがしたい」そういう欲望で出来たもんだ。

・・・・無論それだけ求めたら悪人と同じになっちまうけどさ。

自分がやりたい事・・・「コックになりたい」ならどこでもいいからコックをすればいい。

・・・・・・例え、『どこでも』な」

アキトはその言葉の意味するところが分かった。

例え軟禁同然の生活でも、連合軍に編入されてもコックを続ける・・・そういう事だ。

『本当に望んでいるなら、それをやればいい』・・・。

簡単なことだ。

だが、彼は・・・自分で望んだ、そう言いつつ誰かの為である。

「・・・・・・ああ、そうだな。考えてみる」

「『下手な考え休むに似たり』、お前は試した方が良さそうだぞ」

その一言にアキトはむっと唇を吊り上げた。

「・・・・・・アキト。自分の為を考えるのは本当は大事なんだよ?」

コウタロウが口を開いた。

「・・・・・・「アキトは私が好き」って言う事があっても、

「私はアキトが好き」って聞いたこと無いって言われた時のこと。

結局、俺を好きになってくれても「自分の為」しか考えてなかったあの頃・・・。

アキコと同棲してたとき、やっと気付いた。

「自分の為」だけ考えるんじゃ駄目なんだって。

俺は「自分の為」、自分を好きになって欲しいからアキコの為に動いてただけなんだ。

・・・それを意識せず、それも迷惑がかかるほうばかりにしてた。

・・・だから、「誰かの為」と「自分の為」を両方出来ないと、

本当に自分が何を望んで、何を誰の為にすれば良いのか、それが分からないよ?」

「・・・そうだな」

アキトは小さく笑った。







五人はそのままスカンジナビアのフィヨルドにある研究所に向かった。

そこはルリ、そしてシェリーが生まれた場所である。

「・・・私はここで生まれた」

ルリは小さい声で呟いた。

「・・・・・・過去に来たときは色々な事があって混乱してましたけど・・・。

こうして見るとやっぱり無機質で嫌な場所です」

「・・・ルリ、私もそうだけどここから生まれたって思いたくないよね」

「・・・はい。でもここで生まれたからアキトさん達に出会えたんです」

二人は感慨深そうに話した。

「アキトさん、過去に戻ってきて思った事は?」

ルリは後ろに居るアキトに話し掛けた。

「・・・最初に目が覚めたときは五感が戻った事に感動してたよ、単純に。

でもそれから覚めるとラピスがリンクで話し掛けてきて、

取り返しのつかない事をしたんだって後悔したよ。

ナデシコに乗り込んでからはサツキミドリの人やガイにを助けられてよかったと思ってる。

・・・・・・けど、やっぱり迷惑をかけただけなんだっていうのが本音だよ」

「・・・後悔はしないで下さい。

自分で道を選ぼうとして失敗して誰かを巻き込んでしまう事なんてよくあることじゃないですか」

ルリはアキトに向き返った。

「・・・そうは言ってられないよ。これは完璧に俺の責任だ」

「・・・背負わないで下さい。私がアンカーを打ち込まなければ良かっただけなんですから」

「・・・・・・しかし」

「・・・後悔は失敗しか生みません。反省すればいいんです。こういう事を二度としないように」

「・・・・・・ああ」

二人が話していると一人の男が後ろから歩いてきた。

「ルリさん・・・だね?」

「お久しぶりです」

「私の事を覚えて・・」

男はこの研究所の元研究員だった。

「ええ、忘れたくても忘れられませんよ。

こんな辛気臭い場所に閉じ込められていた女の子の気持ちを考えてください」

その一言に研究員は苦笑した。

「ああ、悪かった。

だが、君のような・・・いや、もう変わったんだね。

・・・愛想が無くても仕事を完璧にこなせる、そういう子を作ってきたと思ったんだが」

「・・・・・・まだそんな事を言う気なんですか?」

「否定はしない。だがこれから地球人が宇宙に向かっていくにはそういう子と、

遺伝子の操作が必要だと私は考えていた」

「・・・だが、ここに居る三人は火星出身だが結構順応できるもんだぞ?

何で人間の能力の可能性を考えられないんだ?」

アキトの質問に研究員はかぶりをふった。

「・・・・・・君達は多分、特例中の特例なんだろう。『ナデシコの悪夢』」

聞きなれない呼び名を聞いてアキコは聞き返した。

「何だ?それ」

「ああ、聞いてないのか。

最近ニュースで取り上げられてた「漆黒の戦神」と「マーズ・オブ・マーズ」。

ナデシコから出た二人・・・突如現われ、連合軍を圧倒した君達は「悪夢」。

二人合わせて「ナデシコの悪夢」。

・・・バール少将が直々に命名してくれたそうだ」

「・・・あの男らしいな」

アキトはやれやれ、と言った表情を見せる。

「・・・とにかく、色々と興味は尽きないのさ。

世の中をボーっと見ているだけでも君たちのような特殊な存在に出会える。

・・・だが、いくら興味が出ても触れちゃいけないこともある。

結局私の研究はただ抵抗の出来ない少年少女を弄んでいただけなんだ」

「・・・分かっているなら何故ー」

「・・・・・・私は、自らの研究にセーブをかけられなかった。

何故か、と言われれば・・・わがままとしかいえないな。

自分でもよく分からなかった。だからこれからは研究員として生きることはしないだろう」

「・・・そうやって思えるだけマシだな。

思い返さず進む事しかしない奴だってまだごろごろ居るんだ」

「・・・ああ。

それよりそこに居るルリさんのお姉さんみたいな人は誰だい?

君くらいの該当する年齢は・・・フィリス・クロスフォードしか居ないが・・面影が無い」

研究員はシェリーの方を見つめた。

シェリーは研究員を見つめて言った。

「・・・シェリー。スミダ・シェリー。・・・・・・・ここに居ないはずのマシンチャイルドなんです」

「・・・ははは、君達は本当に興味深い。だけど私はそれに触れる事を許されない人間だな」

「・・・・・・人には触れちゃいけない場所があるんですよ」

「・・・ああ。・・そうだ、これはー」

「いりません」

ルリは差し出そうとしたカードを受け取らなかった。

「自分を売ったお金を受け取っても嬉しくありません。ここを出た他の子供にあげてください」

「・・・君は本当に人間らしくなった。ルリさん、いい人生を歩んで」

「・・・・・私を生かしてくれた事にはお礼を言います。ありがとうございました」

研究員は去って行った。

彼等は研究所の裏に行った。

そこでは池で鮭が跳ねたりしている静かな場所だった。

アキトは芝生に腰掛け、呟いた。

「・・・あの研究員、俺みたいだったな」

「・・・アキトさん?」

「・・・大罪を犯してそれでまだ悩んでるみたいだった」

「・・・・・・」

「そしてあの人の好奇心が止まらないように俺も戦いに対する望みもある。・・・・・・だから」

「違う、とは言い切れないよな」

アキコも頷いた。

「・・・俺も戦うことに喜びを感じていた事があった」

「・・・この前のあの時?」

コウタロウがアキコの横に立つ。

「・・・ああ。体はガタガタなのに心は躍ってた。

・・・・・・コウタロウと静かに暮らそうとしてもそれを忘れられないかもしれない」

「・・・・・・アキコ」

「・・・・・・分かってる、無理はしないよ」

自分の胸に手を当てるアキコ。

「・・・この体は俺の物で、コウタロウの物でもある。

俺個人の望みはコウタロウと生きる事。

そうだろ?」

「・・・うん」

「・・・はぁ」

アキトは二人の様子を見て小さい溜息をついた。

そして二人に聞こえないほどの小声でアキトはルリに話し掛けた。

「・・・俺は、この二人と何が違うんだろ?」

「・・・さっきアキコさんが言ってた事じゃないですか?」

「・・・・・けどなぁ〜」

まだ自分の気持ちに正直になることをためらうアキトだった。














「・・・・・・太るよ?」

「あー大丈夫です。これくらいなら」

シーラ達はファーストフード店に来ていた。

シーラの前にはハンバーガーセット(LL)×3が並んでおり、ライザはフィレオフィッシュを食べていた。

「・・・はぐはぐ」

貪り食う姿ははしたないと言うかなんというか。

「・・・ナデシコ食堂のほうが美味しいじゃない」

「いえ、たまにこういうの食べると思い出すんです。昔を」

「・・・・あの人のこと?」

シーラはコーラでパンを流し込んだ。

「んぐっ。そうです」

「・・・聞かせてもらえる?」

「はい、ライザさんなら」

シーラは語りだした。

「・・・あれは2年前の夏でした」






「シーラ、お前何か食いたいものとかある?」

「えーと・・別に無いですけど」

私達は会社帰りに夕ご飯の相談をしていました。

私もヒロシゲさんも料理が出来ないので大体帰る前に何か買うか食べてから帰る事がもっぱらでした。

「じゃ、ちょっとマッツ行くか」

「・・・昨日も行きましたよ?」

「駄目か?」

「いえ、別に」

私もファーストフードは嫌いじゃなかったんで了承しました。

トレーを持って話し始めたんです。

「そういやさ、バランサーが少し調子悪いんだが」

「え?あー、ちょっと右よりだったんで左に直したんですが」

「直したって、少し大きすぎだな」

仕事の話をしながら食事を食べていたんです。

そしたらー。

「・・・あ、そうそう。

スキャリバリプロジェクト、お前も乗せるってよ」

「え?」

ナデシコの事でした。

「・・・うーん、何の役ですか?」

「ほら、お前が開発した新型エステの専用整備士だってよ」

ヒロシゲさんの乗っていた機体ー。

私が考案した全包囲方スクリーンを搭載したエステで、・・・思想自体はアニメのを参考にしたんです。

結局、整備が困難って言われて正式採用はされなかったんですけど。

「いやー、使いやすいよな。あのエステだと敵の位置が丸分かりだぜ」

システム自体は・・・自分で言うのもなんですが、かなり良く出来ててIFSのシステムに噛みあってて。

私のデンドロバリスのアサルトピットも同じ形をしてるんです。

小回りが効かないのでそれほど意味は無いんですけど・・・。

「あ、そうですか?」

「おおよ。・・・いつもお前の思い付きには驚かされる」

一緒にアニメを見てたはずのヒロシゲさんでもまさか本当にやるとは思わなかったんでしょう。

「・・・で、話を戻すけど。ついてくるのか?」

「へ?何か問題でも?」

「あ、いや、別に・・・だけど危ないぞ?」

・・・この時は気付かなかったんですけど、この頃からお互い両思いだったみたいなんです。

それでできれば乗り込んで欲しくなかったのかも知れません。

「・・・私は、ずっとここに居続けるほうが危険だと思うんです。多分、親父は私をまだ狙ってくるでしょう」

「・・・そうか。ま、お互い気をつけような」

・・・お互い不器用で一年以上自分の気持ちを打ち明けないでいたんです。

でも、私の事を大切にしてくれたのは分かります。

人殺しの、こんな私でもー。





「・・・だからファーストフードを食べるとそれを思い出すんです」

「辛くないの?」

ライザはその言い口だとファーストフードを食べると死んだ恋人を思い出して辛くなるのだと思った。

「いいえ。

私は優しいヒロシゲさんを思い出す事が好きなんです。

まだ、求める男性は居ません。

ジュンさんも先行投資・・っていうと言い方が悪いですけどそんな感じでした。

だから、こうやってヒロシゲさんの面影を追いたいんです・・過去に生きれば、ヒロシゲさんに怒られますけど、

たまに思い出したい時はこうやってヒロシゲさんにまつわる行動をとるんです」

「・・・罪な男ね。こんな可愛い子を自分に縛り付けておくなんて」

「それだけ魅力的だったんですよ。いつも一緒に居るだけでも安心できたんです」

「・・・・・・あなたは私の逆よね、ホント」

「・・・ライザさんもいい人を見つけてください」

「・・・あなたもね」

お互いに残った食べ物をかっ込んだ。






作者から一言。

・・・・あのーすいません。

メールアドレスの凍結とサイドストーリー1−1の消去をしてくれませんか。

な、なんか弟にばれそうなんで(弟のみメールを閲覧可能なので)。

・・・送るだけならできるんでお願いします。

・・・・・・・・ばれたら投稿が止まってしまうかも知れんので・・・。

あ、今回のコメントは・・・ちょっとマンネリと自粛しただけですな。

そういうわけで感想は掲示板にお願いします。恐らく少ないと思うんで・・・。

>だって、作中でその違和感を打ち消すための措置が何ら取られてないんですから。

・・・あー、そうだったんですか。そういえば心境は変化したとは言いましたけどそれ以上は言ってませんね。

では次回へ。

 

 

 

代理人の感想

うーん。

やっぱり根本的に説明が不足してるかと。

と、言うより武説草さんの意図に読者が共感できるような書き方がされてないんですね。

言い方は悪いですが読者が「うむ、その通りだ!」と思えるように誘導しないと。