こんにちは、ルリです。
日本に、西欧に、アフリカ諸国に、月に、コロニーにと、
各所を転々とする長い旅をしてきましたが、ついに地球を飛び出て火星に向かってます。
火星で何が待っているのか、その先にアキト兄さんの生きる道は残っているのか、
妹としては結構心配してます。
口にはあんまり出しませんけど。

でもあんだけ食べまくって動きまくれる人の寿命が短いってこと、ありえるんですか?


昨日も合計すると一日で五十人前は食べてるんですけど。
確かにアキト兄さんは試作IFSのせいでパイロットとしてはスタミナの面では不安はありますけど、
身体を動かすのには不自由してませんし、
不調で寝込んだり、吐血したりなんてことはただの一回もありません。
医師からはレントゲンが取れないから何とも言えないけど、
他の医療機器で観察する限りは健康そのものなので大丈夫じゃないかと言われてます。
火星でアキト兄さんの主治医の人が見つかるといいんですけど…。

ま、そのせいか厳しい訓練がある一方で、相変わらずのドタバタな生活です。

それじゃ行ってみましょう、よーいドン。


















『機動戦艦ナデシコD』
第五十六話:duo-二重奏-





















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・ブリッジ──メグミ

「あ~~~~~~そろそろ飽きて来ちゃったわよねぇ」

「ミナトさん、だらけすぎですよ」

「でもユリユリぃ。
 あのアキトブラザーズだけが忙しいじゃない、この一ヶ月半。
 私達は訓練業務と警戒業務が終わったら暇すぎてひまわりになっちゃうわよ」

「ですよねぇ、はぁ」

私もミナトさんに同意した。
一ヶ月の間、ほぼすべての時間を業務と特訓に当ててるあのホシノさん&テンカワさんは、
かなり限界を超える特訓をしてて、暇なように見えない。
あ、整備班の人たちはブラックサレナのテンカワ機を作ってるから忙しそうだったかな。
だから生活班、食堂班、整備班以外のスタッフは訓練込みで一日三時間勤務で、
代わりに土日休みがないようなシフト形態になっていた。
でもその訓練が結構大変で、艦長もパイロットのみんなもすごい気合で…。
火星で激戦になるかもしれないって、艦長が張り切ってるんだよね。
まあ、週二十一時間勤務じゃね。
暇すぎて腐っちゃいそう。
マイペースにゲームを続けているルリちゃんのを見習おうかなぁ、
ゲームってあんまり趣味じゃないけど。

「そういえば、ユリカさん。
 この間のサツキミドリ二号のことなんですけど…」

「ほ、ほへっ!?
 な、なぁにユリちゃん!?」

艦長はじっと別のウインドウを開いてホシノさんとテンカワさんの映像をみてたようで、
ユリさんに問いかけられて驚いてる。
艦長は普段テンカワさんラブで騒ぐか、ボケボケしてるか、ぼうっとしてるくせに、
最近はホシノさんとテンカワさんに対して妙にしおらしくなるところがあるのよね。
私としてはそれなりに静かでいてくれた方が嬉しいけど。
テンカワさんとうまくいってないのかな。

「いえ、死者が出なくて良かったなって。
 誰も死ななくて良かったなっていうのもそうなんですけど…。
 ナデシコの規則では確かネルガルの社員が殉職した場合、
 色んな式を執り行うのは艦長だったから、
 ユリカさんが葬儀を行うことになってたかなって」


「えっ!?」



ユリさんから唐突に語られた事実にユリカさんはびっくりしてます。
…そういえばネルガルは社員契約で、葬式の仕方を指定したりできるとか。
一応契約時に読んだことは読んだけど、どうでもいいから読み飛ばしてた。
死んでから希望を叶えてもらってもちょっと嬉しくないもん…。

「…ね、ねぇ…も、もしサツキミドリ二号が全滅したらどれくらい…」

「ルリ」

「はい。
 サツキミドリ二号に勤めてたネルガル所属の人たちのリスト、
 おおよそ568人、内206人が特別な葬式を希望してます。
 合同葬式で済ませてくれる人はいいとしても…。
 二時間のお葬式を一日五件から六件行うとして、最短で三十五日かかりますね。
 つまり、暇だ暇だとみんなが言ってるこの時期にも、
 ずーーーっとお葬式にかかりっきりになってた可能性がありますね」

ルリちゃんの表示した206人分の経歴ウインドウが展開されると、
艦長の顔の血の気がさーーーっとひいていくのが見えた。
…でも何だろう、艦長とユリさん、ルリちゃんの三人、
妙に実感がありそうに話してる。
もしもの話なのに実際にあったかのような…変なの。
でも、すぐに艦長はうつむいた。

「そうだよね…私が苦労するだけで済むならいいけど、
 誰かが死んじゃったら、悲しむ人だってたくさんいるんだよ…。
 人が死んじゃうって悲しいし…大変なことだよね…」

「…そうですよね」

私も戦艦に乗るっていうのは、機械相手だったら問題ないと思ってたけど…。
お話の中でならともかく、現実で人が死ぬようなひどいことって…。
生きてた人が死んで二度と会えないだけじゃなくて…宇宙で死んだら、
うちのお父さんとお母さんも、私の死に目に会えないだけじゃなくて、
ナデシコが爆発したら遺体も残らず宇宙に消えちゃうんだ。
……そう考えたら怖くなってきちゃった。

「みんな、ユーチャリスの頃からずっと一緒に戦ってくれて…。
 ナデシコを降りないでくれてありがとね。
 危険な目に遭うかもしれない、死んじゃって二度と地球に戻れないかもしれないのに」

「言いっこなしよぉ、艦長。
 ルリルリがついていくっていうのにいい大人がおじけづいてたらダメなんだから」

「…でも私はやっぱり怖いです。
 艦長も、みんなも信じてるけど…怖いのはそんな簡単に覆せなくて…」

「メグちゃん…」

「確かにナデシコも強いし、みんなすごいですけど、
 ナデシコ一隻でって…今考えると無謀なのかなって…」

ここまでの戦いはナデシコの連戦連勝。
連合軍の戦艦十隻でも勝てないような相手にも圧勝できた。
だから気楽でいられたけど、これからは孤立無援。
声のお仕事でやってたアニメでもなかなかこんなシチュエーションはないのに…。

「…大丈夫です。
 アキト兄さんが、エステバリス隊のみなさんが何とかしてくれます」

「ルリちゃん…それは、そうだけど…」

全てにおいて規格外の『世界一の王子様』…ホシノアキトさん。
確かにあの人とブラックサレナのすごさは素人でも分かる。
あの人のおかげでサツキミドリ二号が無事だったんだから。
…でもあの人の考え方はともかく、今もイメージはそんなに良くないけど。

「メグちゃん、大丈夫だよ。
 ナデシコなら先制できれば負けることはありえないし、
 その気になれば防御力に任せて強引に逃げ切れるはずだ。
 楽観はできないけど、過剰に心配する必要もないと思うよ。

 それにナデシコでダメなら艦隊組んで火星まで来ないといけないし…。
 艦隊で来れるくらいまで地球の戦況が楽になるまで、
 火星の生き残りの人たちが生き延びれるか分からない。
 急ぐ必要があるのも確かなんだ」

「ジュンさん…」

ジュンさんは私を優しくなだめてくれた。
冷静に、客観的に状況を教えてくれて…私は少し落ち着くことができた。
…まだこの人、艦長に未練があるみたいなところがあるけど、私は好き。
とっても頼りないけど、優しくて放っておけないタイプでルックスもかわいいし…。
私しかいいところに気づかなそうな、『私だけの王子様』になってくれそうな人だもん。
火星から戻るころに…もう一歩進んじゃおうかな。
この人ならきっと、私を嫌ったりできないから…安心してずっと一緒に居られそうな人だから。
…あとはまだちらちら艦長に向いてる情熱をこっちにちゃんと向けさせないと。

「そういえばテンカワくんはあんまり構ってくれてないの?
 彼、忙しそうだけど、艦長放っておかれてるんじゃない?」

「だ、大丈夫ですよぉ、ミナトさん!
 この間だって…そ、その…」

「あら~~~?
 艦長、聞こえないぞぉ?」


「や、やだもぉ!

 ルリちゃんも居るのに、そんなこと聞いちゃダメです!

 艦長命令です、秘密です!黙秘ですっ!」



「艦長のいけずぅ」

……艦長、成人してるとはいえ進み過ぎじゃないですか?
…不潔。
口には出さないけど。
ユリさんはもう夫婦生活長いからか、すごい余裕の表情で見守りモード。
世界一の王子様を射止める…というか既婚者のまま世界一の王子様になったって…。
どういうことなんだろ、テレビ局でも結構見かけてたけど。
話は結構聞くけど、芸能界に入ったころの話は知らないし…。
…今度ちょっとくらい長話してみようかな。時間はあるし。

「あんまり噂にならないようにしてあげて下さい。
 せっかく地球と火星で分断された二人が天文学的確率で出会えたんですから」

「手遅れじゃないですか?
 整備班にはしょっちゅう遊ばれてますし」

「そ~よね~ぇ?
 あのテンカワ君が、まさかのブラックサレナで逃避行からの外泊でしょ?
 PMCマルスの子たちが、コミュニケでキスシーンを目撃しちゃったりで、
 もうあの二人の話題で持ちきりなんだから」

「それでもお父さんに知られると後が怖いんです。
 みんなそういうところは守ってくれますけど、
 どこに目があるかわかりませんから」

「ユリちゃん、心配してくれるの?」

「もちろんです。
 二人は運命の赤い糸で結ばれてます!
 だからもう一度出会えたんです!!
 

 誰が何と言おうと、二人の仲を裂こうとする人は許しません!

 

 お父さん相手でも譲りませんっ!!」


私達はぽかんとユリさんを見つめた。
ユリさんは、どっちかっていうと血縁のないルリちゃんにそっくりなんだけど…。
たまにお姉さんの艦長ばりに感情が爆発する時があるのね…。

…運命の赤い糸、かぁ。

私にもジュンさんが居るからいいけど、ね。
















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・食堂──ホウメイ
私は昼のピークに備えて全員で仕込みと準備をしていたんだけど…。

「わあっ、テンカワさんとホシノさんの動きがシンクロしてる」

「アニメでこんなの見たことあるぅ!
 大昔のアニメでやってたね!」

二人の動きを見て、ミカコとエリが感心した。
この二週間くらいの間、ホシノはテンカワに自分と同じ動きをできるように課題を出したらしい。
それは調理中も、訓練中もそうだった。
私はそりゃとても無理だろうと思った。
親子でも兄弟でも、双子だって、経験や考え方が全く違うから合わせるなんてとても無理だ。
ホシノの方がテンカワのできるくらいの速さやモーションを選んでやってるので、
かろうじてテンカワは必死になりながらも追いついていけている。
かなり工夫してやってるからうまく出来てるんだろうが…。

だけどこれが出来る理由が、ホシノという人間が特殊なだとは思えなかった。

何か…この二人が重なって見えている。
ありえないことなんだけど、同一人物のように…。
…どんなに合わせても調理方法はともかく、癖まで一緒にはならないからね。
ま、そんなことよりテンカワの目覚ましい上達の方が重要さね。

「いいよ、テンカワ。
 あんたなかなか上達が早いとおもったけど、
 身体が鍛えられて自身がついてきたみたいだね。
 ホシノにも追いつけるかもしれないよ」

「「うっす!!」」

テンカワは集中を崩さないまま、すさまじい勢いでキャベツを千切りにしてる。
当然、となりで全く同じようにホシノも千切りだ。返事まで一緒にしてるね。
私は二人の真ん中に立った。
包丁の音がずれこんでステレオのように聞こえるはずが寸分の狂いもない重なり方をする。
…すごいね、これは。

ホシノも技術的には年齢以上のものを持っちゃいるが…。
反面、練習できる機会が少なかったせいもあって、技術的に行き詰ってるところもある。
うかうかしてるとテンカワに追いつかれそうだけど、経験の差でいずれまた突き放すだろうね。
…でも、この二人は本当に楽しみだね。
こんな風に成長する奴は中々見られないよ。

「よーし、みんな!
 ナデシコ食堂の開始まであと三十分もないよ!
 さっさと仕込みを終わらせて開店するよ!!」


「「「「「はーーーい!!」」」」」


「「うっすっ!」」




















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・格納庫──ウリバタケ


「てめぇら!気合入れろよ!
 納期はあと一週間しかねえんだからな!!」


「「「「「うーーーーっす!!」」」」」



俺たち整備班は、この一ヶ月、ブラックサレナを三台くみ上げていた。
敵襲がないとはいえ、こいつはかなりしんどかった。
何しろ、0G戦フレームのブラックサレナはすでに一台あるが、
テンカワの分の0G戦フレームをもう一台、
そして空戦フレームのブラックサレナを二台別に準備する必要がある。
…空戦フレームと0G戦フレームのハイブリッドフレームはまだ試験段階にもはいってねぇ。
だから両方準備しておかないと危険がある。
何しろ無限とは言わんがバッテリーがけた違いで防御力も高い、機動力も高いとなれば、
多勢に無勢状態でもおとりになって逃げて、あとで合流したりもできるし、
体当たり中心の攻撃力も中々のもんだからな。
準備できるモンはなんでも準備しねぇと生き残れるか怪しい。
だが問題も多い。
ブラックサレナはワンオフじゃないから整備に普通の三倍以上の手間がかかる。
追加装甲を外して、装甲側の点検、整備が必要になるし…。
外すのは楽だが、重たい装甲をつるして装着するのは大変だ。

それに予備パーツをかなり消費して組んでいるのが問題がある。

修理しようにも他のブラックサレナから装甲を移植しなきゃならないし、
しかも空戦フレームと0G戦フレームのスラスター調整は全く異なるから…。
ったく、なんでこんな複雑な構造にしやがった。
せめてワンオフで寄越してくれりゃ手間が省けたってのに。


「よーし、昼飯の時間だ!
 とっとと食って戻るぞ!!」


「「「「「うーーーーっす!!」」」」












〇地球・中国・重慶連合軍基地・ドック・ユーチャリス・ラピスの部屋──オモイカネ
ユーチャリスは激戦に次ぐ激戦で、オーバーホールが必要になってしまったので、
一週間ほどドックに停泊する時間をとることが出来た。クルーも休んでいる。
でも僕とラピスは、この一週間くらいで準備をさらに続けた。
かなり色々と危険なことはしてきたけど…。
一応、ハッキングで被害者が出てないことは確認している。
衛星通信を介して、ほかの人たちがジャックできないような暗号通信を使ってネット接続、
さらにサーバーもレンタルサーバーを介して、
踏み台の経由の仕方をかなり工夫していたのでそれもうまくいってる。
順調だけど…。

「ラピス、仕込みは十分にできたね。
 あとは施設が出来るのを待つのと…時が来るのを待つだけだよ」

「……うん」

ラピスは力なく小さく返事をした。
計画の前進は、自分の死が刻一刻と近づいて居るということでもあるからだ。
ラピスは恐怖を押し殺すように、今もまた『ダイヤモンドプリンセス』の映画を見ている。
この一ヶ月半で、もう何週見てることだろう…。

ホシノアキトという、全世界の注目を集める王子様を。

ラピスが恋焦がれる…この人のために自分の命を使おうとしている人物。
その価値はまさに全世界の宝石を集めた以上の価値を持つ唯一無二の人。
だけど…ラピスが自分のために死のうとしていることに気づかない、
僕にとっては悪人にすら思える人…。

…正直、彼がどれほど価値のある人間だろうと、僕には関係ない。
僕にとっては僕と触れ合ってくれるラピスの方がずっと大切だ。
世界がどうなるとか、そういうことはあんまり関係ないんだ。
…ラピスも、アキトに対してそういう態度なんだろうけどね。

これって…僕もラピスに恋をしてるってことだろうか…。

…そうじゃなくてもラピスがかわいそうだと思う。
悪夢にうなされ、日に日に肌が荒れ、目のクマも消えず、
だんだんとやつれてきている彼女を見て、僕は辛かった…。

「…すー…すー…」

そして今も、ラピスは限界を迎えて映像を見ながら眠ってしまった。
体力の限界がきて、いつもこんな感じで眠ってしまう。
消しといてあげないと深く眠れないだろうから消そうとするけど…。

「ん…ダッシュちゃん…消さないで…。
 私に、アキトの声を聞かせてよ…」

『……分かった』

映像を消そうとするとラピスはすぐに気づいて目を覚ましてしまう。
だから結局…朝まで流してしまう…。
それでも悪夢からは逃れられないみたいだけど…。
どんな悪夢かは教えてくれなかったけど…。
毎日うなされてるのを見ると、すごく辛いことなのかは分かった。
…ラピスにとってはアキトの声が生命線なんだ。
悪夢に苦しみながらも、必要な時まで自分で命を断たないで居られるのも、
ホシノアキトの声をわずかでも聞けるからなんだ…。

そんな君を…助けたいと…。
…正直言うと、僕はラピスを裏切ってでも。
アキトのために死のうとしている君を止めたいと思っている…。
僕は、君のためにどんな罪も背負うコンピューターで居るつもりだけれど…。

我慢できなかったら……ごめんね、ラピス。






















〇地球・都内某所・ラジオ局
『え~続きまして…コーナーが変わります!』

『A子と!』

『B子の!』


『『「かしらかしらご存知かしら?のコーナー」でぇ~~~~す!』』



『おひさしぶり、みんな聞いてるかなぁ?』

『いや~~~~今日もホシノアキト様の話題で行くけど…。
 もう地球を離れて一ヶ月半も経過してるのに話題が尽きないって恐ろしいわよねぇ。
 ファンの女の子の熱も冷めるどころか離れてる分だけ煮えたぎる模様でねぇ?』

『でもねぇ、女の子だけじゃなくて老若男女、全体に人気が出始めちゃって、
 も~~~~取り返しのつかないブームになっちゃってるわよねぇ?
 この番組も、あと何年アキト様一色なのかしら!』

『映画も面白かったわよねぇ!
 しかもリピーターが続出で、ほかの映画の上映に差支えが出ちゃってるみたい。
 ディスク媒体の発売日は半年先だけど、
 これは歴代興行収入ランキングを塗り替えるのが確定してるわよね』

『アキト様ったらあんなに強いのに戦争で人が死ぬのを嫌がってるし、
 映画の内容も戦争を終えてそのあと夢をかなえるって感じで、
 いいわよね~あの幸せそうな顔みたら、
 戦後の夢も叶えてあげたくなっちゃうわよねぇ!』

『そうそう!
 恋は戦争、奪い合い、騙し合い、幻滅させ合い、ののしり合いというけれど、
 あんな純真そうなアキト様はそういうのには無縁そうだものねぇ!
 平和が来たらユリさんと一緒に食堂で過ごす!
 ファンの子たちは、あの笑顔を現実にしたいって思ってるのよね!
 世の中も、戦争放棄に動き始めちゃったのよね~!びっくりしちゃった!
 
 …まー、私のこころは雨模様ですけどねー…』

『あんたまた失恋したのぉ?
 懲りないわねぇ』

『年頃の女の子が、悪い男一人に懲りたくらいで恋愛捨てられるもんですかっての!
 …でもショックだなぁ、ロリコン趣味で私の妹とくっついちゃうんだもん、
 もう、二人ともしばらく絶交よぅ!』

『あんたもお人よしだからねぇ~~~。
 しばらくってことはそのうち許してあげるんでしょ?
 あんたみたいな優しい子だったらそのうちいい王子様が来てくれるわよ』

『だったらいい男紹介してよ~~~~~!!』

『いーやっ!
 いい男がいたらまず私がとっちゃうもん!』

『いけずーーーー!』

『でもでも相手の考えが自分と合わないと、
 あっさり崩壊しちゃうものじゃないかしら?』

『でもでも愛情が深ければ深いほど?
 それはそれで取り返しがつかないことになることも多いのかしら?』

『ああ~あるある、病んで相手を束縛したり、
 後々愛憎劇に至っちゃうとかザラなのかしら?』

『人を好きになるも嫌いになるも世の常!
 恋する阿呆に、臆する阿呆!
 同じ阿保なら恋せにゃソンソン!ってねぇ!
 自分の恋を諦めるなんてアホらしいじゃぁないの!
 全力でやってこうじゃないかしら!』


『かしらかしら!』


『かしらかしら!』


『『ご存知かしら~~~~~~~~!』』

















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・トレーニング室──ガイ

…俺たちは…地獄を見ていた。

テンカワアキトがホシノアキトと特訓をする中、
俺たちは俺たちで特訓を続けていた。
艦長の提案で、火星で何が起こるか分からないので出来る限りのレベルアップが必要と、
火星に到着するまでに出来るだけ全艦訓練を増やしていたんだが…。
その訓練にすらテンカワとホシノは顔を出していた。どんだけだ。

ちなみに俺たちは保安部じゃないから白兵戦をやらないので、
あの二人の格闘の特訓にたまに付き合うのは俺だけだった。

ナデシコが出港して一ヶ月の時期では、俺とテンカワはほぼ互角だった。
だが僅かその一週間後…俺はテンカワに瞬殺された。
タフさにも自信があったし、テンカワの癖は一ヶ月でよく知ったつもりだった。
なのに俺の身体は宙に浮いて…受け身を取れないままたたきつけられそうになったのを、
とっさにホシノアキトが横方向に蹴り飛ばして、頭から落とされるのを防いでくれた。
手荒だったが、下手したら脳挫傷か首の骨をやられた可能性があったそうだ。
……な、何を教えたんだ、ホシノアキトは…。

その後、ついにテンカワアキトはブラックサレナ…。
しかもあの真っ黒い悪役のようなデザインの方に乗ることになった。
もちろん、実戦じゃなくシミュレーターだが…。

…そして火星まで残り、一週間となった今。
四日間を死ぬ気で訓練するとホシノアキトは言い放った。
残りの三日はしっかり休んで英気を養う。
そのために、訓練時間を普段の倍、六時間も取ると。
そのスケジュールを伝えた直後…。

「もう一段階、訓練のレベルを上げるぞ。
 俺はこの四日の間は昔に戻る」

ホシノアキトが言い放った時、場の空気が凍り付いた。
俺たちが出会った、ヤドカリに支配されたブラックサレナ…。
過去の冷たいホシノアキトの心を宿らせたあの悪魔のような機体…。
そのころに戻る…俺たちは冷や汗がどっと出るのを感じた。
あの二度の戦いは、生きた心地がしなかった。
それを、後四日間続けなければいけない。
…地獄の日々の幕開けは、怯えとの戦いだった。

ホシノアキトの駆る、白いブラックサレナ。
宇宙空間でもどこでも目立つ色をしている機体を、俺たちは捕らえられなかった。
ヤドカリに支配されたブラックサレナと性能・戦術は同じだったが…。
判断力と反応、予測力がけた違いだった。
五対一。
それも、ホシノとテンカワのは機体が同じ性能で、
俺たちのほうが圧倒的に有利なはずなのに、圧倒的な不利に追い込まれていた。


『くそぉっ!
 どうして当たらないんだよ!?』


『落ち着きなさい、リョーコ!
 ラピッドライフルじゃ足止めにもならないわ!
 フィールドを中和して攻撃するか、徹甲弾のキャノンじゃなきゃ…っ!?』


どごーーーん…。



イズミの砲戦エステバリスが爆発した。
牽制のミサイルをばらまこうとしたところで、
機体の加速度を使って速度を増したバルカン砲でフィールドをぶち抜き、
さらにミサイルサイロの部分を直撃して、信管がオンになったミサイルを爆破しやがったんだ。
あまりに容赦ない、そして無謀としか思えない突撃から繰り出される攻撃…。
そしてウインドウから見える、ホシノアキトの冷たい表情…。
シミュレーターだってのに、汗も震えも止まらない。

『どうした?
 ガイ…俺は無防備だぞ…?』

「!!」

俺はホシノアキトの挑発に乗って、いや、怯えてライフルを上げたが、
そのライフルの銃口にバルカン砲の弾を直撃させやがった!
暴発するラピッドライフル巻き込まれて、俺のエステバリスは揺れた。
ミサイルサイロよりよっぽど小さい銃口を狙いやがった!!

…そして俺はあっさりブラックサレナに体当たりされて、死亡判定。
敵戦艦や巨大チューリップをぶち抜く威力があるんだ。
そりゃ死ぬわな…。

『ヒカル…おめーもおっちんだか…』

『うん…本当に死んじゃったみたいな気分…。
 やられちゃったら、真っ暗で、何もできないっていうのはいつも通りなのに…。
 も、もう怖くて動けないの…自分の身体じゃないみたい…』

『ああ…死んじまったらこんな気分なのかもな…。
 容赦ないよな、あいつ…』

『…でも、こんな風になっちゃうの、嫌だよね…。
 やりたかったこと、まだたくさんあるのにって…泣いちゃいそう…』

普段は白々しく感じる、撃墜時のシミュレーターの振動装置が嫌にリアルに感じた。
ホシノアキトは…シミュレーター越しにも感じるような殺意を見せてきた。
圧倒的な化け物に出会った気分で…怖くてしょうがないってのに…。

…でもその突き放すような、存在を否定してくるようなその殺意の中に…。
死んだら何もできなくなるぞ、すべてを失うぞ、何としても生きろと言うような…。
なぜか…どこか悲しさと、優しさを感じた…。

…変な奴だよ、本当に。
世界一の王子様じゃなくて世界一の殺し屋になれそうなほど、
殺す技術も、それに耐えうる精神力も能力もあるくせに…。
人が死ぬのを、死ぬほど嫌がってる…。

…いや、なんかわかるな。
お前は…人を殺すと自分の心が死ぬことを知ってるのか…。
誰にもそういう気持ちになってほしくないからか…?

やっぱ…お前はヒーローだぜ、ホシノアキト…。
悔しいな…。

ゲキガンガーそのものにはなれねぇって分かってても…。
お前みたいに存在そのものがヒーローになれるような、
本当の悲しみを知ってる、本当に優しい男になれるなんてな…。

…けど、折れちゃいねえ。
俺は俺で、お前に負けない男になって見せる…。

ゲキガンガーに誓ってな……!




















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・トレーニング室──ユリ
私はアキトさんの容赦ない戦いぶりに…目が離せませんでした。
六連と北辰と戦ってる姿以上に、危険なアキトさんの戦い方…。
あの時は多数が格闘で追い込んできたからこそ、アキトさんの方が不利になっていたけど…。
実は未来のリョーコさん達が六連に優位に戦えたのは、射撃武器が不足しており、
機体性能的にも防御力が低いから射撃で追い込むと勝てるからだったんです。
アキトさん曰く、北辰だったら装甲の隙間を見つけて攻撃してくると。
しかもブラックサレナの仕様を見て、フィールドキャンセラーを準備してきたため、
あの条件だと一か八か装甲パージで攻撃を受け流すしか方法が取れなかったそうです。

しかし、今のアキトさんはと言うと…。
ブラックサレナの防御力が段違いで、大抵の射撃武器を無効にしてしまいます。
フィールドキャンセラーなしの状態だとこんなに強固なんですね…。

攻撃が通じない以上、後手に回るしかなく、追い込むにも限度があります。
そうなると各個撃破されやすくなってしまい、リョーコさん達は手も足も出ないで全滅。
現在の技術では少なくとも中隊規模のエステバリスを、しかも手練れでそろえる必要があります。
リョーコさん達も腕を上げてはいますが…数も、武装も心もとない状態では勝ち目がありません。
フィールドランサーで中和をしようにも当てさせてくれるアキトさんではありませんし。

『遅い…!』

『ぐあっ!?』

アキトさんはテンカワさんのブラックサレナを叩き伏せると、
かろうじて反撃に転じようとしたテンカワさんのブラックサレナの前でバク転のように舞い、
テンカワさんが行動の不可解さに疑問を持ってる間に、
テールバインダーでアサルトピット周辺の装甲をはぎ取られて、
直後にバルカン砲で打ち抜きました。
この戦い方はブラックサレナの構造をよく知るアキトさんだからこそできる、
ちょっと反則的なところはありますが火力の高いハンドカノンではなく、
バルカン砲でやっつけてしまうなんて…。

『未熟だな、テンカワ』

死亡判定が出て、アキトさんが北辰のような挑発をしてシミュレーターから出てきました。
テンカワさんはショックが大きかったのか茫然としているのか出てきません。
しかし…。

「ぐっ…」

「アキトさん!」

「る…いやユリちゃん…すまない…」

アキトさんは膝をついて息を切らせてしまい、私はかろうじて体を支えました。
アキトさんはせいぜい全力戦闘は一日三十分が限界です。
それなのに休憩をはさんで、無理矢理一時間くらい戦ってます。
そうでなくてもこの状態で精神を保つのは厳しいのに…。

「…情けないな。
 あの頃よりはよほどマシだというのに」

「全部昔に戻れるわけじゃないんです、
 強がってないで肩くらい借りて下さい」

「頼れるな…ふ…君は俺なんかよりよほど強いよ…」

「勝手に言っててください、バカ。
 ハードボイルドぶりっこしてる場合ですか」

私もつられてちょっと昔に戻ってるのか、ちょっといつもよりは辛辣になりますね。
でも、昔ほどは不安になりません。
アキトさんはもう、完全に黒い皇子に戻ることはありません。
あの過去を乗り越え、そしてユリカさんが…ラピスに変わってしまったとはいえ生きている。
そんな状況だったら、戻るはずがないんです。
あと一息で自分の夢をかなえられるかもしれないんですから。
だから私も歯を食いしばってアキトさんの身体を支えてます。
涙もろくなって涙が止まんないのを気にしてる場合でもありませんし。

「…助けてくれてごめんだけど、ユリちゃん。
 しばらくユリカかルリちゃんの部屋で寝た方がいい。
 こんな俺の姿を見てほしくない」

「……。
 私も見たくありません。
 じゃ、しばらく寝る時は別居ってことで」

私達はお互いの意見の一致を見て、
アキトさんを私達の部屋に送ると、すぐに立ち去りました。
…本当は心配で、悲しくて、離れたくない気持ちの方が大きかった。
でも……だからこそ離れないといけないんです。お互いが大事であればあるほど。
でもいたたまれません…。

「…ユリちゃん」

「ユリカさん…」

私達の一部始終を見ていたのか、ユリカさんは言葉を選んでいたようですが…。
諦めて首を横に振りました。

「……ごめん、なんでもないの。
 今日は私の部屋で寝る?」

「…はい。
 ありがと、お姉さん…」

ユリカさんは、もうとっくに確信に至ってます。
だからこそ、なんにも言わないでいてくれるんでしょう。
……ごめんなさい、本当に。


私はその晩、ユリカさんの部屋で、ユリカさんとルリと、一緒に眠りました。
なぜか二人は私をはさんで、一人用のベットで無理矢理。窮屈なのに。
私を心配してくれたんでしょうけど…でも、とっても安心しました。

…変なものです。
私のユリカさん…テンカワユリカさんは、ラピスになってしまって…。
それでもこの世界のユリカさんと姉妹関係で居るのが嬉しいのは変わりがなくて…。
同じ人間が二人いるというミスマッチを受け入れて、違和感を覚えていないんです。

やっぱり私達は純然たる「テンカワアキト」でも、「ホシノルリ」でも、
「テンカワユリカ」でもなくなっちゃったからですね。

近くにいるのは昔の自分のはずなのに、自分自身とは思えない…。
やっぱり、身体から離れたら自分自身ではなくなるってことでしょうか。
…まあ、今さらそんなことどうでもいいんですけど。
火星から戻れたら…まだ不自由はあるかもしれないですけど戦いを捨てられるかもしれません。

そうなったら今度こそ私達…幸せになれるかもしれないんですから…。



















〇地球・中国・重慶連合軍基地・ドック・ユーチャリス・ブリッジ──ハーリー
僕はラピスさんに呼び出されて、ちょっとだけオペレーターのお仕事を教わってた。
僕も研究所でいっぱいお勉強したけど、ラピスさんとルリさんの足元にも及ばない。
すっごいなぁ…でも。

「ラピスさん、大丈夫なんですかぁ?」

「…大丈夫だから、集中してね。
 ハーリー君」

「でも…」

「調子悪くなったらハーリー君に代わりをお願いしないといけないから。
 気にしてくれるなら、ちゃんと覚えてくれるとラピスお姉さん助かるなぁ」

「は、はいっ」

僕はラピスさんの言葉に背筋をピンと伸ばした。
…でも何か、横で見てるラピスさんの辛そうで寂しそうな顔が頭の中から消えなかった。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


そしてラピスさんのマンツーマンレッスンが一段落すると、
僕たちはリフレッシュルームで、並んでジュースを飲みながら休憩した。
ラピスさんがふらふらしながら部屋に戻ろうとしたので、
せめて少し休んでいって欲しかった。
ラピスさんは仕事があるからと断ろうとしてたけど、
ダッシュにも説得されてようやく身体の力を抜いて、椅子に座った。
ダッシュが休憩を勧めるなんて、やっぱり…普段から無理してるのかな。

「ラピスさん、お医者さんに見てもらった方が…」

「…うん、不眠の相談はしてる。
 睡眠薬も貰うけど、ナノマシンのせいかあんまり効かなくて…」

「そうなんですか…」

僕は返事もそこそこに心地悪くオレンジジュースを口にすることしかできない。
……あの明るくて頼りになる、太陽のようなラピスさんがこんなに弱っちゃうなんて。
僕…全然ラピスさんの事をしらないんだ…。

「あの、良かったら少しくらい…僕じゃ何にも分からないけど…。
 お話してくれませんか?」

「…ハーリー君、優しいね」

ラピスさんは僕の頭を撫でてくれた。
なんか…お義母さんの事を思い出して僕は安心してしまった…。
もう少ししたら戻ってくるけど…。
今日はお義母さんとお義父さんは僕のお仕事の内容について、ネルガルとお話に行ってる。
その間、ラピスさんは僕を見てくれるということになって…。
でも僕は、なぜかラピスさんに不安を抱いていた。

「…ラピスさん、居なくならないで下さい」

「!」

ラピスさんは僕のことをびっくりした顔で見つめた。
どうしてか…理由は全く分からなかったけど…。
ラピスさんが、もうちょっとで居なくなってしまう気がして…怖くて。
予感、みたいなもの、かな…。

「…どこにもいかないよ、ハーリー君」

「ホントですか!
 良かった!
 ホシノアキトさんのお話ももっと聞きたいし、
 僕一人じゃユーチャリスを操れないと思って…。
 それにラピスさんって時々言葉はきついけど優しい人ですから、
 一緒に居てほしいんです!」

ラピスさんは一粒の涙をこぼして、顔を抑えて泣き始めてしまった。
な、何かひどいこと言っちゃったかな…。

「ご、ごめんなさい、ひどいこと言いました?」

「違うの、ハーリー君があんまりいい子だから…嬉しくて…」

「そう、ですか…」

お義母さんも僕をよく褒めてくれるけど…。
こんな風に泣くなんて見たことなかったからびっくりした。

「私、ハーリー君みたいな子供が欲しいな…」

「ラピスさんも将来結婚すればいいじゃないですか。
 美人で仕事もできて、優しいから絶対誰もほっとかないです」

「…ううん、ダメなの。
 一番大好きなアキトにはユリちゃんがいるし、
 …私…子供を作れない身体みたいだから…。
 だから一生結婚はしないつもりなの」

…今度は本当に悪いこと言っちゃったかな。
ラピスさん、今度は本当に寂しそうにうつむいてる。

「…でも、僕みたいにもらわれっこを…頼む方法だって…」

「それもいい、かな…。
 ……。
 

 ね、ハーリー君、私の子供にならない?」



「えっ!?」



「…ダメ?」

「……ごめんなさい。
 僕、お義父さんとお義母さんも大好きだから…」

「…そうだよね」

僕の言葉を聞いて、ラピスさんは困った顔をして、また涙をこぼした。
急すぎて断っちゃったけど…。


「…振られちゃった……。
 頷いてくれたら引き返せたかもしれないのに…」



「え?」

「ううん、何でもないの。
 …じゃ、ハーリー君のお義父さんとお義母さんが戻るまで、
 私もちゃんとお休みするから。
 一緒に映画見よっか?」


「えっ!?ホシノアキトさんの映画ですか!?
 見ます見ます!」



「それじゃお菓子とジュースも買ってあげるね。
 何にする?」

「やったぁ!」

僕とラピスさんはリフレッシュルームに備え付けられていたお菓子の自販機に向かった。
それからラピスさんの部屋で、大きなスクリーンで映画をみた。
ホシノアキトさんの主演映画『ダイヤモンドプリンセス』。
艦内でよく上映することがある、この映画。
この映画でますます僕はホシノアキトさんのカッコよさに心酔した。
でも最後に、戦うことより平和な世界で普通のコックになる、二人のアキトさん…。
僕はかっこいいまま戦い続けてほしいって思ったけど…。
…アキトさんがもしかしたら死ぬかもしれないなんて耐えられない。
だから…すべてが終わったらアキトさんにも本当にコックになってほしいなって…。
映画を見ながら、お義母さんみたいに僕を抱きしめてくれる、とっても優しいラピスさんも…。

それから、二時間ほどして…僕たちが映画の一作目を見終わったあたりで、
お義父さんとお義母さんが迎えに来て、外食のために外出することになった。
ラピスさんも誘ったんだけど、ホシノアキトさん関係の監修のお仕事があるからと断った。
……残念。

「ハリ、ラピスさんとの一日はどうだった?」

「うん!楽しかった!
 …でも、ラピスさんが…最近辛そうなんだ…」

外出先の個室の中華料理店で、コース料理を食べた。
僕もお給料が出たので、ごちそうしようと思って…。
食事をあらかた食べた後、僕は今日の出来事について話し始めた。
ラピスさんが疲れ切ってやつれていること、僕を子供にしたいと話されたことも、全部。
そうしたら、二人とも真剣に考えてくれた。

「ハリ、ラピスさんに話されたことは決して誰にも言っちゃだめだよ。
 ラピスさんもホシノアキトさんと同じで、苦労してきたんだろう。
 だからこそ、変な噂を立てられないように秘密にするんだ。
 いいね?」

「は、はい」

「あなた、ラピスさんは冗談やお世辞でハリを引き取りたいと、
 言ってたわけじゃないと思うんです。
 …恋も体もままならなくて、
 自分の将来に希望が持てなくて…本当に悩んでるんですね」

「…そうだな。
 若干12歳でオペレーターにも芸能にも活躍するラピスさんほどの才覚があると、
 ハリの保護者でしかない私達が出来ることなどなさそうだ…」

「…ごめんなさい、お父さん、お母さん…」

「ハリ、気にしなくてもいいんだよ。
 ちゃんと相談してくれて嬉しいよ。
 お前は私達の子なんだから」

お義父さんは、僕の頭をなでてくれた。
僕のお義父さんとお義母さんも不妊で、里親として名乗りを上げてくれた。
ラピスさんの悩みも他人事じゃないって思ってくれてるのかな…。

「ハリ。
 ラピスさんの言う通り、オペレーターとしてこれからも頑張りなさい。
 それが今、唯一ハリがラピスさんにしてあげられることなんだから」

「そうだ。
 それだけでも、そばにいるだけでもラピスさんの支えになれるんだ。
 ハリはとても深い悩みを言ってもらえるくらい信頼されてるんだよ。
 出来る限り応えてみなさい」
 
「…はいっ!」

僕はラピスさんの役に立てないと思ってたけど、違うんだ。
今まで通りに、そして今まで以上に頑張っていけばいいんだから…!


「僕、がんばります!」



僕が声を張り上げると、お義父さんとお義母さんはにっこり笑ってくれた。
この時は気づかなかったけど…。
僕はこの時、ラピスさんに生まれて初めて恋をしたんだ。
そして、彼女を守るだけの力を…そして彼女の心を救える方法を欲しいと、
心の底から願い始めていたんだ…。



















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・トレーニング室──テンカワアキト
俺はシミュレーターで必死に戦っていた。
ちょっとウリバタケさんとユリさんとルリちゃんが手を入れたらしい、
改造シミュレーターが見せる、やたらリアルな映像とGに辟易しながら、
内臓を吐き出してしまいそうな感覚を押し殺してホシノと対峙し続けた。

──今日が火星に行くまでの訓練の最終日だ。
あと四日で火星に着いてしまう。
ここまでにホシノに、一太刀も浴びせられないことが続いていたが…。


「くっそおおおおおおっ!!」


『どうしたテンカワアキト…。
 そんなことで「ユリカ」を守れるのか?』



俺はホシノの問いかけに、返事をするより早くハンドカノンの連射を行った。
このハンドカノンは基本はラピッドライフル系の実弾兵器で、弾数が少ない代わりに口径がやや大きい。
セレクターを切り替えるとビーム砲にも出来るらしいが、フィールドを無効化しないと聞かないし、
木星トカゲの装甲に対してはそもそも効果が薄いから10発しか撃てないようになってる。
こいつはフィールドを無効化した時の必殺兵器みたいだが…。

そんなことよりもこんな悪役のようにふるまう…いや。
ホシノの邪悪な部分に対峙して、逃げたくなる気持ちでいっぱいだった。
みんなが怖いという気持ちを抱くそばで、俺は一人だけ違う感想を持っていた。

目を背けたい。

こいつは俺と違う人間だと、地球に居る間ずっと思っていた。
俺よりぼうっとしてる時があって、俺よりずっと素直に気持ちを言える性格で…。
それで段違いの力と技を持っている、全てにおいて俺を超える存在だと思っていた。
…思い込もうと、していたんだ。

だけどこの一ヶ月の間、一緒に特訓して、さらにシンクロ特訓に切り替わり、
そしてブラックサレナ同士で対峙している今、俺はホシノに自分と同じものを感じていた。

真似していているだけの技がぴったりと一致していった。
呼吸さえも、癖さえも、声の上げ方さえも。
筋肉量で劣っていて、技術もまだ見劣りするはずの俺が、
ホシノにつられるように、急激に、

肉体が。

脳髄が。

思考が。

精神が。


極まっていくのを、感じていた。
僅か二ヶ月足らずの鍛錬、教えてもらった柔術、パイロットの操縦技術が。
授けられた『鎧のエステバリス』ブラックサレナがなじんでいくのを感じた。

そしてホシノの冷たい声が、その中にある痛ましい心の叫びが、俺にすべてを気づかせた。

同じだ。
こいつは別人じゃない。
普通は兄弟でも、双子でも絶対に重ならないくらい重なってくる。
俺と同じなんだ。
俺と同じで、コックを目指していて…ユリカが好きなんだ。
ホシノは叫んでいる。


もうユリカを死なせたくない。
テンカワ、お前が守るんだ。
誰にも奪わせるな。
その手で守れ、決して離すな。



そう叫んでる。
こんな矛盾してる…破綻している理論を、俺は受け入れ始めていた。


ガッ!ガツッ!ガコンッ!


『おいっ!?
 テンカワァ!!どこでそんな強くなったんだよ!?』



先ほどまで翻弄されているだけだった俺が…。
だんだんとホシノとの差が埋まってきた。
急激に、俺の時間が遅くなって…見えないはずの動きが見えるようになっていった。
俺がホシノの間に繰り出される技がことごとく交錯して、
相殺し合うのを見て、リョーコちゃんたちは戦慄しているようだった。

結局、ブラックサレナを相手にできるのはブラックサレナだけだ。
少なくとも追いつける武器がない限りは、ディストーションフィールド同士で中和するしかない。
だからみんなは一度周りで待機して、もし打ち合って俺が負けそうになったら、
加勢する形をとるしかないという作戦になり、待ってくれていた。

俺も逃げたい、目を背けたいという気持ちに反して…心は、妙に落ち着いていた。
同じ動きが出来る。裏切られたりしない。
そういう安心感すら感じて、俺はこの二ヶ月の間に繰り返された技をすべて繰り出していた。
ブラックサレナの、決して広くない可動域で繰り出せる動きで。
俺たちは装甲の表面が砕けてバッテリー部分が露出しているのすらも気にせず、無防備に打ち合った。


ガッ!!



そして俺たちが打ち合って、すれ違った時。
だが、お互いの機体がいたるところで火を噴いて、漏電が起こっているのを見て、
ついに俺たちは自分たちの限界が近いことを意識した。

『行くぞ』

背筋が震えた。
コミュニケのウインドウ越しに見える、
顔に浮かぶナノマシンの文様、発光する髪の毛、そして爛々と輝く金色の瞳が見えた。
ホシノは最後の最後まで攻め立てるつもりだ。

…抜き打ちで来る!

あの佐世保の戦いと同じに!
あの時の、ヤドカリに支配されたブラックサレナと同じに!


グアッ!!


『『テンカワァ!』』


『『テンカワ君ッ!』』



俺たちが同時に激突しようとした瞬間。
みんなの声が聞こえた。
走馬灯のようにすべてが駆け巡った…。



ユリカと過ごした子供時代。

父さんと母さんが死んだあの日。

養護施設でそだった日々。

バイトづくめの苦学生時代。

あの避難シェルターでの出来事。

佐世保での修行中の日々。

パイロット崩れと揶揄されたこと。

パイロットとしてスカウトされたこと。

PMCマルスでホシノと一緒に戦って佐世保を取り戻したこと。

ホシノが暗殺されかかって、立ち尽くしたあの日。

ユーチャリスでナデシコ班のみんなと戦ってきたこと。

ユリカと少しずつ仲良くなれてきたこと。

ルリちゃんがお姫様だと判明したこと。

ルリちゃんを助けるためにピースランドへ一緒に助けに行ったこと。

ルリちゃんとホシノ、ユリさんの出生が身勝手な大人の都合だったと判明したこと。

夏祭りでみんなでラーメン屋台をしたこと。

ヤドカリに支配されたブラックサレナと戦ったあの時。

ホシノがサイボーグと戦うのを見てるしかなかったこと。

映画を撮ることになって、ホシノに怒ったこともあったっけか…。




そして今…。
ホシノにかろうじてついて来れた…だから!
相打ちしてでも、勝つ…!!

『アキトォォォォッ!!』





グシャァッ!!


『『『『ああっ!?』』』』



ユリカが俺を呼んだ時──。
俺のブラックサレナの、アサルトピット部分にホシノのブラックサレナの拳が突き刺さった。
ブラックサレナ同士の速力で突っ込んだら、どこをどうやったって助からない。


だが……終わっちゃいないぞ!!



「うおおおおおおっ!」



『なっ!?』


「俺は…ッ!


 俺は……諦めないッ!!



 相討ちじゃダメなんだッ!!」



そうだ、相討ちじゃダメなんだ!
ユリカとみんなが助かっても俺が死んだらダメなんだよ!

ユリカを守り続けるためには生き続けるしかないんだよッ!

ホシノは正確に俺のアサルトピット部分に拳を撃ち込んだ。
だが、一瞬で僅かに機体をずらして装甲部分だけを弾き飛ばすようにコントロールした。
出来た…そして!


「もらったぁあっ!」



俺はブラックサレナの腕部だけをパージして、エステバリス部分からイミディエットナイフを取り出して、
ブラックサレナの肩スラスター部分を一方的に切り刻んだ。
装甲を貫くのは無理でも、コントロールを失うようにスラスターをつぶす!
ブラックサレナの構造を理解してるからこそできることだけど!
動きを奪えば勝てる!
だが、ホシノも装甲パージをしてくるだろう。
それが命取りだ!


ブアッ!ガッキョンッ!


『ぐあっ!?』


「バルカン砲を撃たなかったのは判断ミスだったな!」


『二連撃!?
 おいぃ、テンカワやるな!?』



俺は装甲パージのために一瞬動きが止まったホシノを追撃、
パージしてしまったのでエステバリスの腕になった拳で一撃を繰り出すと、
そのまま殴りぬけるように回転して、
テールバインダーでホシノのブラックサレナ…いやエステバリスをもう一撃した。
そして…。


ギリギリギリギリ…!



『ぐ…ぐううううっ!』

「勝負ありだ、ホシノ!」

俺はホシノのエステバリスに絡まったテールバインダーを腕でひっつかむと、そのまま締め上げた。
元来のパワーは互角だが、本体にバルカン砲などの装備がないエステバリスでは、
このように密着されると無防備になる。イミディエットナイフはもう引き抜けない。
…要するに、詰みだ。

『俺の…負け…か?
 …だがテンカワ…シミュレーターなんだぞ?
 ちゃんと撃破していいんだぞ』

「…それでも、嫌なんだよ。
 お前を殺すなんて。
 降参してくれ」

『…甘いな。
 自爆装置でもついてたらどうするつもりだ』

「そういう話はしてないだろ!?」

『…いや。
 お前が正しいな…。
 
 ……参ったよ』

ホシノはどこか照れくさそうに笑うと、
降参のボタンを押してギブアップの文字が表示された。


『『『『テンカワ(君)が勝った!!』』』』


『アキトぉっ!』



俺はほっとして、シートに身体を預ける。
みんなの声が聞こえたが、もう限界ギリギリで…呆けていたが…。
ユリカがシミュレーターの中に飛び込んできた。

「アキトぉ!やったね!」

「あ、ああ…」

涙目のまま、ユリカは俺に抱き着いてきた。
な、なんか…本当の戦いで生きて帰ってきた時みたいになっちゃったな…。
…でもホシノはシミュレーターとはいえ、本気の殺意で向かってきた。
それは…そういうリアクションにもなる…のか?


ドサッ!


「お、おいホシノアキト!?
 平気かぁ!?」


俺がユリカとシミュレーターから降りると、ホシノは突如崩れ落ちた。

「あ、ああ…ちょっと、エネルギー切れなだけだから…」

「…また強がって。
 でもいつも通りになってくれましたね、アキトさん」

「…うん。
 もう、ああなる必要もなさそうだし…。
 ご、ごめん…限界超えちゃったみたいで目があんまり見えてないんだ…」

「無茶しすぎです。バカ」

ガイが心配したように、ホシノはもう髪の色も瞳の色も黒になってる。
…ホシノが前に言っていた通り、こっちが本来の色なんだろうな。
全部の力を使い切って、連合軍特殊部隊に撃たれた時と同じに、
ナノマシンの大部分が休止したんだな…。

「ご飯食べて復活してください。
 ヤマダさん、肩を…」

「ユリさん、俺が連れてきます」

「アキト?」

「ちょっと話したいことがあるんだ。
 …みんな、少し休んでから食堂に来てくれ」

ユリさんがガイに肩を貸してもらおうとしたところで、俺が名乗り出た。
…ホシノに鍛えられた恩も、あるしな。
少しくらい、手を貸してやるのもいいだろう。
聞きたいこともあるしな。
本当に双子のようにそっくりになった俺たちは、トレーニング室を後にした。


















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・廊下──ホシノアキト
俺はテンカワに肩を貸されて、歩き始めた。
なんとなく察してはいたものの、テンカワは…。

「…ホシノ、お前、タイムスリップしてきたろ?
 それも俺…未来の俺なんだよな?」


「ぶっ!?」



…小声だったとはいえ、ルリちゃんやユリカ義姉さんほど隠さない聞かれ方に俺は吹き出した。
お、俺は…バカで配慮がないだけにこういう言い方しかできないのか…。

「…いつ気付いた?」

「地球から出る前に疑問に思ったんだよ。
 お前、ヤクザにさらわれたユリさんを助けるために俺の自転車かっぱらっただろ?
 あの自転車にかかってたナンバー式のチェーンロックのカギが…その場に落っこちてた。
 お前のことだから腕力で引きちぎってもおかしくないが、無傷で落ちてたんだよ。
 俺しか知らないカギの番号を、お前が知ってるわけないだろ」

「そ、そんなことで…」

……俺もあの時は混乱してたから気が付かなかったけど、そういえばそうだ。
テンカワに借りた自転車を返さないで、放置自転車扱いで市に回収されてしまったと…。
ブラックサレナのヤドカリ騒動の時にテンカワから二千円返せと言われて、
全部釈明して二千円返したけど…ま、まさかそんなことで気づかれてたなんて…。

「いや、特訓のシンクロと今日の対決がなかったら気が付かなかったよ。
 …それとユリカに対する態度まで込みだったら俺でも気づくよ。
 ユリカも気付いてるような思わせぶりなこと言ってたし、
 その時は状況証拠しかないから相談できないって言ってたけどさ」

なるほど、状況的に条件はそろってたんだな。
最後のひと押しに、自転車のチェーンロックがあったわけだ。

「…色々あったんだよ、俺も」

「そりゃ分かるけど。
 それに事情が込み入ってるからすぐには話せないんだろ?
 ……タイムスリップの方法があるってだけでも十分大事だからな」

…そもそも、今までユリカ義姉さんとルリちゃんが言わなかったのが不思議なんだよ。
事情を鑑みたら言わないのが適切だったとはいえ…。
またバカな自分の一面を見たようで嫌にはなるけど。
でもテンカワもボソンジャンプについてうすうす勘付いてもいそうだな…。
まあ普通は場所移動と時間移動がセットになってるとは思わないだろうから大丈夫だ。
……と思う。

「悪いな…そのうち話すよ」

「気にしなくてもいいって。
 …でも変な気分だよな、自分がもう一人いるなんてさ」

「でも俺は安心したよ。
 体質が変化して弱くなったから…。
 お前が俺を超えられたから、ひとまず安心だ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。
 たった一回まぐれで勝てただけでそんな風に言われても…」

うろたえるテンカワに、俺は笑って答えた。

「あの一回で十分だよ。
 …俺だったらあの状況だったら撃つ。
 俺もシミュレーターだったら容赦なく撃てる。
 だがお前はシミュレーターでさえ、
 相手の命を断つことを嫌って、そのうえでしっかり勝った。
 
 …ここまでできれば、お前はもう大丈夫だよ。
 もっとも、ここまで教えたのは技と技の使い方だけだ。
 まだ先がある。
 考え方もそうだけど、普通に鍛えるだけじゃ届かない部分だ。
 その先の部分があるからお前がまだ完全に追いついてないと感じるだけさ」

「…まだ鍛えろってか。
 ……途方もないような話に感じるけどな」

「ああ、時間はかかる。
 …だがユリカを最後まで守るなら、必要だぞ?」

今度はテンカワは、うっとよろめいた。
……ここまでのことをすべて考えたら、
未来の俺…テンカワアキトがユリカを失ったという事実が見える。
そしてユリカを失わないためにはここまでの特訓が、
ブラックサレナという機体が必要だった事実も見えてくる。
だからやらないという選択はできないだろう。

「…はぁ。
 コック修行の前に戦い方の修行かよ。
 できればそうならない未来を願いたいよ」

「…あいつらが、俺たちと同じ気持ちになってくれてるなら、
 そこまでしなくても済むがな。
 火星でそうなるかどうかが決まるさ」

「そっか…」

「それに…」

「なんだよ?」

「…いや、まだ早いな。
 火星に着いてからにしよう」

「分かったよ。
 …もっとも火星に無事に入れる保証はないけどな」

ほう、テンカワもちょっとは冷静になったか?
メグミちゃんと付き合い始めて、パイロットとしてもそこそこ戦えるようになって、
弱いくせに浮かれてた俺とは大違い………いや、悲しくなるから思い出すのやめよう。
アイちゃん…イネスさんのことや…フクベ提督のことも、今は早い。

「ああ。
 気を引き締めていくぞ」

「偉そうに言うなよ、ったく。
 お前のボケボケ具合の理由もそのうち教えろよ。
 ユリカとルリちゃんにも黙っといた方がいいんだろ?」

「ああ」

テンカワは浮かれてこそいないが、自信がついてきたせいか真実を知ったせいか、
俺にもさらに強く言うようになれたか。
……弟の成長を目の当りにした兄貴ってのはこんな気分なのかな。





──そして、その後、俺たちは残り三日をしっかり休んで過ごした。
組み手は十五分だけ、腕が落ちてないのを確認するためだけに軽く行って…。
もしかしたら最後の時間になるかもしれない大事な時間を過ごした。

火星が、俺たちの終わりの土地になるのか、始まりの土地になるのか。

そこで何が待ち受けているのか分からないまま、

ナデシコで火星に向かう中、俺は願った。

人類に対して何も恩恵をもたらさないだろう、
ボソンジャンプを永久に封印できることを…。

そして、ユリちゃんと…ラピスとなったユリカと…。
大切なユリカ義姉さんとルリちゃんと、お義父さん…そしてテンカワも。
穏やかな余生を送れるだけの世の中になることを…。

俺は憎しみを捨て去ることが出来そうなんだ…。
だから…。

草壁とヤマサキが、変わってくれていることを…信じよう…。























〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
火星に着く前に色々な人が動いております。
今回はユリカがテレビ版と違って暇ですが、その分みんな余裕があるせいか、
テレビ版以上にブリッジで集まって駄弁ってる状況が多いらしく、
各所で鍛えてたり悩んで足りなお話になりました。
できれば火星に到着させたかったけど、この倍も書くのはちっと大変なので、
次回がっつり書こうと思います。

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!


















〇代理人様への返信
>黒い皇子ならぬ黒い姫になりつつあるラピス。
>危ういなあ。
この点に関しては後ほど色々語られることにもなりますが、
アキトの方が黒い皇子の呪いから逃れると、どっか別のところが黒くなるってことですね。
どこに行ってもヤバいところを抱くのは普通だったのに、
ナデDアキトの不自然な能天気さの理由はここにあった。





>>「なにもかもお前が放置した孫娘のせいだぞ、クリムゾンッ!!!」
>(爆笑)
>いやその通りなんだが、あんなん予測できるかwwwwww
予想出来たらすごいんじゃなくて頭おかしいって思われますよね、どうかんがえてもw
普通起こらないことが起こってますからw
まさか戦争が落ち着く前にこんなことになるなんて誰が考えるかとw









>>攻撃しないなら無害と思ってるあたりがこわい。
>>現実的にホワイトハッカー募集とかの話があったりしてもヤバそうに感じますし。
>>完全に先入観ではありますけど…w
>「やる」じゃなくて「できる」ってだけで怖がるのが人間というもの。
>別に人を傷つけるつもりはなくても、抜き身のナイフ持って歩いてたらそりゃ怖いよ。
実際怖いですね。それだけの技術があるってなると。
ルパン5ndシーズンのヒトログでルパンが殺人をしてたのが広まって、
すぐ通報される世の中になったりするのを止められないのとおなじですねー。
でも真っ先に思い出したのはまさにハッカーのお話で、
ニンジャスレイヤーのハッカー道場の理屈でした。

「彼らは実際違法行為を行うわけではない」
「そのためマッポも無暗に取り締まれない」
「殺人方法を学んでいるからといって
 カラテドージョーをつぶせるだろうか?
 要はそういうことなのである」

…分かるけどよう分からんような。


















~次回予告~
こんにちは!ユリカです!
アキトがアキト君みたいに強くなっちゃってびっくりしちゃった!
でも、アキトはまだまだ足りないって言いながらどこか遠くを見てるの。
…で、でもね!アキト、なんか雰囲気が代わっちゃってすごいの!
ちょっと男らしくなっちゃったっていうか、でも優しさは変わらないって言うか…。
やだもぉ!デレデレしちゃうじゃない!
だから火星から無事に戻れたらいいな…。
きっと…今のアキトならお父様も認めてくれるもん。
ま、まだ戦いが一段落してないからそれからだけど!

それに…アキト君の悲しみが火星で決着がついてちょっとでも和らいでくれたら…。

た、たぶんなんだけどアキト君、未来のアキト、みたいだし?ね?ね?
だから木星トカゲさんの親玉さんも、お願いだから、ね!ね!

みんなで幸せになろうよぅ!




これドラゴンボールZ並みに引き延ばしになっちゃいねぇかと不安になる作者が贈る、
次回、怒涛の展開でお送りします系ナデシコ二次創作、













『機動戦艦ナデシコD』
第五十七話:duo-二重奏- その2










をみんなで見て下さい!









PS:この話を書いてたらスパロボDDでブラックサレナSSRパーツ、
  ハイマニューバ・ディストーションアタック(高機動ユニット)が出ました。
  まさかの引き寄せ…。

























感想代理人プロフィール

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代理人の感想

チェーンロックわろすw
でもわかったってことは、その数字黒の皇子時代まで使ってたのかなあw
セキュリティに鈍感な奴だw


>でもあんだけ食べまくって動きまくれる人の寿命が短いってこと、ありえるんですか?

強く燃える火は早く燃え尽きる――意外と単純な物理法則ですよ(私を月へ連れてって感)
めちゃくちゃ仕事してた手塚や石ノ森は早死にして、のんびり生きた水木は90まで生きたのがその証拠。

>カラテドージョーを
まあ人を殺すだけならカラテいりませんしねえ。
鉄パイプなり包丁なりで十分だしw





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