「物事は望まない方向に進みやすい」。

誰もがそうである。

男はもっともてる男に生まれたかったと思う。

女はもっとスタイルのいい、綺麗に生まれたかったと思う。

結婚すればもっといい異性が居たはずだとか思う。

賭け事で大金を手に入れればもっと賭ければよかったと思う。

・・・・・物事は、望まない方向に進んだ。





第9話「道化」




シーラの部屋。

「・・・・・うー」

一人の幼児、4歳ぐらいのーが、ベットに腰掛けている。

「・・・ライザさん、すいません。

私はこうしなければ後悔すると思ったんです。私も・・・ライザさんも」

「・・・だからってこんな目にあわせなくても」

そう、ライザはシーラによって連行された後、ナデシコ側が納得する処分を・・という事で、

幼児化の刑に処せられた。

そして、監視の為、同じ部屋で生活するように言われていた。

「・・・でも恨み言も言われず、これだけの処分で済んでよかったじゃないですか」

「・・・うん」

「それに今のままなら誰にもライザさんだって分からないから消される心配もないし。・・・じっくり考えましょう」

「・・・・・そうね。少し考える時間が出来たって思えばいいのよね」

「気長に行きましょう」

シーラは屈託のない笑みをライザに向けた。








ジュンの部屋。

「・・・ごめん、チハヤ。色々頼んだんだけど僕と同室でないと許可できないって」

ジュンも責任をとるように・・・と、チハヤの面倒を見る事になった。

無論チハヤも幼児の姿である。

「・・・・・いいのよ、これが一番安全だから」

呆れた感じもあるが笑うチハヤ。

ジュンは女性と同室になる以上、男性ではいけないということで、元の姿に戻る事を無期限で許されなくなった。

そのせいか、彼も苦笑していた。

「・・・・・・どうでもいいけど、この戦艦、何人子供が居るの?結構多いわよ?」

「うーん、5人くらいかなぁ・・・」

「・・・・・凄いのね」

「でも実力は確かだよ。まー、今はチハヤとライザさんもだから7人か」

「・・・うん」

「テンカワも見てみなよ。アイツには惹かれると思うよ」

「・・・そうね、彼はコックもしてるって聞いたけど?」

「そうそう。絶対職には困らないよなぁって思うんだけど」

二人は話し込み始めた。






前回の話が終わった後。

とにかく、ナデシコのクルーを全員呼び戻し、ナデシコをいつでも発進できる状態にした。

「・・・さて、この事件の犯人ですが・・艦長、処分はいかがいたしますか?」

「う〜ん、どうしようか」

ユリカは頭を傾けて考え込む。

「ユリカ、二人ともナデシコに乗りたいと言っているんだ。

・・・・・無理なのは承知だ。

だが、二人は命令されて仕方なく・・・」

「はい、それは私も聞きました」

ジュンとシーラはユリカに頼み込む。

だが、二人は嘘を教えている。

・・・いくらなんでも改心したから、何て理由では乗り込ませてもらえないだろうと思って相談したのだ。

「・・・うん、ジュン君がそういうなら乗り込ませてあげるよ」

「ありがとう、ユリカ」

「・・・待ってください、艦長。それはちょっと・・・」

プロスが二人に割ってはいる。

「艦長は私ですよ、プロスさん」

「しかしですなぁ・・・。お二人は元クリムゾン所属ですし、このまま乗せるというのは少し・・」

「・・・・・身体検査でもしたほうがいいですか?」

「いえ、そちらは既に行っていますので。

・・・そうですね、少なくとも破壊活動が出来ないようにしておいて欲しいんです。

・・・・・それにナデシコに乗るのでしたら何か仕事でもしてもらわなければなりません。

かといってナオさん達のようにSSを任せる事も出来ませんし、他に出来る仕事もなさそうですし・・・」

「プロスさん、いいアイディアがあるよ」

「本当ですか?アイさん」

「ちょっと待ってて」

・・・・30分後。

「どうですか?」

「・・・・・・ああ、そうすれば確かに害はありませんな」

そこには小さくされたチハヤとライザが。

「分かりました、お二人にはそれぞれジュンさんとシーラさんの扶養家族としてナデシコに乗り込んでもらいます。

お二人とも、それでよろしいですか?」

「「・・・はい」」

しぶしぶというか、力なく頷いた。

「では、今日のところはこれで終わりです」

「・・・ミスター、これでいいのか?」

「何がですか、ゴート君」

「・・・和平を困難にさせたあの二人をのせていいのか、と言ってるんだ」

ゴートは理解しがたかった。

彼女達は捕虜のような扱いだ。彼女達自身も処分を受ける覚悟でいた。

「・・・・・まあ、そのまま乗せてしまったら問題でしょう。

しかし戦闘力をなくし、民間人として、扶養家族として乗り込ませているわけですから。

・・・・・・そもそもあの二人はジュンさんとシーラさんに諭されているようですが」

「しかしだな・・・あの格好だからこそ危険だと俺は思ってる。幼児では何も出来ないと油断している事が問題なんだ」

「はぁ・・・ゴート君。あなたは私の目を疑うと?」

「い、いやそうではなくて」

プロスは何かオーラのようなものを出しながらゴートににじり寄った。

「・・・そのお二人ですが・・・。連れて来られたジュンさん、シーラさんがそれぞれ責任を持って保護者として、

監視兼、世話をすることになっているんです。

・・・・・・それに、出来ればこう言う処分ではなく、私はネルガルに就職させたかったんですが。

ゴート君、あまり采配も出来ないくせにつけ上がると痛い目を見ますよ?」

プロスは眼鏡を光らせ、目がどうなっているのかわからないようになっている。

「し、しかし」

「いいですね」

「わかった」

ゴートはプロスが>大型の手提げ金庫>を構えた事により沈黙した。

「・・・ユリカ、ごめん。爆発を防げなかった」

「ぜーんぜん!いいよ、ジュン君が>幸せ>になれれば」

ユリカは恋人を見つけたものと思って祝福の体勢だ。

「・・・・・・」

完全にふられたと思い、黄昏ながらジュンは背を向けた。






医務室。

「・・・まあ、なんだかんだいってその場にいたアフリカ戦線の司令官代理のお怒りを買ってしまったわけだな」

「・・・しょうがないでしょう?あの状況下・・・花火じゃなくて爆弾だったら、って事なのよ・・・。

・・・自分たちじゃ何も出来ないくせに偉そうに」

病室で眠っている二人を見ながらエリナとナオは話していた。

「・・・しっかしいい眠りっぷりだな。こっちまで眠くなっちまう」

「・・・でも本当にこの二人、本当なら全治1週間なのにイネスさんが診察したらもう傷がないんですって」

「・・・どんな体してんだ?」

「・・・・・・二人とも火星育ちで体のナノマシンが凄い多いって言ってたわ。

ただ、そのナノマシンが昨日の昂氣っていうので活動が活発になってるそうなの。

・・・どれだけ活発なのやら」

すると、アキトが目を開いた。

「・・・・・・むっ・・俺は何故ここに?」

「お、アキトが起きた」

「ナオさん・・・現状説明・・お願いします」

「・・・おいおい」

アキトは召喚呪文を唱えた。

「説明しましょう!」

イネスが現われた。

「い、イネスさん。お、お願いします」

「はい、そこで眠っているコウタロウ君の話だと北斗と枝織の戦いの後、ぶっ倒れてしまったそうです。

その間に、女性の戦闘員に倒されるほどの実力しかないアキト君と、爆弾、実は花火が爆発してしまったことから、

ナデシコには和平を実現するだけの力がないと判断されたわけです。

その花火を仕掛けた人は現在、ナデシコにて保護中。

アキト君との話を希望してます。

何か質問は?」

「・・・その人は今どんな扱いですか?」

「二人は連行してきたジュン君、シーラちゃんの扶養家族として4歳児になっています」

「・・・若干分からないんですが、何となく分かりました。・・・・・参ったなぁ」

アキトは頭を抱える仕草をした。

「まあ、アキト君のせいじゃないわよ。あなた達はよく頑張ったわ」

エリナがアキトを慰める。

「あと俺がここについてからどれだけ経ってます?」

「え〜と、今は昼だから・・・大体9時間ってとこね」

「ど〜りで体がだるいと思った・・・」

アキトは首をごきんごきんと鳴らした。

「・・・おい、本当は全治1週間なんだぞ?」

「え?本当ですか?」

「・・・ナノマシンが異常に活発なのよ。昨日の昂氣とか言うので」

「・・・昂氣。あの光・・・」

アキトは自分の腕に光を灯す。

「・・・・・DFSに似てる。この感覚・・」

「・・・言っとくけどそれ、使うなよ?」

「あ、はい」

ナオはアキトが闘った跡を見て、どれだけの破壊力があるのかは知っている。

アキトは光を収めて言う。

「・・・あの二人、北辰の娘だと言っていました・・・。

多分、あの二人が月基地を襲撃したんでしょう」

「・・・だろうな。格闘戦でお前と互角なんだ、そうとしか考えられない」

「う・・・ううん」

話し込んでいる声でアキコも目覚めた。

「・・・・・ここは?」

「ナデシコの医務室よ。あなたの横を見てみなさい」

隣にはコウタロウが座ったままの姿勢で眠っていた。

「あなたが眠っている間ずっと見てたのよ」

「コウタロウ・・・」

「・・・んっ、あ、アキコ、起きた?」

かくん、と頭を揺らしてからコウタロウは目覚めた。

「ありがとう・・・俺が寝てる間見ててくれたんだって?」

「ううん、いいよ。アキコは俺の大切な人だもん」

ぎゅっと手を握り合う。

「・・・熱いねぇ」

「・・・ホント、見てて妬けるわよ」

「あ、すいません」

その痛い視線に二人は振り向く。

「いいぜ別に。近くでロマンスやってても」

「うんうん。とても勉強になるわ」

「「・・・・・(赤面)」」

二人は赤くなって俯いた。

「で、アキト。どうする気だ?和平を実現するにはもっと賛成意見を増やさないといけないんだろ?」

「・・・とりあえず俺が謝罪してきます」

「・・・頑張れよ」

アキトは立ち上がり、自分の体の具合を見てみる。

「・・・本当にダメージがない。

今までこんな傷を受けていれば確実に残るダメージなのにな・・・」

「アキト君、いくらダメージがないって言ってもそれを頼っていれば大変な事になるわよ。

回復するとは言っても、少しずつ確実なダメージを体に残していくわ。

・・・・・・現にアキコちゃんは過去に受けた体へのダメージがまだ抜けきっていないの。

昨日のような戦いを続ければ・・・五体満足で戦後を生きることは出来ないかもしれないわよ?」

イネスは真剣な目でアキコを見つめる。

「・・・必要な戦い以外は避けますよ。俺は夢を叶えるチャンスを手に入れられたんですから。
 
・・・・・・コウタロウと戦後を生きるのが俺の夢なんです。

以前みたいに突き放さない・・・あの時みたいな体になるのも嫌だ・・・」

「アキコ・・・俺もだよぉ・・・」

後ろに居た三人は過去に何があったのか考えていた。

アキトは聞こえないほどの小声で言った。

「・・・二人とも、幸せになれよ」



ぷしゅっ。








ピースランドの城。

昼下がりの時間帯、会議が始まっていた。

「・・・ナデシコはそれほど強くなかったと言う事だ」

「しかし、クリムゾン卿。ナデシコそのものの力を疑うほどではないと思うのですが」

アカツキがフォローを入れるも、クリムゾンは首を横に振る。

「いやいや。あの花火が爆弾だったら我々も危なかったんだ。

我々の命を預ける以上、曖昧な力では困る」

アカツキは自作自演だろう、と心で苦笑していた。

「和平を実現したいそうだが・・・これでは連合軍と組んで徹底抗戦で勝てるか勝てないか・・・。

あちら側が応じてくれるとは到底思えないのだが」

バール少将は醜い笑顔で言う。

「そもそもテンカワ・アキト本人が増長していたのではないか?

確かに機動兵器に乗れば一騎当千、いや当万と言っても過言ではない。

しかし、だ。調子に乗って撃墜・・ありえはしないだろうか?」

「・・・俺はそこまで自惚れてませんよ、将軍」

ドアの前にはアキトが立っていた。

当然、そこに居た人間はそちらを向く。

「まずは皆様を危険な目に合わせてしまったことをお詫びします」

「・・・では何故このような事態になったのか、説明してもらおうか」

アキトは下げていた頭を上げ、答える。

「・・・・・・返す言葉もありません、俺の油断です」

「ほう、やはり自惚れては居ないようだな。

・・・まあ油断もしような。いや、緊張しすぎて失敗したと言ったほうが良いか?」

バール少将はからかうように笑う。

「とにかく、だ。

現状のままではナデシコに和平を任せる事は出来ない」

と、バールが言い切った時、一人の青年が会議室に飛び込んできた。

「たっ、大変です!8つのチューリップが出現、敵の数は3000!現在も数を増大しています!」

「俺はナデシコに戻ります」

「頼んだぞ」

「・・・お願いします」

さっきまで黙り込んでいたルリと国王が声をかける。

「まあ待て」

バール少将がアキトを引き止める。

「・・・君はナデシコで最強のエステバリスライダーだと聞く。

ならば、君抜きであの敵を倒してみたまえ」

「その意図は?」

「・・・君が抑えきれるだけの力をナデシコが持っているか、というところだ。

当然だろう?あれだけ化け物じみた戦闘を見せられたらそれを管理できるのは戦艦一隻ではなく、

我々のような組織だと思うのは。

それを見たいんだよ」

「・・・いいでしょう、今日は俺抜きでやりましょう」

「・・・正気か?」

バールは苦笑じみた笑いを漏らした。

「正気です。そもそも俺を化け物扱いするならもう一人、ナデシコには化け物が居ますよ」

「ほう?では昨日君と一緒に闘っていた・・・」

「そうです、俺と同レベルの戦闘力を持っています。

・・・お互いを抑止力とし、補完する形でナデシコに乗り込んでいます」

「・・・ならば、それも見てみたいものだ」

「・・・・・・それと、この作戦で勝利したら和平に賛成して欲しいんです。構いませんか?」

「構わんよ。面白いショーが見れそうだからな。

ただし、ナデシコが敗北した場合、どう責任をとるつもりだね?」

「その時は俺の機体がここに飛んできます。

・・・自分の始末くらいはつけますよ」

「・・・そこまで言うからには自信があるんだな。

ただし、ナデシコが敗北した場合、ナデシコが君を抑える力がないと判断し、

君をアフリカ軍の直属にする。いいな?」

「ええ・・・ナデシコクルーの実力をとくとご覧ください」

アキトは不敵な笑みで・・・自身満々の態度を見せる。





『あ、ユリカか?今日は俺が出撃できないんだが・・・』

「え!?なんでなんで!?」

『・・・バール少将と賭けをしたんだよ。

ナデシコが勝ったら和平をしてくれるそうだ』

「・・・どゆこと?」

ユリカは頭の上にクエッションマークを浮かべる。

『要はな、俺がナデシコにいてナデシコが俺を抑えるくらいの力がないと危ないから連合軍に入れたい、

だからナデシコを試した言って事だ』

「それってナデシコはアキトのワンマンチームってことぉ!?」

『平たくいっちゃうとそれだ』

アキトが呟くと、クルー達の文句が飛んだ。

「も〜〜〜!失礼しちゃうなぁ!(ユリカ)」

「俺達はそこまで弱くねえぞ!(リョーコ)」

「それならここまで来れません!(アリサ)」

「ナデシコは最強!(ヒカル)」

「最強・・・最凶・・・最狂・・・くくく(イズミ)」

「・・・礼儀を知らない人って困りますね(イツキ)」

「そうですよね。こう言う人には思い切り思い知らせないと(シーラ)」

「何でこう連合軍ってわからずやが多いんだよ。あ、俺もか(シュン)」

「隊長・・・もっと説得力のあること言ってくださいよ(カズシ)」

「よっしゃ!遠慮なくぶっ潰そうぜ!(ガイ)」

「「「「「「「「もちろん!」」」」」」」」

『・・・じゃあ、俺からも一言いい?』

脇で聞いていたアキトも入り込む。

「いいよ、アキト」

『・・・皆は強い。

それだけは自信を持ってもいいと思う。忘れないで欲しい。

振るう場所を間違っちゃいけないんだ。

俺一人に負けるなんて事はない程、皆は強い。

だから、今日は思い切り暴れてくれ』


「「「「「おおっ!」」」」」

(・・・いかん、少し油を注ぎすぎたかな?)

こうして、ナデシコクルーはテンション最大で迎撃準備に取り掛かった。






格納庫。

「プロスさん!今日はデンドロバリス使ってもいいですよね!」

「まあ、構いませんよ。敵の数も多い事ですし・・・」

「ウリバタケ!俺の赤雷は磨き上げられてんだろーな!」

「あったぼう!ぴっかぴかだぜ!それと・・・アカツキ、ラグナ・ランチャーだけは禁止な。放射能が散っちまうからよ」

「それくらいは知ってるよ。ヤマダ君じゃないんだから」

「失礼な!俺だってそれくらいは知ってるぞ!」

「まあ、仕方ないよね〜そう思われても」

「・・・ふっ、死に急がない事ね」

「・・・・・・帰ったら辛いものが食べたい・・・カレーがいいかなぁ・・ピザにタバスコ一本も捨てがたいなぁ・・」






で、戦闘開始。



「いくぞ・・・」

乗り込んだシーラはヘッドホンを掛ける。

彼女はカズマになりきる。

もちろん、曲はー。

『奪え!すべて!この手で!』

BGMが流れ出し・・・発進した。

「うおおおおおお!!」

シーラが吼えるのと同時に、ミサイルが発射された。

ポッドから射出されたミサイルは・・・

数千の敵に対して・・・千の砲弾が空に舞う。


どどどどど・・・・ごごごごごおおおん!




「何だ!?あんなエステバリス聞いた事がないぞ!?」

バール少将はデンドロバリスの圧倒的な破壊力に愕然とした。

「てめらああああ!ぞろぞろと出てくんじゃねーよ!気色悪い!」

ミサイルを撃ち尽くしたデンドロバリスはDFSを起動させる。

折りたたみ式、ロングテールDFS。


「ぶったぎれろおおおおお!」



ばしゅうううううん。




シーラの放ったDFSの長さはチューリップの円周よりも長い。

よって、チューリップは切り裂かれる。

「おちろぉ!」

駄目押しのグラビティーブラスト。


どごぉんっ!



チューリップは爆散した。

「っとぉ!デンドロバリス、帰還しろ!俺は、もう少し暴れるぜえええええ!」

既に3分の1の敵が掃討されている。

彼女は自らのエステバリスにバイオリンケースを持たせてデンドロバリスの武器ポッドから出る。

「きえろおおおおお!」



ががががががが・・・どどどっ!



外装が弾け飛び、中からガトリング、周りにはミサイルが備え付けられている武器が現われ、再び、機動兵器達を掃射した。

「もういっちょ行くぞぉ!

衝撃のファースト・ブリット!」



ごんっ!




チューリップに大きなひびが入り、爆発した。












こちらでは。

アキコが大暴れしていた。

北斗との戦いの後から少し気が高ぶっている。

「奥義!九頭龍閃!」



どしゅっ・・・・。



DFSの刃が・・・チューリップと機動兵器を蹴散らしていく。

「・・・!?」

バール少将はアキトが横にいることを確認しつつ、アキコの戦いを見ている。

明らかにアキトと同レベルの戦闘をしている。

「信じられませんか?俺と同レベルって言うのが?」

「・・・くっ」

バールは顔を背けた。










「見せてやる・・・俺の居合を!」

リョーコは戦場の中で動きをとめた。

だが、それは一瞬だ。

彼女にはその一瞬が何十秒にも感じられる。

(よし・・・いける!)

「我流居合、赤龍真空斬!」




ぱしゅうっ・・・・。



チューリップには一見ひびすら入っていないように見える。

「・・・・・・斬滅」

だが、リョーコの呟きとともにチューリップは真っ二つになった。



どごおおおん・・・。




「・・・・・これは何かの冗談か?チューリップをサムライの剣技か何かで切り裂けるのか?」

「バール少将・・・この技は俺も初めて見ましたが・・・・・彼女の実力とカスタムエステならば出来ます」

「ちなみにカスタムエステとか言うのはナデシコ専用なのか?」

「ええ、シビアな制御プログラムのプログラミングはマシンチャイルドにしか出来ませんし、

整備も訓練などではなく経験をつんだ超一流の整備士が必要なんです。

そもそも「白銀の戦乙女」レベルのパイロットがいて初めて操れるんですから」

「・・・・・・量産は不可、か」

バールは溜息をついた。






他のパイロット達の活躍。

「よ〜〜〜〜っし!ヒカル、行くぞ!」

「OKっ!ヤマダ君!」

二人が掛け声を上げると、ガイ専用エステバリス「ガンガー」を中心に空気の波が発生する。

「真!ゲキガンフレアー!」

ガイはディストーションアタックの構えをとり、チューリップに突っ込んでいく。

その拳には黒い光が収束されている。

当然、ガイの周りには敵が近づいてくるが、ヒカルがすべて撃墜した。

「じゃましない、じゃましない。必殺技の時は近づいちゃいけないの」

・・・・そういう理由なのか?



どごんっ!



チューリップが破壊された。

「イツキ君、イズミ君、僕も必殺技を使うよ。援護よろしく」

「頑張ってください」

「ふざけないでよ、こっちはまだ死にたくないから」

「・・・なんか期待されてないみたいなんだけど・・・まあいいや、いくよ」

アカツキはDFSを構え、動きを止める。

『アカツキさん、台詞ちゃんと言ってね』

「はいはい、僕もこういうノリは嫌いじゃないよ」

ディアとブロス、ディオとブレアがアカツキのエステバリスにハッキングのような形で侵入する。

こうする事によって、アキトの必殺技を再現する事が可能なのである。

「我々には『戦神』の加護があり、それは降臨せずとも我々に力を与える」

アカツキの「ジャッジ」のDFSに赤い光が灯る。

「与えられし力を借り、『戦神』の為に闘う事を誓おう」

その光は大きくなってゆく。

「そして我は放つ!『戦神』の技を!

秘剣・光翼刃!」




ぱしゅ。




縦一閃の衝撃波・・・いや、DFSの一部だろう。

それがチューリップを真っ二つに切り裂いた。


どごんっ。



「・・・悪夢だな。いいショーだ」

その光景に怯えながらバール少将は虚勢を張ってみせる。

「君達は本当に信じられないものを見せてくれるな。こちらも痛い目を見ているのにかえって爽快だ。

・・・・・・・君には「漆黒の戦神」という二つ名があるそうだが・・・彼女にも必要だろう。

「マーズ・オブ・マーズ」

・・・この名を授ける」

苦笑をしながらバールを言った。

「どんな意味ですか?」

「最初のマーズには「火星」、次のマーズは「戦争の女神」と言う意味がある。火星生まれの彼女にはぴったりだろう?」

アキトは表情を変えずに言い返した。

「その冗談は笑えませんね、少将。

彼女は普通の女性です。

ナデシコには恋人がいて戦争を終わらせ、一緒に暮らすのが夢だと言ってました。

・・・その彼女が「戦争の女神」?」

「ああ、君も彼女も戦争無しでは生きられない人種だろう?」

「・・・・・・それこそ間違いですよ。俺は戦争が起きなければいいと思ってます」

「・・・「漆黒の戦神」、「マーズ・オブ・マーズ」、という名をつけられてもその下は和平を望む普通の人間か。

・・・・・・・だがこれほどの力を示したんだ、君はマークされるぞ?」

「・・・・覚悟の上ですよ」

「・・・機動戦、白兵戦で無敵なんだ。危険極まりない君を放置しておくとでも思っているのかね?」

「・・・・・・あなたは何が言いたいんです?」

「このくらいの地位になるとな、注目され命を狙われることだってあるし賄賂の持ちかけだってされる。

だが君はその私よりも有名で重要性も上だ。

だからだよ、テンカワ・アキト。

この役立たずで無能な私でさえこうなんだ。

・・・世界の中心になりうる君が、そしてアキコ君が平凡に暮らすことなど不可能だと言いたいんだよ」

「・・・平凡に暮らしてみますよ」

アキトは言い切ってから部屋を出た。

「・・・・・・「平凡に暮らす」それがどれだけ難しい事か。

この私だってそれを願う。望む。

・・・・しかしこの世界には汚れている部分があまりにも多すぎるんだよ。・・・・・・・GOOD LUCK」

バールは悲しそうな瞳で呟いた。













帰ってからの食堂。

「・・・アキコ」

「ん?なんだ?」

「・・・・「マーズ・オブ・マーズ」。バール少将がお前につけた二つ名だ」

「・・・意味は?」

「マーズ、火星と戦争の女神を意味するらしい」

「ぷっ・・・はははは・・・。

俺が、戦争の女神?

平和が欲しいのに戦争の女神と言われる・・・俺は道化か?」

苦笑しながら訪ねる。

「・・・俺だって「漆黒の戦神」なんて二つ名、要らないさ。

・・・・・・あとバール少将にこのままだと俺達は普通の生活を送れないと言われた」

「・・・そうだな、良くて軍属、悪けりゃ軟禁か暗殺だ」

「・・・・・・終わってから考えるしかないな」

「・・・・だな」











作者から一言。

思わぬ波紋・・・アキコもアキトと同じ扱いになってしまいました。

そして、チハヤ&ライザ。

彼女達の出番はいかに?

>元がアキトで?

・・・あー気持ちはわかりますが、心境とモルモンの変化だけで結構変わってしまうんです。

経験したわけではないですが、実際髪型とか、眼鏡とか、化粧だけでも印象はすげえ変わりますから。

今回のは顕著な例だと言う事で。・・・まー傷つきながら戦う姿を美しいと思う俺だからかもしれませんが。

では次回へ。

 

 

 

代理人の感想

うーん。

バールがまるっきり別人だなぁ。

最後の独白にしても「心弱い男の本音」としては格好よすぎるし。

そう言う路線で攻めるなら、もっと格好悪く見苦しくないと浮くと思います。

つーか浮いてますね。

 

>変わってしまう

しょうがないでしょう。

だって、作中でその違和感を打ち消すための措置が何ら取られてないんですから。