〇地球・ユーチャリス・ルリとラピスの部屋──ラピス

私はルリと一緒にユーチャリス健康ランドでお風呂に入ってから、
部屋に戻って少し話し込んでいる。
それにしても離れてたのは本当に一週間足らずなんだけど…。
……ルリ、本当にいい顔になったね。
私が驚くくらい、すごいかわいい笑顔で笑うようになって…。
ルリ、いいなぁ。
私も頼る家族は、アカツキとエリナ、アキトとユリが居るけど…。
やっぱり実の両親って特別なんだろうな。
ユリもやっぱりミスマル提督が実の親になって、だいぶ変わったみたいだし。
…いいなぁ。

「ルリ、いい顔になったね」

「え?
 そ、そうですか?」

「思わず私が嫉妬しちゃうくらいだよ。
 …パフェの件、忘れてないよね?」

「わ、忘れないですよ!
 …でも、パフェくらいでいいんですか?」

「うーん、ちょっと色を付けたいけど、
 恩は売ったからいいかな。
 私が危ない時や、どうしても助けてほしい時には、
 ルリだって助けてくれるでしょ?」

「それはもちろんです。
 …けど、ラピス、あなたは…」

「…ううん、寂しくなんてないよ。
 だって私はね…」

……ちょっと悔しいから言っちゃおうかな。
結局、そのうちバレることだし、ミスマル提督には言ってあることだし。
ルリに心配されるのも、ちょっと気にしちゃうから。
それに、乙女は秘密を共有して相手との信頼関係を深めるものだもん。

「…ルリ、秘密にできる?
 私がクローンであるっていう、その先の話」

「え?
 ええ…」

「私が誰のクローン人間か…分かる?」

「…分かるわけないじゃないですか。
 だってラピスの顔に似てる人なんて…」

「…ユリカ」



「え!?」




「私のオリジナルは、ミスマルユリカなの。
 あ、冗談じゃないよ。
 顔立ちは似てないけど、DNA上じゃ同一人物なの。
 遺伝子操作されてるから同一人物扱いはされないけどね。
 詳しく調べたら少なくとも血縁者ってデータが出るわけ」

「…う、うそ…」

「ほんと」

さすがのルリもこの真実には度肝を抜かれちゃったみたいね。
そりゃそうよね。
あんまりにも身近な人がオリジナルだったもんだから。

「…だから好きな人のタイプも近いのかもね」

「…とんでもないことを教えますね、ラピス」

「えへへ。
 あ、ユリカにも言っちゃだめだよ?
 色々気にしちゃうと思うし。
 私、火星の健康調査用に採取された血液から生まれたんだから。
 ミスマル提督には教えてあるらしいけどね。
 だからね、ある意味じゃ私は実の父と本人のに近い場所にいるわけだから、
 寂しいことなんてなーんもないわけなの。
 この間も、ミスマル提督は分け隔てなく関わってくれようとしてくれてるし。
 そうじゃなくても私にはエリナとアカツキが親代わりみたいに居るんだもん」

「…分かりました。
 こんな秘密、広めるわけにはいきません。
 じゃ、まさか…アキト兄さんまでテンカワさんのクローンってことは…」

「それは秘密。
 アキトの秘密はアキトだけがばらしていいんだもん。
 もしかしたらタイムスリップした同一人物かもしれないじゃない?」

「……それはちょっと突拍子もないっていうか飛躍しすぎじゃないですか?
 ラピスがユリカさんのクローンっていう話よりは、ってレベルですけど」

さすがのルリも、今の発言は突拍子ないものとしか取れなかったか。
冗談気味に混ぜたせいか、この間のルリが抱いた疑問には結びついてないみたいね。
じゃ、もうちょっとは大丈夫かな。
とりあえず、テンカワとユリカが婚約するくらいまで持てば上出来かなあ。

「ま、そんなもんでいいと思うよ。
 別に知っても知らなくても大して差はないでしょ?」

「…そういえばそうですね。
 どこの誰の子供でも、どうやって生まれた人間でも、
 育ちや生き方が違えば、それは全く違う人間です。
 ラピスがまさにそれを証明してますし…。
 少なくとも性格や思想については、
 遺伝子よりも環境や育ち方の方がある意味では重要なのかも…」

「それを思い知った側でしょ、ルリは」

「…ラピス、相変わらず身内にも容赦のない話し方をしますよね」

「いいじゃない、悪く言ってるわけじゃないし。
 …ま、遺伝子は素質や才能をかなり左右するって点については重要かもしれないけど?
 あえてそこを捻じ曲げる研究の被害者の私たちとしては、
 迷惑極まりない話だよね」

「全くです。
 人体実験やりたいなら自分の体でやってほしいです」

「じゃ、明日文句言いに行こうよ。
 育った研究施設の場所、分かったんでしょ?」

「…そうですね、決着をつけに行きましょう」

…ルリの、そしてユリの人生は明日必ず変わる。
これは確信を持っている。
私はアキトの記憶の中から、ルリとのピースランドでの一件を知っている。
あの時、二人はプレミア国王にも、元研究員にも適切な対応が出来なかった。
逃げるようにプレミア国王の前から離れ、
ピースランドを回って国と国王の本質を見極めようと努め、
そして語られた過去に自分の生命すらも否定しかねない言葉を言った過去のルリ…。
ユリはその後悔を取り戻すための旅を、この世界のルリにしてもらった。

だからこそ、私は今回のピースランドでの怪盗騒ぎを企てた。

ユリの考えは甘すぎたから。
ルリを取り巻く環境は改善されても、外聞が悪化し目立ち過ぎていた、だから、

『よその国の真似ばかり』の国の檻を、
『真似で作った怪盗』で破壊する必要があった。

そしてそれは私の計算通り、
ピースランドという国を通してではなく、
直接王族と、家族としての一面に触れる機会を与えた。
この一連の事件を通してのふれあいで、
王族たちはルリに気持ちを伝える機会を得ることができた。
しかも私も予想しなかった効果があった。
ルリ自身も、ユリとユリカによって開きかかっていた感情の蕾が開きはじめ、
普通の女の子として成長し始めた。
本当はルリはちゃんと女の子してたんだけど、表現が下手すぎたからね。
…私の想像以上の効果と成果が得られた。
やった甲斐があったね。
私もアキトに褒めてもらえるかもね、これなら。

ま、私はいろんな人に恩を売っておかないと、
アキトと不倫した時に援護してもらえないもん。
もっと頑張らないとね。























『機動戦艦ナデシコD』
第三十四話:dissoluble-関係を解きほぐす-






















〇地球・ユーチャリス・ルリとラピスの部屋──ルリ

私とラピスは夜遅くだというのに、つい話し込んでしまいました。
いろいろとお礼もたくさん言いましたし、どういう準備をしてきたのか知りたかったので。
ちなみに、このユーチャリスでは私とラピスは同室です。
元々ナデシコではオペレーターが一人の予定で…。
元々オートマ化された現代の戦艦で、ある程度オモイカネがサポートするため、
本格的に戦闘にならない限りは私一人で事足りるようになっています。
しかし私とラピスのダブルオペレーター状態であれば、より万全です。
それどころかナデシコ班との二組のシフトであれば、ほぼ稼働率100%です。
うまくやれば24時間フル活動すらできます。
でも健康を考えるとそれは避けたいところですね。
私たちは成長期ですし。
ユリ姉さんもオペレーター代替できますけど、他の仕事が多いですし。

…で、アキト兄さんとラピスの関係について、いろいろ聞いています。

「う~~~ん。
 私とアキトの関係を一言で言おうとするとちょっと難しいよね。
 介助者だったともいえるし、娘だったともいえるし、共同経営者だし、会長と秘書だし、
 今日みたいな共犯者になることもあるし、妹でもあるし…。
 ま、さしあたっては『不倫相手』目指してるけどね」

…こういうことについて、聞いた私がバカでした。
まともに答えてくれているのは分かりますが、
今一つ定まらない関係を持っているのを忘れていました。
ラピスはアキト兄さんを好きで、
ずっと支えていきたいと考えていると考えているということだけなんです、きっと。
それ以上知る必要もなければ突っ込む必要もないです。
…最後の『不倫相手』というのはちょっとただ事じゃないですけど。

「…ラピス、あなたはユリ姉さんを不幸にするつもりでもあるんですか?」

「ないよ?
 芸能人のアキトとの不倫バレたところで、
 ミスマルおじさんにはめちゃくちゃ怒られるけど、
 たぶん名誉に傷一つつかないんじゃないかって思うし。
 それにユリだって、怒るかもしれないけど私たちを嫌わないよ」

「…妙に自信を持って言いますね」

「だってそれくらいにはアキトとユリを助けて面倒を見るつもりだし、
 アキトと不倫することに人生賭けてるし」

「何てこと言ってるんですか、ラピスは」

「アキトってそれくらい価値がある人だもん。
 あ、でも人生賭けてるところまで教えちゃうのはルリだけだよ。
 アキトやユリやアカツキやエリナに言ったら怒られちゃうし。
 ルリは私と歳の近い初めての、親友で…。
 大切な姉妹だもん。
 きっと秘密にしてくれるから」

…そういう風に言われると私も弱いです。
私、歳の近い子をバカとしか思えなかった期間が長いですし、
今更小学校通っても話が合うかわかりません。
弟たちくらい気を使ってくれる相手じゃないとたぶん話が通じませんし。
そう考えるとラピスという、能力も知識も境遇も近い子というのは本当に貴重です。
ただラピス、アキト兄さんのマネージャーができるくらいのコミュニケーション力おばけなんですよね。
明るいし、頭はキレますし、心根が強いですし、計算高いし、素直です。
…本当にうらやましいですね。

「それにしてもラピス、その…今回起こしてもらった事件、
 あれは確かにベストな方法だったと思います。
 けど、趣味の部分が大きすぎませんか?
 アキト兄さん、ぼやいてましたよ」

「いいのいいの。
 アキトはもう取り返しつかないくらいの英雄扱いなんだから、
 ちょっとこういうふざけたことしておかないとバランスが取れなくなるんだから」

「で、でも…」

ちょっと世間の女の子たちにサービスしすぎじゃないですか?
ま、まあ…戦いたくないアキト兄さんの事ですし、そっちの方が平和ではあるんですけど、
お年を召したおじさんおばさん方の敵にはなっちゃいそうですよ。本当に。

「それにね、アキトにはもうちょっと自信を持ってもらわないと困るよ。
 これも私の『世界一の王子様と過ごすひと夏のアバンチュール作戦』には必須なの。
 アキトは心根が優しすぎるから、ちょっとくらい調子に乗ってくれないと、
 私には勝ち目がなくなっちゃうんだから」

「…なんかそれ関係なさそうに見えますけど」

「意外とね、アキトって流されやすい方なの。
 状況とか、雰囲気とかね。
 実際、今日は不敵な怪盗を演じたアキト、
 帰ったら妙に結構強気な態度をしたシーンがあったみたいでみんなはしゃいでたから。
 もしかしたら芸能人としても軸がしっかりあっちゃったら、ばっちり業界人になっちゃうかもね。
 しっかり演じちゃうと生き方まで同化させかねないタイプなの」

…そんなものでしょうか。
でもラピスの人物観…恐ろしく正確なんですよね。
口をはさめないんです。ホント。
この場合、過去の出来事からの経験則という感じもしますし、ね。

「まぁいいじゃない。
 ルリのことだから、今回の事を自分のわがままってすませるつもりでしょ?
 結局ルリも、アキトも、私の作戦に乗せられちゃってるんだから。
 何しろ二人は私の共犯者じゃなくて、
 世間的には二人が主犯なんだからね」

…やられました。
私の判断まで全部読んだ上で作戦を組んでいたんですね。
しかも逃げようのない状況に追い込んでまで。
……もうすこしラピスを良く知らないと、次は何をさせられるかわかったもんじゃないです。
とはいえ…。

「…はぁ。
 それはもう仕方ないです。
 必要経費みたいなもんです。有名税です。
 でもラピス、これだけは約束して。
 秘密主義もいいけど、大事なことは必ず相談してほしいの。
 ラピスが色々できるのは分かったけど、
 先に状況を作られてしまうことって、相手からすると負担になることも多いでしょう?
 …それに一人でなんでもやっちゃうってことは、
 黙って一人でどっか行っちゃうってこともありえそうで、ちょっと不安です」

「…そんなことないよ。
 私、子供って自覚はあるし、無茶はするけど出来なさそうな無理はしないって。
 それに黙って一人でどっか行っちゃうなんてアキ──…。
 …諦めなきゃいけないことがあっても、必ず話だけはするってば」

…な、なんでしょう。
何か、今『アキト』と言いかけたような気がします。
…もしかして『アキトじゃあるまいし』とか言おうとしてました?
でもあのユリ姉さんに依存しまくっているアキト兄さんが、
一人でどっか行っちゃうことなんてありえますかね?
…いえ、断言はできないです。
何しろネルガルで憎悪に燃えて、
戦闘技術を鍛えていた時期のアキト兄さんの人柄が分かりません。
ユリ姉さんに何も言わずに戦っていたというのは、そういうことかもしれないですし。
…ま、まあ気にしないでいいでしょう。
アキト兄さんの場合、有名すぎてもう姿を隠すのも限度がありますし、大丈夫。
ラピスも同様です。

「…分かりました。ラピスを信じます。
 もし嘘だったら引っぱたきますよ」

「うん、わかった。
 じゃ指切りで約束ね」

私とラピスは指切りをして、すぐに眠りにつきました。
…さしあたっては私は自分の過去との決着で頭がいっぱいです。
ラピスの事は、もう少し彼女を知ってから考えるべきだと思いますし。
距離も近いことですし、大丈夫でしょう。

…そういえば、オペレーターのちびっこマキビハリ君も私達が鍛える必要があるって、
そういう話もありましたね。
弟たちよりさらに幼い六歳です。
ユリ姉さんとラピス、そして私で教えていくことにはなりそうですけど不安です。
この間の作戦は大丈夫って話でしたけど…。

…はぁ、大丈夫かな。




























〇地球・スカンジナビア半島・遺伝子研究施設─ユリ

私たちは翌日、朝一番でスカンジナビア半島の施設に向かいました。
…世間の騒ぎを治めるためにも、本当は記者会見を先に行うべきなんでしょうが、
私たちはルリが臨んだ方を先にすることにして、ユーチャリスでこの研究施設をおとずれました。

「…どうして俺まで?」

「テンカワ、お前はユリカ義姉さんと付き合ってるんだろ?
 …ルリちゃんが妹になるかもしれないんだからちゃんと立ち会え」

「つ、つきあっ…」



「付き合ってるよね!アキト!!」




「!
 ったく…い、一応そういうことにしといてやる……」

今回は、ユリカさんとテンカワさんにも来てもらいました。
アキトさんがテンカワさんが得るべきものをすべて奪ってしまうのを危惧しての事です。

…本当にこの世界のテンカワさん、昔に増していいとこなしですから。

でも、その分、色々なことを強制されたりしないで、のびのび成長出来てます。
過去、余裕がなさ過ぎたり度胸が足りなかったところが補われて、ユリカさんとの仲も進んでます。
最終的にルリがちゃんと義理の妹になるところまで持っていけてればいいはずです。
文句を言われる筋合いはありません。マジで。

…そして私たちは研究施設にたどり着きました。

「…ルリちゃん」

「…ちょっと緊張してます」

既にルリの出生は、ほとんど世間にばれてしまってます。
本人もほとんど知っていますが、ここで最後のカギを手に入れます。
さびれた廃墟になった施設を見回り…。
テンカワさんとユリカさんは、絶句しています。
この施設は何年も閉ざされたままで、すっかり廃墟になっています。
…ただ当時は気が付かなかったことですけどこの荒れ方は異常です。
数年経過しているとはいえ、内装の劣化があまりにひどすぎます。
不自然に室内の窓ガラスが外れている様子…。
…恐らく、どこかの特殊部隊かシークレットサービスの襲撃を受けて、壊滅したのかもしれません。
クリムゾンが『ホシノユリ』と『ホシノアキト』が所属していた施設を襲撃した例をとっても、
この手の研究の情報戦争というのはすさまじいものがありました。
…その当時の生き残りが、この人…。

「…ルリさん、だね。
 私に会いに来たと、国王から使いがあったよ」

「あなたが…父?」

元職員の、落ちぶれた男性を目の前にして…。

…ルリは自分の出生を、ついに知ることになりました。

語られる過去…。
遺伝子を操作して作られた実験体であったこと…。
いっしょに育った子供たちは失敗作として恐らく処分されたこと…。
ネルガルに売られたこと…。
偽りの父と母…。
全てを聞いたルリは唇を噛んで、うつむいています。

「…しかし、ルリさん。
 あなたにもずいぶんたくさん家族が出来たものだ。
 寂しい思いをしない生活が出来ているようで…ほっとしたよ」

「…あんた」

テンカワさんは何かを感じたようです。
…テンカワさんもまた、あの頃のテンカワさんじゃないんです。
ユリカさんにだんだんと自分の心を開いて…人の機敏に気付ける人になってきたんです。
ルリの事が広まっていたのも一因ではありますけど。

「それにホシノアキトさん…あなたは素晴らしい実験体だったようだね…。
 この研究所でやってきたことよりも価値のある実験が出来ていたんだろう。
 まさかク…」

「それ以上、口にしたら許しません!
 …二人は知る必要のないことです」

「…そうかい。
 しかし…ユリさん。
 あなたがマシンチャイルドの真の完成系だということはご存知かな?」



「「「「「「!?」」」」」」




「な、なんの事です!?
 私は…そんなことは聞かされていません!」

「…無理もない。
 私も研究所のデータを受け取ったことがあるだけだからね。
 それを知るほとんどの研究員は死んだよ。
 君には実験の成功ではなく、カバーストーリーだけが語られた。
 
 君は『IFS拒絶体質』じゃない。
 
 『インビジブル・マシンチャイルド』なのだよ」




…インビジブル、マシンチャイルド?




「本来のIFS強化体質者…通称マシンチャイルドは、
 髪の色や瞳の色が変化する可能性が高く、
 この影響を受けずにいられたのはマキビハリただ一人だった。
 ただ、そうなると特殊な見た目で注目されてマークされやすくなる。

 戦艦をたった一人で操ることができるようになる『ワンマンオペレーション構想』…。
 
 その実現のためには、今のマシンチャイルドの作成方法では限界がある。
 特殊な能力を持つ人間は先天的に遺伝子をいじらねばならない。
 そして見た目でバレてしまうようでは欠陥品だ。
 
 …そこで後天的にマシンチャイルドを作れるようなやり方と、
 見た目で見抜かれない方法が必要だった。
 
 その試作品がホシノアキトさん。
 あなただ。
 
 あなたはありとあらゆるナノマシンを投与され、
 後天的にマシンチャイルド体質にされた。
 致死量のナノマシンを持っているため、大食いになってしまったし…。
 ナノマシンが休止すれば、黒い髪と黒い瞳に戻ってしまう」

「…そういうことか」

「まあ…そこまで人格が大人じみているとは聞いてはいなかったがね。

 そしてその実験データから作られた、ナノマシンで作られたマシンチャイルドがもう一人。
 マシンチャイルドと見抜くことのできない、IFSを持っていることすら気づかれない、
 IFSを使うときだけにマシンチャイルドに戻れる人間…。
 しかもIFSを使っている間と使っていない時で見た目が違うので、
 姿を隠すのも容易な…優れた伏兵。
 
 それがユリさん、あなただ」

この研究員…そこまで知っているんですか…。
……しかし合点がいきました。
今一つ、『IFS拒絶体質』という説明に納得がいっていなかった。
拒絶体質というだけならそんなに易々とIFSを操れるようになったりはしませんし、
アキトさんはIFSが普段から出ているけど、少し普通のものとタトゥーの柄が違います。
私もマシンチャイルド状態になると同じ柄のタトゥーが出ますが、普段は見えない状態になっています。
IFSを意図的に使おうとしない限り浮かんでこないんです。
…確かにこのレベルでマシンチャイルドを秘匿することができるというのは驚異です。
しかも後天的に作れるとなれば、なおさらです。
IFS強化体質というのは文字通り『体質』です。遺伝子に手を加えて造る必要が出てきます。
そうでない人間をIFS強化体質に出来れば、クローンなどなくても、
一人一隻の戦艦を持つことができるようになり…ゆくゆくはその戦艦すべてで電子制圧をかけられるようになります。
…どれほどの脅威になるかわかりませんね。
とはいえ、それも無効化されています。
何しろ私は堂々とこの部分を世間に言い放ってしまっています。
実際潜伏されたら危険は危険でしょうけど、こういう体質の人がいるのは世間にも知られました。隠すには遅すぎます。
それに、きっと…量産には失敗しているはずです。
量産に成功していたら、あの研究所は規模が大きくなっているはずですし、
壊滅寸前に追い込まれることもなかったはずですから。

「…しかしこのナノマシンには、欠点があった。
 ほとんどの人間の体質には合わないんだ。
 元々先天的にナノマシン耐性の高い人間である…。
 ホシノアキトさんとホシノユリさん以外にこのナノマシンを使ったら…。
 …廃人になるか、そのまま絶命する者しかいなかった」



「…ッッッ!!!

 わ、私の妹のユリちゃんと、

 その旦那様のアキト君に、そんな危険なものをッ!!

 ルリちゃんの人生を弄んだだけじゃ物足りないのッ!?」




…!!
ゆ、ユリカさんが激昂してます。
どんな時でも、どんなひどい相手に対してだってこんな怒り方はしなかったのに…。
……私達、ユリカさんにとって、本当に失いたくない家族で居られるんですね。
嬉しいけど…でも…。



「それも人類のためだ!!

 力なくして自分の大切なものを守れるわけがない!!

 丈夫な体!

 優れた頭脳!

 これからの外宇宙を生き抜くには、人類にはそれしかないんだ!!」




それはさっきも聞きました。
……この人、何かにとりつかれたかのような瞳をしている。
そうしなければいけないという…使命というか、そういうものに。

…でも、この瞳は見たことがある。

墓場で、『黒い皇子』として私に対面したアキトさんの悲しい、優しい瞳。
その中には、この瞳のようなどこか必死に向かっていかないと自分が壊れてしまうような…。
何者を犠牲にしてでもたどり着くべき場所を目指さないといけないような…。
可哀想な、悲壮な瞳をしていたんです…。
でもこの人はその目的すらもこの人は失って、人生の目的を見失って…。
ただ死ぬこともできず、無気力に…過去の自分の信念にしがみついて、
同じことを繰り返し言うことしかできない亡者のようになって…。

……もしこの世界に来て、私も、エリナさんも、アカツキさんもラピスも居なかったら…。
きっとアキトさんもこんな風に……。

……私達は、しばらく何も言えずにただうつむいていました。
アキトさんもこの元研究員に思うところがあるのか、何も言いません。
ユリカさんとテンカワさんは…ただ怒りに震えています。
ラピスはただ冷ややかに…研究員をにらんでいます。

…ついにルリは意を決したのか、研究員に近づきました。

「…ありがとう、生かしてくれて」

「はは…当然のことをしたまでだよ…」

元研究員は眼を伏せ、ルリの表情など見えていません。
ルリは…あの時の私のように自分の命まで否定するようなことを言うのかな…。

ううん…大丈夫。
ルリはもう、あの時の私みたいに一人ぼっちのルリじゃない。
もう私達も、ピースランドの家族も、しっかり後ろに立っている。
受け止められる、今なら!



ぱんっ!



「さっきから聞いていれば…!

 優れていない人間には、

 愛される資格も、生きる資格もないとでもいうつもりですか!」





「な…な……」




「外宇宙に向けて?これからの宇宙時代?

 そんなことのために何人の人生を狂わせたんですか!?」




「ひ……」



「どんな才能のない子供でも!

 苦労ばかりかけて仕方ない子供でも!

 生まれた子供の代わりはいないんですっ!」




……そう。
プレミア国王がなんであんなに五人も子供を作ったのか…。
今ならその理由がよくわかります。
子供を無くすという恐怖を知って、それを補おうと無理をしたんです。
人工授精で、全く同じやり方で、今度は五人も…。
『また無くすのではないか?』『あの子が生きていたら…』と不安と後悔を抱き、
子だくさんにしないといけないって、思ってしまったんです。

…ルリ、私が言えなかった文句をちゃんと言ってくれましたね。



「テロでたまたま搬送された?

 身元不明だった?

 遺伝子の検査でいくらでも親を探せたでしょう!

 それをしなかったのはモルモット欲しさでしょう!?

 崇高な研究だとか、それでもやるべきだったとか、



 うしろめたさがあるようなそぶりは止めて下さい!」



「だ、だが…私が育てなかったらあなたは…」



「それには感謝します!

 ここまで生きていなかったら、

 私はこんな素晴らしい家族には出会えませんでした!

 ピースランドの父と母が私を愛してくれていると知ることもできませんでした!!

 だけど…。
 
 だけどあなたの言っているのは…!
 



 結局自分可愛さの言い訳じゃないですかッ!!」




「す、すまなかった!!
 だ、だからやめてくれ…」



ぱんっ!ぱぁんっ!




…男性は力なく抵抗もできず、ルリの平手打ちを何度も受けています。
浮浪者生活が長いんでしょう、栄養失調で力が入らないみたいです。
彼も相当苦労して…ルリを売ったお金に手を付けずに、頑張ってきたんでしょうけど…。
でも…。



「やめませんッ!
 
 どうしてあの子たちを殺したんですか!
 
 殺すことはありませんでした!
 
 あの子たちだって親が居たかもしれないのに!
 
 証拠が残ったらまずいから殺したんでしょう!?
 
 もしかしたら私だって、
 
 ユリ姉さんだって、アキト兄さんだって、ラピスだって、
 
 もし欠陥品だって見なされたら殺していたんでしょう!?
 
 殺して、燃やして、ゴミみたいにどこかに埋めるつもりだったんでしょう!?
 
 こんな、こんなに優しくて素晴らしい人達を!!
 
 死んだあの子たちだって、もしかしたら…!

 
 

 ふざけないでくださいよっ!!」




がつんっ!がつんっ!



「る、ルリちゃん!?」


「ルリちゃん、やめて!!」


「「ルリッ!!」」




!いけない!
子供用の椅子を手に取って、叩き始めてる…!
これ以上したら、さすがに…。



がしっ。




「ルリちゃん、ダメだよ」


「はぁ…はぁ…っ!
 あ、アキト兄さん、放してください!!」


アキトさんがルリの手を抑えてくれました。
ルリは息を切らしながら、震えています。

「ダメ。
 これ以上やったら、死んじゃうよ。
 …どんなクズでも、感情に任せてその手で殺したら同じところまで堕ちるんだ。
 それにこの人はもう…見ての通り、生きることを諦めちゃったんだ。
 
 この人は自分の意志で証拠を残さないために子供を殺したのかもしれないし、
 もしかしたら単に命令されて、そうしなかったら自分が命を落とすからだったかもしれない。
 
 でも、この人はこの人で苦しんで、悩んで、悔やんだ。
 だからこんな姿になってるんだ。
 …この人を殺したら君もきっとそうなる。
 
 …どういう経過があったとしても罪のない子供を殺した事実は変わらないよね。
 だから殺しちゃダメなんだよ。同じことをしちゃダメなんだよ。
 殺した時に相手だけじゃなく自分の心が死んじゃうんだ。



 自分を諦めちゃだめだよ。
 自分を殺しちゃだめだよ。



 ルリちゃんは…自分の意志で人を殺めた手で、
 俺たちやピースランドの家族を抱きしめられるのかい?」
 
 

アキトさんの言葉が、重たいです。
かつてのアキトさんがたどった道…。
そうしてでも、最低になってでもユリカさんを助けたいと願ったアキトさん…。
アキトさんは今でも、『黒い皇子』だった頃のの自分を背負っている…。
そして今度は、誰一人手にかけることのない生き方を見つけようとして、
一生懸命に戦って…だから、ルリを止められるんです。
理屈や綺麗事じゃない。
そうなると知っているからこそ、この言葉が出てくる。
ルリはこの言葉で止まることができるんです…。

「…ッ」



がらん…。




「…そう。
 それでいいんだよ、ルリちゃん」

「うぐ……ひっ…ひっく…。
 やめてくれ…ゆるしてくれ……わたしは…」


…ルリは椅子をただ放り投げて、アキトさんに抱きつきました。
元研究員は自分をかばうように頭を抱えて、涙を流して震えています。
彼の中にも…後悔はたくさんあるんです。
そうするべきと自分を言い聞かせてきたんでしょうね…。

「……ごめんなさい。
 もう、私の気は済みました。
 後は死んだあとの閻魔様なりなんなりに任せます。
 そのカードのお金で、少しはまともに生きて下さい。
 長生きしていっぱい悔やんでください。
 
 それくらいしか、あの子たちにできることがないでしょう?」

「わ、分かった…」


「ちゃんと生きて下さい。
 家に住んでください。
 こんな生活してても、なんの償いにもなりません。
 …保証人が居なければ父にお願いします。
 もう、誰も悲しませないでください」

「だ…誰が…悲しむって……?
 わ、私はもう誰にも……」


「一応、あなたは私の命の恩人です。
 私が我慢してせっかく殺さずに居たのに、
 勝手に野垂れ死にされたらそれなりに悲しいです」

「!
 …う……うおぉぉ……」


…ルリ、偉いわ。
そこまで言ってあげられるの…。

「それじゃ、お達者で。
 お互い幸せになりましょう」

「…ルリ、行こ」

「はい…」

ラピスは、ルリの手を取って…。
そして、私たちは研究施設を後にしました…。


…ルリの運命が人生が、ついに変わった。


昨日の事でずいぶん変わったとは思ったけど…。
こんなふうに感情を露わにして、暴力に訴えてまで怒るなんて。
…知らなかった、私はこんな風に怒ることもできたんだって…。
ホシノユリとして生きる中で、私も感情表現はだいぶ上手になったつもりだったけど…。
それすらも越えているように見える。

ルリには愛する家族が出来ただけじゃなく、空虚な過去に打ち勝てる自分を手に入れた。

本当に、嬉しかった。
…もう本当に心配ないです。
何があっても幸せになれます。きっと…。





























〇地球・ピースランド・王城・王室──ホシノアキト

俺達はナデシコのクルーを迎えに行く兼ね合いで、
結局俺たちはもう一度ピースランドを訪れた。
記者会見も別々に行うより、そろってしないと効果が半減しそうだということで、
アカツキ、俺たちホシノ一家、そしてピースランド王族一同揃って記者会見を行うことになった。
アカツキは昨日の段階で呼び出しておいた。

「で、では今回の怪盗騒ぎは単なる余興だったんですか!?」

「はい。
 私のわがままです。
 臨場感を出すためにマスコミの皆さんには、
 黙ってて申し訳ありません」


ざわざわ…。



マスコミたちは驚きを隠せず、ざわついていた。
それはそうだ。
いくらなんでも昨日の出来事は演技としてみるには無理がある。
プレミア国王の様子も、警備にあたっていた衛兵たちも。
実弾や真剣まで使って、大げさにあんなことをするとは思わなかったんだろう。
何よりマスコミたちになんの相談もなく集めるだけ集めてそんなことは普通しない。
だが…。

「みんな、何を疑ってるの?
 ちょっと考えれば分かることじゃない。
 
 いくらなんでもアキトもトリック使おうと、
 あの距離をテレポートなんてできっこないでしょ?
 あれはエステバリスに乗ってたのがテンカワの変装だったから。
 
 ナオだっていっくら強くたって1500人も普通倒せないよ。
 連合軍の特殊部隊並とは言わなくても一流の衛兵相手だよ?
 
 リョーコも刀でお城の壁を切ったりできる?
 物理的に難しすぎるでしょ?
 
 ぜぇ~~~~~んぶ仕掛けがあるからできることで、
 演技じゃなかったら成立するわけがないでしょ?」



「「「「た、たしかに!!」」」」




ルリちゃんは控えめな子で通っているから、マスコミの人達も疑問も残っている様子だったが…。
直後のラピスの発言で、おおむね納得した。

…まさか全部仕掛けや装備のことはあるとしても、
マジであんな戦いをしたとはふつう考えないもんな。
城の修繕費とかもあるだろうけど、今回の事件が演技じゃなかったとバレるよりはよっぽどいい。

いくつか応答はあったものの…滞りなく今回の事件のカバーストーリーが語られ、
すべての記者を納得させてこの場は収まった。
アカツキとの関係も、改めて語り直し、俺たち兄妹が和解していることを示すと、
悪評を立てたいと思って集まった記者たちは肩透かしを食って帰っていった。

……ルリちゃんは昨日の今日で戻ってきてしまったので、ちょっと苦笑いをしていたが、
横目でピースランドの家族をいとおしそうに見つめているのを見ると、気にしてはいない様子だな。

「…はぁ。
 出ていった翌日に戻ってくることになるなんて思わなかったです」

「いいじゃない、ルリちゃん。
 嫌いじゃないならさ」

「…そうですね」

とはいえ、ルリちゃんもまだもう少し落ち着くための冷却期間がほしいと伝え、
やっぱりすぐに出ていくことにしたが…。

「ち、父!」

「ん、なんだい、ルリ…。
 !」


ぎゅっ!!



「い、色々あったけど、ありがとう…」

「る、ルリ…!」

その直後、俺はあっけにとられた。
驚くことにルリちゃんは全員に自分からハグを求めて、しっかりとお別れをしていった。
反目していたプレミア国王にすらも。
全員、涙をこぼして…別れを惜しみながら…。

……ほ、本当にすごい!

こんな風になっちゃうなんて、想像できなかった!
さっきの元研究員に対する態度もだけど…ルリちゃんがこんなことをするなんて…!



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



そうして俺達は王城を後にした。
…日本に帰るのが憂鬱で仕方ないけどね。
でも…。
俺は泣き出しそうなルリちゃんを見て、胸が締め付けられるような気持ちになった。
…本当は別れたくないんだろうな、ルリちゃん。
あの国が好きじゃないって分かっていても。

「ルリちゃん…」

「ルリ…」

「…い、言わないで下さい。
 せっかくアキト兄さんたちのおかげで、素直になれそうなんですから…」

いや、ルリちゃんは顔が真っ赤だ…。
泣きだしそうなのは恥ずかしいのも半分あったんだな。
子供らしいことを避けようとし続けたルリちゃんが、
あんな風に愛情表現をするようになるなんて…。

……良かった、本当に良かった。
俺もあんな恥ずかしいことをした甲斐があったよ。



ぎゅっ…。




「あ、アキト兄さんまで…その…」

「…良かった…うう…良かった…」


「ルリ、抱きしめ返してあげなさい」

「は、はい…」

俺はルリちゃんにそっと抱き返された。
なんかもう…俺もよく分からなくなるほど感動してる…。
しばらくして抱擁を解いて、俺たちはようやく離れた。
だが…。

「あ、あの…ユリ姉さんも…ユリ姉さんも、ラピスも…」

「いいよ、ルリ」

「おいで、ルリちゃん!」

「おいでおいで」

その後、ルリちゃんは再びなれないハグを、
ユリちゃん、ユリカ義姉さん、ラピスに順番にしていった。
…な、なんかちょっと妙な空気…だな。
あったかいけど。
いや…ルリちゃんは俺たちとついに本当に家族関係をしっかり結べたってことなんだろう。
ルリちゃんが自分から俺たちを求める…ピースランドの家族たちと同じに。
世間の事や法的な手続きなど、意味をなさないほど深く…自ら受け入れてくれたんだ。
…いかん、また泣いてしまうぞ、こんなの。

「アキト、涙もろいよね最近」

「う、情けない兄貴でごめんな」

「いいよ、別に。
 かわいげがあるじゃない、そっちの方が。
 もしもアキトが世界最弱だったとしても私が守るもん。

 もちろん、その場合はタダじゃないけどね!」

…ちゃっかりしてるな、ラピス。
だが…なんていうか愛らしいやつだよ、お前は。

……そういえば、テンカワがちょっとうらやましそうな顔で見てるな。
だけどお前はユリカ義姉さんとくっつかない限りこっちには来れないぞ。
素直じゃないお前は、そうやって指を咥えてみてるのがお似合いだ。

……ちょっと性格悪いかな。俺。
自戒も込みだけどさ。
























〇地球・ピースランド・城下町──ユリ

それで…王城を後にした私達は、城下町に戻りました。
ユーチャリスではなく。

「…で、なんでまたピースランド内に?」

ルリは帰るつもりだったようですが、遊ぶ気満々でユリカさんが引っ張っています。
…そういえばルリはここで遊ぶことができなかったですよね。

「だって、まだ日が落ちるには時間があるよ?
 ナデシコ班のみんなはまだ遊ぶ気満々だし、
 ユーチャリス班のみんなも最後にパーっと遊びたいみたいだし、
 帰るのはまだいいじゃない」

「そ、それはそうなんですけど、
 なんていうか…」

「…昨日の今日だからねえ」

正直、和解をしっかりできたのは分かりますが、
国王たちになにも言わずに遊んでから帰るというのは少し…。

「いいの!!
 最後にいっぱい遊んで帰ろうよ!
 それに、ルリちゃんそんなこと言ってるけど、
 私たちと遊びたいって顔してるよ!
 ルリちゃんはずーーーっとお城で退屈してたんでしょ!
 
 この国の思い出がそんなのばっかりだなんて嫌でしょ!!」

「…!
 わ、私…。
 
 ……そ、そうですね!
 
 行きましょう、ユリカさん!」

「うんっ!」

……さすがユリカさん。
ルリが寂しそうな顔をしてるのを分かってて、連れ出そうなんて。
日もまだ高いですし。
そうですね、たしかにそっちの方が理にかなってます。
ここはテーマパークですし、
…それにルリが私達と楽しんで遊んでいる姿を見れば、
国王たちも安心してくれるでしょうから…。






















〇地球・ピースランド・王城


「ルリ…あんな笑顔に…」

「…あなた、会いに行きたくなりました?」

「……ああ。
 あんな素晴らしい家族が…あの子に…。
 …私はあんなかわいい笑顔を見ようと…しなかったんだな……」

「…大丈夫ですよ、あなた。
 あの子は…言っていた通り、今はただ距離を置きたいだけなんです。
 落ち着いたら、きっとあなたを見てくれます。
 ……その時、私たちができることがきっとあるはずなんです」

「分かっている…。
 客人の彼らの邪魔をしてはいけないな。
 このピースランドという国で、楽しんでくれているんだからな。
 今はただ、あの子を見守っていよう…」
























〇地球・ピースランド・城下町─テンカワアキト

……な、なんで俺はまたホシノ一家に巻き込まれてるんだ?
た、ただでさえ昨日の一件でホシノはえらくもてはやされて身動きがとりづらいってのに、
無理矢理俺まで巻き込んで…ユリカのせいだとは思うが…。

「ったく…なんで俺まで」

「アーキト!つれないこと言わないの!
 せっかく初のダブルデートなんだから!!」

「だ、ダブルデートってお前…。
 ルリちゃんとラピスちゃんもいるだろうに…」

……こんな目立つ奴とダブルデートしてられるかよ!?
た、楽しむ余裕がないだろ!!

「テンカワ!甘いよ!」

「え?」

「だったらトリプルデートにすればいいでしょ!!」



「「「「えっ!?」」」」




ら、ラピスちゃん、ルリちゃんを抱きしめて…!?
と、トリプルデートってそういう?!

「ラピスッ!?
 何言ってるんですか!?」


「いいのいいの、テンカワが気を使わないようにするだけだから。
 いいじゃない、別に。
 減るもんじゃないでしょ」

…減るものじゃないかもしれないけど、変な噂は立つかもな。

「だ、だって…初めてのデートが女の子となんて…」

「だいじょーぶ!
 本気でそこまでするつもりないよ!
 ノーカンノーカン!」

…ラピスちゃんって、ユリカの家とは血縁関係ないよな?
うーん…なんか強引さがユリカにそっくりなんだが…。
ま、楽しそうだし…いっか。
























〇地球・ピースランド・城下町──ユリカ

…結局、とっぷりと日が暮れるまで遊んじゃった。
楽しかったなぁ…。
ユリちゃんもルリちゃんも、ラピスちゃんも…あんなことがあった日と思えないほど笑ってくれた。
…本当は私の方が泣いちゃいそうだったのに。
で、あと一時間くらいしかないんだけど…。
ラピスちゃんが『最後くらいはびしっと決めて来なさい!』って、
私とアキト、ユリちゃんとアキト君で別々に送り出して、自分たちはユーチャリスに戻った。
…気を使ってくれたんだね、ラピスちゃん。
噴水の前で、私たちはこの四日間を振り返っていた。
もう遅いこともあって、このあたりは人がほとんどいない。
私達は落ち着いて話をすることができた。
私とアキトは、二人ほど目立たないもんね。

「楽しかったね、アキト」

「あ、ああ…。
 ……お前、ちょっと無理してたろ?
 でも、途中からお前も…」

「なんだ、ばれちゃってたんだ…」

…アキト、私の事ちゃんと見てくれてたんだね。

「でもびっくりしたよ。
 話は聞いてたけど、あんなにひどいことがあったなんて」

「…うん」

「…ルリちゃんって、あんなに激しい子だったんだな。
 それで…あんなに心根の優しい子なんだな…」

「あったりまえじゃない。
 もう、アキトったら知らなかったの?」

ルリちゃん、静かだけど普通の女の子で、とっても優しいのに。
あのアキト君が危篤になった夜だって、その前だって、ずっと。

「うん、おとなしい子だと思ってた。
 …でも、大人と同じくらい働けるすごい子で…。
 でも子供っぽく寂しがり屋で、
 自分の事でいっぱいいっぱいなところがあるかなって…」

「…アキトはルリちゃんをそんな風に見てたの?どうして?」

「…俺もそういうところあるからな。
 みんなにガキっぽいって思われてる自覚はあるんだけど、その…。
 そ、育ちのせいかな?
 俺も両親亡くして、施設で育ったから、なんか、その…」

…そっか。
なんで私がルリちゃんを、アキトを、ユリちゃんを、アキト君を…。
みんな放っておけないのか、分かった気がする。
…みんな愛情深いのに、寂しい生き方を強いられてて…。
自分を表現する方法が分からなくて苦しんでいるんだけど、それでもいつも一生懸命だから…。
…助けたいんだ。きっと。
ラピスちゃんは、ちょっと違うんだけど、妹って思えるし。
そ、その中でも、アキトは…。

「…でも、そんなアキトが好きだよ、私は」

「ばっ!
 お前…何度告白するんだよ!?」

「…アキトが返事するまでやめないもん」

…ふられちゃったらどうしよう。
でも、言わなきゃ伝わらないもん。
答えてもらえるまで、絶対やめない。

「う…」

「いいよ、無理に返事しなくても。
 でも私、決めたの。
 アキトを演じていたアキト君が、言ってたの。
 
 『元気で明るくて、口下手な俺でも声をかけてくれる、
  未熟な俺を励ましてくれるところが好き」って。
 
 …これ、当たってる?」

「うっ!?
 ……考えたことなかったけど、当たってるかも。
 そ、そんなことまで見抜かれてたのかよ…」

「えへへ、図星だった?
 …だからね、私、ずうっとそうしてるつもりなの。
 アキトが私を好きで居てくれる部分、大事にしようと思うの。
 
 …でね。
 ユリちゃんにも、ルリちゃんにも、アキト君も、ラピスちゃんにだって、そうしてあげたいの。
 私、大事な家族がこんなに急に増えちゃってすっごい幸せ!
 
 欲張りだって言われちゃいそうだけど、
 ここにアキトも引きずり込んでずーっと楽しく過ごしちゃうの!
 

 一生、ずーーーっと!」


「ば、バカ…何を勝手に将来設計までしてるんだよ。
 それに…俺、ホシノと親戚関係になるなんて…」

「だめ?」

「…勝手にしろ。
 思う分には好きにすりゃいいじゃんか。
 未来の事はわかんないけどさ、楽しそうなのは分かるよ。
 そうなったって別に…迷惑かもしれないけど、悪くないって思うし。

 ……俺も、ユリカのことは好きだし」


「え?
 い、今なんて言ったの!?」


あ、アキトが私の事好きって!?
嘘、うそ、ホント!?
初めて聞いた!!聞けちゃった!!
うれしいっ!!




「ん?

 ………っ!?



 な、なし!



 今のなし!」



「やだーーーっ!
 もう一回聞かせてアキトッ!!」



「だーーーーっ!
 やめろーーーーーーっ!!」



「待ってよアキトーーー!
 素直になってよーーーーー!」


アキトは顔を真っ赤にしてユーチャリスの方面に向かって逃げ出しちゃった。
恥ずかしがらなくてもいいのに…。
アキトは結局その日、もう一度言ってはくれなかったけど…。
でも、私、嬉しくて部屋に戻ってからニヤニヤ笑っちゃったし、泣いちゃった。
あんな風に、ついぽろっと言っちゃったってことは…。
結構、本気で私を好きってことなんだもん…。

…えへへ、嬉しいなぁ。























〇地球・ピースランド・城下町


「…うう、ユリカ」


「…アオイさん、艦長ここに居ませんよ?



 超能力に目覚めてまで不幸を感じなくたっていいのに…」




























〇地球・ピースランド・森林地帯──ユリ

……やっぱり昨日からアキトさん変です。
た、確かに二人っきりになりたいとは言いましたけど…。

「あ、アキトさん。
 二人きりになりたいからって光学迷彩のマントまで使わなくっても…」

「いいじゃんか、別に。
 俺たちだって二人きりになる権利くらいあるよ」

「…そりゃそうですけど。
 部屋にもどって反省会でもいいんですよ?」

「それじゃ味気ないよ。
 宇宙に出たらずっとそんなだよ。
 地球に居る間くらい、精一杯楽しまなきゃ」

…ちょっと調子づいてますね、アキトさん。
結構性格が演技に引っ張られるタイプですよね。
…いえ、さすがに『黒い皇子』時代までそのせいってわけじゃないんでしょうけど。
まあ、いいんですけど。

それからしばらく私達は静かに抱き合って居ましたが…。
そのうち、ピースランドで起こった出来事について話しました。
ラピスが主導した今回のピースランドでの事は、本当にフィクションじみてることばかりで、
実は私も少しはしゃいでいたところがありました。
あ、アキトさんの怪盗姿、本当にカッコよかったですし。

「…でも良かったよ。
 みんな笑顔になれた。
 …ユリカ義姉さんに感謝しなきゃね」

「ええ…まさかピースランドで遊んで帰ろうなんて言うとは思いませんでした」

私達だけだったらすぐにユーチャリスに帰っていたかもしれません。
そうしたらやっぱりルリにとってピースランドの思い出は寂しいものしか残りませんでした。
本当に感謝です。

「…私、この国をちゃんと楽しめるなんて夢にも思いませんでした。
 やっぱり私がひねくれていただけだったんですね」

「仕方ないよ、だってあの頃は…」

「…いえ、ちょっと違いますね。
 この国そのものを楽しめるかどうかは本人の性格にもよりますけど…。
 誰と、どんなふうに来るかで変わるんです。
 あの時は乗り気じゃなかったですし、アキトさんの事を好きだって自覚もなかった。
 自分から楽しみに来て…好きな人や大切な家族、友達とだったら、
 きっとすっごく楽しいんです」

「…そうだね。
 ん…いや、ちょっと待って…」

「え?」

アキトさんが少し考え込んでいます。
あの頃の事を思い出しているんでしょうか。

「…あの時って、買い物に結構時間かかってなかったっけ?
 何しろ200人からのクルーにお土産頼まれてて、
 二人で無理矢理回ってたでしょ?
 あんまり遊んでる暇もなかったような…」

「…あ。
 そういえばそういう所もありましたね。
 起こった出来事が印象的すぎて忘れてましたね」

「ははは」

「…最後の食事の事が印象的すぎて忘れてしまってましたね」

「あ、ユリカ義姉さんがどうしてもってあのピザ屋入っちゃったんだ、実は。
 今度は逆襲してやったよ」

「あら、それは良かったです。
 そっちのリベンジもできて良かったですね」

…ピースランドでの思い出で一番目立ったのがあの思い出だったってさんざんです。本当に。
でもあの時守ろうとしてくれたアキトさん、カッコよく見えました。
…あの頃は内心『弱いくせにナイト気取って無理しちゃって』って半分くらい呆れてましたけどね。
本当に世界一のナイトになってしまった今となっては若気の至りって感じですけど。

「うん。
 …俺たち、ここに来てからずっと後悔を取り返すことばっかりだけど、
 それって前に進んでることにはならないけど…それもいいかなって思うんだ。
 すっきりするっていうか、すごい安心できるっていうか…」

「そうですね…でもやっぱりいいと思います。
 それに、親になるとか家族を持つのってそういうことだと思うんです」

「え?どういうこと?」

「私、ルリと初めて会った時…抱きしめたって言いましたよね?
 あの頃、私はルリだった頃にしてほしかったことをしたんです。
 もしピースランドで母に抱きしめてもらえたらどれくらい嬉しかっただろうって…。
 そうしてほしかったなって…。
 
 自分が足りないと思ったことを、親になれた時、欠けさせないように…。
 自分がしてほしかったことをしてあげられるようになりたいって思ったんです。
 
 ルリにはあんな寂しい想いをさせたくない。
 もしアキトさんと私の間にこっ、子供ができたとしても、そうなんです。
 
 だから…」

「ユリちゃん…」

自分の後悔を取り戻す戦い…方法によっては、
相手に自分の理屈を押し付けて傷つけるかもしれないですけど、
そうならないようにどうしたらいいか考えるのは必要です。
…本当の意味で大人になるっていうのはそういうことなんです、きっと。

「…そうだね。
 後悔が、自分を未来に進めてくれるんだね」

「…はい」

「…じゃ、未来に進もうか?
 帰ろう、ユーチャリスに!」

「…はいっ!」

…本当はもっといちゃいちゃしたりしたいんですけど、そんな気分じゃなくなっちゃいました。
ムードや気分って大事ですからね。
でもこういう風に正直に自分のことを話せるのって嬉しいです。
これならもう、変な我慢はしないで済みそうです。
ルリもきっと…あの様子だとこれが分かったんでしょう。


私達、少しずつ夫婦らしくなれてる気がします。
…戦いにもうまく決着、着けられるといいな。

























〇地球・ピースランド・ユーチャリス・ブリッジ──ミナト

ルリルリとラピラピが戻ってきた。
大人二人組、二組は置いてけぼりで、子供は日が暮れたら帰るべき、とか、
自分で言っちゃって…。
私達クルーも遊び疲れた組はぼちぼち戻ってきていた。
ブリッジクルーだし、私もちょっとは早めに戻ろうとして。

でも…びっくりしちゃった。

ルリルリ、すっごいかわいく笑うようになっちゃって。
ほんの一週間離れただけなのに、こんなに変わるの?

「る、ルリルリ、いいことあったのね」

「はい、とっても」

いつもと同じ静かな声のトーンなのに、しっかり嬉しさが伝わってくる。
…自分を縛り付けてきたピースランドを離れられるから?
いえ、違うわ…かといってホシノアキト君にお姫様として助けてもらったからって感じでもないわ。
生放送私も見たけど、ちょっと照れくさそうではあったけど満面の笑みじゃなかった。
どうして…。

「…母に抱きしめてもらいました。
 生まれて初めて」

「…そ、そうね。
 それは嬉しかったわね」

「かわいい弟たちが五人居るんです、私」

「五人も!?」

「五つ子です」

…それ、何松くん?何松さん?

「…父も、ちょっと強引ですけど、
 嫌いじゃないです」

「…そっか、ルリルリ、ピースランドにはちゃんと『家族』が居たんだ。
 でもそれなら帰ってきたのは、どうして?」

「……閉じ込められて、かわいがられたからです。
 あの国、私にはちょっとちっちゃいんです」

…お、驚いたわ。
あの控え目で遠慮がちなルリルリが、でっかいことを言うわね…。

「でもいいです。
 またいくらでも会いにいけますから」

「そーそー。
 家族はいくら多くてもいいもんね」

ラピラピもうんうん頷いてる。いいこと言うわね。
ま、仲が悪くないならそうよねぇ。
何もかもが合わないとか、相手を利用するようなタイプじゃなければ全然。

「ミナトさん、私達が色々ひどいことされたの聞いてると思いますけど、
 私、もう大丈夫です」

…本当に大丈夫そうよね。
何てったって顔が違うもの…控え目じゃなくて自信に満ち溢れてる顔だわ。

「すっごいんだよ、ミナト。
 ルリね、研究員がえらっそうなこと言って自分のしたことを正当化しようと喚いてたの。
 ネルガルの人体実験の被害者のルリや私達を前にしてつらつらとね。
 でも何度も何度も引っぱたいて怒ったんだから」

「ら、ラピス、あんまり詳細に言わないで下さいよ。
 さすがにちょっと恥ずかしいです」

「いーじゃない、スカッとしたよ。
 ルリが優しい子じゃなければあんなことしないよ。
 …私達の分まで怒ってくれたんだもん、嬉しかったよ」

あ、あのルリルリが誰かを叩く!?
う、うそでしょ!?
…でも、なんか、分かった気がするわ。

「ルリルリ、自分が大切にされてるって気づけたのね」

「…はいっ!」

私や艦長がいくら構っても、まだちょっと足りなかったんだ。
…モルモット扱いだったから自分の命をどうでもいいって思ってたのかも。
だからいつも自信がなくて、構ってあげても遠慮がちなところが多くて…。
そうじゃないってようやく気付いたんだ、ルリルリは。
人に頼っていいと気づいた、自信を持ったこの子は、もっと可愛くなるわ。

「良かったわね…」

「はい!」

こんな眩しい笑顔を見せてくれるなんて…。
私、この笑顔が見たくてこの子を可愛がっていたんだけど、
ちょっと悔しいけど…ま、実の母親相手じゃ仕方ないか。
でもそれならそれで、この子に可愛くなる方法をたくさん教えてあげちゃおうじゃない!





























〇地球・東京都・繁華街・広場

タピオカジュースの屋台のそばで、女学生たちが騒いでいる。

「ねーねー、見た?
 昨日の放送!」

「見た見た!
 深夜にすごいもの見ちゃったわよね~~~~!
 興奮で眠れなくなっちゃったわよ!!」

「まさかアキト様が、あんなことしちゃうなんて驚いちゃった…。
 生放送だからって深夜の二時にあんな番組が始まっちゃうなんて!
 視聴率40%だって!!すっごいよね!!」

「さっき、あれはルリ姫のリクエストでやった余興だって発表があったけど、
 もしかしたら裏でアキト様とピースランドでルリ姫の取り合いがあったんじゃないかしら!」

「ありうる~~~~~~!!!
 それでかろうじて和解したからああやってとりなしたのかも!!」


「ちょっとそこまではないんじゃない?
 でもアキト様だし、ありえちゃうんだよねぇ…」

「ああぁん、3倍録画しちゃったのが惜しいわぁ。
 ね、標準録画してる子、いる?」

「あ、あたししてるよ。
 ダビングしましょ。一本千円で」

「「「料金取ろうとしてんじゃないわよっ!!」」」

「…そういえばアキト様の妹のルリ姫、可愛いわよねぇ」

「そりゃアキト様だって頑張っちゃうわよねぇ。
 あのままだったら本当に王子様になれちゃいそうなのに、
 妹を盗み出して城の中から助けてあげたって、
 ホントだったらもう私、もっと惚れちゃうわぁ…」


「きゃ~~~~!私も盗んでほしいわぁん!アキト様ぁん!」



「ちょ、ちょっと大きな声出さないの。
 落ち着いてよ、にらまれてるわよ」

周囲にもホシノアキトファンと思しき、女学生が居る。
タピオカジュース屋に並んでいる娘たちも同様ににらんでいる。

「…こんなところで騒ぎになっちゃまずいわよ」

「ちょっと話題変えましょ。
 …でも妹さんたちもかわいいわよね、本当に」

「あのラピスちゃんって、やっぱりルリ姫と一緒で人体実験を受けたのかしら?
 なんか特殊な感じするわよね」

「特殊なんてもんじゃないわよ、一説によるとあの子、
 姉のユリさんを出し抜いてアキト様を狙ってるそうなのよ」

「ええっ!?
 そんな昼ドラもびっくりのことがっ!?」

「実際、ラピスちゃんはアキト様のマネージャーしたりとか、
 この間も洋服の赤山の広告にビジネススーツの宣伝で出たのよ、ほら」

「「「うわっ、か~わいい~~~!」」」

「洋服の赤山の社長、この広告のおかげで今月は前年比20%増しの売り上げ出したって。
 ついでにジュニアスーツの売り出しにも貢献してるとか…。
 ほんと、アキト様の一族ってすごいわー」

「あと何年くらいしたらアキト様、ラピスちゃんに手を出すかな?」

「出さないんじゃない?
 お堅いことで有名だし」

「でもでもぉ!
 ラピスちゃんがアキト様好きすぎて病んじゃって、それを慰めるために…。
 って展開はありそうじゃない?」



「「「「ありえる~~~!」」」」




「それはありそうだわ、アキト様は家族には甘そうだし」

「優しすぎて家族崩壊の危機!
 …っていいつつ、外にも情報は洩れず、
 なんだかんだちゃんと和解して、
 でもラピスちゃんは実はその一夜で身ごもってて、
 最期までアキト様に言い出せず、家を出て私生児として生んでほそぼそと育てるの」

「ちょっと!それは可哀想すぎるわよ!!
 妄想もたいがいにしなさいよ!!」

「あ、あはは、ちょっと過激すぎかしらね…」

「大丈夫よ、あの子はルリ姫とも仲がいいんだから。
 ピースランドで一緒に出掛けてて、すっごい仲良しで、
 なんでも話す仲みたいだったし、きっとそんなことにはならないわよ」

「…そういえばアキト様の奥さんのユリさん、
 すごい美人だけど…なんかラピスちゃんとは仲がそんなに良くないのよね」

「アキト様狙ってるとはいっても、一応姉妹なのにねぇ」

「血がつながってないからじゃない?」

「それ言ったらルリ姫と仲がいいのが分からないわよ。
 確かにユリさんってルリ姫と同じようなカッコになることもあるらしいけど…」

「ま、いいじゃない。
 アキト様関係の話題がどんどん増えた方が見どころがいっぱいで楽しいんだから」

「本当にまるっきりフィクションの中の人みたいだもんね、アキト様たちって」

「ああ…脇役でいいからあの中に入ってみたいわぁ…。
 パイロット候補生のさつきが恨めしい!じゃなくて羨ましい!」

「そういえばあんたたち、PMCマルスの契約社員の応募はした?」



「「「「もちろん!」」」」




「…いいなぁ、私家族を説得できなくて無理だったもん。
 みんなはどうやったの?」

「ほら、今って戦時中でしょ?
 どんな職業も安泰ってことないから、いろいろやってみるのもいいんじゃないって。
 それに3年の期間満了後、再就職するにも大学とか入り直すにしても、
 履歴書に『元PMCマルス契約社員』って書いたら色々ぐっとくるところは多いと思うの。
 あとPMCマルスは結構待遇がいいじゃない?
 だから、なんとかねじ伏せちゃった♪」

「…ま、200万人…を超えるファンの中から、わずか100人だから、
 望み薄だけどね」

「宝くじ一等よりは高いんじゃないの、確率」

「でも誰か一人でも受かったら、情報よろしく。
 行けないからには支援するから。
 ビデオでもカメラでもなんでもね」

「あ、そういえばラピスちゃんが今まで非公式だったファンクラブをまとめて、
 公式ファンクラブを作ろうって……」

…彼女たちは結局門限ぎりぎりまで話し込んでいたらしい。




























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・食堂──ホシノアキト

俺たちは無事、PMCマルス本社に戻ることが出来た。
色々あったけど楽しい旅だった…けど…。
……は、はは…ち、力尽きちゃったな…。

…俺達が本社に戻ったのは日本時間でおよそ朝の六時。
にも関わらず、すでにPMCマルス本社には多数のマスコミが待ち構えていた。
ピースランドではいろいろ国王が手を回してくれていたらしく、
俺も自由にあそんでいることが出来たわけだが…。

その反動か、PMCマルスには日本のみならず世界各国のマスコミまで待ち受け、
『世紀末の魔術師ショー』の華麗さとピースランド国王との和解に沸きに沸いていた。
ピースランドでの記者会見の時は、事態の説明に終始してたけど、
詳しいことや細かいことを話すには時間が相当必要だった。
……ルリちゃんの為になったけど、それでもこれは…。
結局朝の六時について、終わったのは午後の二時だった。
俺とルリちゃんはピースランドの使者が来た時の数倍消耗していた。
あの時は日本のマスコミだけだったからな…。
そして俺達兄妹は食堂でうなだれている。

「……ば、バカばっか」

「そ…そうだね…」

…このセリフ、この世界に来てから初めて聞いたかもしれない。
しかもナデシコ時代みたいな照れ隠しじゃなくてマジコメントだ…。
ルリちゃんはその直後、気絶するように突っ伏して眠った。
疲れが取れてないんだな、ルリちゃんも…。
けどこんなに堂々と隙を見せる姿、本当に昔は見たことなかったなー。
変化が凄いや。

「あ、アキト。
 ちょっと休憩したら相談聞いてよ。
 眼上と私で…ってルリは寝ちゃってるか。
 ま、いいか後でも。
 アキトも仮眠したら?」

「ん…すまん。
 2時間くらい横になるか…。
 ルリちゃん、お布団で横になりなよ」

「う…すみません…アキト兄さんも…疲れてるのに…」

「いいって」

俺はルリちゃんを抱えて、仮眠室に向かった。
こういう時はラフにすぐ寝れる場所があってよかったと思うな…。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



俺とルリちゃんは結局三時間程眠ってからラピスと眼上さんの話を聞いた。
時差ボケもしていたのでちょっと眠りが深かったみたいだ。
だが…。



「げっ!?
 ドラマ化に宝塚公演!?」




「そ。
 当然宝塚のほうにはアキトは出ないけどね。
 ドラマのほうはスポットでいいから出てほしいってさ。
 映画にしようって話もあったんだけど、そこまでは時間とれないでしょ?
 漫画とかアニメになるのも考えたらしいけど、
 実写のカッコよさが抜群だったからって」

…あの『世紀末の魔術師ショー』は世間の評価が高かったらしい。
それも世界的に。
漫画じみている設定が逆に残心だったらしい。
光学迷彩を使ったトリック、ピースランドの衛兵と国王の迫真の演技、
迫力のある戦い、ナオさんの激闘、リョーコちゃんの壁切り…。
しかもそれをすべて生放送の間に行ったとあって、関心を集めまくっている。
は、はは…別の方法を考えるべきだったかもな…。
王城外部から撮影された各国のテレビ局のカメラの映像、
そしてラピスが送り込んだ光学迷彩ドローンの映像を再編集して発売予定の映像ディスクも、
予約段階で販売枚数300万枚を達成しているらしい。しかも日本だけで。
全世界でカウントすると1000万枚に達する可能性があるとか…。
……あれ売るのかよ。
とはいえ、ディスクを発売するためにラピスがドローンを送り込んで撮影していたと言い訳できるので、
あれが演技なしの死闘ではなく、最初から折り込み済みのショーだったと逆に証明しやすくなった。
どのみちラピスはどこをとっても損をしない計画を立てていたってことだよな…。
……ラピスに経営権、マジにあげちゃおうかな。

「…ラピス、もしかしなくても私も巻き込まれてますよね」

「じゃなきゃ呼ばないよ。
 あ、ピースランドからも来てるよ。
 国王の部下が企画を請け負うように命じられたの。
 『世紀末の魔術師』のアトラクション作ってもいいかって。
 さすが世界一のテーマパーク国の経営者だよね、
 本当に判断が早いよ」

「あ、あきれた…」

…ルリちゃん、ちょっと怒ってるけど、別に嫌がってはいないな。
まあ、自分が演じるわけじゃないからね…。

「そういうことよ。
 でも安心して、アキト君。
 それぞれ監修や撮影、営業に顔出す必要が出てきちゃうけど、
 基本的には全部宣材作ってあとは丸投げ。
 別にアキト君とルリちゃん自身が『世紀末の魔術師』にこだわりがないだろうからって」

…眼上さん、そこまで折り込み済みなんですね。

「…あの、ラピス?
 まさか私も芸能界ちょっとは出なくちゃいけなくなったり…」

「うん、でも嫌な時は断ってもいいから。
 私は二人のマネージャーになるわけね」

「…はぁ」

…さしあたっては『世紀末の魔術師』関係の事しかないだろうけどね。
でもちょっと進むとラピスと一緒にジュニアモデルを始めるのもあり得る…。
何しろ洋服の赤山の社長とも仲良くなってそうだからな…。

「巻き込んでごめん、ルリちゃん」

「…いいです。
 もうハナから普通の人生はあきらめてますから…。
 人体実験を生き抜いた少女、戦艦ナデシコのオペレーター、
 トップアイドルの妹、ピースランドのお姫様、
 あともしかしたら連合軍極東方面軍の娘…。
 
 こんなの少年漫画でも少女漫画でもやりすぎですよ」

…確かにこんな設定の作品書いたら普通突っ返されるよね、編集さんに。
事実は小説より奇なり…俺たちホシノ家はそんな宿命の元に居るらしいね…。

「いいじゃない。
 あのまま私達と出会えず、
 ピースランドの家族とも会えなかったり、
 会えてもちゃんと話すのもできなかったりするよりは」

「…そうですね。
 その先でどれだけ寂しい目に遭ったか…。
 そう考えるとゾッとします」

…そうなんだよ、ユリちゃんのルリちゃん時代は本当に大変だったから。
今回の事はユリちゃんにとっても救いになってるんだよ、本当に。

「まーナデシコが出港するまではいいんじゃない?
 何しろオペレーターが4人も居るんだから、ルリや私がちょっと離れてもいいし。
 ユーチャリスをナデシコ班のみんながほとんど使っても何ら問題ないし。
 それまでアキトはエステバリス教習所の教官兼芸能人でもいいんじゃない?
 ルリだってちょっと兼業するくらいなら大丈夫でしょ?」

「…別にいいです。
 芸能界やピースランドの客寄せパンダ扱いというのは分かってますけど、
 結局これはアキト兄さんや父を手伝うくらいの事です。
 家族のためにちょっとくらい骨を折るのもいいでしょう」

「ルリちゃん、大人だよね」

「私、子供です。
 我慢強いだけで」

…『少女です』じゃないんだね。
なんかルリちゃん本当に素直になったなぁ…。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



その後、俺たちはラピスと眼上さんとスケジュール調整を行った。
ラピスはPMCマルスの出撃スケジュールを把握しているので、それも込みで。

…で、俺はナデシコ出航までユーチャリスに『乗らない』のが決定してしまった…。

仮決定したナデシコ班、ユーチャリス班の編成のパイロットの編成で何とかなるかららしい。
この間、ユーチャリス班として出撃したアリサちゃんと青葉ちゃんが初出撃にも関わらず、
空戦フレームエステバリスを使いこなし、初期メンバーのマエノさんをもあっさり超えるスコアをはじき出した。
俺もその動きに関心した。さらにリョーコちゃんたちのお墨付きだ。
…この二人、天才なんじゃないか?
そういうわけでユーチャリス班はナデシコ班よりも練度で劣るし、俺のいない分を数で補うことにしたらしい。
フォワードとバックで二つのエステバリス小隊を準備する。

フォワード:アリサ、青葉、さつき
バック:マエノ、テンカワ+パイロット候補生もしくはパイロット研修生

基本的に5~6人のフォーメーションで、フォワードが前線をひっかきまわし、
バックの2~3人がユーチャリスの直掩を担う。
特に練度で劣るテンカワとパイロット候補生とパイロット研修生は、
ユーチャリスにすぐに戻れる状態であるのが好ましいからな。

し、しかし…。

俺も戦うのはそんなに好き好んではいないけれど…。
一人日本に取り残され続けるのはなんか寂しいよな。
いや会社に居る日も多いし、別にいいんだけど…なんか…。

「…アキト兄さん、完全に仲間外れですね」

……ルリちゃん、はっきり言わないで。
























〇地球・ユーチャリス内・食堂──リョーコ

オレたちはユーチャリス食堂に集まっていた。
今回の出撃はナデシコ班の担当だけど、ユーチャリス班もPMCマルス本社での訓練ではなく、
実地での教習のため、人員が多めにいる状態だ。
で、オレたち正規パイロットじゃなく、
パイロット候補生とパイロット訓練生のチームが、
なんと4小隊、合計12機のエステバリスで出撃することになった。
成績上位の人員を集めての作戦だ。
連合軍のパイロット研修生の分のエステバリスも先行して納入してもらっている。
とはいえ、それでもさすがに危ない時はオレたち正規パイロットが出ることになっている。
パイロット候補生は主に青葉とさつきが、
パイロット訓練生の方はマエノとアリサが小隊長を担当するらしい。
実力的には問題ないだろうが、まあ、荷が重いならオレたちが出るだけだ。

ま、作戦前にはリラックスしてみんな食事をとる余裕があるし、
大丈夫だろうよ。
…あん?なんであの辺騒がしいんだ?

「ええっ!?マエノさん入籍するの!?」

「あ、ああ…色々あってようやく正式にな」

お、なんかめでたいな。

「へっへっへ、マエノさんちのご両親、
 ヒロシゲさんが黙ってパイロット始めたり腕を失う大けがをしたのを怒って、
 職場や近所でそのことを愚痴ったら逆に、
 『佐世保を救ったPMCマルスで活躍したのに!!』ってボコボコに言われ返して、
 それで謝りに来てくれたの。
 お詫びに、今まで保留にしてた入籍を許可してくれたんだ~。
 あの二人、仲を認めてくれてるわりに海外に飛んでって誤魔化してたからね~」

「シーラ、あんましそういうの話すなよ」

「嫌です!
 だって、ずーっと内縁の妻状態だったでしょ!
 同居してるのに!
 めっちゃ働いて家計を支えてたのに!
 弟くんと妹ちゃんのお世話だっていっぱいしてたのに!
 親御さん鬼のようなブロックしてきたじゃない!!」

「…まあ分かるけど。
 ふつーバイトさせてまで生活費や妹の進学費用まで出させるかよって…」

…苦労してんな、あの二人は。

「それに、便乗とはいえみんなをピースランドで遊ばせた件もあって、
 弟くんと妹ちゃんも完全にこっちの味方!
 …ホントはもうパイロットやめるように言いたかったみたいだけど、
 往生際が悪いッ!って大ブーイング。
 もう、完全に勝負ありって感じ!
 にょほほ~普段の行いがものをいうのよね、こういう時はッ!」

シーラ整備班長は何つーか…。
ヒカルやウリバタケと気が合うだけあるよな…ヘンなやつ…。

…そういや艦長とホシノ一家も家庭の事情で外出中だったっけか。
どこんちも苦労が多いみたいだ。
あそこは特別多いみたいだしな。






















〇地球・埼玉県・ホシノ家

かつてルリの里親として面倒を見ていたホシノ家の周りには、
数千人の人だかりができている。



「「「「この人でなしーーー!!」」」」



「「「「姿を見せろーーーーー!!」」」」



「「「「悪魔ーーーーーっ!!」」」」





この群衆は、ホシノアキトとホシノルリの親権を持っているこのホシノ夫妻の家を突き止めた。
かつてはホシノアキトファンに監視や付きまといを受けていた都合上、すぐにばれた。
アキトとルリが人体実験の被害者だと世間に認識された現在、
二人は人身売買の加担者だとみなされていた。
当然、人権団体からただの野次馬同然の人間まで含めて押しかけ、
下手をすれば私刑にかけられる可能性があった。

「さ、さあ早くして下さいよお二方!
 早くしないと、暴動なんですから!!」

「プ、プロスさん!!
 私たちの今後の生活は…」

プロスペクターは二人を保護すべく、ひそかにこの家に入っていた。
逃走ルートは確保済みで、重要書類などだけをもって逃げることになった。

「お金があればある程度なんとかなるでしょう!!
 整形手術するなり、なんなりあるでしょうに!!」

「で、ですが…」

「ひとまずネルガルが保護しますから、それから考えて下さい!
 あなた方が死ぬとまたルリさんの親権関係がややこしくなりますから!!」

「な、なんでネルガルじゃなくて私たちに!?」

「いや~彼らはネルガルとは和解してますからねぇ~~~。
 そうなると名義貸しをしてたあなた達のほうがピンチになるのは当然でしょうね~。
 企業に逆らうのは厳しいと感じたらこっちにくるでしょう。
 世間はあなた達を人でなしとののしってますね。
 私達も責任は感じてますので、せめてこうして保護をと」

「ぐ…ネルガル関係の研究所だからと全部はかばってもらえないんですか…」

「ええ、まあ。
 あなた達に払った額が額ですからねぇ…。
 ネルガルもエステバリス工場を増やしたり、
 戦艦を作りすぎてすっからかんなんです、はい」

「あ、あんた!早くいきましょうよ!!」

「ったく分かってる!!
 …早く親権を渡して高跳びしないと命に係わる!!」

(…まあ、一時保護はしますが親権を渡した後の事は面倒見かねます。
 結局ピースランドの方にさらわれる可能性が高いんですがね。
 良くて国内にとどめて飼い殺し、悪ければ仕返しで人体実験施設行きもないとは言えませんし。
 プレミア国王もルリさんの事もあって非人道的なことはしないかもしれませんが、
 国籍変更して懲役刑を食らう可能性もありそうです。
 ルリさんがこの辺をフォローしてくれない限りは危険は付きまといそうですねぇ。
 一応、伝えてあげましょうかね…ネルガルも共犯ではありますし)




























〇地球・東京都・立川市・ミスマル邸──ミスマル提督

私はひとまずルリ君の事情が落ち着いたようなので、養子にとる手続きをするために、
アキト君とユリ、ユリカ、ルリ君、ラピス君を呼んだ。
ピースランドの国王、王妃、そして現在アキト君とルリ君の親権を持つホシノ夫妻たちと、
テレビ通話での話し合いを行った。
話し合いはほぼ滞りなく行われ、ホシノ夫妻はルリ君とプレミア国王と王妃に謝罪をした。
ルリ君はやや冷ややかに応答しながらも、ことを荒立てる様子もなく頷いた。
プレミア国王と王妃は、その様子をみて、同じく親権の移譲をスムーズにするために頷いた。
…内心はかなり煮えたぎっているだろうが、ここで怒りをぶつけてはごねられる可能性があるからだろうな。
そして、最終的にルリ君の希望通り、ミスマル家が養子に取る形になることになった。
…やれやれ、本当にここまでが長かったな。期間は短かったが、紆余曲折あったからな。
交渉と後日の書類のやり取りが決まり、お茶を飲んで一息入れていたが…。

「…アキト君、大変だったみたいだな」

「ええ…本当に…」

…アキト君は私の前だというのに、ふらふらしている。
アキト君の動きは報道ですら容易に確認できてしまうが、この数日は全然息をつかせる暇がなかったようだな。
ピースランドでの休養はともかく…替え玉作戦や潜入とルリ君の奪還、
そしてこの数日の芸能界営業はさすがに堪えたみたいだな。
『世紀末の魔術師』はこの数日特番を何本も組まれて、
あの衣装を何度も着る羽目になって、ルリ君まで巻き込まれている様子だったし…。
秋にはドラマが始まるとかですごい人気だな…。

「でも全部丸く収まってよかったっす…。
 最悪、誘拐犯扱いされる可能性があったので…」

「ご苦労様だな、アキト君。
 あれ以外の方法がとりづらい状態だったとはいえ、なんとも豪胆な作戦を通したものだ。
 それにネルガルの評判もひとまず下げ止まって持ち直しているようだしな。
 君とアカツキ会長との和解がなければネルガルは完全につぶれていただろう」

「そうですね…。
 木星トカゲとの戦争に負ける可能性があっても、
 全世界がネルガルを拒む可能性はありえましたし」

ネルガルに対するバッシングは完全には収まらなかったが、
アキト君とユリを中心とする元実験被害者が相談の上、和解をしたと報じられたため、
ひとまずトーンダウンすることになった。

これはアカツキ会長が父の罪をすべて背負い、
人体実験を行った研究所を破棄、それに関わった被害者たちを保護、
彼らの生活を保障するためにあらかじめ動いていたからこそ、許す者が出てきた。

これがなければ対処をしたとしても、
『罪が発覚するまで隠蔽、バレなければ何もしないつもりだった』と、
みなされて批難は収まることはなかっただろう。
もっとも、今後もしっかり保護を続けなければあっさりとマスコミに暴かれるがな。
それに報道によると保護された元実験被害者の子供たちは、
同じ境遇のアキト君とルリ君に憧れの視線を向けており、
自分の将来に対しても希望を持てている子が多くなっているらしい。
実験体だったという暗い過去に、希望の光を与えたという。

……アキト君、君はどこまで人を救うつもりなんだ?

「ま、私の手腕あってこそだよね。
 今回のことは。
 えっへん」

「…ラピス、感謝はしてるけど、
 苦労を上乗せするのはやめてくれ」

「いーやー。
 アキトは自分の価値ってものがまるで分かってないんだから。
 死蔵させちゃダーメ」

…そして今回の黒幕はこのラピス君だ。
私もすべて作戦の概要を聞かせてもらった。
一見すると子供じみた今回の作戦も、人の心理をしっかり理解しているからこそできるものだ。
相手の状態を見て、そのあとの和解への道筋を立て、意表を突いて奇襲・かく乱を行い、要人を救出する。
…こんなことは警察だとしても難しいだろう。
PMCマルスの技術班のすごさや、アキト君とナオ君の戦闘能力あってこその作戦ではあったが…。
……子供らしい趣味や悪辣さも感じるが、それも込みですさまじい。
受ける側はたまったものではないだろうが。

「…はぁ。
 なんか今度は私の方が暗殺されそうな気がしてきました」

「…そ、それはないと思いたいけど断言できないね…。
 俺もできるだけそばで守ってあげたいんだけど…」

「…ユーチャリスの中か、PMCマルス内なら大丈夫です。
 もう一人じゃ街を歩けません…」

「そのへんは対策する必要あるかもねー。
 何しろパイロット候補生たちも危ないくらいだから」

「変装マスクでも作りましょうか…はぁ」

…ファンが倍増していくアキト君の妻というだけでユリの危険度も増している気がするな。
英雄扱いの上にネルガルの広告塔であるアキト君の事だ。
ファンの事がなくても危険度は高いだろう。
ユリにも、ユリカと同様に警護をつけようかと提案したが断られてしまったしな…。
アキト君がそばに居る方が何倍も安全だからというのはあるが…ううむ、うまくいかんものだ。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



しばらく近況を話し合い、他愛なく話した。
ユリたちは忙しいながらも、ナデシコクルーの練習艦としてユーチャリスを運用することで、
人員に不自由をしなくなり、かろうじて時間はとれるようになりつつあるので、
これくらいのんびり話し合う時間が取れたのはよかったな。
休みをしっかり取る余裕ができたのは大きい。
今日はユーチャリスをアオイ君とマキビハリ君が運用しているらしい。
オペレーターは一日当たり一人いれば足りるからな…。
…しかしオペレーターとはいえ6歳、11歳、12歳の子供が戦艦に乗るのは問題があるがな。

「…それじゃ、今日はそろそろお暇します。
 お父さん」

「…うむ。
 また寄ってくれ。
 それと最期にユリ、まだ申請途中ではあるのだが…。
 お前の戸籍と親権を、ミスマル家に戻せるように裁判所に掛け合って話を進めているんだ。
 ……事後になってすまないが、それでもかまわないか?
 この間、養子になるのを保留してしまったからな。
 一応ツテのある法律事務所と相談しておいたんだ。
 ネルガルの人体実験の事があって話が通りやすくなってて、
 いい返事がもらえそうなんだ」



「えっ!?本当ですか!?

 う、嬉しいです!!」




ユリは喜んでくれたな。
…ほ。
この手の話は時間がかかるからユリが家に来たあたりから相談はしていたんだ。
もっとも、一か月もしないうちにあまりにいろんなことがあったので、
このあたりの進捗を話す機会があまりなかったんだ。
通らないなら通らないで養子に取るだけの事だしな。
このあたりはアカツキ会長とも相談済みだ。

「…あ、ごめんなさい、お父さん。
 その前に…お願いがあります。
 戸籍を移す前に…育ててくれたお父さんとお母さんの葬式をしたいんです。
 ……そこまではあの人たちの娘で居させてください」

「……分かった。
 喪主はお前じゃなければ務まらないしな」

「はい…」

ユリの胸中を思うと、このあたりの事は慎重にならざるを得なかったが、
現段階であればキャンセルもできるからな。話して正解だった。
…ネルガルはユリの育ての親の死を秘匿するために死体を冷凍保存しているらしい。
なんとも悪辣だが、葬儀が出来ずにいるよりはよほど良いだろう。

「ついでで悪いがアキト君。
 君にもうちに来てもらっていいだろうか。
 この間言われた通り、このあたりの事は戦後の方がいいのは分かっている。
 …だがルリ君の里親が人体実験の加害者と世間に知られて、
 そのままでいるのは問題があるだろう」

「…おっしゃる通りです。
 ここまで広まってしまうとは想定してませんでした。
 こうなると個人的なこだわりでどうこうするレベルの話しじゃありませんし…。
 俺も生まれは天涯孤独の身の上です。
 そうしていただいた方が嬉しいです」

…異論なし、か。

「あ、でもアキトの場合、
 『ホシノアキト』って源氏名は無くなる見込みはなさそうだよね」

「ラピス、それをいうなら芸名でしょう。
 …それくらいなら別に構わないでしょう」

「ま、呼ばれる分には別に弊害ないしね。
 みんなは変わらずホシノアキトって呼ぶだろうし、
 テンカワあたりもずっと『ホシノ』って呼びそうだし」

……むう、複雑だな。
せっかく家督を継ぐに足る男を婿養子にしたというのに、
世間的にはまだ『ホシノ』か。
芸能界もまだ離れられそうもない状態だというのがなんともややこしいな。
だが、まずはこの私の息子と娘が、
ネルガルの人体実験の被害者であると差別を受けるような状態でないことに安堵した。
世間の報道を見ると、ネルガルへの悪評が和らいだついでに、
むしろあの見た目の謎が解けたことについて盛り上がっているという状態らしい。

……もっとも、逆にアキト君と全く同じ見た目になりたい若者が、
使われたナノマシンを教えてほしい、売ってくれと盛り上がっていることには閉口するがな。

そして、みんな佐世保に帰ってしまった。
…しかし当たり前のことだが置いていかれると本当に寂しいな。
ユリカとユリはもう家を出ていい年齢だから仕方ないとしても…。
ルリ君とラピス君まで出ていくことはないだろうに…。
い、いや…彼女たちも必要な人材なんだ。
大丈夫だ、ユリカもユリもアキト君もいるんだ、大丈夫だ。
帰り際にハグまでしてくれた彼女たちは、もう私の娘なんだ。
私の方が娘を恋しがってしまってはいかん。
せめて彼女たちが軍の上層部に利用されないように配慮することで報いよう。

だが…正月くらいは戻ってきてくれるだろうか…。
うむ……酒量が増えてしまいそうだ…。
























〇地球・東京都・ネルガル本社・会議室──エリナ

私とナガレ君は、重役連中と会議を続けていた。
クリムゾンもここぞとばかりに人型機動兵器を投入してきたけど…。
まだ性能さやネームバリューで優っているエステバリスなら勝てる。
かろうじて首の一枚でつながったネルガルの命、あっさり失うわけにはいかないものね。
株価もかろうじて今までと同じ、PMCマルス発足以来変わらぬ高さに戻った。
重役連中も先々代会長の指示の元とはいえ、自分たちの担当してた暗部のことを暴かれて、
首にならないかどうかヒヤヒヤしてたみたいね。
ま、完全に地球圏を席捲するまでは安泰でしょうね、彼らも。

「──それでは、君たちも今まで通り励んでくれたまえ。
 これからのネルガルはクリーンで明るく最前線でやってかなきゃねぇ」

ナガレ君の締めの言葉で、重役連中は会議室を出て行った。
私たちも会長室に戻ると、ナガレ君は私が仕事に戻る前に相談を持ちかけてきた。

「クリムゾンの事だけど、木星と交信を断たれている可能性が高いが…。
 それはそれで何か攻勢に出てくる可能性もあるんだよね。
 暗殺だとかで」

「それはそうだけど…誰をよ?
 ナガレ君?それともアキト君?」

「さしあたってはホシノ君だろうけどね。
 あ、なんか近々ミスマル君になるみたいだけど」

「ぶっ!?
 む、婿養子になるのね…」

…あのミスマル提督の事だから、考えないでもなかったけど、急ね。
ま、あのホシノ夫妻のところに籍を置いておきたくないのは分かるけど。

「で、ラピスからも情報をもらってるけど、
 情報面では彼女の情報網を持ってすらも、そういう話をつかめないらしいんだ。
 例のPMCマルスの事務員を装った暗殺者の件もだけど。
 そうなると、いくらホシノ君が現時点で無事でも、
 手放しで喜んでいられないんだよねぇ、これが」

…そうよね。
結局、あの犯人は捕まってない。
たぶんクリムゾンの暗殺者である可能性が高い、くらいしか分かってないわ。
ラピスの情報によると、あまりに証拠がつかめない相手だとすると、
裏の世界で有名な『カタオカテツヤ』の可能性がある…って話になっている。
…でもそれも情報、状況証拠でしかないから確定情報じゃないし、本人も見つけようがない。
そうなると当然、何も安心できる状況じゃないわけよね。
ラピスの言っていた通りだわ。

「いくらラピスが凄腕でも、
 アナログだったりアングラすぎるとつかめないわけね。
 どうしたものかしらね」

「防ぐ方法も少ないし、感知する方法すらもないわけだからね。
 …あちらを刺激してタイミングをつかみやすくするのも一つの手だけど、
 そうなると今以上に敵対関係を作って危険になるだろう。
 ネルガルがクリムゾンを吸収できるのがベストだけど、制御できない敵を身内に抱えるのは、
 統合軍の失敗を鑑みればやめるべきだろうね。
 ホシノ君は嫌がるだろうし」

「少なくともクリムゾン家のコントロールがある限り危険よ。
 あの家がもともと月の独立派と縁が深い家系だから木星とのつながりがあるんだから」

「ま、それも破棄されていれば万々歳なんだけどね。
 …だからこそクリムゾンは表立って牙をむくかもしれないんだよね。
 最期の逆襲をするために」

火星の後継者との戦いの中で判明したことだけど、
クリムゾンのバリア技術の源流が木星トカゲの技術であり、
しかも木連が100年かけて火星の遺跡のロストテクノロジーを吸収する間、
その技術供与を受ける代わりに地球の情報を次々にクリムゾンは木連に送り続けた。
この点がなくなりつつあり、技術的に枯渇し始めたクリムゾンを早めにつぶしたいところだけど…。
あいつらだって黙ってないはずだわ。

「シークレットサービスには今も活発に動いてもらっているけど、資金不足だ。
 連合軍にエステバリスを本格的に販売するにはもう少しかかるし、
 ナデシコ級だって世間の期待もあって材料があつまるようになって早く作れてはいるが、
 それだってナデシコ出航後に出来上がりだ。
 かといってさらに増台しようにも、
 現状ではユーチャリスクラスの巡洋艦ですら重要な部品が手に入らない。
 …月が奪還できないことには、ね」

…かろうじて過去のナデシコ級戦艦の資材、そしてユーチャリス建造の資材はそろったけど、
これ以上は月を手に入れないとどうしようもない。
月で作られる特殊な金属がないとね。
歯がゆいわよね。

「ま、ホシノ君に長生きしてもらうには、まずは火星に行ってイネスさんを発見するのが先決だ。
 僕より強い本人を守るとか、クリムゾンつぶしよりはナデシコの準備を先行させないとね」

「…そうね、目立ちすぎてて逆に暗殺しづらいし」

とはいえ、限度はあるから…何とかなるといいんだけど…。
























〇???

とある特殊な暗号化されたプライベート回線に通話が開かれている。
軍の上層部の人間をも含む、かなりの大企業の要人、政府要人などが集まっている。

「おいっ!どうするんだ!?
 ホシノアキトを中心としてネルガルの力は増すばかりではないか!?」

「どうするもこうするも無理だろうが!!
 ネルガルは人体実験をしていたにも関わらず、
 被害者と和解してしまって、追い落とすこともできなかったんだぞ!?
 クリムゾンの時は、直接判明したわけでもないのに打撃になっていたというのに!!」

「クリムゾンッ!!
 大体お前のところが暗殺失敗するからいかんのだ!!」

「そうだ!!
 あの時点でホシノアキトが死んでいれば、我々が戦後の覇権を握れたものを!」

「木星からの技術供与がなくなって、
 さぞ困っているだろうなぁ!!」




「やめんかァッ!!」




クリムゾン会長が一喝すると、全員が黙り込んだ。

「…確かに覇権を握れぬ可能性が高くなってきたのは事実だ。
 しかし我々も仮に落ち目になったとしても逃れる手段はいくらでも準備しているだろうに。
 だが問題はそこではない。
 …それ以上の問題が起こっていることに貴様らは気づかんのか?」


「「「「「は?」」」」」



「…お前ら、娘や孫と最近話したか?」

「い、いや?」

「ネルガル対策で駆けずり回っていたからな…」

「ピースランドの国王を味方につけられそうだったが、
 それもひっくり返ってしまったし…」

「それがなんの関係があると?」

「…うちの孫娘がひとりな、ホシノアキトにほれ込んでしまってな。
 あのアーパーな孫娘でも要人の嫁に出させるなり、なんなり使い道があると思っていたが…。
 ……どうもホシノアキトにほれ込んでから見合いも何もしなくなってしまったらしくてな。
 それどころか元々大学を半分休学状態だったが、本当に休学届を出してしまっていたらしい。
 この調子だと婚期を逃すとかありうる…。
 最悪、その…家が続かなくなる可能性があると思うんだが…」



「「「「「はぅっ!?」」」」」




「…い、いやまさかうちの娘に限っては…」

「…お前の家、箱入り娘だったな。
 お前も歳が進んでからの結婚だったな、そういえば。
 ずいぶん可愛がったようだが…。
 箱入り娘ほど夢見がちで、一番入れ込みやすいタイプになるそうだが」



「んな!?」




「『世紀末の魔術師』に外に出してもらうのを夢見るようになったら手が付けられん。
 …息子だったとしても油断できんぞ。
 ホシノアキトファンの嫁を迎えいれようとして、
 ネルガルの敵対企業とバレたら破棄されるかもしれん。
 ……ネルガル系の企業にすべて取られるかもしれんぞ」



「「「「「なんだと!?」」」」」




「…とにかく、次の通話は…来週にするとして、
 一度確認のために各自の家庭に急いで戻れ。
 特に『世紀末の魔術師』ショー以降、世間の話題はそれで持ち切りだ。
 …いいな?」



「「「「「わ、分かった!!」」」」」




世界を動かす重鎮たち、死の商人…。
利益のために人の命を踏みにじり、木連に与する彼らでさえも…。
家族だけは弱点だったようで、
それを離れた場所から直撃するホシノアキトに脅威を覚え始めていた。































〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・元トラック待機場所現運動場──テンカワアキト

俺はこの炎天下の中、あいつらの攻撃から身を隠していた。
肩で息をしたいのに…そんな大きく呼吸したらあいつらに見つかっちまう。
どうして、どうしてこんなことになったんだよ!?
お、俺は別に何も…。



「いたぞ!いたぞおおおおおおお!!!」




「どわああああ!?」




やばい!発見された!!
俺の姿を見つけた…熟練、老練というのにふさわしい、中年、いや初老の男が銃を持って追いかけてきた!!


パパパパパパ!!




「どうしたどうしたー!
 反撃しないと勝てないぞー!」




「わああああだだだだやめてくれええええ!!!」





…エアガンとはいえ集中砲火食らったらめっちゃ痛いぞ!?
至近距離で遠慮なく撃ってくるんだもんな、ったく!!




「頑張らないとユリカお嬢様を守れないぞー!」



「うおおおおおお!!
 か、勘弁してくれーーーー!」



「ホシノアキト並みに強くならないと、
 お嬢様を嫁にもらえないぞーーー!」



「あ、アキトーーーー!
 がんばってーーーーー!」




遠くの仮設のやぐらで…ユリカは俺を応援している。
…どうやらこの人、ミスマルおじさんのお抱え運転手をしているそうで、
元陸戦部隊で、その後ミスマルおじさんのボディーガードとして長年働いてきて、
今は引退してドライバーをしているらしい。
で…俺がユリカと相思相愛になったと、ユリカから聞いたおじさんは、
俺をホシノ並みに鍛えようとしてこの人を刺客として送ってきたらしい。
…それだけならまだしも、この間PMCマルスを襲撃した特殊部隊の人たちまで、
ミスマルおじさんに声をかけられてノリノリで参加してきやがった。
本来エステバリスの教習に使うこの運動場を、
ものの一時間でサバイバルゲームのフィールドとして設営した。
特殊部隊の人たちはホシノに対する逆襲のつもりか本気で俺を襲っている。
…どいつもこいつも俺をホシノと重ねてんじゃないってば!!
実銃だったら何百回死んでるか分からないくらい撃たれてんだぞ!?

「一発くらい撃ち返してこい、若造ッ!」


……結局、俺はその日、眼を防護するためのゴーグルが割れ、
肌が露出してる部分が真っ赤に腫れ上がるまで戦う羽目になった…。



「ち、ちくしょーーーーー!




 ゆ、ユリカのバカヤローーーーーーッ!」






「頑張れ、テンカワ」




「頑張って、テンカワさん」






























〇作者あとがき

ピースランド編、後始末まで完了。
しかし、その余波は思いっきりいろんなところに影響を与えまくってるようで。
そして世間を騒がし、実は一部企業の重役にすら大ダメージが来そうな状態で…?
そんなことをしつつ、大丈夫かなぁと言いつつ大丈夫じゃなくなりつつあるアキトの境遇。
ある意味不幸属性続行!!
どこまで続く、ラピスプロデューサーの苛烈なるアキトプロデュース!!
巻き込まれたルリの運命は!?
ユーチャリスは果たして大丈夫か!?

これから恋に至る人生が始まる者、
恋がついに実りつつある者、
恋の先を行こうとする者、
恋が終わり次の命に自らの人生をかけようとする者、
恋すら奪おうとする者、
すべての人々の想いを乗せて!
ってな具合で次回へ~~~~~~~~ッ!!
















〇代理人様への返信
>楽しそうだなおまえらwww
>いやほんとにねえw

和製ピカレスクロマンはやはり楽しく明るく騒がしく、ということで。
特に今回はナデシコと比べて主要人数がほぼ倍なので、
戦力、おちゃらけ成分やギャグ成分、ラブコメ成分も倍です。
ええ、アキトが二人いたりするのも、それが目的ですとも!!!
ナデシコとユーチャリスの二隻で展開しようとしてるのもそのせいですとも!!!



>まあお父さんとも話が出来てめでたしめでたしかな。

ルリちゃん本人の希望もかなったし、
かつてルリちゃんだったユリの後悔も取り戻せて、まずは万々歳です。
意固地になって愛ゆえに変な方向に走り出す親というのは、
現実的には致命的な時も多いですが、なんというか愛しいですねー。


















~次回予告~

ども、テンカワっす。
なんか俺って本当に大変な目に遭うし、不幸が付きまとってる気がするけど、
あの副長のジュンってやつよりマシって聞くけど…マジか?

いや…ホシノ一家みたいな例を見ると、不幸って何だろうって気もするよな。
ホシノたちは幸せそうだし、その気になれば億万長者にだってなれそうだけど、
食堂を始める夢からはどんどん遠ざかってるし、厄介な目にばっかり遭っているし、
生い立ちが壮絶すぎて運がいいとはお世辞にも言えない。
とはいえここまで生き残ってるのは運がいいとも思うけど。

…俺、ホシノたちにに比べると能力的には並以下だから、
理不尽なことが起こると抵抗するのもきついんだけどな。

ま、まあいいや。
また追い回される前にさっさと次回予告だ。

次回はちょっと時間が経過するらしいっす。
いよいよナデシコの出航が近づいてきて、
PMCマルスの様子もだんだん様変わりしつつある中、
ホシノ一家もだんだんと家族らしくなってきたらしい。
お、俺もちょっとだけユリカと…い、いやそれはいいや。
けど、そんなホシノ一家に忍び寄る影、だって!?
…はぁ、あいつも大変だなぁ。
俺は巻き込むなよ、ホシノ。



いい加減さっさとナデシコを出せぇ!!と、もう一人のボクがささやく作者が贈る、
あらゆるものがダブルでツインなナデシコ二次創作、









『機動戦艦ナデシコD』
第三十五話:drawing card-人気役者、人気の出し物-







に……。


あ、サイゾウさん、出前っすね。
二丁目の佐藤さんち?
じゃ行ってきまーす。





















代理人の感想 
二十四時間戦えますか~。はまあ軍艦なら当たり前なんですが、ナデシコは子供が動かしてますからねえw
オモイカネというAIもいることですし。

しかし、クリムゾン他の敵対連合が悩むところがそこかい、とw
そう言えば時ナデってそう言うノリの話だったなw


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