〇地球・アフリカ地方・ユーチャリス──ラピス
私達は相変わらずユーチャリスで戦っている…あれから一週間が経過した。
アキト達が地球に帰ってくるまで、すでに残り一ヶ月を切っていた。
アキト達が帰ってきたら、私とハーリーとダッシュちゃんはユーチャリスから降ろされて、
ユーチャリスは連合軍用に通常のオペレートシステムに変更される。
改修工事の間はナデシコが前線で戦って…。
ユーチャリス復帰後、私はアキトとユリちゃんともども、戦いから解放される予定だって。
確かにムネタケ提督もすごい実力になってきたし、大丈夫だとは思う。

…嬉しいけど、ちょっと複雑。

アキトが戦いから解放された後、きっと別の戦いが始まる。
みんながきっと守ってくれるとは思うんだけど…まだまだ狙われ続けると思うから。
何年かちょっと我慢してるくらいで済めばいいけど…。

そういえばテロリストはどうしたのかなぁ。
ラピスちゃんがダッシュちゃんに伝えた方法なら確かに大丈夫だけど…。

うー…なんか尾を引かないでいてくれるといいんだけど。


















『機動戦艦ナデシコD』
第六十五話:disable-無効にする-




















〇地球・中東地方・テロリスト秘密基地
人気のない荒野に巨大な地下基地が存在していた。
ここはラピスが仲介に仲介を重ねて極秘裏に建造させた基地で、
作りは簡素なものの、武器の保管、整備機能は十分に有している。
そしてついにステルンクーゲル100機の納入が近づいており、
自軍の戦力を誇示するための決起集会をするために、テロリスト集団のほぼ全員が集まっていた。
このテロリストたちこそが、ラピスを暗殺するためのウイルスを届けた張本人たちだった。

『諸君…ラピスラズリの暗殺は失敗した…。
 だが我々のスポンサーはその成功報酬のステルンクーゲル100機を、
 そのまま納入してくれると言ってくれた。
 

 …我々『黄昏の戦団』の、聖戦を助けたいということだ。
 
 我らが、あの傲慢な連合軍に成り代わり!
 
 木星トカゲを撃滅して、全世界を救う!
 
 

 我々と神の正しい世界を取り戻すのだッ!!』


「「「「「うおーーーーーーっ!!!」」」」」」



だだだだだだ…!ががががが…!



テロリストの指導者の言葉に、構成員たちは銃を天井に向けて乱射した。
指導者はその様子を見ながらにやりと笑った。
20世紀から続くこのテロ集団も、近年かなり力が落ちている。
年数が経過しすぎて思想の継承が難しく、
また戦争が高度化し、宇宙戦・空中戦が主体になってしまった現在では不利になりやすい。
さらに木星戦争がまだ続いているため、鉄などの資源が手に入りづらく、
未だに20世紀の銃のコピーを使っているあたりに彼らの苦悩が見て取れた。


『そこまでだ!

 『黄昏の戦団』に告ぐッ!!
 
 抵抗は無意味だ!
 
 武器を捨てて、全員投降せよ!
 
 繰り返す、全員投降せよッ!!』


「「「「「!?」」」」」



そして指導者が演説を続けようとしたところで、外部からの音声が届いた。
驚いてオペレーターの男が外部のカメラのウインドウを開くと、
そこには…。


「「「「す、ステルンクーゲルが!?」」」」



自分たちの戦力として納入される予定だったステルンクーゲル100機が、
基地の周りを完全に包囲して、囲んでいる。
それだけではなく、航空戦力もかなり随伴している。
その中の一隻の戦艦から通信が入る。

『私は連合軍・アフリカ方面軍所属・ナカザト少佐だ!

 お前たちの協力者…スポンサーとして提携していたところから通報があった!
 ステルンクーゲル100機を納入予定だったが、
 お前らがテロリストとは知らなかったそうだぞ!
 代わりに気前よく連合軍の方に寄贈してくれた!』

「ば、バカなっ!?
 ラピスラズリの殺害の報酬が…」

『なっ…あのラピスちゃんにウイルスを送り付けたのもお前らか!?
 あんなまだ年端もいかない女の子に…!!

 
 この外道がッ!!

 
 構うことはない、一人残らず捕らえろッ!』


『『『『『『おーーーーっ!!』』』』』』


「「「「「どわああああああっ!?」」」」」




どがーんっ!どどどどどど…!



ステルンクーゲル100機のグレネードランチャーが、基地の周辺に炸裂した。
生体反応のない場所を乱射したが、威嚇発砲としては過剰だった。
簡素な作りの秘密基地は、あっという間に崩壊寸前に追い込まれてしまった。
そして這う這うの体で基地から出てきた直後、
装甲服を着た地上部隊に包囲され、次々に捕縛されていくことになった。

「た、タダでもらった弾だからって無茶苦茶しやがって…」

「おっ、おかしいだろう!?
 俺たちはそのスポンサーに頼まれて暗殺を…」

「末端の俺たちに言うんじゃねぇ。
 スポンサーが本当にそう言ったかはこれからの調べで明らかになるさ。
 だが、まずは実行犯のお前らを捕らえる、当たり前だろう。
 ぐだぐだ言ってないでさっさと乗り込め!」

こうしてナカザト率いる連合軍アフリカ方面軍の活躍により、
二十世紀から続いた『黄昏の戦団』は全滅することになった。
この後、そのスポンサーについて捜査が進むことにはなったものの、
架空の人物による取引で、架空のPMC会社を作る目的でステルンクーゲルの購入、
そして基地の建設が行われており、追跡が困難な状態だった。
さらに架空名義でのネットバンキングやスイス銀行を経由したため、資金の流れもほぼ不明。
ここで、ネット上でのデジタル認証による問題が表ざたにはなったものの、
法規制には時間がかかるのでまだ手が付けられない。

ラピスが実行犯と特定されることはないまま、事態は収束に向かっていった…。















〇???
とある特殊な暗号化されたプライベート回線に通話が開かれている。
軍の上層部の人間をも含む、かなりの大企業の要人、政府要人などが集まっている。
クリムゾンを筆頭とする、木連と手を結んで利益を共有するために同盟を結んでいる人物たちである。
最も、現在は木連との交信が途絶えており、有用な情報が得られないまま時間が過ぎてしまっていた。
前回の会合では、ホシノアキトへの逆襲をし始めることで一致していたが…。

『クリムゾン、貴様…例の『黄昏の戦団』の一件で相当揉めたようだが。
 マスコミに追及されてはいないだろうな』

『あれくらいは大したことがない。
 今回の場合はむしろ我々の方が騙された被害者だからな。
 まっとうな相手との取引かと思ったらこのざまだ。
 …だがそのおかげで今回の作戦に使う資金が何とか間に合う。
 貴様らも蓄えがだいぶ厳しい状態だったからな、運が回ってきたようだ』

『しかしこの100機を買おうとしていた人間も分からんな。
 ラピスラズリを暗殺する報酬として100機準備したのに、
 急に我々アフリカ方面軍に渡すつもりになったとは』

『心変わりや裏切りなどよくあることだろう。
 …何しろこの事件は謎が多すぎる。
 何の目的でラピスラズリの殺害を命じ、
 そして何のために基地まで準備してステルンクーゲルを購入したのか。
 その目的、資金源、構成員、すべて不明だ。
 
 ……我々でもうかつに手だすれば無事に済まない相手かもしれんぞ』

『そんな』

『まさか』

『いや、クリムゾンの言う通りかもしれん。
 世界最高のネット捜査技術をもつ国際警察機関ですら尻尾もつかめていない。
 その時点で、我々と同レベルかそれ以上のネットワーク構築技術を持っていると思われる。
 
 ……このホットラインを突き止める可能性すらあるのだ。
 
 今は無理に動かない方が得策だろう』

『『『ふむ…』』』

『とにかくだ。
 私の方の準備も着々と続いている。
 工場の建設と、鹵獲した機体の複製、そして組み立てまですべて順調だ。
 …ホシノアキトが戻ってくるまでには準備できるだろう』

『…それより、お前の策は大丈夫なのか?
 あの伝説の始末屋の策だそうだが…。
 ヤツは一度ホシノアキトの暗殺に失敗したではないか』

『…心臓を撃ちぬいて死なないヤツをまともに相手ができるか。
 確かに今回失敗しようものなら始末も考えなければならんが…。
 
 …なに、ホシノアキトも人間離れしてようと人間だ。
 
 今回の策はホシノアキトを殺しきれないまでも、アキレス腱は間違いなく切れる。
 そうなれば、さらに次の手で奴を殺せる。
 全てを奪われてがらんどうになった人間をつぶすなど造作もないことだ』

『……果たしてそうだろうか』

『なんだ、弱気だな』

『…いや、気にしないでくれ。
 

 ………もしかしたらあの映画のスサノオみたいになるんじゃないかと思ったなんて、
 こんな場所で言えるものか…』



『なら良いがな。

 ……くれぐれも最後の詰めを忘れるなよ』


















〇地球・埼玉県郊外・テツヤの隠れ家──ライザ
私がホシノアキトの暗殺に失敗してからもう半年以上になる…。
この間、テツヤに言われるがままこの隠れ家で情報の集積と、テツヤのサポートを続けていた。
そして二ヶ月前にテツヤから聞かされたホシノアキトを殺す方法のために…。

私はある人物に成りすます特訓を始めている。

この人物はかつてクリムゾンの協力者…だった女。
馬鹿なことにクリムゾンを裏切って壮絶な拷問を受けて死に…その戸籍だけが残っている。
彼女は身寄りがなく、都合のいい事にその際に高跳びのために国籍を変更していた。
それが『ちょうどよい』のだと、テツヤは語った…。

…どういうことなのかしらね。
確かにホシノアキトはあの国に立ち寄るかもしれないけど…でも全然確実には思えない。
テツヤは勘でその場所に立ち寄る可能性をはじき出した、とは言ったけど…。

確信がない限りはテツヤは動かない。
だから、きっと私は命を懸けることになる…。


プルルルル…。



「はい」

『ライザ。
 そろそろ練習は終わりだ』

そんなことを考えていたら、早速テツヤからの電話があった。
…そう、そろそろ動かないといけない頃になったのね。

『一応、お前はあの国の住人になるわけだが…。
 ストーリーは準備された通りだ。分かってるな』

「…はい」

『人生最後の休暇になるかもな。
 ま、お前の働きに免じて三途の川の渡し料くらいはくれてやるよ。
 一ヶ月、好きなように遊んでろ』

「はい、ありがとうございます…」

……ついにテツヤとも会えなくなる。
成功したら、一目会ってくれるとは言ってくれてるけど…。
そうしたら私は…。

『心変わりして裏切ったらどうなるか分かってるな?
 お前の成りすました女よりひどい目に遭うぞ。
 死んだ方がマシっていうのが一生続く。

 ……そうそう楽になれると思うなよ?』
 
「分かってます。
 私を信じて下さい…テツヤ様…」

『ああ、信じる……いや、念を押してやろう。
 明日の便のチケットは買ってやった。
 
 その前に一晩、付き合ってやる。
 受け取るついでに出て来い。
 
 思い残すことのないくらい…熱い夜にしてやる』

「!!
 は、はいっ!」

電話が切れた後…。
私はすぐに支度をしてアパートを出て、足早に空港に向かった。

…やっぱりこの人は、誰も信じられないんだ。
私がどこまでしても…何をしても…。
可哀想な人…でも、だからこそこの人のために命を懸けてあげたい。

……テツヤのために死ねる、ライザっていう信じられる女がいたと覚えておいて欲しいの。
ムシケラ以下だった…私の人生で叶えたい夢なんてそれくらいしかないんだもの…。

愛してるわ…テツヤ…。












〇宇宙・火星航路・ナデシコ・トレーニング室──ホシノアキト
あれからまた少し時間が経った。
俺たちはDFSの特訓と、基礎体力の訓練、組手…とにかく色々と特訓を続けていた。
火星に行くまでの特訓と違って、切羽詰まった状態じゃないせいもあって、
休みも増やして、負担の大きい訓練はだいぶ減らしている。
筋肉の方は数日開けないとしっかり身体につかないのもある。
俺の場合は特に時間がかかるみたいなので様子を見ながら、データを取りながらだ。
そうじゃなくてもDFSの特訓と組手は毎日やってんだけどさ。

そして俺も一番遅かったが昴氣を習得した。

「…しかしホシノ、お前覚えると一番制御がうまいよな」

「出力は一番弱いけどな…」

テンカワは未だに昴氣の制御が下手で、DFSの刃も止まってないと作れない。振れないし。
そのせいもあって、今北斗と戦うとあっさり負けるだろうという話になっている。
北斗は制御はそこそこうまく、出力はテンカワよりちょっとだけ弱い。
枝織ちゃんは俺に次いで制御がうまく、出力は二番目に弱い。
…で、俺はというと制御が一番うまいわりに、出力が最弱。
ぶっちゃけテンカワの半分くらいしか出せないんだ。
たぶん体力が練り上げられない状態なのと、精神力が半減してるからなんだろう。
それを補うために大量に食べないといけない状態だし…。
し、しかしアンバランスだ…。

「ふ…こうなると戦うまでもないな」

「…もういいよ、お前が一番強いってことで」

「アー君ってプライドないんだねぇ」

「俺とテンカワはコックになりたいんだって…はぁ」

上には上がいる。
この状態でもリョーコちゃんのおじいさんやDさんにはちょっと太刀打ちできない気がするし。
これからも自分の身や大切な人を守るために必要だとは思うからいいんだけどさー。

「そういえばテンカワ、殺気はだんだん読めるようになってきたな」

「あー、うん。
 相変わらず、『なんとなく分かる』みたいなのが多いんだけど…」

テンカワはなんていうか『見える』とか『分かる』とかあいまいな方法で察知してる。
気配を感じる、という類のものは苦手な癖に、なんとなく分かる…と。
…俺はそこまででたらめな、天才型みたいな感じ方はしたことなかったんだがな。
俺みたいに五感を失って第六感とかで察知できるようになったり、
あるいはそれ以上の第七感みたいなものに目覚める、みたいなことはないみたいだけど…。

「最近、テン君のほうもあんまり不意打ちに引っ掛かってくれないから、
 枝織つまんなーい」

…遊びで昏倒させるのは危ないからよかったな。
この辺の事もちょっと気になるからアイちゃんに検証してもらってる。
そういえばアイちゃん、早寝はするけど早起きして寝不足っぽかったな。
まだ子供だし、あんまり無理してほしくないな…仕事をたくさん振っちゃったけど…。

「おにいちゃ~~~ん…。
 ウリバタケさんが~…レーザー通信機、完成したって~……」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫~…でも限界だからちょっとおぶって~…」

…それは大丈夫って言わないと思うよ。
俺はアイちゃんをおぶって、アイちゃんの部屋に向かった。

「うへへ~…お兄ちゃんの背中~…」

……年頃の女の子なんだけど、やっぱちょっと不純…。
いや…ユリカも状況が同じだったらこうなるな、考えまい…。

「ホシノさん、送り狼を母親の前で堂々とするのやめてもらえます?」

「あ、あの…カワカミさん…勘弁してください…」

……俺はアイちゃんのお母さんにからかわれながらアイちゃんを預けた。
アイちゃんも、イネスさんと精神的に合体してるせいか、
イネスさんみたいに振舞うことも多いけど、子供らしくお母さんたちと仲良くやってるんだよね。
いいことだ。

「あ、お兄ちゃん…言い忘れ…。
 『翼の龍王騎士』の設計図もできたから、ウリバタケさんに任せてあるから…。
 和平交渉の前にネルガルとレーザー通信機のテストを兼ねておくって見てって~…」

「あ、ああ、うん、ありがと…」

「はいはい、アイちゃんはしっかり眠ってね」

「は~~い…」

…さすがに昔みたいに貫徹三日とかはしてないだろうけど、ちょっと心配だな。
まあ、お母さんが二人いるから…いや、片方が一緒に無理する方だな…。
カワカミさん、あなただけが頼みの綱だ…。
















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・ブリッジ──ホシノアキト
そして俺はウリバタケさんに例の設計図を送るため、ネルガルとレーザー通信をつないでもらった。
火星と地球はレーザー通信で直通できるが、『翼の龍王騎士』プロジェクトは極秘裏。
一刻も早く作ってもらう必要があるから今送るが、
これを秘匿する方法はレーザー通信機を使わないといけない。

このレーザー通信機は大容量のデータ送信を、超長距離で出来るということもなり、
元々の強力な暗号化通信に加えて大量のデータに紛れ込ませて送り、
肝心な部分を傍受できないように工夫できる。

こんなに早く『翼の龍王騎士』の設計が終わったのは、
DFSが試作機の段階でかなり完成されていたことと、
そしてウリバタケさんがブラックサレナを見て、Xエステバリスの構想を膨らませ、
そのうえで木連の技術を直に学んだ、アイちゃんとイリス博士の相転移エンジン技術が合わさって、
かなりのスピードでまとまったのが要因らしい。これは意外だった。
また、グラビティブラストを機動兵器で撃つのロマンだったそうだけど、
DFSの必殺兵器ぶりがあれば代替しやすく、またチャージすら不要というのは魅力的だったらしい。

そしてDFSもその危険すぎる性能のために、
未完成の状態で制御しづらいものにしておくことで、ある程度使える人間を絞ることにした。
通常使用で暴発の危険がないならこの方がいいだろうし。

そしてついに、レーザー通信機のテストが終わって、
地球と火星をつないで和平交渉に至ることになった。
もちろんこれは極秘裏に行われるということでまだ放送はできない。
俺も取り持つ関係があって一緒に参加することになり、
ナデシコを仲介して地球と火星をレーザー通信で結ぶことになった。
俺も緊張して臨んだ会談だったが…。

驚くほどあっさりとまとまってしまった。

『……以上の点から、今回の戦争において木連の特使を暗殺はあったと想定されます。
 これを隠蔽した者を探している最中です。
 私達も、これ以上の戦争は望んでいない。
 
 地球のチューリップも撃滅できる算段が付いている。
 そうすれば火星の制空権を得るために向かうことも可能なはず。
 その後、そのヤマサキという男を説得して戦争を終結させていただきたい』

『…そういっていただけると助かります。
 私達もこれ以上、人を傷つけるのは本望ではありません。
 この会談ののち、木連の機動兵器の弱点をレーザー通信で送付いたします。
 ……それで、部下たちのことですが』

『分かっています。
 しばらくはホシノアキトさんの会社で預かると話を聞いております。
 恐らくそこが一番安全になりましょう。
 彼が保護しているとなれば、誰もうかつに手出しはできないはずです』

……そこで買われてるというのは複雑な気持ちだが、的外れではないな。
厄介事を押し付けられてる気もするが、実際そこで保護しないといけない人も多い。
北辰一家も、優人部隊の人もいるし…。

「……あ、あの…。
 くれぐれも木連と和平交渉をした件も込みでみんなに教えてくださいね…」

『連合軍もそこまで悪辣ではありませんよ。
 信頼してください』

恨みはもうほとんどないが、連合軍も一枚岩じゃないからな。念のためだ。
そしてそのほか、保護している間の補助金や、市民との交流と会談などの計画をある程度話し、
和平交渉は一段落して、通信は切られた。

「ほ…良かった…」

「何から何まで申し訳ない、ホシノアキト君…」

「いえ、かまいません。
 地球も木連も、両方が救われることが重要なんです。
 俺もできる限り協力させていただきます」

白鳥さんが俺に深々と礼をして労ってくれた。
ユリちゃんとユリカ義姉さんも俺の隣で深くうんうんと頷いていた。
戦争にできるだけ介入したくないとは思っていたが、これは譲りたくなかった。
かつての俺たちの…後ろ盾のない、相手の気持ちを推し量れない、無謀なやり方じゃダメだった。
でも、今回はほぼ完ぺきと言っていい。
敵も味方も納得の上で、しかも世間がこの戦争の起こりを気にしている状態だ。
後ろ盾もばっちりある。
アカツキ…ネルガルが味方だってだけでもかなり心強いってのに、
お義父さんも、世間も、みんなが俺の背中を押してくれている。
ひと悶着は避けられないだろうけど、やる甲斐はあるさ。

…そういえば、彼女が気になるな。

「そういえば…白鳥さん。
 夏樹さんはどうしてますか…?」

「…相変わらずのようです。
 部屋から出てくるのは食事の時くらいで…。
 ただ、アイ博士に地球のライブラリの使い方を教わったり、
 北斗殿と枝織殿と話したりはしているようですが…」

…やはりひと月くらいじゃ心は開いてくれないか。
いや、彼女は自分でヤマサキを何とかする方法を探っているんだろう。
これまでどおり手が必要な時は手を貸してほしいと言われるまで俺は待つべきだ。
変に施しをしたと思われて距離を置かれては意味がないし…。

そういえば、ラピスからの伝言…。
あれはやはり『記憶部分のラピス本人』の人格だ。
ユリカを守ると言っていたが…何かあったのか?
……遺跡ユリカの言っていた通り、俺のろくでもない『黒い皇子』の因子に引かれて、
何かまずいことでも考えていたんだろうか……いや、問い詰めまい。
後ろめたいことがある時、気に病んでる時に、
優しくされることほど気まずいことはない…俺も経験があるからな。
みんなもサポートしてくれるだろうし。
いや、だったらそれこそ逆に話しかけるくらいはしないと…話したいこともたくさんあるし…。
レーザー通信機介すれば長く通信しても問題ないし…。

「そういえば、ホシノ兄さん…ちょっと」

「え?」

「あ、ごめんなさい。
 部屋で話しましょうか」

俺は悩んでたがルリちゃんに呼び止められて思考を中断した。
…そうだな。
今はそういうことを考えても仕方ない。
ルリちゃんとの話が終わったら、すぐにでも…。
いや、また時間が合わないといけないからアポからとろうかな…。
















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・ルリの部屋──ホシノアキト
俺たちはルリちゃんの部屋に集まった。
ユリちゃんもユリカ義姉さんも、テンカワも居る。
…この集まり方って言うと、家族会議の類だ。
オモイカネに見ないように注意したルリちゃんが開口一番、口に出した言葉に俺たちは驚いた。

「…ラピス、暗殺されかかったみたいです。
 心配かけないように、連絡寄越させなかったみたいですけど」

「「「「えっ!?」」」」

…なんだって!?

「連合軍の人たちも調査中とかでまだ確定的なことが言えないので、
 和平交渉の場だったのもあって言わなかったみたいなんですけど…。
 …それにオモイカネがオモイカネダッシュと連携してて、
 意図的にこの情報をシャットアウトしてたようです。
 これもたぶんラピスのせいでしょう。
 さっき不自然な情報の欠けに気付いてオモイカネを締め上げて吐かせたんですけど…」

俺は全身の毛が逆立つような錯覚を覚えながらも、耐えながらルリちゃんの話を聞いた。
……テロリストに狙われた?ウイルスのアンプルを誤って開けた?
いや、らしくない…。
ラピスも、ユリカもそういうことに気付かないタイプじゃない…。

「…やっぱ、らしくないですよね、ホシノ兄さん」

「……あ……ああ……」

「あ、アキトさん、落ち着いてください…」

ユリちゃんは俺を強く抱きしめて落ち着かせようとしてくれた。
ユリちゃん自身も瞳が潤んでいて…泣きそうだっていうのに…。
でも俺は違うところに気付いてしまったんだ…。

「ち、ちがうんだ…テロリストに対する怒りとか…。
 失うかもしれなかった恐怖とかじゃないんだ…」

「え…?」

「俺のせいだ……。
 俺の…『黒い皇子』の因子のせいで…ユリカは死のうとしたんだよ…。
 それも…俺を助けるためだけに……」

「そんな…」

……これはほぼ直感だが、彼女が何かろくでもないことを考えていたのは間違いない。
それも、ユリカの方だ。
そうでなければこんなことは起こらないだろう…。

これは直感…いや共感に近い。
俺はユリカを助けるために自分の一番嫌いな人殺しになることを選び。
ターミナルコロニーを五つ落としたテロリストとして追われることを選び。
その命が尽きるまで孤独にさすらうことを選んだ。
それがユリカとルリちゃんのためになると信じていた…テンカワアキトとしての俺の最後の選択。

それと同じことが、ラピスの…俺のユリカの心の中で起こっていた。
「ユリカを守る」と言っていたラピスの言葉が、それを物語っていた。
『黒い皇子』だった俺を支えたように、ラピスはユリカを守ろうとしてくれている。
ユリカがどういう意図でそうしたのかは分からないけど…。
俺は情けなくて泣くしかなかった…。

俺は…彼女を、死の淵に立たせたんだ…助けられなかったんだ…。

もっと毎日連絡してもよかったろうか。
…だがそんなことで何とかできるものでもないのも分かる。
『黒い皇子』の因子は…それほどまでにどうしようもないだから…。

「事情は分からないけど……ぐず…。
 ユリカは……ひぐ……自殺しようとしていたんだよ……。
 たぶんテロリストの荷物を自分で……」

「…あ、アキト君…。
 考えすぎだよ…私は、そうしないとおもう、けど…」

「ユリカ…待てって…。
 ホシノがあの『黒い皇子』だっけ…ああなるのは想像できないだろ?
 ラピスちゃんだって…未来のお前だってどう変わるか…」

俺が床に膝をついて泣き崩れているのを見てユリカ義姉さんは慰めてくれようとしたが、
それも空しく感じていた…俺の残したあのメッセージですらも止められなかった…。
あそこまで言っても止められなかったとすると…。
ラピスの深い絶望と失望を感じてしまった…どうしたら…。

「…ホシノ兄さん、落ち着いてください。
 重子さんからのメールも着てます。
 何とかラピスは持ち直して、反省してくれてるみたいです。
 ラピスがトラブルを起こして、諭されたんでしょう…。
 傍受の可能性があるので詳しいことは書いてませんけど、大丈夫そうです。
 今回の事で敵に付け込まれる可能性があるので、緊急策をとるかもしれないとも言ってます。
 
 ……ちゃんと話し合って、受け止めて、ちゃんと止めてあげて下さい」

「…!」

ルリちゃんの言葉で、俺は情けない顔を上げた。
…そしてなんでルリちゃんが一番冷静なんだ、と、
ちょっと突っ込みたくなるくらいには冷静さを取り戻した。
そうだ…まだラピスは生きてる。
…死んでたらどうしようもなかったけど…。

「ラピスが無理できなくなるくらい、
 直接、愛の言葉でもなんでもささやいてあげればいいじゃないですか」

「そ、そりゃそうだけど」

「ユリ姉さんもです。
 ホシノ兄さんだけで行ったってダメです。
 現妻もちゃんと説得に行かないと」

「る、ルリ?」

「何うろたえてるんですか。
 やらなきゃいけないことが分かってるくせに。
 …それにこの間のラピスのメッセージ聞いたでしょう。
 私の言った通り、ラピスが無理矢理にでも這い上がって命を取り留めたとおもうんです。
 未来のユリカ姉さんの無茶を止めるために。
 だったら今は過剰にうろたえてる場合じゃないでしょう?
 いいから、伝える言葉を考えて下さい」

「ま、待って…。
 そうした方がいいんだけど、ちょっと待って…。
 今はやめて…気持ちが落ち着かないから…」

「言いづらいなら私が言っときますけど」

俺とユリちゃんは情けないことにルリちゃんに翻弄されていた…。
ド正論ではあるし、そうすべきことばかり言ってくれてるけど、
俺たちの方が落ち着かないってば…心の準備が追いつかない…。
お、俺ってやつはどうしてこう、大事なことには弱いんだ…。

「わ、分かった…自分で言うから…。
 まずはネルガルにラピスを呼んでもらおう…直接通信するのは今はまずいし。
 重子ちゃんがとる緊急策っていうのも気になるし…」

「まったく、早くしてくださいよ。
 そろそろ日本の時刻は零時を回るんです。
 アカツキさん達だって寝付いちゃいますよ」

……ルリちゃんって意外と面倒見がいいね。
ユリちゃんが何かお母さん体質なのって…ミスマル家の遺伝子の影響かと思ったけど…。
意外とルリちゃんの方の性質なのかもしれないね…。















〇地球・東京都・ネルガル・会長室──アカツキ
僕たちは『翼の龍王騎士』の設計図を受け取ってからしばらく仕事をして、
帰ろうとしたところで再度ホシノ君たちの着信を受けて驚いた。
…ラピスが、ユリカ君の脳髄を持っていたなんてね。
そして遺跡…遺跡ユリカと呼ばれた彼女の事も含めて荒唐無稽だった出来事に僕たちは揺れた。
エリナ君はずっと黙り込んでいた。
悲しそうで、辛そうで、でも切なそうで…。
どうしようもない感情に揺れているようだった。

『…そういうわけだから、ラピスを呼んで欲しいんだ。
 レーザー通信なら、秘匿性が高いまま通話できるし…』

「ん?
 君たちはまだ聞いてないのかい?
 ラピスを保護する方法はある程度固まったと」

『いや、傍受される可能性があるし、具体的には聞いてなかったけど…』

「なんだ…。
 こんなところにのこのこ連れてきたらそれこそ危ないだろう?
 今はラピスを守ることの方が重要だ。
 …落ち着いて聞いてくれ、ホシノ君」

僕が簡単に説明すると、ホシノ君は手を打って頷いた。

『なるほど!あの手があったな!
 そういう方法をラピスと考えてたのに忘れてたよ!』

「まったく、相変わらず戦い以外は抜けてるよねぇ、君は。
 だから帰ってきてからたっぷり話してあげればいいじゃないか。
 それにユリカ君…いやラピスだって病気やら体調不良やらで、
 まだ荒れてる肌を君に見せるの躊躇うだろう?」

『あ、ああ!
 そ、そうだな…』

「彼女を説得するための準備は君たちもしておけよ。
 へそまげて外に出ないようにね」

『分かった…ちゃんと準備しておく。
 すまん、アカツキ、エリナ。
 後は頼む!』

ホシノ君は僕たちに後を託すと、すぐに通信を切った。
やれやれ、忙しいやつだよ…。
…本当は話したくてしかたないが状況が状況だからね。
僕はどっときたが…エリナ君はそれどころじゃないみたいだね…。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


僕たちは車に乗り込んで、自宅までの三十分ほどの道のりを飛ばした。
高速をすっ飛ばすのは楽しいが、敵がどこから来るかも分からないので、
毎日とっかえひっかえ車を変えてるわけだが…。
最初は楽しかったけどそろそろ飽きたねぇ、この車のとっかえひっかえも。

「…ナガレ君」

「ようやくお話をする気になったかい?
 もう一生口を聞いてくれないかと思ったよ」

「……ラピスは、ユリカさんだったのね」

「そりゃ正確には違うだろう?
 ラピスはラピス、その中にユリカ君が居たってだけさ」

「でも…」

エリナ君は脳のほとんどがユリカ君だったとしたらそれはラピスじゃないのでは、
と思っていたようだけど…。

「エリナ君、いいかい。
 確かに記憶部分だけラピスだったらユリカ君の脳がほとんどだったとしたら…。
 ほぼユリカ君の脳って言えるさ。
 
 だが、人間の魂がどこに宿るのかなんて僕らは知らない。
 
 哲学者でも宗教家でもないんだから。
 いや、それだって不正確だ。
 
 人は体に記憶が宿ることがある。
 別人の身体を移植したら記憶が移ることだってありえるし、
 脳に欠損があったら、別の脳の部分が代替機能を発揮することだってある。
 どっちがどっちの状態、とはとても言いづらい状況じゃないかい?

 彼女はラピスであり、そしてユリカ君でもある。
 
 …君はラピスの中にユリカ君が居ることを知らずに、
 純粋にラピスを大切にしてた、それだけだよ」

「違うのよ、ナガレ君…」

エリナ君はダッシュボードに突っ伏した。

「…この間、様子を見に行った時ね。
 ラピスはとってもよそよそしかったの。
 私はユリカさんそっくりになったわねって言って…ラピスのフリを続けたの。
 ……でもその時、きっと彼女は私の事軽蔑したわ。
 アキト君と不倫して、挙句ラピスを娘代わりにしていい気になってたんだから…。
 アキト君とのこと、ラピスと一緒に生きた脳だとしたら…彼女も知ってるはずだもの…」

「それこそ考えすぎだよ。
 …彼女は君を傷つけまいと気遣ってくれたんだよ。
 いや、アキト君を助けてくれてありがとう、くらいには思ってるかもよ」

「でも!」

「やめなよ、エリナ君」

僕は咥えていたタバコをエリナ君の唇に押し付けた。
…彼女は煙草を吸うようなタイプじゃないが、一瞬黙り込まざるを得なかった。
彼女はそのタバコを吸いこむそぶりはしなかったが。

「君は、自分の罪なんて考えるタイプじゃなかっただろうに。
 ……自分で悪事をして、自分で得を得る。
 全部自業自得、いいこともわるいこともね。
 そう思って自分の責任で悪事をやって、見事アキト君を生き延びさせた。
 それだけでいいじゃないか」

「……でも」

「だったら、最初っから僕に口説かれていた方が良かったかい?
 でもそりゃ無理さ。
 
 例の『因子』の話じゃないけど、
 人が変わるきっかけっていうのは本人じゃ起こせない。
 
 別の人間の行動や出来事、心の働きかけがあって初めて変わるもんだろう?
 上昇志向で他人を犠牲にすることをいとわなかった君を変えたのはアキト君だ。
 その事実は変えられないさ。
 
 僕だって未来の事で変わらなきゃ、
 君と結ばれたってナンパしたり、まだ遊んでたかもしれない。
 そうしたら君は?」

「…許さないわ。
 今だってそうよ、絶対許さない」
 
「だろう?
 だったらやめなよ、らしくないことは」

「…腹立つわね」

「腹が立つのは相手の言ってることが正論だと思ってる証拠、だろう?」

僕はエリナ君の持論を引用してみたが、
むすっとした彼女は手にもって避けていた煙草を吸おうとした。
だが、僕はそれをひったくってすぐに吸い直した。

「なによ」

「君は吸わない方がいいよ。
 …僕と結ばれるんだからさ」


「…ッッッ!


 隣で副流煙ふかしといて言ってんじゃないわよっ!!」



エリナ君はまだ怒っている様子だったけど…。
それでもちょっとだけ頬が赤くなってたのは可愛かった。

…分かってるんだろ?エリナ君。
もしかしたら…あの三人が…いや四人?
いや二重人格みたいなもんだし、六人?
ホシノ君たちが失ったはずのあの未来を、取り戻すことができるかもしれないって。
今度こそハッピーエンドで終わるかもしれないって。
そうなったらこれほど嬉しいことはないって、分かってるんだろう?

……ま、敵はまだ多いけど僕たちも協力してやらなきゃね。
恩返しと、贖罪を兼ねてさ…。















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・アキトとユリの部屋──ユリ
…私とアキトさんは、火星から出てからちょっとだけ距離が遠いです。
もちろん前と変わらないように過ごそうとはしていますし、夫婦らしく過ごしても居ます。
でも…お互い、どこかラピス…ユリカさんを意識せずにいられなくなっていて…。
溝は感じてませんが、遠慮してる感じで…今日のラピスの一件も同じく響いています…。
今も…。

「ん…アキトさん…遠慮しなくていいんですよ…」

「う、うん…大丈夫…」

いつもは私をどうやっても限界ギリギリまで攻めてしまうアキトさんも、
この一ヶ月はほどほどにしてます。
その代わりに、寂しそうにぎゅっと抱きしめてくれる回数が多くて…。
…はぁ、なんていうかお母さん側の役割で思われてる気がしないでもないです。

「そんなことじゃ、二股だってうまくいきませんよ」

「わ、分かってるよ」

アキトさんはむっとしたように頬を膨らませてます。
…やっぱ私、お母さんっぽい接し方してる気がします。
ま、まあ…それくらいはどうでもいいんですけど…。

あ、ちょっとだけアキトさんの表情がすっと落ち着きました。
ちゃんと自分で伝えようと言葉を選んでくれてます。

「…分かってる。
 どんな方法でも、バカげた方法でも突き通して、
 二人とも抱きしめて、二人とも幸せにするって決めたんだ」

「…だったら遠慮しないで下さいね。
 私、アキトさんとユリカさんと、もう一回やり直したいんです。
 
 そのためには二股だってなんだって許します。
 
 だったら、そ、その…二股しても、変わらないようにしてくれないと…。
 私を満足させないのも、アキトさんが満足できないのも、
 だ、だめなんですから…」

ぼっ、とお互いの顔が真っ赤になったのが分かりました。
…私ってあんまりドラマ見ない方だったせいか、この辺の言葉のチョイスが貧弱です。
アキトさんの事をあんまり言えないですね…。

「そ、そうだよね!
 ごめんね!」

「そ、そうですよ!もう!」

思わず二人で正座して向き合ってしまいました。
…すっぱだかで、布団の上で何やってんだか。

「…アキトさん、私、駄目な子かもしれません。
 二股かけられても、ユリカさんと居たい…。
 アキトさんと居られるだけでも世界一、幸せだと思ってるのに…。
 あの未来のユリカさんが居るって分かったら、一緒に居たいんです」

「ダメじゃないよ…。
 そう言ってくれなきゃ、俺も思い切ったことはできないんだから。
 …俺って嫌われるくらいなら逃げちゃうタイプだし」

「あ、それは分かります。すっごく。
 …今のユリカさんもそうなんですね、きっと」

「うん…。
 『黒い皇子』の因子の事も、なんとなく気づいてると思う。
 俺が未来の事で苦しんでる様子がなかったから…」

アキトさんの推測通り、ラピスになった未来のユリカさんは悪夢で苦しんでいて…。
無理矢理鮮明に刷り込まれた未来の記憶、そして『黒い皇子』の因子で苦しみ続けている。
…そのおかげでアキトさんが救われても、ラピスが死んでしまっては意味がないんです。
生きていてほしいんです、ユリカさんにもラピスにも…。
もし失ったら私達はきっと何年も…下手すると一生立ち直れないダメージを負います。
それでもそばにいたらもっとひどいことになる、と考えるのが『黒い皇子』なんでしょうけど…。
でも、勝ち目がない戦いじゃないです。

「でもアキトさん。
 勝ち目がないわけじゃないんです。
 …分かってますよね?」

「ああ。
 …『黒い皇子』と『テンカワユリカ』だったら無理だったかもしれないこと…。
 でも、ラピスが受け継いでるのはせいぜい『黒い皇子』の半分の因子しかない。
 そして…」

「そうです」

そう、相手はあのユリカさんなんです。
そして地球を発つ前にユリカさんが拒んだこと…。
さらにはアキトさんと無理にでも距離を置いてブロックしようとしたこと…。
そこにユリカさんを取り戻す、『黒い皇子』の因子から解放する手段があるんです。
…こんな一見バカバカしい方法で何とかできるなんて誰も思わないでしょうけど。
さすがは我らが『バカばっか』のナデシコ代表・ユリカさんってことです。

それにラピスという人間を保護する算段が見事についてしまっている以上、
私達がすべきことは『果報は寝て待て』です。
アキトさんの口説き文句でもなんともならなかったのはちょっと不安ですが…。
ユリカさんの事はラピスがなんとかしたみたいですし、
世話の焼ける姉の事を、世話の焼ける妹に何とかしてもらいましょう。
地球に無事に戻って合流して、アキトさんにユリカさんを口説いてもらわないと。
二度と離れさせないくらい、しっかりと……私達の関係はそれから考えないと。
…そうでなくてもラピスも放っておくと何をしでかすか分かりませんし。

……しかし、そんなことを考えて安心した後は、
私はアキトさんにコテンコテンにのされてしまってました。
アキトさんも火がつくと全然抑えが効かないんですよね…。
翌日、私は丸一日寝込んでしまうほど疲れ果ててしまって…。

え、遠慮はしなくてもいいとは言いましたが、加減はしてほしかったです…。
…バカ。
















〇宇宙・火星航路・ナデシコ・ユリカの部屋──ユリカ
私はラピスちゃんの事を話しあった後…落ち着かなくてアキトを部屋に呼んだ。
それからパジャマ姿でアキトと布団に入って話し込んでた。
あ、アキトはちょっと下着姿だから落ち着かないけど…。

「…私達、能天気すぎるかなぁ」

「…無理もないさ、ホシノだって無理に分かってほしいとは思ってないみたいだし」

「そうだけど…」

……ラピスちゃんの気持ち、分かってるつもりだったけど全然だった。
確かに遺跡の私が言ってた通り、『黒い皇子』の因子のせいだとは思うけど、
どれくらいアキト君たちの体験した未来が辛かったのか私には想像もできない…。

…それにしてもなんでユリカが何もかもの中心みたいになってるんだろう。

これも一つの因果律みたいなものなのかなぁ。やたらにユリカが多いし…。
アキトとルリちゃんは二人、ユリカに関する人物は三人も居る…ちょっと妙な気がするけど。
まるで映画そのまんまじゃない。

…そんなことよりラピスちゃんの事だよね。

「ラピスちゃんの事、どうしたらいいのかなぁ…」

「どうするったって、ホシノに力を貸すけど…それ以上はできないよ…。
 ラピスちゃんの事も何にも分かってないのにあんまり口出ししてもなぁ…」

「そーだよね…。
 私達ができることって大概アキト君たちが出来ちゃうことだし…」

「だよな…」

確かにナデシコの指揮は私がやった方がいいし、アキト君よりもアキトが強くなり始めてるから、
全く役に立てないわけじゃないけど、逆に言うといつも通りのことしかできないし…。
そういうことが大事なのは分かってるけど、焦っちゃうよねぇ…。
でも…。

「…そういえばアキト本当に別人みたいになっちゃったよね。
 ムキムキだもん」

「ああ、最近パイロットスーツがきつくってさぁ。
 制服も変えなきゃいけなくって…。
 ある程度体格に合わせてくれるんだけど、限界近くて…。
 お、おい、触るなよぉ」

「やーだ。
 …筋肉って意外とやわこいんだね。
 私のおむねとあんまり変わんないかも」

「お、おいおい…」

私はアキトのたくましくなった大胸筋と腹筋をふにふに触った。
ボディービルダーほど大きくないけどすごい厚みで、引き締まった筋肉…。
二回りも大きくなってるようにすら見える。
アキト君にも筋肉量では勝ってるもん。
食堂の女の子たちも二人を惚れ惚れ見てる時あるもんね。
…ホウメイさんですらも視線が向いてる時あるし。
厨房で立ち回るのには不向きな筋肉だって言われてたけど。

「……どんなに強くたってさ、大事な人を守れなきゃ意味がないんだよな。
 ホシノはブラックサレナの特訓の時、
 厳しく俺たちのために教えてくれたんだよな…」

…アキトは寂しそうにつぶやいた。
アキト君の気持ちを想うと…私を失ったらと考えただけで辛いんだ…。
私も…。

「未来のアキトは、未来の私をどれだけ想ってくれたのかな…。
 苦しかったと思う…近くに私がいたのって…」

「…俺だったら耐えられる気がしない。
 あいつもちょっと気持ちがあふれてたしな」

「うん…」

映画の撮影中、ずっとそんなだったもんね…。

「…ホシノたちを助けたいって気持ちは変わらないだろ?
 それ以上は考える必要ないって。
 ……俺ももっと強くなるから」

「うん…」

……私は、ちょっと違う想像をしてしまって顔が赤くなった。

「?
 どうした、ユリカ?」

「あ、あのね…」

「ん?」

「…あ、アキト…。
 まさかアキト君に…。
 

 え、エッチのテクニックまで教わってないよね…?」



「は!?
 なんでそうなる!?」



「だ、だって…火星に入る前くらいからアキト、
 体力や態度だけじゃなくてなんか、そういうことも全然違ってて……」

「……そ、そうだったっけ!?」

「う、うん…」

明確に、あの時からアキトはいろんなことが別人みたいになってた。
優しいのはずっと変わらないのに…。
わ、私も改めてメロメロになっちゃうくらい夢中にされちゃって…。

「……なんか変な影響受けたかなぁ」

「なにも教わったりしないまま、ここまで変わらないよねぇ…」

「あー…ここのところの戦闘技術の上達と同じでなにかあるのかも…。
 アイちゃんが詳しく調べてくれてるから、もうちょっとで分かるよ。
 『翼の龍王騎士』の開発が一段落したしそっちに時間をあてるみたいだし」

「う、うん…。
 ……もうお父様もアキトがこんなに強くなったら認めてくれるもんね」

「…言ってろ。
 お、お前をずっと守るために、強くなるって、き、決めたんだから…」

アキトは顔をぼうっと真っ赤にして、私を見つめた。
…すごい嬉しい。
私達、アキト君たちに本当にいろんなものをもらっちゃったなぁ…。
ラピスちゃんを助けて、恩返しくらいしてあげたいんだけど…。

……そしたら、みんなで幸せに食堂始めるの。
ミスマル四姉妹と、アキトが二人。
ふふっ、私達がそろって戦わなくなったら、お父様悲しむかなぁ。
…でも戦わなくていい時代が来ちゃうのかもしれない。

そうなったら…いいなぁ。

「アキト…。
 私はアキトが大好きだよ。
 アキトも私が大好きだよね?」

「あ、当たり前だ!
 俺は…ユリカが…大好き、だ…」

相変わらずこういうところは変わらないんだよね、照れちゃって…。
でも…やっぱりすごい嬉しい。


ちゅっ。



「ありがと、アキト」

「ゆ…ユリカ…!」

私がキスをすると、アキトは私を強く抱きしめて…私を組み敷いてきた。
ああ、もう遅いのに……でもいっか。
こんな風にアキトに激しく求められるって…幸せ…。
アキトってそういうタイプじゃなかったもんね。
ラピスちゃんの言う通りだった。ほぐれたら一直線だったね…。

で、その晩やっぱり遅くなっちゃって…。
私は半休とって、ゆっくり出勤した。
でもアキトは体力があるせいかちゃんと早朝に出勤したみたい。
あんまり私とラブラブなのバレると恥ずかしいからって、
例の昴氣を使って光学迷彩もなしに誰にも気づかないまま、
気配を消して私の部屋から出て行ったんだって。

……な、なんかどんどんコックさん向きじゃなくなってくよね、アキト…。



















〇地球・西欧地方・上空・ユーチャリス・ブリッジ──ハーリー
今日、僕はサブオペレーターでの出勤だった。
ラピスさんが戻ってきたので、リハビリを兼ねて半ドンで入れ替わりから始めて、
それから最近は一日おきに交代の形になっていった。
だいぶ元気になってくれたみたいで嬉しいけど…もう会えなくなるかもしれないんだ…。
でも…何とか戦いが落ち着いてくれれば、それでいい。
アキトさんとの事はまだあるけど…ラピスさんの人生がいいものになってくれればそれで…。
そんなことを言ってる間に、今日の出撃は終了した。
ユーチャリスが強いのもあるけど…さつきさん達が鬼神のような戦いぶりを見せて、
最近はユーチャリスがグラビティブラストを撃たないでも終わったりすることも多い。
すごいなぁ…。
安全圏までユーチャリスを移動した後、戦闘配置が解除されて、
僕たちが部屋に戻ろうとした時…。

「ハーリー君、ユーチャリス降りたら、
 みんなで遊びに行こうか?」

「えっ!?」

「ユーチャリスの卒業祝いみたいなのやろうよ」

ラピスさんから誘ってくれるなんて思わなくて、僕はつい浮かれてしまった。
…でも、アキトさんと仲が悪くなったらそんなことも…。

いや、僕はそれでもやる!

ラピスさんは何があってもアキトさんに怒ったりしないと思うから、
僕が代わりに言わないといけないんだ!

「は、はい!ぜひ!」

ラピスさんは柔らかくにっこり笑ってくれた。
……綺麗だな、ラピスさん…。
でも、僕たちは…そろってそんなラピスさんを騙さなきゃいけないんだ。
そうしないとラピスさんは…。

「ラピスさん、検診の時間です」

「はーい」

僕たちはブリッジを出ていくラピスさんを見送って、
各所に秘匿通信を送って、作戦の実行を伝えた。
この作戦についてはオモイカネダッシュさえもラピスさんを欺くことになっている。
……さすがに怒る、よね…ラピスさんでも…。

でも、それでいいんだ。
僕はアキトさんと直接的に関係ないから狙われづらいし…。
そうじゃなくてもあと一ヶ月でユーチャリスを降りるし、
最後の仕事に備えて準備するだけだよ。

「オモイカネダッシュ。
 僕らの計画を…進めよう」

生まれて初めて誰かに逆らう…僕は間違っているんだと思う。
でも…それくらいしか、ラピスさんのために出来ることなんてないから…。

お元気で、ラピスさん…。

















〇地球・西欧地方・上空・ユーチャリス・医務室──ラピス
私はすごい勢いで回復していく自分の体力に驚いてさえいた。
あれからまだ一週間そこそこだっていうのに…。
気持ちが上向きになってくれたのがここまで体に影響があるなんて。
まだ何にも安心できない状況なのに…あ、アキトのこと考えるだけで幸せで…。
そんなことを考えてると、お医者さんが私の診察を終えて頷いた。

「はい、大丈夫です。
 最後に栄養剤だけ注射させてもらいます。
 どうも栄養の摂取に問題がまだありそうなので」

「はーい」

私が腕をめくって差し出すと、脱脂綿で消毒されてすぐに注射を打たれた。
…ほ。
ここまではとりあえず無事でよかった…。

「それじゃ、今日はゆっくり眠って下さい」

「大丈夫ですっ!
 ユ…ラピスは快眠で絶好調ですっ!」

「はは、それじゃおやすみなさい」

そうして私は自分の部屋に戻ったんだけど…。
妙に体も瞼も重く感じてきて…。

「う…まだ疲れがひどいのかなぁ…」

私はシャワーを浴びたかったのに、あまりにひどい眠気でベットに倒れ込んでしまった。
…うう、もうろうとしてる…不快じゃないんだけど…変…。

「…ぐっすり眠ったみたいね」

『まだ油断しちゃダメだよ、ラピスは鋭いんだから』

「じゃ三十分後に決行しましょう」

何かさつきちゃんたちの声がした気がしたけど…私は何も考える余裕もなくて…。
意識をすぐに手放して眠りに落ちた…。
悪夢がないからいっかぁ…。














〇地球・???──ラピス


チュン……チュンチュン…。



小鳥のさえずりが聞こえてきて…太陽の光を浴びて、私は目覚めた。
ああ…いい朝…。

「ふぁぁ~~~~~よくねたぁ…」

日が高いから…もう昼かなぁ…寝坊しちゃった…。
早くシャワー浴びて、準備しなきゃ…。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



「こっ!?
 ここどこぉっ!?」



私はここがユーチャリスの中じゃないってことに気付いてパニックを起こした。
それだけじゃなくて、妙に豪奢でふかふかなベット、そして妙にかわいいドレスまで着せられて、
とんでもなく広い部屋にぽつんと一人で置かれていた。

こ、これって誘拐されたってこと!?

さーっと顔から血の気が引いた。
誘拐で、こんな豪奢な場所にいるってことは…。
さらわれてどこかのお金持ちの家に売られちゃったとか?!
そ、そんなぁ…私、またひどい目にあわされちゃうの…?
嫌…そんなのあんまりだよ…。
せっかくちょっとは希望が見えてきたっていうのに…。

「うぅ…ぐすっ…アキト…助けて…」

「おお、ラピス様、お目覚めになりましたか」

「だれ!?
 あ、あれ?
 あなたは、どこかで見たような…」

私の近くにずっといたと思しき、ナポレオン風の恰好をしたおじさんが、
読んでいた本をぱたんと閉じて近付いてきた。
丁寧に、ふかぶかと一礼してにっこりと笑ってくれた。

「覚えていただき感謝の極み。
 私はルリ様をピースランドに連れてまいった従者でございます。
 …怖がらせてしまったようで大変申し訳ございません」

「る、ルリちゃんの…ああ!!」

見覚えがあるはずだよ!
私、二回も目の前で見てるもん!
て、ことは…ここはピースランドの王城…。
私はさっきまでの悪寒がすっ飛んでいって、胸をなでおろした。
と、とりあえず安全な場所でよかった…。
涙をぬぐって深呼吸して、胸の鼓動が収まっていくのを待った。

「ほ、ほ…はぁ…。
 良かったぁ…。
 生きた心地がしなかった…さらわれて売られちゃったかと…」

「…重ね重ね、失礼いたしました。
 ラピス様、あなたの身柄が危険ということで、
 皆様のご依頼で一カ月間、こちらのピースランドで保護させていただくことになりました。
 ミスマル提督様も、ネルガルのアカツキ様、エリナ様、
 そしてPMCマルスの関係者の皆々様からのご依頼でございます」

「え…?」

ナポレオンみたいな従者の人は、事情を説明してくれた。
私が暗殺されかかったことで警護体制に不備を見つけられ、
世間にもニュースが広まってしまって、
逆に別の勢力にも命をまた狙われる可能性が高くなった。
とはいえ私を完全に守り切れる場所なんてそうはない。

そこで重子ちゃんが一計を案じた。

かつてルリちゃんがこの絶対脱出不能のピースランドの王城に、
保護の名の下に囚われた時のことを思い出して、私をここに匿おうとしたみたい。
このピースランドの内部でプレミア国王に逆らう人はまずいないし、
先祖代々の護衛部隊で面も割れてるし、裏切ることなんてありえない。
他の国も、いかなる勢力もピースランドに手出しを出来ない。
ピースランドを失うことは、秘密資金の預け場所を失うことに等しい。
それに、この城の中はネットすらもつながっていない超アナログの警護体制。
外部は最新の機材を使ったデジタル防御が完璧。
スパイが一人でも近づけるような状態じゃない。
アキトもラピスちゃんたちも、この城への侵入侵攻計画にはかなり骨を折ったもんね…。

…重子ちゃん、とんでもない手を思いついたよね。
ラピスちゃんが、アキトが危なくなった時のために考えたプランとほとんど変わらないじゃない…。
しかも、ユーチャリスのオペレーター席に、影武者代わりのリアルロボが置いてあるって…。
PMCマルスが誇る天才メカニック、シーラちゃん作の逸品。
その出来は、ピースランドの大立ち回りでダミー人形を作ったことからも折り紙付き。
…ど、どこまで手が込んでるの、この計画は…。

「そういうわけで、あなたの身柄はこちらで預からせていただきます。
 暗殺されかかる前から体調を崩しておいでの様子でしたし、
 この一ヶ月の間、しばし休養なさるとよいでしょう」

「で、でもユーチャリスだってハーリー君一人じゃ…。
 ユーチャリスから降りるころまで、ずっとハーリー君にまかせっきりになっちゃう…」

「そのハーリー様からもお手紙を預かっております。
 皆様から激励と休養のお願いをたくさんいただいております」

私は手渡された箱に、いっぱい詰まった手紙を一枚一枚、しっかり読んだ…。

ハーリー君…私の分まで約束通り頑張ってくれるって…一人じゃ大変なのに…。

ムネタケ提督…色々と世話になった借りを返すからゆっくりしてほしいって…。

サンシキ副長も…今までユーチャリスを支えてくれた分を返すだけだし、お安い御用だって…。

さつきちゃんたちも…絶対に元気でアキトと会って欲しいって…。

ナオさんも…悔しいけどこれ以上の警護体制はしけないから任せるって…。

眼上さん…体調管理も重要だから楽しんできなさいって…。

お父様も…連合軍で守れないのは辛いが、安心して休んで欲しいって…。

アカツキさんとエリナさんも…あ、私の事、き、気づかれてるっぽい…?
でもちゃんとラピスちゃんに宛ててる内容だから、大丈夫かな…。
ふふ、お姫様気分で休暇を楽しんでなんて…。

あ、ダッシュちゃんもわざわざプリントアウトした手紙…。

あ…。

「アキト達まで…」

じわっと涙があふれた。
アキトも、ユリちゃんも、ルリちゃんも…この世界のアキトと、ユリカまで…。
私が通信に出られなかったからって、こんな風に…。


生きて私と会いたいって。


元気でいてほしいって。


守れないでごめんって。


たくさんたくさん、私に気持ちを届けてくれて…。


……私って、本当バカ…。

アキト、ユリちゃん…ごめんね…。

みんながこんなに想ってくれてるのに、
ラピスちゃんが必死に生きろって食いしばってくれたのに、
あんなやけっぱちになって、最悪の悪党になろうとしてたなんて…。
馬鹿だよね…本当に…。


…死ねない、死ねなくなっちゃった……。


ぼろぼろあふれる涙が止まらなかった…。
嬉しかった…こんなどうしようもない私に、こんなに…。

「みんな…ひどいよ…こんな島流しみたいなことしといて…。
 こんなことされたら、怒れないじゃない…」

「愛されてますな、ラピス様は」

「…うん」

…ラピスちゃんだったらなんていうかな。
『とーぜんっ!それくらいみんなのために働いてるもん!』
ってにこにこして答えるかも…ふふ…。

それから、私はルリちゃん並みにもてなしてもらえるということを伝えられ…。
やっぱりネット環境は剥奪されてしまうことに頷かざるをえなかった。
さすがにテレビくらいはくれるって話になったけど、
鉄壁の警護体制に穴が出てしまっては意味がないからと。

…うー、ラピスちゃんの能力使って悪さしてきたけど、
お父様の保護下に居る時以上に何もできないのって歯がゆいなぁ…。

それ以外であれば、どんな欲しいものでもお届けしますって言ってくれた。
一応、私の私物はウイルスの滅菌が終わったからって、まとめて持ってきてくれてるし、
そんなに用立てて必要なものはないけど…。
アキトの映画用のディスクプレイヤーは必要かなぁ…あれは部屋に備え付けだったもんね…。
それだけお願いしたら、従者さんはさっそうと部屋から出て行った。
後でプレミア国王にあいさつに来てほしいって言われたけど…。
う、うう…でもやっぱりラピスちゃんの振りをしなきゃ変だよね。
私、ラピスちゃんの真似ってへたくそなんだよねぇ…。

…そういえばラピスちゃん、まだ出てきてくれないのかな…?

あれからしばらくしたけど、全然…いっぱいお礼を言いたいのに…。
…ううん、まだ怒ってるのかも。
ダッシュちゃん言ってたもん、『ラピスが自分の名義でやったの怒ってた』って。
そりゃそうだよね…あれ、バレたらラピスちゃんが捕まってたわけだし…。
……仲直りできるよね?

ううん、ちゃんと仲直りしなきゃ。
な、なにしろ…ラピスちゃんにも、アキトと浮気する権利が少なくとも一回分あるし…。


ああん!
アキトとユリちゃんのバカァっ!


どうして私とユリちゃん以外の子に浮気させるなんて約束したのよぅっ!



…はぁ、もう私とラピスちゃんって離れたくても離れられないし、
そんなこと…考えないほうがいいのかもしれないけど…。

仲直りの時に、私のやらかしちゃったことの対価に『アキトと浮気し放題』を出されたら、
私…断れる自信ないもん…一生分以上、最悪なこと考えちゃったし…。


…悪いことなんてするもんじゃないね…弱み握られちゃった…とほほ…。




























〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
事態の収束と、不穏な動き、いちゃついてる男女四組、そしてラピス島流しの刑でした。
一難去ってまた一難、ラピスは外部との接触を一切絶たれてしまいました。
策士、策に溺れる。ここまで大暴れしてた反動ですね、完全に。
それに和平交渉についてもある程度サクッと決まっちゃって拍子抜けですが、
世論が動き始めている以上、もはや停戦、終戦は間近。
しかしヤマサキを止めずにアキト達は戦いを降りてしまいそうな状態。
果たしてどうなる?な展開になりつつあります。
そして敵対連合も黙っちゃいない。
テツヤのプラン、そしてクリムゾンの準備とは?

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!

















〇代理人様への返信

>>軍の機体だってゲキガンガー一色
>友人がオタク同志で結婚して、披露宴で奥さんが
>「あんたの趣味は大目に見るから、あたしのアイドル追っかけも大目に見なさい」って言ってたのを思い出したw
豪快な奥さんですねw
ユキナちゃんもそういう嫁さんになるんでしょうね、きっと。
ジュン君とはどうもくっつくかどうか微妙な距離感ですが、
くっついたらシャレにならんくらい尻に敷かれるのが目に見えるw
ジュン君、元々主体性がないからなぁ…。





>>ユーチャリスから降りなきゃいけない!?
>まあそりゃそうだよなあ。
>劇ナデでルリがティーンで軍艦指揮してたり、ハーリー君が乗ってたりしたのもそりゃおかしいよ。
それを言っちゃあおしまい案件ではありますけど、
ナデシコという作品は明るい雰囲気の割に裏に流れてる黒いものっていうのが、
ちらちら映っているので分からんでもなくて。
何が何でもやったもん勝ち、
勝ってからなら何とでもなるという意識でいる人が実は多かったんでしょうね。
それでアカツキ、そしてアカツキの親父さんともにかなり押し込んだんだろうなあと。

で、今作の場合、地球圏が立ち直り始めてるのと、戦力的にも安定したり、
ホシノ兄妹が『手段を択ばない戦争の道具』だったと大々的に暴かれたんで、
世間全体が戦争そのものにかなり嫌悪感を抱いている状態なので、
それに伴ってマシンチャイルド関係の乗艦も、
『そりゃ乗せるべきじゃないだろう、代替案あるのに…』と、
正気に戻って思った人が多かったと。利益の問題でやめさせたい人も多いけど。








>>好きに書くほど滑る
>自分で創作するようになって気付きましたが、思い入れだけじゃいいもんはできないんですよねえ・・・
>面白さを他人に伝えられるための、冷徹な第三者の目も持たなきゃ、他人が見て面白い物にはならない。
>読むのは赤の他人なわけですから。
愛がなければ書いてはいけない、しかし愛だけでは書けるはずもない。
筆が進もうが…適切ではないパロディやオマージュで隠そうが…見抜かれてしまうものですね。
昔、代理人様に注意された時はなんて言うか若気の至りでうまく受けきれてなかったなぁ…。
キャラの本質を理解できぬまま、描写が甘く、らしくない。
『私らしく』のナデシコを書くためにはもはや致命的だったと回想します。

と、猛省した結果、書けなくなって数年、色々さまよって数年、
分析したりしてて数年、やり残したことをやり切るために早二年近く…。
ここまでどんなだけ時間がかかったんだ…うごごご、寿命が短く感じてきた…。
好きを搭載した作品を、面白いと思ってもらえるように書くためにも…が、頑張ろ…。

結局、丁寧に勢いで書かないように気を付けて全体のバランスを間違えないように、
研究して繰り返してやってくしかない…。


でも!!結局実力が足りないって分かってても!!

書かなきゃうまくならんし!!

やればわかる!!

やらなければ、一生分からんッ!!

退かぬ!

媚びぬ!



省みるぅぅぅ~~~ッ!!




追伸:肉体的、精神的に余裕のない時期だといいものを書けないし、
   素直に反省もできないし、細かいところに気付けないのも改めて思いますね…。
   通勤が無くなって睡眠時間が増えて、それを体感してます…。














~次回予告~
アリサです。
ラピスちゃんが大変な目に遭ったけど助かってよかったわね。
本編じゃあんまり出番がないけど、次回は久しぶりに私の出番みたい。
何でも例の『翼の龍王騎士』のテストパイロットを任されるってことになって、
光栄なことだけど…ピーキーすぎるスペックで扱いきれるか不安だわ。
DFSが扱えないまでも、体当たりで何も可も破壊できる、まさに最強のエステバリス。
ちょっとだけ楽しみだわ。
ま、せいぜい慣らし運転だけになるだろうけど、一週間ばっちりやってやろうじゃない。


つい夜更かししてまで書いてしまうことがあるのでほどほどに休みながら書いてる作者が贈る、
そろそろ情報量がパンクしてねぇか系ナデシコ二次創作、

















『機動戦艦ナデシコD』
第六十六話:Diamond bullet-ダイヤモンドの弾丸-






















をみんなで見てね。















感想代理人プロフィール

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代理人の感想
喫煙者死すべしジヒはない。
吸うなら喫煙所で吸え!

>20世紀の銃のコピー
だがそれでもAKなら・・・AKならきっと何とかしてくれる・・・(ぉ



幕間的な話はぶっちゃけ感想に困る(ぉ


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