前回の夜の事。

その誘いは唐突にだった。

少なくとも誘われた側は。

「・・・ルリちゃん?」

「はい?」

「遊園地でも行かない?」

「え!?」

・・・彼が女性を誘ったのは生まれて初めてかもしれない。






第6話「命につく名を心と呼ぶ」






「〜〜〜〜♪」

ルリが上機嫌で廊下を歩く。

そう、アキトから誘われたからだ。

「あれ?ルリちゃんどうしたの?嬉しそう」

廊下でユリカと遭遇した。

「はい!アキトさんとデートなんです」

誘われたからなのか、包み隠さず堂々と小さい胸を張って言った。

当然ユリカはー。

「えっ(硬直)」

「〜〜〜♪」

ルリは通り去って行った。

「あ・・・・ああ・・・!」

ユリカは呆然としていたが、再起動し、コミュニケで某同盟のメンバーに連絡を入れた。









「・・・それは確かな情報なのね?」

「うんうん!ルリちゃんが自分で言ったもん!」

「・・・監視を要するわね」

「科学者」が呟く。

だが、その後に予想もしなかった事態が・・・。

「あ、私は明日空いてません」

「私も」

「・・・・・・同じ」

「空いてないよ」

何とシェリー、アイ、マリー、ラピスは監視に出られないと言ったのだ。

「そういう訳で、私達は今日の会合は休ませて貰います。報告はしてくださいね」



ぷしゅ。



「・・・・どういう事?

ナデシコに乗っている以上、予定なんてそう入らないはずよ?」

「・・・そうだな、ここにいる人間は会合には必ず顔を出すし、アキトの事なら他の予定を蹴っ飛ばすからな」

「裏方」と「赤い獅子」が顔を合わせる。

「・・・これでは妖精一連の電子的監視は出来ないわ。地味に普通の監視をしなければいけないわね」

「しかし、それは困難ですよ?ターゲットは勘がいいんですから」

「「金の糸」それは承知よ。でも抜け駆けは許せないわ」

「ならここにルリちゃんを呼んで事情を聞いたほうが良かったんじゃないの?」

「「メンテ」、以前もそうだったけど、ターゲットに気付かれないから意味があるのよ。

監視をする事は多分分かってるはずだけど。

こちらから警戒心を植え付ける必要は皆無よ。

とにかく明日の早朝5時、「妖精」の部屋の前に張り込みを開始するわ」

「「「「「「「「「「イエス、マム!」」」」」」」」」」」

・・・訳わからん。







・・・こちら、ウリバタケ研究所ナデシコ支部。

「・・・・でだな、これを飲ませる方法だが・・今日は食堂が休みだ。

奴は当然、外食をするだろう。

その時に仕掛けるしかないだろうな・・・」

「しかし、それは至難の業ですよ?

どう考えても勘のいいTAに近づき、なおかつ薬を仕込むなんて」

ジュンが嘆息した。

「・・・それならSKに仕掛けるのはどうだ?」

「・・・あっちももう一人のTAがついてます。

そもそも、もう一人のTAの報復が恐ろしいですよ」

ウリバタケの提案を三郎太は却下した。

「・・・ならどうやって仕掛ける?食堂の料理に混ぜる事も困難だろうしな。

・・・・・にしてもあの人間磁石どもはどうしてこう・・強力な力を持ってんだろうな」

「・・・今更ですよ、ウリバタケさん。

・・・・・・報復が及ばないならこの薬、アカツキの食事に混ぜますか」

「・・・そうだな」

・・・なにやら決定したらしい。










(・・・アキト、私だけじゃなくてルリまで誘ったの?)

ラピスは部屋に戻る途中、ふと思った。

(よし、ルリに聞きに行こう)

思い立ったが吉日とばかりにルリの部屋に向かうラピス。

・・・だが、今は午前2時である。

はっきり言って起きているわけがない。

「ルリ、ルリ〜!」



ぴんぽんぴんぽん・・。



呼び出しのベルを鳴らしつづける。

1分ほどして凄い眠そうな顔をしたルリが出てきた。

「ん〜・・・なんですか、ラピス。

今ちょうど寝に入ったところなのに・・・・」

やはり、アキトとデートができるという嬉しさから眠れなかったらしい。

「ルリ、アキトから誘われた?」

「あ、はい。それがどうかしました?」

「・・・やっぱり」

「?」

ルリは首をかしげる。

「私も誘われたんだけど・・・今日、同盟の会合があって、それでルリも誘われたって聞いたから・・少し気になって」

「・・・アキトさん、デートじゃなかったんですね」

ルリは溜息をついた。

「・・・でもアキトさんと出かけられることには変わりません。

今日はもう遅いです。ラピスも早く寝ましょう。

寝不足は体に悪くいですし、成長にも影響が出ちゃいますよ」



ぷしゅっ。



「・・・アキト〜」

ラピスは寂しそうに・・・いや、悔しそうに部屋に戻っていったらしい。











で、アキトがルリを誘っていた頃。

「ふ〜、今日は疲れた。結構肩にくるね」

シェリーは床屋で同じ姿勢で居たのが辛かったのか、肩をコキコキと鳴らす。

「・・・シェリー」

「なに?マリー」

「・・・ううん。やっぱり何でもない」

寂しそうに俯くマリー。

「・・・マリー、相談があったら言って。私達は家族なんだよ」

「うん・・・分かってる」

こればかりは相談するわけにはいかないとマリーは思っている。

と、そこにー。


ぷしゅっ。


「ただいまー!」

「あ、アキコさん、コウタロウさん」

「!・・・アキト」

マリーはアキコの方に駆け寄る。

「アキト、アキト・・・」

「・・・マリー」

その様子を見てアキコは思わずマリーの頭を撫でた。

「ごめん、寂しかったかい?」

「・・・ううん」

嘘である。

彼女は本当はもっとアキコと一緒にいたかったに違いない。

「シェリーちゃん、綺麗になったね」

「どうも・・・って言っても戻しただけなんですけどね」

コウタロウに向かって小さい笑みを見せる。

変装のための眼鏡も外し、完全に元の姿に戻った。

「・・・二人とも、明日一緒にどこか行こうか?」

「!行く行く!」

マリーは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。

「・・・アキコさん、どうかしたんですか?」

「いや、マリーが少し寂しがってるって聞いたからさ。たまにはいいでしょ?」

「・・・はい」

シェリーも心底、アキトと付き合いたいというのも本当だが、アキコとは家族だ。一緒に居たいという気持ちもあるのだろう。

「・・・アキト」

マリーは眠そうな顔をしていた。

もう夜も遅い。

「ほら、今日は眠って明日出かけよう」

「うん・・・お休み、アキト」

「お休み、マリー」


ぷしゅ。



「マリー、良かったね」

「・・・・うん。でも・・」

「でも?」

「アキトは・・・こんな時でもラピスって呼んでくれない・・・」

「それは・・・別に・・・私もそうだけど・・」

ラピスにはそれが意味のある事だというのはシェリーも分かっている。

「そっそれは、こっちに来てからの魂の名前という事で・・」

「・・・・シェリー、変」

「あ、ははは・・」

シェリーは苦笑した。

・・・・こう言う以外に方法はなかったのだろうか。











翌日。

ジェットコースターが青い空(バーチャル)を駆け巡る。


ごおおおおおおお!


「きゃあああ!」

「・・・・・・」

ルリは絶叫している。だが、ラピスは黙りこくっている。

「・・・ラピス、リアクション無しですか?」

「だって、いつももっと凄いでしょ?」

いくら重力制御が利いているナデシコ、もしくはナデシコC、ユーチャリスでも、攻撃を受けたりすれば振動は半端ではない。

「・・・それにしても反応無しって言うのは・・」

「アキトなんかリラックスしてるじゃない」

「・・・そうですけど」

・・・ここのジェットコースターはマッハ1に到達する速さで有名だ。

これに挑戦する人は絶叫マシンマニアか、怖いもの知らず位なもので、

小学生くらいの少女が平然とした顔で座っているのはおかしい。

いや、かえって可笑しいか。

「・・・まあ、これくらいサレナの全速力に比べればね」

「・・・かえってつまらないかもしれませんね、絶叫系は」

・・・・ジェットコースターの上でする会話ではない。










その頃。

アキコが二挺のライフルを持ち、弾を込める。

そして銃身を上げると!


ぱぱんっ。



「おおっ、凄いなねーちゃん。ほれ、景品のぬいぐるみだ」

・・・射的だった。

一撃では落とせないはずのぬいぐるみを二挺使って落としていた。

「マリー、やってごらん」

「え・・?」

マリーは不意に呼ばれ、射的用のライフルを持たされる。

「うんしょ・・・」

マシンチャイルドである彼女には少々重く感じられた。

「こうやってね・・・しっかり狙う」

「・・・・・・」

アキコに支えてもらい、狙いを定め、撃った。


ぱんっ!


「ほら、当たった」

「・・・ありがとう」

景品は落ちなかったが、不器用に礼をいうマリーの顔は赤かった。

「・・・・・・・」

その隣では目を細めて景品を狙うコウタロウがいた。


ぱんっ。


「・・・何で当たらないの」

・・・彼はこういう事は苦手らしい。実はこれで5回は外している。

「にーちゃんよ、少し肩の力を抜いたらどうだい」

「はい・・・すーぅ・・・は〜ぁ」

深呼吸をして再度狙いを定める。


ぱんっ。


「当たらない・・・アキコぉ〜」

目を潤ませてアキコの方を見つめるコウタロウ。

「コウタロウ、違うって。こうやって」

前のめりで銃を構えていたコウタロウの体を少し引っ張って姿勢を整える。

「で、撃って!」


ぱんっ。



弾は見事、景品に命中した。

「情けない面すんなよ、男だろ?」

そう言って射的の担当の親父さんは落としたぬいぐるみをコウタロウに渡した。

(・・・男、か)

実際、コウタロウは男として慣れて来た事は事実なのだが・・・。

やはり昔の面影は残っている。

・・・なんというか情けないところでそれを発揮してしまう。

「さ、二人とも行こう」





その頃。

「・・・はぁ。三十路になって遊園地に来てもあんまり楽しくないわね」

「・・・・・それなりに楽しんでるじゃないアイちゃん」

「まあね」

二人は食堂コーナーで休んでいた。

シェリーはコーラフロート、アイはイチゴパフェを食べていた。

「あ、そうそう。あの日記・・・まだ渡してもらってなかったけど」

「ちゃんと書いたよ。後で渡すね」

・・・実は「アイの日記」はアキコの観察日記だったが、同様に「シェリーの日記」もあるらしい。

当然、コウタロウのことが書いてあるものである。

「しかし変われば変わるのよ。シェリーちゃんもこんなに変わるとは思わなかった」

「それはアイちゃんだって。こんなに可愛い女の子だったとは思わなかった」

「・・・遠まわしに私がきつかったみたいって言ってない?」

じとー。とシェリーのほうを睨みつける。

「ううん。アキコさんと一緒にいる姿がしっくりきてるから」

「うん・・・でもホント。お姉ちゃんもコウタロウさんもね、まだ完全には変わってないけど・・・。結構変わっちゃったよね」

「そうだね・・・アキコさんは女の子なんだよね・・・。最近はよくそう思うんだ。

昔みたいに気を使ってくれるけど・・・もう寂しそうに見えない。

昔から自分を表現してくれなかったんだ、アキコさんは」

言い終わるとコーラを吸い上げる。

「・・・そうね、みんな変わったわよね。

火星の後継者と戦う頃になったらどうなってるんだろう?」

「・・・・・・想像も出来ないよ」

二人は少し困ったような顔でお互いの事を見た。

「・・・ふぅ・・私も歳相応にならないと駄目かな」

「アイちゃんは元に戻らないの?」

「・・・・うん。望んで老けたくないし、この姿ならお姉ちゃんに甘えられるんだもん」

「・・・・・本当に変われば変わりますね。あのクールなイネスさんが・・・」

シェリーは、その一言を聞いてアイが十分、歳相応の少女になっているように見えた。

「ううん、こっちが本当の私なの。ただ、あの歳と仕事柄、ああいう風に振舞わないといけなかったんだ」

「・・・そう」

二人が小さい溜息を吐くと、後ろからあの3人が歩いてきた。

それぞれ一つずつぬいぐるみを抱えている。

「お待たせ、待った?」

「いえ、待ってませんよ。少し積もる話がありましたから」

「?何の話?」

「秘密です」

シェリーは微笑んでから立ち上がった。

「じゃあ、次はどこへ行きます?」

「う〜ん・・・コーヒーカップでも乗る?」

相談しながら5人は歩き出した。






「二人とも、元気ないね?」

「いえ、大丈夫です」

「うん」

アキトはジェットコースターから降りていまいち気分の乗っていないルリとラピスを気にしていた。

「・・・・・二人きりできたかったんですけどね」

・・・などとは口が裂けてもいえない。

何より、誘われる事も無く、アキトと出かけられない可能性があるよりはこっちの方が良いとは分かっているのだが・・。

「・・・・・じゃあゴーカートでも乗りましょう」

「そうだね、スピード不足には変わりないけどジェットコースターよりはマシだよ」

・・・・幸い、三人乗りがあって人数があぶれる事が無かったのは幸いである。

で。

『はい、詰めて下さい』

能率を上げるため、他の客と二台で同時スタートする方式をとっているようだ。

「・・・・って」

「・・・・鉢合わせかい」

・・・ちょうどアキコと出会ってしまったらしい。

ちなみにアキコのカートは四人乗りで隣にコウタロウ、後ろにシェリーとマリーが座っていた。

「・・・ふっ。考える事は同じなんだな」

「まあ結局な」

『スタートしてください』

管理者からの放送が入る。

「じゃ、行くか」

「ああ」

二台のカートが発進していく・・。

「アキト、追い抜いちゃえ!」

「はいはい・・・」



ぐんっ。



とは言うものの、所詮は同じカートである。

人数が多いアキコ側のカートの方が遅くなるのは当然で、アキト達はすぐに車体一つ分の差をつけてしまった。

「・・・まあ勝負じゃないし」

「アキト・・・追い抜いて」

「え?でも」

マリーの発言に戸惑うアキコ。

「・・・いいから!」

「分かったよ・・・みんな、少し手荒く行くよ!つかまってて!」



きいいいいいいぃぃぃぃ!



アキコは大回りで普通にカーブを曲がろうとしたアキトのカートをドリフトによって追い抜いた。

「アキト〜!」

「分かったよ・・」



ごおおおお・・・。



・・・だんだん二人も意地になってカートを飛ばし始めた。

「うおおおおお!!」

「ぬううおおお!!」

・・・・余談だが、二人は何故かこの時、無意識に昂氣を放出していたようでカートの時速は200キロ近くまで上昇し、

乗っていたコウタロウ達はかなり酔ってしまい、一時間ほどの休憩を余儀なくされた。

「あらら、飛ばしすぎ」

・・・トラックの外で静観していたアイは昂氣の存在に気付く事は無かった。

・・・・・あららで済ませるのか?マッドサイエンティスト。












某同盟の会話。

「五華」の場合。

「・・・これはデートって言うより」

「お守よね」

「五華」の面々が呟く。

「どちらにしてもお互い抜け駆けしないように監視しているでしょう。今日は問題無さそうね」

「なら私達も遊んでいこうよ」

「「「「賛成!」」」」

・・・もう監視を投げ出したらしい。








「赤獅子」、「金の糸」、「銀の糸」、「メンテ」チームの場合。

「・・・・なあ、あれゴーカートだよな」

「ええ、少なくとも見た目は・・・」

「・・・でも見た感じ高速を走る車より早いですね」

「・・・・・ウリバタケさんが一枚噛んでそうで怖いですが」

「・・・考えるのやめるわ。ねえ頭を使うのも嫌だしな」

・・・こっちの方がよほどまともに見えてしまったりする。






「天真爛漫」、「三つ編み」、「裏方」、「科学者」の場合。

「・・・監視の意味、ある?」

「・・・・無いわね」

「・・・・・・中止したら?」

「・・・・「チーム・五華」は既に自己判断によって監視の打ち切りを連絡していますし・・・。

「チーム・烈火」も追跡意欲をなくした模様」

「三つ編み」の報告に「天真爛漫」が言う。

「監視の中止を報告して」

「・・・今日も休暇を無駄にしちゃったわね」

「裏方」が虚しそうに呟いた。











・・・・そのころ。



ずずず〜〜。



「・・・・いまだにカップめん生活だよ〜」

アカツキはまだ書類の山を処理している。

既に半分を消化したが・・・恐らく終わるころには休暇もないだろう。

「おう、アカツキ。頼まれたの持ってきたぜ」

「すまない・・・」

ウリバタケが頼まれたコーヒーを持ってきた。

・・・エリナが監視をしているため、わざわざウリバタケに頼んでいる。

・・・当然、あの薬が混ざっている事は言うまでもない。



ごくっ。




「頑張れよ」

「ああ」

(色々な意味でな・・くくく)

「む・・いかん、眠いな・・・」

(しかしコーヒー飲んだんだが・・・)

アカツキの意識は強制的に遮断された。







数時間後。

「・・・はぁ、無駄骨だったわ。バ会長、終わったの?」

眠っているアカツキを見てエリナはノルマを終えたと判断したらしい。

「あれ?まだノルマの3分の2・・まあちゃんとやってるみたいだけど・・・」

書類の数を見て、アカツキの方を見つめる。

「起きなさい。ただでさえ多い仕事を分割してるのよ。明日に響かせたくないでしょう?」


がくがく。


エリナがアカツキを激しく揺さぶる。

「ん・・・エリナくん?」

「!ぷっーーー!」

・・・・アカツキは・・その。なんと言うか・・・寝ぼけて見つめる姿が妙に可愛らしく見えた。

・・・普段のキザでナンパを気取っている様子が微塵にも感じられない。

「あ、あれ?僕は・・・いつから女になったんだい?」

「あははは・・・・・か、会長・・・」

間抜けな反応をしてしまうアカツキ。

それを見て秘書らしくも無い、上品からは程遠い大爆笑をするエリナ。

「お、おもいあた・・・思い当たる事とかないの?」

「・・・・さっきウリバタケ君からコーヒーを貰ったよ・・・。

・・・ウリバタケ君、君は・・同志じゃなかったのか・・・」

「ははははははは・・・・・」

「・・・・・ううう」

自業自得・・・・。

「あー・・・笑った、笑わせてもらったわ。ホントにこんな笑わせてもらったのは久しぶりよ」

「薄情者・・」

「ははは・・・」

そのアカツキの少女のような瞳で呟く姿がエリナにはツボらしい。

「これならあなたが秘書だって言っても勤まりそうね。じゃ、残りの仕事頑張りなさい」

「あ、エリナく・・・」


ぷしゅ。


「・・・・・うう。

やっぱり作戦の提示に無理があったかな・・・」

呟きながら、残りの仕事を始める。

・・・アカツキはどっちにしてもあと4日はここからでないですむ事に感謝していた。










シーラの部屋。

「うん、これでいいね」

シーラは何かを作っていた。

それは一体のロボットだった。

「セラス・ヴィクトリア・・・通称、婦警。「ヘルシング」のドラキュリーナ(女吸血鬼)。・・・・・吸血鬼は目からビームで完璧!」

・・・どこからその資料を集めた事やら。

「・・・でも人工知能をどうしようかな。

最初の段階はウリバタケさんの言う「男のロマン」を積みまくって可愛く仕上げることだったから。

人工知能を考えてなかったのはまずったかな。

バッタ程度じゃいまいちコミュニケーションも取れないし・・・。

まあ試作段階だし、日常会話程度が出来ればいいよね」

そういってパソコンでプログラムを打ち込み始める。

「名前は・・・まんまセラスだとあれだから・・・セレス・・・・私が作ったからセレス・カシス・・。・・・語呂悪いけどいいか」

そのロボットは中々良く出来たものだった。

手足の精巧さ、顔の綺麗さ、どれをとっても芸術品の粋に見える。

・・・2・3日で作れる彼女はどうかしていると思ってしまうほどだ。

「よ〜し、やるぞー!」

・・・どうでもいいが独り言が多い気がする。







トレーニング室。

「ヒカル、お前はどこも行かないのか?」

「うん?まあね」

二人は暇つぶしに対戦していた。

「これといって見たいアニメも無いし・・・シーラちゃんに頼めば面白いのかしてくれるし」

「へえ?仲がいいのか」

「うん、気が合うよ・・・ヤマダ君ほどじゃないけど」

さり気ない・・いや、かなり直球なアプローチ。

だが、やはりこの男にはそんなものは通用しなかった。

「そうか?」

「うん」

「・・・・・あー、確かにゲキガンガーの魅力を一番分かってるのはヒカルだもんな」

(・・・気付かないの?)

ヒカルはそのガイの反応に苦笑するしかなかった。

「おい、どうした?何笑ってんだ?」

「何でもないよ。ヤマダ君、もう一回勝負よ」

「俺はダイゴウジ・ガイだ!」

その日、一番の大声だった。

ヒカルはその大声が頼もしいものに聞こえた。








イオリの自室。

「・・・・」

イオリは何をしているのだろうか。

特に何をしているわけでもない、宙を眺めているだけだ。

だが彼には宙ではなく、憑き物が見えている。

かつて格闘技大会でチームを組んだ事もある二人の美女が一糸纏わぬ姿で彼の肌にまとわりついてくる。

「また来たか、化け物ども」

『あら、また来たはないんじゃない?』

金髪の美女が呟く。

『そうだ、元チームメイトに。つれないな』

ショートカットの女性が言う。

「貴様らが出たせいであの夏は寝苦しかったぞ」

くっくっく、と喉を鳴らして苦笑するイオリ。

『ほう、ずいぶんと冗談がうまくなったな』

「冗談ではない、化け物相手に冗談が通用するわけないだろう」

『本当に冗談が好きなんだな』

「第一貴様ら、オロチだのなんだのの復活は後回しなのか」

『生憎、あんたらが生きている間に復活する気はないよ』

女性は苦笑した。

彼女はいわゆる転生ができる者でー二千年近くもそういうことを繰り返している。

イオリは少し溜息をついた。

少し前なら邪魔だったろうが、今では暇つぶし程度にはしてしまっている。

『イオリ・・・あなた少し変わったんじゃない?』

「ふっ・・・くくっ・・・ああ、貴様らみたいな血がどうだこうだと言う阿呆がいなくなったお陰でな」

『へえ?あなたでも心変わりするものなのねえ』

「俺は人間だからな」

彼は自分でもらしくないと思う台詞を吐いた。

『そろそろ帰るとしよう。イオリ、また来る』

『さようなら』

二人の美女は床に溶け込むようにして消えた。

「二度と来るな」

冗談めいた皮肉が部屋に響く。

「心変わり・・・俺がか。ナオが来てからだろうがな・・・」

誰にともなく、イオリは呟き、目を瞑った。
















「今日は楽しかったです」

「ありがとう、アキト」

なんだかんだ言って、二人はアキトと出かけられて嬉しかったようだ。

「これくらい。家族だろ?」

そう言ってアキトは微笑を見せる。

「また連れてきてくださいね」

「ああ」

「約束だよ!」

「約束だ」

三人はナデシコに戻っていった。









こちらでも日が暮れかかっている(ヴァーチャル)。

「お姉ちゃん、私達は先に帰るね」

「え?私はまだ・・・」

マリーはまだ遊ぶと言わん表情だが。

「ほら、マリー行きましょう」

シェリーとアイに無理矢理引っ張られる形でマリーは退場させられた。

「・・・・・シェリーちゃん達に気を使われちゃったな・・・」

「アキコ、一緒に観覧車乗ろう」

「ああ」

二人はゴンドラに乗り込んだ。

「・・・なあ、俺達どうすりゃいいんだろうな?」

「どうするって?」

「ほら、この戦争が終わった後の3年と・・・火星の後継者を倒した後さ」

「・・・うん。帰れないんだよね、私達」

「帰っても居場所がないよ、俺は」

黄昏てみるアキコ。

「・・・こっちに居れば誰にも責められないし、その話だってでない。起こってない問題だもんな。

でも一言でもいいから謝っておきたいよなぁ・・・」

「みんなに?」

「ああ。心配ばかりかけてきたろ?結局自己満足なんだけど」

と、一度言葉を切る。

「・・・俺、どこで道を間違えたんだろう、ユリカと一緒に居たかったはずなのに何ですぐ帰らなかったんだろうって、今でも思うんだ。

誰かの為、みんなの為、ユリカの為・・・そんな事を考えてたのにさ。

引き返す事はそんなに難しかったのかな、あの時は」

「・・・・アキト、私は引き返せない道を進む事を選んだんだよ。

アキトの為、そして何より私の為でもあるの。

アキトと一緒に居る事、それが私の幸せ。

自分勝手な言い草かもしれないけど、それが大事なんじゃないかなって思うの。

私が遺跡に取り込まれてる時、私の都合のいいアキトばかり見えてた。

でも、現実では傷ついて欲しくないのにアキトは傷ついてた。

・・・それも一番嫌な理由、「私の為」。

傷つくくらいなら放っておいて欲しかった。

・・・アキトは私を助けた後、来てくれなかった。

それはアキトが「自分の為」に動いていない事の現われだと思った。

目覚めた後、アキトが消えたって言われた時最初に思ったのはそれ。

アキトは昔から私の為に動いてくれた。

そろそろいいんじゃない?

アキトが「自分の為」に誰かを求めたりする事をしても」

「俺が・・・「自分の為」?」

アキコは自らを指差した。

「うん。自分を大切にできないのに人を大切にできるの?」

「・・・そうか、そうだよな」

非常によく納得できたらしく、アキコは頷いた。

「・・・・・でも、アキトはここに来てから私を求めてくれた。すっごく嬉しかったよぉ・・・」

コウタロウの目には涙が浮かんでいた。

「ボロボロなのに我慢してたアキトが・・・本当のアキトが見えたもん。

一生懸命私に甘えてくれた。誰かの為にしか動けなかったアキトが・・・。

自分の為に、甘えて、甘えてくれたのが、そのっ、本当に嬉しくって、だからっ」

泣きじゃぐるコウタロウ。既に言葉がうまく繋がらない。

アキコは立ち上がりその横に座った。

彼女の目にもまた涙がー。

「ありがとう・・・。俺は馬鹿だ。

ここまで心配されて気付けない、何より自分が何を求めてたのかわかんなかったんだからな。

俺も・・・嬉しい。

ユリカが心配してくれて、自分の大切なものを捨ててここまで来てくれた事が。

・・・何より、俺の全てを見てくれた、全部理解してくれた事が。

・・・・・俺、こんな情けない格好になったけど分かったよ。

「俺にはユリカが必要、俺はユリカに甘えたい」

ユリカ、昔俺の事を「王子様」と言ってくれたよな。

今は・・・お前が俺の「王子様だ」」

「アキト・・・」

「ユリカ・・・」



ぎゅっ。



お互いに抱きしめる。

「今はまだ・・・王子様って呼ばれるほど私は強くない・・・けど」

アキコの顔を見つめる。

「けど・・・いつか、アキトの「心」を超えたい。

アキトより「心」が強くないと・・・アキトを抱く資格なんて私には無い・・・・」

その一言にアキコは微笑んだ。

「資格、なんて元からないよ。俺はそんなに高い女じゃない。元は男だよ。

それに・・・ユリカの「心」は十分強い。少なくとも俺を追ってきてくれたんだから」

「アキトぉ・・・」

「『戦が終わり次第、この女戦士を嫁にとって下さい。王子様』」

立ち上がって慇懃無礼なお辞儀をしてみせるアキコ。

それを見てくすっ、と小さい笑いを見せてコウタロウは返事をした。

「『いいだろう、女戦士よ。帰るべき場所はここにある。思う存分戦い、人を助け、帰って来るが良い』」

「『ありがとうございます、王子様』」

二人の冗談めいた三文芝居は意外と決まっていた。宝塚歌劇団のように見えた。

「じゃ、降りようか」

「・・・うん」

二人は観覧車から降りてきた。

「・・・あの二人何周してた?」

「・・・5周はしてましたよね」

管理者がぼそぼそと話していたが、二人には届いていなかった。






(・・・そうだよな。女になってからだ・・・自分のことを理解できるようになったのは)

アキコは帰る途中、さっき言われた事を考えていた。

(・・・俺って実は性同一性障害だったのか?)

・・・・よく分からない結論に至りそうだ。

帰ってからの二人。

「ユリカ、今日も良いか?」

「え?何が?」

二人は今アキコの部屋に居る。

ベットが3つあるコウタロウの部屋が必然的にシェリー達の部屋となっているようだ。

アキコは髪を拭きながらコウタロウの方を見つめている。

「いや・・・なんか今日あんな事言ったから「強くなるまでは抱かない」とかいい始めるんじゃないかって・・・」

・・・アキコは柄にも無く「夜の勤め」の心配をしていた(笑)。

「う〜ん・・・だって、アキトは私に「甘えたい」って言ってるのに断っちゃ駄目でしょ?」

「あっ、うん・・・」

・・・彼女は赤面した。

「・・・・・お互い、無理はしないほうが良いでしょ?」

「・・・ああ、頼む」

そんなこんなで二人は一日を締めくくるのだった・・・。












「ウリバタケ君!君ってやつはぁ〜」

「おお、アカツキ。すっかりらしくなっちまったな」

「君達には絶対言われたくない!」

・・・ウリバタケ達は胸が邪魔になったりでブラジャーを着用していたりする(爆)。

しかしショーツまでつけなくてもいいと思うんだが・・・。

・・・ハーリーなどラピスに三助(風呂で背中を流す人)をやらされ(当然女湯で裸)、ルリに冷たい視線で見られている・・・。

そんでついでに「ジュン、艦長昇進説」もなぜか浮上中(笑)。

「まあ、座れよ」

「・・・・・」

黙って座るアカツキ。

「あれだ。お前だけ処分無しはずるいし、何よりお前があんなもん持ってきたのが失敗だろ」

「・・・・・はぁ〜」

「お前は名前がナガレだから女でもやっていけるだろ?」

「何でそうなる!」

「ほら、ジュンだって名前的にはOKだしよ。何より女になってると出番が増えるんだぜ?」

「知るか!」

「慣れだ慣れ」

・・・・・結構順応性の高いウリバタケだった。






作者から一言。

・・・・やべえ、休暇ネタはそろそろこの辺にしねえと。

だんだんやる事もなくなってきたし、ピースランドのときの為に残しとかないと。

では次回へ。


 

代理人の感想

うー、こう言う節操の無いTSは駄目っぽい(爆)。

妙な嫌悪感が先にきて・・・・ゴメン。