〇地球・佐世保市内・PMCマルス本社──ユリカ


「アキトさん、本当に王子様だったんですか?!」


「い、いえ、俺は関係なくて…」

ざわざわざわざわ…。


……すごいことになっちゃった。
ルリちゃんとアキト君がマスコミの人たちに取り囲まれて、質問攻めにあってる。
それはそうだよね…アキト君、芸能人なうえに強くて、
木星トカゲと互角に戦うまさに『希望の星』。
今日のユーチャリス受領だってほんとに一大イベント状態で、
PMCマルスの敷地外には本当に何万人か集まっちゃってて…。
……その中、本当に王子様だったと言われかねない状態になっちゃったから…。

…うーん、お義姉さんとしてはなんとか助けたいんだけど無理だよねぇ。
何かユリちゃんまでほっぽらかし状態で私の隣に押し出されちゃったもんねぇ。
ひどいなぁ。

「あー、もしもし、皆さんちょっとどいてくれませんか」

「あ!?ピースランドの方ですか!?
 何か一言!!」

「いえ、一言では説明として不十分です。
 ちょうどよい具合にマスコミの皆様もいらっしゃることですし、
 即興にはなりますが、記者会見をさせていただけませんか?」

ナポレオンみたいな恰好をしたピースランドの使者の人がルリちゃんに近づいた。
ルリちゃんはため息を吐きながらたしなめるような視線を向けてる。

「…はぁ。
 騒ぎになるのが嫌だったので土日に来てくださいって言ったんですけど」

「そう言わないでください。
 王がどうしても、というので」

「…どうしても、という割には私を見つけられなかったみたいですけどね」

…ルリちゃん、相変わらずいうこときついね。

「その件に関しては王が直接謝りたいと…。
 それでは、先んじてこちらのお伝えしたいことをお話しますが…」

「…勝手にしてください」

「では」

ピースランドの人は記者たちを見て、文章を読み上げ始めた。
ルリちゃんの生い立ち、そしてネルガルとの関係が語られて…。
マスコミさんたちは、そのひどい内容にも関わらず眼を輝かせてメモを取っている。
すでに生放送をしている状態だから、別にそこまでしなくてもよさそうだけど…。

「…というわけで、
 ルリ姫はピースランドの私たちのもとに帰りたいと、
 手紙を送ってきたのです」

「待って下さい、それは語弊があります。
 …私はまだ帰るとは決めていません。
 ただ、一目でも会ってみないと私も判断できないからと…。
 手紙にもそう書いたはずですよ」

「……ルリ姫は、やはり怒っていらっしゃいますね」

「当然です。
 文句の一つも言いに行くつもりでいました」

「では文句を言いにいくとしましょう。
 準備をしてきていただけますか?」

…あれ?
ちょっとまって…?
もしかしてルリちゃんも使者の人も、お互い勘違いしてない?

ルリちゃんは本心で言ってるはずだけど、
使者の人はその発言を、小さな子供が拗ねているだけって思っているような…。
まるで帰るのがわかりきってる家出少女を諭すかのような言い方だよね?

…ルリちゃんってしっかりしてる子なのに。
私はちゃんと聞いてるから今のルリちゃんの発言が本心だってわかるけど、
この人は…でもルリちゃんもそれに気づいてなさそうだけど…。
大丈夫かなぁ…。

「いえ、持っていくものはそんなにありません。
 ですからすぐにでも…」

「ちょっと待って、ルリ!」


あ、ラピスちゃんが足早にルリちゃんの近くに行った。
手に何か持ってる。

「ラピス?どうしたんですか?」

「これ、持ってって。
 お守りだよ。
 綺麗でお姫様にピッタリでしょ?」

ラピスちゃんがルリちゃんに渡したのは小さな青いペンダントだった。
瑠璃の…綺麗な色をしたペンダント。

「瑠璃のペンダントですか。
 …ありがとう、すぐに戻ると思うけど、大事にします」

「うんっ!
 今度は一緒に遊びにいこうね!」

「…お別れはよろしいですか?」

「……はい。
 アキト兄さん、ユリ姉さん、ユリカさん、ラピス!
 行ってきます!」

「う、うん!気を付けてね!!」

「ルリ、何かあったら連絡しなさい」

「またね、ルリちゃん」

使者の人に連れられて、連絡船でルリちゃんは連れられて行った…。
でも、やっぱり不安だなぁ。
使者の人、ルリちゃんを無理矢理にでも連れて行こうとしてる感じだったし、
アキト君とラピスをどこか見下しているかのような表情で…。
穏やかな感じじゃないんだもん。

「ルリちゃん、大丈夫かなぁ…」

「大丈夫だよ、ユリカ。
 何かあってもユーチャリスでひとっとびだよ」

「…うん、そうだね。
 ありがと、ラピスちゃん」

……きっと大丈夫。

もしピースランドから帰れなくなるようなことがあっても…。
アキト君とユリちゃん、ルリちゃんに約束したもんね。
『その時は世界一の王子様が助けに来てくれますよ』ってユリちゃんが言ってた。
うん、アキト君ならきっと助けちゃうもん!



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



そのあと、私たちはルリちゃんの事を話し合っておきたかったけど、
無理そうなので一度、少し離れた位置でアキト君を静観していた。
…だってアキト君、マスコミさんたちの質問攻めですぐに抜けられそうにないんだもん。

「アキト君、災難だね」

「…ホント、災難です」

…ちょっとこの間の事で、アキト君とユリちゃんとお話したいことがあったけど、
ルリちゃんの事もあるから後になっちゃいそうだね…。
でも、ユリちゃん、アキト君とちゃんと今後の事話しておかないとだめだよ?
じゃないと…アキト君と大切な時間、取れなくっちゃうよ?
本当に王子様級に注目の的なんだから…。


















『機動戦艦ナデシコD』
第二十九話:daughters-娘たち-その2

















〇地球・東京都・立川市・連合軍基地・指令執務室─ミスマル提督

私はユーチャリス受領の祝辞を通信で入れた後、
おとなしく受領式の続きをテレビで確認していたが、
ルリ君のピースランドからの使者との接触が直後に…。
……やはり大変なことになったな。
しかしピースランドの船…あまりにタイミングが良すぎる。
これは全世界に『ホシノルリはピースランドの姫』と先んじて伝えるためにやったのだろう。
強引すぎるが、この事実さえ広まれば多少の事では引きはがせないからだろう。
……そうなると、ルリ君をどうしてもピースランドの姫として再度引き入れたいということか。
ルリ君の生い立ちが生い立ちだけに内々で何とかしたいはずだと思っていたが…。

そうか、アキト君が地球圏の英雄になりつつある今、
そこまでしないと連れていけないと踏んだんだな。

しかもルリ君の生い立ちを白日の下にさらすというのは、
ネルガルへの仕返しも含むということになる。
いくらエステバリスが地球圏を救う機体になるとはいえ、
人体実験にほとんど近いことをしたとなればバッシングは必至だ。

…だが、そのやり方はルリ君の心をひどく傷つける可能性があると思うがな。
やれやれ…これはユリの言う通り、アキト君が助けにいくことになるかもしれんな。
ルリ君は気遣いのできる、人を見る目のある賢い子だからな。
そんなやり方をしているような相手にいい印象を抱かないかもしれん。
…実の親とはいえ傲慢になりすぎてはいかんと気づけなかったようだな。
とはいえ私もルリ君と生い立ちが近いユリの事を想うと、分からんでもない。
生死不明だった娘に何としても戻ってきてほしい、その気持ちは良く分かる。
19年分のわがままを言ってくれても私は叶えたいと思う。
しかしあの子も、できる子で私になかなか頼み事をしてくれないからな…。

…ルリ君がどうなるかは分からんが、
何かあったとしてもアキト君の事だからなんとかするだろうが…果たして、大丈夫だろうか。
































〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・食堂─ナオ

「……アキト、お前大丈夫か」

「………大丈夫に見えます?」

「いや…」

「なら聞かないでください…」

…あれから、アキトはまたひどい目に遭っていた。
アキトはルリちゃんがピースランドの使者に連れていかれた後も、
質問攻めの記者会見、そして立食パーティの続きでも質問攻めにされ、
日が落ちかかっている中、食堂でぐったりしていた。
さすがのアキトも、食欲が落ちてるな…普通盛りを6人前しか食べてない。
芸能界に舞い戻って4日、アキトはかなり消耗している。
…お前、初出撃の時だってここまでは疲れ切らなかったろうに。

「アキト、明日と明後日までは芸能界で頑張るんだよ。
 そのあとはちゃんとお休みあげるから」

「うう…ラピス、お前容赦ないよな」

「私だって休みなしなんだから。
 お肌に悪いのに夜更かししてまで手伝ってるんだからね!」

…ラピスちゃん、仕事できるよなー。
アキトのほうが全部しぶしぶやってて子供みたいだぜ。

「でも、明日には出撃がなかったか?」

「そっちはだいじょーぶ。
 ユーチャリスのグラビティブラストでばっちり、
 エステバリス隊も手練れが4人、無理に戦力の事を考えないでもいいの。
 アキトは別に無理して出撃しないでいいんだよ」

「お、俺には出撃より芸能界のほうが辛いのに…」

「二日だけだから。
 ユーチャリスさえあれば弾が無料のグラビティブラスト撃ちまくれるんだから、
 ぼろもうけだよ」

…弾が無料ってどんな武器なんだ、そのグラビティブラストって。

しかし…アキトは芸能人、パイロットともに能力は両方ともずば抜けているが、
パイロットはアカツキ会長が代わりにエースになれるが、
芸能界ではアキトの代わりになれるやつはあんまりいない。
…そう考えると、アキトは芸能一本でやってくほうが、PMCマルスも世間も損失が少ないってことか?
ま、健康状態に不安があるから出撃は避けさせたいってみんな思ってるが、
芸能界に居続ける方がこいつは早死にしそうだよな。

「ほら、行くよアキト」

「え?
 ちょっとまて、どこに?」

「決まってるじゃない、ユーチャリスよ。
 今晩はユーチャリスで寝て」

「なんでだ!?」

「ユーチャリスで寝れば、そのまま東京に行けるでしょ。
 今のアキトには一時間だって貴重だし、
 ちゃんとゆっくり寝たいでしょ?
 交通費もかからないし、アキトはゆっくり眠れるし、いいことづくめでしょ?
 幸い明日の出撃は北海道だし、通り道だから。
 だからもう、今日はみんな乗り込んで泊まるの。
 ユリカたちはもう乗り込んでるよ?」

「い、いつの間に…」

「それじゃ、ナオ。
 保安部の女の子たちと食堂班の子とマエノとテンカワは置いてくから、
 よろしく」

「あ、ああ…任せとけ」

「じゃ、さっさと行こうよアキト。
 今日はまだちょっと時間あるし、
 ユリにねぎらってもらいなよ」

「あ、ありがとう…」

……もしかしてこの計画もラピスちゃんが?

そんな気がするが…だとすると、とんでもない子だな…。
小さいわりに仕事が出来るってレベルじゃないぞ…こりゃ一種の天才だ。
普通はこのくらいの子っていうのは自分の事ばかりで周りの人の事を考えるなんて無理だ。
こんな段取りと下準備が出来て、気遣いもばっちりで、しかも人を動かすなんてな…。
妻のユリさんもその妹もアキトが抜けてる分をがっちりフォローしてくれる。
…アキトも果報者だよな、ほんと。






























〇地球・九州地方上空・ユーチャリス・ブリッジ──ユリカ

私たち、ナデシコクルーはユーチャリスに呼ばれてきたけど…。
本当に姉妹艦っていうだけあって、内部はスペースが狭いところがあるくらいで、
ほとんどナデシコと同一になっている。
たしかにこれなら練習艦として申し分ないよね。
…でもユリちゃんとラピスちゃんに言われるがままに配置についたわけだけど、
すごいよね、ラピスちゃんがアキト君に気を使って、
しかも明日の作戦に合わせて先に動く計画を立てるなんて。
私達も乗ってすぐに作戦っていうと急だもんね。

…で、ユリちゃんとアキト君は二人で部屋にこもって…。
疲れがひどいからすぐに休ませなきゃいけないって言ってたけど、
ブリッジに顔を出さないってことは…。

はうっ、だめよユリカ!想像しちゃダメっ!


「艦長、なに赤くなってるの」

「はっ、ご、ごめんなさいミナトさん」

…しっかりしなきゃ。
私、ミスマル家の姉妹の中じゃ一番年上で長女だもんっ!
かわいい妹やアキト君に頼りっきりじゃ情けないから頑張らないと!うん!
戦艦に乗れれば、やっと私の真価が発揮できるんだもんね!
でも…。

「うう…ラピスちゃん、アキトを乗せてくれないんだもん…ひどいよ…」

「いいじゃない、この間デートしたばっかりなんでしょ?」


「でもでも好きな人とは毎日いっしょに居たーーーい!!

 アキトの作ったご飯がたべたーーーーーい!」




「…艦長、欲望に忠実ですよね」

「ユリカ…うう…」

あれ、なんで私がアキトに会いたいって話をしてるのに、ジュン君が泣いてるんだろ?
アキトと会ったこともないのに。
あ、そういえば、ジュン君もアキトの事はテレビで一緒にみかけていたから…。
……もしかして。



「えっ!?

 もしかしてジュン君、

 私と同じでアキトが好きなの?!」




「そんなわけないだろーーーーーーーーーっ!!」




…じゃあなんでだろ?
わっかんないなぁ…。









「…きらーん、いい同人誌のネタげっとー♪」


























〇地球・ピースランド・城下町─ルリ

……完全に見誤っていました。
私を迎えるやたら豪奢な馬車、そして舞い散る紙吹雪…盛り上がるパレードと群衆…。
このピースランドは人口こそ多くはありませんが、国民はほぼ王の部下といっても過言ではありません。
総動員して私を出迎えてくれるとは…。
だけど、私はそんなことは望んでいないんですけど…。
私が望んでいたのは…。

「ルリ姫、驚かれているでしょう。
 あなたは恵まれない境遇に居続けた中、
 こうして国民に愛される姫として迎えられたのですから」

「…興味ありません」

「おやおや…」

…何か、子供扱いされている気がします。
子供扱いするならするで、もうちょっと色々あると思うんですけど…。
……いえ、この国で普通の対応を望むこと自体、やっぱり間違いなのかもしれませんね…。
どうしてユリ姉さんは、無理にでも親に会うようにといったんでしょうか。
聡明なユリ姉さんのことです、何か考えがあっての事かとは思うんですけど…。
下調べなしにピースランドに送ったりはしないはずですし…。
…この時点で、私は両親をユリ姉さんの100分の1も信頼できてません。

……はぁ、さしあたっては三日くらいは我慢してみましょうか。



























〇地球・ユーチャリス内・ホシノアキトとユリの部屋─ユリ

私とアキトさんはこの世界に来た時…正確にいうと来た時、というのはちょっと違うんですが、
とにかくこの世界で未来の記憶を取り戻した時から、離れたことがあまりなかったせいか、
数日という短い間でも一か月以上会ってなかったような気分になってました。
みんなに、背中を押されて二人っきりの時間を満喫してます。
…ただラピスに、

『私は寝てるとアキトの視界が見えちゃうんだから深夜にいちゃつかないでほしい』

と怒られてしまって、
まだ日が落ちたばかりの時間ですが部屋に押し込まれたっていうのもあるんですけど。
それで私も…アキトさんとの再会で少し浮かれてしまっていたみたいです。
アキトさんが疲れてるのに、わがまま言っちゃいました。
でもアキトさんも照れくさそうに笑って、積極的にキスをしてくれてそのまま…。
時間も限られてますし、ほどほどではあったんですけど…それでも満足しちゃいました。
忙しい中でも、アキトさんが応えてくれるのって、すごくうれしい。
お互いに離れ離れになってでも、仕事を頑張った甲斐があります。
で、今度は私がアキトさんの疲れをいやすためにマッサージをしてあげてます。

「…俺、ラピスの気持ちに…戸惑ってるんだ…」

「…ベットの中でほかの女の子の話しちゃ嫌ですよ」

「ん…ごめんね…」

「でもいいです。
 ちゃんと話してくれるのは嬉しいです。
 …それにラピスの気持ちは、よくわかりますから」

…ラピスは昔の私と同じです。
決して手が届かない位置に、一番好きな男の人がいる…でも離れることもできずに、悩んでいる。
違うのは積極性と、関係の深さくらいです。
ラピスは私と違って積極的で、かつ私よりアキトさんの事を知り尽くしています。
…ホント、手ごわいです。
私も、覚悟はしておいた方がいいかもしれません。

「…最悪、何かのはずみで浮気してしまったら、言ってください」

「うぐ、いたたた」

「あ、ごめんなさい。
 力んじゃいました」

「…でも、ユリちゃん…そうはいっても…」

「…そうです。
 本当は、嫌に決まってます。
 もちろん怒りますよ、浮気なんてしたら。
 たくさん叱ります。
 いっぱい嫉妬します。
 でも、言われないで隠し事されたままなんて耐えられません。
 ……誰だって間違いはありますし、
 それにラピスを放っておけないアキトさんって、
 なんかすごくアキトさんらしい気もします。
 
 だから、いっぱい泣いて、怒って、でも最後はきっと仲直りできます。
 
 …それにこの間、アキトさんが死にそうになった時の事を考えると…。
 私の前から居なくなってしまったらって考えたらって考えたら、
 浮気されても一生そばにいてくれた方が100倍マシですから…」

「…ユリちゃん」

「……って言っておくと、
 アキトさんは浮気しないでいてくれる気がします」

「…はは、そうかも」

こんな風に冗談みたいに言うくらいしか、方法がありません。
私はアキトさんを信じていますが…私と付き合ったのとエリナさんと付き合った前科があります。
……さらにアキトさんの不器用さから考えると、
ラピスが命を投げ出すと言ったら抱いてしまうと思います。
でも、こういう話をしておけば隠し事を抱えてアキトさんが苦しむこともなくなります。
エリナさんの一件で、アキトさんは本当に悩んで抱え込んでしまうのがわかりました。
アキトさんとラピスをしっかり叱って手打ちくらいにしておかないと、
アキトさんは罪悪感で自分を追い込んでひた隠しにして、
ラピスはダラダラとアキトさんの罪悪感を利用して振り回す形になりかねません。
それは私達三人にとってマイナスにしか働かないです。

…はぁ。
分かってはいたけど、下手すると泥沼です。
元々私が選んだ道は、昼ドラもびっくりのドロドロ道ですから覚悟はしてましたけど…。
今のところは怒鳴りあい、憎しみ合いやいがみ合いがないだけずーっといいんですけど。
それに…。

「…もし、アキトさんの寿命が短いってことになったら、
 ちょっと無理してでも浮気してあげてください。
 それくらいしないとラピスもアキトさんの後を追ってしまうかもしれないです」

「……うん」

…アキトさんの寿命の件だけは覚悟はしていましたけど、やっぱりつらいです。
短いと決まったわけではないですけど…。
それも込みで、アキトさんとラピスの関係はどうやっても切り離せません。
黒い皇子時代にも、寿命がわずかのアキトさんを支え続けて、
ユーチャリスから降りようとはしなかったみたいですし…。
もし今後、ラピスとアキトさんの間に、何もなかったとしたら、
アキトさんの死が、あの子の心の死につながって、ラピスに自殺を選ばせるかもしれません。
いえ、たぶんそうなります。わかります。

本当にあの子は私と同じなんです。

…そんなことはさせたくない。
私もそういうことで我慢はしたくありません。
でも、もう一人の私といえるラピスを……死なせたくないのも本当です。
その時、ラピスを救うことができるのはアキトさんだけなんです。
だからこそ浮気される覚悟くらいはしておかないといけないです。
で、でも、だからこそ私もアキトさんと後悔しないくらいいっぱい……。

……想像するだけで顔が赤くなっちゃいますね。

「…暗くなっちゃダメだね。
 話題変えよっか」

「はい…」

「そういえば決闘から戻ってからずいぶん……みんな頑張ってくれてるよね…」

「そうですね…。
 覇気が違いますし、積極的に私たちに休むように言ってくれます。
 残業までして、必死に…ラピスに感謝ですね。
 …こういう時間も下手したら取れませんでした…」

ラピスが私たちの過去を語ったのは思わぬ効果を生んでいます。
パイロット候補生たちも今までののほほんとした空気ではなく、
シミュレーター訓練、そしてそれを加速させるための武術をナオさんに教わり、
本格的な体力づくりを、しっかり行っています。
リョーコさんたちでさえ、その急激な成長ぶりに目を見張っています。
それに業務のほうもだいぶ変化しつつあります。
私たちだとみんなの自発的な行動を促すのがそんなに上手じゃないので、
つい自分たちで動こうとしてしまいがちでした。
でも、積極的にみんなができることはないかを考え始め、
眼上さんとラピスと協力してパイロット候補生たちは業務の整理や共有を行いはじめ、
業務のマニュアル作成、システム化、訓練体制の準備に取り掛かり始めています。
今後の増員を見越した動きと、業務改善の一環です。
本当は私達の役割でもあるんですが、
幹部が極端に少なく、過剰に業務が多くなりがちで、
私はほとんどかかり切りで、寝る時間を削ることすら多かったので…。
それに業務用のソフトもラピスが作ってくれています。
このあたりが出来れば業務の負担も半減してくれます。
立ち上げ以降、私は手続きと渉外だけでも恐ろしく時間を消費していましたし、
アキトさんも芸能の仕事がなくても、訓練と食堂と自分の鍛錬をすると時間切れになりやすくて…。
……そうなると本当にこういう時間が貴重だと思います。
それでもしっかりアキトさんとの関係を続けないと、体が持たなかった時に後悔します。
…本当、お願いですから無事でいてほしいです。

「…ん、そういえばルリちゃんはどうしたかな」

「ラピスが今、情報収集してくれてます」

「いや、たぶんだけどテレビでも把握できると思うよ。
 えっとリモコンリモコン…」

「あ、つけますね」

……そういえばアキトさん関係だとすぐにニュースになるんですよね。
ちょっと外食しただけでもニュースに出されますし…。
私がテレビのスイッチを入れると、
ルリがクラシックな馬車に乗ってバレードで出迎えられているのが見えます。

「…なんか、昔とえらく扱いが違うね」

「今回は思いっきり表立って行動してますし、
 …既成事実を広めようとしている感じがしますね」

ちょっと微妙な違和感があります。
私が過去、ピースランドに戻った時は、
父と母はかなり内々の事として処理したいという気持ちがあったように思います。
無論、彼らに軽んじられたというわけではありません。
私の気持ちをちゃんとくみ取ってナデシコに返してくれるくらいの関係ではありました。
しかし、立ち寄ったピザ屋さんで私が姫であると気づかれなかったことから言っても、
私を積極的に姫として迎え入れるつもりは感じられませんでした。
ま、そういう感じで迎えられても困りますけど。
なんていうか、扱いに困っている感じだったと思います。
私も、生き方が違うって思って離れる決意が出来ましたし。

…とはいえ、ちょっと異常です。

ルリの生い立ちを広めてまで、こんな派手に迎えるなんてことは…。
……考えられるのは、彼らの中で、

『囚われのルリ姫が、自分たちを頼った』

というストーリーが出来上がってて、ルリの話を聞いていないんじゃ…
まさか、そんな…。

………ありえますね。

そうなると、ラピスと話し合ってたことが重要になってきそうです。
アカツキさん経由でウリバタケさんにお願いしておいた、
ちゃんと離れる時に渡しておいたあのアイテムが役に立つ時が来ます。
それまではアキトさんも…あと二日は芸能会にいないといけないですけど、
出来る限り疲れを癒してもらわないと…。

「ぐー…」

……アキトさん、寝ちゃいました。
ホント、お疲れ様です。
私も寝ちゃいましょ…ふぁぁぁ…。

























〇地球・九州地方上空・ユーチャリス・ブリッジ


「そういえばラピスちゃんは?
 オペレーター席から離れてるけど」

「そろそろ寝ちゃってるんじゃないですか?
 私達も自室に戻っていいんじゃないですか」

ユリカの問いに、メグミが答えた。
ラピスの席には公式ホシノアキトファングッズ、
『ホシノアキト人形』がおいてあり、胸には『ラピス代理』と書いてある名札が刺さっている。

「ま、そうよねぇ。
 ダッシュちゃんが見張ってれば、とりあえず大丈夫よねぇ」

「それじゃ、ブリッジクルーは全員…じゃなくて、
 ジュン君、いちおう連絡来るかもだから、夜勤お願いねー!」

「う、うん…わかったよユリカ…」

夜勤を頼まれた副長・ジュンの背中はすすけていた。





























〇地球・ユーチャリス内部・ラピスの自室─ラピス

私はルリを追跡するためのハッキングを行っていた…けど、計算外の事態が起こった。
…まさか城の内部には電子機器が限りなくゼロに近い状態だなんて。
クラシックな電話がメインで、そこかしこに監視カメラはあるけど、全部有線のアナログビデオ。
制御にコンピューターやOSすら用いていない超アナログ監視体制。
人海戦術ができるくらいの人員数がいるからできることだけど、
私のようなハッカーにはかなりの天敵なんだよね、こういうの。

でも、大丈夫。

最後の手段は確保してあるもんね。
私はルリと同じペンダントを持っている。
この瑠璃色のペンダントが私たちをもう一度会わせてくれる。
侵入した後にバックドアを仕込まないハッカーなんて三流以下なんだから。
えへへ。
さしあたっては、ダッシュに詳しい追跡はお願いしておくとして…。
休憩も兼ねてテレビでわれらがルリ姫の様子を見てあげよっと。





























〇地球・ピースランド・ピースランド王城─ルリ

私は王室に連れてこられました。
来る途中にやたら華美なドレスを着せられて、やや滑稽に見えるかもしれません。
…センス、ないよね。

「おお!ルリと申したな!

 お~~~~~~よくぞ生きていてくれた!!」


王が高い階段を全力で駆け下りて私の手を取ってくれました。
……この暑苦しいおっさんが、父?
…なんだろう、ヤマダジロウさんあたりのほうが近い気がします。
紹介された母…どっちかっていうとこっちに似たみたいでよかった。
五つ子の弟たち…彼らも試験管ベイビーでしょうか。
…ただ、将来的に父に似ると嫌だなってちょっと思います。
あの暑苦しいおっさんが五人…。

…いえ、そんなのはそとっつらの話です。
仲良くなれればきっと気にならないレベルの話です。たぶん。

でも、なんだかこの王たちが座っている玉座の高さ…すごい距離を感じます。
この人たちは…何かに怯えている気がします。

何か恐ろしいものが上に居る?
ありえないでしょう。国王ですし。
それとも何か大きな敵がいる?
敵はいるかもしれませんが、ピース銀行の件から言えばそれもあまりなさそうです。
…いえ、曖昧な、それゆえに頭から常に離れないような、
不安のようなものを抱えているようにも見えますね。
お金持ちっていうのも、やっぱ大変なの?

大げさな芝居がかった私へのリアクションも、それを隠すかのようで…。
その表情から私への愛情は感じる。
でもやっぱり私の思った通り…私のほしいものはくれなかった。
ちがう、やっぱりこの人たちは…。
普通だったら気づいてくれてもいいようなところに気づけない、雲の上の人…。
私とは……生きる世界が違うんだ…。

「…あの、父?」

「んん?
 なんだい、娘よ」

「…少し、疲れました。
 お休みして、また明日お話をしてもよろしいですか?」

「おお、すまなかったなぁ。
 さぞ大変な暮らしだったろう、安心して眠るといい。
 部屋も準備してある。
 おい、案内するんだ」

「はっ」

…違うんです、父。
そういうのじゃないんです…。
…私はため息が出そうになるのを我慢して、
案内された豪奢な部屋のベットに倒れ込みました。

「……落ち着かないな」

…どうやら、ここは私の居場所じゃないみたいです。
でもあの人たちをあんまりがっかりさせるのも気が引けます。
人並み程度の愛情は、あるみたいで少しは安心しました。
…別のところで育った私の扱い方がわからなくて、
客人のようなもてなしをしているだけなんです。
ちょっとくらい、子供らしくいてあげるのも必要な気はしますけど、
この国、この城、この人たち…何も安心できないっていうか、落ち着かない。
……適当に『仕事があるから』って逃げられませんかね。
でもなんだか、帰る前提で話してない気がするんですよね、みんな…。
…はぁ。


……そういえば、私のこのプラチナブロンドの髪って、
マシンチャイルドだからじゃないんですね。母譲りだったんですね。

ま、どうでもいいけど。























〇地球・関東地方上空・ユーチャリス・ブリッジ──フクベ提督

私がナデシコに乗り込むにはあと二ヶ月もあったが、
練習艦としてユーチャリスが準備されたのでムネタケともども乗船することになった。
一部、乗り込み予定のクルーはまだ乗船していないものの、ほぼすべてのクルーがそろっている。

驚いたのはクルーのほとんどが10代の若者で、
責任者クラスにすら20代、30代の者が多いことだ。

確かに最前線に出るものは若者が多いのは事実だが、ここまでにはなかなかならない。
しかし戸惑いながらも若く、活気にあふれた空気に和んだ。
…なんというか10代の若者たちばかりの船というのは、
奇妙に年老いた私にもエネルギーをくれるようだ。
だが…私のようなおいぼれの、士気を高めるためだけに英雄に仕立て上げられた者には、
本物の英雄と呼ぶにふさわしい…ホシノアキトという若者は、どうも眩しすぎるな。
エステバリスの性能あってこそとはいえ、二隻の駆逐艦を陸戦兵器で撃破し、
連合軍と協力してチューリップを本当に撃破するなど…できるものはおるまいよ。
勇敢で才能のある…素晴らしい若者だ。
こりゃ、あの『鬼のミスマル』がほれ込むわけだ。

…そのホシノアキトが、挨拶をしにブリッジに人を集めている。

昨日まで芸能界でも引っ張りだこで、挨拶は翌日に、ということになっていたが、
今日は一晩しっかり寝たようで顔色はいいな。
屋台骨の彼をしっかり休ませるためにクルーも配慮していたようだ。いい仲間を持ったな…。
ムネタケはちょっとばかし「たるんでる!」とむくれていたがな。

「えーと、ホシノアキトです」

「「「「「知ってるよー!」」」」


ホシノ君を知らない人間などいないだろうに、とみんな茶化している。
そしてホシノ君がはにかんで笑った。
こんな優しそうな男が、連合軍特殊部隊と互角以上に渡り合えるとはな…。

「今回、うちの会社とネルガルが提携して、
 ナデシコの練習艦として二ヶ月、このユーチャリスを運用することになりました。
 俺たちは小さな会社で、まだクルーもそろっていないことだし、
 それではユーチャリスの力も半減してしまいます。
 ナデシコのみんなの力が必要なんです、お願いします。
 一緒に戦って下さい!!」

「「「「「「おーーーっ!!」」」」」


…謙虚なことだな、このくらいの年齢だと天狗になっても仕方がないだろうに。
だが一人突っ張ることの限界も知っているようだ。そしてそれを素直に口に出せる。
軍であればこういう形で部下に頭を下げるのは命令権の問題で出来ない場合も多いが…。
ホシノ君は正直に頼ることで、相手への信頼を示し、人を引っ張ることができるようだ。
……本当にすごい男だな。

「…と、挨拶が終わったところで、そろそろ東京だし、
 アキトと私とアカツキとエリナは途中下車するよ。
 ナデシコのみんなさえいれば、ユーチャリスは戦えるもん」

…おや、なんとも小さな女の子が。
確かホシノ君の妹でラピス君といったか。
ビジネススーツを着てはいるものの…。
はて?何か特別な感じのする子だな。

「っと、ごめん。
 早速で悪いんだけど、みんなひとまず頼むよ。
 何しろ、うちは民間企業だもんだから弾薬代も稼がないといけなくって…」

……なんとも耳が痛いな。
連合軍では弾薬の費用など心配したことが一度もないからな。

「ちょっと待って」

「うん?なんだい、メグミちゃん」

む、通信士のメグミ君が何か雑誌を突き出したな。

「これ、本当なんですか?」

…全員がその雑誌を見つめた…女性向け週刊誌だな。
何々…。


『PMCマルスの英雄は稀代の女たらし!』


『妻が居ながら妹同然の娘を二人とも手籠めに?』


『ミスマル家の姉妹二人と交際している?』


『12人のパイロット候補生を日に日にとっかえひっかえ!』


『広報業務にかこつけて女性を口説く鬼畜!』


『金の瞳には惚れる精神作用あり?』




……さんざんなゴシップが書かれていた。


どんがらがっしゃあーん!!


ホシノ君が盛大にずっこけた。
それはそうだろう…。
……いや、妻のユリ君と妹のラピス君は腹を抱えて笑いをこらえている。
この調子だと、おそらく事実無根だろう。

「ど、う、な、ん、で、す!」


「そ、そんなことしてないよ!!」

しかしメグミ君の疑惑は晴れる所か深まっているようだな。
…どうしたものか。

「メグミさん、大丈夫ですよ。
 アキトさんはそんなに節操のない人じゃありません。
 …むしろちょっとプラトニックすぎるところのある人ですから」

「…ホントですか?」

「はい」

ユリ君は胸を張ってうなずいた。
ホシノ君は欲がなさ過ぎてむしろ心配な方だとミスマルから話は聞いているが、そんな感じがするな。

「私も保障するよ。
 アキトは私に手を出したりしないし、ルリだって何にもされてないよ。

 でも、夜は激しいらしいけど──」


「「ラピスーーーッ!!」」




ぱんっぱぁんっ!!




すごいスピードでユリ君とネルガルのエリナ秘書が、ラピス君をスリッパで殴打した。
は、早すぎて残像しか見えなかったぞ…。



「あいたたた…」

「ラピスッ!
 最後の一言は余計です!」



「年頃の女の子がそんなこと人前で言わないの!!」




……教育的指導だな、これは。
ブリッジクルーのほとんどが顔を真っ赤にしてしまったな…。
やれやれ、若いのはいいものだが、目立たないようにしなくてはいかんぞ。
あまりこんな子供に悪影響を及ぼすようなことをしては。
…とはいえこのくらいの女の子なら興味津々でも仕方がないか。
みんなが落ち着いて苦笑まじりに、連絡をやり取りして、
ようやくホシノ君たちは揚陸艇ヒナギクで東京に降りようとしていた。

「あ、でも私が降りたらオペレーターがいなくなっちゃうか」

「大丈夫ですよ、ここにいますから」

ユリ君はラピス君の心配をよそに、オペレータシートのIFSを触ると…。
ユリ君の手のIFSの紋章のきらめきとともに、髪と瞳の色が変化し、ホシノ君にそっくりの姿になった。

なんだと…!?

たしかユリ君はミスマルの実の娘のはずだ!
何か特殊な体質なのか!?

……私の驚きをよそに、ホシノ君たちはユーチャリスを降り、
ユリ君は黙々とオペレーターの仕事を始めた。
周りも呆気に取られている。
…色々と驚かされるな、君たちには…。




























〇地球・関東地方上空・ユーチャリス・ブリッジ──ミナト

……びっくりしちゃった。
ルリルリがお姉さんと慕っているとは聞いていたけど…。
本当にそっくりじゃない。
隣に立つと艦長にそっくりなユリちゃんが、IFSを使うとルリルリに瓜二つだわ。
そんなユリちゃんは自分の髪をツインテールにまとめて、オペレータシートに座り直した。

「ユリちゃん、ルリちゃんの代わりをするからって髪型まで真似しなくてもいいのに」

「いえ、この恰好のほうが気分が乗るんです。
 …それに私も経験はあるんですが数年ぶりで、ちょっと勘を取り戻す必要がありそうです」

へぇ、ユリちゃんもそんな経験があるんだ。ふぅん。

「ミナトさん、メグミさん、よろしくお願いします」

「…よろしくです」

「よっろしくぅ!
 ルリルリからいろいろ聞いてるんだから。
 いいお姉さんだって」

「…ミナトさんには負けますよ」

あれ?なんで私?
後ろにいる艦長のほうが実のお姉さんでしょ?

「あー!
 ユリちゃんひどい、私じゃなくてミナトさんのほうがお姉さんっぽいのぉ!?」


「あ、ごめんなさい、ち、違うんです…。
 ミナトさんがルリをよく見てくれていたって聞いていたので…。
 お礼を言いたかったんです。
 ミナトさん、ありがとうございます」

「お安い御用よ、ユリユリ。
 あんなかわいい子放っておけないんだから」

「ほへー……ひょっとしてルリちゃんって、実は女の人にモテモテ?
 アキト君の妹だからかなぁ?」

……どんな理屈よ、艦長。

「そういえば、ルリちゃんはピースランドのお姫様なんですよね?
 …事情は聴いてはいますけどひどすぎです。
 ネルガルって、とんだ悪徳企業じゃないですか。
 もう今からだって降りちゃいたいですよ」

メグミちゃんがぼやく気持ちもよくわかるわ。
だって、いくらなんでもひどいわよねぇ。
テレビで明かされたネルガルとルリルリの関係って。
ホシノアキト君もだけど、身寄りがない人を集めて里親に押し付けて養育費を払って、
それで会社に役に立つように教育するなんて、ほとんど人身売買じゃない。
ネルガルも株価を飛ぶ鳥を落とす勢いで上げていたのに、今朝は急落しちゃったみたいだし。
あーあ、ボーナスが不安になっちゃうわ。
でもルリルリにひどいことをしたような会社って信じたくなくなっちゃうわよねぇ。

「…ネルガルとは私も因縁があります。
 
 でもネルガルがひどかったのは前々会長の、
 アカツキさんの父親の時代の事だったと聞いてます。
 私たちはだいぶアカツキさんに助けられてきましたし、
 エリナさんも、ルリを私たちのところに来るように進めてくれたりしました。
 
 罪滅ぼしには弱いって言われるかもしれませんけど、
 私も、アキトさんも…アカツキさんを恨んだりはしてません。
 ルリはまだ気持ちの整理がついてないのでなんとも言えませんが…」

……なんか複雑みたいね。
本人たちが納得済みなら、ひとまずアカツキ会長の動き次第かしらねえ。
私もちょっとは気持ちが楽になったけど。

「アカツキさんとはそんなに仲がいいんですか?」

「この間、アカツキさんの家に招かれて一緒に食事するくらいには」

…なんだ、和解してるんじゃない。
ま、噂話でその人の評判なんて計れっこないもんねえ。

「それに今はルリの事でてんてこまいでしょうから。
 経営者仲間としてちょっと同情してます」

























〇地球・東京都・ネルガル本社・会長室─アカツキ

……やれやれ、こういう日も来るとは思っていたけどひどいもんだね。
今朝、いや昨日の夜からひっきりなしに電話がかかってくるし、
メールの問い合わせ件数に至っては千件単位で飛んできている。
これに返信するだけで一日が終わっちゃうよ。
社長たちにもかなり負担をかけてしまっている。
…しかしピースランドの国王、とんだ昼行燈だと思っていたが、
本気となるとやはりあのレベルの金を動かす国の長だけのことはある。

…まさかルリ君の身柄を無理矢理取りに来るだけでなく、
ユーチャリス受領のタイミングでネルガルの悪事を暴きにかかるとは。

いや、本当参ったよ。
下手するとエステバリス導入すら取り下げられてしまいかねない。
そうならなくても株価の値下がりで結構厳しいよ。
何しろ今のネルガルには金がほとんどないからね。
致命傷にはならないにしても、かなり手痛い。
ネルガルのダメージが一番大きくなる方法をとってくるとは。
それに…こりゃ一種の市場操作かもしれないね。

この株価の変動が読めてさえいれば一番得をする方法なんていくらでもある。
ダミー会社を挟んでやればピースランドが仕組んだ証拠も残らない。
何しろあの銀行そのものがブラックボックスだからねぇ。
ロスチャイルドもびっくりだよ、これ。

「ナガレ君っ!!」


「おっと、エリナ君。
 ごめんよ、こっちも忙しいんだ」

「分かってるわよ!
 でも、どうするのよこんな危機を!!」


エリナ君も想定外の危機にいら立っているね。
どうしようかねぇ、ホント。
僕たちじゃ手に負えないよねぇ、これ。

「ま、株式で会社を乗っ取られる可能性は低いし、大丈夫さ。
 ただエステバリス導入が阻止される可能性は五分五分ってところかな。
 クリムゾンもここぞとばかりに、ステルンクーゲルの試作機を発表したし?
 技術力がさがって、性能はエステバリスの半分でも、価格が半分以下ならいい勝負になるからねえ」

「何落ち着いてるのよ!対策はあるの!?」

「ないよ」

きっぱりと言い切った僕に、エリナ君は怒り心頭って感じだね。
おっと、フォローしないと後が怖いな。

「僕らの取れる対策はないけど、
 スペードのエースと、
 ハートとダイヤのクイーンがあるじゃないか」

「…アキト君たちをあてにしてるの?」

「そうさ。
 あの調子じゃ、ルリ君だって数日も持たないだろう。
 助けを求めてくるに決まってる。
 お姫様が助け出されたら、僕らにも弁明のチャンスがくるさ。
 その時、アキト君、ユリ君、ルリ君が僕らをフォローしてくれればいい。
 今回もウリバタケ君の力を借りて仕込みは終わってる。
 …あとはどれだけ派手にアキト君が暴れてくれるかってところだけさ」

「…秘密主義もいい加減にしなさいよ。
 どんなプランがあるっていうのよ?」

「作戦が始まるころにはラピスからメールが来るよ。
 僕も半分くらいしか教わってないからさ。
 エリナ君、君にも動いてもらうよ。
 ……ラピスは本当に策士だよ、プランを見たら腰抜かすかもね。
 ついでにユーモアにも富んでるときた。
 本当に楽しい祭りになるよ」

「祭り?」

「閉じ込められたお姫様を連れ出すには、
 やっぱり周りでお祭り騒ぎするしかないじゃん?」

──そう。
かつての『黒い皇子』が好んだやり方。
騒ぎを起こして、相手の動揺と動きを誘って調べる手口──。
もっとも、今回は本当に楽しくて、明るくて、すがすがしいバカをやりに行くんだけどさ。
これは一生忘れられない思い出になっちゃいそうだよ。
いや、ホントに録画したいよね、これ。

……ラピスのハッキング映像だけじゃなくて、
衛星カメラをいくらか動かしてもらうかな…。

「…ちょっと、その半分のプランはあるんでしょ。見せなさいよ」

「はいはいっと、ほら」


























〇地球・北海道・連合軍千歳基地上空・フクベ提督の部屋─ムネタケ

私とフクベ提督は連合軍からの諸連絡を受けて、
艦長とその妹のオペレーター娘と一緒に作戦を話し合った。
…けど連合軍、そしてフクベ提督の判断は「任せてほしい」という艦長の進言を受け入れて、
ユーチャリスを前面に立たせての作戦を了承した。
ミスマル家の姉妹…まさか連合軍に納入予定の巡洋艦を民間企業が横取りするなんて、
さすがにミスマル提督のコネ一つではできっこない…一体どんなコネなのよ、まったく。
親の七光りじゃすまないわよ、こんなのは。

…まあ、あのオペレーター娘のほうとホシノアキトは何かしらネルガルに体をいじられているわけだし、
罪滅ぼしのついで、ネルガルの宣伝要員として申し分ないからだとは思うけど、
戦艦の運用で実績を残せるとは思えないわ。
戦闘経験が一回きりの、しかも戦艦なしの戦いをしたことしかない艦長、
そしてホシノアキトに頼りすぎた戦闘しかできない、オペレーター娘。
エステバリスの性能、ホシノアキトの戦闘力は悔しいけど本物。
でも組織立った作戦が得意なタイプではないのは確かよ。
さっさとエステバリスの訓練教習所として連合軍にノウハウ渡して、つぶれちゃえばいいのに。

ネルガルの虎の子の新造巡洋艦を連合軍に売らずに、
無料で引き渡すほどすごいとはとても思えないわ。

…ま、そんなに期待しちゃいないわ。
このユーチャリスのスペックを鑑みれば『逃げ足』だけは地球圏一だもの。
危なくなったらほうほうのていで逃げ出すにきまってるんだから。
同乗している私とフクベ提督の命がまず守れれば構わないわ。
けど、艦長とオペレーター娘の表情は自信に満ちている。
一回や二回勝ったからって浮かれてるんじゃないわよ。
…それともなにか、まだこのユーチャリスには秘密兵器の類でもあるというの?

…それにしても作戦前だってのに、
この艦の浮かれた雰囲気…本当に気に入らないわね。
私が何を言っても聞こうともしないんだから。
全く、普通の民間人ってこれだから困るわ。

「ムネタケ、お前は行かないのか?」

「は?何がです?」

「食堂で連合軍から出向しているパイロット訓練生が、
 交流会をやっているそうだ。
 彼らの様子を良く知るのも、我々にとって重要だと思うんだがな」

「…なれ合いは好きじゃありません」

「そう堅苦しくなるな。
 ホシノ君みたいな男がいると、ちょっとやそっとじゃ私達など目立ちもせんさ」

「…」

…いくら仲良くなったところで、死ぬかもしれない相手だわ。
木星トカゲとの緒戦で、痛いほどわかった。
親の七光り、扱いづらい提督候補…挙句の果ての火星のへき地への左遷。
それでも、なんだかんだで他の艦の同期にちょっとくらいは友達がいたわ。
…でもそれも全部なくなった。あのたったの一戦で。

だったら、勝つしかないじゃない。
あのみじめな想いを知ったら誰でもそう思うわよ。
でもパパやミスマル提督ほどの才覚を持つ人を扱いきれないような、
無能な上層部が居座ったままだったらダメなのよ。
この戦争で私も武勲を立てて、出世してすべてを変えるしかない…。
それは数年でパパを超えるってことで…無謀だとわかっているけど、
どんな手段を使ってでもその位置に行かなければ、私は…。




……例え、この船を奪ってでも…英雄殺しの汚名を着ようとね。



























〇地球・東京都・テレビ局・楽屋─ホシノアキト

………参った。
俺はユーチャリスを降りてから朝にニュース番組のゲストコメンタリー、
直後にCM撮影、昼にはバラエティ番組に引っ張られて…まあ、本当に大変だった。
たまに『世界一の王子様』とあだ名されていたとはいえ、
本当に王子様って言われることはあんまりなかったんだけど、言われまくった。
昼のバラエティ番組は会場全体が沸きに沸いて、
前半は番組がほとんど進行しない事態に発展してしまった。
番組ディレクターたちも苦笑しながらもファンの女の子たちの熱狂を止められなかったらしい。
今座っている楽屋の一角にも俺へのプレゼントがうずたかく積まれてしまっている…。

……ピースランドの人、恨みますよ。

しかしまあ、俺の人気はともかくとしてだ…。

「ラピス、ごめんな。
 大変だったな」

「ぐす…だいじょぶ…」

「ごめんね、ラピスちゃん。
 まさか私が目を離してる間にそんな悪辣な態度をとると思ってなかったから…」

…ラピスがトイレに行こうとして一人離れたところで、
俺が次に出る番組のプロデューサと、打合せと称して少し話し合ったところで、
「やっぱり子供だな」「君じゃ話にならないな」とかなりバカにされて傷ついてしまったらしい。
ラピス自身の話し方や交渉には問題を感じないし、眼上さんが太鼓判を押すレベルなんだが…。
今後はラピスに、誰かが付き添ってくれた方がいいかもしれない。
隣に眼上さんがいないと横柄な態度をとる人間が出てくるっていうのを想定できなかった俺たちのミスだ。
…フォローしてあげたいな。

「…ラピス、午後の予定キャンセルして一緒に出掛けるか?」

「!
 う、うれしいけど、大丈夫!
 アキトのマネージャーするって引き受けたんだから、
 こんなの、かすり傷にもならないよ!」

「いや、でも…。
 お前、俺の足を引っ張ってるって気にしてないか…?
 こういう時くらい甘えていいんだぞ?」

「…いいの。
 エリナもね、会長代理してる頃に、
 きっと代理だから女だからってバカにされたりとかしてきたと思うの。
 アキトを支えるのに、こんなことで挫けてちゃやっていけないよ!」

「ラピスは強い子だな…」

「うんっ!」

本当は俺とデートできるってはしゃぎたいだろうに、強がって…。
…この気持ちに恥じないように、俺も頑張るか。
芸能界が苦手だって言ってる場合じゃない。
支えてくれるラピスの気持ちに応えよう。

「よしっ、気合入れて次行ってくる!
 えーと次の仕事は…」

「これだよ、アキト」

…ああ、そうか。
そろそろこの時間だから…。
……自分の会社なのにまさか作戦から外れさせられて、
実況解説に回されるとは思わなかったなー。


























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社─テンカワアキト

そろそろ戦闘開始の時間かー。
俺たち留守番組は昼食を終えてのんびりしていた。
本来この時間は午後の業務だが、土曜日でお休みだからのんびりしてる。
…もっとも、それでも食堂班は持ち回りで3食の食事を作るけどな。
会社に住んでいないマエノさんも暇を持て余したのか、
食堂でいっしょに過ごしている…というか外食代わりに来ちゃいないか、この人たち。
いくら社食が福利厚生費の一部で無料で提供されてるからって、
マエノさんは一家全員…5人兄弟+シーラちゃんで、めちゃくちゃ食べている…。
一応、ホシノに許可はもらっているし、ホシノは一人でその6人分の量~2倍は食うからいい…のか?

「ねーねー、そろそろじゃない?」

「わーい!せんとうかいしー!」

「わっ、皿洗ってる場合じゃない!」

…で、その一家がウキウキ気分でテレビを見ている。
パイロット候補生の女の子たちも集まってきた。
ホシノが出ていた昼のバラエティから続いて、
同じチャンネルで始まるPMCマルス戦闘実況中継にを見ようとしているな。

「そういえばなんでさつきとテンカワ君とマエノ君は外されたの?」

「いやー…なんでも今回は空戦エステバリスメインらしくてさ。
 俺たちって陸戦エステバリスの経験しかないだろ?
 シミュレーターでもよく墜落してるから、危なすぎるって外されたんだよ」

…そういえばそうだったな。
ナデシコのエステバリス隊のみんなはネルガル持ち込みの空戦フレームが届いたが、
PMCマルスには一台しか空戦フレームはない。
そんな虎の子の空戦フレームを乗りこなせるらしいホシノはテレビに…今出てる。
PMCマルス所有のエステバリスは全台、こちらで待機だ。
つまり、今回のユーチャリスの運用は主にナデシコのメンバーが行ってるわけだ。
どうやら今回の戦闘はホシノは実況解説役らしいな。
以前にPMCマルスの戦闘実況解説をしていたアナウンサーの隣に座っている。

『みなさんこんにちは。
 PMCマルスの戦闘実況のお時間です。
 今回はビックゲストをお迎えしての放送となります。
 皆様お馴染み、
 『PMCマルスの若き会長にしてエースパイロット』『芸能界希望の星』『世界一の王子様』、
 ホシノアキトさんです』

パチパチパチパチ…。


『えー、は、初めまして。
 ホシノアキトです…。
 実況解説は初めてですんで、かなり緊張しています。
 よろしくお願いします』

『こちらこそよろしくお願いします。
 先日の妹さんの出来事で、アキトさんまで王子様扱いされてますが、
 それからいかがでしょうか、何か変化はありましたか?』

『あ、あはは…俺は関係ないって言ってるんですけど、
 みんな中々聞いてくれてなくて…』

…ホントにホシノ家って自分で目立ちたくないのに目立つ運命にあるよな。
ホシノもルリちゃんもだけど、なんだか実家のほうも大変になってるみたいだしなー。
まあネルガルに用意された名前貸してもらってるだけの里親で、
あんまりいい印象がなさそうだったけど…。

『そういえば正式にネルガルとの提携が発表された矢先ですが、
 ピースランドの使者からの情報では、
 アキトさんとルリさんとはネルガルとの関係は決して穏やかなものではないようですが…』

『それについてはご心配をおかけしていますが、
 俺とユリちゃんは先々代のネルガル会長、アカツキの父親の方針だったと認識しています。
 
 …アカツキとはエステバリス訓練所からの仲で、友達です。
 PMCマルスでもエステバリスをかなり安く初期購入させてくれたり、
 かなり助けられています。
 
 …それ以上は求めませんよ」

『……さすがホシノアキトさん、寛大ですね』

『実際、アカツキが会長になったのはこの一年そこそこ前の話ですし、
 彼を恨む理由はありません。
 今、地球圏にはエステバリスが必要ですし、俺たちも協力するつもりです。
 …ルリちゃんがどう思ってるかは聞けないままでしたけど』

『なるほど。
 では、このあたりも詳しい話も聞きたいところですが、
 戦闘開始が迫っていますので、戦闘後にしたいと思います。
 それでは、今回の編成についてお願いします』

『はい。
 俺たちのPMCマルスは40人余りの小さな会社です。
 戦艦運営をするにもまず人数が足りません。
 現在募集中の契約社員100名の選考は終わってませんので、どうしようもない状態です。
 
 そこで、ネルガルとの業務提携が正式に発表されたのでお話しますが、
 二か月後に出航予定のネルガルの新造戦艦であるナデシコ、
 そのクルー200名にユーチャリスを練習艦として運用してもらう、ということになりました。
 …彼らもとても優秀なクルーばかりです』

『おお、前回の山口県での戦闘に参加した彼らですね。
 これは心強い』

『えっと、画面切り替えお願いします。
 今回はユーチャリスのブリッジクルーの紹介です。
 艦長はユリカ義姉さんが担当、副長はアオイジュン。
 ユリカ義姉さんは連合軍士官学校を主席で卒業というのはすでに知ってると思いますけど、
 副長のアオイジュンは、そのユリカ義姉さんの右腕にふさわしい秀才と聞いています。
 
 操舵手はミナトハルカさん、
 通信士はメグミレイナード…みんなご存知メグちゃんです。
 
 それと…オペレーターはルリちゃんだったんですが、ピースランドに行ってますし、
 代理のラピスも抜けてる状態なので、今回はユリちゃんが担当になりました』

『おお…こうしてみると、
 本当にミスマル家、ホシノ家総動員なのが分かりますね。
 そういえば、ナデシコとユーチャリスは姉妹艦なんですよね?』

『ええ、ユリカ義姉さんがナデシコの艦長になった後は、
 ユリちゃんがユーチャリスの艦長になる予定です。
 二人とも血筋のせいか指揮能力が高いので…』


「なにぃ~~~~~~~っ!?

 ゆ、ゆ、ゆ、ユリカが艦長だって!?」



ちょっと待て!
ナデシコで火星に行くってのは聞いていたし、ユリカも乗るってのは聞いた!
だが、あ、あいつが艦長だって!?

不安だ!

不安すぎる!!


「なーに驚いてんだよ、アキト。
 お前、ちゃんと仮編成のプリントもらってんだろ?
 ユーチャリスはナデシコクルーとPMCマルスのメンバーで交代で使うって」

「あ…すみません、ちょっと食堂の仕入れでいっぱいっぱいで見てなくて」

「ったく、しょうがないやつだよ」

俺はナオさんに渡されたプリントを見てみた。
…。

第一中隊・ナデシコ班
【ブリッジクルー】
艦長:ミスマル・ユリカ
副長:アオイ・ジュン
操舵手:ミナト・ハルカ
通信士:メグミ・レイナード
オペレーター:ホシノ・ルリ
提督:フクベ・ジン

【パイロット】
パイロット:スバル・リョーコ
パイロット:アマノ・ヒカル
パイロット:マキ・イズミ
パイロット:ヤマダ・ジロウ(ダイゴウジガイ)
パイロット:アカツキ・ナガレ(臨時)





第二中隊・PMCマルス班
【ブリッジクルー】
艦長:ホシノ・ユリ
副長:ホシノ・アキト
操舵手:エリナ・キンジョウ・ウォン(臨時)
通信士:未定
オペレーター:ホシノ・ラピス・ラズリ
提督:ムネタケ・サダアキ

【パイロット】
パイロット:ホシノ・アキト(兼任)
パイロット:テンカワ・アキト
パイロット:マエノ・ヒロシゲ
パイロット:明野さつき
他、パイロット候補生多数。


【他の人事については、逐次変更、シフト制】
【連合軍パイロット訓練生の実地教習の可能性あり】





……マジだ。

「あ、あ、あ、あ……」

「…テンカワ君、ちょっち失礼じゃない?」

「さ、さつきちゃん…あいつ突拍子もないことするから…」


「「「「「いや、突拍子のなさはテンカワ(君)のほうが」」」」」



……あれ?
俺って自分で思ったより信用なかったりした?
























〇地球・北海道・連合軍千歳基地上空・ナデシコ・ブリッジ─ジュン

ついに、巡洋艦での戦闘か…。
ナデシコと違って戦艦クラスではないけど、あのエステバリスを作ったネルガルの事だ…。
木星トカゲに対抗する手段をかなり備えているに違いない。
…特に、主砲…重力波関係の武装があるのが大きいだろう。
木星トカゲの戦艦クラスにも装備されてる武装らしいが、どんな威力なんだ…?
ユリカの立てた作戦だと、これだけで木星トカゲの機動兵器、
チューリップも十分に相手ができるようだけど…。

「艦長、作戦開始の合図が来ました。
 一言差し上げたいそうです。
 通信出します」

『ミスマル艦長、千歳基地の司令だ。
 私達も貴殿らの武勲はよく存じている。
 今回も頼りにさせてもらう。
 よろしく頼む』

「こちらこそっ、
 よろしくお願いしまーーーすっ!」


ユリカは大きな声を上げて一礼した。
世間的にはホシノアキトの一騎当千ぶりやネームバリューが先行しがちだけど、
連合軍内ではホシノアキトがほとんど参加しなかった山口県の戦いで、
戦艦なしに小型チューリップを撃破したユリカの作戦はかなり評価が高かった。

空戦エステバリスが足りない状態で無人ヘリを使って対応を行い、
ヤマダの陸戦エステバリスで敢行した垂直落下式ディストーションフィールドアタック、
バンカーバスターと砲戦エステバリスの連続攻撃で見事に轟沈に追い込んだ手腕…。
しかも負傷者すら一名も出さずに作戦を成功させた。

戦艦があってもチューリップどころか、
機動兵器にしてやられる事が多い連合軍からすると、かなり驚異的だ。
手練れのエステバリスパイロットが多数参加しても苦戦した作戦でもあったので、
噂では連合軍の内部広報でも、かなり評判が良いらしく…。
……ついでにミスマル提督が鼻高々に自慢しているコラムは10ページにわたったらしい。

それはさておいて…ついに作戦は開始した。

ユリカの立てた作戦はエステバリス隊が機動兵器をひきつけ、グラビティブラストで一掃。
グラビティブラストの威力いかんで、作戦は大きく変更を余儀なくされるだろうけど、
いざとなればユーチャリスは敵を引き離せるくらいに船速が早い。
威力がそれほどじゃなくても立て直しはおそらく容易だ。

「ミナトさん、気持ち、もう少し船首を上げて…。
 そいで少し高度を落としてもらえます?」
 
「おっけー。
 …でもこんなちょっとでいいわけ?」

「ちょっと主砲の威力がありすぎるみたいで…射角は丁寧にしないと。
 街にかすったりしたら大ごとなんですから」

…そりゃそうだ。

「これくらいでいいかしら」

「ユリちゃん、大丈夫そう?」

「おっけーです。
 射角、問題なし。
 現在も敵の6割をばっちりとらえられてます」

「よぉし!

 じゃあエステバリス隊のみなさん、

 がんばっちゃってくださーーーい!」

…相変わらず景気がいいね、ユリカは。




















〇地球・北海道・連合軍千歳基地上空──リョーコ

俺たちは全機空戦フレームで敵を蹴散らして、
ユーチャリスの射角に追い込んでいる。
この程度の数なら別に俺たちだけでも何とかできそうではあるが、
グラビティブラストの威力を試す必要があるってんで、まず一回撃つことになったらしい。
…つっても、こんな範囲が大きくていいのかよ?
どう考えたって、こんな大きさのビーム砲やレーザーなんてねえだろ?
いや、艦長はあの局面でも作戦を成功させた。
今回も信じてみるしかねえ!

「てめぇら!
 さっさと離脱しねえと、とばっちり受けるからな!
 とっととひきつけて逃げるぞ!」

『りょーかいりょーかい!』

『さっさと片付けるわよ』

『ケツまくって逃げるのは性に合わねーけどしゃーねーな!』

俺たちは最後の仕上げとばかりに、4機まとまって逃げるフリをした。
木星トカゲの機動兵器も慌てて俺たちを追いかける。
…ここで少し沈み込んで!

「艦長!カウントダウンだ!」

『了解です!
 ユリちゃん、グラビティブラスト、広域放射準備!』

『広域放射、チャージ足りてます。
 出力20%』

「10!」

『きゅー!』

『はーちのす』

『7ぁっ!』

『ろーく!』

『ごー』

『4!』

『さーん!』

『に、にい』

『いーち…』

そして、俺たちが全力で上空に逃げると…バッタだけがグラビティブラストの範囲に収まる!




『『『『『『『『『ゼロッ!』』』』』』』』』』』



『グラビティブラスト、てぇーーーー!』




『グラビティブラスト、発射』




俺たちの真下に、すさまじい閃光が走る!
こ…こいつは…!?


























〇地球・北海道・連合軍千歳基地上空・ナデシコ・ブリッジ─ジュン

……僕は息をのんだ。
グラビティブラストの威力は想像を絶するものだった。
艦首から広域放射されたその閃光は、
戦艦の主砲のビーム砲すらはじくバッタのフィールドをいとも簡単に消し飛ばし、
300もの数のバッタが、すべて爆発した。
それどころか後方のチューリップから出始めていた駆逐艦クラスまでも撃墜した。
チューリップは、まだ半壊にもなってはいないものの…この威力だ。
広域放射で、威力は半減以下のはずなのに…。

「なんて…威力…」

「すっごーい!」

「やったわね、艦長!」

メグミ君と、ミナトさんがはしゃいでいる。
…いや、僕たちからするとそんなに気を抜いていられない。
まだチューリップは破壊しきれていない!
もう一撃、強力な一撃が必要なんだ!

「まだです」

…あれ、ユリ君まで次に備えている。
ミスマル提督の娘さんとはいっても、士官学校は出てないらしいんだけど…。

「ユリちゃん、チャージしてる?」

「はい。
 フルチャージにはもう1分ほどかかりそうです」

「今撃つとどうなる?」

「50%くらいの出力ですが、
 収束率を上げればあの調子なら一撃です」

「じゃあもういっぱーつ!」

「はい。
 パイロットの皆さん、そのまま待機でお願いします。
 グラビティブラスト、50%、高収束率で発射」

淡々としたユリ君の言葉とともに…。
再び、今度は少し細い閃光が放たれ、チューリップはあっさりと崩壊した。

…あまりにあっけない顛末に、僕は一人愕然とした。
これは、強力すぎる。
連合軍の兵器が、ビームに偏ったのはあくまでもビームが必殺兵器だったからだ。
バリアは戦艦にはなかなか搭載できないこともあって、
当たったら運が悪い、とばかりに撃墜されるのが普通だった。
ビーム対応装甲もないわけではなかったけど高価で、旗艦に搭載されるのが関の山だった。
木星トカゲの登場で、それと同等の装備を連合軍も求められたけど…。
ここまでの威力の武器をネルガルが準備していたなんて…。

…震えた。

姉妹艦のナデシコも、これと同じくらい強いんだ。
きっとこれなら木星トカゲにだって負けない。
強いのはエステバリスだけじゃない。
このユーチャリスが…ナデシコがあれば…勝てる。
これなら…!

地球は、ついに希望を手に入れたんだ…!




























〇地球・北海道・連合軍千歳基地上空・ナデシコ・ブリッジ──ムネタケ

私は木星トカゲを消滅させる閃光を見て、唖然とした。
な、何よあれ…ほとんど反則じゃない……。
こんな威力のある兵器があれば、誰だって勝てるじゃない…。

…バカげてる。

最新鋭の武器を手に入れた側が圧倒的に優位…。
そんなのは分かってる、分かり切ってるわ。
でも、こんなのないじゃない。
火星の初戦でこれがあったら、火星は助かったじゃないの…。
誰も死なないで済んだじゃない…。
こんな素晴らしい兵器があったなら…。
それを…それを…。



こんなアーパーな生娘にッ!!


ポッと出の、民間の傭兵会社にッ!!


コネで、タダで、くれてやるっていうの!?


命を懸けて戦ってきたのは誰よ!?


何も知らない世間にバカにされて、
それでも矢面に立ってきたのは誰よ!?


連合軍でしょ!?あたしたちでしょ!?


あたしたちの戦いは何だったのよ!!


死んだ戦友はなんだったの!!


犬死にだったとでもいうつもり!?



ふざけないでよッ!!



「嘘だわ!

 こんなの偶然よ!

 マグレよ!」





「…ムネタケ、落ち着け」



「でも!!

 この船があの時あったら!」




「…あの敗北があったからこの船が生まれるきっかけが出来たんだ。
 彼らも犬死にではない。
 たら、れば、の話をしても仕方あるまい。

 ……時代が変わってしまっただけだ。

 古いものは生き続けていれば必ず衝突するものだ。
 新しいものとな」

「…ッ」

「……後で私の部屋に来い」

「……」

…私は返事が出来なかった。
フクベ提督はすでに退役している…私は連合軍から派遣されている立場…。
そしてここは民間の船…返事をする義務は、ないわ。

「…すまん、出過ぎた真似だったな」

私はフクベ提督に返事をする余裕なく、一人自室に戻ろうと廊下を歩いた。
……自分の無力さと、時代の残酷さに耐えられなかった。
このはしゃいだ空気のブリッジが、能天気な艦長が許せなかった。

…やるしかない。

このユーチャリスを、なんとしても奪うしかない。
命令が下ろうと下らなかったとしても、やるしかない。

そうよ。

民間の組織が軍事力を持つなんて間違ってる。
ミスマル提督もPMCマルスを直接コントロールしているわけじゃないし。
あくまでホシノアキトを中心とした能天気な素人の集まり。
『ただ新兵器を持っているだけの、思想なき危険な傭兵集団』みたいなものじゃない。

……あは、それってテロリスト一歩手前ってことにならない?


じゃあ、やっぱり、危険なものはとりあげてあげなきゃね?
そうよ。
そうしなきゃいけないわよ。
幸い、連合軍特殊部隊を蹴散らす戦闘力を持っているホシノアキトもヤガミナオも、今はいない。
彼らが戻る前に、事を済ませるわ。





───力は『正しい者』の手の中になくっちゃぁね。
























〇作者あとがき

ルリちゃん、ピースランドで一人困惑。
そしてついにユーチャリス、発進。
かつてナデシコが上げた木星トカゲへの反撃の狼煙は、
ユーチャリスが上げることになりました。
ほとんどナデシコクルーによる運用ですけど。
テンカワ+オリキャラ集団はほぼ、留守番。
そしてドラゴンボールZの孫悟空のようにだんだんと戦線離脱しつつある、ホシノアキト。
ムネタケも屈折した覚悟で動こうとし始めて…?

ってな具合で次回へ~~~~~~~~ッ!!































〇代理人様への返信
>ラピスサイズのビジネススーツか・・・
>なにそれクッソ可愛い。

ラピス、形から入るタイプかと思ってこういう風にしてみました。
ラピスにとってのあこがれの女性は、やっぱりエリナなんでしょうね。
はしゃぐラピスもかわいいし、
ちっこいくせに一丁前にビジネススーツを着るラピスもかわいいですね。




>そして有能すぎるwww
>渉外は無理にしても経理としては超有能だなw

能力的に渉外も可能、という風に組みたかったんですが、
『子供だからと外部に舐められて、対策を余儀なくされる』みたいに作ってみました。
こっちのほうがけなげでかわいいし。




>そしてジュン君不幸!
>うんもうほんとにそれしか言えないw
>強く生きてくれw

劇場版でユキナに男扱いされてないのもさることながら、
今回もやっぱりユリカにも男扱いされてない(男扱いしてたらあんなこと言わない)、
悲劇の美青年、アオイジュン!
ストーカー呼ばわりされる覚悟はあるくせに、告白する勇気がない!
もうあとがないのにさっさと告白しない、それがアオイジュンッ!
ルリが心を開くと本当に真っ向から文句をいうようになるので、
アオイジュンの繊細なハートはずったずた!!

がんばれアオイジュン!



くじけるなアオイジュン!



いつか王子様と呼ばれるその日まで~~~~~~~!!






………永久に来ない気がする。





>>ピースランド
>ゲラゲラゲラゲラwwww

親って、なぜか子供が一番恥ずかしがる行動をとるケースが結構ありますよね。
まさにそれです。このシチュエーション。


























~次回予告~

……ホシノアキトっす。
はぁ…みんな頑張ってくれてるんだけどさ…。
今回ばっかりはなにやってんだかって感じだし、ユリちゃんまでノリノリで困ってるよ。
しかしこの世界、昔以上に親子間トラブルが多いみたいだけど、丸く収まるかなぁ。

……なんで俺がその収集まで俺が付き合わされてるんだろ?
いやルリちゃんのためだからいいんだけどさ、もうちょっとやり方あったよね?

芸能活動の延長線上でこういうことするの、すっごく恥ずかしいんだけど…。
…勘弁してくれ。

梅雨で休みでも外出するのがおっくうになってつい執筆が進んでしまう作者が贈る、
30話やってようやく戦艦とナデシコクルーが本格参戦する系ナデシコ二次創作、















『機動戦艦ナデシコD』
第三十話:daughters-娘たち-その3















をみんなで見てくれるかなぁ?








「「「「「いい〇もーーーーーっ!!」」」」」


















感想代理人プロフィール

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代理人の感想 
ジュン君、不幸!
いやあ、他人の不幸で飯がうまい(外道)

しかし順調にこじらせてるなあ、きのこ。
というか、こんなもん作る会社と仲違いして、それこそ戦艦一隻どころじゃない損害になるとわからんのかこいつは。


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