〇地球・東京都・テレビ局・撮影スタジオ内──ホシノアキト

日本に戻ってから一週間ほどが経過した。
その間、PMCマルスは訓練に出撃に大忙し状態だ。
人員が十分いるというのは本当に助かる。
出撃も連戦がかさむ場合でもローテーションが組めるので、大分負担が減る。
日をまたぐ出撃も少なくないが、休息睡眠が問題なく取れている。
ルリちゃんかラピス、ハーリーくんが昼シフト、ユリちゃんが夜シフトで、
かなり長い間の戦闘継続も可能になりつつあり、とはいえ限度はあるのでちょくちょく佐世保に戻っている。
現在地球圏一の高速船でもあるユーチャリスはこういう点にも有利だ。
どんどん成長しているみんなのせいで、戦果報告の良さに驚く。
特にパイロット候補生のみんなの成長が著しく、
連合軍のパイロット訓練生の指導、対戦にも十分に対応でき始めている。
…で、そのせいもあって。

「ふっ…世紀末の魔術師の影武者としてはまだまだ甘いね。
 まぁ、及第点はあげようか…。
 …いつかは俺を超えられるかな?
 今は期待して待つとしよう…。
 では、さらばだ!
 
 
 

 はーーーーっはっはっはっは…!」
 
 

「はーーーい!カットォ!!
 お疲れ様ですっ!」



「アキトさんおつかれーっす!」



「ふぅ…どうも」

…俺は出撃不要ということになってしまい、またも芸能界に舞い戻っている。
これは眼上さんとテレビ局の人とも相談した結果なんだけど、
あまり出ないとレア度が上がりギャラが極端に高騰する…。
そうするとどうしても本業の人ににらまれてしまうということもあって、
時間が許す限り、負担のない程度で俺は芸能活動にいそしむことになってしまった。
…忙しさは開業資金を集める時よりはずーっとマシなんだけど、
それでも『世紀末の魔術師』関係の活動の多さに辟易する。
ラピスの見立ては本当にすごかったようで、スケジュールはぎゅうぎゅうだ。

で、今撮影していたのは『世紀末の魔術師の弟子』というテレビドラマの一幕だ。
なんと俺はドラマに実名で登場する羽目になってしまった。
俺の役どころは、

『芸能界のスターで、その傍ら突如いなくなってしまった妹を探すために怪盗をしていたが、
 妹を助け出すことに成功したので、怪盗を辞めた。
 しかしそれでも国際警察に指名手配されている『世紀末の魔術師』の影武者が必要になり、
 同じく死んだ父の真相を探すべく、不法侵入を繰り返していた少年を弟子にして、
 父の真相を探るのを手伝う代わりに、影武者として怪盗を続けるように頼む』
 
という、なんとも意地の悪い黒幕の役になってしまった。
しょっちゅう本当にテンカワに影武者を頼んでいる身だから間違っちゃいないんだけど。
しかし俺はこのドラマにほとんど出演していないというのに、良く企画を通したよな。
脚本と基本設定の作りを俺がピースランドから戻るまでに書き上げ、
すぐにラピスと交渉についたといういわくつきのドラマだ。
細かいところの設定は後々詰める形らしく、俺は最後にちょい役で出るだけの楽な役だ。
そして主人公を演じるは眼上さんのスカウトでデビューし、人気絶頂で一年のキャリアで俺より先輩、
弱冠17歳でアイドルとしてトップに君臨…するはずだった少年だ。
だったというのは『ホシノアキトという目の上のたんこぶ』がいるために、
俺がテンカワアキトとして生きた世界ではトップアイドルだったこの少年が第二位になってしまったからだ。

…うう、慕ってくれているように見えるけど視線の中に殺意に似た何かを感じるよ。
トップに君臨してくれていいから、このドラマで『世紀末の魔術師』の名前を盗んでくれ、頼むから…。

このドラマはまだ放映まで何か月かあるのに、すでに前評判だけで女性向け雑誌の話題を独占しているらしい。
本当に勘弁してくれ…。

「あ、スタッフのみなさん食堂に来てくださいー。
 俺が食事を作りますんでー」



「「「「「おー!!」」」」」




……俺はこの期に及んでまだコックで居る時間がほしくて、たまに食堂で働かせてもらっている。
テレビ局の食堂も外部からの割り込みは嫌がられるかと思ったが、
食堂のおばちゃんたちも俺と働けるのを喜んでくれるので、
何とか問題なく働くことが出来ている……無給だけどな。

「……料理バカ」

…ルリちゃん、一話の撮影だったから来てたんだよな、そういえば。


























『機動戦艦ナデシコD』
第三十五話:drawing card-人気役者、人気の出し物-その1




























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・元トラック待機場所運動場──ヒカル

今日はユーチャリス班のみんなの出撃日だから、私たちは本社居残り。
ユーチャリス班の出撃時には教習上位成績者のグループと、最下位のグループが実地教習で小隊出撃する。
で、居残り組は教習と観戦。二班居ると楽だよね~。
エステバリス教習は三時間で終わり。あとは教養を一~二時間自習。
私達は教習だけで、勤務的には半ドンなので終わった私たちは暇を持て余して食堂でだらけている。
もう真夏だもんね~表に出たくないよね。
それにしても…。

「リョーコ、すごいことになっちゃったよね」

「ったく…なんで女からファンレターもらわなきゃなんねんだよ」

リョーコは呆れるように山のように送られてくるファンレターを見ていた。
それでもちゃんと読んであげるあたり優しいんだよね、リョーコって。

「やっぱりぃ~、
 競争率の高いホシノ君じゃなくってリョーコのほうが好きになっちゃう子って多いんじゃない?」



「そもそも女に好かれるのは心外だってんだ!!
 オレは健全な女子だっての!!」




「…リョーコ、あんたって意外と女子だからね。
 そのカッコのせいで色恋沙汰には不自由してる方だけど」

「うるっせぇな、カッコは自由だろ!!」

イズミちゃんもからかうけど、ちょっと静かね。
まあ、この状況じゃからかう気にもならないかなぁ~。

「よ…よぉスバル…」

「あン?なんだよナオ」

ヤガミさんが顔を真っ青にして現れた。
どうしたんだろ、その段ボール。

「…スバル、お前、女子からファンレターもらってるか?」

「…そだよ。
 それがどうしたんだよ」

「俺も…熱烈に男からファンレターが届いててな…この量だ。
 一人くらい女の子から来るかと思ってたのに、なんでこんな…。
 しくしく…」

…なんていうか、まっとうに異性を好きになるタイプはホシノ君によってっちゃうみたいね~。
まあヤガミさん、体格が良くて、この間のガンマンのコスプレの時は付け髭でダンディさ増してたし、
そういう層にはピッタリ来ちゃうんだろうね~。

「どんまい、ナオさん~。
 きっといい子がお嫁さんに来てくれるよぉ」

「そういえばヒカル、あんた締め切り近かったんじゃ」



「あ~~~~~~~!そうだったぁ!!
 イズミちゃんありがと!
 わ、私ナデシコに帰るね~~~!」




いっけない、私も『世紀末の魔術師』の作戦で使ったコミックスをディスク特典にするからって、
ページをあと40ページも増やすことになってて、ペン入れがまだ済んでないところがあるんだった!!
プロを目指すなら締め切りは守らないとね!!


























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・仮説住居施設──アリサ

…ふう。
最近の出撃は結構ハードな場面が多いわね…。
この間はチューリップが二つ、しかも片方が大型ってことで敵も駆逐艦クラス、巡洋艦クラスのサイズが現れて…。
かろうじて全員ほとんど損傷なしでもどれたけど、運が良かっただけよね。

…私はほとんどもう訓練を『させる側』になりつつあって、
連合軍パイロット訓練生のみんなを引っ張る立場になっている。
エステバリス運用についてはまだちょっと勉強が必要だけど…かなりクセも強いのがエステバリス。
空戦エステバリスが重力波ビームをリフレクトして地上のエステバリスに給電することができたり、
工夫次第では戦術の幅がかなり広くなるというのも分かってきた。
でも、目下の問題は『グラビティブラスト搭載艦』の不在。
重力波ビームは発生装置を積んだ戦艦やトラックで代用できるけど、チューリップ撃破にはやはり手間がかかる。
物量攻撃の前にはやはりエステバリスのみでは厳しいところがあるわよね…。
…ちょっと売店で飲み物でも買おうかしら。外の自販機前に行くのはちょっと暑いし。、
最近、ユーチャリスクルーの待機場所として作られたプレハブ住居を、
まだユーチャリスクルー本採用前なので私達も使っていたりするわけで。

「はい、いらっしゃい」

「あ、すみません。
 アイスティーお願いします」

「はい、110円ね」

「は…」

…!?



「む、ムネタケ提督!?」




「あら、アンタ、グラシス提督の孫娘の…」

「あ、アリサです…どうも…」

私はアイスティーのペットボトルを受け取ると、まじまじとムネタケ提督を見てしまいました。
い、意表を突かれました。
まさか…ムネタケ提督がエプロンをつけて売店のおばちゃんみたいなことをしているとは。
…そういえば、私達はパイロット訓練生ってことで出撃や訓練がない時は、
各自で自習や鍛錬を積んだり、レクリエーションに出掛けたりすることが多いわけですが…。
…そういえば、ムネタケ提督は私たちと同じでPMCマルスに出向の形になっているんですよね。
連合軍から派遣されているとはいえ、業務内容はすべてPMCマルスもしくはネルガルに従う形になっています。
とはいえ…。

「しかし、なぜ売店で働いて…」

「ふつうに頼まれたのよ。
 戦艦運営はともかく、大所帯になって会社の規模が膨らんでいるでしょ。
 会社内でも売店がないと不自由するから兼業で補うってことになったの。
 …私も最初は断ろうと思ったんだけど、
 私達提督って戦艦降りちゃうとやることないのよ、連合軍上司への連絡くらいはするけどね。
 それにPMCマルスでは兼業が当たり前らしいじゃない?
 ホシノ会長やテンカワが食堂で働いたりしてる手前、断りづらくてね。
 だから私も時間短めだけど、こういう仕事をするのもいいかと思って引き受けたの」

そ、そういうことですか…。
…な、何かピースランドの時といい、意表を突くようなことをしていますが、
ムネタケ提督は色々試しているんですね。
まさか連合軍の提督がパートタイマーとして売店で働くなんて…。

「けど参ったわよ…。
 どの仕事が向いてるかって色々試したんだけど、
 清掃も、経理も、事務職も、生活班の仕事も、全然ダメ。
 事務の方は書類仕事の経験があったからいけると思ったんだけどね。
 自信なくしちゃったわよ、本当に。
 で、結局売店でのほほんとやってるのが一番向いてるみたいでね…。
 こうして本なんか読みながらのんびりやってるのよ」

…なんていうか老後のセカンドライフ感のある仕事模様ですね。

「今日はミスマル姉妹が二人で出てるそうだから、
 フクベ提督もお休みで、こっちで働いてるわよ」



「フクベ提督まで!?」























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・格納庫

フクベ提督はつなぎにランニングシャツ姿で、滝のような汗をながしながら、
ラピッドライフルの巨大な弾丸を虫眼鏡で見ながら状態を確認していた。
そして磨いて、箱に戻す。
ただそれだけを黙々と繰り返していた。

「フクベ提督ー!ちょっと涼んだ方がいいですよー!
 熱中症になっちゃいますよー!」

「む、すまんなシーラ班長。
 どうも年を取ると気温に鈍くなってしまうからな」

「しかしフクベ提督が整備班にくるとは思いませんでしたよ」

「いやあ、私も若いころは色々とやらされたものだ。
 この100年ほどはオートマ化された艦がほとんどとはいえ、
 激戦で人員が足らなくなってくると、尉官クラスでも整備に駆り出されることは多かったのだよ。
 小さな仕事でも塵も積もれば山だ。人手が足りない時は助け合い。
 私も現場のたたき上げで運よく偶然出世した方だからなぁ」

「へー!」

「まあ、専門的なところまでは出来んし、コンピューター調整もできん。
 整備といってもせいぜい油をさすとか、機体を磨くとか、弾を見るとか、その程度しか出来んが…」

「いえ、助かりますよ。
 おっしゃるとおり、チリツモです。
 それにこういう地味で細かい仕事って結構嫌がる人多いんですよ。
 しかも私、見ての通り小娘ですんでおじさまたちが喧嘩しちゃうと止めらんないですし。
 この間、仲裁してくれて本当に助かりました。」

「そうかそうか、この老体でも少しは役に立てておるなら、結構なことだ。
 私もこういう若者ばかりの職場で下働きするのは新鮮で楽しいしな。
 おっと…スイカを冷やしてあるんだ、みんなで食べないか?」

「いいですねー!ぜひぜひいただきます!
 ありがとございまーす!」































〇地球・ロシア圏上空・ユーチャリス・ブリッジ──ユリカ

私達ナデシコ班は、極東地方で転戦していた。
グラビティブラストの閃光が、チューリップもろともバッタを消滅させた。
本当にすごいね、グラビティブラスト。
一方的に、敵のグラビティブラストをねじ伏せる威力がある…。

「ユリちゃん、残敵は?」

「ありません。
 エステバリス隊、撤収させますか?」

「うん、大丈夫だと思う。
 エステバリス隊のみんなを収容したら、
 ディストーションフィールドを強めにして次に行くよ」

「了解です。
 メグミさん、伝達お願いします」

……うん、連戦だったけど何とかなったね。
でも、なんだろう…『違和感』がない。
ユリちゃんがオペレーターだと、ルリちゃんが居る時と何一つ変わらないような…。
そんなしっくりくる感じがする。
ルリちゃんとは訓練の時にずっと一緒にやってきたけど…。
ハーリー君が居る時は結構違う感じがするんだけど…。
…確かに似てるよ?ルリちゃんとユリちゃん。
こんなに…姿かたちが似ていて…。
でも性格っていうかしゃべり方や癖まで近いんだもん。

まるで昔『ルリちゃんそのものだったかのように』ふるまう瞬間すらあった。

ルリちゃんと一緒に育った、親も同じだった姉妹なんじゃないかって思うくらいに…。
ありえないことだけど…ううん、気のせいだよね、きっと。
そんなことを考える必要ないよ。
仲良くなれる二人が出会えただけ、それでいいじゃない。
今はいろんな組み合わせを試して、火星に向かうときのベストな組み合わせで行けるようになろう。
ラピスちゃんとはまだ私は組めてないし。

……そういえば、誰が地球に、ユーチャリスに残るんだろう。
ユリちゃんも、ルリちゃんもラピスちゃんも、アキト君が木星に行くとなればついていくよね。
かといってハーリー君だけじゃとても…。
今からでもアカツキ会長に掛け合っといたほうがいいかも…。
ううん…。

「ユリカさん、どうしたんです?
 最近ぼうっとしてるってジュンさんぼやいてましたよ」

「う、ごめんねユリちゃん。
 ちょっと火星に行く時、ユーチャリスは地球に残すでしょ?
 その時オペレーターがハーリー君だけじゃ困るかなって…」

「…そういえばそうですね。
 できればルリかラピスを置いていきたいところですけど、
 二人とも嫌がりそうですよね」

…だよね。
ユリちゃんはアキト君についていかないって選択肢ないだろうし。
一刻も早くナノマシンの専門家にアキト君は見てもらわないといけないから、
アキト君とユリちゃんだけ残ってもらうっていうのも無理だし…。

「ユリちゃんはどう思う?」

「私は…ルリを地球に残したい気持ちがあります。
 ピースランドの家族も、あの火星にルリを行かせると話したら無理にでも止めるかもしれません」

「うん、そうだね。
 私達はお父様にちゃんと許可貰えたけど」

お父様は火星に行くという話を聞いても、止めなかった。
アキト君のため、ユリちゃんのため…だもんね…。
アキト君に絶対、長生きしてほしいもん。
…そのために私達が危険な目に遭うかもしれないって思っても、やらないわけにはいかないよ。

「アキトさんたちと相談の日取りを合わせましょう。
 ちゃんと時間をとらないとどうしようもないと思います」

「うん、わかった」

話しても決着しないかもしれないけど…。
いつかは決めないといけないもんね。

「そういえばぁ、ユリユリは芸能界に関わらないの?」

「…私まで出払ったら誰がPMCマルスを仕切るんですか。
 マネージャーは前やってましたけど、私が必要以上に芸能界に出る必要はありません。
 そもそも私はあの三人みたいに特殊な見た目というわけでもないですし。
 一般の経理やら事務職、訓練はともかく、重要なことは私がやらないと…。
 移動時間も書類仕事たくさんあるんです」

あ、そっか。
だからちょくちょくハーリー君に任せて抜けてるんだ。
……ちょっとくらい手伝いたいけど、ユリちゃんは私に出来るだけ余裕を持ってほしいと断るんだよね。
私が専業で艦長さんやってるほうが色々いいんだろうけどね。

































〇地球・東京都・テレビ局近所の焼肉店─ルリ

私たちはドラマの撮影が終わり、午後にはまた別の仕事を入れられてしまって、
その前に食事をということで、食べ放題の焼肉店に来ました。
今日はアキト兄さん、ラピス、私、眼上さん、そして重子さんが一緒に居ます。
ラピスはマネージャーとしての実力は十分ですが、
まだ12歳なので番組プロデューサーに侮られることがあります。
そこで年齢不詳で静かで威圧感のある重子さんがラピスのサポートとして組むことになりました。
…不本意ですが私も半分芸能人になってしまったので、そういう意味でも一人より二人の方が助かりますし。
それにしても…。

「がつがつがつがつ…」

「もぐもぐもぐもぐ…」

「あ、あのラピス?
 アキト兄さんに合わせて食べなくてもいいんですよ?」

重子が肉を補充するそばからアキト兄さんとラピスはがつがつと食べまくっています。
アキト兄さんは童話アニメのような大盛りのごはんを三杯も並べて、すごいスピードで消化していますし、
ラピスはそれには負けますが、それでもすでに成人男性5人前は食べています。

「なぁに言ってるのルリ!
 私たちアキトほどじゃなくてもナノマシンの体内保有量が多いんだから、
 たっくさん食べないと大きくなれないよ!!
 普通の人だったらぶくぶく太るくらいの量を食べないと!!」

「け、けど…」



「ルリ!
 ユリカやユリみたいな体になりたかったら食べるしかないんだよ!
 ルリのお母さんだって結構いい体してたでしょ!!
 遺伝子的には素質あるんだから、
 いっぱい食べていっぱい寝て、運動して、健康に育たないと!!
 数年後後悔しちゃうよ!!」




な、なんか未来でも見てきたかのような言葉ですね。
でも…言われてみてユリ姉さんとユリカさんの姿…そしてしっかりした体つきの母の姿を思い出しました。
そういえば、私って食生活が雑だった育ての両親に長いこと育てられて…。
背も今一つ伸びてないですし、すんごい華奢です。
…ナノマシンに、そしてあの育ての両親にまた何か希望を奪われる気がしますね、このままでは。
憧れのユリ姉さん、ユリカさん、そして母に…少しでも近づきたいです。
それにラピスの遺伝子はユリカさん譲りです。
順当に育った場合、ナイスバディになるはずで…。
私はこのままだとその隣に立った時、貧相になるのは間違いないです。
……姉妹の中で唯一貧相なんて嫌です!耐えられません!

「…それもそうですね。
 私も食べます。これまでの遅れを取り戻しましょう!」

「そーそー!
 どんどんいこう!!」

「…重子ちゃん、ごめんね。
 焼いてばっかりで」

「いえ、全然。
 幸せ感じてますから。
 こんな役得、マネージャーに任命されないとできないですし」

「相変わらず食べるわねぇ、アキト君」

眼上さんがニコニコして私たちを見ています。
重子さんはというと、自分は冷麺を頼んで肉を黙々と焼いてはひっくり返してます。
それを私とアキト兄さん、ラピスが一方的にかっさらってます。
…なんていうか、マネージャーというかお世話係ですね。これでは。
眼上さんもほどほどに食べた後は私達の食事を見守っているだけです。

「はぐっ、はぐっ。
 どうもなれないことしたり緊張状態が続くと腹減っちゃうみたいで。
 ストレスもちょっとありますけど、午後はまた動きますし、食べとかないと。
 がつがつがつがつ…」

……結局、アキト兄さんは20人前の焼肉と10杯の超大盛ご飯を平らげ、
私とラピスもそれぞれ7人前は食べてしまいました。
さ、さすがにおなか突っ張っちゃいますね…。
私はもう撮影がないのでいいんですけど、アキト兄さん全くおなかが突っ張ってませんね。
…消化力、強化されてるんですか?
それともハーリー君も大きくなるとこれくらい食べるんですかね?























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・事務室──さつき

──私達は、生まれて初めて死地に赴いている。
重子を除く11人全員が、死を覚悟してこの場に臨んでいる。
初出撃の時でさえ、ここまでの緊張感を感じはしなかった。
というのも、それもこれもすべて…。



「「「「「「「「「「「終わんないよーーーっ!!」」」」」」」」」」」




ユーチャリスクルーとして募集した契約社員の履歴書は…全国からまさかの500万通に及ぶ、超ボリューム。
私達は通常業務に加え、この一週間ほどは常に3~4時間ほど残業してこの書類たちに目を通している。
…しかもこの作業はあくまで「地雷除け」で、
義務教育が済んでいない年齢があまりに低すぎるのに社研を受かっていない人、
明らかにNGの見た目をしている人、経歴が危ない人、技能があまりに向いてない人、
などをあらかじめ本選考前にはじく作業でこれだけかかっている。
…単純計算だけど、10秒で封筒を切り、内容を確認して振り分ける作業を終えるとして、
三時間あったとしても一人頭1080通しか見られない計算になる。
つまり一晩で11880通しか見られない。
これをすべて見ようとした場合、500日近くかかっちゃうわけで…。
もちろん私達だけじゃなく、整備員のみんな、ナデシコ班のみんなにも頼んでるわけだけど、
それでも私達ほど時間を取ってもらえないので、一日当たり一時間程度もらうので限界。
それでも82800通程度…。
合計で94680通…それでも50日はかかるわ…。
な、ナデシコが出港するよりは早いけど、それでできるのが地雷除け…本選考はまだ。
もうネットで公募してもらうんだったかしらね…。
…重子、ラピスちゃんの指名だったとはいえ、
一人この仕事を抜け出してわれらが『アキト様』の、マネージャー見習いになるなんて恨めしいわよ…うう…。

「みんな!頑張るわよ!!
 あの『世紀末の魔術師』写真に誓ってやりきらなきゃ!!
 足手まといにはなっちゃだめなんだから!!」

青葉の檄がとんできて、私達も少しだけ持ち直してまた作業を始めた。
アキト隊長の地雷をよけるくらいは私たちもしないとね。
でも…はぁ。
残り1000人まで絞った後、最後の最後で頼らなきゃいけないのが…。
その当の重子の「占い」だもんね…・
…占いで人事なんてしたくないけど、事務員さんの件を占いで見抜いた。
占いが外れたのを見たことないもの…。

……ユリさんには絶対言えないんだけどねー。























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・食堂──ホシノアキト

俺たちは食堂で話し込んでいる。
一度佐世保に帰れたのは良かったんだけど……参ったな。
二週間…途中でルリちゃんはユーチャリスに戻ったんだけど、
結局俺とラピス、重子ちゃんと眼上さんはずーっと芸能活動を続けていた。
ドラマの撮影の方は俺の出演パートは一応終了して、あとはその都度必要になったら呼ばれるらしい。
スペシャル特番では俺もしっかり怪盗パートを撮影することになってしまい…。
演技下手で断り続けていたドラマの出演まで決まってげっそりしている。

だが、それ以上に俺を消耗させたのは『火星航路で誰が地球に残るか』会議だった。
俺もほぼお飾りといえど会長で戦闘技術の指導者だから、
芸能界ばかりにかまけてられないので、3、4日佐世保に戻ってくる必要があった。
休養、みんなの様子をみたり、そしてこの会議のために。
はっきり言ってしまえば、『家族会議』だ。お義父さんだけいないけど。
俺とユリちゃんはピースランドのご両親を心配させないためルリちゃんに残ってほしいと提案したが、
ルリちゃんはかなり反発してきた。

「それ言ったら、ユリカさんだってユリ姉さんだって一緒です。
 理由にするにはちょっと薄弱です。
 私もアキト兄さんの力になりたいんです」

ルリちゃんはピースランドでの出来事があったからこそ、俺の力になりたいと申し出てくれた。
ラピスは俺にどうしてもついていきたいが、ルリちゃんの事を真剣に考えており、
ナデシコに乗る権利を譲るかどうかを悩んでいた。
それ以上にラピスが悩んでいたのは…。

「…私、アキトともルリとも離れたくない。
 アキトは今の体の状態じゃ、いつ急変するか分からないし…。
 かといってアキトとユリは離しちゃだめだし。
 ルリだってユリとは離れたくないよね。
 …でも地球に残るのがハーリーだけじゃダメだし」

「じゃあじゃあ、普通のオペレーターでも扱えるようにユーチャリスのほうを改装しようよ。
 結局連合軍に預けるわけだし、ハーリー君だって今はまだ…」

俺がユリカ義姉さんの意見に頷こうとしたところで、ユリちゃんとラピスが猛反対した。

「ダメです。
 オモイカネシリーズが搭載されている艦は普通のオペレーターが扱うと、能力が半減します。
 火器管制、フィールド制御、レーダー管理そのほか多岐にわたる管理…。
 普通はこれをそれぞれ別の人間が担当して各個で集中して行うのが通常ですけど、
 これをオペレーターを介して管理OSに艦長の判断をダイレクトに伝えられるのが長所なんです。
 その伝達スピードは通常の戦艦の数倍から十数倍です。
 この速さ一つとってもユーチャリス、そしてナデシコは驚異的な艦なんです。
 艦隊規模をユリカさんが指揮する場合ならに不利になる場合もありますが、
 依頼を受けて駆けつけるユーチャリスと、単独で火星に向かうナデシコでは必須です。
 
 …例の『ワンマンオペレーション構想』の被害者としては否定したいことではあるんですが」

「そうそう。
 グラビティブラストとディストーションフィールドの影に隠れて見落としがちだけど、
 規格外のスピードで動けるから強いんだよ、オモイカネシリーズ搭載のナデシコ系の艦は。
 ふつーのオペレーターを乗せたマシンチャイルドなしだと、
 その判断スピードの遅さに付け込まれてフィールド管理がうまくいかなくて、
 下手すりゃあっさりどっかーん。
 いろんな計算もかなり早くできるオモイカネシリーズだからこそ、
 強みを発揮できるんだよ。
 
 …逆に言うとそれが致命的な欠陥ではあるんだけどね。
 だからこそオペレーターの人員はできれば二名以上が好ましいの。
 でも遺伝子操作は今後、相当批難の対象になるから、マシンチャイルドは増やせないし。
 だからきっとこの木星との戦争で打ち止めだよ。
 そうしなきゃ私達は一生ナデシコ系の艦にしばられちゃうし。
 もっとも、もっと別のシステムでオモイカネを操れるようになれば別だけど」

「あ、そっか。それじゃダメだよね。
 今はユーチャリスやナデシコが必要だけど、
 私はともかく、三人とも戦艦に乗りたいわけじゃないもんね」

「そうそう。
 まったく、ルリ一人に全部押し付けようとしてたネルガルの頭の悪さに参っちゃうよ。
 成功例が少なかったとはいえ、ねぇ。
 一応、このアイディアはアカツキと相談はしておくけどね」

その通りだな…。
電子制圧の実験も兼ねていたとはいえ、ネルガルも無茶な計画を通してたな。
過去ではルリちゃんとハーリー君、そしてラピス以外はマシンチャイルドとしては見つかってなかった。
秘匿されている人数はもっといたかもしれないが、死滅していた可能性もある。
だが、そういえばそうだった…オモイカネ級コンピューターに依存して居る限り、
マシンチャイルドはどうやっても戦艦から降りられないのかもしれない。
お義父さんが頼んだとはいえ、ルリちゃんがかつて連合軍に在籍していたのも、
そういう理由があったのかもしれないし……いかん、そこまで考えが回らなかった。
だが…。

「いや、そう考えると…。
 俺とユリちゃんがそのまま研究所を抜け出せたことに納得がいかないな。
 監視はなかったし、失敗作扱いだったみたいだけど」

「あ、それは私が入院中に研究員の人と話して聞いてあるの。
 私とアキト、ユリが居た研究所って、実は完全に壊滅してることになってたの。
 エリナたちが再度探そうとしなかったら見つからなかったかもしれないんだって」

…なんだって?
だから過去の世界ではなかったことになっていたのか…?
いや…そうなるとラピスがあの研究所出身だったことの説明がつかない。
あの世界でのラピスは出所不明というわけじゃない。

「待ってくれ、それだったらなおさらおかしい。
 ネルガルからの資金提供がなければ研究なんてとても…。
 それに失敗作扱いでもオペレーター訓練をすれば、
 かろうじてルリちゃんの予備くらいには…」

「そう、そこなんだけど…。
 どうもあの研究所は壊滅したことにして、秘密裏に別の出資者が買い取ったんだって。
 ネルガルから奪って、マシンチャイルドの『製造』を容易にして売り込めるようにしたかったみたい。
 本当はアキトとユリが出て行った後も監視をつける予定だったんだけど、
 その手続きの最中にまさか本当に襲撃して壊滅の憂き目に遭ったわけね。
 出資者もその中で亡くなって、あとは残った出資者のお金を使ってほそぼそと研究を続けてたの。
 だからネルガル出資で始まって、横取りを企てた研究所の所長と出資者が死んで、
 研究所のわずかな生き残りがかろうじて研究を続けて宙に浮いちゃってたわけ。

 因果応報っていうかなんていうか…。
 かといって研究員たちは自分たちからネルガルに言おうものなら何をされるかわからないし、
 研究も続けたかったから言い出せずだらだら続けちゃったみたい」

…冷や汗ものだな。
俺もテンカワアキトとしての記憶を持ったまま、ホシノアキトの中で眠り続けていたわけだからな。
ちょっとでも研究所を出るタイミングがずれていたら死んでいたかもしれないし、
ネルガル管理のままだったら研究が続いてナノマシンのオーバードーズで死んでたかもしれん。
ルリちゃんの予備として控えることもなくな。

「そんなこんなで当時の状況を正確に把握できている人は残ってなかったわけね。
 生き残った研究員たちはもともと下っ端で詳しい内容までは知らなかったみたい。
 この間ルリの育った施設の元職員みたいに、
 ちょっとだけ生き残った人がたまたま知ってるくらいのレベル。
 …もっとも、ライバル企業との情報戦争中にほぼ死んじゃったみたい。
 アカツキたちもそれは保証してくれたよ。 
 
 ま、私も下手したら売られてたかもしれないほうだし、
 本当、いい気味だよ」

ラピスはひょうひょうと言い放つ。
やっぱりただ事じゃないので、ユリカ義姉さんは黙り込んでうつむいてしまったが。

「そう考えると…アキト君って本当に奇跡的に生き残ったんだね。
 元々すごい大けがをして、しかもオペレーター向けのナノマシンまで入れられて、
 致死量のナノマシンを持ってても普通に生活できるようになってるんだから…」

「ユリカさん、あまり気にしないでも…」

「ううん、大丈夫。
 ちょっと、辛いけど…みんなのほうがずっとつらいだろうし」

ユリカ義姉さんは眼に涙を浮かべながらも、顔をぱっとあげてにこっと笑った。
…こういう強がりをさせたくなかったんだけど、生まれは変えようがない。

「でも…どうしようか…」

「はい…」

この後も喧々諤々の会議がつづいたものの、
…結局この日、誰が地球に残るかは決まらなかった。
決めようがなかった。

全員、離れたくないんだ。

個人的な意見を通せるとしたら『全員火星に行かない』と言いたいんだ。
それでも…全員が俺を助けようとしたいと思い、俺も生き延びたいと思っている。
行かないわけにはいかない。
もちろん、今度こそ火星の人々を助けたいという気持ちもある。
未だに消息が分からないイネスさんの安否も気になるし。
とはいえ…互いに想いあっているからこそ、結論の出しようがなかった。
俺たちは望んで家族関係を結んだものの、かえって裏目に出てしまったか…。

ひとまず、この件は保留することにした。
家族間の話し合いはともかく、今は七月中旬で時期的にナデシコ出航まで二ヶ月半程度ある。
地球から火星に向かうのも前回の世界から時期をずらさない予定なので、それも含めれば四か月半だ。
この期間ならマシンチャイルドなしでもユーチャリスをフルに活用できる方法を模索するのも不可能じゃないので、
アカツキともこのあたりは話し合うべきだろうしな。
俺とユリちゃんは自室に戻ろうとしたが…。

「あ、アキト。
 ちょっと営業のお話があるんだけど」

「げ…」

「げ、ってなによ」

「…スケジュールにない営業で、話し合いがあるってラピスが言う場合、
 ロクでもないのが飛んでくるからな…」

「ひっどーい!
 私、嫌がるかもしれないって分かってるからちゃんと話すようにしてるのに!!」

ラピスはひどく憤慨した様子で俺を見ているが…やっぱりロクでもない話ではあるらしい。
案の定じゃないか…。

「かくかくしかじか、でね、
 佐世保で『世紀末の魔術師』の再演やるってことなの」



「げぇっ!?
 お前それ受けちゃったのか!?」




「しょーがないでしょ。
 アキトは佐世保が生んだスターなんだから。
 あ、一応PMCマルスも花火大会に出資する予定だしユリが了承してるよ。
 出資も『世紀末の魔術師』の再演もどっちの件も。
 ギャラはもちろんなしだよ。
 アキトにギャラ払える自治体なんてあるわけないんだから」

…ラピスのいうことには、佐世保市長に夏祭りで『世紀末の魔術師』を演じてほしいと頼まれたらしい。
しかもノーギャラ。にも関わらずラピスは二つ返事で頷いたらしい。
俺もホシノアキトとしてはずっと佐世保住まいで、この土地には前の世界でも愛着があるわけだけど…。
まさか地域に貢献するための活動をしなきゃいけなくなるとは思わなった。
…何しろ俺ってほとんど会社にこもるか芸能界に出てるかどちらかだから、
町内会やらなんやらには出たことが全くない。ユリちゃんに投げっぱなしだ…。
で、このツケが回ってきたわけだな…。

「な、夏祭りくらい普通に楽しみたいんだけど…」

「子供じゃないんだから今年はあきらめてよ。
 本当は24歳でしょ、アキト。
 さっさと戦争終わらして、来年なり再来年なりあるでしょ。
 それにアキト今の状況で『普通に』楽しめるってありえるわけないし。
 だから今年のお祭りは全部スケジュール埋めちゃうよ」

「お、俺って…」

最近、仕事を全部ラピスに握られてしまっているな…。
マネージャーが眼上さんとユリちゃんだった時は、俺に仕事を受ける可否や交渉の余地があったんだが、
ラピスが仕事を握ってからは全くそういう余地がない。そして俺自身も全く断れない。
俺が情けないのが半分、ラピスの仕事に断れない理由をしっかり作ってもってくるのが半分だ。
今回の件も、交渉するとしても『世紀末の魔術師』という題材を断ることくらいはできるかもしれんが、
粘られて粘られて最終的に押し切られたかもしれない…どっちにしてもやることにはなったかもしれないな。
断る理由が薄弱すぎる。芸能人にあるまじきよわっちい理由だからな…。
い、いや…それでは俺もユリちゃんも報われなさすぎる…。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…。
 夏祭りは二日あるだろ、一日だけは許してくれ…」

「そー来ると思って、実は一日目の方は空けてあるよ。
 だから出てもらっていいよね?」

「う…わ、わかったよ…」

…や、やられた。
全部読まれていたのか…。
ラピスは俺が祭りを全部スケジュールで埋めると脅しておいて、
俺にあえて抵抗させて、妥協案を準備しておいて妥協しやすいようにしておいたのか…。
うう……気遣いがあるだけ有情だけど、こうもあっさり操られちゃうとホント情けなくなってくる…。

「一日目は気合入れて変装と警護してあげるから、
 水入らずでイチャイチャすればいいでしょ。
 だーかーらー、二日目の方は死ぬ気でがんばってね♪」

「お…お手柔らかに…」

……はぁ。
げ、芸能生活が続く限りこのラピスの容赦のないマネージャーぶりが続くということか…。
勘弁してくれ…。

…しかし。



やっぱり、気になるな……ラピス。

























〇地球・東京都・ネルガル本社・会長室──アカツキ

……シャレにならないね、ホシノ君。
元々、芸能界出身で、エステバリスを扱わせたら右に出る者のないエースパイロットってだけでも、
本当に英雄扱いされてはいたんだけど…。
今回、『ある意味王子様』と『怪盗』って属性まで付与されちゃったもんだから、
日本のみならず全世界的に人気がでちゃったんだよねぇ。
映像ディスクの予約枚数だけで全世界1000万枚超えっていうのもすごい。
ショーの映像でこれだったら映画俳優になったら本当に大変なことになるだろうねぇ。
僕の方にまで「アキト様の親友でしたらぜひお会いさせてください!」って、
方々の財閥のお嬢様、そしてお嬢様の家族から次々に…。
こいつは一晩でもホシノ君に来てもらわないと色々困るよねぇ。

「…アキト君、大変よね」

「全くだよ。
 こんな調子で火星までたどり着けるかな」

「たどり着いてもらわないと困るわよ。
 …現状、アキト君を生かしたかったら火星にいくか冷凍睡眠くらいしかないんだから」

そうなんだよねぇ。
…しかし、本当に彼って敵なしだよ。
というかこの調子だと木星側が人間と判明しても徹底抗戦したいと言い出すかもしれないねぇ。
やりすぎないように気を付けるというのも無理があるし、ねぇ。

「そういえばエリナ君、クリムゾンの動きについて、
 細かいところは分かったかい?」

「一応ね。
 …ちょっとあんまりよろしくない内容だけど」

僕はエリナ君の送ったメールで内容を確認した。
…これは?!

「こ、これ本当にやってるのかい?」

「ラピスにも裏を取ってもらったわ。
 マジみたいなの」

…クリムゾン、なりふり構わないとは思っていたけどここまでとは。
まず、ステルンクーゲルも性能が半分で値段が半分以下の機体として出したけど、
これは売れ行きが振るわなかった。
元々戦後に出す予定だった機体だから技術集積が今一つなんだよねぇ。
クリムゾンもこの世界ではすでに落ち目手前だし。

で、どうしたかっていうと…。
割り切った仕様の機体を、安価で販売するという手を取ったわけだ。

『ステルンクーゲルmini』という、
エステバリスのさらにハーフサイズの4メートル以下の小型な機体。
値段に至ってはエステバリスの10分の1という破格の機体だ。
この値段をはじき出し、勝機を見出すかというと、現状の戦闘機での戦いを、
さらにえげつなく、再現しようというというコンセプトで作られている。

フィールドはどうせつけるのが大変なので、装甲すらケチり、
一撃でも喰らえば動けなくなる可能性が高いならと、
バッテリー駆動を諦めて、爆発する可能性があっても燃料駆動にして、
歩行機能はあるものの複雑な制御を投げ捨ててずんぐりむっくりに仕上げ、
それを補うためのローラーダッシュを装備。
内部もIFSですらない、ペダルとレバーで操作、ある程度脳波を使い、
スコープを使って顔を動かして照準を合わせ、コンピューターで補佐。
そうするとある程度エステバリス並みに照準が合わせられる。
さらに同じ口径のライフルがあれば、ひとまず戦力にはなり得る、と。
これを数をそろえて運用することで、単騎ではエステバリス以下でも、
消耗戦にも耐えうる戦力を作る、というコンセプトだ。

…ぶっちゃけていえばボトムズのスコープドックそのものだね、これ。

こういうの造るのが発展途上国ならまだしも…。
主要国・先進国を相手取って成長してきたクリムゾンらしからぬ戦略だ。
まさかなりふり構わず糊口をしのぐ目的でここまでしてくるとは…。

「なるほど…人の命をパーツにして運用することを選んだわけだ。
 こいつは極めて合理的だが…賢いやり方じゃぁないねぇ」

「全くだわ…。
 ただでさえ世界的にアキト君とルリの一件で人権意識が高まってるのに。
 アフリカ方面の巻き込まれる側はたまったもんじゃないわよ」

…だがアフリカ方面軍はクリムゾンが強い。
いくらエステバリスの方が値段以上のものを持っているとはいえ、
ステルンクーゲルminiを任せる人間からすれば、相当助かる。
あの辺はまだ内戦が続いたりで、かなり少年兵やらも居る上に…戦うことに違和感を持たない者も多い。
だからこそ、自衛手段として先進国並みのものではなくても欲しがるはずだ。
生命の危機に陥った人達は、
正規ディーラーの最新ライフルではなく、
暴発する危険があってもコピー品の旧式拳銃を手にする。
手の届かないものはないものと同じだからね。

そして『侵略者』と戦う。
若い子はヒロイズムに浸って喜んじゃうし、これに乗っちゃう人って多いだろう。
…ああ、なんていうかホント…こいつは救えないな。
喜んで死にに行く人を説得できる術がないよ、実際。
せめてエステバリスを買ってくれればまだなんとかなるのに…。

「連合軍もPMC系の業態は作らないように言って回って、
 エステバリスが回ってこないことで数は制限されているんだけど、
 クリムゾン系のPMCがアフリカでかなりの数が立ち上がったみたいね。
 『PMCセレネ』って名前でね」

「月の女神か…そいつは皮肉だね。
 月の独立派とつながりのあったクリムゾンらしいといえばらしいが」

「連合軍上層部とのつながりがあるから、例外的にPMCとして認められたみたいよ。
 会社規模で言ったら、PMCマルスの20倍以上でしょうけど…。
 それでもユーチャリスがあるPMCマルスと比べたら…」

「そりゃそうだよねぇ…」

末端の兵士には、別の戦場が見えない。
ネットがある現代においては本来は見えていていいはずなんだが…。
…恐らくアフリカ方面はかなり閉ざされている。
これはいまだ独裁政権があったり、小国がひしめいていたり、
経済的に貧窮している地域が多いので、ネットが切られていたり、
そもそも端末が手に入らない地域がかなり存在するためだ。
そんな地域でクリムゾンは兵器の実験場を兼ねて、兵器を流している。
だけどそこをメインの商売先にはしなかったと思っていたけど…。
ここまでくると本当にクリムゾンが追い詰められてるのが分かるね。
とはいえ、市場が決して小さくないからねぇ、まったくしぶとい連中だよ。

「…ってわけで、ナガレ君。
 仕事、溜まってるから」



「は!?
 ってわけで、ってどういうわけだい!?
 確かに売れに売れてめちゃくちゃ忙しいけど、
 こんな量にならないだろ!?」




僕はエリナ君がどさっと書類を山のようにつんできて驚いてしまった。
全然話の前後とかみ合ってないじゃないか!?

「…クリムゾンがステルンクーゲルminiを出したせいで、
 性能に対してぼったくりなんじゃないかって疑ってる株主や関係者、マスコミが出始めているの。
 無責任な放言とはいえ、対処しないといけないでしょう。
 それに関する調査の許可、必要な予算の提供、調査部の発足、
 それからエステバリスの生産が間に合ってないことへの対応、
 ナデシコ級戦艦の生産が遅いことへのクレーム、
 PMCマルスのユーチャリスを委譲してほしいというお願い、
 
 …で、ついでにホシノアキトに会いたい人達からの招待状やら、
 ピースランドでの出来事についての問い合わせまでなぜかうちに来ているの。
 
 このあたりをアカツキ君が何とかしてくれないと、
 とてもじゃないけどネルガルは動けないのよ」

「…ちょ、ちょっと待ってくれないか!?
 は、後半僕は関係ないじゃないか!?」

「これ来たのがそんなに大した人物からじゃなければ、門前払いでいいんだけど、
 協力会社関係会社や連合軍の上層部から直々に来ちゃったの。
 だから断るにしてもアカツキ君が直に書面で返信しないといけないわけね」



「ガッデム!?」




……ホシノ君、いい加減にしてくれないかなぁ。
というかホシノ君、いろんな人の人生を巻き込み過ぎなんじゃないか?
どうしてこうなった…。

「そういえば今日はユーチャリスは検査のために佐世保のドックに預けているんだっけ。
 本来行うべき慣熟航行をそこそこに戦闘に出しちゃってるもんだから…」

「整備員を二班に分けて二日かけてしっかり検査してるそうね。
 で、その間は夏祭りで楽しむって。
 エステバリスも全台オーバーホール。
 素人に扱われてガタガタみたいだからね。
 あ、アキト君のエステバリスカスタムだけは残してるわよ。
 最近乗ってないせいで状態はいいし、アキト君が乗ればあの一台だけでもかなり強いから」

なるほどねぇ、そいつはいい。
ホシノ君ならいざって時でも一騎当千だ。問題ないはずだ。
いい会社になりつつあるよね、PMCマルス。前の世界のナデシコは艦の中ではいろいろと遊んじゃいたけど、
なかなかしっかりした休暇は取れなかったし、こまめにいい休息が取れているようだね。
連合軍ももっとPMCマルスを使いたいという気持ちと、
頼り過ぎたら情けないと批難される可能性の板挟みで苦しんでるみたいだし。
ホシノ君はぶちぶち言われないでやれる立場でうらやましいよ、まったく。

























〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・特設会場──ユリ

ラピスの提案で私達はかなり厳重な変装を施され…、
アキトさんと私はマークなしでお祭りを回れています。
ピースランドでの潜入に際して開発されて使わなかった装備、
変装マスクと変声装置で、全くの別人のように見えるようになっています。
けど…。

「…声のサンプリングがウリバタケさんとシーラ班長なのはちょっと不満です」

「しょうがないよ。
 だって二人が開発者なんだから」

「自分が自分じゃないみたいで気持ち悪いです。
 一緒に出掛けられないよりは百倍いいですけど」

私達の声は装備を開発した二人の声しかインプットされていない変声機で変えられています。
見た目上は普段の顔立ちに近い変装マスクにしてはありますし、露出している瞳や髪は自前ですけど。
実際、顔立ちがちょっと近い程度の差異と、声が全く違うというのは結構有効で、
歩いていると何度も見られはしていますが、
『ホシノアキトとホシノユリにあこがれているだけのカップル』と認識されて平和に歩いていることができています。
アキトさんがウリバタケさんの声で話すのホントに不気味なんですけど。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



それからしばらく夏祭りを楽しみました。
声は別人でも、顔立ちやしゃべり方がいつもに近いので何とか慣れてきました。
私達はそれなりに非日常を楽しめていたみたいです。
こんなふうにアキトさんと二人きりで夏祭りなんて考えもしませんでした。
ここまでデートの回数ですらも制限されがちだっただけに、思いっきり楽しんでいたとも思います。

今は変装を解いて、本社の屋上で休憩用のベンチでお祭りの様子を眺めています。
屋台の食べ物を色々買いこんで、ひっそりと。
しかし、ラピスの提案でPMCマルスの広い敷地を使って夏祭りをすることになりましたが…。
地元だけではなく全国から訪れる人たちでごった返してはいますが、意外と整然としてくれてます。
ここに続く沿道まで込みで、かなりの屋台が出来て、広く場所が確保できているのが良かったようです。

「テキ屋さんって全部危ない人がやってるわけじゃないんだね」

「…アキトさん、見るところがそこですか?」

相変わらずアキトさんとぼけてますよね。
いえ、私も似たようなもんですけど。
ユリカさんの妹らしいズレがあるように思います。自覚がないのがちょっと怖いです。
…それより気になることがあります。

「あの、アキトさん。
 ラピスのことなんですが…」

「…うん、分かってる。
 ちょっと様子が妙だよね」

ラピスはこの世界で『ユリカさんのクローンである少女』として新たに生まれています。
その年齢は3歳…つまり、私達に比べれば自我が発達していないので、重なる人生を持ち合わせていません。
私とアキトさんは人格はほぼひとつですが、二重人格に近い状態にもなります。
経験と精神的な構造が融合しているため、かなり変化をしています。
しかしラピスは重なる人生がないにも関わらず、人を動かす能力が高すぎます。
ラピスのもともとの性格、ユリカさんのDNAの影響、アキトさんやエリナさんの影響を鑑みても、
ちょっとあまりにも不自然にいろんなことが出来過ぎてます。
自発的に動けているのはいいことですが、
彼女の主導でアキトさんもルリも、ピースランドの国王も、それどころか世間の女の子まで動かしています。

「…ユリカを悪く言うみたいで言いたくないんだけど、
 ラピスは遺跡に残ったユリカの記憶で何かいじられた可能性があるかもしれない」

「!!」

私はびっくりして声が出ませんでした。
アキトさんにとってユリカさんは神聖不可侵の存在だと思っていました。
裏表がなく、自分を一心に愛したユリカさんを疑うなんて思いもしませんでした。
確かに私もそういう風に考えて、アカツキさんとの決闘後の夜にそんなことを言いましたけど…。
で、でもそれを悪い方向に考えるなんて…。

「…ユリカだって、人間だ。
 俺たちがどんなひどい目に遭ったか知ったら、何かするかもしれない。
 そのためにラピスを…」

「そ、そんなこと!!」

私が否定しようとしたら、アキトさんは首を横に振りました。

「俺はラピスを巻き込んだ。
 …ルリちゃんを育てた元研究員とそんなに差があるとは思ってない。
 ラピスは結果として俺を慕ってくれたが…。
 俺は、ユリカのためにラピスの人生を奪ったんだ」

「そ、それが遺跡と、ユリカさんと何の関係が…」

「…ルリちゃん。
 俺がユリカのためにラピスを犠牲にしたということは、
 ユリカが俺のためにラピスを犠牲にする可能性がないって、言い切れないだろ?」

……私は何も言えません。
確かに不自然に私とアキトさん、ラピスはこの世界で生まれ変わってしまいましたし、
過去の私達と結びつけるのにとても適した境遇を持っています。
そう考えると恣意的に私たちはこの世界に投げ込まれたということも可能です。

けどそんなの理屈です。
可能性でしかありませんし、状況証拠ですらありません。
ユリカさんの残留思念ともいうべき『記憶』の部分が遺跡に残っていたとして、
私達を別の人間として再構成して、ラピスをあんな風にしたとして…。
不自然な変化の仕方をしていようと、ラピスが犠牲になるなんて考えられません。

…でもアキトさんの考えを、バカげた考えと否定できるだけのものを私は持ち合わせてません。

確かにユリカさんは温かい人です。
ただ居るだけで温かさを感じる、まるで太陽です。
でもアキトさんもそうだったように、ユリカさんもアキトさんと同じくなにかきっかけがあったら…。
あのルリの育った研究で見せた激昂も、ユリカさんの情の深さからくるもの…。
アキトさんもユリカさんも、ルリでさえもきっと情の深さが、激しさが、狂わせる何かに出会った瞬間…。
地球と適切な距離を保たなければ、すべてを滅ぼす恐ろしい光球になりえます。
『沈まない太陽』とでも言いましょうか。
その人に狙われたら、相対すればまず生き残れはしない、恐ろしい存在に…。

…事実、アキトさんはそうなってしまったんです。
アキトさんはそうしなければならないと考えなければ絶対しませんが、起こしてしまったことです。
…アキトさんのあの過去は私では完全に塗りつぶすことは、きっと最後まで出来っこないんです…。

でも、アキトさんはすぐにふっと笑みを浮かべました。

「…だけど今は、ちょっとだけ安心してるんだ。
 ラピスのやることなすこと、勘弁してくれって思うことも多いんだけど…。
 なんていうか、すごい楽しそうだからさ」

「あ…」

「あんな風になっちゃったのが、悪いことだとは確かに思ってないよ。
 ただ、ちょっと怖いなって思ったんだ」

ラピスが普通の子…以上になってるのでアキトさんもだいぶ気負うことはなくなったんですね。
アキトさんは昔のようにいじけたり、自嘲気味に話すことがだいぶ減りました。
意地を張ることもなくなって…なんか、聞いていて心配にはなりづらいんですよね。

「怖いって、どうしてです?」

「…原因が分からないことはやっぱり怖いからね。
 正直に言うと、俺はあの頃の自分が怖い。
 『黒い皇子』だった頃を忘れたい。

 だから俺はあの頃を意識しなければ思い出さなくなって、
 本当に良かったと思ってる。
 
 …でもそれ以上に、そうなってしまった今の自分が怖いんだ。
 この世界でホシノアキトとして8年生きた分のせいっていうのもあるんだろうけど…。
 それにしては俺は少し能天気すぎるから」

「…そうですか?」

「うん。
 ……俺、ユリちゃんがユリカに謝る寝言を聞いちゃったんだ…」

私は、ぎゅっと胸をつかんでしまいました。
もうだいぶ薄れては来ましたけど、ユリカさんを撃った時の悪夢にうなされた日は数知れません。
聞かれちゃってたんですね…。
…ユリカさんと出会って抱きしめて貰った日まで、私は…ほぼ毎晩あの悪夢にうなされていました。
そのせいで、ユリカさんの妹になれるって聞いた時、本当に本当に嬉しい反面、
罪悪感で押しつぶされそうになって、感情的にアキトさんに怒ってしまったんです…。

「……俺、その時、自分でなんて薄情な奴なんだろうって思ったんだ。
 ユリカの事をあんなに求めたくせに、俺は悪夢の一つにうなされたこともなく…。
 今だってユリカをこうして疑っている…」

「け、けど…ユリカさんを直接疑っているわけじゃないでしょう?」

「…分かってる。
 変なこだわり方をしているのも分かるんだ。
 だけど昏睡状態だった二ヶ月の間、夢を見ている間はユリカの事が頭にあったのに、
 目覚めてからずっと悪夢を…ユリカの事も、あの実験体だった頃も、
 あれだけ憎んだ奴らの事さえも、夢に見なくなった…。
 
 …それが俺にとってどれだけ救いになったのか分からないけど、不自然で怖いんだ。
 これを俺のためにユリカが取り除いていたと考えると…納得できるから…」

……理路整然とはしていませんが、納得できますね、たしかに。
それはアキトさんを不安にさせるには足るものです。
ユリカさんのわずかな意識が遺跡に残っていて、
アキトさんを助けるためだけに、この世界を書き換えたのだとしたら、納得できます。

アキトさんの暗い過去を思い出しづらいように封印。

私をユリカさんの代わりに仕立てて、この世界のユリカさんを追いかけないようにして…。
過去に必要以上に引きずられないように配慮して、私と結婚させておく。
アキトさんの性格上、仮でも結婚していたら離婚は無理にしようとしません。
私をバツイチにする度胸はあるはずないですし…寂しい気持ちを埋めるのには良かったですし。
…あ、アキトさんが昏睡中に、私が一人で話している内容を聞かれて居た件もあります。
あんな都合のいい昏睡状態ってありませんし。

ラピスはアキトさんとルリを助けるために動けるように変えて、
ついでにアキトさんをより目立つようにして過去より確実に世論を変えていってます。
ちょっと危うい橋ではありますが、ナデシコという存在がひた隠しにされているよりはいいと思います

………状況証拠ですけど、アキトさんが疑うには十分すぎますね、たしかに。
私、忙しいのとアキトさんに心配させられててそこまで考えが及びませんでした。
でも…。

「…だったらせめて信じてあげましょうよ。
 ユリカさんだったらひどいことは絶対しません。
 この世界を変えてしまったとして…あのアキトさんが味わった地獄を…。
 もう二度と繰り返させないためにこんな世界にしてくれた。
 それでいいじゃないですか」

「……うん。
 そうしようかな…」

…アキトさんはすこし眼をこすってます。
なんていうか本当に不安で怖がってたんですね、アキトさん。

「…アキトさんだって信じてるんでしょう?
 半分くらいは本当に不安でも、ユリカさんだったらひどいことはしないって」

「…うん。
 …そうだよ……うん…」

アキトさんは自分に言い聞かせるようにして、何度も何度もうなずいています。
私達が生まれ変わったのがユリカさんの記憶のおかげとするなら、
ベストとは言い難いこの生い立ちを認めるのもいいかなって思います。

「そうだよね…俺たちが信じてあげなきゃ、ユリカが可哀想だよな…。
 とはいえ、遺跡が人格を持ってるかはわからないけど」

「オモイカネですら人格があるんですから、
 遺跡があったっておかしくないですよ」

「うん…」

アキトさんは寂寥感に震えています。
…ピースランドでのユリカさんとのデートで、またユリカさんの事を思い出してしまったんでしょうね。
もう二度と手に入りはしない…あの太陽のような人を…。
嫉妬しちゃいますけど、その気持ちは私も同じです。

私はアキトさんを強く抱きしめました。
アキトさんも抱き返してくれました。
私ではユリカさんに比べれば役者不足だと常々思っていますけど…。
そんなの、もうどうでもいいです。
なし崩し的でも、アキトさんが私を選んでくれた事実は変わりようがありませんし…。
アキトさんも私に気を使ってるわけじゃなく、ちゃんと望んで夫婦で居てくれます。
絶対に得られなかったはずのなかった幸せを手にしている…それだけで私は…。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



そうして私達はしばらく抱きしめあって、
それからすこし冷めてしまった屋台の食べ物を食べて、それから部屋に戻りました。
……で。

「…こ、こんなに隠しカメラと盗聴器があるなんて」

「…やっぱ敷地内で夏祭りはやめるべきでしたね」

敷地内に人をこれだけ入れるとなるとそういう不届きものが出てくるとは分かっていましたが、
こんなことになるなんて…屋上はそういう仕込みはなかったんですけど。
部屋に戻るまでの間に、おびただしい数の隠しカメラ、盗聴器が発見されました。
アキトさんもこの手の警戒は得意で、それ専用の機材も持ってます。
みんなが帰ってくる前にって、探すだけでも一時間以上かかりました。
幸い、私達の部屋の中まではなかったわけですけど…。

……はあ、バカばっか。











































〇作者あとがき

日曜日、ちょっと分量少ないから投稿を後回しにしましたが、
よくよく読んでみると一話分として十分量があったので投稿しました。
…配分考えないとなぁ。
閑話っぽくしつつ、ちょっとしたことが積み重なりつつあるお話でした。
何でもない日常、のはずがだんだんと自分たちのしてきたことが影響を与え、
自分の生き方にも影響を与えつつ、その変化に翻弄される彼らの明日はどっちだ!!
そしてユーチャリスとともに地球に残るのはいったい誰なんだ!!
ってな具合で次回へ~~~~~~~~ッ!!










〇代理人様への返信
>二十四時間戦えますか~。はまあ軍艦なら当たり前なんですが、ナデシコは子供が動かしてますからねえw
>オモイカネというAIもいることですし。

オペレーターが一人という場合は、どうしてもそうなりますね。
戦闘、修理、補給、休息を効率よくやったとしても人員の消耗を考えると連戦は難しいとはいえ、
TV版、結構アキトが疲れてる描写があったので当時はそれでもハードだったんだろうなとも。
ルリちゃんの発育の悪さはそこも一因なのかなと。両親の体格を見るに。
それでもほかの艦に比べるとやや稼働率は下げてあるんでしょうけど、
そういう面でも軍人には嫌われてる気がします。強いくせにさぼってるとかこれだから民間人は、とか。
今回みたいに軍属にならない場合、労働基準法に従う形になるのかな、とは思います。
依頼を受けて手続きを踏んで戦闘する形になるので体よくつかわれづらいです。
今回はオペレーターが四人居るので二隻に分かれたとしても問題が少ないですし。

…とはいえ北極で白熊回収するときもボタン一つでグラビティブラストが撃てたことから考えると、
実は意外とルリちゃんいなくても何とかなるケースも多いのかもしれないですね。






>しかし、クリムゾン他の敵対連合が悩むところがそこかい、とw

今回はアキト達が世間的にも状況的にも超有利なので、コメディ調になるしかない敵対勢力たちでしたw
特に彼らの場合自分たちのしていることへのうしろめたさ、もしくは隠したいという気持ちが先行して、
家族と接触を最低限にしていたり、箱入り娘状態にしていて、うっかりしてるとこういう事態になる、とw
普通はどんなスターの追っかけしててもそんなに大きな影響は出ないんですが、
アキトの場合、彼らの商売に直結する立ち位置にいるのでこんな事態になってましたw




>そう言えば時ナデってそう言うノリの話だったなw

…そうでしたっけw
ナデD連載前に読んだ時、敵勢力はそんなじゃなかったような…。
その時は2章は読んでなかったし、あとで読み直すか…。


















~次回予告~

ユリです。
最近ちょっと影が薄いですけど、別に気にしてません。
…気にする暇がないとも言います。
気になることは多いけど、夏祭りをそれなりにちゃんと楽しめて良かったです。
本当に。
でも、次回またちょっといろいろトラブルが起こるようです。
有名になるっていうのも大変です、ほんと。
戦後、どこぞの左腕が銃の宇宙海賊みたいに整形するような目にあうのは嫌ですね。



どうやっても分量が増えすぎる、書けば書くほど沼ッ!!な感じの、
二倍盛系ナデシコ二次創作、









『機動戦艦ナデシコD』
第三十六話:drawing card-人気役者、人気の出し物-その2







をみんなで見て下さい。





















感想代理人プロフィール

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代理人の感想 
ムネタケとフクベ提督のヘルプに苦笑、
ユリカとルリの姉妹焼肉にほんわり。
仲良きことは美しきかな。

そしてナオさんはイキロ。



>脚本と基本設定の作りを俺がピースランドから戻るまでに書き上げ、

機を見るに敏というか、よーやるわとw
まあ腕利きというか情熱というか、そんな感じですなw






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